ジジジジジ・・・・・・・・・・

轢きつれた響き

いまの時間で、わたしにもっとも近いあのひと・・・・・・

ほんの一瞬、姿を見失う感触の得た後に

ノイズを纏わせ、姿を現した

ながれを修正する無意識のはたらき・・・・

あのひとの望む世界・・・

本来のながれとのふたつの、支流・・・・・・

相反する感情と、コワレテいくココロ・・・・

 
きょうも・・・・・・伝わるモノに、雑音がはし・・・った・・・・











機動戦艦 ナデシコ










「・・・・じょうちゃん、・・・嬢ちゃん・・・・・」

 遠くの方から声を聞いた気がした。

「・・・・・・時間大丈夫なんかい、嬢ちゃん?」

――・・・・・・ふへぇ、じかん・・・・?・・・――

 時間という言葉に何かしらの引っかかりを憶えるものの、最初に浮かんだのはいつもと違う言葉の響きに対する言い知れぬ反発だった。

 瞼が不満の元を睨みつけるように、開かれる。

 おじさんの顔。

 次に映ったのは、無常にも時を刻み続ける時計の音。

「・・・・・・えっと、九時・・・半・・?」

――・・・今、時間が九時半で、おじさんは雪谷のおじさんで、つまりここは、雪谷食堂で・・・・
今は・・・――

「今何時!?」

「だから九時は、あ〜もう過ぎちまったな、九時半過ぎだ。出かけるにしろもう遅いしな。かといって嬢ちゃん起きなかったから仕方ないとして、なんなら泊まっていくか?」

 飛び起きた自分を呆れたように見下ろすおじさんを見、直前までの出来事を慌てて反芻する。

 結論から言えば、それは自分の我が侭だった。

 何かをやり遂げた上機嫌な自分が、雪谷食堂でセットメニューを食べているのを他人事のように眺めている。

 あれが昼時だと考えるとサイゾウさんが寝かせてくれたんだろうけど・・・・

 自業自得なものだから、何も言えない。

 とりあえず、ずっと握っていた紙に安堵すると丁寧にポケットにしまう。

「・・・・お世話になりました。帰りには必ず寄りますから。あの、ありがとうございました・・」

「ああ、あいつにもよろしくな。・・・・気をつけてな・・」

 店を飛び出した後、駐車したバイクに乗る。

 空の景色という現実に、悲嘆の涙を抑えることが出来なかった。

 暗い青空・・・蒼が濃紺へ、そして黒へ・・・完全な夜の景色。

 頭の裡に、後悔と外出した出来事が走馬灯のように流れ、大事な人との約束と笑顔が繰り返し想いかえされ、無意識にアクセルを強くする。

「今日は大切な日なのに、約束したのに・・・」

 本来ならそれなりに混み合う車道を思いっきり突き進めるのも、時間帯として遅いのも含まれるが、木星トカゲの襲来する世に外出するのを避けているせいでもある。

 大型のバイクは、一応の規定速度を少し超えた速さで進む。
 
 常に警戒態勢を維持している――つまり、オーバースピードを出して――警察に捕まるわけにはいかなかったからである。

 何も被らずにいたせいで、髪が長くなびく。

 風の感触に、途切れがちな追想が焦りに拍車をかけた。

 エプロン、結局はそれにつきた。

 ふわふわと浮かぶエプロン姿・・・

 笑顔・・・・・・それが段々と変わっていく。

 その表情を考えると怖い気もするが、すでに手遅れなのはわかってしまっていた。

『ピー、エネルギーを感知しました。DF(ディストーションフィールド)起動、出力増大』

「えっ!?」

 突然、電子音とともに伝わった内容と、いままで散々髪をゆらしていた風が緩み、脚に震える震動音が一際大きくなるのを感じた。

「フィールド起動って、そんなこと出来るエネルギーなんてないのに動く筈がない・・・・」

 嫌な想像が、別の顔にとって変わる。

「あははは、速いな〜・・・・」

 蒼白な表情で、過ぎ去る景色に顔を背けるとそのまま急ぐことに集中した。

 展開したフィールドに触れて、道から外れたらしき黒い車を気のせいだと思いながら・・・


 完全な遅刻だった。

 非常識な速度のまま、サセボドックの門を突き破ってしまったのが悪かったんだろう。

 口答で済まない身元確認にも、散々にプロテクトを掛けた個人データにはアクセス出来ないだろうし、身分証も遺伝子鑑定も、起動したままのフィールド越しでは不可能だった。

「だから、わたしはネルガルのスタッフです。緊急の用があって、それで・・・・・・ ほら、ここに身分証とパスも・・・・」

「ダメだ! そんな物騒なバイクに乗った奴の言葉が信じられるか。DNAチェックで確認するまで、中に入れさせる事は出来んっ!」

「いや、あの・・・」

 どう言えばいいのだろうか、フィールドを解除出来ない現状を。

 むろん、それはわたしのせいでは決してないのだが、奇妙な膠着状態が続く。

 一応ここも、軍のモノなんだよね。

 すでに急ぐ以前の時間だったが、まだ一日を終えてない。

 警報が鳴ったのは、そんな時だった。

 木星トカゲの襲来らしい。

 やっと納得してくれた(筈)のか慌てて去っていく人達を尻目に、自分の引きつった顔を無理矢理治す。

 相変わらず解除されないDFを恨めしく睨みつけると、仕方なくそのままネルガルが占有しているブロックに向かった。

 バイクのままだったので、いざとなれば突き破ることを覚悟したのだが、遮る壁は全て近づくだけで扉を開く事に恐怖を憶えるだけだった。

 
 搬送用のエレベーターだろうか、青紫色のエステバリスがゆっくりと地上に昇っていく光景がある。

 アカでもピンクに近い赤でもなく、背部が変わった陸戦型・・・

「まったく、遅いから何やってるかとおもえば・・・」

 茫然と眺めていると、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

 気配はすぐ近く、いまだに展開されているフィールドの範囲内だった――消え失せているのに気付くとふりかえる。

 暗蒼黒の翼持つ機体・・・

 呆れをにじませた声に応えようとして、どうしようもない緊張感に上手く言葉が出ない。

「・・・・連絡なしの不自然な帰宅・・・、家庭不和の危機・・・・・・?」

 蒼い機体の眼差しに、ようやく出せそうだった声が止まった。

「おいおい、帰ってきたんだから、それぐらいにしとけって。それより、上のお客さんを歓迎しなきゃいけないし、って・・・カンナ?・・」

 アカい機体の声音・・・・・・

 安堵と責めが両混ぜになった呆れを器用に体躯で表しているのを、ただ立ち止まって見続けるしかなくて。

『・・・・そうですね、あのこもウズウズしているようですし・・・』

【・・・・・・予定よりずいぶん早いのは、置いとくとして・・・・ 出てしまったエステもありますからね・・】

 これで全員だ。

 並び立った機体の向こう側に、膝を折り右手を捧げた漆黒の闇にみえる翼の機体がわかった。

 警報と整備員達が慌ただしくなっているドックの中、ペコリと態度で謝罪を表明すると急いで待っている機体に駆け寄った。

 すでにエレベーターに乗った機体達の視線が、こちらに向けられている。

 バイクのキーを外し、触れた途端操縦席を晒したシートに座り込む。

 預け、ナデシコに運ばれていくバイクを気にしつつ、起動。

 一歩一歩、徐々に駆け足でエレベーターに近づきながら、当然のように開かれていくウインドウに恐々と身を縮めた。

「・・・・・・マナ、大丈夫・・?・・・」

 翡翠色の眼差しに、隈をみつけてしまう。

「・・もう、自分の心配をしなさいよね・・・」

「レイ・・・・は・・?・・・」

「目標せんめつ。準備は万端なの・・・」

 ただ真摯すぎる静かな視線を送り続けていた真紅の瞳が、やわらぐの感じた。

「・・・・ヒミコ?・・」

「艦橋が混乱しているため、しばらく時間が掛かると思います。指揮系統すら整っていないようなので不安ですが、・・・信じてますから・・」

 底冷えする、微かに負の感情を交えた声に身体が震える。

「・・・・・・アキトさん、・・・サレナ・・」

「・・・連絡ぐらい欲しかったかな・・」

「話は、後でするとして・・・・・・、急がないと、パイロットが死にますよ。エネルギー波が無展開ですから、そろそろ力尽きるでしょうし・・」

 少し不機嫌そうな男の言葉に安堵した途端、冷たい声に慌てる。

「・・・じゃ、じゃあ、展開しなきゃ・・・」

「艦長の指示なしにですか・・・・? してもかまいませんが、まずくありませんかそれは」

 外に向かって上昇するじれったいエレベーターと、飛び出していった青紫のエステバリスのバッテリー制限時間。

「第一、まだ気付いていませんよ・・・・」

 壁に沿って強引に急ごうとまで考えて、呆気にとられてしまった。

「う、嘘でしょ・・・」

「いいえ、まだ見苦しく言い争ってますし。作戦すらも提示されてません。付け加えるなら、エステバリスは迎撃の最中です。そろそろ軍の兵器も品切れのようなので単機でやることになるでしょう。・・・・時間の問題ですか・・」

