『時の流れに of ハーリー列伝』
Another Story
狂駆奏乱華
第参章
「響きし鐘は誰が為に…」
木星と地球、この両者で行われた不毛な戦争は一人の英雄の活躍によって終結を迎えた。
……其の名は、テンカワ・アキト。またの名を『漆黒の戦神』…。
これは彼が不特定多数の女性を妻に迎え、数年の時が経過した頃のお話……。
前回恐怖の悪魔城をアトラクションよろしく完全攻略したハーリー君
追う側の筈の幽祢が何やら追われて行ってしまい、今回は平穏無事に次の世界へと旅立ちましたが………
はてさて、次の世界は如何なる所か……。
今回は平穏に出発した為、順調な移動の筈だった。いや、ハッキリ言ってそんな事態は起こり得ないはずなのだ。次元間移動などという稀有な事をしている者がそう多い筈もないし、無限に広がる時空世界の広さを考えれば尚の事。
しかしそれは起こり得て仕舞ったのだ。
『ハーリーによる次元間移動のわき見事故!』
ちょうど進行方向がクロスしていた為、ハーリーの真横から相手が衝突してしまったのである。
当然双方とも無事で済む筈も無く、相手側は多人数だったらしく2つに別れ、片方はハーリーと共に錐揉みしながら手近な世界に突っ込み、もう片方はまったく別の方向へと流れて行くのであった。
『注意一秒怪我一生。わき見運転事故の元』
そんな言葉が頭をよぎるハーリーであった(笑)
そこに在るのは壊れ崩れゆく建築物。ショートするオーロラアビジョンの様な物や、負傷者などが沢山転がる客席。
一見荒廃したコロシアムの様なその場所に、まともに在るのはただ吹き荒ぶ風と中心の闘技場の様な所にいる四人のみであった。
そしてそこから何やら言い争う声が聞こえてくる。言い争っているのは、変形巫女服の様な物を着た長髪のお姉ちゃんとイカレタ変形学生服のような物を着た赤髪の兄ちゃんとバンダナに学生服を着た黒髪の兄ちゃんの三人組と蒼い牧師服を着た金髪のおっちゃんだった。
コロシアムに吹き荒ぶ風の為、会話はよく聞き取れないが、牧師のその一言は風が凪いだ為聴こえてくる。
「召されるのですよ。天へ・・・・・」
そのセリフに何か言いたげな三人だったが、それを言う暇はなかった。
なにせ上空から高速接近中の物体が牧師と三人の間に直撃! しかも何故かバウンドして牧師を巻き込み、牧師は「ブベラァ!」と言いながらその物体と共に壁面を破壊し外に。三人組も最初の落下時の爆風で壁面まで吹っ飛ばされてしまっていた。
そして牧師を巻き込んだ物体"其の一"が動き出す。
「痛たたたた。一体さっきの衝撃は何だったんだ? 何か横からぶつかって来た様な……」
そう言って起き上がったのは、勿論ハーリーである。実際ぶつかってから今まで、何がどうなったのかサッパリわかっていない様だ。
「また変な所じゃなけりゃいいんだけど……」
そう言って、ふと自分の足元に目を向けると、そこには血まみれの牧師さんとひび割れた眼鏡を掛けローブのような物を纏った若い男が倒れていた。パッと見、どちらも重症なのはあきらかである。
「はう?!(汗) も、もしかしてこの人達は僕が巻き込んじゃったのかな?(滝汗) ど、ど、ど、ど、どうしよう、どうしよう」
あうあう言いながら、オロオロと狼狽えるハーリー。頭の中を大根を持った混乱の妖精が舞っているのが見えそうなほど混乱している。
(坊、うろたえとってもしょうがないじゃろうが。早く手当てしてやらんと拙いんじゃないのか?)
ラプラスに言われるまでもなく、目の前の重傷者の手当てを早くしなければならないのは明白だ。
(そ、そうですね。でも今は鳳燐が……。僕だけじゃ、どうにも……って考えてても仕方ないですね。取り合えず場所を移しましょう。こんなアスファルトやコンクリートに固められた所じゃなくて、どこか樹や土が沢山ある所に……)
現在回復担当の鳳燐はお休み中である為、手当てなんかはハーリーが行うわけだが、自分の回復にはやぶさかでないハーリーであるが、他人の回復、しかもこんな重傷者が2名もいては、ハーリーだけでは少々手に余る。そこで少しでも回復を精霊達に手伝ってもらおうと、できるだけ自然の多い所に場所を移そうという訳である。
「とにかく時間がないですから、運ぶのとフィールド張るのを手伝って下さいよラプラスさん」
「了解じゃて。そいじゃ、さっさと運んじまうかの、坊?」
所は変わり、森近くの草原。先ほどの場所から一番近い自然豊富な、条件に合う場所に短時間で何とか辿り着いたハーリーは、現在重傷者二名の回復中である。
重傷者の二人だが思ったよりも回復は早く、どうやら手遅れにはならずに済んだ様だ。
「はぁ〜よかった。それにしても、精霊さん達の力を借りているとはいえ、やけに回復が早いような気が…。それとも普通はこんなもんなのかな…?」
何とか両名の回復が終わりホッとするハーリー。
そこに重傷者の片割れだった牧師さんの方からうめきが上がる。どうやら意識が戻ったようだ。
「ここは……。私は一体……、たしかコロシアムにいた筈…」
頭を押さえながら上半身を起こす牧師。それを見ながらさっきの状況をどうやって説明しようか悩むハーリーだったが、結局大体を自分が判る範囲でありのまま説明する事にした様だ。
「あの大丈夫ですか? すいません。その、こっちの不注意で巻き込んじゃったみたいで。回復の方は上手くいったと思うんですが、調子の悪い所とかありますか牧師さん?」
「いえ、特にはありませんが……。先程の傷も全て貴方が?」
「え?! え〜と、まあそういう事になると思います。多分……」
先程の傷と言うのが、どの傷の事なのか判らないハーリーは、取り合えず全て治してあるのでそう答える。そして、掻い摘んで今に至る経緯を簡単に話す。そんなハーリーに牧師はにこりと微笑みを浮べながら。
「ありがとう御座います。実は事が起こる前に、既に私は傷ついておりまして、本当に危ない所だったのです。貴方には感謝の言葉もありません。おっと、そう言えばまだ名乗ってすらいませんでしたね。私の名前はゲーニッツです。よろしく」
「ご丁寧にどうも。僕の名前はマキビ・ハリです。よろしくゲーニッツさん」
「此方こそよろしくマキビ殿」
お互いに名乗りを終え、何やらマッタリとした空気が漂い始めたその時、今だ眼を覚まさずにいたもう1人の眼鏡の重傷者が、一瞬身震いすると、カッと目を見開き、素早く身を起こすと警戒する様に辺りを窺う。
「ここは一体……」
鋭い目付きのその男も、先程のゲーニッツ同様あまり何が起こったのか判ってない様子だ。
「私は確か、我が女神とメルの大魔法によって次元の狭間を吹き飛ばされている最中だった筈ですが……、一体何が…?」
取りあえず自分の今置かれている状況を確認しているこの眼鏡の男。どうやら先程移動中のハーリーの真横から衝突してきたのは彼のようだ。
「あの〜、すみません。多分次元間移動中だった僕と衝突事故を起こしたんだと思います…。それでちょっと怪我をしてらしたんで、ここまで運んで治療をしてたんですけど……」
一応こちらが悪そうなので先に事情を説明し、謝罪を入れておく事を忘れないハーリー。しかも微妙に事実が違っている。
一方、警戒していた為か険しかった男の顔が、ハーリーの話しを聞く内に愕きに変わって行く。
「ちょっと、ちょっと待って下さい! 貴方の話しを信じるなら、つまり次元間移動をしていたと? しかも口調からして、その行為はそれ程難しい事と思っていないように見受けるのですが、どうなのですか?」
いきなりの、男の激しい口調の質問に面食らいながらも何とか答えるハーリー。
「え? えぇ、まあ。逃走の時には毎回使ってますし、それが何か?」
その答えを聞いた男は、次々にハーリーに質問をしてくる。
