「うわぁ・・目がまわりそう」

「大丈夫?枝織ちゃん」

「うん、アーちゃんが一緒だから」

「・・・死ぬかもしれない・・んだけど?」

「でも、私とアーちゃんが一緒にいられるのは、この先・・だけなんでしょ?」

「・・・ああ」

「だったら、我慢できる」

「・・行こうか、枝織」

「うん」
 
 

 
 
 

「うん、いい天気」

火星の空は快晴、どうやら気象コントロールユニットが安定したようだ、ここ最近ナノマシンの活動がひどく不安定になっていたのだが

どうやら一段落ついたようだ

「やっと洗濯物が干せる」

小さな庭いっぱいに紐を張りそれに洗い立ての洗濯物をかけていく・・・

小さな家の小さな庭、けれど・・過去の何処にも存在しなかった平穏が、ここにはある

夫と、子供達に囲まれての7年か8年は、彼女にとって至福と呼ぶべき時で

「北ちゃん?・・・ああ、ちょっと待って」

突然、エプロン姿で洗濯物を干していた女・・どう見ても若奥様と言った感じだが

彼女の様子がおかしくなる、急いで洗濯物を干し終えると

「・・・・」

ぎらつく眼で、家に戻っていく

先までの、周りまで柔らかくさせる不思議な雰囲気はかき消えた

無垢な子供のようだった女は、エプロンを脱ぎ捨てるとテレビの前に陣取り

(また?北ちゃんこの番組好きだね)

頭の中で響く女の声を無視しながら・・・野生の獣のような眼をした女、北斗は眼前で繰り広げられるペットの珍騒動という番組を眺めている

・・・動物は嫌いじゃない、特に犬のじゃれるのを見てるのは好きだ

けれど、飼おうと思ったことはない

幸せそうにしている姿を眺めているのが好きで・・・

結局、午前中は頭に響く声とのワイドショー談義で終わってしまった

けれど、昼を過ぎれば番組は一気にメロドラマ等、普通の奥様向きの番組ばかりになる

・・・少なくとも普通とは言いがたい彼女にとって、それは苦痛でしかなく

「・・・暇」

結局縁側で微睡むことしかできない・・・それもまぁ楽しいのだが

1人で横になっていても楽しくもなんともない、頭に響く声は昼寝に入ったようだ

・・・いっそ、身体を譲ってトレーニングでもしててもらうと暇つぶしになるのだが

「独りだと、やっぱり寂しいな・・・」

縁側の外では真白く洗われた洗濯物がたなびている、彼女はそれをあっと言う間に干し終えてしまった・・・

そして小さな家故に掃除も手間取らないし、食材の買い込みは夫の仕事だ

結局・・・暇で暇で仕方ないのだ

ごろごろと、日当たりのいい縁側で寝転ぶ女

「アキト、早く帰ってこないかな・・・」

言って小さく頬を膨らませる・・・まるで子供のようだ、雰囲気と言い口調と言い

数年前までは子供が家にいたため、退屈とは無縁だったのだが・・・今は義務教育の真っ最中、邪魔するわけにもいかず

「ごめんください」

・・けれど、退屈は意外と早く終わりそうだ、クルンと・・背中と首の力だけで起き上がる、そのままきょときょとと視線を玄関に向け

聞き覚えのない声と、馴染み深い気配

それに、玄関に走り出す・・履き物もはかず、扉を開ければ

「・・どちらさま?」

「こんにちは・・・アマカワ君のお母さんですか?」

20代半ばだろうか

神経質そうな、眼鏡の似合っていない男・・それが、目の前に立ち憤慨している

・・・何処かで、見た覚えもあるのだが

やはり見覚えのない顔だ、見知らぬ男を前に・・首を微かに傾げ

「そうですが・・零ちゃんの知り合い?」

「担任だ」

男の傍らにいた子供

・・・女によく似ている、赤みがかった髪も顔の造作も

けれど、伴う雰囲気がそれを別人へと変えていた、無垢な様子で男を眺める女と、それらの様に舌打ちする子供では、正直似ているとは言い難く

「以前・・何度かお会いしたはずですが」

・・・綺麗さっぱり忘れていた

別に健忘症とか、そう言ったことではない・・興味のないこと、価値のない相手は覚えようとすらしないのだ

(北ちゃん・・そうなの?)