 淡々と伝えるヒミコの話に、全員の表情が一斉に引き締まる。

 頭上に空が見えはじめた。

「相転移エンジンの起動を確認」

 木星兵器が乱れ飛ぶ夜空。

 その中で、背面に付いた推進器のおかげで四足に見えるエステが片腕を遠くで振り回し駆け巡っている。

 なんとなく、なんとなくだけど・・・・・・

「はじめのい〜っぽ!」

 目の前で孤軍奮闘する姿に溢れた感情は、ゆっくり伸びをする動きに気付かず

「え・・・・・・・・・・・・!?」

 二対の翼を大きく広げながら、あらぬ方向にでたらめな軌道を続けたまま飛んでいった。

 同時に跳んだダークブルーと蒼色の機体は、推力すらもフィールドに廻しバッタを犠牲にして地に舞い戻った。

「・・・・はあぁ〜〜〜・・」

 空のバッタ、地上のジョロ。

 とりあえず、手足の範囲の虫達を叩き落としながらカンナの機体を追っていたアカい機体は溜め息の仕草をする。

「どういう事なんだろうね、今のは・・・・」

『多分ですけれど・・・・・・』

 ある意味無茶苦茶なフィールドによる高速度攻撃で、仕掛け花火のように空を彩っている。

 その視線を遮るようにウィンドウが突然開いた。








〜トガビトを包みし翼〜


序章 始まり・・・












 2017 火星





 ゆっくりと生い茂る草原をのんびりと散歩している。

 段々と澄みわたり、おいしくなっていく空気を吸い込んでは空を眺める。

 なんとなく嬉しい。

 こういうふうに感じられることの大切さを、わかったのは最近のことだ。

 つい癖になる、習慣・・・

 地面に伸びた影を動かしては、笑ってしまう。

 白い星を見える空に、綺麗な虹色の輝きが掛かっていた。

 珍しい色彩に瞳を奪われた。

 雨は久しく降っていないのを不思議に想う。

 無から有へと結合していく濃密な気配がした。

 産まれる漆黒・・・

 その一部始終を、じっと眺めていた。

 怖い気はしない。

「・・・・?・・地球に、こんなのが造れる程技術が進歩したのか・・・な・・・・」

 黒い翼、揺れている尻尾、赤い眼光・・・・

 ひっそりと、でも周囲を圧迫する気配が生物めいて、逆に洩れている火花に違和感を生じさせる。

 火花が散っている。

 機械とは認めたくない気持ち。

 草原の群れを押しのけるように、地に降り立った存在・・・・ひどく生々しい感触がした。

 漆黒の頭部から伸びる赤い視線。

 みるものを叩きつけるそれに、懐かしさに、ふらふらと近づいてしまう。

 ・・・・・・たたずむ“もの”

 ビイィン

 存在感ともいうべき気配に、手がはじかれた。

「・・・フィールド・・・・?
 ・・・・・・わたしが、こわい・・・・?・・・」

 呟きにこたえるように、尻尾がゆれた。

「・・・不用意に近づいてごめんなさい・・・ でも、ここにはわたししかいないから・・・・、だから・・・」

“意思”が、言葉を紡がせる。

 ひとつひとつの指を壁に、這わせるようにして・・・

 チリチリと擦れる掌に血がつたう・・・、それもはじ消えてゆく。

 伸ばした腕に、尻尾が途惑うようにふれてきた。

 絡みついてくる硬質の手触りのなか、脳裡に言葉が浮かんできえた。





『・・・・ここハ・・・・・・ドコ?・・』

 何度も何度もくりかえす・・・ここは安住の地かと・・・・・・

 傷つき疲れ果てた主を護るため・・・

 誰とも知れぬ問いかけに、こたえがかえってくるまでは・・・・

「火星、2017年の火星よ・・・・」

“2017年”

 安堵と恐慌が同時にわきあがった。

 敵はいない・・・これで主を休ませることができる。

 けど、主の身体はどうする?

