機動戦艦ナデシコ

魔剣士妖精守護者伝

第14話 邂逅、そして闘争

 


ウチャツラワトツスク島上空――――――

「はああっ!!」

アキトがアメリカ方面軍の制圧部隊と戦闘を開始してから早10分。始めの内は果敢に接近戦闘を仕掛けてきた敵のMS隊であるが、今では遠距離からの射撃戦をメインにして戦闘していた。

格闘戦では小回りが効き、尚且つ強力な威力を持つDFSを装備したアキトのエステに勝てないと判断した為だろう。

―――そして、それは正しかった。

「奴ら、中々正確な狙いだ。高度な訓練が施されているな…。」

敵部隊が創り出す重厚な弾幕を避けながら1人呟くアキト。

―――かつて襲撃したコロニーの防衛部隊より手強いな、と心の中で付け足す。

 

そんな最中、変化が起こった。

自分に対してのビームの援護射撃が来たのだ。

「何だ?」

アキトは反射的にモニターに目をやる。

 

そこに映っていたのは、今し方研究施設から脱出したガンダムMk-2だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムMk-2コクピット内――――――

「アキトの奴…、エステでMSの相手って結構無茶しやがるな……。」

いくらアキトでも単身施設に潜入し、半殺しにされた挙句、鎮痛剤を瓶の半分一気飲みして機動戦を行おうとしている龍一に言われたくないだろう。

ピー、ピー

通信が入る。

『兄様、無事ですか!!?』

瑠璃である。

「ああ。大丈夫だ。悪ぃな、心配かけちったみてえだな。」

『いえ、無事だったからいいんです。』

如何やら安堵の表情を浮かべている様だ。

『お兄ちゃん…。』

「よう、蛍。元気か〜?」

『うん。けど…何で画像が出ないの…?』

途端に龍一の顔が引き攣る。

「あ! …いや、何か寒くて調子が悪ぃみてえなんだ。戦闘中だからもう切るぞ。」

『あ、兄さ…。』

『お兄ちゃ…。』

蛍のお陰でボロが出そうになったので、訳の解らない言い訳を言って半ば強引に通信を切る龍一。ここで画像を出していたらあの2人は大パニックになっていただろう。

そうなっていたら、ジェイナスを追い詰める事も出来なくなってしまう。

今ここでばれる訳にはいかなかった。

 

それはともかく、エステでMS相手に機動戦を行うのは(アキトにとっては)、龍一が言うほど無茶な事では無い。

エステがMSに対して優位に立っている数少ない点の1つである運動性。それをフル活用して相手を翻弄し、威力の高い武装でピンポイントで攻撃すれば勝機は見えてくるだろう。

ただし、それはズバ抜けた腕を持つトップエースなら、ではあるが。

無論、そんな化物地味た――アキトの如き――腕を持ったパイロットなど、連合軍には“殆ど”存在しない。

そんなパイロットがごろごろいれば、連合はとっくの昔に地球圏を奪還できているだろう。

 

「散ったか。」

アキトに対して、ビームライフルやらザクマシンガン改やらで攻撃していたマラサイやハイザックが散開するのを見て、龍一は当初の目的に戻る事にした。

…研究施設への攻撃。そう、今もまだ施設に居るであろうジェイナスを施設ごと吹き飛ばすのだ。

研究施設を攻撃する為に、ビームライフルを構え上空に滞空するガンダムMk-2。そこに、攻撃を察知したのかマラサイ達が攻撃を仕掛けてくる。

「邪魔すんな!!」

マラサイ達の攻撃を避けながら、自身もビームライフルで反撃に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコブリッジ――――――

ブリッジでは、いきなりアキトのエステに攻撃を仕掛けて来たアメリカ方面軍に困惑していたが、同時に突如連絡を絶った龍一が、ガンダムMk-2と共に現れた事に瑠璃と蛍が湧いていた。

…いきなり通信を切ったが。

それはともかく、現在ブリッジには龍一の機動戦がでかでかと映されていた。

「ねえ、ルリちゃん。向こうは何て言ってるの?」

ユリカはそれを見ながら、ルリに先程アメリカ方面軍に入れた通信の返答について聞いた。

「はい。アメリカ方面軍サイドは最初に仕掛けたのは其方。我々は防衛をしているに過ぎない。即刻立ち去れば無かった事にする、と言っています。」

「そんな! 最初に仕掛けてきたのはそっちなのに…。」

謎の無人兵器群との戦争の最中で、まさか人間、それも同じ連合軍の部隊と戦っている現在の状況を如何にかすべく考えるが、良いアイデアが出ず頭を抱えるユリカ。

他のブリッジクルーは、普通なら絶対に考えられず、信じられないこの状況に思考が麻痺(ないしそれに近い状況)にしていた。

「おそらく山下さんの事を言っているのではないかと思います。」

そんな状況下でもしっかりと報告を入れるルリ。…もっともそれが彼女の現実逃避なのかもしれないが。

 

「ねえ、こうして見ると山下君って結構凄いわね。」

そんな最中、ようやくブリッジに戻って来れたミナトは、凝り固まったブリッジの空気をほぐす為、おもむろに口を開いた。とは言うものの、やはり彼女もナデシコが置かれた現状に思考が麻痺気味だった。

