『時の流れに
of ハーリー列伝』
Another Story
狂駆奏乱華
第弐章
「巡り誘うは無限時空…」
第三節
「ムーンリット ノクターン」
木星と地球、この両者で行われた不毛な戦争は一人の英雄の活躍によって終結を迎えた。
……其の名は、テンカワ・アキト。またの名を『漆黒の戦神』…。
これは彼が不特定多数の女性を妻に迎え、数年の時が経過した頃のお話……。
前回居心地のいい劇場で、労働に勤しんでいたハーリー君。
何とか巨悪(笑)を討ち、迫る幽祢を誤魔化して、また次の世界へと旅立ちましたが………
はてさて、次の世界は如何なる所か……。
それは唐突に始まろうとしていた。誰も意識せぬまま。しかしそれを感知できる者にはあからさまなほど解り易く。
分からぬ者には変わらぬ一夜。感じ踏み込んだ者には長き長き一夜となる。
それは夢か現か、現実それとも幻実…………
そして今、閉じようとするその世界に身を投じる者が2人……いや意識せぬまま飛び込んだ者がもう1人……いや2人いる様だが、余り変わりは無いだろう…。
此れよりこの夜を死配する宴には何の変わりも無いのだから……
より宴を盛り上げてくれる事を祈ろう。偶然を紡いだ運命の女神に………。
な〜〜んちゃって♪
それは唐突な目覚めだった。しかしそれは必然であり、自分の中に流れる二つの血の一方がそれを告げている。
「父上…。貴方はまた……」
そう言うと彼は旅立った。夜霧立ち込める妖しの夜へ……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
前回急いでる事もあり、勢い良く突っ込んだハーリーは勢いよく飛び出し、今回も宙を舞っていた。
しかし今回は前回と違い運良く外だ。それ程被害は……と思っていたら、墜落射線上に中世の城の様な建物が。
ハーリーはそのままフィールドを張る間も無く、城に突っ込んだ。
「痛たたたた」
当然の様に無傷のハーリー。石造りの城の壁だった筈だが……。フィールド無しで破壊してるし。
「何かこの前からこんなんばっかだな……。さて、それよりもここは何処だろう?」
取り合えず辺りを観察してみるハーリー。
どうやら結構シッカリした造りの城の様だ。ハーリーにその辺の詳しい知識がある筈無いので、それ程詳細な事は分からないが。
「不味いかな。こんな立派な城の外壁をぶっ壊しちゃって。どうしよう……」
ハーリーがそんな事で悩んでいると、目の端に何か映る。
「ん? 何だ?」
そこに在ったのは古式の銃を持つ三体の骸骨。ハッキリ言って、インテリアにしては悪趣味すぎる。
ハーリーがそう思い、骸骨に近づいた時、突然一体が古式の火縄銃を撃って来た。
「うわぁ〜!」
突然動き出した骸骨に驚きの声を上げながら、何とか弾を避けるハーリー。そこへ別の一体がまた火縄銃をぶっ放す。その間に先程撃った骸骨が弾込めをし、三体目が火縄銃を撃って来る。
三体がローテーションを組んで途切れる事無く撃ち続けて来る。
「クソ、何なんだあの骸骨は?! って言うか、何で火縄銃で、何で骸骨が撃って来るんだ?」
倒そうにも、タイミングを合わせて撃って来るので中々近づけない。
「火鳥閃!」
何とか避けながら、天蛇剣を抜き打ち、炎の鳥を放つ。その一撃で三体を見事砕く。
「何だって骸骨が動いてるんだ? しかも何なんだろう、この何とも言えない空気は……」
ハーリーがそう言った瞬間、城内か城外かは分からないが、兎に角何かが変わった事を感じた。先程の空気も濃くなり、ザワザワとした何かを感じる。
その時炎が舞い唐突に鳳燐とラプラスが現われる。
「ヤッパリ。凄い濃度の力と瘴気が満ちてますよ、ここ」
「しかもじゃ、坊も先程感じたじゃろう? どうやら誰かがこの城に強力な結界を張ったようじゃ。その証拠にホレ」
ラプラスが指差したのは先程入って来た城の壁なのだが、穴が開いていた筈なのに、今は奇麗に塞がれている。
「え?! 何で、さっきまで穴が開いてたのに?」
「どうも、空間を歪められた跡もありやがる。この結界を張った奴を何とかしないと、この城から出れんな・・・」
「そんな……。こんな時に追い付かれたりしたら……」
「それは大丈夫じゃろう。この結界、かなり強力じゃから外部からの干渉は無理じゃ。それにこれだけ強力なら気配も探ってこれんじゃろうて。その辺は安心じゃな坊! な〜はっはっはっはっはっはっ!!!」
「本当ですか、ラプラスさん? この前もそう言って無かったですか?」
ラプラスの言葉に疑問の眼差しを向ける鳳燐。前科があるだけに、下手に言い返すことが出来ない。
「兎に角、この城の探索をしよう。何時までもここに居る訳にも行かないしね」
「そうですね。それじゃあ早速、お城を探検ですね、マスター♪」
楽しそうにハーリーに笑顔を向ける鳳燐に、ふぅ〜と息を吐き、一旦姿を消すラプラス。追求されない為に戻った様だ。
「それじゃあ、行こうか鳳燐」
あてどなく城内を彷徨う二人。何やらこの城、訳の分からないモノが沢山いる様だ。上に登れば変な首が飛んでたし、鎧は襲って来るし、巨大頭蓋骨が歯を鳴らしながら迫って来るし……。図書室見たいな所では突然本が襲って来るし…。しかも本のクセして剣や槍なんかが生えてくるのはどう言う了見だろうか?
しかも異様に広い! 城の中の筈なのだが、外に居るのではと思うほどに広い。
そして現在、変な草が生えてくる長い廊下を、草を刈りながら進んでいた。この草、燃やすより刈った方が効率が良いらしい。なにせ刈ると消えるし。謎な草だ。
どうにか廊下を抜けた二人。扉を開け次に進んだ所は、アンティークな柱時計が並ぶ、「時の回廊」と呼ばれる廊下だった。
カチ、コチ、カチ、コチ、カチ、コチ……
ズラリと並んだ柱時計の全てが、同じタイミングで時を刻んでいる為、やけに音が大きく、そして廊下に反響して独特の深みのある雰囲気を醸し出している。
そんな空間を進む二人の目に奇妙なものが映った。
背はハーリーの下半身ぐらいの、背の低い人らしい者が背を向けて立っている。それを疑問に思ったハーリーが思わずその疑問を口にしてしまう。
「何やってるんだろう、こんな所で?」
ハーリーがそう小さく呟いた瞬間、目の前のそいつは驚くべき事にハーリーの身長の倍ほどの高さまでジャンプして襲い掛かってきた! しかもその手には何時の間に持ったのか、そいつの身長ぐらいありそうな巨大な鋏が握られていた。
「うわ!!」
突然の襲撃に何とか避けるのに成功したハーリーは、咄嗟に双剣を構える。そしてハーリーの見たものは、先程襲撃してきた者の後ろに見える、そいつの同類の集団だった。
「な?!」
驚きの声を上げるハーリー。と同時に、飛び上がり襲い掛かって来る集団。
ハッキリ言ってかなり怖い。
次々に跳び掛かって来る集団を何とか捌き、逃走に入るハーリー。
「何なんだ、あのノミみたいなのの集団は!?」
「あのジャンプ力、まさにノミですね。これからはノミ男と呼びましょうマスター!」
「いや、そう言う問題じゃないんだけどね。鳳燐?」
ズバリご名答! そいつの正式名を言い当てた鳳燐であった!