 ここは過去なのだ。

 未来でおいてさえ治せなかった、それでも応急処置ぐらいは出来たのだ。

 ・・・・ランダムジャンプ・・・・・・ランダムジャンプ・・・

 相反する絶望と、絶望でもわずかな光明に狂乱したかのように計算をくりかえしていた。



 エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー

 エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、・・・・・・



 はじける赤い、もうひとつの自分の声。

 付随する崩壊の火花の旋律。

 だからこそ、とどいた声に頷いてしまったのかもしれない。

「・・・・大切な人なの・・・・? そのひとは・・・・・・」

 澄んだ赤い双眸が、やわらかく胸のあたりをみつめている。

「・・・・おちついて、・・・貴女の気持ちはつたわっているから・・・・」

 血まみれの手から伝わる想いに、視界を外に向けた。

 全身を火星人特有・・・弄られた故、より過剰な紋様に明滅している主の姿。

 内部を彼女にさらした。





 胸がもちあがる。

 作動する機械音を悲しげにみつつ、微妙な色合いの赤い胸を見て、呼吸が止まった。

 生きている感触に、思考か混乱する。

 そして、黒い陰をみた。

 障壁を喪くし、火花を失くした。

 その人形に飛び乗るのは容易い。

 もたれかかる倒れていた漆黒を包んだ男性に、発光する彼をあわてて抱きよせる。

 露出した顔

 操縦服という漆黒をおしのけるように輝く明滅。

 不規則な呼吸の音。

 操縦席でしっかりと抱きよせながら、じぶんとは違う血の匂いにはじめて焦りをうながした。

「この人の、名前・・・」

 声は聞こえない、脳裡にも響かない。

『・・・・テンカワ・・・・・・・・・・・・アキト・・・』

 ノイズ混じりのウインドウが立ち上がる。

 こわれかけたような甲高い鼓動がうすれていた。

 抱き寄せた音とかさなっていて・・・・

「・・・・・・・・・・・・」

 アカとクロの光輝が、解き放たれた・・・・・・





 空を眺めていた。

 澄んだ空気、晴れ渡った空。

 ひとりのときは。こうして外を眺めている。

 過去をかえりみて、いまここでひとりでいるのが不安なのかもしれない。

“おもい”をみつめている・・・・

 その視線がかわったのは、

 アカを含んだ闇の漆黒が深くなった・・・・・・あのひとに気づいたときだった。

 ゆっくりと月に向けていた視線を虚空に戻す。

 空に似合わない漆黒が現出している。

 危うい気配が滲んだ漆黒が、はぜ割れ“あのひと”を胸にして翼持つ異形があらわれる。

 漆黒の外皮に脈動し駆け巡っているアカ・・・

 まるで過去の情景の再現のように泣き出す寸前の顔に、誘われるように一歩踏み出す。

「・・・・どうしたの?・・・」

 陽光の中では、どことなく幸せそうな寝顔と笑顔しか浮かべなかったから言葉をかけていた。

「ふたりとも死にそうなの・・・・・・
 だから、わたし、わたし・・・・・・・・・・・・」

 紅い海と壊れた人形のように朽ち果てた幼女を目にしたときと同じ、蒼白な表情・・・

 私が目覚めた瞬間に、蹲っていた泣き姿の再現。

「・・・・おちついて・・シンジ・・・・・・ 治せる“チカラ”はあるんだよ、・・・もう後悔したくないんでしょう・・」

 白い服が、背まで届いた黒髪と全身を輝かせる男によって、歪んで見えた。

「あなたがしっかりしなきゃ・・・・」

 声音の響きと、焦燥に近い悲しみが一致しない。

 明滅している男を抱き寄せている少女に、手を伸ばした。

 混乱して閉じこもっている彼女に触れながら、少なくとも自分の言葉にためらいという迷いが消えていた。

「・・・・カンナ・・」

 歪なウィンドウが乱れ散る胸、男を強く抱きしめて、手を引かれる。

「楽にさせて、・・・・ベットにでも寝かせて、調べる・・・・ わかる・・・・?・・・」

 涙を流した無表情で、家に向かって歩かせる。

 のろのろとした動きで家に入ったカンナを見届けると、黒い鎧が散らばった操縦席に座り込んだ。

「・・・・ふたり・・ねえ。冷静に考えれば来訪者なんだと思うけど・・・・」

 攻撃手段らしき操縦桿や入力装置を眺めて頭を抱える。

「・・・・・・パイロットの生存の為に、症状、負傷、原因のデータを要求するけど・・」

 駄目元で、音声で入力してみる。

 自分には結局、これが兵器か生物かは検討もつかなかったし、カンナとは違う。

 キータイプの入力に関しては、過剰に表示されている内容にすでに諦めている。

 駆動音とも鼓動とも聞こえる震動を感じつつ、それでも意味のない表示をにらみつける。

 手掛かりは、ここにしかないのだから。



「・・・・うそ・・・」

 カンナの声が聞こえる。

 先程より震えが強い口調。

 一瞬、作業を止めて飛び出そうと思ったが、過保護はなるまいと我慢した。

「・・・・・・・・・・・・リリン・・・、リリンじゃない、リリンじゃない・・・・・」

 想像を肯定させる、か細い悲鳴が聞こえる。

 繰り返し、繰り返し紡がれる、鬱言に近い声音・・・

「・・・聞こえているなら、返事をしなさい!
 データをよこして! 死なせたく無いんでしょう・・・」

 最後通告の、つもりだ。

 データがないのならば、狂乱状態に陥っているであろうカンナを導くのが自分の役目だ。

 眺めていたものが、意味を持つ文章に変わっていく過程を見て、腰を落ちつけた。

【天河明人】

【古代火星文明】

【ボソンジャンプ】

【ナノマシンによる人体の端末化】

【遺伝子操作で創造されるマシンチャイルド】

【蜥蜴戦争】

【機動戦艦ナデシコ】

【ボソンジャンプ演算装置:遺跡】

【ランダムジャンプ】

【古代火星文明に改造された少女の肉体データ】

【A級ジャンパー】

【B級ジャンパー】

【火星の後継者の人体実験】

