『時の流れに
of ハーリー列伝』
Another Story
狂駆奏乱華
第弐章
「巡り誘うは無限時空…」
第二節
「チェリーブロッサム」
木星と地球、この両者で行われた不毛な戦争は一人の英雄の活躍によって終結を迎えた。
……其の名は、テンカワ・アキト。またの名を『漆黒の戦神』…。
これは彼が不特定多数の女性を妻に迎え、数年の時が経過した頃のお話……。
前回偶然帰ってきた世界で一人の少女(幼女?)と一組の夫婦を救ったハーリー君。
しかし休む間も無く追撃を掛けられせっかく帰ってきた世界を後にし、また次なる世界へと旅立つのでありました。
はてさて、次の世界は如何なる所か……。
カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン!
今まさにそこは戦場であった。金槌を打つ音、指示を飛ばす声、全てがけたたましくこの場の忙しさを現わしていた。
大破した書割り、損傷の激しいセット、それらを直すべく多くの人々が東奔西走していた。
「ちょいと本当に大丈夫なんですの? 昼間の騒ぎで今日の公演はパァ。明日の公演を皆さん心待ちにしてらっしゃるんですのよ! きっちり仕上げてくれませんと、困りますわよ!」
「そう思うんなら、手前も少しは手伝えよな…」
「何言ってますの、私は女優ですのよ? 体力だけの貴方と違ってわたくしに出来る訳御座いませんでしょう」
「言ってる事が訳分かんねぇよ。兎に角、やる事ねぇんなら喚かず騒がず大人しく引っ込んでな、邪魔だからよ!」
「誰が喚きました!?」
先程から女優らしき女性と、修理をしている人物が喧嘩をしているようだが、何時もの事なのか誰も止め様としない。
「これと言うのも、舞台をぶち壊してくれた方の所為ですわ!」
そう言って女性の鋭い視線がある一方に向けられる。いや正確にはある一人の人物にであるが。
視線の先で大道具の修理をしている人物、ハーリーがそこに居た。
逃亡途中で一体何を?と思われるだろうが仕方が無いのだ。なにせ舞台や書割り等を大破させたのがハーリーなのだから……。
今より数時間前、追撃を掛けられ何とか別世界に逃げ込んだハーリーだった。が、いかせん出る場所がまずかった。公演真っ最中の舞台の上空に出現してしまったのである。当然重力が有るから落ちる。そこで普通に落ちれば良かったのだが、咄嗟にフィールドを纏って落下した為、甚大な被害が出てしまった訳である。そして関係者各位から責められ現在に至る訳である。
「返す言葉も無いです」
喧嘩の様子を聞いていたハーリーは、悪いのが誰だか判っているだけに自分に向けられた言葉と視線に反論出来る訳も無く、自己嫌悪に陥っていた。
そこへ・・・
「みなさぁ〜ん、夕飯の用意が出来ましたので、一息入れませんか?」
髪の長い着物の女性が修理に奔走する一同にそう声を掛ける。
「よっしゃあ! メシだメシだ。昼から動きっ放しで腹が空いてたんだよな」
そう声を上げたのは先程口喧嘩をしていた修理の人だ。
修理をしていた面々はその声と共に修理の手を一時止め、食堂に移動しだした。
しかしその場に残る者が二人。移動しないハーリーと、それに気付いた先程の修理の人だ。
「どうした? お前ぇは行かねぇのか?」
「え? ……良いんですかね? …その、壊してしまった僕がご馳走になっても……」
「何言ってんだよ。元々不可抗力だったんだろ?」
「それはそうなんですが・・・」
「良いから来いよ。それに腹が減ってちゃ戦はできねぇぜ?」
そう言って近づいてくるその人物。近くで見ると結構がっしりしているが女性の様だ。
「わかりました。それじゃご馳走になります」
「そう来なくっちゃ! あたいは桐島カンナ。カンナで良いぜ、よろしくな、え〜と、お前名前は?」
「マキビ・ハリって言います。ハーリーって呼んで下さい!」
「ハーリーだな。そんじゃハーリー、メシに行こうぜ!」
「やあ、災難だったね。え〜と、玻璃君でよっかったかな?」
ハーリーがカンナ達と食事をしていると、話し掛けてくるツンツン髪の男性がいた。
「貴方は?」
「ああ、紹介がまだだったね。俺の名前は大神一郎。この劇場でモギリをやっている。よろしくな」
「ご丁寧にどうも。マキビ・ハリです」
「それで、もう慣れたかい? 修理の方なんか大変だと思うけど」
「おかげで大分慣れてきてペースも上がって来たんですけど、ただ、・・・その、背中に刺さる視線が痛いかな〜、と……」
その言葉通り、ハーリーの後方から刺さる様な視線が向けられている。先程チラッと確認したが、視線の主は先程舞台でカンナと喧嘩をしていた女優の様だ。
「ああ、すみれ君か。彼女は自他共に認める一流の女優だからね。プライドも人一倍高いから舞台を壊されたのが特に許せないんだよ。その辺の所を解って貰えないかな?」
「解ってます。…それは解っているんですが……」
気のせいか大神と話し出してから刺さる視線の威力が数割増になったような……。きっと気のせいだろうと、意識しない事にしたハーリー。
そんな雰囲気を見てとったのか、大神が一言入れてくれる。
「すみれ君には俺からも言っておくから、頑張ってな玻璃君」
「はい。どうもお気遣い有難う御座います」
ハフゥ〜、と息を吐きながら食事に戻るハーリー。そんなハーリーにカンナが話し掛けてくる。
「お前ぇもえれぇのに睨まれちまったなハーリー。あたい的にはあのサボテン女には近づかない事をお勧めするね。あぁ〜のサボテン女、口を開きゃ嫌味と毒舌の嵐だからな」
まあ、それは人によると思うが、ハーリーは確実にカンナと同じく嫌味と毒舌の嵐を受ける側だろう事は、現時点で想像に難くなかったので、思わず深い溜め息を吐いてしまった。
そして食事を再開したハーリーの袖を不意に引っ張るものがあった。ハーリー的にそんな事をするのはローズしか思い浮かばなかったが、ローズがここに居るわけが無いと思い直し、引っ張られた袖の方を見ると、そこに居たのは熊のぬいぐるみを持ったフランス人形の様な可愛らしい女の子だった。いやその顔に浮べる悪戯っぽい笑みが人形と言うのを憚っている。
「僕に何か用かい、お嬢さん?」
この位の女の子に『お嬢ちゃん』と言うのは、余りいい結果を生まないと知っているハーリーはそんな風に問い掛けた。
(??? どこでそんな事知ったんだろう?)
