『時の流れに of ハーリー列伝』
Another Story
狂駆奏乱華
第伍章
「復活は突然に…」
木星と地球、この両者で行われた不毛な戦争は一人の英雄の活躍によって終結を迎えた。
……其の名は、テンカワ・アキト。またの名を『漆黒の戦神』…。
これは彼が不特定多数の女性を妻に迎え、数年の時が経過した頃のお話……。
前回吹っ飛ばされた衝撃で魂が飛び出し、危うく冥界に連れて行かれかけたハーリー君。
何とか冥界逝きを免れ、別世界に飛び込んで事無きを得ましたが、
そこで元の世界での姉である、清音との邂逅を果たします。
有耶無耶の内に事件に巻き込まれ、爆発から無事脱出し、平穏の内に旅立つ事が出来ましたが、
はてさて、次なる世界に平穏は有るのか? そして不気味に沈黙する幽祢の行方はいかに……?
何時もの様に、何時もの如く、ハーリーは次なる世界へと向けて次元間移動をしていた。まあ、この辺はいつもと変わらない事なのだが、今回ハーリーがふと目を向けた先にソレはあった。
最初は、こんな所に星?と思えてしまう様な光点を見つけたのだが、こんな所に星が輝いているわけがない。
何だろうと少々注目していると、どうやらソレはこちらに近付いて来ているのか、どんどん大きくなり、そのモノが何なのか確認出来るほど近づいて来た時、ハーリーは自分の目を疑った。
疲れているのかと、目を擦って再度観て見るも、その物体は変わらず、それどころか先程よりもかなり近付いて来ている。
そしてハーリーは考える。アレは一体何なのだろう?
自分の記憶を走査し、アレに当てはまりそうな名を探し当てる。
(そうだ! 確かアレって、デコトラって言うんじゃなかったっけ?)
そう! この次元間を輝きながら走っていたのは、たがう事無くデコトラ――デコレーショントラック(電飾や絵等で飾付けた、とても派手派手なトラック。主に長距離の運ちゃんが使用)――であった。
派手な電飾を輝かせ、物凄い勢いでこちらに向かってくるデコトラに、呆気に取られるハーリー。
更によく見ると、そのデコトラの上に立つ人影が一つ見えた。しかもその人影が纏う笠と装束はどこかで見た様な……。
そしてその人影の顔が確認出来た時、ハーリーは愕然とし思わず叫んでしまった。
「な!? ほ、北辰!!」
そう、デコトラの上に立つ人影は、ハーリーが随分前にディラックの海に放り込んだ相手、北辰その人であった。
いや、確かに北辰ではあるがハーリーの知っている北辰とは限らない。何せルリの例もあるし、何よりアソコに落されて無事な筈ないと思い直す。
そして丁度デコトラと並走する形になるハーリー。
「くくくく。ようやく見つけたぞ。まさかこの様な所で再びまみえ様とは、思いもせなんだがな、マキビ・ハリ?」
やはり同一人物であった様だ(笑)
淡い期待を打ち砕かれながらも、キッと北辰を睨み据えるハーリー。
「北辰! 何でこんな所に! いや、それよりも何で生きてるんだ!?」
「ふふふふふ。確かに、あの穴に落された時、流石の我も幕を引かねばならぬところであった。しかし、貴様への恨みの一念をもって、我は新たなる力を手に入れ甦ったのだ! 幾度も想い描き焦れたぞマキビ・ハリ、貴様との再会を。まるで恋する乙女の様にな! ぬははははは」
流石のハーリーも、北辰の最後のセリフに嫌な顔をしながら、
「ならもう一度、今度こそ甦らない様に終わらせるまで!」
「出来るかな? そのセリフ、我が新たなる力を受けてから言うがいい。受けろ!必殺 地獄の一丁目!」
その言葉と共に、何処からともなく無人のオフロードバイクが、ハーリーを轢こうと迫り来る!
「そんなのがフィールドを張っている今の僕に効く筈…(バゴンッ!) な、にぃ〜!?」
フィールドに阻まれると思いきや、バイクはフィールドを無いが如く無視し、凄まじいスピードのままハーリーを刎ね、何処へともなく消え去った。
一方刎ねられたハーリーは、その勢いのままふっ飛ばされ、そのまま別世界へと突入していった。
その様子を愉しげにデコトラの上から眺めていた北辰は、その状況に笑いながら手を広げ、宣言するが如く言い放つ。
「世界よ! 我は帰って来たァッ!! 見ているがいい。お楽しみはこれからだ、マキビ・ハリ。ぬははははははははは!!!」
「くふふふ……心地よい視線よ。さあ、早くせぬと小僧の首が胴から離れるぞ?」
ここは何時かの某戦艦内艦橋。愉悦の笑みを浮べるその男の部下が、いつの間にか少年の首に、短刀を突き付けていた。
現在この戦艦は、この男の一派に襲撃され、かなりピンチに危険な状態なのであった。
「くっ!! 卑劣な!!」
銀髪にツインテールの少女が唇を噛み締めながら、コンピュータで作業を淡々とこなしていたが、顔に口惜しさが、僅かにだが浮かんでいる。
「変な細工はするだけ無駄だ。…どちらにしろ、我が軍にお主も連れて行くのだからな」
『なっ!!』
その男の発言に、思わず声を上げる一派以外の一同。
その言葉に恐怖を覚える者、茫然とし自失している者、緊張し戦慄する者。反応は様々だが…
「…終りました。」
そう言って銀髪の少女がディスクを差し出すと、男の部下の一人が受け取る。
「今後の指示は?」
別の一人が男に指示を仰ぐと、男は艦橋に目を走らせ、事も無げに言い放つ。
「…三人もいらん。二人の妖精を残し、後は全て消せ」