「何がですか?」

隣にいた瑠璃が聞き返す。悲しいかな、オペレーター修行中の身である彼女はやる事が全く無かった。

「…山下はこれで機動戦に参加して4回目だ。それなのに、この様な動きが出来る、と彼女は言いたいのだろう。」

因みに、正しくは5回、である。

「…そう言えばそうですね。兄様って凄いんだ…。」

「…うん…。お兄ちゃん…カッコイイ…。」

少し嬉しそうな瑠璃。

ちなみに瑠璃の質問に答えたのは、何時の間にか戻ってきたゴートだった。隣には頭を抱えたプロスもいる。

「けど〜、それだったらアキトだって同じだと思いますよ〜。」

「それは違うな艦長。これは自分の見解だが、テンカワには間違い無く機動戦の実戦経験がある。それも相当数のな…。だが山下には全く無いだろう。それなのに山下はあれほどの、エース級と言うのは言い過ぎだが、一般のパイロットよりは遥かに良い動きをしている。ガンダムMk-2の性能を差し引いても、これはとんでも無い事だ。」

ここで言葉を切るゴート。言い方は比較的穏かだが、言っている事は龍一は“異常である”と言う事だある。

彼は言い終わった直後から、プロスとアメリカ方面軍に対する対応を話し合っていた。

確かにたかだかゲーセン通いの素人が、いきなりの実戦でエステをマニュアルで操縦して、挙句に機動戦までやらかしてしまった事は、異常以外の何物でもない。

ゴートでなくてもそう考えるのが普通である。

ナデシコにおいて、龍一はテンカワアキトと言う巨大な存在に覆い隠されて、今までこの事に着目される事は無かった。しかしミナトの一言がきっかけで着目を集める事となる。

故に、この様な意見が挙がるのも無理の無い事である。

 

「もしかしたら彼、ニュータイプってヤツなのかもしれない…………。」

 

現在では冷笑の対象としか成り得ないその言葉は、一体誰が発したモノだったのだろうか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウチャツラワトツスク島上空――――――

「いきなり引きやがる。どうしたんだ?」

龍一と戦闘をしていたマラサイが引き始めた事を不思議に思う龍一。だが、これはチャンスだとすぐ悟った。

現在のブリッジの状況などお構い無しである。

「バカどもが…。…じゃあな、ジェイナスさんよ!」

そう叫ぶと同時に、ガンダムMk‐2のビームライフルを研究施設に向ける龍一。

ターゲットサイドも既にロックオンしている。

今まさに発射せんとした、その時だった。

 

ズゴオオオオオオ!!

 

「何だ、この感覚…? …まさか!」

龍一が叫ぶ。

“何か”が研究施設から飛び立った。

“それ”は、航空力学を半ば無視した航空機の様な機体だった。機体後方に集中している(と思われる)スラスターの出力で半ば無理矢理飛んでいるのだろう。

だが…、

「何だ、あれ? あんな機体見た事が無いな。…だが早い!!」

アキトが驚愕の声を上げる。それほどまでにこの奇妙な航空機らしき機体は早かった。

“それ”はアキトのエステに迫りながら機体の両側に装備されているビームライフルを発射した。

「くっ! やる!」

咄嗟の回避は成功するものの、右足を吹き飛ばされるアキトのエステ。

“それ”が放ったビームライフルに威力は、他のMSが使用するビームライフルと同程度である。だがビームライフル自体が、エステのフィールドを破るのには十分な威力を持っていたのだ。

尚も迫り来る機体。

「来るか!」

体勢を立て直し、DFSを発振させ構えるアキト。

しかし“それ”は、アキトの脇を通り抜けて、施設にビームを叩き込もうとしていたガンダムMk‐2に迫った。

「何?」

龍一が気付いた時には、“それ”は既に彼の視界の中に入っていた。

龍一はガンダムMk-2のスラスターを全開にして躱す。そして距離の開いた“それ”を改めて確認する。

「MA(モビルアーマー)か?」

深緑を基調とした“それ”は、コクピットのコンピューターの機動兵器データに登録されていない機体だったが、伝え所に聞くモビルアーマー(以下MA)の様な機体だった。

そのMAは、ガンダムMk-2が放つビームライフルの火線を難なく避け、自身に装備されているビームライフルを放ちつつ再接近する。

遠距離からの射撃では不利と判断した龍一は、ライフルの狙いを付けたまま相手のビームを避ける。至近距離から避けれないビームを撃ち込んでやろうというのだ。

龍一にはこのMAに誰が搭乗しているのか知覚出来ていた。

MAとの距離がドンドン縮まる。

「…不思議だよな。装甲越しでもてめぇの殺気や息遣いが解る……。これで終わりだ!

逝け、ジェイナス=クリューガー!!

Mk-2がビームライフルを放とうとした、まさにその時である。

 

ガシン!

 

「変形…した…?」

MAは、MSに変形した…。それも僅か1秒にも満たない間にだ。

メインカメラであるモノアイが獲物を見つけた様に妖しく光る。右胸には型式番号ORX-005のマーキング。

両腕に装備された、ビームライフルとスラスターを搭載したバインダー――ムーバブルシールド――が特徴的なこの機体、

名前をギャプランと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコブリッジ――――――

「ニュータイプ…?」

そう呟いたのは蛍だった。

『ニュータイプ…、『宇宙へ適応した人類の進化』と『それに伴う人類の宇宙への移住』に端を発し、宇宙空間での生活に適応する為に必要な柔軟な思考力や、より広い認識力といったものが常人より優れている者。……そう定義付けられるわ。提唱された説によれば。』

その疑問に答えたのはイネス。医務室からブリッジと戦闘を見ていたらしい。今のブリッジの状況に頭を抱え気味だったが、説明を望む魂の叫びには勝てなかった様だ。

そして付け足す。

『けど、多分に空想的な説だから現在ではフィクションと同等の扱いしか受けていないけど。』

「あ〜〜。知ってます、知ってます。確か10年前に話題になりましたよね〜。」

これはユリカだ。最初の反応が完全に予想外の人物から挙がった為、ピタッと一瞬動きを止めるブリッジ。

「え? 何で皆してそうなるの?」

そんなブリッジの反応が不思議なのか、疑問の声を上げるユリカ。

「10年前と言えば…、とあるスペースコロニーが自治権を求めて、連合に対して宣戦布告を行いました。その時にコロニー市民の支持を取る為と、士気を高揚させる為に使った方便が、この『ニュータイプ論』です。」

ユリカの言った『10年前』を補足するルリ。それまでにもニュータイプ論は、学会などに論文等が提出されていたが大々的にクローズアップされたのはこの件が始めてであった。

「まあ、この反乱劇は短い期間で鎮圧されましたが…。」

昔を思い出すかの様にしみじみと語るプロスペクター。何か関わった事が有るのだろうか?