「ねえねえ、お兄ちゃんなんでしょう? 舞台を壊して『グハァ!』公演を中止にしちゃったのって?」
「いや、確かにそうなんだけどね…。でもどうしてそんな事を?」
「すみれがね、そう言ってお上げなさいって」
「は、ははは。そうなんだ……」
顔は確かに笑っているが、纏った雰囲気がズ〜ンと暗くなるハーリー。
それを感じ取ったのか、女の子が心配そうに声をかけて来る。
「お兄ちゃん大丈夫? アイリス何か悪い事言った?」
「別に気にしなくて良いよ。本当の事だから。え〜と、君の名前はアイリスでいいのかな?」
「うん! こっちは熊のジャンポール♪ お兄ちゃんは?」
「僕の名前はマキビ・ハリ。ハーリーって呼んでくれて良いよアイリス」
「じゃあハーリーお兄ちゃんだね♪ よろしくハーリーお兄ちゃん」
「こちらこそよろしくアイリス♪」
微笑ましいその仕草に思わず声も明るくなるハーリー。
その後、カンナも加えて結構ワイワイと過ごし、心が少しだけ軽くなるハーリーだったが、
その様子を苦々しく見ている者が一人。舞台を壊されハーリーに好感情を抱いていない神崎すみれその人である。
「気に入りませんわ! 何故あのような方と皆さん仲良くしてるんですの?!」
納得いかない現状に歯噛みするすみれ嬢であった。
「おっしゃ、何とか間に合いそうやな」
時は宵の口よりいく時か過ぎた頃。何とか明日の公演に間に合う様に、修理の目処がついた様だ。
そしてそれを口にしたのは眼鏡にお下げの少女、名を李 紅蘭と言った。
「これも脅威の新発明【釘打ち君】のお陰やね!」
今回十分に威力を発揮した自分の発明に、満足げに微笑む紅蘭。今回は珍しく爆発しなかった様だ(笑)
「この調子でさっさと済ましてまわんとな。光武の整備も残っとる事やし……」
調子よくタンタンタンと釘を打ち込み大道具の修理をしていく紅蘭。そして釘打ち君を持ったまま右に移動しようとした時、足元にあった木片を踏んでしまいバランスを崩し、
「う、うわぁ!」
思わず何かに掴まろうとして、釘打ち君を握りこみ誤射。あかん!と思った時には時遅く、釘の射線上にいる人物の頭に当たるっと思った瞬間、偶然か必然かふいっと頭が動き、ギリギリの所を釘が通りすぎ書割りに突き立つ。
「大丈夫やったか! 怪我してへん? ごめんなウチの不注意で危うく怪我させてまうところやった」
起き上がるなりすぐに謝罪する紅蘭に、件の釘が掠めて行った人物(勿論ハーリーである)は、にこりと笑いながら、
「あ、別に気にしてませんから。当たらなかったんだから別に構いませんよ」
当たってもそれ程たいした怪我はしなかっただろうし、などと心の中で思いながら、紅蘭に笑いかけるハーリー。
しかしこう言う場合多少なりとも動揺するものだが、ハーリーの場合ミツリとの修行で不意打ちには慣れていた為普通は感じるであろう動揺等を感じていなかった。
それが逆に周りから違和感として感じられ、疑問を持たせる事になるのだが……。まあ、気にする人がこの場にいないのでそれは置いておこう。
「見掛けん顔やけど、もしかして君が噂のハーリー君かいな?」
一体どんな噂が流れているんだろうか?