曰く、どのような方法を使っているのか? 曰く、どれほどの力が必要なのか? 曰く、制御等は如何しているのか、等々それは事細かに聞いて来たが、ハーリーの場合そんな細かい事まで気にして使っている訳ではないので、ほとんどの質問に曖昧にしか答えられないでいると、その男はますます興味深げな瞳でハーリーをしげしげと見入る。
「面白い! 実に面白い素材ですね。それもこんな貴重な事例付きで御目にかかれるとは!」
ハーリーの話しは何やらこの男の好奇心の琴線に思いっきり触れたらしい。その、男の雰囲気に呑まれながらも、取り合えず紹介がまだだったので、何とか強引に話題を反らしてみる。
「あぁ! そう言えば、まだ名前すら名乗ってませんでしたね? 僕の名前はマキビ・ハリって言います。そちらが同じ様に巻き込んでしまった、牧師のゲーニッツさんです」
「これはこれは。私とした事が名乗りが遅れましたね。我が名はレザード・ヴァレス。ちょっとした事故で次元間を連れと一緒に少々吹き飛ばされていたのですが…………………おや?」
名乗りを上げている途中、何かに気付いたのか辺りをキョロキョロと見回すレザード。
「あぁ〜、マキビ・ハリ君と言いましたか? ここに運んで下さったのは貴方の様なので尋ねるのですが、落下した場所の近くに、コレぐらいの背の、玉の様な物を持った、6・7歳位の少女を見ませんでしたか?」
「え? えぇ〜と…………いや、見てないですけど?」
たしか彼らを運ぶ時、その周りには誰も居なかった筈だ。まあ、あれだけ大騒ぎで、外にそれ程野次馬が居なかったのは幸運だろう。何せラプラスの登場シーン何ぞ見られた日には、何と言い訳しようも無いのだから。
「ふむ…。どうやら衝突の時分に、はぐれてしまった様ですね……」
レザードはそれ程困った風も無く言う。むしろ焦ったのはハーリーの方だ。
「す、す、すみません! 僕のせいで、僕のせいで……。い、い、一体どうすれば…………」
そんなハーリーの慌てっぷりに、眼鏡をキランと輝かせ少々苦笑を浮かべながら、
「いえいえ。それ程かしこまって頂かなくても構いませんよ? ただ貴方の所為で幼子が迷子になっているとか、心細さに泣いているかもしれないとか、多分そんな事は無いと思いますので気にして頂かなくても結構ですよ? ただ、迎えには行かなければなりませんので、次元間移動の時に手を貸して下されば助かるのですが、いかがなものですかね?」
特に心配などしていない様な口調で話すレザードの棘としか思えない言葉に、ザクザクと胸を刺されるハーリー。結構堪えている様だ。
「はう(涙) わ、分かりました。その連れの方が見つかるまでお手伝いします」
「そうですか! いや、そうして頂けると実に助かります!」
ハーリーの返事に何やらニヤリと邪笑の様な微笑みを微かに浮べるレザード。しかしハーリーはその笑みに気付いてはいない様だ。
取りあえず2人の話しが一段落したのを見計らい、ゲーニッツがハーリーに話しかける。
「何やらお困りの様ですが、私でお力に成れるのでしたら御手伝い差し上げますが……。いえ、是非ご助力させて頂きたいのです。命を救って頂いた恩も返しておりませんし、何より人を捜すのであれば、捜す人数は多い方が良いと思うのですが……?」
「え!? いや、でも、結構危ない旅になると思うんで、牧師のゲーニッツさんには……」
「いえいえ、心配は御無用です。私はこう見えても結構腕に自信があります。神の御加護のおかげで大抵のつわものには負けたり致しませんよ?」
『神の御加護…』の辺りでザワリと厭な予感を覚え、顔が少々引きつる。
「でもですね……」
どれ程のものかは判らないが、一般人程度のレベルではいざと言う時――幽祢訪問等――に困るので、悩むハーリー。
「論より証拠です。私の力の一端を御見せ致しましょう。そうですね………、あの木が手頃でしょう」
そう言うとゲーニッツは近くにあった結構太い木を指す。
「其処ですか?」
木に向かい言葉と共に指をクイッと上げて見せると、その瞬間木を囲む様に凄まじい烈風が発生し、中心の木を一瞬にして木っ端微塵に吹き飛ばす。
「言い忘れておりましたが私は風使いでして、この程度の事であれば指を動かすだけで十分です。如何です? 足手まといには成らないと思いますが?」
ニヤリとニコリの中間の様な、微妙な笑みを浮べるゲーニッツ。そんなゲーニッツに、どうしようと悩むハーリー。
「是非、是非、是非、お願い出来ませんかね、マキビ殿?」
何やら笑顔の割に、もの凄い迫力を発揮するゲーニッツに、タジタジとしながら、思わず口を滑らすハーリー……。
「わ、分かりました。分かりましたから、そんなに迫らないで下さい……」
迫力に負けての発言だったが、少ししてシマッタと思うものの、あの力がほんの序の口程度なら、何とか成るかなと思い直す。
「協力には感謝します。実は僕、結構厄介な人に狙われてるんです。ですから、もし危ないと思ったら迷わず逃げて下さいね? 僕が何とか時間を稼ぎますから…。絶対にですよ?」
取り合えず、『コレだけは譲れない』といった所を強調し、真剣な態度で伝える。そんなハーリーの態度に感じる物が有ったのか、ゲーニッツが真面目な顔で頷きながら、
「分かりました。最大限希望に添える様努めますので、ご心配無く」
そう改まって言うと、笑顔を見せるゲーニッツ。そんなゲーニッツの態度に、分かってくれたかと、ホッとするハーリー。
「はい! そこの所だけはよろしくお願いしますね♪ あ、何だか一息ついたんで、お腹減って来ちゃいましたね……」
ホッとして緊張の糸が切れた為か、突然鳴き出すハーリーの腹の虫。その様子にクスリと苦笑を浮べるゲーニッツ。
「でわ出前でも取りますか? 私、良い店を知っておりますので奢らせて頂きますよ?」
そう言うとゲーニッツは携帯を取り出し、電話を掛けだす。
「もしもし、私ですが。……そうです。ラーメンを二丁すぐにお願いします。……はい、それでわ……。すぐに来るそうですよ」
そう言い携帯を切るゲーニッツに、ふとした疑問をぶつけてみるハーリー。
「あの〜、ゲーニッツさん。住所を言ってなかった様な気がするんですが、気のせいですか? それに住所を言ってもこんな山の中だし、もっと言えばここが何処か全く判らないんじゃ……」
辺りを窺いながら訊ねてみる。結構人里から離れている為、もし場所を教えたとしてもかなり時間が掛かるる事だろう。いや、来るかどうかも疑問だ。
そんなハーリーにゲーニッツは微笑みながら。
「心配は御無用です。その辺り抜かりはありませんので。………おや、噂をすれば……」
そう言って山中のある一方に目を向けるゲーニッツ。何だろうとそちらに目を向けると、何やら砂煙を上げこちらに向かって来るものが……。
「一体何が……」
それから待つ事数秒、砂煙は山々を駆け抜け、一気にハーリー達の所まで駆けると、もの凄い砂煙を上げ急停止する。
ハーリー達がギョッとしている間に、少しづつ砂煙が晴れて行く。
そして砂煙が晴れ現われたのは、もの凄く奇妙な様相をていしたモノだった。
岡持ち付の出前自転車は、まあ旧式ではあるが広く使われる一般的なタイプの物だ。問題は搭乗している者である。
丈夫と言っていい身体つきに美男と言っても過言でない顔付き。その外見にあまり似合っていない何やらファンシーなエプロンに、これまた違和感バリバリのハートのチョーカーが奇妙にマッチして、可笑しさを醸し出している。
しかし、それ程可笑しい彼だが、ある意味岡持ちの上に立っている少年には敵わないだろう。格好はまあ普通の青を基調にしたカジュアルな物だったが、問題はその体勢だろう。不安定な岡持ちの上だと言うのに片足で、もう片足を蠍の尾の様に持ち上げた奇妙な体勢でいるのだ。しかもこの体勢、停まってからとったものでは無く、走行中からずっとそのままの様なのだ。一体どうやっているのだろうか?