【効果不明な試作型ナノマシン】

【被験者達】

【天河明人の人体実験】

【天河明人の症状のレポート】

【火星で出産されたA級ジャンパーとの比較検討】

【感覚代携のマシンチャイルドとのリンクシステムの概要】

 ・・・・・・

 あの男がリリンでないことは当然として、必死に役立つものを探す。

 こちら側が使徒という枠組みであるのと同様に、古代火星文明という区切り――ひょっとして、この世界の未来という可能性にありえるのだ――が、ややこしくさせられている。

 馬鹿げた妄想にはもううんざりだと心に決め、思考を纏める。

 ごちゃ混ぜになったナノマシンの過剰投与、私怨を含んだ人体実験、応急処置後の肉体の過剰訓練・・・

「ったく、わけのわからないものに手を出す事なんて、どこも変わらないのね・・」

 天河明人の身体データは必要だろう。

 人体実験前、後はともかくとして、このナノマシンというのがわからなかった。

 人体の中に端末としての中枢を造りあげるらしいけれど、火星人(火星出身者の一握り)は違う。

 後天的に投与して出来るB級ジャンパーとA級ジャンパーとの差が曖昧だ。

 単純なナノマシンの除去だけで済むようには、思えなかった。

 先天性で、全身を紋様で刻むナノマシン。

 投与された試作型にどういった反応を示したか、何かしらの影響を被っていたなら、さらに難しくなるだろう。

 あの頃なら、使徒を人間にしてみろといううぐらいの困難さだ。

「となると、この古代火星人の改造データを頼りにするしかないか・・・」

 さすがにプリントアウトする機能はないようなので、頭の中で整理するしかない。

「・・・オモイカネで、良かったんだっけ。実験を見続けていた貴女に聞くのは酷だろうけど、・・・助かると想う・・・・?・・」

『・・・タダ、トモニイルダケ・・・』

「・・・・そっか・・」

 う〜んと伸びをする。

 他人と話すのは久しぶりだったからかもしれない、えらく疲れた気がした。

 血止めを施し休ませる、一応の応急処置をしてオロオロしているカンナの姿が思い浮かぶ。

 明滅する光輝に、ひどく不安になっている事にも心配するが・・・はっきり言って、男の病状全てに気負ってしまっている事に苦笑を隠せない。

 ランダムジャンプの危険性と、男の破滅に似た自虐願望を類推してしまうと、意味の無い行為に思えてしまうからだ。

 いっそのこと自分の結論ごと伝えようと考えるが、泣き顔が浮かんで客観的な思惟としてぶつけることにした。

「・・・・カンナ・・」

 天井を、虚空をみつめてポツリと呟いている。

 耳以外、全て閉じる。

 後から考えれば、この時から結果はわかっていたのかもしれない・・・





 自分達以外、寝ることのなかった寝台。

 黒のボディースーツを脱がし、横たえる。

 たくさんの傷と体臭、衣服がなくなった分紋様を現すカラダ。

 血を拭って、気休め程度に薬を塗る。

“チカラ”を使うのは、諦めに近いことだった。

 簡単なものなら、身体を活性化させれば済む・・・・異常な量のナノマシンに、怖くなって諦める。

 強めれば何とかなるかもしれなかったが、変異させてしまう可能性に悲鳴を上げてしまう。

 この人が、リリン以外の別次元の人間ということが余計に感じずにはいられない。

 ペタペタと肌に触れていた手を、おそるおそる左胸に置く。

 鼓動というより、今なお活発に動いているナノマシンの激しい動きによくわからなくなっている。

 微かな心音を聞くために、思い切って耳を押し当てた。

 鼻腔に、消毒臭、血臭とがない混ぜになった体臭が吸い込まれる。

 心音に気付けた安堵を、今度は遊びのように自分のと合わせてみる。

 頬に当たる少し冷たい感触に、一瞬勘違いした死を恥じるように大きく息を吐いた。

 落ちついた思考の中で、治療の事を考えてみた。

 男の身体は、発作以外は小康状態であるとわかっている。

 あの切羽詰った想いは、それを認めないように思えたし、諦めをも含んでいた。

 自分の側に引き込めば、完全に治療出来る恐怖と、“チカラ”を行使できる誘惑に、平静さを保てているのが不思議に思えていた。

 今度は馬乗りのように男にまたがってみた。

 暴れ出さないのが不安に思えてきたからこその行為。

“治したいこと”

“変異させたくないこと”

 どうしようもない矛盾に困惑しながら、伝えてきたマナの思考に意識を委ねた。



 息が荒くなっているのを自覚した。

 鼓動だけでの判断に決め、外界の情報を遮断した状態の自分は、一気に頬を赤く火照らされた。

 筋肉とは違う固い感触と熱さに、すさまじい想像が浮かんでは消えた。

「・・・ふう、あれぐらいの知識で治療出来なかったんなら、技術じゃ・・・・・・無理・・か・・・」

 想いと記録から感じられた執念が気持ちいい。

 覚悟のある狂気は好きだ。

 焦点が合わない瞳を残念に想いつつ、汗を拭う。

 発作にも関わらず表面的に暴れ出す兆候がない、体力が消費し続けている。

 口をこじ開けて、左指を口腔に潜ませる。

 粘膜に触れて、少しずつ探査の力を広げながら舌に這わせてみる。

 絡む唾液に、ざらざらした柔らかい感触・・・・舌を噛み切ることを心配は、さらに不安で肌をあわだたせた。

 右手を胸において、一呼吸。

 重なった心音と、意外な柔らかさに鼓動がふたつぶんずれた。

――古代火星人のデータは参考程度、B級の付与する部分は興味深かったが意味はない。
  
  過剰に投与された分が、元からのと繋がってしまっているから単純な除去は不可能・・・
  
  応急処置であるはずのリンクシステムも、今は弊害になっている・・・・・・

  ランダムジャンプ、というより暴走したジャンプの影響は・・・・!?・・――

「・・・・もしかして、まだジャンプの途中なの・・・」

 もう一度、整理してみる。

 ボソンジャンプとは・・・・

“ジャンプ対象を変換し、それを特定の時間と場所に再構築する”