「え? は、はい。そうですけど…」
「そうかそうか、うちは李紅蘭、よろしくな♪」
「こちらこそよろしく紅蘭さん」
「しかしほんま怪我がのうて良かったわ。怪我言うたら、今何とも無く働いとる様やけど、舞台に突っ込んだ時の怪我とかは大丈夫なんか?」
「大丈夫です! 丈夫に出来てますんで、怪我とかは無かったんです」
「呆れた丈夫さやな。カンナはんとええ勝負なんちゃう?」
それを聞きつけ、カンナがやってくる。
「おいおい紅蘭。いくらアタイだって、あそこまで派手に突っ込めばかすり傷くらい出来るぜ?」
それはそれで凄いと思うが……。
「ただたんに運が良かったのか、それとも……。そういやハーリー、お前何か武術とか遣ってるだろう?」
どうやら先程の騒ぎを目撃し、ハーリーの動きから何やら遣っているだろうと当たりを付けた様だ。
「え? ええ。ここに来る前に習ってましたけど…」
「やっぱりな♪ ならよ、後でちょっと組み手に付き合ってくれよ。いいだろ?」
「それは構いませんけど……」
「おっしゃあ! 決りだ!」
組み手が出来るのが余程嬉しいのか、満面の笑みのカンナ。
そんな話しをしている二人に紅蘭が、
「さあさあ御二人さん、そう言う話しは修理が終わってからしようや無いの。グズグズしとったら、明日の公演に間に合うもんも間に合わんようなってまうで?」
「そうだな。そいじゃあ、さっさと修理を済ましちまうか!」
「そうですね」
そして月が中天を過ぎ行く頃。何とか舞台その他の大道具、書割り等の修理が全て完了した。
「いや〜、やりゃ出来るもんだな。本当に1日で直せちまったぜ」
「何事もなせば成るやでカンナはん。さてと、夜も遅いしとっとと寝てまわんと。明日の公演もある事やしな」
紅蘭が背伸びをしながらそう言うと、修理に携わっていた者達が「お疲れ様」と声を掛けながら部屋に戻って行く。
「さ〜てと、そいじゃ……、お!いたいた! お〜いハーリー、組み手の約束覚えてるだろう? 修理も終わったし、早速遣ろうぜ!」
「え?! これからですか?」
夜中まで1日中修理をしていたのに、カンナはまだまだ元気の様だ。それを言えばハーリーもそれ程疲れてはいないのだが……。
「軽〜く一戦だけ遣ろうぜ。明日もあるし、早めに切り上げるからよ」
「分かりました、一戦だけですよ? それと僕が弱くても、がっかりしないで下さいね?」
「決りだ! 早く行こうぜハーリー!」
にっしっしっしと笑いながら、ハーリーを引きずる様にトレーニングルームに向かうカンナ。着くなり早速、
「さぁ〜てと。早速おっぱじめるとするか」
そう言いながら準備を始める。
深く息を吐き、早速構えに入るカンナ。それに合わせてハーリーも身体をリラックスさせ構える。
最初に仕掛けたのはカンナ。突き蹴り正拳の乱打からフェイントを混ぜての裏拳へと繋ぐが、ハーリーは乱打をことごとく最小の動きだけで避け、フェイントから仕掛けてきた裏拳の力を利用してカンナを投げる。
投げられたカンナも素早く受身を取り、起き上がりながら水面蹴り、ハイキック、回し蹴りと決めるが、ハーリーは水面蹴りを飛んで、ハイキックをしゃがみながら避けると回し蹴りを受けながらローキックでカンナの軸足を刈る。
支えを失ったカンナが倒れるのと同時に突っ込み、倒れた瞬間に顔面に正拳を寸止めする。
「僕の勝ち……で、良いですかね?」
「ああ、あたしの負けだ。やっぱりアタイの睨んだ通り、かなり強いじゃねぇかハーリー。何が弱いかもだ」
「そうですか? 技を習ってた人には、今まで一度も勝ったためしが無いんですけど……」
「おめぇの師匠も相当だな。一回も勝ったためしが無いなんて」
「普段は優しくて面白い人なんですけど、事そっち方面になると、笑いながら鬼の様な事をする人でしたから……」
それはもう死に掛けるまで、というのは一応ミツリの為に言わないでおくハーリーだった。
「さぁ〜てと、それじゃ寝るとするか。明日も付き合ってくれよなハーリー。別に良いだろう?」
「ええ、構いませんよ」
ハーリーがそう言うと、嬉しそうに笑いながら部屋に帰っていった。
「さて、それじゃ僕も寝ると…」
ここではっと気付くハーリー。即ち、一体何所で寝ればいいんだろうか?という事である。
ちなみにまったく誰からも聞いてないし、聞いた覚えも無かったりする……
(しまったぁ〜〜!!! どうしよう……)
どうすれば良いのか分からないので取り合えずうろついて見るが、そんなんで解決するわけも無く、
そんな、オロオロしながらうろうろしているハーリーに声を掛けるものがいた。
「誰? そこで何をしているの!」
女性の鋭い誰何の声が、ハーリーに掛けられる。
「何をと言われれば、何所で寝れば良いのか迷っている最中と答えるしかないんですが…」
少々情けない声で、しかし助かった〜っと言った感じの声で、ハーリーはその鋭い誰何の声に答える。
「君は……。確かマキビ君だったかしら?」
金髪の鋭い目つきの女性が、ランプを持ってそこに立っていた。
(この人確か、昼間のお説教の時にいた人じゃないですか?)
(そう言えば居たね。名前は確か…マリア・タチバナさんだったかな?)
鳳燐の声に昼間舞台に落ちた後、関係者各位から責められた時の事を思い出す。この人も確かその場に居たはずだ。
「はい。えっと、確かマリアさんでしたよね? お聞きしたいんですけど、僕って何所で寝れば良いのか知ってらっしゃいます?」
「あら? 誰も教えてくれなかった? おかしいわね。伝える様に言って置いた筈なんだけど…。いいわ、教えて上げるから付いてらっしゃい」
くすっと笑い歩き出すマリアに、慌てて付いて行く。
「済みません……その、色々と……」
寝床の事や昼間の舞台の事なんかを含めてそんな風に言う。
そんなハーリーに、顔を向けずにマリアが言う、