それはともかく、取り合えず急いでここを抜けることにした二人。次の部屋への扉を見つけると、有無を言わさず飛び込み素早く閉める。
「何とか撒けたね……」
扉を背に一息つくハーリー。その時、その部屋の奥から人の話し声が聴こえて来た。この城に入って、初めてまともに聞く人の会話に、思わずそちらに向かうハーリー。
そこで話していたのは、一言で言えば金髪の美少女と漆黒の貴公子である。
「……それじゃ、前の知識は役にたたないわけか …」
「そう言う事だ……」
「良かった! やっとまともな人に巡り会えた!」
「「?!」」
突然声を掛けたハーリーに、素早く身構える少女と貴公子。が、ハーリーの姿を見て少し警戒を弛める。
「驚いた。私達以外にもこの城に入ってた人がいたのね……。でもよく生き残れたわね」
「………」
何気に酷い事をサラッと言う少女(本人は気付いてない様だが…)と、特に目立った反応を示さず沈黙している貴公子。
「あの〜、ちょっと聞いて良いですか? ここって何処だかご存知ありません? 何だかこの城、訳の判らないモノが沢山いるんで、疑問に思ってたんですよ」
鳳燐のその言葉に激しく驚く少女と軽く驚く貴公子。
「貴方達、ここが何処だか知らずに入ったの?! って言うかどうやって入った訳!? 普通の人は入らないって言うか入れない筈よ?」
「……ここはヨーロッパ・ルーマニアの何処かに存在する異界の者共の城、別名『悪魔城』と呼ばれるドラキュラ伯爵の城だ。…不運だったな。一度閉じたこの城は、そう簡単には出る事が出来ない…」
「えぇ〜! ここがアノ有名なドラキュラ伯爵の城なんですか?! へぇ〜、凄いとこだったんですね。僕始めて見ました…」
って言うか、何故ハーリーがドラキュラ伯爵の事なんかを知ってるんだろうか? 記憶喪失になっても、そういった知識はシッカリ忘れていないらしい
それ以前にこの城を見れてそんな事を言えるほど特異な奴が、一体どれほどいるだろうか?
そんなハーリーの様子に少女が突っ掛かる。
「変わってるって言うか、変よ貴方! ここに来る人は、普通もっと覚悟を決めて来るものなのよ! その反応は可笑しいわよ?」
「何言ってますか、貴女! マスターを変呼ばわりしないで下さい!! 貴女なんか、貴女なんか、…えぇと、貴女! 何て名前なんですか!」
鳳燐のセリフに、思わずズルッとこける少女。
「私の名前はマリア・ラーネットよ! 貴女こそ何て名前なのよ!?」
「私は鳳燐です!」
「あ、マキビ・ハリです。ハーリーって呼んで下さい♪」
「…アルカードだ」
「「……」」
少女達のついでに名乗る二人に、思わず重い沈黙に入る少女達。その時丁度、一同の横にある大時計が鳴り始めた。
その音にハッとし、正気に戻るマリア。
「そうだ、私にこんな事をしている暇は無いのよ! 早くリヒターを見つけないと…。それじゃ、私はもう行くわ。何か分かったら教えて頂戴ね、アルカード♪」
そう言うとマリアは、ハーリーと鳳燐をモノの見事に無視して、さっさと行ってしまった。
「何なんですか、何なんですかアノ人は!? 何だかチョットむかつきます!」
無視された事が気に入らないのか、チョッピリ怒る鳳燐。そんな鳳燐を他所に、無視された事を然程気にせず、ハーリーはアルカードに話し掛けていた。
「それじゃ、あのマリアさんとは偶然?」
「ああ…」
「で? アルカードさんは何故ここに?」
「ここの主、ドラキュラ伯爵とは少々縁があってな。それ故にその復活を阻止する為に来た…」
「でも、それって大変なんじゃ…?」
「それでも遣らねばならぬ。母上の為にも……」
アルカードの言葉に色々あるんだろうと察したハーリーは深くは聞かず、どちらにしろここの城主を倒さねば外に出られないので、アルカードに協力する事を提案してみる。
「…それは構わないが。困難を極めると思うが良いのか?」
「ここに居ても状況は変わりませんし、僕達だけで行くよりアルカードさんに協力した方が事が早く動きそうですし、それに僕達こう見えても結構強いですから、お役に立てると思いますよ?」
微笑むハーリーに、普通の人が見ても分からないぐらい僅かに笑みを浮べるアルカード。僅かにとはいえ笑んだのは何時以来だろうか……。
「それでは早速行こうか。グズグズしてもいられないのでな…」
そんな訳で早速先に進むハーリー一行でありました。
結局、ハーリー達が進んでいたのは入り口の方らしかったので、もと来た道を戻る事に相成った。
それはつまり、先程のノミ男がいる時の回廊を戻る訳だが、今度はそれなりに覚悟が出来ていたのと、アルカードもいたので何とか全滅させ、次の廊下へと進んだ。
進んだ先に、さっき刈ったはずの謎な草が生えていたが、気にせず刈りながら進むハーリー達。その内ふとハーリーがある事に気付く。
「あの、何か見られてるんですけど? アルカードさん何なんですか、あれ? 」
ハーリーの視線の先にあるのは、この廊下にしつらえられた天井近くまである縦長な窓な訳だが、そこからこちらを覗いているのだ、デッカイ目玉が。しかもこちらが移動すると、あちらも窓の外を移動しズットこちらを見続けるのである。
ちょっと…いや、かなり嫌な上に怖い。
「気にするな。害はない…」
「いや、でもずっと付いて来ますし…」
「気にするな。害はない…」
「でも気になるんですけど……」
「気にするな。害はない…」
「あの、でも……」
「気にするな。害はない…」
いつの間にか気がつくと、競歩以上のスピードで歩きながら廊下をゆく一行。邪魔するものは問答無用の微塵切りである。
「アルカードさぁ〜ん!」
「気にするな。害はない…」
そんなこんなで廊下を駆け抜けるアルカード一行であった(笑)
その後も、ハーリーには中々珍しい、珍妙なものが沢山出て来た。
曰く、そっくりさんな悪魔(ドッペルゲンガー)。曰く、下僕を呼ぶ羽の生えた変なの(レッサーデーモン)。曰く、蛇と犬を生やしたお姉ちゃん(スキュラ)。曰く、仮面の妖しい羽を生やした鴉の兄ちゃん(マルファス)等々。
かく言う今も荘厳な礼拝堂を抜け、グリフォンもどき(下半身が獅子ではなく馬だった(ヒポグリフ))と戦いの真っ最中である。
「何か卵産んでますよアレ。しかもすぐに孵ってる!?」
「…任せろ。ソウルスチール!」
アルカードのその一言で、グリフォンもどきや生まれて来た多数の雛、ついでにハーリーからも力が吸い取られる。
「あの〜、何か僕も吸われてるんですけど…。アルカードさん?」
「……すまない。間違えた…」
「ま、間違えたって……(汗)」
「来ますよ、マスター!」
ハーリーとアルカードが漫才をしてる間に、かなりのダメージを負ったグリフォンもどきは最後の攻撃をかまそうと、準備をしていたようだ。
そして鳳燐の一声を合図にハーリー達の方へ最後の特攻を開始した!
「速い! ええい侭よ。火鳥穿!!」
前の火の鳥よりも尖鋭的なフォルムの火鳥が真っ直ぐにグリフォンもどきに翔ける!が、いささか放った間合いが近過ぎた。その為互いがぶつかり合った瞬間、火鳥の爆炎がアルカード達の方にも襲って来た。
アルカードはマントで、ハーリーは双剣を盾のようにして凌ぐ。
ようやく爆炎が収まったのを見て、ハーリーがまともに炎を浴びたアルカードを心配して声をかける。
「大丈夫ですかアルカードさん!!!」
「ああ。どうと言う事はない……」
マントから見せたアルカードの顔は、先程と同じ冷静なもので、火傷一つ無いように見える。いや、実際何処も火傷を負って無い様だ。あれほどの炎に晒されながら…。ハーリーならともかく……。(ヲイ煤Eд・)
「いや〜、怪我が無くて良かったです。咄嗟で加減が……」
「中々やるじゃない♪」
偶然か、わざとか、ハーリーのセリフを遮り、マリア・ラーネット嬢再び登場である!