「けどニュータイプって、宇宙に適応した人なんでしょう? 兄様は地球出身だからニュータイプじゃないんじゃ……。」

瑠璃が上げた指摘はごもっともだ。

『そうね。瑠璃ちゃんの言う通り、ニュータイプは一般的には宇宙で育った人間しか発現しないと言われているわ。まあそのニュータイプ自体が、さっきも言ったように多分に空想的だから学会でも夢物語としか扱われていないわ。』

瑠璃の指摘に頷くイネス。ちなみに連合自体もこのニュータイプの研究を暫くは行っていたが、最終的に「存在しない」との結論を(公式上では)出した。なお巷では、その後も研究を続けているのでは?と言う憶測が流れ、一時期アメリカ政府のUFO研究並にもてはやされたが、すぐに廃れた。

今ではニュータイプと言うのは、空想の産物としてXファ○ル等のフィクション作品に取り上げられる御題目の1つに過ぎなくなっている。

「あ! 何かしら、あれ?」

ミナトが指差した物は、研究施設を飛び立ったギャプランを映したウインドウだった。

「あ! アキトが!?」

「アキトさん!!」

ユリカとルリが叫ぶ。ウインドウはギャプランがアキトのエステの足を吹き飛ばした光景を映していた。

アキトが攻撃を受けるなど、彼女達は想像もしていなかった。これは他のクルーにも言えるが。

しかも皮肉な事だが、この事がブリッジが思考停止状態から脱する切っ掛けとなった。

『ちっ! 艦長、俺達も出るぞ! テンカワ達だけに任せてらんねぇ。』

「はい。お願いします、リョーコさん。しかし敵はアキトにダメージを与えるほどの強敵です。くれぐれも注意してください。」

間髪入れずに入ってくるリョーコからの出撃要請。ユリカもそれに間髪入れずに許可をする。

『あっだぼうよ! 誰に物言ってんでぇ! 行くぞ、ヒカル、イズミ、ロン毛!!』

『けど、相手はアキト君のエステにダメージを与えるほどの敵なんだね。ちょっと信じられないなぁ。』

『世界はそれだけ広いって事ね。相当の強敵よ。』

今回はさすがにギャグを言っている余裕が無いのか、シリアスVerのイズミ。

『まさか…、エステでMSと戦闘する事になるなんてね…。ま、死なない程度に頑張りますか!』

口調はいつも通りなのだが名前を間違えられた事を指摘しないアカツキ。如何やら相当緊張している様だ。…それを悟らせない様は流石だが。

続々と出撃するエステ達。

いざ動きが起これば後は早い。曲がりなりにもナデシコは火星から帰って来た船である。この位当然と言えば当然なのだが。

それはともかく、ナデシコは火星でも出会った事の無い強敵との対峙でかつて無いほどの緊張感に包まれていた。

そんな時である。

『艦長、大変よ。ヤマダ君がベットから、いや、医務室から消えたの(汗)。』

「ええ〜〜!?」

その直後、

 

『おお〜〜し!! 俺様の出番が来たようだな!!! 

待ってろアキト、龍一さん。このダイゴウジガイ様が、今救援に

向かうぜ! 出撃!!!』

 

「「「「ヤマダさん?」」」」

いきなり自称ガイからの通信が入り、驚くブリッジクルー。

『艦長! ヤマダの奴がいきなり自分のエステに乗って出撃しやがった!!』

ウリバタケからの通信は、その直後に入った。

「また問題事が……(汗)。」

ブリッジの隅では、今起きた自称ガイの凶行(少なくともプロスにはそう見えた)と、本戦闘後に起こるであろう各種問題に“頭と胃”を痛めているプロスが居た……。

 

「飛行機…?」

急に慌しくなって来たブリッジの中、瑠璃が呟た。悲しいかな、彼女はやはりやる事が全く無いのだ。

『戦闘機の類ではないわね。MAかしら。』

「もびる、あーまー?」

『そう、MA。正式名称は全領域汎用支援火器。あえて人型を捨てる事で推力、機動力、火力、装甲等を高めた機動兵器なの。無論その分汎用性が失われ、局地専用の兵器になってしまうけど。』

間髪入れずにMAの説明をするイネス。先程からとても生き生きとしているのは決して見間違いではない。

 

ウインドウは、MAがガンダムMk‐2に迫り行くのを映していた。

その時瑠璃は、隣に座っていた蛍が震えている事に気付いた。

「どうしたの蛍? 兄様ならきっと大丈夫よ。」

蛍に向き合い、優しく声を掛ける瑠璃。その昔、兄が自分に対してしてくれたのと同じ様に。

「そうじゃない……。あの機械、とても冷たくて怖い…。とても嫌な感じがするの……。」

「あの機械…?」

そう言ってギャプランを指す蛍。瑠璃はどうしたら良いか解らなかった。蛍がこの様に怯えているのは、瑠璃は始めて見るのだから。

瑠璃に出来る事は、蛍の手を優しく握る事だけだった。

「蛍ちゃん、大丈夫?」

ミナトも蛍を心配して声を掛ける。

だが蛍は落ち着く素振りも見せず、なおも震え続けた。

「あの機械だけじゃない…。お兄ちゃんも…、お兄ちゃんも怖い。とても暗くて怖いの……。」

「え?」

瑠璃は我が耳を疑った。まさかここで龍一が出て来るとは思わなかったからだ。

 