「まあ、過ぎてしまった事はしょうがないわ。問題はその後にどうするかよ。貴方も昼間、修理の為に奔走したんでしょう? ならそれで良いんじゃないかしら? 幸い明日の公演には間に合ったしね」
「そう言って頂けると助かります」
暫らく心地良い沈黙が続き、何だか良いなと笑みを零すハーリー。
「さあ、着いたわよ。取り合えずこの部屋を使って頂戴」
「お世話を掛けましたマリアさん」
「いいわよ、ついでだったし。それじゃお休みマキビ君」
「はい! お休みなさいマリアさん!」
こうしてドタバタと騒がしかった一日はようやく深けて行くのでありました。
日は明け翌日……いや、同日の早朝。日が昇るか昇らないか位の時間。
明るくなり始めた劇場の中庭で動く人影一つ。
昨日寝るのもそこそこ遅かったのに、習慣から早朝に起き武術剣術の鍛錬をしているハーリーだ。ちなみに双剣は現在支配人室に預けてあるので今は木刀である。
一通りの型の練習を最初はゆっくりと、段々とスピードを上げて行き、目にも止まらぬ速さになったかと思うと、急にスローモーションを見ているかのようにゆっくりに。緩急をつけ、しかし不自然さのまったく無い動きで一通り流す。型の練習を終え、仮想の敵と一戦交える。
傍から見ると一人で舞っている様に見えただろう。いや、実際に見ていた人物が居た。ハーリーが鍛錬を終え深く息を吐き気を治めていると、拍手と共に声を掛けられる。
「凄い凄い! 凄いです!! あんなに奇麗な型見た事ありません! 思わず見惚れてしまいました♪」
そう言ってきたのは、袴に刀を指し、黒髪をポニーテールにした、笑顔の素敵な少女だった。
「ありがとうございます。何か褒められると照れちゃいますが…。えっと貴女は?」
「あ、名乗るのが遅れました。私、真宮寺さくらと言います。一応帝國歌劇団花組の女優を遣ってます。まだまだ下手くそなんですけどね」
てへへ〜と笑う少女の笑顔に、釣られて笑うハーリー。ついでなので自分も名乗る。
「さくらさんですか。素敵な名前ですね。僕の名前はマキビ・ハリ。ハーリーって呼んで下さい」
「よろしくハーリーさん♪ ところでところで、ハーリーさんって剣術とかお強いですか? さっきの練習なんかを見てるとかなりの腕だと思うんですけど?」
「まあ、それなりに強いと思いますけど…。…何でですか?」
「公演の後でいいですから、一手試合って頂けませんか? 何だか無性にお手合わせしてみたいんです。お願いします」
ぺこりと頭を下げられ、何だかくすぐったい気分になる。
「それは別に構わないですけど……、別に頭を下げる事無いですよ。そんなに大した事じゃないですし…」
「本当ですか!? やった〜! 約束しましたよハーリーさん♪」
今にも飛び跳ねそうな喜び様だ。
(モッテモテですねマスター♪ 昨日の人といい、この人といい……)
気のせいか鳳燐の口調に微妙に棘がある様な……。
(もててるって言うのかな、こう言うのって? 僕には強敵に出会えて喜んでる様にしか見えないけど……)
実際その通りなので他に見えようが無いのだが、色々間に挟むと見え方が違って来るらしい。(某夜叉女達の場合:当社比4.69倍)
「それじゃあ、私の方は練習がありますので、また公演の後トレーニングルームで」
邪魔になると悪いのでその場を去るハーリー。丁度お腹も減ってきたので、朝食を取る事にする。
そこそこ朝早いにもかかわらず、食堂には先客が3人ほど居た様だ。
一人は昨日夕飯の時、皆を呼びにきた女性。隣は初めて見る娘だが、その隣に居る少女は知っていた。
昨日の説教の時、関係者の一人として居た筈だ。名前は確か高村 椿。売店の担当で、色々言われた少女だ。
「おはようございます、皆さんお早いですね?」
「おはよう。昨日遅かったみたいだけど良く眠れた、真備君? 私は藤井かすみよ、よろしく」
「君が噂のハーリー君なんだ! ……結構普通っぽいわね。舞台を大破させたって言うからもっとごついの想像しちゃってたわ。あ、私は榊原由里よろしくね♪」
「色々準備があるからね。昨日売れなかった分、今日はいつもの倍売る気で頑張らないと。勿論手伝ってくれるよねハーリー」
かすみさん由里さん椿ちゃんの順で挨拶を返される。最後のはちょっと違う気がしたが……。
「僕も遣るんですか?! 売店の売り子!」
「当り前じゃない! 昨日売り損ねた分を、何としても取り返さねば!! と、言うわけで手伝ってくれるでしょう?」
「でも僕そう言う経験が……」
「ね!」
「でもですね……」
「ね!!」
「あの……」
「ね!!!」
「遣らせて頂きますです、はい」
「よ〜し! 売り子を一人GET!!」
思わずVサインの椿ちゃん。一方ハーリーは何故だか逆らい難い雰囲気に飲まれ、心で涙していた。
(何故だろう。彼女には勝てる気がしない……)
ひとまず彼女の商売に対する熱意に負けた、と言う事にしておこう、無意識にそう思うハーリーだった。
閑話休題
まずは食事をしてからと、朝食を取り、先程約束させられたとおり、椿の手伝いで売店に入るハーリー。
それからはとんでもない忙しさの連続だった。
開演の2時間ほど前から人が集まりだし、1時間前となるとかなりの人だかりとなり、売店もパンフやお菓子やともの凄い事になってきた。
しかしその忙しさもまだ序の口だったと思い知るのは昼の部と夜の部の間を体験した時だったろう。帰る客と来る客が重なり、お土産だパンフだ弁当だお菓子だ、etc、etc。
無茶だ!こんなの捌き切れない!!と悲鳴を上げたが、椿に「努力と気力と根性で乗り切るのよ! さあ、お客様が呼んでるわ!!!」と言われ何とか乗り切ったが……。
いつも一人であれ全てを捌いているのだと思うと、椿の事を尊敬して止まないハーリーだった。