「ま〜た貴女ですか? 一体何の用なんですか!?」
先程の件でマリアをあまり好意的に取れない鳳燐が、少し棘のある言い方をするが、マリアは一向に気にせず……、いや無視してアルカードに話し出す。
「すごい腕前、私の出番なんて無いみたいね♪」
「何の用だ。そんな事を言いに来たわけではあるまい…」
「って言うか、何だか貴女とっても失礼ですよ!」
「…リヒター・ベルモンド…知ってるわよね?」
鳳燐を確実に無視してアルカードとの会話を続けるマリア。一方鳳燐は、一度ならず二度までも、二度目も無視して三度まで!無視を決め込んだマリアにチョッピリご機嫌斜めの様だ(笑)
「ベルモンド家の者か…」
「彼が1年前から行方不明なの きっとここに来ていると思うわ。見かけたら私にひらへてほひ〜いの……。って、ちょっと何するのよ!!」
ご機嫌斜めな鳳燐は、話しているマリアの後ろから、頬をムニィ〜っと引っ張りマリアの顔を愉快な顔に変える(笑)
それを正面からまともに見たアルカードと、様子を窺っていたハーリーは思わず口元を抑え、体ごとあさっての方に向くと肩を震わせながら何かに耐えている様だ(爆笑)
「べ〜つにぃ〜。大した意味は無いんで気にしなくていいですよ?」
「なぁ?! アンタね……って、そこ! なに二人して肩震わせてんのよ!!」
鳳燐に文句を言おうとしたマリアが、先程からこちらに背を向け、肩を震わす二人を発見した様だ。
「え!? な、何でも無いです! 何でも無いですから気にしなくていいですよ?! ねぇ、アルカードさん!」
ハーリーの求めた同意に、頷く事でしか返事を返せないアルカード。肩を震わせ、必死に何かに耐えている様だ…。
「あ・ん・た・た・ち! ……青龍召喚!」
マリアの身体から突然蒼い輝きが見えたかと思うと、突然青い龍が現われハーリー達3人に襲い掛かる。
「うわぁ〜!!! 全力転進!」
ハーリーがそう叫ぶと、全力で逃走に掛かる3人。
「むわてぇ〜〜〜!!!」
同じく全力で追跡するマリア嬢であった。
この後、全力の追いかけっこが小1時間程続いたそうである。
≫≫一方その頃の城主の間
「…どうやら邪魔なネズミが紛れ込んでいる様だな。面倒事になる前に始末しておくか……」
豪奢な内装のその部屋にしつらえられた玉座に座る男は、そう呟くと音も無く立ち上がり何処かへ向かおうとする。
そこへ男の行動を遮る様に声が掛けられる。
「おじさん、中々面白い事考えてるみたいだね♪」
男は身体をギクリと震わせ、驚きの表情を浮べながら声のした方に向く。そこに居たのは外見10歳前後の奇妙な服を纏った少女、そう幽祢がそこに居た。
「な?! 一体どうやって! 気配など感じはしなかったぞ!!」
「別にどうでもいいと思うよ、そんな事? ただこの遊びは中々楽しそうだから、私も参加させてもらうねおじさん、ううんおじいさん…かな?」
そのセリフにビクッと身体を震わせる男。その顔はまさに驚愕の一言で占められていた。
『……貴様一体何者だ?』
「別にどうでもいいって、さっき言わなかった? あ!お爺さんだから物覚えが悪いのか♪ なら直接そっちに行って上げようか?」
そう言った幽祢の微笑みを見て、この存在には勝てぬと覚った男は、口惜しげな顔をする。
『何が目的だ?』
「本当に物覚えが悪いね、お爺さん。さっき言ったじゃない、楽しそうな遊びだから私も参加させてもらうって。あ、別にお爺さんの目的に興味は無いから安心していいよ?」
男はその言葉を、《自分の邪魔はしない》という意味に受け取った
『よかろう。好きにするがいい』
こうして事態はますます混迷の様相を取りそうであったが、その事を予感している者はこの時、幽祢ただ1人であった。
「ハァ〜ハァ〜。ようやく撒いたみたいですね」
ようやくマリアから逃げきった一行は、現在闘技場のような所に居た。ハッキリ言ってどうやって来たかは本人達も覚えていないようだ。
「しかし、ここってまだ城の中ですよね? 何でこんな闘技場みたいなものまで在るんだろう?」
「ドラキュラ城は混沌の産物だ…。如何様な姿であれ不思議は無い……」
「そんなもんなんですか。アルカードさん?」
「混沌に形は無い。使う者の意思により如何様にも変わる……。そういう物だと思って置くといい。これに関しては論議しても際限ないし、人の世の知識だけでは完全な理解は不可能だからな…尤も使える者がどれほど居るかは疑問だがな」
アルカードの説明に素直に頷くハーリーと鳳燐。説明もそこそこに、取り合えず先に進む。
ここでもやはり、けったいなものが沢山出てきた。一番印象に残っているのは、体のちぎれた馬にまたがっていきなり走ってくる傍迷惑な騎士と二刀流のスケルトンだろう。スケルトンなのにかなり腕がよかったらしい。
そんなこんなで闘技場の中心らしき場所に着いた時、今まで聞くことが無かったアルカード達以外で始めての人の声が響いた。
「ふっはははははははははは!」
「?! 誰だ!!」
「開け、冥界の門!! 出でよ、我がしもべよ!!」
観客席に挟まった貴賓席のような所にいるその男がそう言うと、下の格子が開き中から何か出てくる。
「この血の匂い… 貴様、まさか!!」
「我が城を汚す 小賢しい蝿を叩き落とせ!! ぬはははははははは」
男はそう言うと席ごと後ろに引き込まれ、闘技場から退場していった。そして後に残ったのはハーリー達と先程召喚されたモノ。牛の化け物(ミノタウロス)と狼の化け物(ウェアウルフ)、それに少女が1人…………は?
現われた者達を見て、一番ギョッとし声を出したのはハーリーだった。
「何でこんな所に居るんですか!っていうか何でそんな所から出てくるんです、幽祢!」
そう、化け物と一緒に出てきたのは、現在ハーリーの鬼ごっこの相手の幽祢であった。
「え〜、何だかお兄ちゃん達楽しそうだったし、私も混ぜて貰おうかなって。何だか面白そうだよね、このアトラクション」
どうやら悪魔城と呼ばれるこの城も、幽祢からすれば面白そうな遊園地のアトラクションと同じらしい。何だか虚しくなってくるのは気のせいだろうか?
「あの〜僕達勝負の真っ最中だったと思うんですけど?」
「う〜ん、じゃあここを出るまで一時中断って事で。どっちにしてもここから出ないと、まともに追いかけっこも出来そうに無いし…。お兄ちゃんもそれでいい?」
「え?! う、うん。別にそれで構わないけど…」
「じゃあ決りだね! それじゃあ早速お客さんがお待ちかねだし、始めようかお兄ちゃん達!」
幽祢のその一言で、先程からもがきながら、その場で止まっていた化け物2匹が弾かれる様に動き出し、ハーリー達に襲い掛かって来る。どうやら話しが終るまで、幽祢が2匹の動きを止めていた様だ。
「事情は後で。やりましょうアルカードさん! 火鳥閃!」
そのセリフに頷くと、アルカードもマントを翻し炎を放つ。
「ヘルファイヤー!」
「私もやっちゃいます! 鳳翼天昇!」
「あは♪ 面白そう、私も私も!