次の瞬間、モニターには今までMA形態だったギャプランがMSに変形してガンダムMk-2に襲いかかる場面が映し出されていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウチャツラワトツスク島付近上空――――――

ガンダムMk‐2の前で変形したギャプラン。変形が終わるや否や、いきなりビームサーベルを発振させてMk‐2に斬りかかった。

「ちっ!」

ガンダムMk‐2もすぐに左マニピュレーターでビームサーベルを抜き、発振させてその斬撃を受け止める。

機体を保護してくれる筈のディストーションフィールドは、ギャプランとの接触の時点で既に消失していた。つまり、ビームサーベルの一撃が致命傷となる状況なのだ。

辺りにお互いに反発しあったビーム粒子が飛び交う。

「押されてんのか!?」

パワーが違うのか、Mk‐2は徐々に押されていく。瞬間、ギャプランは両腕のバインダー――ムーバブルシールド――と背面のスラスターを全開にして、Mk-2を撥ね飛ばした。

「どわっ!?」

だが龍一は、それを利用してギャプランと距離を取る。

「野郎!」

ビームライフルを乱射して牽制しながら、近くに聳え立っている氷山にMk‐2を着地させると、腰の後ろのマウンドラッチに装着されていたバズーカ(名称ハイパーバズーカ)を取り出し、サーベルを仕舞った左マニピュレーターで構えた。

「食らいな!!」

バズーカを発射するガンダムMk‐2。バズーカの弾頭は、一定距離を飛んだ後破裂した。拡散弾頭なのだ。

 

「破裂した? …、いや、散弾か!」

猛スピードでMk‐2に接近していたギャプラン。ジェイナスはその速度のお陰で、もはや直撃は避けられないと判断し、スラスターを使い無理矢理機体を立たせて機体全体を使ってエアブレーキを駆け、その場に急停止した。

そして、Mk-2から離れた事によって回復したディストーションフィールドと、ムーバブルシールドとを併用して機体をガードする。

「散弾で良かったぜ。通常弾頭だったらやられていたかもな。」

散弾をガードしきった後、ジェイナスは(素人臭いのに)予想外に戦える相手に対して不敵に笑いながら、すぐにその場から離れる。

 

龍一は、これで終わった物だと思っていたらしく、バズーカを食らっていてもそれほどダメージを受けた様子のないギャプランに少し驚いていた。

「マジか?」

再びバズーカを構え、ターゲッティングしようとするが高速で動き回るギャプランに、中々狙いをつけられない。

ギャプランの両腕にムーバブルフレームを介して装着されたムーバブルシールドは、ヴァリアブルに動く為非常に高い機動性と運動性を機体に与えるのだ。

「くうっ! 早過ぎんぞ! ……!」

次の瞬間、ギャプランは既にガンダムMk‐2の眼前にいた。

先程山の様に飲んだ鎮痛剤の影響で意識が朦朧とした為に反応が遅れた龍一は、機体を真横に逃がす事には成功したがバズーカを失ってしまった。…すれ違いざまに砲身を切り裂かれたのだ。

「いい反応だ。動きは新兵並だってのによ。機体の御陰か?」

一瞬反応が遅れた様にも見えたMk‐2が、この斬撃を躱した事に感心するジェイナス。

「くっ!」

巨大な流氷の上に着地し、慌てて右マニピュレーターに保持していたビームライフルをギャプランに向けて連射するMk‐2。だがギャプランは、そのビームの弾幕に掠りもせずにMk‐2に肉薄する。

ギャプランのビームサーベルが迫った寸での所で、Mk‐2はビームサーベルでそれを受け止める。

「やるじゃねえか、お前。俺の部下にならねえか?」

ジェイナスからの通信が入る。接触回線(声の振動を相手のマシーンに伝える通信法。無線封鎖された時などに有効)なので画像は出ない。

「なるかタコ野郎!! ラリった事ぬかしてんじゃねえぞ!!」

「やっぱりお前か、小僧!」

予想通り龍一がガンダムMk‐2を操縦していた事に内心「ビンゴ!」と呟くジェイナス。だがすぐに気を取り直し、

ド素人が。機体に使われてる様じゃ話になんねえな! その程度でこの俺と張り合おうってのが気に入らねぇ。人形遊びはこんぐらいにしてとっととオーガスタに逝こうぜ!」

と言い放った(誤字にあらず)。

ジェイナスの言葉は龍一を罵倒する為の物だったが、決して嘘は含まれていなかった。彼の見たままをそのまま龍一に伝えただけである。

「黙れよ! その余裕で伸びきった鼻、今すぐへし折ってやんぜ!!!」

朦朧とした意識で返すが、これは虚勢だった。何故なら、素人の龍一でも解るほどジェイナスとの技量の差はあったからだ。戦闘に入ってから今まで落されなかったのは、様子見だったからなのだろう。

龍一は心の何処かでそう勘付いていた。

それを示すかのごとく、ギャプランはビームサーベルを保持していたガンダムMk‐2の左マニピュレーターを、シールドごと切り落とした。

「なっ!」

慌てて間合を取ろうとするが既に遅い。ムーバブルシールドと背面のスラスターが火を吹き、左手が逃げるMk‐2の右肩を掴む。そして……、

「おねんねの時間だ、小僧。」

何時の間にやらビームサーベルを仕舞っていたのか、空いた右マニピュレーターでMk‐2の顔面に拳を叩き込んだ。

1発、2発、3発。

その衝撃でメインカメラに異常が出たのか、全天周モニターの何割かにノイズが生じた。

そしてコクピット付近にも何度か拳で打撃を加える。その内に龍一が気絶したのか、Mk‐2の動きが止まったのを確認すると氷山に叩きつけた。

そしてジェイナスは嬉しそうに口を開く。

「わざわざ自分からノコノコ来るとはな。飛んで火に入る夏の虫を地で行く奴だな(笑)。」

 