「!!」
その男の台詞に、ブリッジに絶望の声があがり、艦長らしき人物が思わず声を上げる。
「そんな約束と…」
そう言った瞬間、そのセリフを続けるよりも先に、いきなり空間中空は割り砕いて現われた者がいた。その者はその勢いのまま少年に短刀を突きつけていた者を激しく巻き込み、床にバウンドし、顔から床に突っ込むと、そのまま数メートル、顔だけを支えにズズズズズッと進み、ようやく止まったかと思うと、重力に従いパタリと体を倒した。
その凄まじく行き成りな事態に、思わず総ての者の動きが呆気に取られ凍りつく。
そして、そこまで凄まじい一連の状況で現われた人物――先程北辰に派手にぶっ飛ばされた我等がハーリー――は「痛ててて…」などと言いながら、少々痛む顔をさすり起き上がってきた。
「油断した。まさかフィールドを突っ切って来るなんて、予想だにしなかったな〜。顔もこすれて痛いし。それよりここは一体ど…こ?」
まずは状況確認と、周りを窺うハーリーだったが、何やら呆気にとられているどこかで見た様な人達に、そして…笠に装束のどこかで見た様な連中が……。
「北辰!!!」
先頭のその男に向かい叫びを上げるハーリー。先程バイクをぶつけてくれた張本人が既に目の前に居るではないか。呆気に取られている一同を尻目に、今度こそ油断なき様、双剣を抜き素早く構えるハーリー。
そんなハーリーの行動に、一同ハッと正気を取り戻す。
「何者だ貴様? 裂風は…沈んだか。まあいい。いずれにしても消すまでよ」
「出来るなら…な!」
そう言うと、本気で目にも留まらないスピードでもって踏み込み、痛烈な一撃を北辰の腹に見舞う。その一撃に、見事なまでに吹っ飛ぶ北辰。何とか倒れずにすんだのは流石と言うべきだろうか? それでも苦悶の表情を浮かべ憎々しげにハーリーを睨んでいるが…。
「がはっ! 我が避ける事すら出来んとは…。貴様一体……」
「? 何言ってる? 今度こそ二度と復活出来ないよう、キッチリ始末をつける!」
「訳の判らぬ事を…。しかし今の状況ではこちらがかなり不利。ここは退かせてもらう」
サッと素早く下がったかと思うと、両手に八本の投擲剣を何処からともなく取り出し、一気にハーリーに向け撃ち込む。
飛来する八本の凶刃を両手の双剣ですべて叩き落していくハーリー。その隙に北辰一派は倒れていた裂風を担ぎ、恐ろしく素早い動きで遁走に入った。
「!? このまま逃がすと思うか!」
そう言うとハーリーも遁走した北辰を追って飛び出し、あとには呆然とする面々が残されるのであった。
「一体何なんですか、今の人は?」
遁走する北辰一派に追うハーリー。距離は結構離されていたが、ハーリーにはどうと言う事のない距離であった。
「そんな速さで僕から逃げきろうだなんて愚かの極み! すぐに…(どぐん!) あ…」
ちょっとスピードを上げたハーリーに、みごとに轢かれる北辰以外のその他3名。派手に吹っ飛ばされ、かなりピンチの様だ。
「……ふ。さあ、覚悟しろ北辰! 逃げ場はもう無いぞ!」
勢い余って通り過ぎ、何事も無かったかのように振る舞うハーリー。どうやら無視する事に決めた様である。
「外道なら兎も角、人としてその反応はどうかと思うぞ、我は?」
「そんな事をお前なんかに言われたかない! ……?? あれ? そう言えば配下の人達は前の時に浄化した筈なのに……? 新しい人達? まあ、そんな事はどうでもいいや。重要なのは今、この時、眼の前の北辰のみ! 今度こそ迷わぬ様、キッチリ冥界の霊柩に送呈して差し上げます!」
油断無く構えるハーリーに、思わず舌打ちする北辰。先程からの一連の騒動だけで、かなりの人外であると判明しているだけに、ここで逃げ切れなかったのはかなり痛い。果たして脱出の道筋はあるものかと、必死に考えを巡らす。
その時、倒れている配下にチラリと目を向け、一つの手段を考え、早速実行にうつす。
「どうやら蹴りをつけねばならぬようだな? まさかこれほどの者が戦神以外におろうとは、まったくもって計算外であったわ。されど
その立場、不利にも拘らず不敵な笑みを浮べる北辰。そんな北辰を油断無く
「さっきは油断してたけど、今度はそう上手くは行かないぞ、北辰!」
「? 先程から異な事を…。我は汝に先程初めて
「は? そっちこそ何を言って……「北辰!」」
ハーリーが疑問を口にしようとした時、突然その声に遮られ、その声の主は北辰に飛び蹴りくれながら現われた。
「ちっ! 不意討ちとは何奴?! ……貴様か、テンカワ・アキト」
「北辰、貴様は変わらん様だな。過去も未来も現在も…。ならばここで逃がすわけには行かない。貴様との宿業、ここで終わらせる!!」
その全身から凄まじいまでの鬼気を放ちながら、「漆黒の戦神」テンカワ・アキトがそこにいた。
「え? テンカワ…アキト? 何でこんな所にアキトさんが? それに何であんな…、あんな鬼気を出す様な人じゃ…」
イキナリ出て来たアキトの名と、鬼気を発している本人に当惑するハーリー。確かに顔は何となく似ていない事は無いが、その雰囲気から、別人と言われればそうかと納得してしまいそうな程の差があった。
「…今日はまっこと異な事の多き日よ。初めて
…まあよい。この素晴らしい鬼気に比べれば些細な事よ、そうは思わぬか、テンカワ アキト?