4人ともが炎を放ち、憐れに焼かれる化け物2匹……。 しかし、狼は炎に焼かれ倒せた様だが、牛の方は何とか耐えたようだ。
「へぇ〜。意外に丈夫なんだ。でも、これでお終い♪ 燃えちゃえ♪」
牛に先程よりも烈しい炎をぶつけると、一瞬で燃え上がり何だか香ばしくておいしそう
な匂いが漂ってきた。
そして幽祢は何を思ったか、焼けた牛に近づき、指さしながら、
「……食べる?」
「要りません!」
「・・・遠慮する」
激しく否定するハーリーとアルカード。鳳燐は二人の背中に隠れているようだ。
「そうなんだ…。残念」
苦笑を浮べながらそう言うと、牛が激しく燃え上がり、塵も残さず消却される。
その一瞬の出来事に、改めて幽祢の怖さを実感するハーリー達。しかし幽祢はそんな事は一向に気にせず、きわめて楽しそうに笑顔を向ける。
「さっ、行こ! アトラクションの始まりだよ♪」
幽祢を加えてからの一行は、まさに死闘を演じる挑戦者から、アトラクションを楽しむ冒険者に変わり果ててしまった。今までのシリアスな雰囲気は一体何処に?と聞きたくなる状況になっていた。
幽祢率いる探検隊は、取り合えず片っ端から探索し、宝箱という宝箱を開けまくり、罠という罠をひたすら突破していった。剣魔や妖精・ゴーストといった普通の使い魔から鼻悪魔や半妖精といったちょっとレアな使い魔も全て仲間になったし、地下水脈で渡し守のおっちゃんとも仲良くなった。
懺悔室名物の幽霊牧師と幽霊マダムも見たし(勿論ワインをGet!)、偽牧師と性悪マダムも成敗した。
そう言えば蔵書庫に居たじいちゃん、下の階からジャンプで椅子ごと突き上げると、何故かとても喜びアイテムをくれたりした。あれはまったくもって謎であったと、全員の意見が一致した。
そんなこんなで今一同が居るのは、落ちれば地下水脈へ一気に真っ逆様な縦穴の途中にある通路の中である。
こんな所に通路があるなんて絶対妖しいと、お宝の存在を断固主張して幽祢に率いられて一同やって来た訳である。
「う〜ん。そんなに良いのが無いね。比較的マシなのは、両手剣のクレイモアとムーンストーン位だし…」
「早々貴重品が転がってるわけないですよ。逆に何でこんな所にお食事券なんて物が落ちてるのか、その方が不思議ですけどね……」
この通路に落ちていた物の評価をしながら進む一同。そして不意に通路がT字になり、立ち止まる。
「道は2つ、でも何だかこの通路行き止まりっぽいから、2手に別れてさっさと済ましちゃおうよ、お兄ちゃん。そんな訳で、私とアルちゃんは右に行くから、左はよろしくねお兄ちゃん♪」
幽祢はそう言うと、アルカードを連れてさっさと右側へ行ってしまった。
「それじゃあ僕達も行こうか鳳燐?」
「はい! サクサクッと行っちゃいましょうマスター♪」
元気に答える鳳燐を連れ、左の通路を進むハーリー。そして行き止まりはすぐにやって来た。ほとんど距離も無く、すぐに扉にぶつかった。
「さて、一応調べてみようか?」
ハーリーは独り言っぽく呟きながら扉を開け中に入る。しかし部屋の中にあったのは何やら紫色の大きな棺桶の様な物が一つ、それ以外はまったく何も無い部屋だった。
「拍子抜けしちゃうな。こんな棺桶みたいなの一つしかないなんて……」
「?!駄目ですマスター、それに近づいちゃ!!」
「えっ?」
鳳燐の注意も虚しく、棺桶に触れてしまうハーリー。その瞬間、ハーリーの意識が遠のいて行く。
「マスター!?」
倒れ落ちるハーリーの身体を受け止めるが、既にハーリーの意識は無くなっていた。
≫≫悪夢
ここは何処だろう?
いつか見た気はするが余り思い出したくない気がする……
暗闇ではあるが、そこが豪奢な部屋だというのは何となく分かる。
そして何処に何があるのかも
不意に声を掛けられる。
「そこで……何をしてるんですかハーリー君?」
その声は幽祢の声とよく似ていたが、何となくイントネーションの違いから別人だと判断し、声のした方に向く。そちらには確かベッドが在った筈だ。
「何をしているのか聞いてるんですよハーリー君」
そちらの方を向き、ハーリーは声を失った。
そこに居たのは白き妖精……。
金の瞳を輝かせ、雪の様に白い肌が舞う。
確かに何処かで見た気がするその女性。確かに自分は知っている筈のその女性……。
自然に口から滑り出したのはその女性の名前…
「……ルリさん」
口に出したその名に、何故か涙が頬を伝う。
いつか何処かで夢見た女性。憧れ焦がれた女性。そして自分が…信じた女性……。
しかし現実はいつも残酷だ
「ハッキリ言って貴方は邪魔なんです。消えてくれませんか?」
「な、何を…?」
その口から紡がれるのはハーリーにとって信じられない言葉…いや信じたくない言葉……。
「邪魔だと言ったんです。いい加減付き纏われるのにもウンザリなんです。さっさと死ぬなり消えるなりして下さい。私と旦那様との情事にまで踏み込んで来て何様のつもりですか?」
その言葉で気付く。彼女の身体が上下に揺れているのは何故か。顔が上気しているのは何故か。そして彼女の下に居るのが誰で、何をしているのか………
理解してしまった理解したくなかった。こんな光景二度と見たくなかった。
気が付くとハーリーは絶叫していた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その叫びを引き金にハーリーの身体を炎が迸る。輝く様だったその紅い炎は、ハーリーの叫びと共に少しずつ輝きを失い黒く染まって行く。
「駄目ぇぇ〜! 駄目ですマスター、絶望や憎しみに心を委ねないで!! このままじゃマスターの炎が黒くなっちゃう!! 心を棄てないで、破壊に身を委ねちゃだめぇ! マスター!マスター!! ハーリィーー!!!」
突然現われた鳳燐がそう叫ぶと、鳳燐の身体から白き炎が溢れ出し、その部屋全てを飲み込み、全ての意識が薄れてゆく………。
「……ここは?」
初めに気がついたのはハーリーだった。場所は先程の部屋ではなく広場のような所に変わっていた。
一体何処だろうと周りを見回してみる。最初に目に入ったのはうつ伏せに倒れる鳳燐の姿……
「鳳燐!!!」
急いで近づき抱き起こすハーリー。どうもあまり鳳燐の顔色が良くない。
「鳳燐、鳳燐! 大丈夫? シッカリして!!」
ハーリーが鳳燐を少し揺さぶる。すると鳳燐の目がうっすらと開く。
「…マスター。もう大丈夫なんですか?」
「何言ってるのさ!? 大丈夫じゃないのは鳳燐の方だろ?」
「そんな風に見えます? ちょっと力を使いすぎちゃって疲れただけですよ。少し休んで良いですか、マスター?」
そう言った鳳燐の姿は口調よりも随分弱々しく、いつも元気が爆発しているだけに余計痛々しく感じられた。
「良いに決まってるじゃないか。さあ、早く」
「済みませんマスター。それじゃ失礼しますね…」
儚げな微笑みを浮かべたまま、鳳燐は光になってハーリーの中に戻った。
「一体何が……」
ハーリーが思慮に耽ろうとした時、突然声が響く
「おぉっーーーほっほっほっほっほっ…。随分と舐めた真似をしてくれるじゃない、さっきの小娘。おかげで折角の悪夢が台無しだわ」
そうのたまったのは、露出狂か?と疑いたくなる様な衣装のお姉ちゃんだった。
「折角の悪夢? それじゃさっきのルリさんは…」
「おや? 今ごろ気付いたの? ここまで純粋ならすぐにでも絶望の底に落とせたものを。あの赤毛の小娘の邪魔さえなければ……」
赤毛の小娘…それはつまり鳳燐がこの姉ちゃんの邪魔をしてハーリーを助けてくれたという事
「じゃあ鳳燐が…。だからあんなに弱って……。…僕が、僕がもっとシッカリしてれば! 僕がもっと強ければ、鳳燐があんな事せずに済んだし、あんな目に合わずに済んだのに!! 僕が情けないばっかりに…」
「まあ、いいわ。もう一度ゆっくりと虜にしてあげる…。いらっしゃい坊や…」
露出狂の姉ちゃんはもう一度ハーリーを悪夢で呪縛しようとするが、今度はアッサリとそれを破るハーリー。
「貴女には死すら生ぬるい。覚悟して下さい?」
「ふん! おふざけじゃないよ!! 覚悟するのがどちらか教えてあげるわ!」
そう言って姉ちゃんは背から翼を生やすと空中に飛び上がる。そして翼を一杯に広げると、何本も生えている翼の爪が高速で伸びハーリーを襲う。