 ボソンジャンプの権威、イネス・フレサンジュ博士の説を要約するとこうなる。

 つまり、天河明人の記憶、身体、全てを内包しているのが、この明滅しているナノマシーンパターンである。

 火星の後継者の実験は、ジャンパーに深く関わるものであり、投与された分のも含まれてしまっている。

「・・・ちがう・・」

 そう、明滅していることだ。

 これは、特定の場所に移動する・・・・演算の途中を示す兆候であり・・・

 ここに、遺跡はない。

 なら、それが終わるまで目覚めないのだろうか・・・・

 演算の影響下、何もわからなかった探査の力を引っ込めると、抗議をこめて舌を玩んだ。

 ぴちゃ、ぴちゃ・・・・

 指と指の間を、ぬるぬると滑っていく。

 肉体的反応、問題無し。

「目覚めないのが予想通りなら、・・・・肩代わりをすれば・・・」

 何の影響も与えず肩代わりする方法を、基礎はリンクシステムと同じようにする必要がある。

 男には、もう他のシステムを受け入れる容量もない・・・既存のモノは用途が別だから使えないと。

 ドキドキが、心臓の音が悲鳴のように高鳴っているのがわかる。

「・・・・はあ〜、なに赤くなってんだろう・・」

 あんなに他人を嫌がっていたはずが、いつのまにかここまで肩入れしている。

 それも、一度も会話すらしていない男になんて、認識すらされていないにもかかわらずだ。

 こんな奴に棄ててしまっていいのだろうかという、わけのわからない疑問が浮かんでは消える。

 こういう感情自体が間違っているような気がしてならないが、方法は躊躇わないつもりだ。

 覚悟を決める・・・一番、安全で原始的な方法を選ぶ。

 若干、窮屈になっていた中心を指で割り開くと、直接的な熱さで途惑う。

 焦ったように髪を整え、腰を緩めるなどとあたふたと意味の無い行動を起こしている。

 動揺が治まらない。

 舌の絡んだ指先から腰の辺りまで、ゾクゾクした震えを必死に抑え込もうとした。

「逆なことには慣れているから、・・・・だから、え〜と、え〜と・・・・・・」

 ほんの少し腰を浮かせると、妙な繋がっている感触に恥ずかしくなって力が抜けた。

「・・・・・・・・・・・・」

 じわじわと溢れる、強く吐き出される・・・同時に起こった激痛に男の身体に寄りかかる感じで縋りつく。

 白い白光に包まれた途端、背中がむずむずと広がっていく音が聞こえた。

 ポカンとした表情で背中を見ると、紋様を宿した光翼が産まれていた。

「・・・んっ、ごほっ、ごほぉごほぉっ!・・・・」

――・・・あっ・・・・・・――

 指が咳き込む口からこぼれたことに何故だかショックを憶え、唾液の銀糸を断たないように手を操る。

「・・・・ここは・・」

 黒い瞳が、ようやく焦点を合わせて訝しげに自分を見ていた。

「あ、えっと、・・・・カンナです・・」

 反射的に起きあがって、擦れた絶叫を堪えた。

 彼の視線は、眩い紋様を刻んだ光翼に向けられていた。

「・・・・・・天河明人さんでしたよね・・」

「・・・ああ、それで君は、朝霧カンナだったか・・・?・・」

 咄嗟に羞恥の部分を隠し、おずおずと問いかければ、名前を言い当てられる。

「なんて言えばいいのか。
 そうだな、ラピスとのリンクに近いものなのかも知れない。意識と意識が触れ合う感じで、・・・・君が無防備過ぎたのかな・・」

――・・・一瞬だったはずなのに、全部筒抜けなの!!・・――

 顔を赤くし、直視を避け始めた彼の姿は、余計に何も言えなくさせた。

「・・・・・・とりあえず、俺のためにすまなかった・・」

 抱き寄せられるところを考えれば、ようやく彼も現状を理解したと判断したい。

 何処まで知られているのかがわからなくて、言葉が詰まる。

「それで、その翼は・・・」

「・・・・あ、これは、その演算の肩代わりしているの・・・」

 全部ではないらしかった。

「あの、・・・・調子はどうですか?」

 ある意味、見慣れた現象を不思議そうに見つめている。

 触れ合った距離とはいえ、歪んでみられるのも嫌だった。

「・・・・・ん、特に問題はないが・・・・」

 考え事のせいか、おざなりに応えられる。

――・・・・・・か、かわらないんだ。能力としてはラピスの上だし、・・・あんなに一大決心したのに応急処置程度・・・・なんだ・・――

「いや、五感とか怖いほど鋭くなっているから、同じ程度というわけじゃ・・」

「・・・・??」

「だから、筒抜けだって」

 思考を読まれて固まった自分に、やんわりと現実を突きつけられた。

 何と、一体繋がってしまったのか、今更ながら自分でも理解していないことに気付いた。

 くすぐったい感覚に、翼だけをゆらゆら揺り動かして探ろうとする。

 あったかい・・・・という、漠然としたイメージしかわからない。

「・・・で、どうするんだ?」

 痛みのせいか、ボーとしてしまう気持ちを切り替えてみる。

――・・・わたし自身が端末として補正しているわけで、物理的接触で繋げた。
  ・・・・でも、明人さんの説明では、精神的にも繋がってるようだから・・・離れても・・・――