そうして何とか今日の公演を乗り切ったハーリー。昨日の修理の方が何倍も楽だったとつくづく思うのだった。
その後、その日の公演が成功した事を関係者一同食堂でささやかに祝し(ドンちゃん騒ぎは千秋楽で遣るらしい)、皆で食事をしたあと、ハーリーは昨日と今朝の約束の為、トレーニングルームでカンナとさくらの二人と対戦する事と相成っていた。
それを何処から聞きつけたのか由里以下その他大勢が見物に来ていた。
取り合えず外野を気にしない事にしたハーリーは先約のカンナから対戦することにした。息詰る攻防の末、結果は引き分け。どうも昨日のは全然実力を出していなかったようで、今日も今日とて両者とも本気ではなかったが、これ以上マジになるとやばいと言った所まで来ていた。
そうしてドローの結果が出た時外野が絶望の溜め息を漏らしていた。どうやらこの対戦でトトカルチョをしていたらしいが。はてさて一体胴元は誰なのやら……。
次のさくらとは剣術での勝負だが、流石に真剣は拙いので、両者とも木刀で、ハーリーは木刀の二刀流で行くこととなった。
行き詰まる睨み合いから、北辰一刀流の一撃必殺の技でもって一気に間合いを詰めるさくら。ハーリーはそれを受け、一刀で逸らし、一刀で隙を突こうとしたがさくらも甘くなく、無理やり軌道を変えると隙を突いた方の一刀を弾き、間合いを取る。
また硬直状態になるが、そんなに長く続かず、今度はハーリーの方から踏み込む。そしてさくらの間合いの直前で、ダンッと言う音と共にさくらの視界からハーリーが消える。え?!と思う間に背後から首筋に木刀が当てられる。何時の間にか背後に回られいた。それを理解したさくらの「参りました」でこの試合はハーリーの勝利で終わった。
そして次に意外な所から挑戦があった。モギリの大神一郎から二刀流同士の対戦申し込みだ。ハーリー的に特に問題は無かったので、その申し込みを受けた。外野の方も対戦トトカルチョが盛り上がっていくが、まあそれはいいだろう。
互いに礼をし二刀を構える。そして不意に、両者同時に踏み込み激しい打ち合いが始まる。打ち合う音が響き続け、その間合いがどんどん早くなっていく。互いに引こうとはせず、攻防は苛烈を極めた。が決着は一瞬で着いた。一段と激しい音が響いたか思うと、互いに一刀を弾き飛ばされ、もう一刀を互いの首に突き付けていた。互いに笑いながら、大神の「引き分け…だな」のセリフで木刀を引く。
見事な試合に見物人から拍手が起こる。
「わたくしとも一手お相手を願えますかしら?」
対戦が終わり一息ついていたハーリーに、そんな声を掛けてきたのはすみれだ。どうやら今が好機と見て対戦を挑んで来た様だ。
「良いですよ。遣りましょうか?」
ハーリーはハーリーでこの機会に仲良く出来ればと、その対戦を受ける。
二刀流対薙刀。対戦トトカルチョも大いに盛り上がり、いよいよ始まる。いざ尋常に勝負の掛け声で試合開始。
すみれは余裕の笑いを浮べながら、突き、払い、切り上げ、振り下ろす。こちらを舐めてるのか動きが少々雑になっている。ハーリーはそれを利用し、さくらの時と似た手法で一気に決着を付ける。ハーリーの勝利だ。
当然の様に勝つと思っていたすみれは負けた事が信じられず半ば茫然とし、それをハッキリと認識するとハーリーをキッと睨みながら、
「不本意ですわ! こんな事こんな事………」
ますますこじれた様な気がするのは、恐らくハーリーの気のせいでは無いだろう…。思いっきり裏目に出た様だ。
(いつか分かってくれますよ、マスター。きっと何かきっかけがあれば……)
鳳燐の励ましに、気を取り直すハーリー。
不意に外野が目に入る。そう言えばトトカルチョをしていたな、と思いそちらに目をやる。何やら中心で忙しく動いてる人物がいる様だ。恐らくこの賭けの胴元なのだろうが……
………椿さん?
そこで一体何を…と思ったが、口に出すのは止めておいた。
何と答えるのか興味はあるが、ちょっと答えを聞くのが怖いハーリーだった。
そんなこんなで公演の日が何日か続き、騒がしく忙しい日が何日か経った。
何故か幽祢の襲来も無く中々に楽しい日が続いているある日の事。
それは突然遣って来た。
遠くから響いて来る爆音に、思わず窓から外を見るハーリー。遠くてよく分からないが、どうやら町が燃えている様だ。
そして突然劇場に響く警報。一体何が?とハーリーが思っていると、鳳燐が話し掛けてくる。
(マスター、マスター! 何だかとっても嫌な気が、どす黒い邪悪な何かをあの燃えている方から感じるんですけど)
(つまりあそこに何か尋常じゃないモノが居るって事?)
(恐らく)
(判った。行こう鳳燐! 見て見ぬ振りなんてのは、性に合わないからね)
そう言うが早いか、支配人室に駆けるハーリー。双剣は未だあそこに預けたままなのだ。
勢いよく部屋に飛び込み双剣を探す。無人の支配人の机の上に置かれているのを見付けると、引っつかみ廊下に駆け出す。そして燃えている方に一番近い窓から外に飛び出し、家々の屋根を駆けながら現場に向かう。
それ程時間も掛からず着いたその場にあったのは、地獄だった…。
殺され、壊され、破壊された建物や人々の死体。老若男女有無機物の区別無く、ただただ全てを壊していく穢れに満ち鎧われた巨体。無慈悲に、無意識にただ壊していくその様に、空寒いものを感じる。そして壊され燃えていく町々の方々から、苦しみもがく声や怨嗟の声、悲鳴や壊れた者達の声が上がり、辺り一帯を覆い、悲惨さをより一層際立たせていた。
呆然とその光景を目にし、双剣を握る握力がギリギリと音を立てながら増していく。
赦せない。赦す訳にはいかない! 何の為かは知らない。何ゆえにかも判らない。しかしこんなモノを見せた者に、それなりの償いはして貰う。それで赦すとは思えないが。それでも理不尽に無くなって行く多くの命を思えばまだ足りない!