何が主にその業を身に付けさせたのだ? その気勢、まさに修羅……」
「ごたくはいい…。ただ、
北辰の御託に流すアキト。共に牽制、放ちながらも睨み合い渦巻く兇気。それには呑まれず、別の意味で呆然としながら問いかけるハーリー。
「…アキト…さん? 本当にアキトさんなんですか? あんなにいい笑顔を見せてくれてた、ユリカさんと一緒に屋台の話をしてくれた、あのアキトさんなんですか?」
ハーリーのその問いに、北辰と対峙しているにもかかわらず、思わず驚愕の表情を見せるアキト。
「なっ?! 君は一体…」
北辰から目を逸らさず、問いかけるアキト。しかし、それでもやはり隙は生れてしまう。常人では突けぬであろうが北辰には十分な隙だ。
「疾っ!」
装束の内より投擲剣と煙幕弾が放たれ、一瞬にして煙に巻かれるこの場いったい。舌打ちしながらも放たれた投擲剣を弾くアキトとハーリーに、煙の外より連続で撃ち込まれて来る投擲剣。何とか風切り音と気配を頼りに打ち落として行き、艦内の換気システムにより煙が晴れ出した頃には既に遥か先を遁走する北辰と手下一名の姿が…。
『ち! 逃がさん!!』
思わずハモッてしまうアキトとハーリー。そうして二人が走り出した直後、いきなり背後で何かが爆発し、その爆風に巻き込まれ吹っ飛ばされてしまう。
どうやら、倒れていた北辰配下の二人が爆心の様だ。他に爆発物も考えられず、どうやら先程の煙幕、役に立たない配下を自爆させる為でもあったようだ。
…北辰、まさに外道の所業である。
「外道が! 自分の仲間ですら何の躊躇いも無く殺すのか!!」
爆風に煽られ、打撲した身体を何とか起き上がらせながら、何が起こったのかを理解したアキトは、怒りの声音を上げながら、北辰が進んだであろう廊下を睨む。
っと、アキトが起き上がらぬ内にその横を凄いスピードで駆け抜けてゆく影一つ。やはり爆風の影響から、いち早く立ち直ったハーリーである。当然何が起こったのか、アキトと同じ様に理解し、ハーリーはとても怒っていた。
まあ、前回六人衆をアッサリと浄化せしめはしたのだが、アレとコレとはまた話が別である。仲間を、しかも腹心の部下達を、まるで要らないオモチャを棄てるが如く、自爆させるなど許せる行為ではない。
「どこまで腐ってる! 今度こそ黄泉還れない様、完全に屠る!」
怒りの声を上げながら、追跡に入るハーリー。っと言っても、高々戦艦内の距離など大した事もなく、然程待たずに追いついてしまう。
一方北辰も真っ先にこちらに気付き、迎撃の為か立ち止まる。
「隊長…」
「致し方あるまい。お前ではどうにもならぬ。行け」
北辰と共に足を止めた手下其の一であったが、数秒を待たず走り出す。
そして追い着いたハーリーと対峙する北辰…。
「何とも凄まじいスピードよ…。アレだけの距離をこの様な短時間で詰めて来るとは、はたはた計算違いであったわ。どうやら本気で決着を着けねばならぬと見えるな?」
「…決着? それは随分前に着いてますよ? 此度はただ、二度と黄泉還らない様、完璧に屠るのみ!」
「戯けた事を…。しかし我とて暇ではない。この様な所で貴様のような名も知れぬ輩と遊んでいるわけには行かぬでな。如何様にしてもこの場、決着を着け抜けさせてもらう」
いつ出したのか、小太刀をその手に構えながら、その身を沈めていく北辰。それに合わすかのようにハーリーも双剣に力を集めていく。
「寝言は永遠に眠ってから言って下さい。深紫の技 紫晶蝕柩!」
地蛇剣を床に突き立てた瞬間、北辰をつつもうと、辺りに紫の霧が床より立ち昇り始めた。その瞬間、北辰は己が直感を信じハーリーに向け踏み込む…。
「な、にぃぃ!? 馬鹿な!! 体が、我の体がぁぁ!??」
踏み込み自体の判断は良かったのだが、少し…ホンの少しだけタイミングが遅かった。紫の霧を抜けきる前に、いまだ霧に包まれていた腹より下と左手部分が、まとめて紫水晶に結晶化してしまう。
「今度こそサヨナラです。前の様に何所かに送るなんて不確かな方法はとりませんよ? この炎で確実に浄化せしめます!」
「貴様! 貴様は一体何なのだ!! 何故この様な真似が……。こんな、こんな馬鹿な事がぁ!!?」
「前にも言いましたよ? 僕の名前はマキビ・ハリ。冥土の土産に持って逝って下さい♪ 赤の技 消魔鳳凰斬!」
下半身が結晶化して動けない北辰へ、その身に炎を纏い鳳凰が如く翔ける。
焔の羽ばたきに北辰が襲われる中、炎だけを残し双剣を振り抜いた状態で現われるハーリー。
「浄化せよ………紅蓮」
ハーリーの呟きに一気にその勢いを増し、北辰を焼き尽くす炎の鳥。
「デラ・ベッピィ〜〜ン……」
こうして北辰は、奇声と共にこの世界より消え去ったのであった(笑)
「今のは、今のは北辰だったのか? 一体何が……」
少し離れた所から漏れるそんな呟きに振り返ると、北辰を追って来たのであろうアキトが呆然とした様子で立っていた。
「今のは……君がやったのか? 君は一体……。 ? 気のせいかどこかで見たことがある様な…」
そんなアキトの様子を見ながら、とりあえず眼の前の重大事が一段落した事に一息つくハーリー。
「アキトさんこそ何言ってるんです? この前会ったばかりじゃないですか…」
「? いや、君とは初対面だと思うんだが……」
「え? 初対面って、そんな筈………あ!」
ここに来てようやく事態の可笑しさに気付くハーリー。
脳裏によぎったのは、この前されていたレザードとルリの会話。そう言えば何となく状況が似通っている。レザードは確か言っていた筈だ。同一存在ではあるが別人であると……。
つまり今、目の前にいるテンカワ・アキトは、ハーリーの知る彼ではなく、この世界のアキトではないのかと…
「あう!? もしかしてまたシクジリ? それは兎も角…、 そうですよね、初対面ですよね、はは♪ あ、僕はマキビ・ハリって言います。よろしくアキトさん」
「は?!」
ハーリーのワザとらしくも微笑ましい自己紹介に、思わず変な顔になるアキト。
「………君、もしかしてハーリー君?」
「はい!? え〜〜っと、何の事でしょう(汗)」
何やら次々と自ら墓穴を掘っていくハーリー。ここまでくると、もう誤魔化しようがない気もする。
「そうだよ、どこかで見たはずだ。君がハーリー君なら答えそのものだもんな」
おまけにアキトの方は、その線で勝手に納得してしまった様だ。
「でもその姿……、それにさっきの言動から考えて、君も逆行者なんだろ?」
「え? あ、いや。何と言いますか。う〜〜ん。どう言えば……」
確かに逆行者と言えなくもないのだが、正確でもなく。かと言って今までの事を全て言う気もなく、何をどう言えばいいのか迷っていると、
(マスター、マスター! ここは一つ、話を相手に合わせちゃいましょう。色々言うのも面倒ですし、当り障りなく話を合わせてれば、相手が勝手に解釈してくれますよ)
(そういうもんかな?)