 言葉の端々で頷かれているので、どうやら強く想っていることは、伝わっているらしい。

――治療を目的にして、・・・・・・ジャンプの演算途中だから・・・――

「・・・・とりあえず、その・・・」

「わかった」

 上手く伝わったのか、明人の手が掴んで持ち上がり始めた。



 目が覚めた後の現実は、わけのわからないことだらけだったが、異世界という事もあって若干開き直って現状を認識した。

 際限なく洩れている彼女の思考を、そちら側の視線という一風変わった視点で眺めることとなったせいか、半分以上他人事のように情報を咀嚼する。

 意識の半分を、彼女の背に生えた光翼に囚われたまま、抱き直す。

「ここに遺跡がない以上、ジャンプは逆らえません。わたしが請け負っているので負担はないと思いますが、その身体ではジャンプ後の障害は確実であると認識して下さい」

――・・・アイちゃんが、記憶喪失になったような感じか・・・・――

「同時刻の座標移動ならともかく、時間軸の移動では、可能性が高いだけですけどね・・」

 コツを掴んだんだろう、わざわざ言葉にする必要もなく返される。

 空気を震わせない会話をしていると、思い出されるのはラピスのことだった。

 暴走した経緯以前に、ボソンジャンプはまだまだ謎な部分は多い。

 B級に関していえば、ランダムジャンプのデータさえない・・・・

――・・・木蓮の優人部隊のデータなら、あってもおかしくないが・・・死亡で終わってるような・・・・――

「・・・・ラピスさんについては、わたしにもわかりません。そもそも、もっとも強力なジャンプ船のユーチャリスが・・・・・・」

――「ジャンプシステムを明人さんに頼りきったブラックサレナ・・、だから、こちらに来れた・・・・?・・ 逆に、安全性が高いユーチャリスは、あの世界のまま・・・
   でも、ジャンプの主は、ジャンパーであって船は補助でしかない・・・」――