「へい、オロチョンラーメン二丁お待ち!」
「お待ち〜です♪」
呆気にとられるハーリー達。
「意外に早かったですね社。出前はそこのお二人に……」
「まあ、早い安い旨いがモットーだからな。へい、オロチョンラーメン御待ち!」
そう言ってハートのチョーカーの彼、七枷 社とお供のクリスが出前のラーメンをハーリーとレザードに手渡す。
そして手渡されたラーメンをシゲシゲと眺め、食す2人。
「こ、これは……、ちょっと辛いですが……」
「凄く美味しい……」
そう言うと、辛さを楽しみながら喰らい出すハーリーとレザード。かなり美味である様だ。
一方ゲーニッツは、ハーリー達からは少し離れた所で、出前を渡し終えた社とクリスと共に何やら話している様だ。
「そう言う訳で
「しかし、まさかお前さんが負けるとわな。ちょっと驚きだが、しゃ〜ねぇ! 幸いこっちも別の作戦を展開中だからよ! まあ、それが上手く行きゃお前さんの危惧も、杞憂に終わるんだがな?」
「杞憂で終わるならそれに越した事はありませんし、杞憂で無いなら益々力増す事、これ喜ばしい事です。どちらに転ぼうと損はありませんよ」
「成功すれば、ですけどネ♪」
「成功する様、我等が神に祈っていて下さい、社、クリス殿」
社はガハハと豪快に、クリスはニコニコ顔で、ゲーニッツはニヤリと笑いながら話込む。そこへ社の携帯が鳴り出す。着メロは渋く大岡越前の様だ。
「はいもしもし、社だ。どうしたシェルミー? ………ほうほう。それじゃ掛かったんだな? わかった。こっちも出前は完了したからすぐに戻る。………おう、じゃあ後でな。(ピィッ) 悪ぃ! 急用が入っちまったから、俺等は戻るわ! 上手くやれよ?」
「それじゃ頑張って下さい! はい!」
そう言うとスチャッと素早く自転車に搭乗する社とクリス。そして自転車とは思えないスピードに加速し、来た時同様砂煙を上げ、もの凄いスピードで立ち去る出前自転車だった。
「あれ? 出前の人、戻っちゃったんですか? ドンブリどうしよう……」
「置いておけば問題ありません。それよりも、食べ終わったのでしたら、早速ゆきましょう。善は急げと言う言葉もありますしね」
「そうですか…。そうですね! それじゃ早速行きますか♪ じゃあ、取り合えず第一に人探しでいいですかね? あ、でももしこの世界に居たりしたらどうしよう……」
「その心配には及びませんよ、マキビ・ハリ」
眼鏡をクイッと直し妖しくひからせながら、レザードがハーリーに告げる。
「この世界に居ない事は先程確認しました。どうやらこの世界にはそれ程魔法という物が発達していない様ですので、確認するのは容易い事でした。そう言う訳で早速次なる世界に向うとしましょう」
どうやら先程ゲーニッツと話している間に確認を済ましていた様だ。
「そ、そうですか。それじゃ早速行きましょうか? 御二人とも僕の近くに来て下さい。フィールドを張りますので」
レザードとゲーニッツを自分の近くに寄せると、双剣を引き抜き構え一気にX字に空間を切り裂く。空間が割れると同時にフィールドを張るハーリー。
「それじゃ行きます!」
こうして、新たにお供を二人加え次なる世界へ旅立つハーリー君でありました。
「だぁ〜〜〜、どうすんだよアニキ! オイラ達二人だけじゃ、逃げ切れないぜ!!」
「分かってる、分かってるってジム! どうするか今考えてる所だ。だが正直不味いな。航風師のいないこの船が、こんなに性能を落とすとは思わなかったぜ……」
「だから所構わず手を出しまくるなって言っただろう!? 一体何回女で失敗すりゃ気が済むんだい、えぇジーンのアニキ!!!」
「だぁ〜! 悪かった、悪かったって!! だがよ、あの訳の分からん集団が出てこなきゃ、こんな過激な事にはならなかったんだぜ?」
「本当にそう思うのかい、アニキ?」
「当り前だろ? 奴等
「あのね、そもそもアニキが手を出してなけりゃ、こんな事にならなかったって気付いてる? しかも何でオイラまで巻き込まれなきゃいけないのさ? 全部アニキの問題だろ?! 違うってのかい、えぇ、ジーン・スターウィンド!!!」
今現在、彼等――ジーンとジム――は自らの船、
「そうは言うけどね、ジェイムズ君。あの何の同盟だか知らないが、おっかない女の集団に
「ああぁ、もう。アニキってば………。兎に角、今は指定されたポイントまで無事合流しないと。折角助けてくれるって人が居るんだからさ」
「まあ、それも何処まで信用していいものかが問題だがな。もっとも行くアテなんて他に特に無いから行って見るしかないんだけどな……」
「
「その話はすんじゃね! 嫌なもん思い出すだろうが!!!」
二人がそんな話をしていた時である。何やらピシッとひび割れる様な音がしたのは。
「ん? なあジム。今、変な音しなかったか?」
「ん、んん。なんかひび割れたみたいな音がした様な……」
その次の瞬間、ブリッジ前方の空間がガラスの様に割れ、その中から人が降り、スチャッと見事に着地する。
「無事着地! おぉ!今回は完璧な着地だ」
降り立ったのは勿論ハーリー達である。どうやら今回は無事に着地出来た様だ。
「な!? 何なんだお前等?! 今の変な現れ方といい、てめぇらタオ使いか!」
そう言うと、ジーンは素早く腰の『
「ちょっと待って下さい! 僕達は決して怪しい者では………、いや結構怪しいかも知れないですけど、本当に怪しくないですから待って下さい!!」
「やっぱり怪しい訳だな? 自分でそう言ったし…」
「だぁ〜〜、違いますってば!」
「それにその剣も、かなり妖しさ大爆発って感じだな? えぇ、『オタク』? 今忙しいんだよ。手前等みたいな怪しいのの相手してる暇なんざ無いんだぜ? その辺判ってるか、えぇ!『オタク』!!!」
ジーンが気迫を込め、改めて『
その時、突然艦内にアラームが鳴る。ハーリー達には分からなかったが、それは緊急事態を告げるものだった。
「なんだ!? どうしたジム?」
「後方4500に船影を確認! 船籍照合……げげ!奴等だアニキ!! 一体どうやって?! 奴等いきなり現れやがったぜ!? どうすんのさアニキ?」
「まさか!? 何でだ、嫌に早過ぎやしねえか? とにかく全速力で目的のポイントまでかっ飛ばすぜジム!」
「はぁ〜ん(泣) 駄目だってばアニキ、追い着かれちまうよ! やっぱ航風師がいなきゃ………せめてメルがいれば……。どううすんのさアニキ?!」
「泣き言言ってる暇が有るんなら、ミサイルの一発でもぶち込んでやれジム!」
何やらかなり緊迫した事態らしく、ハーリー達は無視された様だ。
「あのぉ〜〜。お困りのようですけど、何か手伝いましょうか?」
「だぁーー!! 見て解らねえのか?! 今忙しいんだよ、手前等の相手をしてる暇なんてねぇんだよ! 判るか、ええオタク! 航風師でないんなら、さっさと何処へなりとも消えな!」
そんなジーンの様子に、思わず質問するハーリー。
「さっきから気になってたんですけど、その航風師って人がいれば助かるんですか? それって一体どんな事をするんです?」
「あぁ〜、つまり風を読んだりして、より早く船を走らすサポートをするんだが、俺達のこの船の場合はそれに加えて人と船の仲立ちをしたりしてだな、ああぁ〜どう言やいいんだ? ジム!」
「ハイハイ。つまり人と機械の仲立ちをして親和性をアップさせて、船の操作性や機動力なんかを上げる訳なんだけど……。この船が特製の上にそういう事が出来る特殊な人がいないと駄目だから、オイラ達今目茶苦茶困ってるんだよね。そう言う訳で用が無いんならとっとと何処か行ってくれると助かるんだけど……」
「………僕ならその航風師って、出来ると思いますけど?」
『何ぃー!!!』
ハーリーの思わぬ一言に、目を剥きながら声をハモらせ叫ぶジーンとジム。
「本当かオタク……いや君! マジに本当に真実か!!! どうなんだ?」
「多分いけると思いますけど…、試してみます?」
「OK! ジム、用意しろ!!」
ジーンがそう言うと、コクピット近くにシリンダーの様な物がせり上がって来ると、その蓋が開く。
「その中に入ってナノマシンでもって接続する訳だが、大丈夫か? メルの奴は裸で入ってやってたが……」
「時間も有りませんし、このままで大丈夫です。早速始めましょう」
「OK! じゃあ早速頼むぜ、えぇっと……そういや名前聞いてなかったが、お前名前は? 俺はジーン・スターウィンド。そっちは相棒のジムだ」
「僕の名前はマキビ・ハリ、ハーリーって呼んでくれて結構です。んでそっちの眼鏡の人がレザードさんで、そちらの牧師さんがゲーニッツさんです。よろしくジーンさん、ジムさん!」
「おう! そいじゃハーリー、早速始めるぜ?」
早速シリンダーの中に入るハーリー
(何とかいけますかね、マクスウェルさん)
(お任せ下されマスター。まさにコレこそ本職ですからな。面目躍如というやつですわい! 全ての情報をIFSを通して処理出来る様に致しました。儂も補助に回りますゆえ大抵の事は大丈夫でしょう)
(それじゃ早速行って見ようか?)