(そういうもんです。人間、信じたい事を信じるもんなんですから♪)
「そうなんですよ♪ いつの間にやら、気が付いたらここに跳ばされちゃってて……。まったくどうしようって感じなんですよ」
わざとらしくも明るく可愛らしげに言ってみるハーリー。しかし今だ多少の動揺から抜け切っていないアキトは、その態度を別に可笑しいと思わず、逆に共感の思いでハーリーに言葉をかけた。
「そうなのか……。そうだな…、元の世界に戻れるあてなんか……あるわきゃ無いし、こっちでのあてなんか……無いよなぁ…。逆行者である事は、ここにいる限り多分早々とばれるだろうから、俺の事を黙っていてくれるなら、何とかこのナデシコAに居れる様に話してみるけど、どうする?」
「あ、はい。そうですね! そうして下さると助かりますけど……。……? 何で
「だってこの艦には6歳の君が居るんだよ? 他人と言うには似すぎているし、かと言って兄弟とか言っても調べられたら一発でばれちゃうしな……。そんなわけで、自分の言い訳を考えといてくれよ?」
「まあ、それはこっちで考えますけど……」
何とも妙な具合になってきた様だ。他に知り合いがいるわけで無し、別にここに居てもいいのだが、何ともなしに妙な気分である。
ハーリーが思い悩んでいるそんな時、アキトの近くに1枚のウィンドウが開いた。
『アキトさん、大丈夫ですか?』
そこに映っていたのは、何とも可愛らしくも真剣な表情を浮べる銀髪の
「こっちは無事だよ、ルリちゃん。北辰も何とか倒せたし…」
『ほ、本当ですか!? 凄いですアキトさん! これで、色んな意味で当分大丈夫そうですね。こっちもナオさんや怪我をした人達を医務室に運んでいる所です』
「随分と怪我人が出てしまったな…。俺がもう少し早く着いていれば!」
『いえ。アキトさんは全速力で急いで来てくれました。あれ以上はどうにもならなかった筈です。それよりも死亡した人が居なかっただけでも僥倖ですよ』
「そうか…。そうだな。起こってしまった過去を後悔してもしかたが無い。ただ今できる事を全力でやるのみ、だね?」
苦笑とも取れる笑顔を浮べながら、ルリに問う様に話すアキト。
『はい! それでこそアキトさんです♪ あ、それと先程この艦から脱出した機体が敵艦隊に合流したようです』
「白鳥九十九か?」
『…いえ、そのあとです』
「…………もしかして、北辰の部下か?!」
『の、ようです』
「しまった! 北辰しか見えていなくて、見逃したか!?」
自分の迂闊さに思わずうめくアキトだったが、そんなアキトにルリが合いの手を入れてくる。
『いえ、追いかけなくて正解だったかもしれません。どうも木連側は逃走する機体の様子をモニターしていたようです。もし不用意に追いかけて撃墜しようものなら、『無抵抗の友軍を虐殺する地球連合の手先』とかなんとか、良い様に利用されていたかもしれません…』
「!? そうか。如何にも抜け目の無い北辰の事、そのぐらいの手回しは準備していて当然か。下手すると引っかかって、社会的に抹殺されていたかもしれないな。………しかしルリちゃん、その情報は何所から?」
その質問に、思わず悪戯っ子の様な楽しげな微笑みを浮かべながら、
『はい、私のプライベートアドレスにメールで知らせが届きました。これは、私があの時に使っていた秘匿アドレスです。…アキトさんの予想されていた通りの人ですよ♪
それと、ミナトさんとレイナさんは無事に、白鳥さんの艦隊に保護されたそうです』
そのルリの答えに、アキトの今まで張り詰めていた肩の力がやっと抜けた。
「そうか……。これで木連に一応、一つパイプが通じたな」
この結果、アキトの中の色々な予想が実証された事になるのだが、まあハーリーには関係ない事なのでこれはひとまず置いておこう。
「それとルリちゃん……ラピスの様子なんだが…」
その質問に、お互いの顔に悲壮さが増していくアキトとルリ。それでも何とか呟く様に、しかしハッキリと告げる。
『………かなり、…酷いです』
「そうか……。直ぐにブリッジに向かうよ」
『はい』
そしてルリとの通信ウィンドウは閉じたアキトは、深い溜息をつきながらハーリーに振り返る。
「どうやらラピスの様子が相当不味いらしい。直接ブリッジにいって、居られる様に話はつけるから、その後の事は頼めるかい? 多分俺はラピスに付きっ切りになると思うんだが……」
神妙な顔で言ってくるアキトに頭を振りながら、
「皆まで言わないで下さいよアキトさん。それだけ深刻な顔をされちゃ、逆にこっちが心配しちゃいますよ?」
「そう言ってくれると助かる。それじゃ早速ブリッジに……」
早速ハーリーと共にブリッジに向かおうとしたアキトであったが、
「アキト……ちょっと、いいかな?」
気弱げに言ってくるこの船の艦長、ユリカのそんな言葉が、アキト達の歩を止めた。
その後、アキトを巡るちょっとした修羅場が展開され、ハーリーの存在は無視されたまま……、いや認識されないままアキトは連行され、一人取り残されるハーリーであったが、行き成り駆け付けて来た警備の者に不審者として囚われてしまう。
プロスペクター氏の取調べに対しアキトの名を口にして、アキトの確認と口添えで難を逃れたのだが、アキトはそのまま顔も出さぬうちに月に行ってしまい、ハーリーはチョット困った立場に立っていたりするのである。
何はともあれ、尋問からは逃れたハーリーであったが、今現在口裏を合わせてくれるアキトが居ない為、全ての詐称を創作せねばならない訳なのだが……
「で? 貴方は一体どこの誰さん何ですか?」
現在ブリッジで晒し者状態で、まずはユリカの質問を受けていたりした。
「え、え〜〜っと………、
アカラサマに妖しげな自己紹介に、不審の眼差しのブリッジクルーその他一同。っと言っても、操舵士のハルカ・ミナトは捕虜になったため居ないし、通信士のメグミ・レイナードはアキトと共に月に向かったらしくこっちも留守。正規のブリッジクルー揃い踏みではないのだが………、おや? そう言えば操舵士と通信士の席に着いている黒髪と金髪の女性、どこかで見たような……?