 ランダムジャンプは、遺跡を解析出来ない限り理解は不可能だと考えていたので、あっさり聞き流すと目を閉じた。

 復讐ばかりを考えていたあそこと違って、妙に穏やかな気分でいるの苦笑するしかなかった。

 だが、結局のところ、元の世界に戻るということに憂鬱になる。

 それに加え、過去に行く確立が高いときた。

 どれぐらい遡るかは知らないが、ナデシコを繰り返すならうんざりだと素直にそう思った。

 微妙に硬直している彼女の背を撫でながら、匂いをずいぶんはっきり感じることに嗅覚が、味覚以外の感覚の回復を確認した。

「・・・・それで、完全な治療法を考えついたんですけど・・・聞いてます?」

「あ、ああ・・・」

 真っ赤な顔を間近にあって、焦って舐めようとした舌を引っ込めた。

 揺さぶる動作で、はだけてしまった身体を再び隠すカンナは、声も出ないようで想いだけを伝えてきた。

「・・・・いいのか?・・・」

 彼女の能力に頼る形のものだし、利用するとはいえ遺跡が主体となってしまう。

 成功する確率も、確実とはいえない。

「・・・・あはは、もう一蓮托生ですし・・」

 笑って、背中の翼を指し示す。

――・・・・・・解き方がわからないんじゃあ・・・・――

 カンナは硬直している。

 気まずい雰囲気に、なおさら不安が増してくるが、何もしないよりはマシだろうと考えることにした。

「・・・と、とりあえず、服を着ましょうか・・」

 か細い声に頷きつつ、彼女の肌を一舐めするのは忘れなかった。





 機体名:ブラックサレナ、制御AI:オモイカネ(女性人格化)との会話以外遮断したままのマナは、火花の収まった胸の中で家の扉が開くのを黙って眺めていた。

「・・・えらく時間が、掛かったわね」

『・・・・治ったんでしょうか?』

 首は縦にふってみせた。

 ウィンドウが開き、扉を拡大している。

 小刻みに震えている震動をなだめるように端末に触れながら、伝えてくるものを徹底的に無視した。

 光と漆黒が見える。

 マントとボディースーツを着た男に、光翼とアカい光に覆われた少女は抱きかかえられている。

『・・バイザーが無い。少なくとも、視覚は治っているんですね・・・』

 無意識に踏み出そうとしている脚を強引に抑えつけると、地面に飛び降りた。

 食い入るように、少女の顔をみつめる。

 赤く染め、涙目でみつめられていた。

 嫌な想像が現実へと変わったことを悟って怒りをおぼえつつ、諦めたように彼女の思考を受け入れる。

「・・・・道具を、三宝を取りに行きなさい・・」

 力無く手をふる。

 運を混じえた無茶苦茶な理論に共倒れする気にはなれない、共にいるのは確定事項なので、せいぜい成功確立を上げさせる。

 なるほどと、尊敬の眼で見返されるのを尻目にブラックサレナの操縦席に戻る。

「・・・あ〜あ、目覚めちゃったか・・」

「『・・・・??、目覚めたって、なんですか?・・』」

 天を仰ぐマナを、変換された声が尋ねてくる。

 ウィンドウと同時になったのは、まだ慣れていないせいだろう。

「・・・・・・精神は、肉体に引きずられるって説、知ってる?」

『・・・ええ、まあ・・・・』

 今度は、ウィンドウの隅にディフォルメされたブラックサレナが首を傾げているのを出してきた。

「・・・あの姿になって、一年ぐらいかな・・・・でも、他人としての男はいなかったわけでしょう」

「『じゃあ、メザメタッテ・・・』」

 そのままのウィンドウで、ブルブルさせつつ器用に漆黒を赤く染め蹲る姿。

「・・・・そういうこと・・」

 散らばった鎧を拾い集めつつ、非常に照れまくるカンナの思考に溜め息をつかづにはいられなかった。





 腰に刀。

 右手に槍。

 背に弓矢を背負った天河明人と、縋りつく形で立っている光翼の少女。

 端末で指示を出すマナという少女という現実を把握して、マスターの完全治療及び元の世界へとジャンプアウトする試みの為に、修復を早めていった。

 自分としては神という概念を信じきれないが、カンナという御人が似たような超常生命体である事実は自然と認められている。

 カンナに触れてから生じた変化で、機器とは別な感覚で大きな存在の中心に光翼の少女がいるのがわかっている。

 平和のために、遺跡と放浪してからずっと見続けていたので、嬉しいと気持ちが高揚していた。

 この世界の出現地点に歩みつつ、ナノマシンのない火星の大気を感じてみたりする。

 時間が経つにつれ、滑らかに、静かになっていく躰と歩法に驚き、嬉しくなり、火星の月を眺めた。