「そぉ〜ら、どうしたの坊や。さっきまでの勢いは? でも手加減なんてしないからね。一気にけりを着けて上げる!」
そう言うと空中で分身する姉ちゃん。6体ほどに増えると、その全てが呪いの花びらを撒き散らす。そしてその花びらのことごとくがハーリーを包んだのを見ると一人に戻り、ハーリーに近づいてくる。
「どお? 動けないでしょ? 今貴方の命の全てを吸い尽くして上げるわね。さあ、甘露な夢に堕ちて逝きなさい…」
妖艶な笑みを浮べハーリーに近づく姉ちゃん。不意にハーリーの両手が動き姉ちゃんの腹に双剣が吸い込まれる。
「え?」
まったく自然に行われたその動作に、いまいち何が起こったのか理解してない姉ちゃん。自分の腹に何故こんな物が生えてるのか不思議に思っている様だ。
「…サヨナラお姉さん。久遠の彼方を永遠に彷徨って下さい。虹舞流魔双剣術 深紅の奥義 輪蛇無限葬!」
姉さんの腹に刺さっている双剣を円を描くように斬り抜く。その軌跡は陰陽印を描き、空間が歪んだかと思うとそこから巨大な蛇の頭が現われ姉さんに喰らい付く。
「い、いやぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
そのセリフを最後にお姉さんは蛇と共に、永遠にこの世から消え去った……。
「ねえ、お兄ちゃん大丈夫? 起きてよお兄ちゃん!」
右の通路に行った幽祢達だったが、休憩所で行き止まりだった為少し休んで戻って来たのだが、ハーリー達が遅いので様子を見に来ると、部屋にハーリーと変な姉ちゃんが倒れていたのである。
「…この女、まさかサキュバス」
アルカードが変な姉ちゃんの正体が淫魔サキュバスと気付いた時、幽祢に揺さぶられていたハーリーが目を覚ました。
「…ここは?」
「無事だった様だなハーリー。サキュバスがここに倒れているという事は、夢の中で倒したのだろう?」
「ええ。今頃久遠の彼方を永遠に彷徨ってると思いますよ」
何だかとても疲れた様にそう言うハーリー。それを気にせず、幽祢がハーリーに質問してくる。
「ねえ、お兄ちゃん。お姉ちゃんが居ないみたいだけど如何したの?」
そのセリフにますます暗くなるハーリー。
「ちょっと無理しちゃって、今休んでる所なんだ。心配はいらないと思う……」
「ふぅ〜ん。ま、いっか。それじゃあ先に進もうよお兄ちゃん達!」
ハーリーの暗さに気付いているのかいないのか、幽祢は明るくそう言うとハーリーとアルカードを連れて先に進むのでありました。
そこからは前同様に進んでいったのだが、タイミングが悪い奴というのはいるものである。一同が地下墓地攻略をしている時にそいつは出てきた。
一言で言うならそれは死体球とでも言うのだろうか? アルカード曰く、それは群魔レギオンと呼ばれる多くにして一つなるものらしい。
しかしそれが、命を侮辱している様なその存在が、今のハーリーの逆鱗に触れてしまった様で、そこからは凄まじいの一言だった。剣を一振りするたびに周りの死体が数十浄化され、あっと言う間に本体の骨組みだけにされてしまい、相手が狂った様に撃ってくるレーザーの様なものや、超強力反射ビーム乱れ撃ちも何のその。一撃で滅ぼしてしまった位だ。
倒した後は何とか落ち着き、少しいつものハーリーに戻っていた。どうやら憂さ晴らしにはなった様だ。
そしてまた探検を進めていく一同。色々アイテムを集め、礼拝堂の鐘楼の棘だらけの通路が通れる様になったので、棘をスパイクブレイカーで壊し、格子の扉をハーリーが斬り壊し、魔法が掛かった扉をアイテムで開けるとそこには何故かマリアが居た。
「どう? リヒターは見つかった?」
「って、ちょっと待って下さい! 何でここに貴女が居るんですかマリアさん?! 僕達だってやっと入れたっていうのに、棘も壊さずどうやって入ったんですか??!」
「………些細な事よ! 気にしちゃ駄目!! それよりもどうなのアルカード?」
些細な事なのだろうか? そんな事は気にせず話し始めるアルカード。
「捜している男かどうかは知らんが、ベルモンドの者なら見かけた」
「本当? やっぱり ここに来てたのね…」
「だが、奴は敵として現れた…。しかも、この城の城主として…」
「そんなはず無いわ! でも、もしそれが本当ならきっと訳があるはずよ!! ごめんなさい 私、行かなきゃ」
そう言って走り去ろうとするマリア。そこへいつ出てきたのかラプラスが、何を思ったか唐突にマリアの横を駆け抜ける。すると爆風が巻き起こりマリアのスカートが捲くれ上がり、顔を赤くしながらスカートを押さえキャーッと可愛い声をあげるマリア。そこへ、言わなきゃいいのにラプラスが一言
「うほ〜!モ・ウ・レ・ツ・じゃの〜! ひょ〜ほっほっほっ」
その一言で誰の仕業か悟るマリア。獲物は決まった様だ。
「お爺さん、ぶっ殺す♪ 四聖獣召喚!」
いきなり四聖獣召喚で無敵モードに入るマリア。
「喰らえ! ガーディアンナックル!」
その殺人的な一撃を何とかかわすラプラス。代わりに一撃を受けた壁に拳型の風穴が開く。しかも穴の周りにはヒビ一つ入っていない。かなり凄まじい一撃の様だ…。
「ふふふ♪ 逃がさないわよお爺さん♪♪」
かなり不味い状況の様だ。ここは逃げた方がいいな、と判断したハーリーは何やら指輪の様な物を見ているアルカードに声をかける。
「アルカードさん、何かかなり不味そうですんで、一度引きましょう!」
「ええ〜?! これから面白くなりそうなのに……」
ぶつくさ言っている幽祢を小脇に抱え、アルカードと共にひとまず退避に入るハーリー。急いで部屋を離れる一行の背後から、凄まじい破壊音と老人の悲鳴が聴こえて来た気がするが、ハーリーにもアルカードにも聴こえていない様だ。ただ小脇に抱えられた幽祢だけが残念そうな表情で背後を窺っているのみであった。
「どうじゃ? 少しは元気が出たか、坊?」
あれから何とか事無く逃走に成功したハーリー達は、それからほんの短い時間でマリアを誤魔化し撒いたラプラスと合流。
余裕の表情を見せていたラプラスがハーリーの耳元で囁いたのが先程のセリフである。
どうやらラプラスなりにハーリーの事を心配し、元気付けようとした様だ。まあ、方法に個人的趣味が入っていないとは言い切れないが……。
「え?! いや、まぁ。大変結構なものを……って、何言わせるんですか!!」
「あ、お兄ちゃん。顔がちょっとエッチィ〜よ♪」
「……茹っている様だぞ?」
顔を真っ赤にするハーリーを、一同からかう事からかう事。
「何言ってるんですか!? そう言うアルカードさんはどうなんですか?!」
「ふむ。その時、あの部屋でこの指輪を拾って見ていたので、一切記憶に無い」
真面目な顔で、件の指輪を取り出しながらキッパリと言い切る。
その手には金と銀の二つの指輪が握られていた。
「あれ? 見てたのって1つじゃなかった、アルちゃん?」
「金の方はサキュバスの部屋に落ちていた……」
幽祢の細かい突っ込みに一々答えるアルカード。呼び方の方は特に気にしていない様だ。
「それで、先程気付いたのだが。この二つの指輪、ゴート文字の刻印が施されてある。これをこう合わせると…『対なる我らを大時計に掲げよ』っとなる…」
「大時計?って、もしかして僕達とアルカードさんが初めて会ったあの…」
「ああ。恐らくあそこだろうな……」
思い浮かんだのは、時の回廊の先の大時計の間。
「うわ〜! 何だか本格的♪ 何が起こるか楽しみ〜。早く行ってみよう、お兄ちゃん達♪♪」
何やら謎解きに燃えている幽祢に急かされる様に、大時計の間に急ぐ一行。
ハーリーはヤレヤレと肩を竦め、アルカードはフゥーと溜め息を付き、ラプラスは笑いながら、幽祢に急かされるまま向かうのだった。
取り敢えずこれといった障害も無く大時計の間に着くと、早速二つの指輪を取り出してみる。すると、どこかに収めると思いきや、取り出した瞬間指輪が輝きだし、大時計正面の床が大きな音を立てながら開いて行く。
「こりゃ凄い……」
誰の呟きか、誰とも無くそう言うと、早速先に進む。
呆れた事にエレベーターまで完備したその玄室らしき部屋。重厚な石造りのその部屋の中心で待っていたのは、またもやマリア・ラーネット嬢であった(笑)
……一度ならず二度までも、未踏の筈のこの部屋に、一体どうやって入ったんだろうかこの小娘さんは?