 

その一瞬の隙である。

ガンダムMk-2の頭部バルカン(この機体は内臓火器ではなく外付け)が火を吹いた。

「なっ!」

躱すのが一瞬遅れたのか、モノアイに何発か食らってしまう。

「クソがっ!」

それを確認する前に、反射的に機体を後退させるジェイナス。

「手負いの獲物は凶暴なんでぇ!!」

先程氷山に叩きつけられた衝撃で頭の傷が開いたらしく、流れてきた血を拭いながら後退したギャプランに向かってそう叫ぶ龍一。彼はまだ無事であるMk-2の右マニピュレーターで保持していたビームライフルを、牽制の為乱射する。

「素人が、調子こくと痛い目見るぞ。さっきみてーにな!!」

ギャプランは両腕のムーバブルシールドを使用し、まるでホバー走行をしているかの如く地上を滑る様に高速で移動してそれを避けながら、Mk-2に向かってビームライフルを連射する。

龍一はMk-2をジャンプさせてそれを躱す。

だが、ジェイナスはそれを見越していた。

Mk-2の着地点に、背部に装備されていたミサイルポッドから大量のマイクロミサイルを放った。

「な、な、な?」

着地したMk-2に迫り来る大量のマイクロミサイルは、ナデシコやエステが発射する物とは軌道がまるで違った。そう、それはまるで……、

 

「マク○ス飛びかましてんじゃねーよ!!(汗)。」

 

タイミングの所為もあり、到底避けられる物ではなかった。デコイを装備していないこの機体を呪いつつガードを固める。

ギャプランが後退してから回復したディストーションフィールドに全てを賭けるらしい。

「ディストーションフィールドとMk-2の装甲があれば耐えれる!…ハズ。」

結構自身無さげな声を出しながら、覚悟を決める龍一。

大量のミサイルは、もう眼前に迫っていた。

 

 

 

ミサイルが着弾し、爆炎が広がる。

その様子を見ていたブリッジからは悲鳴が上がる。

「さ〜て、これで静かになった。後はコクピットから引き摺り出すだけだ。」

満足げに頷いて、最後の仕上げに取り掛かろうとしたその時である。

 

 

――爆炎を切り裂く一筋の光が見えた。

 

 

「コイツは……。何時の間に?」

ジェイナスが呟きながら視線を送った先には、DFSを構えた漆黒のエステバリスがガンダムMk-2の前に、Mk-2を守護する様に佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコブリッジ――――――

『あ、アキチョ〜〜〜!!』

『大丈夫ですか、龍一さん。あんまり無茶しないで下さいよ。』

助かった為に気が抜けたのか、情け無い声を出す龍一。颯爽と現れてミサイルを全発斬り捨てて助けてくれたアキトに、謝辞と抱き付かんばかりの感謝の意を贈る。

「よかった…。兄様…。」

「お兄ちゃん…、心がさっきより暖かくなって来た。」

蛍を落ち着かせる為に優しく抱き締めていた瑠璃と、龍一の心の変化を察知し先程より落ち着いた蛍は、アキトにより救われた龍一を見て安堵の表情を浮かべる。

ちなみに現在、

「ルリちゃん、敵部隊の動向は?」

「現在、アキトさんと戦闘を行っていたMS部隊は全機沈黙。しかしこれは撃墜された訳ではありません。」

エステバリス隊に的確な指示を出すべく、状況の把握に努めるユリカに、その彼女に状況を報告するルリ。

「恐らくテンカワの機体に振り切られたのだろう。基地の防空と着陸防止が任務の様だからな。」

ユリカにまさしくその通りな自分の戦況分析を伝えるゴート。

「あら? どうしてそんな事が解るの、ミスターゴート?」

「簡単だ。能動攻撃ならナデシコにも攻撃を仕掛けている筈だ。」

「成る程。…それじゃああの基地はそんなに人を近付けたくない場所なのかしら?」

何気に鋭い読みのミナト。

「…しかし、それでは其方の要求を飲む訳には行きませんな。…いえ、こちらは商売ですから。」

相手方と交渉中のプロス。

ブリッジは彼女達以外フル回転だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウチャツラワトツスク島付近の流氷――――――

「奴か! 見つけたぜ!」

「お前はもう逃げれない〜。」

「油断大敵。何時もの調子じゃ落とされるわよ。」

3人娘達も戦闘空域に到着した様だ。と、同時にギャプランに攻撃を開始する。

「行くぜ、ヒカル、イズミ!!」

「「合体攻撃なんちゃって。」」

3機が同時に仕掛ける。だが、

「ハエがブンブンとうるせぇな。」

ジェイナスはそう呟くだけで、攻撃を一切避けようともしなかった。彼女達のエステが携帯している火器如きでは、ギャプランに傷1つ付ける事も出来無いからだ。

「なんだと!」

それが通信で聞えていたのか、リョーコが怒りの声を上げる。

「そのまんまだよ。プラ製のハエども。」

あくまで嘲笑に附すジェイナス。

「本当にハエかどうか、試してみるんだな!!」

そう叫んだのはアキト。

刹那、漆黒のエステバリスがDFSを翻して、リミッタ―を解除する事で得られる爆発的な加速でギャプランに迫る。

(コイツらは、囮か!!)