そう思うハーリーの近くで悲鳴が上がる。刃を振り上げた巨体が目の前の腰を抜かした女性を潰そうとしている。思うよりも早く体が動いた。宙を駆け一刀の元にその巨体を切り伏せる。その速さは風の如し。ハーリーはその勢いのまま次の目標を見定めると、速度を変えぬまま斬り捨て駆け抜ける。一体にかけるのはまさに一瞬。この辺スローモーションでも無いと確認すら出来ない。
そして縦横無尽に駆け抜け次々に目標を斬り捨てて行く。時には壁を、時には空中を、文字通り駆け行き切り伏せる。
そう! これこそハーリーの真骨頂!! 空間支配を操れるハーリーに、駆け行けぬ道など在りはしない!!!
壁だろうが天井だろうが空中だろうが、空間支配で重力を操り足場を創り、全てを道とし駆け抜ける!
そして一所に集まっていた巨体の集団を見付けると、その中心に向かい飛び、声をあげながら輝く双剣を地面に突き立てる!
「橙の技 重滅波狂乱!」
するとハーリーを起点とし、波紋が広がる様に巨体達が次々に押し潰されて行く。数秒後に残っていたのは死屍累々と押し潰された巨体の残骸の群れだった。
双剣を抜き息を吐くハーリーに、唐突に声が掛けられる。
「二十体以上いた脇侍をたったの一撃で全て壊すか。中々の力だな貴様」
そう声を掛けて来たのは、空中に浮かんび、ニヒルな邪笑を浮べた男だった。
「…貴方ですね。こいつ等を操っていた親玉は?」
「その通り。我が名は葵 叉丹。黒之巣会四天王の一人、黒き叉丹。覚えて置くがいい」
一方その頃、こちらは町の別の場所、
『帝國華撃団参上!!』
「…って、あら? 何か出現してた脇侍が、もう倒されてるぜ、隊長?」
「本当ですわ。辺り一帯脇侍の残骸だらけ。一体どうなってますの?」
「こりゃもしかして、みんな一撃で遣られとるんちゃうか? 自壊したのを除けば傷は一つだけやで」
「うそ?! これぜぇ〜んぶ一撃でやっつけちゃってるの?」
疑問の声を上げるカンナとすみれ。驚きの声を上げる紅蘭とアイリス。そこにマリアが慌てた声で
「隊長、みんな! ちょっとこっちに来てみて、早く!」
「どうしたマリア! 一体何があったんだ?!」
マリアの焦った声に一同急いでそちらに向かう。そして到着し一同がそこで見たのは、何十という脇侍の残骸の中心で、空中に浮かぶ葵 叉丹と話している、両手に双剣を持ったハーリーだった。
「あれってハーリーさん? 一体あそこで何を…?」
さくらの呟いた、恐らく全員が抱いていた疑問は、目の前で交わされているハーリーと叉丹との会話で解けた。
「では、どうあっても手は貸せぬと? 惜しい、実に惜しいな。数十体の脇侍を一撃で屠ったその力、まさに我らに相応しいものを……」
「あんな光景を見せたお前なんかに、僕がどうこうなると思ったか? 貴方にはここで去んで貰います! これ以上の悲劇を広げぬ為に!!」
「面白い! 出来るつもりか、貴様に!! おっと、その前に邪魔されても困る、こいつ等と遊んでいろ帝國華撃団!」
そう言って叉丹が指を鳴らすと、脇侍の残骸が寄り集まり、通常よりも2、3倍はあろうかという脇侍が十数体出現し花組の面々を襲いだす。
「さあ、遊んでやるぞ少年! 精々楽しませて見せろ!!!」
言うが早いか腰の刀を抜き襲い掛かってくる叉丹。
「僕の名前はマキビ・ハリだ! 冥土に持っていけ!」
ハーリーは一刀で受け一刀で薙ごうとするが、素早く避けられ間合いをあけられる。それを好機と、ハーリーは天蛇剣に炎を纏わせ一気に放つ。
「赤の技 鳳翼千羽!」
振るった炎剣より数百という炎の羽が叉丹に襲いかかる。障壁を張り何とか持ちこたえているが、徐々に押されている様だ。ハーリーはその隙に二撃目の技に入る。
「紺の技 氷龍凍咆波!」
地蛇剣の纏うダイヤモンドダストを叉丹に向けた瞬間、氷龍の幻が現われたかと思うと、全てを凍らす凍気の咆哮を上げる。
ようやく襲い来る炎の羽を防ぎきった所に、今までとはまったく逆性質の凍気の衝撃を受け、完全に防ぐ事が出来ずに影響を受け始める。手や足の先が少しづつ凍り始める叉丹。
「こんな、こんな馬鹿な!? 反撃すらできんなどと、そんな事があってたまるか!!!」
気力を振り絞り、一気に凍気を押さえ込みに掛かる叉丹。しかしハーリーとてそれを黙って見ている筈も無く、止めの一撃に入る。
「黄の技 天刃神霆!」
雷を纏った天蛇剣を、天に向け一気に振り下ろす。すると叉丹の上方の虚空より、無数の雷の刃が現われ叉丹に向けて降り注ぐ。
最初は凍気と一緒に防いでいたが、遂に防ぎきれなくなりその身を雷に焼かれていく叉丹。そして雷刃が一気に降り注ぎ、烈しい光と共に爆裂する。
そして爆裂の後に残っていたのは、雷で全身を焼かれ、片膝を着いた叉丹だった。どうやらまだ生きている様だ。
「おのれ、おのれマキビ・ハリ許さんぞ! 此度はこちらの不覚だったが、次は無いと思え!!」
そう言って空中に舞うと叉丹の姿が溶ける様に消えた。
それを見て逃がした事に舌打ちするハーリー。まあ逃がしたものはしょうがないと諦め、それよりも先程叉丹が出した巨大脇侍が気になり目を向ける。どうやらそちらも終幕のようだ。最後の一体をずんぐりした白い機体が止めを刺す所の様だ。
「狼虎滅却 快刀乱麻!」
一撃の下に切り伏せられ、崩れ落ちる巨体。
「よし! 掃討完了! これでこの辺の敵は全て倒したな」
「後は葵 叉丹だけですが…、あちらも終ったようですよ隊長」
「よしそれじゃあ帝劇に戻るとするか。おっとその前に、玻璃君!」
「え?」
最後の一体が屠られたのを見て、帝国劇場に戻ろうとしていたハーリー。そこに突然見知らぬ白い機体から声を掛けられた上、名前まで呼ばれ驚くハーリー。