「ハル君っていうんだ。私はこの艦の艦長さんでミスマル・ユリカ、よろしくね♪」
他の者達が
「先程もお会いしておりますね。私プロスペクターと申しまして………いえいえペンネームみたいな物でして、長ければどうぞプロスとお呼び下さい」
「俺はこの艦の副提督を務めるオオサキ・シュンだ。よろしくハル君」
「メインオペレーターのホシノ・ルリです。よろしく」
「通信士のサラです。サラ=ファー……」
「え?! サラ=ブライアンさん?」
フルネームを続けて言おうとしたサラに、思わずボケてみるハーリー。
「お兄ちゃん……って違います! 私には妹しかいません!」
「ああ! 妹さんはジャッキーっと……」
「いいません! まったく、いい加減にして下さい。私の名前はサラ=ファー=ハーテッドです。妹はアリサ、覚えておいて下さい?」
その時、不意にサラの後ろに赤い幻を見るハーリー
「あ、赤い幻が……」
そんな呟きに思わずギクリとするサラ。それを誤魔化すように次の人に話題をふる。
「ささ! 次はエリナさんですよ、どうぞどうぞ!!」
「え、ええ。こほん。私は副操舵士を務めるエリナ=キンジョウ=ウォンよ。よろしくね」
クールに決めるエリナに、その名前からふと思い出した事を告げてみるハーリー。
「ウォンって、まさか
ハーリーのそのセリフに、見る見るうちにエリナの表情が底冷えする恐ろしいものに変わっていく。流石のハーリーも少々怯んでしまう。
「リチャード……ウォン、ですって?! あなた!あのウォン家の面汚しの事を知ってるの!!!」
「ひえぇぇ〜。知りません知らないです、ちょっと前、耳にした事があったんで、試しに言ってみただけなんです。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいです!」
エリナの剣幕に思わず謝ってしまうハーリー。そんなハーリーの様子に激情を何とかおさめ、目付きが鋭いながらも普通の調子に戻るエリナ。
「そうね。普通はそうなんだけど、思わず取り乱しちゃったわ、ごめんなさい」
「いえ、それは別に構いませんけど…」
取り合えず、これは禁句としてハーリーの中に刻み込まれるのであった。
「あの、質問いいですか?」
何とか自己紹介を乗り切り、騒ぎが収まったのを見計らって、ルリがそんな声を上げた。
「一つ聞きたいんですけど。貴方、もしかしてマシンチャイルドですか?」
その言葉に真っ先にピクリと反応を示したのはプロス・エリナのネルガル組であった。
「え? え!? あの、何でそう思うんですか? 僕は別にそんな……」
「いえ、ただその手の甲のタトゥーがマシンチャイルド特有の模様だったもので…」
どうやら逃げ道はルリの手により塞がれてしまった様だ。
(そりゃないですよルリさん(涙))
(はは、それは仕方ないですよマスター。相手はこっちの事情を知りませんしね)
(それにしたってさ、よりにもよってルリさんだなんて、運命の皮肉を感じるよ僕は……。僕に一体どうしろって言うんだろうね?)
(取り合えず誤魔化してお茶を濁してみては? 謎のマシンチャイルドとか何とか言っちゃったりして(笑) どうせそんなに長くいないでしょうし)
(う〜〜ん、そうだな……。まあ、いざとなれば逃げればいいし、変な隠し方はよけい話をこじれさせそうだから、その線で行ってみようか)
この間数秒ほど悩む様な外見で周りを誤魔化し、ヤレヤレと言った感じで話し出す。
「ええ、まあ、一応それなりに扱えますけど、それが……」
ハーリーのそのセリフに、思わず眼鏡をキュピィ〜ンと光らせるプロス。
「ほほぅ。本当にマシンチャイルドなのですかな? いやいや、これぞ天の采配渡りに船と言うやつですかな。実は今、サブオペレーターのお二人が怪我などで働ける状態ではないのです。それでいかがでしょう、このナデシコで働いてみる気はありませんかな? お給料は弾ませて頂きますよ…(ピ、ポ、パッ)…これぐらいで」
プロスの提示した金額は、一般から見ればかなり高額のものであった。
そんな風に話を進めるプロスに、そっとエリナが近付きプロスにだけ聞こえるような声で、
「ちょっとプロス、少し性急すぎない?」
「いえいえ、身元の追跡調査などは後からでもできますし、何よりテンカワさんの口添えも有りますからな。それならいっそ手元に置いておいた方がよろしいでしょう。ちょうどハリ君もラピスさんも居られませんし。下手な手合いに持っていかれるよりはよろしいのでは?」
「それはそうだけど……。いいわ。その辺は貴方に任せるわ」
「それで如何ですかな?」
「はい。別に構いませんけど…」
「そうですか! それでは早速この契約書を…」
言うなり懐から折り目のついていない契約書を取り出すプロス。どうやって入れていたのか謎な上に、こんな物をいつも持ち歩いているのだろうかこの人は?
「これでいいですか?」
「はい、よろしいですよ。これで貴方は本日付をもって、機動戦艦ナデシコのサブオペレーターです」
「そんな訳で、改めてよろしくです、みなさん」
一同を見、微笑みながらそう言うハーリー。クルー一同の反応は、まあそれほど悪くは無さそうだ。あからさまに敵意や疑問の眼差しを向けてくる者はいないようなので、上々と言っていいだろ。
「あのプロスさん。早速なんですが、その人の力量を知りたいんですけど……」
「おお、そうですな! それでは早速、よろしいですかなキビツさん? どれ程の腕前か確かめておきませんと、いざという時困りますからな〜」
「はい。かまいませんよ」
そんな訳で、どうやらルリと能力測定を兼ねたハック対決をせねばならない様だ。
元々、席はサブがあったので準備といってもそれ程する事は無く、早速始める事となった。
「う〜ん。なんかこういうのに触るのも久しぶりだな…。はてさて、どこまでいけるかな?」
あてがわれた席につき、指をワキワキさせながらそんな事を呟き、コネクトに入るハーリー。
それに間を置かず、ルリもコネクトし、早速電脳戦が開始される。
(あれ? 何だか反応が遅い様な気が……。気のせい…かな?)
システムを構築していく最中、そんな感じを受けるハーリーだったが、それが気のせいでないと確信したのはルリとの攻勢が始まってからである。
さながら、処理落ちするゲームの画面で必死にコマンドを入力している様なものだろうか? こっちがいくら正確にコマンドを入力しても、タイミングが合わず、コマンドの一部しか受け取ってくれない、そんな感じである。
(うがぁ〜! 何なんだこの遅さは?! ここはナデシコなんだから、オモイカネが載ってる筈なのに…)
(それはですな、オモイカネのスピードが遅いのではなく、マスターの処理速度が速すぎるのです)
(え? そうなんですか、マクスウェルさん?)
(まあ、自覚なさっておられなくても仕方ありませんな。今のマスターは昔に比べて数倍の処理速度を誇りますゆえ。2倍でもかなりの遅さを自覚できますから、今の状態がどれ程のものかは……察っせますかな?)