そう心で思った瞬間、この船とのコネクトが始まった。
…接続、…接続、…接続、…接続、…接続、…接続、…接続、…接続、…接続…………
数秒の内に数十の接続が行われ、船と繋がってゆく。
『接続完了しましたよ。ジーンさん?』
「OK、OK、OK!!! それじゃあ早速行って見ようか?」
そう言うと、ヘッドセットから突き出ている、棒状のマイクの様な物を指で弾くと、それは途中で折れ曲がり、先が目に向く様になる。
そして船とのコネクトが始まり、ジーンはハーリーと、船と一体となる…。
「いくぜ!」
そう言った瞬間、今までとは段違いの機動性を持った紅い流星が宇宙を疾走する。
「こりゃすげぇ〜…。下手するとメルより凄いかもな……」
「アニキ、のんきに散歩は出来ねぇみたいだぜ? 前方3000に船影を確認。どっちだと思う?」
「敵ならブッ潰す! それだけの話だろ、ジム? 念の為に腕出しとけ」
「アイヨ!
そう言うと、船の両脇にブットイ腕が生れる。
「前方2000! どうやら味方じゃ無いっポいね」
「おい、そこのあんた等。火器管制とかできるか? 出来るんならそっちの席でやって貰いたいんだが……」
「申し訳無い。私ではお役に立てそうに無い」
申し訳無さそうに言ったのはゲーニッツだ。
「ふぅ〜。致し方ありません。私でしたら多少扱えますので手伝いましょう」
そう言って席に着いたのは以外にもレザードだった。ジーンも余り期待して言った訳ではないのだが、正直そう言われて驚いている様だ。
「本当に扱えるのか、アンタ?」
「フム。大体判りましたので、任せて貰って構いませんよ?」
「前方1000! 真っ直ぐこっちに来て………な!?目標突然多数増加!? アニキ!」
「どうやら罠っぽいな。仕方がねぇ、船速最大にして一気に抜けるぞ! ギリギリまで引き付けてから一斉射だ」
「了解」
先程のスピードから更に二割速度が増すアウトロースター号。これにより更に相手との距離が縮む。
「更に接近! 600、550、500、450、400、射程到達!」
「
一気にミサイルとレーザーが放たれ、乱れ爆華の花が咲く。
「嘘だろ?! 七割命中!? アニキ!」
「おう! こいつは負けてらんねぇな。何しろこちとらプロなんだからな、ジェイムズ君!」
そう言うと更に加速を掛け、カーゴから巨大な銃を出し、両手の
「そ〜ら、極上の質量弾だ! どんな壁だって無意味だぜ、派手に散りな!!!」
一見無茶苦茶な景気付けの
『凄い……』
「はっはぁ〜! ぬるいぬるい。こちとら
かなり調子付いている様だ。
『随分と自信がお有りの様ですね、ジーン・スターウィンド?』
そこへ何処からかアウトロースター号に通信が入ってくる。
「その声はまさか……」
『そろそろ鬼ごっこにも飽きましたので、御迎えに上がりましたよジーン』
あえかな声と共に画面に現われたのは、宝石の様に艶やかな黒髪をポニーテールで結んだ着物姿の端麗な美女であった。
「た、黄昏の鈴鹿…。何でお前が……」
『まあ、一番身軽なのは私ですからね。それよりも姫様方が御待ちかねですよ。帰って差し上げては如何です?』
「できねぇって判ってて言ってるのか、えぇ鈴鹿?」
『それは余り問題ではありませんよジーン。ようは覚悟を決めるかどうかと言う事でしょう?』
『そうゾナそうゾナ! さっさと帰ってくるゾナ、ジーン!』
「な?! 何でエイシャまで居やがる!?」
『決まっているゾナ。ジーンが駄々った時の為の保険ゾナ♪ ちなみに報酬は死ぬ程いっぱいの
耳をピクピクさせながら、嬉しそうに言う獣娘のエイシャ。クタールクタール人だけに丈夫さとその力は折紙付だ。
「喧しい! やれるもんならやってみな! 前方の船は全滅したぜ?」
『それはどうでしょう?』
「……どう言う意味だ鈴鹿?」
『ふふふふ。甘いですよジーン。既にアウトロースター号は
「な?! 何ぃ!!!」
『観念する事ですジーン』
『そうそう。大人しく捕まってしまうゾナ。そうすれば楽になれるゾナ、ジーン』
この後、抵抗を続けるものの、結局ジーン達は捕まってしまうのでありました。
「くそー! 放せエイシャ!」
「そらそら。いい加減覚悟を決めるゾナ」
「そうです。男は諦めが肝心ですよジーン」
「アニキ。もう諦めるしかないって……」
ここはアウトロースター号を捕縛した艦隊の旗艦。結局捕まった一行は、この旗艦に連行され、先程迎えに来た鈴鹿とエイシャによってジーンとジムは連れて行かれてしまった。
「何だか妙な事になっちゃいましたね。これから如何しましょうか?」
「まあ、ここがどういう所で、どんな集団で、何を目的にしているのか。それを知るのが第一でしょう」
「如何にも。逃げる事は何時でも容易く出来ますからね」
そんなお気楽げな事を言っているハーリー、レザード、ゲーニッツの3人でありますが、現在しっかり捕まっていたりする。まあ、言葉の通り逃げ出そうと思えばいつでも出来るだけの実力は持ち合わせているのであるが…。
「やはり貴方達が一枚噛んでいたんですね。今回はどんな目的で動いてるんですか、ハーリー君?」
捕まって縄を掛けられ引き立てられたハーリー達の背後から、そんな声がかけられる。
しかもその声の主はハーリーを見知っている様な言い方だ。
その声に反応を示したのは2人。ハーリーとレザードだった。ハーリーはビクリと背を振るわせ、レザードは「おや?」という様な顔をしている。
「さっさと話して下さい。組織の幹部である貴方が、『自由への脱出』のメンバーの1人と接触していた事で、我々同盟の邪魔をしようという意志は明らかです。今回の作戦の詳細を聞かせて貰いますよ?」
話しを続けるその声に、ハーリーの脳裏にフラッシュバックする光景があった。アウトロースター号とは違う、何処かの船の広い艦橋。凛と
(これは何処? 一体何時の……。あれは一体誰……)
頭を駆け巡る、疑問や懐かしさ。前の悪夢でルリの名前と姿は思い出せていたが、他はまったく思い出せずにいた為、なお一層記憶が無い事への焦燥感が高まる。
しかし彼女の顔を見ていると、頭の中にあった記憶を封じる分厚い氷が、少しずつ溶けて行く様な気がする。
「お仕置する時間も勿体無いですから、キリキリ話して下さい」
「あ、ルリさん……」
「まさか貴女とこんな所で再会するとは思いませんでしたね、星野瑠璃? お久しぶりと言うべきですか、貴女がここにいるという事は、あの世界の再構成の時間設定は上手く行ったという事ですね? それで、テンカワ・アキトの治療は成功しましたか? まあ、それだけの時間が経っていればの話しですがね……」
ハーリーがルリに何事か言おうとした時、突然レザードが割って入り、ルリに向って話し出す。どうやらレザードはルリを知っている様だ。
「ちょ?! ちょっと待って下さい! 貴方一体何者です!? 何故私やアキトさんの事を知っているんです!? しかも私が逆行する前の世界のアキトさんの事を、何故知ってるんです?!」
驚きのルリのセリフに、初めて『はて?』と疑問を浮べるレザード。
「私の事を存じ上げないと仰いますか? まったく、全然、見覚えすらありませんか、星野瑠璃?」
「当り前です! 今日始めて会った貴方に、見覚えがある筈ありません!」
「ほう? そういう事ですか。……そういう可能性も無くは無いですが、中々興味深いですね。何処かの時点での
「あの、レザードさん。ルリさんとお知り合いなんですか?」