「だからどうやって……! …いや、いいです。言っても理不尽な現実は変わりませんしね……」
思わず虚しい笑いが出るハーリーを他所に、マイペースなアルカードとマリアの話は進んでいる様だ…。
「ごめんなさい…やっぱり貴方の言った通りだった…」
「やはりベルモンドだったか…」
「私には彼の意志だとは思えない…。でも私の力では彼を、リヒターを止める事が出来ない…」
「だが止めねばならぬ…」
「って言うか、アッサリ止められそうな気がするのは僕の気のせいかな?」
「あ、私もそう思う!」
何やら小声で意見交換するハーリーと幽祢。小声とはいえ聴こえている筈だが、今回も敢えて無視するマリア。
「わかってる…。だから…悪いけど…貴方の力、試させてもらうわ!」
言いたい事を全て言うなり、いきなりアルカードに襲い掛かるマリア。アルカードもある程度展開を予想していたのかその攻撃をヒラリとかわす。
そこからはまさに技の応酬であった。マリアが朱雀を召喚すれば、アルカードもテトラスピリットを召喚し、白虎で火炎放射すれば、霧に化けて避け、蝙蝠に即時変身するとウィングスマッシュでマリアを吹き飛ばし、玄武で回復を行えば、ソウルスチールでマリアの体力を削って回復するし、青龍を召喚すれば、インテリジェンスソードを呼び、百なる一の剣で串刺しにするし。
何気にやってる事が酷い気がするぞアルカード。
そして両手の武器を杖と盾に変え、アルカードが使用した瞬間、巨大な剣が2本現われ、マリアを刻もうと回転しながら近づいてくる。
「うわ〜! たんまストップちょっと待ってぇ〜〜!!!」
あんな物に刻まれては堪らないと、思わずストップをかけるマリア。
「? …どうした? まだこれからだぞ?」
これからが楽しくなるとこなのに、といった感じで聞いてくるアルカード。
流石に背中を冷や汗が伝う。
「いえ、もう十分! これならきっと…お願い! リヒターを助けてあげて!!」
「その保証は出来んな…。だが、必ず奴を止めてみせる…」
何やら不穏な発言が相次いでいる様な気がするが、とにかく気を取りなおすマリア、
「それも仕方無い事ね……。そうだ! この眼鏡を持っていって!」
「………ダサいな」
「(怒) 兎に角、これを掛けていれば邪悪な幻を見破る事が出来るわ」
「そうか…。では、奴が死なずにすむよう祈ってるがいい……」
「出来れば生かしといてね?」
「……………………善処する」
返答までの長い間は、一体何なんだろうか(汗)
「それじゃ、話しも決まった事ですし、サクサクっと城主を倒しに行きましょうか、アルカードさん?」
この人達に任せて本当に大丈夫だろうか?と一抹の不安を覚えるマリアであったが、既に時は遅いのであった(笑)
目的地が決まれば後は素早いハーリー達。途中階段が無かったりしたが、障害にすらならなかった。なにせこのメンバーだし…。
そうして一行は、一気に城主の間まで駆け上がって行ったのである。
「ようやく到着ですね。それじゃ早速入りましょうか?」
城主の間の扉を開き中に入る一同を、渋めの男の声が出迎える。
「待ちかねたぞ…」
そこにいたのは玉座に座る、あの闘技場で見た男である。
「やはりお前か…答えろ! なぜベルモンドがドラキュラ復活をたくらむ」
「伯爵は100年に一度しか蘇らん…そして俺の役目は終わった…。だが!俺の血が戦いを求めている!奴さえ復活せれば戦いは、永遠に続くのだ!!」
「その考えが己自身の物ならば、それも良かろう…」
「それって、あの人が操られているって事ですか?」
「ああ。この眼鏡を通すと、あの男の上空に玉の様な物が見える。恐らくあれで操っているのだろう…」
「ふ〜ん。つまり、あの球を壊せば良いの?」
どうやら幽祢には眼鏡が無くても、上空に浮かぶ不思議球が見えている様だ。
そして不意に唇を指で拭い、その指で切払う様な動作をすると、突然不思議球が真っ二つに割れた!
『馬鹿な! たったの一撃で?! おのれ小娘!!! だが、まだ終わらぬ!! 伯爵様の復活は目の前なのだ… ふっはははははは』
しわがれた老人の声が聴こえ、消えると同時に城の外で異変が起こっていた。悪魔城の上空に逆さになったもう一つの悪魔城が現われたのである。
一方ハーリー達の方は、何故かナイスタイミングで現れたマリアが加わっていた。外でタイミングを計っていたのだろうか、この嬢ちゃん?
「俺とした事が、くそぅ! 何て事だ…」
「ありがとう、アルカード…。リヒターを助けてくれて…」
「アルカード!? まさか! 我が祖先ラルフとともにドラキュラを倒した…」
「別に助けてはいないんだが…。そんな事はどうでもいい、お前を操っていた者はあの城にいるのか?」
あの城とは、先程現われた逆さ城の事だ。
「ああ、そのはずだ…」
「マリア… リヒターを連れて城を出ろ 。後は3人でやる」
「ええ、解ったわ」
「……すまん」
そう言うとマリアとリヒターは立ち去っていった。
「あの2人の手前、ああは言ったが君達はどうする? 今なら結界に綻びが出来ている。脱出は可能だが…?」
「最後まで付き合いますよ、アルカードさん。どうせ乗りかかった船ですし」
「私も私も! やっぱ、こうゆうアトラクションは完全攻略しなきゃね♪」
「………すまない」
「さあ、攻略も後半分です。頑張っていきましょう、アルカードさん!」
それからのハーリー達の快進撃はほとんど嵐である。前の城より確実にパワーアップしている敵が、まったく相手にならないのである。
一体に一撃は勿体無いと、一撃で数体を屠っていく一行。ボスらしき敵も所々で出て来たのだが、3人が集中攻撃をすると、どいつも1分と持たない始末である。ハッキリ言って不甲斐無いの一言である。……いや3人が強過ぎるからだろうか?
そんな訳で一行はかなり御気楽になってたりする。動く墓石(グレイブ)に供えてあるお酒を飲んだり、禁書保管庫のお化け(キュウ)と一緒にラーメンを食べたり、蛸(クレイジーオクトパス)が出たので寿司にしてみたり、魔女の皆さん(アリオルムナス)にケーキをご馳走になったり、腐敗中の巨大な死体(ベルゼブブ)に毛が薄くなったと相談されて突っ込みを入れたり、魔女っ娘のまーちゃん(サウジーネ)と猫談議で盛り上がり、いつでも呼んでね、っと名刺代わりの召喚カードを貰ったり。
いいのか?こんな御気楽で?