そんなハーリーを見て花組の一同が光武から降りてきて、ハーリーを一層驚かす。
「な!? 皆さん一体なんでここに……」
「驚いてるのは俺達の方さ。まさに何で君がここに、って感じだよ、玻璃君」
「そうです。しかも光武も無しであんなに大量の脇侍を倒すなんて、凄いですよハーリーさん!」
「まあ、霊力がありゃ、生身でも脇侍の数体ぐらいは、何とかなるけどよ……」
「あれだけ大量となると桁が違ってますわほんま。光武無しでやったゆうんが信じられませんわ」
「しかもあの葵 叉丹を引かせるなんて並みの腕じゃないわね」
「ほんと、すごいの一言だよハーリーお兄ちゃん!!」
「まあ、生身でこれだけ出来るんですから、わたくしが不覚を取ったのも致し方ありませんわね」
順に大神、さくら、カンナ、紅蘭、マリア、アイリス、すみれとハーリーに感想を言っていく。そうは言われても事情がわからないハーリーは混乱するばかりだ。
「訳が判らないって顔だね玻璃君。まあ、その辺の事情は帰りながらするとして……」
「まだアレを遣ってへんで大神はん」
「ハーリーさんもいる事ですし、一緒に…」
「そうだな! さあ玻璃君、君も一緒に…」
「「「「「「「勝利のポーズ、決めっ!!!」」」」」」」
思わず一緒にポーズを決めてしまうハーリーであった。
帝劇に戻ってきた一同であったが、帰ってくるなりハーリーが支配人室に呼ばれ、何だ何だと花組一同が支配人室の前で聞き耳を立てて中の様子を窺っている。
どうやら先の戦闘での力からその素性や事情なんかを米田とあやめが聞いている様だ。
「ほお。それじゃおめえさんは、別の世界からその何たらって少女と勝負の為に鬼ごっこをしてるってのか?」
「まあ、簡単に言えばそうなりますね」
「そうなの。でもそんな事情があったんじゃ、ここには残れないわね。真備君さえ良ければ帝國華撃団の隊員に、と思ったんだけど……」
「まあ、常に連絡する方法があるんなら、非常勤隊員として虹組なんてのを作っても良いんだけどな?」
「異世界を又に掛けますから、ちょっと無理っぽいですね。それと、今日までどうもお世話になりました。もうそろそろ潮時だと思うんで、行こうと思います」
「そうか、それは残念だな。……そうだ! 好い事思いついたぜ! あやめ君、あいつら全員呼んで来てくれるか?」
「分かりました支配人」
そう言ってあやめが支配人室のドアを開けると、聞き耳を立てていた花組一同が雪崩れ込んで来る。
「なぁ〜にやってんだよおめぇら。さては聞き耳立ててやがったな? まあいい。それなら話しも省けるってもんだ。聞いてた通り、真備がここを出る事になった。それでな、こいつも帝劇で一緒に働いた仲だ。送別会を遣ってやろうじゃねえか。どうだ皆?」
「いいですね遣りましょう、支配人」
「よっしょ! じゃあ明日の公演が終ってから派手に遣るかそれぞれ準備しとけや!」
『了解!』
「もう行っちまうのかハーリー。おめぇとはもうちょっと闘ってみたかったんだがな」
「仕方があらしませんってカンナはん。ハーリー君にはハーリー君の事情っちゅうもんがあるんやしな」
「勝ち逃げというのは気に入りませんが、まあ、仕方御座いませんわね。でも、次に来る時は真っ先に勝負して頂きますわよ? 次は絶対負けません事よ!」
「そうですね。ハーリーさんにはまだ勝ってませんし、次までに負けない様に修行しておきますから、絶対また来てくださいね♪」
「お兄ちゃんが居なくなるのは、ちょっと寂しいけど、絶対また来てくれるよね! アイリス待ってるからね、ハーリーお兄ちゃん♪」
「生きていればまたきっと逢える。再会を楽しみにしているわマキビ君」
「君も色々大変だと思うが、俺達も倒さなきゃいけない敵が居る。お互い全てが終わってまた笑って逢える日が来ると良いな。いや来るようにしてみせる。だからお互い頑張ろう玻璃君」
そう言って明日の準備の為に散っていく一同に、何だか涙が出そうだ。
(何時だったか、こんな感じを受けてた気がする。鳳燐が話してくれたナデシコもこんな感じなのかな?)
思いに耽るハーリーを他所に時は過行き、いよいよ帝劇に居られる最後の日である。
今日が最後だというのに売店に座るハーリー。そんなハーリーにかすみと由里が話し掛けて来た。
「いよいよ今日で最後ね真備君。ちょっと寂しくなっちゃうわね」
「どうせなら千秋楽まで入れたらよかったんだけどねハーリー君。事情が事情だから仕方ないか」
「大丈夫ですよ二人とも。ハーリーってば図太そうですし、きっとまたひょっこり会いにきますよ! それよりハーリーも今日が最後なんだから、舞台袖から公演を見てきたら? 特別に許してあげるから♪」
「へ? 良いんですか椿さん」
「別に良いよね二人とも?」
「そうね。別に構わないと思うけど…」
「そうと決まればレッツラゴ〜よ、舞台袖まで案内してあげる、ハーリー君」
あれよあれよという間に舞台袖まで、由里に連れてこられるハーリー。そこでは出番待ちのさくら達とあやめが居た。
「そう言うことなら良いわよ。見ていきなさいな真備君」
あやめにそう言われ見物する事になったハーリーだったが、やはり彼は不幸の女神に好かれているのか、早々上手くはいかなかった。
公演も佳境と言う所で、それは何の前触れも無く遣ってきた。
ボゴォ〜ン
すごい音と共に劇場の屋根を破り巨大降魔が出現。その背には先日相対した葵 叉丹が乗っていた。
「葵 叉丹! 何でこんな所に! しかもよりにもよってこんな時に……」
「ふははははは!昨日の借りを返しに来たぞマキビ・ハリ! 予定をちょっと繰り上げてこの神威で来て遣ったのだ。ありがたく思えよ♪」
叉丹は絶対の自信があるのか何だか楽しそうだ。
しかし神威って繰り上げで出せる様な物なのか、叉丹よ?