どうやら例の人体実験場での成果は、ハーリーのマシンチャイルドとしての能力自体をかなり引き上げていた様ではあるが、脱出後にそれと気付くほどの電脳戦が行なわれなかった為、今の今まで気付かないでいた様だ。
そう、確かに能力自体は上がっていたのだ。いたのだが、いかせん慣れと経験、それにこの処理速度の遅さが徹底的にハーリーの不利に働いた。結果は惨敗……、ではなく僅差でルリの勝利。もっとスピードの速い、能力が十分発揮できる機体なら勝利していただろう……。
…いや、自身の処理速度をもっと落とせば問題なく対応でき、勝利も出来たのだろうが……、それに気付かないあたり、流石はハーリーといったところか(笑)
「何とか私の勝利です」
ふぅ〜、と息をつきながらそんな言葉を零すルリ。
「あう〜。負けてしまいました〜」
能力が上がっていたのに負けてしまったハーリーは、ちょっとヘコミ気味である。
「それで、如何でしたかなルリさん? キビツさんの腕前は?」
「はい。結構凄いです。今回は何とか私が勝てましたが、次回はどうなるか分りません」
「ほぉ〜。ルリさんにそこまで言わせるとは、これはとんだ拾い物をしましたかな」
上々の結果に満足げに頷くプロス。かなりの戦力になりそうと満面の笑みである。
「いやいやキビツさん、お疲れ様でした。中々素晴らしい腕前をお持ちのようですな〜」
「そんなに、素晴らしいって程良い結果じゃなかったと思うんですけど…」
「いえいえ。ルリさん相手にこの結果なら上々です。何せ彼女は今の所、世界でもトップレベルのハッカーでしょうから…。それを鑑みれば、おのずと腕前の確かさも判ろうというものです」
少々ヘコミ気味のハーリーに、そんなフォローを入れるプロス。
「そんなもんなんですかね?」
「はい。同じ条件でも彼女に切迫できる方は、そうは居られないと思いますよ? それだけの腕を御持ちになられておられれば十分です。改めまして、ようこそナデシコへキビツ・ハルさん。我々は貴方の乗艦を歓迎致しますよ」
こうして、何はともあれナデシコの乗艦に成功するハーリー君でありました。
ハッカー対決より時は少々過ぎ、ナデシコはようやく月に到着を果たし、息つく暇も無く早速ナデシコのYユニット改修作業が行われていた。
ハーリーはというと、何するでもなく食堂辺りでマッタリと暇な時間を満喫していた。サブオペレーターといってもやる事はまだ後らしく、今をこうして楽しんでいたりするのだ。何せこの追いかけっこを始めてからというもの、これほどマッタリとできる時間は皆無に等しかったわけであるから…。
「ああ〜。やっぱり平和が一番だにゃ〜〜」
こうしてテーブルに頭を乗せてだらけていてもしようがないのだ………っと自分を納得させていたりするハーリーであったが、こういう時間はそうは続かないものである。
なにやらブリッジに主要メンバーの召集がかけられ、何だろうとなんとなく行ってみると、イキナリ木連関係の暴露大会が始まったのである。
何気に歴史の1ページにいるんだな〜〜と、感慨深げに頷くハーリー。そして暴露大会は最後の佳境に入り、アキトが締めのセリフを言い放つ。
「・・・この戦争は、過去の亡霊達の戦争じゃない。俺達の戦争だという事だ!!」
そんな強烈なアキトのセリフに思わず目が行ってしまうハーリーであったが、その近くにいるある人物を認識した時、その意外さに虚をつかれ、驚愕・困惑・疑問と続いた。そう、それはハーリーにとっては意外な人物。薄桃色の小妖精が居たのである。
「ローズ?! 何で、何でこんな所にローズが……」
しかもアキトととても親しそうな様子だ。ハーリーにすれば何がなんだか分らなかったろう。
そうして間をおかず、ブリッジを後にするアキトとローズを慌てて追いかける。
「アキトさん! 待って下さいアキトさん」
「ん? そんなに慌ててどうしたんだい?」
「あ、いや、その………」
そう言うと、チラッとローズの方を見るハーリー。
「彼女の事なんですけど…」
「ん? ラピスがどうかしたのかい?」
「へ? ラピス……って誰です?」
そんな困惑したハーリーのセリフに、可笑しな事を聞くな〜っといった感じの顔で、
「誰って、眼の前のラピス・ラズリしかいないだろ?」
ポンポンとラピスの頭を撫でながらそんな事を言うアキト。
「ラピス……ラズリ? 彼女の名前はラピス・ラズリって言うんですか?」
「? そうだけど、それが?」
「そう…ですか。いえ、別にそれだけなんです。名前を……知らなかったもので…」
そう言うとハーリーはこの場を後にし、一人になれる様な場所に歩きながら考える。
(…………鳳燐。知って…いたよね勿論)
(……はい、マスター)
(彼女も、僕の無くした記憶の中で出会っていたんだね?)
(…はい)
(彼女の本当の名前も、どんな素性なのかも知っていた?)
(……はい)
(それでも故意には知らせなかった…)
(………………)
(それがキッカケで記憶が戻ってしまうかもしれないから?)
(…………はい)
(そうまでして記憶が戻ってしまう事を拒むのは何故なんだい?)
(………………………)
(普通なら戻る事を喜ぶと思うんだけど……)
(そんな事ないです! 無理に思い出さなくてもいいんです! そんな事しなくても……。もう、悲しみ嘆く貴方を見たくないから…。マスターにはずっと笑っていてほしいから)
激しい鳳燐の口調に哀しみの声音を感じ、そうまでして拒むその記憶について考えなくもなかったが、鳳燐のこの様子から余程真っ当ではないだろうと思い……、
(…わかった。もう記憶の事は聞かないよ。戻る時には戻るだろうしね。第一鳳燐にそんな哀しみは似合わない。鳳燐には笑ってて欲しいからこの話はここまで。ね?)
(マスター……)
グシグシと何やら鳳燐の泣いている様な雰囲気が伝わってきて、思わず苦笑するハーリー。
(ほら、もう泣かないで鳳燐)
(うぅ。な、泣いてないです! 泣いてなんかいないですよマスター?! そんな事…無いんですから……)
そんな鳳燐のいじらしさに、思わず暖かく微笑む。まったく困ったお姫様だと言いたげな感じで、
(うんうん。そうだね)
(あ! 信じてないですね?! 本当の本当に本当なんですからね!?)
(ははは。疑ってないってば)
(はぅ!? その微笑みが嘘だと言ってます!)
(そうかい?)
(そうです!)