それはともかく、こんな調子ではあるが前の城よりも進行速度は速く、先程腹心の死神を倒しいよいよ本命と対決っと行った具合である。
「それで、何処にいると思います?」
「後行ってないのって、前の大時計の所の地下ぐらいじゃない?」
「ああ。恐らく伯爵は其処に居る…」
「いよいよ大詰めだねお兄ちゃん達。さあ、完全攻略に向けて頑〜張ろう!」
そう言って大時計の間に向かう一行。
そして丁度一行が大時計の間に到着し、その中央に立った時、天井が開きだし玄室への道が開かれた。
「さぁ〜て、行こうか?」
ハーリーがボソリと呟き、3人は玄室の中へと飛び込んだ。
そして其処に居たのは、変な球に入った爺さんが1人……。
『よくぞここまで来られた! さすがは我が主の御子息よ…』
「貴様がシャフトか…」
『そして小娘! よくも約定を違え邪魔をしてくれたな』
爺さんの恨みの視線が幽祢に叩きつけられる。一方幽祢は心外だと言いたげな様子で、
「約定って、お爺さんヤッパリ物覚えが悪いね。目的に興味は無いって言ったけど、邪魔しないなんて一言も言ってないでしょ? ね、お爺さん♪」
とことん相手の神経を逆撫でする幽祢。爺さんもブッチ寸前である。
『よくぞほざいた小娘! まずは貴様を最後の贄としてくれるわ!!!』
シャフトの間違いはここで幽祢に喧嘩を売った事と、最初に自分では勝てないと感じたその感覚を忘れていた事であろうか……。
「仕方がないから遊んであげるよ、お爺さん」
その幽祢のセリフが終わらぬ内に、シャフトの周りを漂っていた二つの宝玉が、幽祢に向かい火柱を放つ。
それを余裕の表情で見ている幽祢。
「ダメダメ、せっかちさん♪」
不意にその場から姿が消え、その場を炎が通り過ぎる。
「こっちこっちぃ♪ えいっ♪」
唐突にシャフトの斜め上に現われ、押す様な動作をすると合わせたかの様にふっ飛ぶシャフト。
『馬鹿な!!!』
「バイバイ、お爺さん♪
無様に転がるシャフトに先程城主の間で不思議球を斬った技を放つ。と同時に袈裟懸けに、紅い衝撃で切り裂かれる。
『おぉ、おあぁぁぁぁぁ…?! 伯爵様……』
「しまった!!」
アルカードの声も遅く、シャフトが滅びると同時に玄室の柩に刻まれていた瞳が開き闇が広がる……。奇しくもシャフトの望み通り伯爵は復活してしまった様だ。己を最後の贄にして………。
≫≫闇
「父上……」
まずそう呟いたのはアルカードだった。
「ほう! 誰かと思えば…。久しいな、我が息子よ」
そしてそれに答えたのは復活した張本人。ドラキュラ伯爵その人であった。
「えぇ?! 父上に我が息子って、もしかしてアルカードさんって伯爵さんの?」
「ああ。実の息子だ。出来るなら会いたくはなかったが……」
苦々しげにそう呟くアルカードは、とても痛々しげで……
「あいも変わらず人間どもの味方をしておるのか…。よもや、奴等がお前の母親にした事を、忘れたわけではあるまいな!!」
「忘れられるものか!! だが母は人間への復讐を望んではいなかった…」
叫ぶアルカードは、まるで泣いてる様であり……
「まだそんな世迷言を言うか……まあよい。今度こそ下賎な血を消し去り、我が眷族に加えてやろうぞ!!」
「母の名に掛けて…。ドラキュラ! 再び貴方を倒す!!」
そして悲しき親子は戦闘態勢に入る。
が、そこへ早速幽祢が茶々を入れる。
「あ、シリアス終わった? それじゃあ早速やられちゃってね、オジさん♪ オジさん倒せばこのアトラクションもようやくコンプリートなんだから♪♪」
挑発にも聴こえる幽祢のそのセリフに、しかし伯爵は到って冷静に答えて来た。
「ほぉ! これはお初にお目にかかる、お嬢さん。貴女の様な存在に巡り会うとは、幸運と言うべきですかな?」
どうやら幽祢がどれほどの存在か、感じ取った様だ。
流石に魔王と呼ばれるほどの実力者、と言った所だろうか……?
「へぇ〜。オジさん結構やるんだ♪ でもこの面子じゃ勝てないと思うよ? 私が手を抜いたとしてもね♪♪」
「面白い! それではやって見せて頂こうか!!」
その頃のハーリーは、話に入れなくて、部屋の隅の方で「の」の字を書きながらいじけていた。
「良いんだ僕なんて。どうせないがしろにされる運命なんだ……。どうせどうせ………」
「お兄ちゃんお兄ちゃん。そろそろ始まるから還って来た方がいいよ?」
「え?」
そこへ襲い掛かって来る機動兵器以上のぶっとい腕。
「ぅわあぁぁぁぁぁぁ!」
咄嗟にフィールドを纏うハーリーに弾かれるぶっとい腕。
既に戦闘は始まっている様だ。
「ビックリした〜。いきなり何なんですか……」
そこに居たのは、巨大な腕やら翼やらがオプションとして付いたドラキュラ伯爵その人であった。
「これはまた、凄まじい………追加オプション?」
巨大な腕を振り回し、ボスらしき敵を召喚して潰し(回復らしい)、距離を開けての魔法弾乱舞、近付けば追加オプションに付いてる首が襲ってくる始末。
確かに前までのアルカードだけなら脅威となり得た敵であろうが、今の実力なら楽勝とまでは行かないまでも、倒せない敵では無くなっていた。なんと言っても人外以上が2人もいれば、それ程難しい強敵でもない筈だ。
「二人とも隙をくれ。……決着を着けたい」
「何とか遣ってみます」
「まかせて、アルちゃん♪」
そう言うと巨大な追加オプションに向かって行く二人。ブンブンと襲い来る巨腕を器用に避けながら、斬撃や炎をお見舞いしていく。しかしその程度の小技は殆ど効かないのか、攻撃の勢いは弱まらない。
「それじゃあ、そろそろイクよ♪」
そう言うと幽祢は懐から紙人形の様な物を取り出し、掌に乗せる。
「ふぅ〜。ばいばぁい♪」
幽祢が掌の紙人形を吹き飛ばすと、伯爵の追加オプション付きの身体が紙人形と同じ様に空中へ舞い、同じ様に大地に叩きつけられる。
「チャ〜ンス♪」
これ幸いにとハーリーもチョコット技を放つ。
「……汝を重き縛鎖に繋ぎ止めん。橙の技 重滅縛鎖」
叩きつけられた身体を突然十数倍の重力が襲い、完全に身動きを封じる。
「…………それは少々やり過ぎだが、まあいい。決着を着けましょう父上。これで終わりにさせて貰う!」
そう言うとアルカードは両手の装備を剣に変え、一気に伯爵へ向かい飛び上がる。
「終わりだ、父上! 聖魔相克 ロザリオインペール!!」
剣の力を一気に放ち、鮮やかなる十字の軌跡を伯爵に刻み込む!
「ぶわぁぁぁぁぁ…」
「あるべき所に帰れ…。これ以上母を苦しめるな!」
どうやら先程の十字斬が決め手であった様で、追加オプションの腕やら翼やらは消滅していき、伯爵だけが残る……。
「な、なぜだ? なぜ…私はこうも…敗れる…」
「力とは、守る者があってこそ限界を超える事が出来る…。愛する者を失い、愛する事を止めた時…貴方は既に負けていた………」
「そうか…。皮肉なものだ…。力を求めるが故に失ったものが、…私の敗因であるとはな………。アルカードよ…教えてくれ…。リサは、最後になんと言ったのだ…?」
「人間を怨んではいけない…。もし、人間が許されない存在であるなら、自ら滅びの道を歩む。…その世界の住人にあらざる者は手を下すべきではないと……。そして、父上! 貴方を永遠に愛していると………」
「リサ…。私は間違っていたのか……」
その台詞を最後に伯爵が力尽きようとした時、突然天上より光が降り注ぎその場に居た全員を照らし出す。
「貴方は少し間違いを犯してしまったけど、でもまだ償いは出来る筈ですよ」
照らされる光の中、透き通る様な声がそんな優しい言葉をかけてくる。そして光を見つめる伯爵とアルカードは、どちらともなく呟いた。
「これは夢か……?」
光の中に浮かび上がる人影に、茫然と詞を紡ぐ。
「夢でないなら、現実であるのなら、本当にお前なのか、リサ?」
「ええ、アナタ。随分とお久しぶりですね。それにアルカードも……」
「……貴女が母上である筈がない! 母上はあの時死んだはずだ」
自らが紡ぐ言葉でありながら、なんと現実味のない言葉か。いま目の前に居る人が現実だと、そう信じたいと、涙を流さぬ泣き顔でアルカードはそう語っていた。
「確かに私はあの時に死んでしまったけれど、嘆き悲しみ罪を犯してしまうあの人の事が放って置けなくて、少し無理なお願いをして迎えに来たんですよ。アナタの罪を共に償う為に……」