先程の3機のエステの攻撃の意図を、瞬間的に悟るジェイナス。

 

――それは一瞬の差だった。

 

そこにはDFSで空を切るアキトの黒きエステバリスと、空に跳びつつ両腕のビームライフルの狙いをアキト機に定めたギャプランがいた。

アキト機が振ったDFSがギャプランを切り裂く直前、ジェイナスは機体を上空に逃がしたのだ。

DFSは、機体には命中しなかったがディストーションフィールドに掠ったらしく、ギャプランのフィールドが消失した。

しかし取るに足らない事である。エステの携帯火器如きでMSに致命的なダメージを与える事など出来はしない。ガンダムMk-2の攻撃にいたっては、(パイロットが素人である為)全て避けられる自信がある。

「これでチェックメイトだな。」

故にジェイナスは勝利を確信した。

「経験の差ってヤツだな、エースパイロットさんよ!」

そして両腕のビームライフルから放たれた粒子の奔流がアキトのエステを襲う―――

 

寸前だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ガァイ!! スゥーパァーナッパーー!!!」

 

ギャプランが大きく揺れる。

そしてその揺れの御陰で、ギャプランから放たれた2本ビームはアキト機の左マニュピレーターを打ち落とすだけで済んだ。

「何だ? 一体何処から攻撃を?」

突如現れた見えない敵に、戸惑うジェイナス。今の攻撃でMSが食らったダメージもバカにならない。ディストーションフィールドを収束させた物だろう。

すぐさまその場から離れる。すると下方に1機のピンク色のエステバリスがいた。

「あんな恥ずい色の機体に…。畜生!!

ジェイナスは、自分の中の何かが何かとても汚されたような気がした。

「どうだ、キョアック星人め!!」

…如何やらコイツは、人が乗っている事を認識していないらしい。

「何だ、そのふさけた名前? …ちっ!」

機体にまたもや衝撃が走る。コクピットの全天周スクリーンの映像が少し乱れる。

ダメージ報告のスクリーンに映った情報は、

「メインモノアイ付近に被弾!?」

不覚だった。

スクリーンとレーダーには、この狙撃を行ったと思われるレールガンを構えた青い特別チューンを施された機体が映し出されていた。

「油断大敵ってヤツ? 僕を忘れちゃ困るね〜。」

決める所では決める男、アカツキだ。

そして、この様な隙を見逃すアキトでは無かった。

左マニピュレーター斬り飛ばされたのだ。

ガンダムMk-2も既にこちらに狙いを定めている。3人娘のエステもだ。

「俺とした事が…。不覚だぁ、こりゃ。」

「やってられない」のポーズを取り、ジェイナスは回りに注意を払いながら、さっきの御返しとばかりにとっ捕まえた自称ガイのエステを思いっきり海面に向かってブン投げながら、自身の部隊と連絡を取る。

「おい、全機沈黙ってのは如何言う事だ?」

『ハッ! あの黒いエステバリスに振り切られまして…。大佐が直々に御相手なさるとの事ですので、MS部隊は待機中であります。我々は当事象の証拠の隠滅工作に取りかかっている所であります。』

即座に部下が応答し、現状を報告をする。

「進行状況は?」

『完了であります。後は我々が離脱した後の研究施設の爆破と、ナデシコに対する工作のみであります。ナデシコに対する工作は、現在ナデシコに乗船中の自称会計のプロスペクター氏と交渉中であります。』

それを聞いて満足げに頷くジェイナス。彼の予想通りに事は進んでいるからだ。

「そうか…。大変不本意だが、交渉が纏まり次第撤退する。準備の方は?」

『ハッ! 完了しております。』

「そうか。プロスペクタ―に伝えろ。『ウチャツラワトツスク島研究施設侵攻から前後5時間の全事象の記録の抹消と、此方の損傷した兵器の修理費を要求する。本要求を受諾して頂ければ、この件に関して我々は其方を不問とする。』とな。」

『しかし、受諾するでしょうか?』

少々不安げな部下の士官。

「あの男は賢い。アメリカ方面軍と敵対する事を選ぶより妥協を選ぶ。」

自身満々でそう言いきるジェイナス。

通信を切った後、彼は呟いた。

「まさかまた会えるとは思わなかったよ、小僧。…強くなったぁ。これからも会う事になるだろうな。ふふふふ。次からはもっと俺を楽しませてくれよな。」

その呟きは、何処か楽しげであった。

 

そして10分後、交渉は彼の言った通りの結果になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコブリッジ――――――

パイロットには戦闘後の報告義務がある為、ウチャツラワトツスク島のニュータイプ研究施設において半殺しにされ医務室送りとなった龍一と、先程の戦闘での出撃の為再び傷が悪化したヤマダ以外のパイロットはブリッジに上がっていた。

ブリッジのモニターには、悠々と撤退するアメリカ方面軍の制圧部隊(デルタフォースと思われる)が映し出されていた。

そして集まったパイロット達の前でプロスが口を開いた。彼らがどれだけ危険な状況に置かれていたかと、アメリカ方面軍が撤退した理由を説明する為である。

「さて、今回の戦闘ですが、この程度の被害で済んだ事は寧ろ幸いと言えます。」

プロスは前者から入った。

「何処がですか!」

反射的に声を上げるユリカ。彼女はまさかこれほどの被害を被るとは思ってもいなかった。

「そうだぜ。テンカワのエステは中破だぜ!」

「ついでに言うと、ガンダムMk-2も小破だし〜。」

「山下君も今は医務室よ。」

それに続けてリョーコ、ヒカル、イズミも声を上げる。

『ちなみに彼、怪我は結構重症よ。』

イネスも付け足し、とばかりに現在龍一を治療している医務室からコミュニケで通信を入れる。

『けど、プロスさん。俺も不満スよ。ああ、俺の不満ってぇのは、何故あそこで奴等を逃がしたか?て事ッス。』

『まだ治療中よ、山下君!』

その通信に、龍一はイネスに注意されながら不満大有りの様子で割り込んできた。その奥には、彼の手当てを手伝う為にユリカの許可を貰い医務室に行った瑠璃と蛍も映っていた。