 ラピスとユーチャリスはどうなっただろうかと、かなりアバウトな思考も、不謹慎ながら新鮮だった。

 目的の場所に着き、正確な一点を定め、空に上がることになった。

 マスターは胸、マナとカンナは右手左手という配置で、フィールドなしに飛ぶ。

 準備が終わり、言われた通りにフィールドを同調させると、何故か赤く染まっていた。



「まずは・・・」

 開放されたままの胸から刀が飛んできた。

 パタパタと慎重に浮かび上がりながら、中心に沿って反り返る白い刃を振り下ろし、反対の真っ直ぐなクロい刃をなぞるように振り上げる。

 虚空に切れ込みが入り、虹色の光が洩れている。

 鞘に納めた刀を手首で投げ返し、瞬時に投じられた槍で、フィールド状の球体を飲み込めるような大きな円を広げた。

 覗き込むと、光翼の紋様の明滅が激しくなる。

 最後に弓矢。

 息の合った交換に、冷えていくマナの視線を、想いを堪えて無視するとゆっくり息を吐いた。

――・・・目標は、・・・・・・・・・・・・――

 弦を引くにつれ、視覚で定めた狙いを慌てて修正する。

 大事なのは、想いだ。

 クロに見えるほど赤く染まった弓から、流れるように矢が紅色を帯びていく。

 紅からアカに変わったとき、放たれた矢は赤い糸を引きながら虹色の空間を突き抜けていった。

“三宝”

 神話において、創世に使われた三つの道具。

 火星を居住惑星に変えようとして失敗していた頃、使った天(あめ)の名をもって生じさせた存在。

 不器用だと、マナに叱られていたのを思い出した。

「・・・・・・これで、大丈夫・・」

 ピンと張った糸を確認して、一息入れたカンナは座り込む感じでブラックサレナの左手に戻る。

 静かに、翼と尻尾をくゆらすのを微笑ましく感じて、ふと、地球の方角に視線を向けた。

「・・・行かないの?」

 マナの疑問に、むずむずしてきた光翼を自覚し叫びを早めた。

「あ、綾波さ〜ん! さようならぁ〜〜!!」

 唯一、気になっていた想いを叫び頷いたので、徐々にもぐり込んでいく機体。

 その途中、カンナの傍らで赤い光が集まってきた。

 纏わりつく、柔らかい感触。

「・・・・絆は、もうないの?・・・・・・」

 世界と決別する瞬間、光が結合した人物の声音に奇妙な動揺がはしる。

 最後に目にしたのは、血のような赤と蒼銀だった。










「どういう事なんだろうね、今のは・・・・」

『多分ですけれど・・・・・・』

 ある意味無茶苦茶なフィールドによる高速度攻撃で、仕掛け花火のように空を彩っている。

 その視線を遮るようにウィンドウが突然開いた。

 ナデシコのブリッジが映され、口々に問いかけられるのを無視し、返答を待つ。

『完璧に整備なさっていましたから、ナノマシン用にセッティングされたままのせいかと・・・』

「・・・・・・まったく・・・」

 互いに苦笑を混じえ、彼女にメッセージを送ることにした。


 







 あとがき



 始めまして、神逝といいます。

 あとがき始めてなので、正直何を書けばいいのかわからないんですが・・・

 資料を小説とパンフレットとマンガだけだったので、ビデオを借りた時は途惑いました。

 夜だったんですね。あのエステが駆け回るシーンは。

 仕方ないので、曲に録って聞き続けましたけれど。

 小説を念頭に置いていたので、思いっきり誤算です。

 全話を見るしかないようですが、設定集の方が安上がりなのでしょうか?

 え〜と、よろしくお願いします。

 

 

 

代理人の感想

え〜と、初めてでなんですがちょっと気になった事を。

神逝さんの文章ですが「主語」が異常なまでに省略されており、

また主語以外の文章、文節もかなり省略があるので文章が上手く繋がっていません。

例えば

 

>もたれかかる倒れていた漆黒を包んだ男性に、発光する彼をあわてて抱きよせる。

 

という一文ですが、

「何に」もたれかかっていたのか、

「倒れていた」は「漆黒」にかかるのか「男性」にかかるのか

「漆黒を包んだ」というのはどういう表現なのか、

「男性に、〜〜抱き寄せる」と言う表現だと、

「人物A『男性』に人物B『この文の主体』が人物C『発光する彼』を抱き寄せた」という表現になってしまうとか、

(少なくともこの文では『男性』と『発光する彼』を同一人物と見るのは不可能です)

山のような文法のミスがあります。

できれば今後は誰か別の人にチェックをお願いした方がいいでしょう。