(ああ・・)

頭に響く声

既に共存が当たり前になったそれの言葉に、頭を下げて謝罪する女

実はその行為も何回目かなのだが、苦渋に満ちた顔の男・・男性教諭は、からかわれているとでも思っているかも知れない

「それで、零ちゃん・・どうしたの?」

そう、自分の子供である・・少年に聞く

泥と汗に顔を汚し、土に汚れた髪を四方に跳ねさせた・・子供とは思えない鬼気を備えた少年は、1つ嘆息すると

「喧嘩だ」

吐き捨てるように言い放つ

それに、ふと・・女は眉を蹙める、何かを考え込む仕草に、男は意を決したようにその子供の行為を非難しようと

「やったね零ちゃん、これで100連勝目だよね」

「おかあ・・・」

・・・男の喉が震える、自分が受け持つ生徒の母親にその生徒の悪行を告げようとした喉は、にこにこと微笑む女を前にして力を無くし

「・・っく、お母さん、違うでしょうアマカワ君は今日も何人もの相手を病院送りにしたんですよ、こんな事が続くようなら」

「・・今日の相手は誰だったの?零ちゃん」

男の言葉を聞き流しながら子供に問う女、それに・・けれど男は力を無くしたように言葉を止め

「付属中学の馬鹿達だ」

子供は言い放つ

・・・まだ、10に達していないだろう子供が・・天性に持ち得た獣の雰囲気を発しながら、笑う

「数は?」

「3人、うち一人はナイフを持っていた」

男にはもう言葉はない

その状態ではどう足掻いても正当防衛が成立するだろう・・むしろ、子供が中学生数人を病院送りに出来るという現実の方を疑いかねない

「向こうから喧嘩を売ってきた、周りに人がいた・・聞けばそれは確認できるだろう・・それと、お前らに言われたとおり、しばらくは手加減して闘った・・そのせいで、何発か殴られたが」