「気にするな。こちらにはこちらの事情がある」
ナレーションに答えやがった! 遂にお前もギャグキャラだな♪
「やかましい! 兎に角これで終わりだと思えマキビ・ハリ!」
叉丹がそう言ってハーリーの方を向いた時、ハーリーは既に技の準備を完了していた。
「さっさと退場しちゃって下さい! 虹舞流魔双剣術 紫の奥義 神魔破妖斬!」
空中に浮かぶ神威に対し空を駆けると、一気に双剣で斬りつける。するとどうした事か神威の全身が塩と化して行き、爆裂する。
その爆裂に巻き込まれ叉丹も吹っ飛ばされて逝く。
「おのれ覚えておれマキビ・ハリ! アイシャル リタ〜ン!!!」
そう言って叉丹は星となった(笑)
「すまねえな真備。叉丹の乱入で送別会がおじゃんになって」
「いえ構いませんよ米田さん。それじゃあ僕は皆さんに挨拶をしてきます。色々お世話になりました」
「良いって事よ! 全てが終わったらまたこいや。その時は花組一同で宴会でもやろうや?」
「はい♪ それではまた何時か!」
そう言うと支配人室を出るハーリー。恐らくサロンに皆いるだろうと、そちらに挨拶に向かう途中、不意に廊下の空間が歪んだ。
その一瞬後幽祢がその姿を現わした。
「ようやく見つけたよ、お兄ちゃん♪ 何だかここ結界が張ってあって、探すのに苦労しちゃったよ」
どうやらこの帝劇自体に結界を張ってあるらしく、その為今まで幽祢がハーリーを見つけられずに来れなかった様だ。
(よりにもよって最後の最後に!? 多分さっきの一撃で結界が壊れちゃったんだな。………どうしよう?(汗))
「さあ、覚悟はいいお兄ちゃん?」
すると突然ハーリーは大声でわざとらしく誤魔化すように、
「あっ! 窓の外に…!!」
(駄目だ! こんなの通じる相手じゃ……)
「え? 何々。何処何処? ねえ何処?」
通じてるよシッカリ(笑)
ハーリーはこっそりと、音も立てづに光の速さで逃げ出した(笑)
「ねえ、一体何が…」
そう言って幽袮が振り向いた時、ハーリーの影も形も無くなっていた。
「……もしかして騙された?」
もしかしなくても騙されてるよ幽祢。
その顔は怒りの為か紅く染まっていく。
「いい度胸してるじゃないお兄ちゃん。この借りは必ず返してあげるからね。覚えておいてよお・に・い・ちゃん!」
極上の笑みを浮べているのに、何故かもの凄く怖い(笑)
そして何故か幽祢が言葉を発するたびに、周りの物が凍り付いてゆく。
もし彼女の笑みを正面から見た者がいたら、まず間違いなく一瞬にして氷の彫像が出来上がった事だろう。まさに文字通りの意味で……。
「次に会うのがとっても楽しみだよ、お兄ちゃん♪」
その後、光の速さで逃げ出したハーリーはサロンに集まっていた大神、さくら、すみれ、カンナ、アイリス、紅蘭、マリア、あやめ、かすみ、由里、椿に先程あった事情を素早く話すと、後ろ髪引かれる思いがしたが、最後の挨拶をし、早速別世界へと駆けた。
「皆さん、色々お世話になりました! それじゃあ、また何時か!」
さて、何はともあれ何とかかんとか今回も逃げ延びたハーリー君。
次回に幽祢がちょっと怖そうだが、兎に角!
勝利のその日まで残り23日!!
あとがき
ちゃお! どうも神薙です。狂駆奏乱華の第弐章第二節をお送りしました!
幽袮「こんにちは♪ 今回はギャグは有ったけど、やっぱりあんまり出番が無かった幽袮でぇ〜す♪」
一応出番を増やしてみたんだが……
幽祢「ん〜、まあね。でも、もうちょっと話しの筋に関ってきたいんだけどな」
善処さして頂きます。
幽祢「それにしても今回はやけに遅かったね? 何やってたの?」
うっ! 済みません。TV版しか知らないのに無謀にもサクラ大戦何ぞ入れようとした私が浅はかでした。書き進めるうちに詰まる事詰まる事。何やかんやで1月ぐらいたってました。
幽祢「まあ、挑戦する事は良い事じゃない? 結果が伴なうかは別だけど♪」
それは言わない約束だよ、おとっつあん。
幽祢「少女を捕まえて、おとっつあん? いい度胸してるじゃない♪」
ここは、何でやねん! って返さなきゃな幽祢? 君もギャグ化が進んでる事だし……
幽祢「…バカばっか」
うっ! それは確かに通じるが……。まいっか。取り合えず次はもっと早くお届けするように頑張りますので、感想なんかをよろしくお願いします。
幽祢「それでは次回、再見♪」
代理人の感想
う〜む、彼女を絡めるのはかなり難しそうですね・・・・
まぁ結構ノリはいいみたいだからそこらへんをどうにかすれば(笑)。
しかし、叉丹・・・・ギャグキャラが似合いすぎる(笑)。