「いえいえ、そういう訳ではありませんよマキビ・ハリ。私の知っている星野瑠璃と彼女は同一存在ではありますが別人です。ですから彼女とはまったく面識は無いという事です。そういう訳で貴女も別に、先程の発言を気にしなくても構いませんよ星野瑠璃?」
「気にするなと言われても、気になるでしょう普通!?」
「まあ、それでも構いはしませんがね。私には関係ない事ですし」
「な、な、な?!」
レザードの言葉に思わず言葉を無くすルリ。
「さて、それでこれから如何されますか、マキビ・ハリ? どうやら私の用はない様ですので、貴方にお付き合いしますが?」
「あ、そうですか? 済みませんレザードさん」
何やらお気楽な雰囲気のハーリー一行。一方ルリサイドはそんなハーリー達の態度に苛立ちが募っている様だ。
ちなみにルリ以外の同盟のメンバー――フルメンバーには何人か欠いているが――は、先程からゴタゴタしているので状況を見守っていたりしていた。
「難しい話は終わったか? なら早速アキトの居場所を吐いて貰うぜ、ハーリー?」
そう言って一歩前に出たのは赤いパイロットスーツ姿のスバル・リョウコであった。
「どなたでしたっけ?」
いきなりのそのセリフにこけるリョウコ。
「てめぇ〜、ふざけてやがるのか!?」
拳を震わせるリョウコに、少々悩むハーリー。
「え〜と、え〜と。あ、確かスバル・リョウコさんでしたっけ?」
「ったりめぇだろうが! そうやって
「そうは言っても、僕とリョウコさんてそんなに接点無かったんですから、咄嗟に出て来なくても仕方ないと思いますよ?」
「はぁ? 何言ってんだお前? 大丈夫か?」
「そういえば、サブロウタさんの姿が見えませんけど如何したんですか? 確かリョウコさんを追いかけてた様な……」
「何でここでサブの名前が出て来るんだ? あいつは三姫の所に居るに決まってるだろうが! すっ呆けた事言ってないで、さっさとアキトの居場所をゲロしちまいな!」
「え? 三姫って一体誰ですか? それになんで僕がアキトさんの居場所なんか……、……アキト? テンカワ・アキト? ………え?」
ここに来てようやく自分の話が噛み合ってない事に気付くハーリー。
しかも何やら違和感がある。
何故アキトを探す必要がある? アキトはユリカと一緒に屋台を引いている筈……。
いや違う。ユリカを置いて何処かへ旅立った?
何かが違う。根本的に自分は何かを間違えている?
しかしその根本的な事が何なのか分からない。
頭の中で警鐘が鳴っている様だ。その何かを考えると頭痛がする。
どうやら多少の記憶は思い出した様だが、まだ完全に戻っていない様だ。
それならば間違いの説明がつく。
どうやら目の前の、自分が知り得る人々は、自分の失っている記憶を経た人々らしい。
つまり彼女達は未来の人々、もしくは別人と考えてもあながち間違ってはいないだろう。
(取り合えずその事を彼女達に告げるべきだろうか?)そうも考えたが、先程からの発言を鑑みる限り、どうも自分は彼女達に良く思われていないらしい。黙っておいた方が賢明だろうと思い直し、改めて彼女達を観て見る。
取り合えずこの場で自分が知っているのはホシノ・ルリ、スバル・リョウコ位だろうか?
ん? そういえばあそこにいる人は、テレビで見掛けた事がある気がする。そうだ、確かナデシコAのクルーでメグミ・レイナードという人ではなかっただろうか?
後の金髪の人や黒髪の――顔立ちから――姉妹らしき人達には見覚えが無いので、恐らく空白の記憶中に会った人達だろうと予想を付ける。
それと先程言っていた三姫という人も空白の記憶中で出会った人だろう。言葉の端々から予想するに、サブロウタはどうやらその人とくっついたらしいが………
(あのサブロウタさんと一緒になる人か……。どんな人なんだろう? 前はリョウコさんを追い掛けてたから、タイプ的にはあんな感じなのかな?)
などと、
「あくまで惚けようってんなら、力尽くって事になるぜハーリー?」
バキバキと手を鳴らすリョウコ。
「今なら軽いお仕置で済んじゃうかも知れないから、早く話した方がいいよハーリー君」
何やら笑顔に邪悪な気配を纏わすメグミ。
「そうそう、本当に軽〜く……」
そう言っている金髪の人の、背後に回した手に何やら赤い物体が………。
「終わらしちゃうからさ………」
そう言う黒髪の姉妹の妹らしき人の、背後に回した手に何やら巨大なスパナらしき物体が………。
「まあ、どうしても駄目だと言うんなら、こっちも奥の手を出すしかなくなるんだけど、どうする?」
余裕をもってそう言う黒髪の姉妹の姉らしき人。余程自信があるらしい。
そんな感じで同盟各メンバーがハーリーに詰め寄っていると、ちょうどその時、扉が開きここへ入ってくる者が居た。
「ふぅ〜。やっとついた様だな」
そう言い入って来た人物は、ハーリーが一瞬鳳燐と間違えそうになる様な赤い髪に、野生の獣を思わせる鋭い目付き。そして一瞬身体を震わす様な凄まじい気配の主……。
影護 北斗嬢がそこに居た。
「ほう。アキトの手掛かりと言っていたのは、こいつだったのか。で、お前達もう何か聞き出したのか?」
「いえ。まだこれからです。素直に喋れば良し。そうでないならお仕置をしなければいけませんが……」
問いに答えるルリを見、そしてまだ何もしていない同盟一同をざっと見る北斗。
「まだるっこしい。こうすれば早いだろうが!」
言うが早いか拳をハーリーの腹に極めようとする。しかしそれよりも早くその拳を片手で受止めた者がいた。ハーリー……では無く、その斜め後ろに控えていたゲーニッツだ。
「おっと。おいたはいけませんね、お嬢さん。マキビ殿は私の恩人ですので、そうそう故意に傷付けられるなどと、思わない方がよろしいですよ?」
極上の笑みに、慇懃な言葉で言い募るゲーニッツ。
チッと舌打ちしながら素早く一旦下がる北斗。舌打ちしたにしては、やけに不敵な笑みを浮かべているが…。
「あまり本気で無かったとはいえ、涼しい顔で、しかも片手で受け止めるか。お前中々やる様だな。楽しめそうじゃないか!」
嬉しそうに、迫力ある笑みを浮かべる北斗。
「済みませんゲーニッツさん」
「いえいえ。これくらいは、いかほどの事も御座いませんよ。それでいかが致します?」
ハーリーはニコッと笑いながら、任せてくれと手でジェスチャーすると、ゲーニッツの前に出る。
「何処の何方か知りませんけど、イキナリ殴り掛かって来るのはどうかと思いますよ? 危ないですしね」
ハーリーのセリフにふと疑問を感じる北斗。
「ふざけてるのか? それとも惚けてるだけか? まあ、どちらでも構わんがアキトの居場所だけは吐いて貰うぞ?」
鋭い目付きで睨みすえる。そんな北斗の顔を見て、ハーリーがふと思った事を口にしてみる。
「そんなに怖い顔をしないで笑った方が良いと思いますよ? 折角そんなに可愛いんですから……」
その一言に同盟側がざわめく。
「…逝く覚悟はOKなわけだな?」
全身から凄まじい殺気が放たれる。
「え〜と。何か僕、不味い事言いました?」
「丁度良い。この前覚えた技の練習台になって貰おう。
右腕を振りぬき、いきなり真空刃が放たれる。
「な!?」
「如何です!」
驚くハーリーの前に、素早く出たゲーニッツが、かざした手から
「いけませんね、その様な事をなさっては。先程も言った通り、おいたはいけませんよお嬢さん?」
「特殊能力者な訳だな? 上等だ! なら直接攻撃はどうだ!