言うが、身体には傷1つ無い

泥汚れは目立つが・・昨日までの雨で外は泥だらけだ、喧嘩したと考えれば当然で

「そう・・もう中学生も軽くあしらえるようになったのね」

・・・子供の成長ぶりに母親は感涙したように空を見上げる

毒気を抜かれた男性教諭は何も言うことが出来ず歯噛みし

「頑張ったのね・・零ちゃん」

「・・・俺の名は北斗だ」

レイと呼ばれた子供は辛辣な目でそう告げる

・・そしてそれは間違いではない、父から与えられた子供の名は北斗、そして・・今の父母から与えられた名が零

血の繋がらない父母に育てられる子供は、強硬にそれを繰り返し

「で・・ね、零ちゃん、小学校は?」

北斗の言葉を無視するように問う女、枝織・・・

男性教諭はようやく少しだけ意気を取り戻し

「・・あそこはつまらない、居ても意味がないだろう」

「うん、それは私もそう思う」

・・枝織の言葉にまた匙を投げた

よく言えば放任主義、悪く言えば無責任

この母親にはもう何を言っても無駄だろう、少しは話の分かる父親にまた話を通さなければと・・・男性教諭は嘆息し

・・・二言三言言葉を交わすと去っていく

その背を・・北斗と枝織は見送り

「さてと、まずはお風呂ね」

北斗の襟首を掴むと軽々と持ち上げた

小柄な北斗だ、女の細腕でも持ち上げるのは難しくはないだろうが・・

「一人で入れる、離せ」

次の瞬間北斗の手首が消え・・枝織の掌の中に現れる

・・正確に言えば、通常の動体視力を持つ者では追いきれない速度で枝織の首に手刀が叩き込まれ、それを軽く受け止められたのだ

・・ボクシングの世界チャンプでも追いきれないだろう手刀を軽々と放つ子供、それを易々と受け止める母親

・・正直、平凡な親子とは言い難く

「子供のうちは親に甘えないと駄目なんだよ」

力一杯暴れる北斗・・ゴリラの力にでも抗う自信があるが、それは枝織の腕の中で藻掻くだけに止められる

「それとも、やっぱりアーちゃんと入りたいの?」

そして、その問いに・・まさか首を縦に振れば、北斗は今よりも苦境に立たされることが必至で

・・・今ですら、常識を超越した暴力を身体に秘めた北斗

けれど、彼は知っている・・少なくとも2人・・いや、3人・・自分より強い人間が存在することを

その3人を比べれば・・母親と一緒に入る風呂が、おそらく一番平和で

抵抗を諦め、服を脱がされるにまかせる

そして・・・

「・・・」

髪が零れた

泥に汚れていた、北斗が服の襟に押し込めていた髪が・・背中に広がり

幼い割に絞り込まれた体躯、無駄の存在しない・・子供とは思えない四肢を軽く振りながら

・・・少女は母親に前に肢体を晒し

「零ちゃんも、そろそろ女の子らしい服着ないとね」

・・・ふんと、息をつき

長い髪をうっとうしそうに振り乱す北斗・・アマカワ・ホクト、或いは・・アマカワ・レイ

幼少の頃に男として生きることを求められ、それに応えてしまったまま・・今を生きる

これでも少女である、少なくともそれらしい格好をすれば十分見目麗しいと言えるほどの・・

「スカートとか着てみたいでしょ?」

「いらん」

最も、女の子らしくあるようにと求めているのは両親で

北斗にとっては自分は男のままで居る方が気楽でいいのだが・・

「そっか・・・まだか」

たまに・・枝織、母親はとても哀しそうな目をする

哀れむような、同情するような・・・何も識らず、教えられず育ってしまった北斗に・・謝罪するように

「・・俺は・・北斗だ、女の名などいらない」

だから、北斗ははねつけることしかできない

彼にとって、枝織は・・母親は、愛すべき存在で・・愛し方を知らず育ってしまった彼には不器用なやり方しか出来ず

シャワールームへ飛び込むと泥を洗い流す

流れる冷たい・・次第に温かくなる水が全身を伝い

髪を伝い、奏でられる水音が心を鎮めてくれる・・背後から背に突き刺さる枝織の視線が、とても・・居心地悪く・・・

「洗いっこしよっか」

「嫌だ」

・・・自分も服を脱ぎ捨て、飛び込んで来る枝織

それに感謝する、愛し方、愛され方を知らずに育ってしまった自分

それを・・受け入れてくれた、父母は・・その存在に、ただ・・感謝することしか出来ず

「えっと・・洗濯してないのが・・」

・・タオルで髪を拭きながら、枝織が下着を探している

・・・一児の母の割に枝織の身体は均整のとれた、完璧に近いプロポーションをしている

さらしの巻き付けられることの多い胸も、形は崩れていない

・・・・それを完全に晒しながら家の中を歩き回るのは・・問題ある気がするのだが・・

「まぁ・・いいが」

さすがにあのまま来客を出迎えるような馬鹿な真似は・・・もう1人の母が何とか止めるだろう

それを放ったままで、北斗は自分の部屋から下着、ズボンとシャツを用意し・・着込み・・

「零ちゃんはやっぱりそっちの方が可愛いのに・・・」

枝織が不満そうに呻く

いつの間に用意したのが、きわどい真紅の下着姿で北斗を覗き込んでいる

先まで無理矢理襟元に押し込んでいた朱色の髪が綺麗に下ろされている・・・

泥に汚れていたそれは、あの時とは比べるまでもない真紅の輝きを放ち

「邪魔なだけだ」

濡れた髪を無理にまとめると再び襟に詰め込む北斗

切らないのは周りが猛反対するからだが・・それでも、見せるのは躊躇われる

最後の最後で、抵抗したいのだ・・・家族の愛に変わりそうになる自分を繋ぎ止めるために

「また遊びに行くの?」

髪を梳きながら、枝織が問う

・・まだ下着姿のままだ、本当に男なら・・目のやり場に困るのかも知れないが

「憂さ晴らしに行ってくる・・・それと確かそれ、あいつがやめてくれって泣いてなかったか?」

枝織の下着を指して言う北斗

「うーん・・・アーちゃんとの思い出の品なんだけどな・・・」

どういう思い出だ・・・汗じとでぼやき外へ出る・・・かろうじて口にはしなかった

・・・女性が懇切丁寧に説明しそうだったから

駆けていく北斗は、軽快で・・・

「・・・後、一週間か・・・」

それを見送る女性の眼・・・先までの子供のような純粋な輝きは消え失せた眼・・・

ぎらつく野生の

まるで・・北斗のような瞳

それが・・北斗の背を心配そうに見送っていた

 
 
 

 

「・・・」

すべてがつまらなかった・・・

これならまだ五年前の方が遥かにましだ

・・・死と憎悪に包まれた四年間、

そして馬鹿親の愛に包まれる現在・・・

唯一の目的さえなければとうに逃げ出しているはずだ・・・
 
 