本来なら更にキツイ口調と表情になっている筈の龍一が、(表面上は)不満たらたら程度の様子なのは彼女達が居るからだろう。

先程帰艦してから、瑠璃には怒られるは、蛍には泣かれそうになるはと散々だった為、これ以上心配を懸けさせたくないのだ。

「その件ですが、いや、その件も含めての事ですが…。あの部隊には、テンカワさんのエステを中破に追い込むほどの腕を持ったパイロットが居ました。厳しい言い方ですが、貴方方がそのパイロットと戦闘してナデシコに帰艦できると言う保証はまったくありません。」

有無を言わせないプロスの迫力。リョーコ達は言い返せない。まったくもって正論だった。

「私も正直信じられないのですが、あれほどのパイロットにあの性能のMSです。テンカワさんのDFSとヤマダさん達の不意打ちが無ければ今頃どうなっていたのやら。想像したくない光景が広がっている事でしょう。」

ブリッジクルーは皆言葉を失いプロスに視線を向ける。

「けど、アキトなら…!」

「…ユリカ…。お前も見たろ。俺もさっきの戦闘で落されかけた。ガイがあの時あのMSを攻撃してくれなかったら今頃はどうなってたか…。」

ユリカの希望的観測を即座に否定するアキト。冷たい様だがこればかりは事実なので仕方が無い。

「それにあの部隊自体も、相当強力な部隊だと思われる。もしかしたらナデシコ自体も危険に陥ってしまっていたのかもしれん。」

プロスとアキトの言葉に続く様にゴートもまた口を開いた。

「それほどの相手とのトラブルを、あちらの提示した受諾するのに全然無理の無い要求を呑むだけで不問になるのです。受諾しないと言うのは愚かとしか言い様がありません、ハイ。」

経済的観点から見ても、クルーと艦の安全と言う観点から見ても、確かにプロスの言う通りだった。

その事を一番早く理解できたのは、やはりと言うか彼女だった。

「確かに、冷静に考えてみればその通りですよね…。このまま戦闘を続けて此方が勝利したとしても、アメリカ方面軍が黙ってはいませんよね。」

「流石です、艦長!」

ユリカが理解を示してくれた事に大満足なプロス。ブリッジクルー達(医務室の連中含む)も次第に落ち着きを取り戻し、冷静に事を考え始める。

『…俺、凄い大事を引き起こしちまった……。ヤベーよ、これ(滝汗)。』

改めて事の重大さと自身の暴走ぶりを思い知って、態度と共にウインドウも小さくなっていく龍一。情け無い事だが、既にジェイナスへ対する憎しみ等の感情は消え失せていた。

蛍に読まれない様に意図的に考えない様にしている結果でもあるが。

「けど、これって向こうはまるで何かを隠そうとしている感じがする…。」

1度冴え始めたユリカは、ジェイナス(の部隊)の目的を正確に予想していた。

ただ、「隠そうとしている」何かが、研究施設そのものだとは想像もつかなかったが。

「それではルリさん、頼みます。これも何分あちらとの契約でして…。」

「はい。オモイカネ、私達がウチャツラワトツスク島に着く5時間前からの記録を破棄して。それとこれから5時間後までの記録は全て記録しないで。…残念だけど…。

『了解、ルリ。』

プロスは、ルリがオモイカネの記録を抹消し終えたのを確認すると一息ついて再び口を開いた。

「処で山下さん。」

「(ビクッ!!)な、何スか……?」

「この件に関してですが…。」

 

 

 

結局この件の原因は龍一に有ったので、彼は罰として1週間の自室謹慎となった。ちなみに彼が負っていた怪我は結構な重症だった為、彼の監視兼用の世話役として瑠璃と蛍が謹慎期間中付きっきりになっていたりする。

これは何時も彼女達に目を掛けているミナト辺りが提案したのだろう(自ずと彼女達がブラコンだと感づいていたようだ)。女性陣の提案がそのまま通る所を見て、やはりナデシコは女系社会なのだと改めて痛感したアキトだった。

尚、この出来事は、アメリカ方面軍側の要求通りナデシコの航海記録からは完全に抹消され、クルーは硬く口止めをされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「事の顛末は以下の通りです。ナデシコ側には見逃す見返りとして情報の破棄を要求し受諾させましたし、研究施設自体も気化弾頭で消滅させました。ちなみに奴らが回収したデータは、エロ画像に摩り替えておきましたのであしからず。」

「そうか。ご苦労だった、クリューガー。」

素人目にも一目で理解できる程高級な調度品が多数置かれたとある執務室。一目でコーディネートした人間の感性と趣味と素晴らしさが感じられるその執務室で、ジェイナスは最高級品であろう執務机に座っている高級将校に向い合い、ウチャツラワトツスク島での事の顛末を報告していた。

「しかし貴官の部隊がこれほどの損害を受けたとは…。この漆黒のエステバリスのパイロット、確かテンカワと言ったか…。素晴らしい腕前だ。」

「私自身も結構危うい所でした。ナデシコ側は情報を一切公開しておりませんが、かつてのナデシコの地球圏脱出時に、かの艦に飛来した数百発のミサイルを全機撃墜パイロットと見て間違いありません。」

直立不動のジェイナスは、報告を聞いていた高級将校の言葉の後、自身の考えを述べた。

壮年の、金髪をオールバックにし、右目に眼帯を付けているこの高級将校、階級は大将だった。何処と無く漂う気品と、誰が見ても一目で只者ではないと感じさせる雰囲気を持った男性である。