慈愛にみちた表情で伯爵に微笑みかけるリサ。
「リサ…。私は、私は……。………もう一度、共に在ってくれるのか?」
「ええ、アナタ。その為に来たんですもの。償いを成さねばならぬなら、私も共に償いましょう。今度はどんな時も…永遠に……」
そう言い、手を取り合うリサと伯爵。伯爵はいつの間にやら肉体という枷を脱ぎ去った様だ。もっとも、どちらかと言うと物質よりも精神体に近かった為それ程苦労はしなかった様だが。
「すまんなアルカード、我が息子よ。お前には色々と迷惑をかける……」
「また貴方を一人にしてしまいますね…」
「……いえ、いえ。父上、母上。その言葉だけで……、もう一度お逢い出来た事で十分です……」
伯爵とリサの言葉に顔を伏せるアルカード。その二人の言葉だけで、その二人の姿だけで、心が溢れてしまいそうで……。
「出来るなら、もう一度生まれ変わった時には、また親子として在りたいな」
「きっと出来ますわアナタ。願っていれば何時か、思いは叶うものですもの。それがこんなに素敵な願いなら尚更ですわ♪」
「もう一度、父上と母上と在れるなら。もう一度親子として在れるなら。そう願わずにはいられません。出来るならもう一度そう在りたい……」
ポツポツと話すアルカードのセリフに、暖かい微笑みを向ける伯爵とリサ。
その時不意にリサの表情が何かを思い出したかのようなものに変わる。
「あら、大変。もう少し居たかったけど、もう時間の様だわ。ごめんなさいアルカード。もう少しあなたと話したかったのだけれど……」
「十分です母上。お元気で、というのは少し可笑しい気がしますが……。父上、母上、どうかお元気で……」
「アルカードも元気で。こちらに来るのはもう少し後にするのよ?」
「判っております、母上!」
そのセリフと共に微笑みを浮かべるアルカード。その微笑みに優しい笑顔で答える伯爵とリサ。そして二人の姿は笑顔と共に薄れ、光と共に消え去った。
「ようやく逝ったか。これで未練も残るまい。ところでそこの三人。この城はもうすぐ崩れる逃げた方がいいぞ?」
唐突にその場にいなかった、知らない女性の声が掛かり、え?と驚く暇もなく城は突如崩壊を始めた。
「や、やばいです!! アルカードさん、とっとと脱出しましょう!!!」
取り敢えず謎の女性の声は放っといて、急ぎ脱出を図るハーリー一行でありました。
「何とか無事脱出成功!」
崩壊を始め空に還って行く悪魔城をバックに、一息つく一行。そこへ先に脱出していたマリア達が合流してきた。
「アルカード! よかった! 無事だったのね!!! …って、あれ? 何だか1人増えてない?」
マリアの指摘通り、確かに人数が一人増えていた。
何とも言えぬ美しいその容姿と、その身に纏う甲冑から、『戦乙女』と言う言葉がぴったりな女性がそこにいた。
「おっと、そう言えば自己紹介がまだだったな。私の名はオルトリンデ。時空神様に仕えるワルキューレ九姉妹の五女。アルカード殿、此度は貴方をスカウトする為に参った次第。リサ殿をお連れしたのはほんのついでです」
「スカウト? 話しが見えんな……」
「それをこれから説明さして頂く。少々の時間をよろしいかな?」
そのオルトリンデのセリフに、アルカードではなく幽祢が先に答える。
「へぇ〜〜。クロノハイダースのお姉ちゃんが何しに来たのかと思ったら、アルちゃんのスカウトだったんだ。大方リーブラ辺りの勧誘かな? ね、お姉ちゃん?」
その幽祢のセリフに驚きの表情を見せるオルトリンデ。
「な?! 貴方、何故そんな事を知ってるんです! ……? …貴女、どこかで見た顔ね。え〜と……………!!!! 思い出した!!! 第1級全時空指名手配 と-四番
そう言いい、オルトリンデが腕を振ると、いつの間にやらその手に銀に輝く槍が持たれていた。
「ここであったが百年目!です。大人しく縛につきなさい!!」
チャッキっと格好良く槍を構えるオルトリンデ。対してその顔に浮べる笑みにまったく変化の無い幽祢。
「あは♪ どうやら今回はここまでの様だね。結構楽しめたから前回の事はチャラにしてあげるよ、お・に・い・ちゃん♪ アルちゃんもまたね♪ それじゃバイバァ〜イ♪♪♪」
そう言ってバックステップと共に消える幽祢。
「な! まぁてぇ〜! 逃がしはせんぞ!!!」
そう言って追いかけるオルトリンデ。
嵐の様に去った後に残されたのは、茫然とするハーリー、アルカード、マリア、リヒターの4人であった。
「何だか知らないけど、今回は平穏無事に別の世界に行けそうだな。平穏って素晴らしい〜。まあ、それはそれとして。アルカードさん、僕もそろそろ行きますね。色々在りましたけど、結構楽しかったです!」
「こちらこさ、随分と世話になった。礼を言わせてくれ。ありがとう…。あの娘にもそう言っておいてくれ。きっとまた会うのだろう?」
「何だかそう言われると照れちゃいますけど、分かりました。幽祢にもそう言っときますね。本当はあんまり会いたくない相手なんですけどね。それよりアルカードさんはこれから如何するんですか?」
「俺の体に流れる呪われた血はこの世界には不要だ…。人目につかぬ方が良いだろうと思っていたのだが、どうやらそうも行かないらしい。話次第だがあの女の話に乗ってみるのも一興かもな……」
苦笑気味に言うアルカードは、何だか楽しそうだ。少し明るくなったのだろうか?
「う〜ん。何だかまた会えそうな気がしますね。まあ、とにかくお元気でアルカードさん! マリアさんとリヒターさんもお元気で」
「そっちこそ元気でね。それと、あの破廉恥な爺さんに借りはきっと返すって言っといてくれる?」
後半、マリアの表情が凄く怖かったのは気のせいだろうか? ラプラス老、一体彼女に何をやったんだろうか? そう言えば帰ってくるのがやたらと早かった様な……
「君も元気でな。縁が有ったらまた会おう」
それぞれの言葉に微笑みを浮かべ、そして行く行く次なる世界。鬼が出るか蛇が出るか、それは誰にも分からない。
「それじゃ!」
さて、平穏無事に次なる世界へ向かったハーリー君。
次なる世界は如何様な所か!
できれば穏便な世界であります様にという、ハーリーの願いは叶うのか?
何はともあれ、勝利のその日まで残り21日!!
あとがき
すいません申し訳無いごめんなさいぃ〜〜〜!!! 狂駆奏乱華の第弐章第三節をお送りしました。お忘れの方、初めての方、ども神薙真紅郎です!
幽袮「……………」
どうした幽祢? 今回はだんまりだな?
幽祢「………お兄ちゃん誰?」
シクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシク
幽祢「冗談! 冗談だってばお兄ちゃん。でも本当にそう思ってる人とかいるんじゃない? 何たって約半年ぶりだもん」
うっ! 確かにな。しかしこの数ヶ月、仕事が忙し過ぎて、書けるのは2、3週間に1日だけ。読むのも書くのもこの1日に掛かってるだけに中々話が進みませんでした。ううぅ〜、ちょっと泣けてくるぜ〜。
幽祢「2、3週間に1日って、それもしかして休みがって意味お兄ちゃん(汗)」
ずばりご名答で御座います。
幽祢「す、凄まじい生活だね?(汗)」
しかも朝から晩まで働いとるからな〜〜正直……。そんな訳でお待たせしていた方々もし居られるのならどうぞ見捨てないでやって下さいね?
幽祢「まあ、それはそれとして。今回は出番いっぱいあったね♪」
おう! リクエストにお答えしてみました。しかしその所為でハーリーの影がちょっと薄いような………。
幽祢「お兄ちゃん、しくじった?」
いや、しくじったという訳では……。いやある意味しくじりなのか? しかし如何しろと……。複線も張らなきゃいけないし………
幽祢「う〜ん、何だか長くなりそうなので今回はここまでだね。次回はいつ頃になるか分からないけど、見捨てないで上げてね♪ それと、カムナビさん感想有難う。レスが出来なくてごめんなさい。なにせ気付いたの10月初めって言ってたし、許してあげてね。それじゃ次は第参章で、再見〜〜〜〜♪」
代理人の感想
よその世界をまぁ、崩壊させまくって・・・・・・・。
まぁ、結果オーライっぽいからいいのか?(爆)
それにしても具体的に描くと非常にエグイですな、ハーリーの回想シーンは(苦笑)。
彼もそのうち完全に記憶を取り戻したりするんでしょうか?