・・・そう考える、少なくとも自分が逃げない理由を探していることにはまだ気づいていない・・・

自分の周りには死が転がっているはずだった・・・

少なくとも、前の父はそういう教育を施した、

だが今の父は自分をどう育てようとしているのだろう・・・

時に優しく在れと言う、時に女らしくしてくれと懇願する、時に・・・自分に力を与える

父に、母に勝ちたい・・・

そう考え自分は戦う、父と母に武術の教えを請い、役にも立たない喧嘩を続ける、

それを母は喜び父は苦笑する、あいつは真似をする

生ぬるい環境・・・真紅の羅刹と呼ばれた頃を、自分は懐かしむ

木星で、狂気の中で生まれた自分を、懐かしみ・・・

「・・・」

ふと、場の空気が変わる・・・

実際に変わったのは子供の感覚だが、北斗にとっては空気の変化だ

自分に対する敵意・・・

それを感じた

今、北斗は町とは逆へ向かい、ちょうど寂れた野道に立っている、木々の間の獣道のような物だ

襲撃を仕掛けるには絶好で・・そう言えば、家を出るとき視線を感じた気もする

「ちょうどいい憂さ晴らしだ・・・出てこい」

・・・心の何処かでこれを悟り、無意識に人気の無い方無い方へと歩いていたらしい

茂みを割って自分より一回り大きい男が現れ

「何だ、さっきの奴等か・・・」

とたん残念そうな呟きを漏らす北斗

顔に見覚えがある、枝織と違い興味がないからと言ってそうそう喧嘩相手の顔は忘れない・・さっきまで見ていた顔で

「ふざけるなよ・・・さっきはふざけたまねしやがって」

恨みがましい目で見てくる男、嘆息と共にそれを睨み返す・・・それだけで怯み、満足に動けもしない男

「先に手を出しておいてそれか、腐った奴だな」

言って一歩踏みだし・・・

男の足が一歩下がる、北斗の眼光と、殺気に怯え

「・・・相手をしてやるよ、ただし今度はサービスは無しだ」

言うとそのまま男めがけて飛ぶ、軽く十歩はあった距離が零になり、蹴撃が男に叩き込まれる

「ああっ」

後ろに倒れ込む男の腹と胸を軽く蹴りさらに顔に肘を叩き込む、すぐに地面に叩きつけられ

・・顔を押さえてのたうち回る男、汚い血が辺りに散らばる

「弱すぎるな・・・」

苛立ちながら男をさらに殴ろうとする・・弱いくせにプライドだけで粋がるこいつ等は北斗にとっては嫌悪の象徴で

・・・視界を影が掠めた、頭上の梢に気配は感じていたが・・それが、網を北斗の頭上に放り投げ

「やはり罠か・・」

いったん茂みに飛び込み、それをやり過ごそうとするが

・・・梢から気配が落ちてきた、網より早く地面に着いた男達はそのまま・・・ジェラルミンの、軍用の暴徒鎮圧用盾を振りかざしながら突っ込んでくる

強固なそれを殴るわけにもいかず、思い切りよく蹴りつけるが・・・1人を吹き飛ばすのが限界で

・・・同じく軍用、暴徒捕獲用ネットは北斗の身体を絡め取った・・・
 
 

 
 
 