なにやら泣き笑いの様な口調で語る鳳燐。なんとも、はたから聞いていると気恥ずかしい会話であるが、本人達はいたって真面目………いや、ハーリーは愉しんでいる様だが。
兎に角、先程までの妙にシリアスな雰囲気は消え失せ、ラブコメ調のやり取りが蔓延する中、ハーリーはそんな時間に身を任せていたのだが、突然外の方から凄い振動が伝わってきた。
それから間も無く敵の襲撃を知らせるアナウンスが艦内に響き渡ったのである。
そこからは、まあ色々と不思議なモノを見た気がした。
何せこの時代に無い筈の、あのブラックサレナがイキナリ出撃していったり、昔何かの資料で見た木連のダイマジンだったかな? あのやたらデッカイ機動兵器が出てきたと思ったら一瞬で木偶にされちゃうし、しかもその後アキトのアキトとも思えぬ冥い表情での「木連の人間、全てを消す!!」発言があったりと、前のアキトを知っているだけに、何とも信じられず驚愕したが、どうやらこの艦の人間全て意識改革をする為の芝居であったらしい。
そして除け者にされたユリカとメグミの雰囲気に戦々恐々としていたそんな時、月の衛星軌道上を航行中の地球連合艦隊から救難信号が送られてきたのである。
アキトのブラックサレナが先行し、ナデシコが追いかける様に向かっている途中、ソレは起きた。
突然通信ウィンドウが開いたかと思うと、物凄いノイズに混じって誰かがこちらに話し掛けてきたのである。
『………聞こ……そち………いるの………答え……マキビ…リ!』
酷く不鮮明なノイズ交じりの声は、段々と鮮明になっていき、そして確かにこう聞こえたのである。即ち『聞こえているであろう。其方に居るのはわかっている。答えよ、マキビ・ハリ!』っと。
ブリッジクルーがその通信を不審に思う中、ハーリーはその声の主の存在に驚愕しながらも何とか答えらしき言葉を洩らす。
「ば…かな。そんな馬鹿な?! 倒した筈だ。何でそこから声が聞こえてくるんだ!? 北辰!!」
先程までノイズ交じりに発せられていた声は、その洩れた答えを聞くなり黙り込み…
『答えたな、この我に! そこにいたか。随分と捜したぞ、マキビ・ハリ!!!』
今度は先程とは比べるまでも無い鮮明な音声で、そうのたまってきた。
「そんな、さっき確かに倒した筈なのに、ナンデ……」
『くくく。お楽しみはこれからだと言ったであろう……、おっとそれは吹き飛ばした後であったな。まあよい。兎も角早くここまで来るがよい。今、黒き機体が駆けつけようとしておる、この鋼漂う虚空の戦場へな』
そう言うと笑いの余韻を残し、ノイズの走るウィンドウは閉じるのであった。
始めに誰が言っただろう、
「なに、今の人? マキビ・ハリってハーリー君だよね? 本人は医務室にいっていないのに、何言ってるんだろう……」
っと。
その不審さには全員が気がついていた。しかし誰もが正確な答えを出せずにいた。そしてその答え本人はと言うと、
(ああ、何てことだ………。まったく本当になんて無様。確認するチャンスはあったのに…。確かめる機会は有った筈なのに……)
などと、先程倒した北辰は、ハーリーを吹き飛ばした北辰じゃなく、この世界の北辰であったのかとちょっとブルーな気持ちのハーリー。
つまり大いなる勘違いにより人一人殺っちゃった訳である。これだけ聞くと物凄くヤバそうだが、まあ、北辰だから別にいいか、と開き直ってみたり(笑)
兎に角、今度こそ間違い無くアノ北辰を仕留めなければなるまい。間違いで殺られた、無関係だった北辰には少々気の毒だが……(合掌)
そうと決めれば早速行動。あれほどの力を持っていた北辰だ、こんな戦艦の中にいたのでは御話しにならないだろうと、艦を出て単独で行く事に決めると、早速ブリッジを出る事にした。
イキナリここから外に行ってもいいのだが、まああまりに人の目も多い事だし、余計な厄介事を起こさない為そうする事に決める。
「すみません。用事を思い出しましたので、これで失礼します♪ それでは〜」
有無を言わさぬ強引さで、誰も声をかける暇も無くブリッジを後にするハーリー。
突然のハーリーのその所業に、思わずツッコミ遅れたブリッジクルー達が思わずつぶやく。
「まだ勤務時間中なんですけど……」
一方こちら廊下を疾走中のハーリーは、適当な所まで来ると双剣を抜き、おもむろに壁の空間を切り裂くと有無を言わさず突入し、フィールドを張って艦外へと飛び出すと、目的地へ向け全力疾走を始めた。
それにしても、走り出すなりナデシコを追い越すとは、恐るべしハーリー…っといった所だろうか?
それからしばらくして、例の連合艦隊がいたであろう場所に到着した。しかしその周辺には戦艦の残骸ばかりで、生き残っていそうな艦は1隻たりとも存在していなかったのである。
そして同じくこの場に到着していたブラックサレナを見つけたので、ハーリーは近付きその肩にとまる。
「アキトさん」
「どわぁ〜! な、な、な、ハーリー君?! 何でそんな所に??!」
「いえ、気にしちゃ駄目です。それより何か見えましたか?」
「気にしちゃって……。いや。これといって何も見てないんだが」
何やら途轍もなく理不尽を感じるアキトであったが、まあ実際眼の前にいるものは変えようが無い。
そんな会話をしている所へ突然音声のみの通信がつながる。
『来た様だなマキビ・ハリ。余計なオマケも付いている様だが、まあ土産代わりにするまでよ』
「どこだ! 出て来い!!」
『そう急くな、もう直ぐ近くまで来ておる。…それ見えてきたぞ』
その言に辺りを見回し、ちょうど斜めむこうより現われる紅い機体が一機。そして良く見ると、その機体の肩にハーリーと同じ様にとまる人影が……。
「馬鹿な!? 何で北辰が?! さっき確かに……」
「いえ。アキトさんの知っている、この世界の北辰は確実に先程倒しました。あれは僕の知っている世界の北辰です」
「そ、そんな事が……。!? しかもアノ機体は、まさかサレナなのか?」
そんなアキトの驚愕はさておき、比較的険悪なハーリーと北辰の方は、北辰のニヤリから話し始めた。
「ようやくまともに
「まったく、また出会う事になるなんて思いもしませんでした。しかも妙な力をつけたみたいですね?」
「それに関しては感謝をせねばな。アソコに送られねば身につかなんだ力よ。それに忘れていたモノを久々に思い起こさせてくれもした。
……くくくく。まさかこの様な所で過去になくしたモノと相見るとは思いもせなんだがな。おお、そうだ。丁度良いから紹介しておこう。我が愛娘の北斗だ」
北辰がそう言うと、突然コミュニケからウィンドウが開き、チョッピリ不機嫌げな白い制服を着た赤髪の美戦姫がいた。
「誰が愛娘だ、このクソ親父!! 貴様のその言動には虫唾が走る!」
少々口が悪い様であるが……。
「んん? どうしたのだ北斗? 先程から機嫌が悪い様だが、照れておるのか? ふふふ、愛い奴め。そうだ、我の事をパパと呼んでもかまわんのだぞ?」
「ふ、ふ、ふ、ふざけろよクソ親父!!! 誰が貴様なんぞを!! …………パ、パ、パ、パ(パシッ)」
思わずあらぬ事を口走ろうとした口を、咄嗟に手で塞ぐ北斗。どうも今のは北斗の意志ではなさげだが……。
「貴様、一体俺に何を…。そう言えば先程一瞬気が遠くなった様な…」
「ぬふふふ。何、別にこれと言って何かしたわけではない。まあ、少々記念写真を撮りはしたがな。ほれ」
そう北辰が告げた瞬間、北斗の顔色がみるみる変わっていく。どうやら途轍もなく激昂している様だ。モニターに何か映っている様だが、一体何が映っているのだろうか?