ハーリーも巻き込む様に、凄まじい乱れ蹴りが放たれる。
「そうはいきません。しゃ!」
こちらもまた凄まじい身のこなしで、蹴りを受け流しながら北斗とすれ違い、すれ違いざまに一発叩き込む。
「く! まさかあの状態からこの俺に一発入れて来るとはな。正直以外だったが………手加減はいらんな?」
ニヤリと笑いながら息を整え、気を治めていく。
「我は無敵なり。
我が一撃は真紅の閃光。
我は阻むもの無き真紅の羅刹。
我が一撃に敵う者無し!」
その一言一言を告げるたびに、北斗の気がみなぎって行く。果たしてこの状態で先程と同じ技を放てば、一体何倍の威力になるか……。それ程迄に気配が強く鋭く変わって行く。
「死殺技
凄まじく、鋭き蹴りの一閃がゲーニッツに襲いかかる。
しかしゲーニッツとて只見ていた訳ではない。その右手に荒れ狂う烈風を纏わせ、必殺の一撃を準備していた!
「終わりです!」
互いが必殺の一撃を持って、相対し交錯する。
衝突の瞬間、凄まじい衝撃が辺りに撒き散らされ、ぶつかった双方はその衝撃の数倍の威力で互いに吹き飛ばされる。
同盟各人も余波で吹き飛ばされている。ただハーリーとレザードだけが元の位置に留まるのみであった。
「ゲーニッツさん?! 大丈夫ですか!?」
「くっ。まさかこれほどの痛手をこうむるとは、正直思っていませんでした」
そう言ってのけるゲーニッツであるが、致命傷ではないが、かなりのダメージを受けている為、先程の様に全力でぶつかる事は出来ないであろう。
「しかし、あちらはそうで無いようですよ、ゲーニッツ殿」
ハーリーと共にゲーニッツの近くまで来ていたレザードが、北斗が吹き飛んだ方を見ながらそう告げる。
「レザードさん、一体どう言う……」
ハーリーが問おうとしたが、北斗が吹き飛んだ方に見える朱金の輝きを見てその理由を悟った。
どうやらこの相手は、相当とんでもない相手の様だ…。
「面白い! 面白いぞ!!! まさかここまで出来る奴が、まだ居たとはな。だから世界は面白い!!」
笑っていた。実に愉しそうに、そして獰猛な獣のそれを含んだ笑みで。
その姿を見れば、彼女が何ゆえ『真紅の羅刹』の
常人ならここで、「化け物か…」とでも呟きそうなものだが、あいにくとここに立っている者で、常人並みの只者は存在していなかった。
つまり、いずれも劣らぬ人外と言う訳である(笑)
「ゲーニッツさん。後は僕がやるんで、休んでて下さい」
「申し訳無い…」
ハーリーは笑顔で答えると、北斗に向かう。
「あ〜、引いて貰う訳にわ……いかないですかね?」
「ふっ、今更だな? ここまで盛り上げたんだ、最後までイカせろよ?」
まんえんの笑みで言われてしまった。
「は、はは(汗) どうしろと? とにかく、止めさせて頂きます」
そう言い双剣を抜くハーリー。剣から来るプレッシャーを感じたか、北斗の表情が微妙に変わる。
「ほう。剣を使うのか? なら俺もこいつを使わせて貰おう…」
おもむろに腰からDFSを抜き、構える。
(え〜と。あれは一体何なんでしょう?)
(ふむ。あそこら辺の空間が歪んでおる様じゃの。どうやら歪曲場を剣状に集束させた物らしいが……。結構厄介そうな代物じゃな。気を付けてかかるんじゃぞ坊)
(分かってますラプラスさん)
「どうした? 来んのならこちらから行くぞ! 剣技
放たれるは、縦横無尽無数の真空刃! 総てを巻き込み切り刻んでハーリーに迫り来る。
「くっ! 緑の技 神風渦殺!」
突き出された天蛇剣を中心に暴風が渦巻き、真空刃を巻き込むと凄まじい乱気流となり、そこら中に嵐が吹き荒れる。
「はははははははは!!! いいぞ! 面白い! さあ、取って置きをくれてやるぞ!!」
そう言う北斗の身体を覆う、朱金の輝きがより一層増し、刃の大きさが増す。
「受けろ、奥義 蛇王双牙斬!」
凄まじいまでの一撃がDFSから放たれ、ハーリーへと向かい迫る。
「深紅の技 滅次元断!」
負けじとハーリーも双剣より深紅の光刃を放つ。光刃は距離を置く毎に薄れて行き、それに反比例して次元に断層を築いて行く。
北斗の放った一撃は次元断層に巻き込まれ、次元の彼方に吸い込まれて行く。そして次元の断層はそれだけでは治まらず、その場に在ったあらゆる物を吸い込んで行く。同盟メンバーや北斗達は何とか手近な物に掴まり
その場に在ったゴミやら、固定していない機器やら、何か青いものやら色々な物が吸い込まれ、ようやく治まる。
「まさかあれを防がれるとはな、思っても見なかったぞ? ますますヤリ甲斐が有る♪」
何やら北斗はウキウキしている様だ。
一方ハーリー側は、
「結構洒落にならない一撃だったな。レザードさん大丈夫ですか?」
「ええ、何とか凌ぎましたよ」
ゲーニッツはと目を巡らすが、姿が見えない。あんな怪我をした身体で一体何処に行ったのだろうか?
ハーリーがゲーニッツの心配をしていたその時、突然唐突にハーリーの体から炎が巻き起こり、凄い勢いで飛び出し、火の鳥となり宙を舞う。
「な、何だ?!」
荘厳華麗なその光景に、驚きの声を上げる北斗や同盟の各人。レザードは興味深い物を見るかの様にその光景に見入っている。
そして一番その光景に驚き、一番その光景に喜びを覚えたのはハーリーだ。その炎が意味する事を十二分に理解しているハーリーは、胸が詰まる思いでその光景を見守る。
炎は渦巻き、一箇所に集まり行き、人の形になって行く……。
そして炎が消えた後に在ったのは、炎の様な赤髪に輝く様な笑顔、燃える様な瞳と完成されたが如きその容姿。
鳳凰を思わせる少女がそこに在った。
「不死身大火山、大噴火的嵐を纏い、鳳燐ちゃんだ〜い復っ活で〜〜す!!!!」
鳳燐のその一言に、その光景に見惚れていた北斗や同盟の各人、そして意外な事にレザードも含めてこけた(笑)
ただ一人、ハーリーだけがこけずに、泣き笑いながら鳳燐を迎えた。
「鳳燐! 良かった。本当に良かった……」
そう言いながら鳳燐を抱き締めるハーリー。そんなハーリーを心地良さげに抱き締め返す鳳燐。
「御心配おかけしましたマスター。本当に本当に御免なさい……」
「うぅうん、良いんだ。鳳燐さえ無事ならそれで………ね?」
「……はい!」
そう言い抱き合う二人。その光景を呆気に取られて見ているのは、同盟各人である。恐らくルリには、
意外な事に北斗はやるな〜っといった雰囲気で見ている。
レザードはと言えば、ほほぉ〜っと眼鏡を光らしながら何やら想像(妄想?)している様だ。恐らく
「さて、まだやりますか? できれば、もうお仕舞いにしたいんですけど?」
「何を言ってる、楽しくなるのはこれからだろう?」
一言で言うならバトルマニアとでも言おうか。北斗の気勢は
奥義も使ってしまって、どうする気だろうか? そんな疑問も浮かぶが、どうやら理屈ではないらしい。
「これほど楽しめたのはアキト以来だな。さて、お前は何処まで楽しませてくれる?」
だから、まんえんの笑みでそんな物騒な事を言われても、どうしろと言うのだろうか?