「・・・」

侮っていた、罠を張っていることまでは予測できたが、まさかここまで本格的な装備を揃えられるとは思わなかった

・・・ネットがこれ以上身体の動きを拘束しないよう動きを止めながら、北斗はネットの強度を指先で確かめ

「大丈夫か?」

盾を振りかざしていた男が北斗に蹴り飛ばされた者の容態を看ている

手加減はしたため、それほど深手ではないようだが・・鼻骨を折られた程度でのたうち回っている

その不甲斐なさに、北斗が嘆息し・・・

「馬鹿な子ね、ま、私の頭を借りなきゃ子供一人相手にできないあんた達も似たようなものかしら」

・・・人を不愉快にさせる種類の声が、男達のさらに奥から響いてきた

男達はまだ15,6・・少年と呼んでも構わない年頃の者もいるが、それでも北斗よりは十分、年上だ

そして奥にいる男は、それよりさらに上・・二十歳は越えているだろう

「ま、あんた達への最後のプレゼントという所ね、今までご苦労様、もうすぐシャトルの時間だから行かせてもらうわ」

けれど、その眼の卑屈さと嘲笑の度合いの強い勝利宣言は・・大人とはとても言い難く

去っていく背を、北斗は呆れながら・・男達は憮然と見送り

「・・くそがっ」

ネットに絡み取られたままの北斗に男の持ち上げた角材が振り下ろされた

北斗への恨みと、去っていった男への恨みの入り交じったそれは、手の甲で払いながらも・・多少の苦痛を北斗にもたらし

「最後の最後まであのキノコは・・」

子供相手に手加減無く振り下ろされる角材・・北斗以外の子供に同じ事をやれば殺人罪を喰らいかねないが

北斗は動きを封じられた状態でその全てを払い除ける

「まったく、大学出るのに六年もかけやがって・・・しかも知り合い居ないから俺達をつれ回して・・・親父の縁がなけりゃ俺達だってあんな奴相手したくなかったのに」

「ま、最後の最後にあの性悪な頭が役に立ったからいいじゃねぇか」

再び子供の上で棒が踊る、何度もそれを受けるが、数十と繰り返されるうち腕が重くなっていく

角材もみしみしと言っているが、やはり根本的な強度が違う、硬気功は足場がしっかりとした状態でなくては使いにくく・・タイミングがずれればかえって深手を招きかねない

「ガキのくせに生意気なんだよ」

「自称真紅の羅刹の最期だな」

けれど・・まさか動かなくなるまで殴られ続けるのはしゃくでしかない

携帯端末で助けを呼ぶのはプライドが許さない、とすれば・・自力で逃げる方法を北斗は模索し

・・・振り下ろされる角材に、男達への憎悪が募っていく

(・・抑制を、捨てるか・・こいつ等が死んでも・・構わない)

男達は気づかないのだろうか、何度角材を振り下ろしても未だ戦意を失わない子供の恐ろしさに・・・

そして用意した角材の強固さを、自分達に振るわれれば軽く骨を折られる物が何度子供に振るわれたかを、その角材にどれほどの負担がかけられているかを

(馬鹿親父は嘆くだろうな・・・母は、喜んでくれるだろうか)

死体を前にする自分・・・それを見れば・・・あの母も嘆き、自分を嫌うだろう

父も・・哀しむかも知れない

(・・・制御すればいい、俺の中の悪魔を、そして奴等の腕を砕けばいい)

四肢をもぎ切るだけでも十分問題はあるだろうが・・・今の彼にはそれは気にならない

既に、自身の内に秘められた闇は北斗の心を侵していく

「・・」

子供の中で何かが吼えた・・・そして血がたぎる、腕が一回り太くなり、体の中から何かが溢れる

昴氣の発現

両親から伝えられた秘伝、秘奥だ・・自らの力を数倍から数十倍まで増幅させる

天才的な才覚と弛まぬ努力のみが与える、最強の術

「俺の・・力を識れ」

闇が・・吹き上がった

父は言った、昴氣は持ち主の心を映すと

父の昴氣は透き通る蒼銀、人の心を安らがせる・・・そして母は朱金色、全てを呑み込み染めてしまう

朱金の輝きは闘いを求める心を映したのだろうと、母は呟いた

それ以前はむしろ・・自分と同じだったろうと

自分と同じ色・・・すなわち、すべてを飲み込む漆黒

「・・そして、悔やめ」

瞳を開く、その瞬間、自分の中で殺意、憎悪が広がる・・・

昴氣はその者の魂の姿、これを見るたび自分の本性がよくわかる・・・

後は簡単だ・・昴氣の力を使い、網を引き裂き・・・

「やめろーーー」

一時それを止める、そして昴氣が薄れていく、理由は特にない・・・

ただ、何となく思ったことは一つ・・・

父にだけはこの昴氣の色は見せたくない、そんな自分の想いを再認識したことと・・・それがどことなく父に似ていること

無鉄砲にも棒を持つ中学生に向かっていく所など特に

それが自分と彼・・・

テンカワアキトとの、出逢いだった
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

適当なペースでつらつらと書いてますが

・・・他にも連載抱えているんで、更新のペースは状況によります

とりあえず、火元の近況その他はこちら、最近何を書いているか、また何を書くべきかを考えてるところです
 

 

 

代理人の感想

ま〜、ほぼ同じなんで感想つける所もなかったり(笑)。

犬は・・・やっぱり好きか?