そしてその雰囲気は、連合軍きっての危険人物の1人として揚げられているジェイナスをして圧倒される物があった。

「何処のデータを調べても、そんな前歴は出てこない『存在しない機関』ならぬ、『存在しない男』か…。」

アキトは連合内部ではそう呼ばれていた。どれだけ洗ってもそんな戦闘能力がある事を示す前歴が出てこないのはまあ当たり前な事だが。

「貴官から見て如何だ?」

「撃墜は出来ます。いかに向こうの武装が強力でも、機体性能自体が違い過ぎます。それに相手のより腕が上だと言う自身もありますよ。」

何の事も様子でそう言いきるジェイナス。確かに先の戦闘ではアキトを撃墜しかけた。

「それに…、所詮は一兵卒。いかに強かろうと恐るるに足りませんよ。処分の方法など幾らでもありますし。」

「全くだ。」

大将はこの話も程々に、立ち上がり執務机の真後ろのガラス張りの窓から眼下の景色を見下ろした。

多数の巨大なビルディング。何時果てるとも知らない自動車の往来。立ち止まる事を知らないかの如く忙しく歩く人々。

20世紀から変わらぬこの大都市の営み。

そんなこの街の営みを見ながら高級将校は口を開いた。

「かの研究施設から回収した情報は?」

「インコムなら既にオーガスタの本部に。幸いな事に情報の流出はまだ無かったので、これ以上の面倒は起こりません。」

大将はジェイナスに振り返りながら再び口を開く。

「確かにそれは幸いだ。よろしい。ご苦労だった。」

「ハッ。それでは失礼します。」

その言葉を聞いてジェイナスは、大将に敬礼をし退室した。

その後も報告書を手にしたまま大将は、遥か200年以上も昔から摩天楼と呼ばれて久しいこの街の、夕日に染まった景色を見る。彼はこの景色をこの上なく気に入っていた。

「フラナガンファイル…。まさか復元に10年もかかるとはな…。」

ジェイナスが提出した本件とは違う報告書に目を見遣りながら、彼は連合軍の将校服に付いていた大将の階級章を外した。

「だが復元出来ただけでも良しとしなければ。10年前では不可能と言われていたからな。」

アメリカ方面軍総司令、地球連合軍大将ソリダス=シアーズは、10年の時を経て漸く自身が手に出来たファイルを見ながら感慨深げに呟いた。

何時しか、ニューヨークにある地球連合軍本部ビルの上層にある自身の執務室から眺めているマンハッタンの景色は、夕景から夜景に変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「しかしこれでは、山下が処分したのも頷ける。」

彼が開いたページには、10歳ぐらいの龍一の写真と資料が記載されていた。

 

 

 

第15話へ

 


後書き

長かった…。

漸く投稿できる…。

???:全くだ。1ヶ月以上も開いているぞ。

核乃介:はい? 何故貴方がここに?

ソリダス大将:君は今回、後書きの形態を対話式に変えると聞いたので来たのだが?

核乃介:はあ。女の子じゃなかったの?

ソリダス大将:男同士の対談も中々良い物がある。君は何故それを理解しようとしない?

核乃介:そうは言いましても総帥…。

ソリダス大将:…私は違うぞ。炉ではない。それより話を戻そう。今回新たなMSが出て来たな。

核乃介:はい。ギャプランですね。ジェイナス氏の暴れっぷりも中々な物でしたでしょ?

ソリダス大将:原作には搭載されていない武装(ミサイルポッド)を使用していたが?

核乃介:あ〜。それはデスね、原作のままじゃ武装が貧弱だったモンで。

ソリダス大将:確かに…。原作では武装が二つしかなかったからな。

核乃介:そうです。蜥蜴の駆除が現在の連合軍の急務ですから。これらとの戦闘もあるので搭載した方が断全良いと判断したんですよ。

ソリダス大将:だが、蜥蜴の駆除はMSなら体当たりで何とかなるぞ。MSはあくまで対MS用だ。第一我々の仮想・・。

核乃介:わーーー!! ストップストップ。それ以上はまずいっすよ!!

ソリダス大将:そうか。なら致し方無い。ところで私の眼帯のデザインは?

核乃介:ラブリー眼帯何て如何ですか?

ソリダス大将:君は1度死んだ方が良いな…(ニヤリ)。

核乃介:冗談ですよ、大統領(汗)。

ソリダス大将:…また何を言い出す。何時アメ○カの大統領となったのだ?

核乃介:(さっきから…元ネタが…)冗談はさておき、眼帯は極普通の布です。

ソリダス大将:何? そうなのか…。

核乃介:何で残念そうなんだ、貴方は?

???:まったく同じ大将として情けねぇ。残念がるなら思いきってラブリー眼帯にして笑い取るぐらいの事はしる!!

ソリダス大将:貴様は……。するか馬鹿者!! それよりもいい加減そのコスプレは止めろ山下!!

将明:これの良さが解らねぇとは…。不憫な奴だ(嘘涙)。

ソリダス大将:解るか!! 鬼○者パンダなど。せめて2の○藤ちゃんにしろ!!

核乃介:あの〜、御二方…。ダメだこりゃ。

この後放送禁止コードな話(笑)が入ってしまったので対話は御開きに―――。

 

 

いかがでしたでしょうか?

なんだか↑のオチがエライ事になりなしたが、↑は本編とは関係無いので気にしないで下さい。

それではまた!

 

 

……しかし対話式は結構難しかったな。

 

 

 

代理人の感想

もう素人にはわからない域にまで到達し始めてますね〜(笑)。

ナデシコじゃなくてZガンダムになってるし(爆)。

 

それとエステ対MSですが、

そもそも並のMSのビームライフルだのなんだのがディストーションフィールドを破れる様なら

木星トカゲなんぞぺぺぺのぺぇ、の筈じゃないかと思うんですがそこらへんどうでしょう(爆)。