ハーリーが、そんな事を虚しい笑いと共に思っている時、又もや突然、それはやって来た。
いきなり天井が爆裂し崩れ落ちると、ポッカリと穴が開き、直後人らしき物が落ちてくる。
一体今度は何だ?と、一同そちらを見る。モウモウと埃が上がっている為、何かが起き出した事ぐらいしか分かりはしないが……。
「ケホケホ。ああぁ〜んもう、お姉ちゃんてば乱暴なんだから。何もあんな思いっきりフッ飛ばさなくてもいいと思うんだけどな…」
聞こえて来たのは少女の声。しかも良く聞き覚えのあるその声に、ハーリーは思わず苦笑をもらす。
しかし聞き覚えがあったのはハーリーや鳳燐だけでなく、恐らくその場に居た
「いたたた。あ〜ん、ここどこだろう…………って、あれ? お兄ちゃん? 何でこんな所に」
「君こそ何で戦艦の天井破って落ちて来るんです、幽祢?」
そう、落ちて来たのは少々埃にまみれた幽祢であった。
「あはは。あの後ずぅ〜と、あのお姉ちゃんと鬼ごっこしてて、さっきようやく撒いて来たの。あのお姉ちゃんしつこいんだもん」
一体何時間ぐらい鬼ごっこをしていたのだろうか?
それは兎も角、かなり非常識な現われ方をした幽祢に、茫然としていた同盟側の一人がようやくハッとし、非難の声を上げる。
「な、な、な、何なんですか貴女は! いきなり人の戦艦の天井を破って、どうしてくれるんですコレ!」
「いいじゃない別に。不可抗力なんだから……」
「不可抗力で戦艦に穴を開けられては堪りません!」
「心も度量も胸も小ちゃいお姉ちゃんだな…」
「な、な、な?! 胸は関係ないでしょ、胸は!」
「えぇ〜、そうかな? よく言うでしょう、胸が狭いって。あれって心が狭いとか、度量が小さいとかって意味でしょう? 違うのお姉ちゃん?」
ニコニコと楽しそうにルリの神経を逆撫でる幽祢。
「ぐっ!? 違いはしません、しませんけど。そんな事、チビッコに言われる筋合いは有りません!」
「にゅ!? お姉ちゃんだって人の事、言える程大きくないじゃない? それに私のはコレでいいの。このままで止めてるんだから……」
「うっ!? い、いいんです。私にはこのままの私で可愛いって、言ってくれる人がいるんですから。それにそう言う生意気な事は、もうちょっと胸が育ってから言って下さい?」
「ぬっ!? わ、私は外見と正比例してるから良いの。お姉ちゃんの場合、反比例してるから大変だね♪」
「なっ!? 何を仰るんでしょうか、この小娘さんは! 私にはちゃんと愛してくれる旦那様がいて、全部愛してくれてます。だからそんなのは関係ないんです! 貴女にそんな人………いるわけ無いですね♪」
「うぅ!? お兄ちゃん! このお姉ちゃん、性格も根性も歪んでるよ。この人の旦那さんじゃ、さぞ苦労が絶えないだろうなぁ〜って、そう思わないお兄ちゃん?」
「くっ!? へ、へぇ〜。ハーリー君
「むっ!? そっちこそ、お兄ちゃんてばかなり上質な部類に入るのに、そんな事も知らないんじゃ、程度が知れちゃうよね♪」
「………………………………」
「………………………………」
『ふふふふふふふふふふふふ』
虚しきヲトメの
「それにしても、声そっくりだなあの2人。イントネーションが違ってなきゃ、聞き分け出来ないぜ……」
『何処が同じなんですか!』
決して大きな声で無かったにもかかわらず、バッチリと聞きとがめられるリョウコ。その詰問がステレオで聞こえて来て、二度ビックリである。
「すげぇ〜。ステレオで聴こえるぜ……」
「何処が同じだって言うんです? 私はあんな声してません!」
「そうそう。私あんなのと同じ声じゃないよね、お兄ちゃん?」
「いや〜、どう聞いても同じに聴こえるけど…」
「オモイカネ、どうなんですか?!」
《ルリ。君とその子の声は、イントネーションを除けば、声質から音程まで一緒だよ。違って聴こえるのは多分、ルリ自身が聞いている自分の声が、他人が聞いたルリの声と違うからだよ。自分の声は体内で反響するから、違って聴こえるんだよ》
オモイカネの返答に、ガァ〜ンっと衝撃受けるルリと幽祢。二人して膝を折り呆然とし、何か呟いている。
そんなにショックな事だったのだろうか?
(う〜ん、どうしようかね、この状況……)
何だかこのままでは、巻き込まれてしまいそうな気がして、それはちょっと勘弁してほしいな、っと思いつつ、しかしコレと言って有効な打開策も思い浮かばず、まったくもって如何し様、といった塩梅である。
「そうだよ。そうすれば早いじゃない…」
何事か呟き、突然幽祢が立ち上がる。
「悩まなくったって、消しちゃえば終わりじゃない。そうだ、そうしよぉ〜♪」
幽祢のその発言に、ハーリーの脳裏にミツリの言った言葉――ハーリー君、必ず勝つんですよ。私の事は置いておいて、幽袮は邪魔な存在の消去に迷う事はありません。必ず勝って生き残って下さい…――が甦り、サーっと血の気が引く。
本気だ。このままじゃ、ルリが文字通り消されてしまう。
「幽祢さん、落ち着いて、ね? 冷静になって話し合えば、きっと分かる筈です!」
「え? お兄ちゃん、何言ってるの? 幽祢よく解んない♪」
可愛く惚ける幽祢を、後ろから抱き締め羽交い締めにする。
「だ〜!! 駄目だってば、そんな簡単に人を消そうとしちゃ!!?」
「やだヤダ、放してよお兄ちゃん! 消すの! アレ不快だから消しちゃうの!!!」
ハーリーの腕の中でジタバタと暴れる幽祢の様は、まさに駄々っ子である。しかも口にする要求はとんでもなく恐ろしい駄々っ子……。
「何やってるんですかそこの人達! 早く逃げて下さい! 幽祢は本気です! 逃げないと本当に、塵も残さず消却されますよ!!! 僕が押さえてる内に早く!!!!」
ハーリーの言葉に戸惑う同盟一同。
通常の一般人では、外見少女の駄々っ子にそんな事が出来るとは思えないだろう。しかしハーリーは前回の悪魔城で牛の化け物が、言葉一つで塵も残さず消却される所を見ている。例え相手が北斗だとしても工程が違うだけで、結果は同じだろうとハーリーは予測していた。その予測はあながち間違いでなかったりするから恐ろしい。
「放して〜〜! 退いてったら退いて〜! ううぅ〜〜〜。
痺れを切らした幽祢がそう唱えると、幽祢を囲む様に光のリングが現われたかと思うと、それは拡がりリングに接触したハーリーを吹き飛ばす。
「邪魔しちゃ駄目なんだから。えぇ〜〜い!!」
そう言ってグルリと一回転、身体を回す。すると回転中の幽祢から、あらゆる方向に絢爛多色の光の輪がバラ撒かれ、部屋に有る物をことごとく半壊させて行く。
「さあ、邪魔は無くなったから、早速消えてね、お・ね・え・ちゃん♪」
無邪気とも思える極上の微笑みを向け、近付く幽祢に、ゾクリと恐怖を感じ、ルリはヒィーっと短い悲鳴を上げる。
その笑みを見て、感じ理解した。
そう理解したルリは、涙を浮かべながら何とか逃げようと座ったままズリズリと後退する。少しでも離れ様と、少しでも逃れ様と……。
「往生際が悪いよ、お姉ちゃん? それじゃあ、バイバイ……」
無様に逃げるルリに近づきそう呟くと、笑みを浮かべたまま、すぅーとルリの首筋に顔を近づけた、まさにその時! またもや天井が爆砕され、誰かが降って来る。
「ようやく見付けましたよ、
ルリの危機一髪を救ったのは、前回悪魔城の最後で幽祢を追い掛けて消えた、
「また邪魔? いい加減にしてほしいな……。さっさと燃えちゃえ!」
鬱陶しそうにオルトリンデの方を見ると、腕をかざしキッと睨み据え、一気に炎を放つ。
「戯れ言を。ハァッ!」
迫り来る烈炎に、気合一閃! 銀槍の一突きで炎を吹き消す。
「この様な小手先の技で……、 ?! どこに…」
「こっちこっち♪ えぇい!」
オルトリンデが槍で炎を消す間に、後ろに周っていた幽祢は、先程とは色の違う
「まだ詰めが甘いね、お姉ちゃん♪」
そう言ってオルトリンデの首筋に顔を近付け、その歯牙を突き立て生命力を奪い取る。
「や、止め…ろ……」
んふふふふっと笑いながら、行為を止めない幽祢。
ある程度吸い終わり、オルトリンデから手を放す。オルトリンデは何とか片膝を着き、うめきながら幽祢を睨み、何とかステップを取り幽祢から離れる。
そんなオルトリンデの様子を見ながら、クスリと呟く。
「たのしいわね、あそびって♪」
常人であったなら今の技で、しかももっと短い時間――下手すれば一瞬――でその命は尽きてしまっていただろう。まさにルリはこの技の寸前だった訳である。
「不覚。捕縛するつもりが、逆に捕縛され生命力を奪われるとは…。こうなれば手段は選びません。一気にかたを着けさして頂きます!」
幽祢のセリフと捕まってしまった自分の不甲斐無さに気炎を揚げながら、銀槍を構え、槍の穂先に力を集めてゆく。
「奥義 ディメイション・ディザスター!」
瞬間的に残像すら見えぬスピードで、幽祢を周りの空間ごと何条にも斬り裂いて行く。
空間ごと斬る為、理論上斬れぬ物の無き必殺の斬撃。その所為で幽祢を中心とした空間がバラバラに壊れていっている。
しかしオルトリンデはこれだけでは収まらず、更に追い撃ちをかける為、その手に凄まじい力を集める。
「持ってくれよ…。神技 エーテリックカリス!!!」
その手に溜めていた超高圧霊弾を壊れゆく空間へ思いっきり投げつける。霊弾は壊れゆく空間の中心に達すると、爆縮を開始し、辺りから輝きが霊弾に向かって集まって行く。
「え? な、何?! か、身体から力が……、抜けて行っちゃいます。ああ、ダメ!? 顕現を、維持……出来ない?! ごめんなさいマスター、一度戻ります!」
鳳燐の身体からも、
「な、何なのです、この感じは?! 魔力が、魔力が吸い取られて行く!?」
そしてレザードからも、
「駄目だ。力が抜けて行く……」
勿論ハーリーからも、力が吸い上げられる様な感じが……、否!実際に吸い取られているとハーリーは確信した。何故ならこの感じは、前回悪魔城でアルカードにソウルスチールで力を吸われた時とよく似ていたからである。
辺りの全てから力の輝きがかき集められ、中心の爆縮した霊弾に集められて行く。
そして、輝きが一段と強くなった瞬間、周りの全てを巻き込み霊弾は爆裂した。
「うわー!」「きゃー!?」「何ぃ〜!」「くっ!?」
勿論その場に居た総ての人々を巻き込んで……。
しかもタイミング的に不幸中の最悪だったのは、先程の奥義で空間が斬り裂かれていた為、神技のエネルギーで次元崩壊が起こり、その場に在った総てのモノが別次元へと吹っ飛ばされた事だろう。
そして、後に残されたのは爆裂によって造られた残骸と技を放ったオルトリンデのみであった………。
「あ、しまった…………」
さて、神技の爆発に巻き込まれ、次元の彼方に吹っ飛ばされたハーリー君。
果たして無事なのか?! そして直撃を受けた幽祢は如何に!?
誰もが無事である事を祈りつつ、
もし生きているならば、勝利のその日まで残り20日!!
あとがき
あい、お久し振りで御座います皆々様!!! 狂駆奏乱華の第参章をお送りしました。お忘れの方、初めての方、そして待っておられた方、ども神薙 真紅郎です!
幽袮「……………………………滅殺」
ぐぼ!? がば!? がは!? げは!? ねぶらぁ! でげ!? ぶべら!? あば!?
な、な、な、何ゆえ? いきなり何故にこの様な?
幽祢「自分の胸に聴いてみれば? それじゃ私、忙しいから………(スタ、スタ、スタ)」
駄々っ子か!? 駄々っ子が不味かったのか? いや、あれはあれで中々ラブリーで良かったと思うんだが……。
やはりルリか? あの対決が不快だったのか……。しかしアレはある意味ドツキ漫才という事で……。
それじゃあ一体他に何が……………。
鳳燐「はよ〜〜ん♪ お久し振りの鳳燐でぇ〜す♪♪ 今回は復活しちゃいましたんで、出張って来ちゃいました………って、おや? どったの、ボロボロになっちゃって?」
おう!? 鳳燐ではないか。随分と久しいな。1年ぶりくらいか?
鳳燐「ですね。ところで、どしたんですボロボロになっちゃったりして? 新しいファッション? それとも趣味ですか? 私そういうのはちょっと……」
おい! 趣味でもファッションでもなか! ちょっと同じ声の一般市民と喧嘩させただけなのに、スネ吉モードに入っちまった、某人物に襲撃されてな。目茶苦茶にされてしまった(ぽっ)
鳳燐「いや…、ですね。顔を赤らめられましても、訳分かんないんですけど………。ま、まあ兎に角この話はここまでにしましょう。これ以上は危険が危なくなりそうだから」
そ、そうだな。次は斬られかねん。さて、何だかんだと今回も結構時間がかかってしまい気が付けば、ひい、ふう、みい………、おお! また半年ぐらい経っとるではないか!? まあ、前より多少マシではあるが……。
鳳燐「それでもダメダメですね。駄作者のアダ名が憑いちゃいますよ? 文字通り……」
う!? それは大変遠慮したい所だな。次回は本気でこんなに待たせんと思うので、それで勘弁して貰おう。
鳳燐「ははは。それでは気合入れて頑張って下さいね? 次はどうなるか判らないんで……」
は? 鳳燐さん? 一体何を言ってるんですか、貴女は? 解る様に説明してくれると助かるんですけど。何を知って………
鳳燐「はい、それでは次行って見ましょう♪ 何だかんだと読んで下さった皆さん有難う御座います。浅川さん、ノバさん、ナイツさん、castさん、感想頂き恐悦至極。転がって喜んでました、有難うです! 出来れば今回も見棄てないで上げてください。……ええ、もうこれ以上は憐れで何も言えないですけど………」
ちょっと待てい! 鳳燐お前一体何を知っていやがるんですか!? あ! な、何なんだその憐れなモノを見る様な目は!?
鳳燐「ふふ。人生自棄になっちゃ行けませんよ? 明日に向かってダッシュです! ファイト一発です!!」
(冷汗)いや、マジに一体何なんだ鳳燐? 今夜恐くて眠れないじゃないか。
鳳燐「世の中っていうのは、結構不思議で出来てるものなんですよね…。明日っていう日は、一寸先は闇だけど、抜けた先にはきっと希望という名の灯台が在る筈です! えぇ、きっと在りますとも(涙目)」
お〜い、鳳燐さ〜〜ん。
鳳燐「あ、私らしくなかったですね(ゴシゴシ) 笑顔笑顔♪ 笑いの門には、きっと福が来る筈です! そう言う訳で、次は第肆章でお逢いしましょう。再見〜〜〜〜♪」
代理人様、ささ、感想おば………
あ、すんません管理人の感想です(苦笑)
というわけで、神薙真紅郎さんからの投稿です。
何だか悪役ばっかりでパーティ組んでますね、ハーリー(苦笑)
それにしても、ジーンはどうなったんだろう?
この世界のアキトは逃走中なのですから、何処かで合流するかもしれませんね。
―――あー、何だかますます人外魔境(爆)