「き・さ・まぁ〜〜! 殺す。叩き殺してやるぞクソ親父!!!」
「何を怒っておる? 実に可愛らしく、愛らしい姿ではないか。枝織も大喜びするであろう♪」
嬉しそうな北辰のセリフと共に、ハーリー達のウィンドウがもう一枚開き画像が映し出される。
ソレは確かに北斗だ。黒と赤のコンストラクトも鮮やかな、いわゆるゴスロリと呼ばれる衣装を身に着けてはいたが(笑)
眠り姫の様なその姿は、実になまめかしくあでやかであり、あえかなその姿に思わず見惚れてしまいそうだ。もっとも本人の前でそんな事を言えば、即瞬殺されるだろうが。
余談であるが、この画像、実はナデシコにも映されており、後に某女指令と某幼馴染に高値で取引されたとか…。しかも命知らずなアイコラ野郎まで出る始末。ばれれば即刻抹殺されるだろうに……。まあ、その者達がどうなったかは、また別のお話。
「くそっ! 何で動かない!! さっきまで動いていたのに、この肝心な時に!」
必死に真紅のサレナを動かそうとする北斗であったが、何故か動かないらしい。そんな娘の様子を見ながら、
「さて、我が娘の可愛さをアピ〜ルするのはこの辺でよかろう。我も堪能した事であるしな。それでは我々の話に戻るとするか、マキビ・ハリ?」
そう呼ばれたハーリーはというと、ウィンドウを見ながらウンウンと頷いていた。
「やっぱり思ったとおり。北斗さんは可愛いんだから、こういう格好も似合いますよね〜」
北斗自体には前に会っていたので、こんな意見の言えるハーリーであるが、アキトの方はちょっとショックを受けているようだ。
「娘? アノ北辰に娘? ああぁ、でも親には似ずに結構可愛い。…可憐だ」などと言っているあたり、ウィンドウの映像のみの感想なのだろうが……、この後彼の身に惨劇が訪れそうな予感がするのは気のせいだろうか? いや、あえて気にすまい。未来の惨劇よりも彼の今の幸せを祈ろう。それがせめてもの手向けであろうから……。
閑話休題。
「さて、それじゃそろそろ始めましょうか? 僕達の決着というやつを?」
「望む所よ! ……主は双剣を使うのであったな。ならば我も一つ、武器を使わせて貰おう。武想具現!」
そう言って北辰はイキナリ上を向くと、身体を振るわせ、その口よりゴボリと何かを……、いや有り得ない長さの物――正確に言えばそれは恐らく錫杖だろう――を引きずり出した。
「な、な、な?!」
流石にその異様な光景に絶句するハーリー。一方北辰はそんな反応にニヤリとしながら、
「どうした、何を驚くマキビ・ハリ? あれほど妖しの技を使うお主でも、コレは少々驚きであったか?」
「少々って言うか、今のはどう見ても人間技じゃ無い様な気がするんですけど…?」
「ふははははは。この様なもの、我が力の序の口に過ぎぬ。例えば……、そうよな。それその画面を見ておれ」
そう言うと1枚のウィンドウが開き、ハーリーから見て丁度北辰の隣あたりに浮かぶそれには、先程までいたナデシコのブリッジの様子が映されていた。
「それ、例えばこの様な事もできるのよ」
何をするのだろうと思っていると、北辰はハーリーの見ているウィンドウの方に進み、あたかも続きの空間であるかのようにウィンドウの中のブリッジに現われる。
「あんがぁ! そ、そんな馬鹿な…」
ハッキリ言ってその現象は映像効果で騙されているんじゃないだろうかと疑いたくなる様な出来事であった。しかし実際に移動し、しかも北辰はウィンドウの中から声をかけてきた。
『如何かな我が力は? 他にもこのような愉快な使い方もあるぞ?』
突然現われた北辰に、混乱するナデシコブリッジであったが、その北辰に勇敢にも立ち向かう者がいた。現在艦内の警備を任されているヤガミ・ナオその人である。
しかし力量差は天と地ほどもあり、ナオが思いっきり吹っ飛ばされ、それにタイミングを合わすかの様に奇妙なリズムとフレーズを口にしながら迫る北辰。
「ハゲ、ハゲ、ハゲ、ハゲ、ハゲチャビン!!!」
かぽっ♪
などという軽い音と共に、スポッと外れるナオの髪の毛…(笑) 何をされたのかイマイチ解らず、呆然としながらもナオは自分の頭にソロソロと手をやってみる……。
「あ、あ、ああぁぁぁぁぁ!!? 俺の、俺の髪がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
思わず絶叫を上げ叫ぶナオ(爆笑)
「ぬはははははははは! 怖かろう恐ろしかろう、いかに理性で鎧おうと、我が力の前に恐怖からは逃れられんのだ!!!」
愉快そうに笑う北辰に、それを恐怖の表情で見るブリッジクルー。特に女性の方々は
「それ、これは返してやろうな。しかし我が力なくば、その頭に二度と髪は生えぬであろうがな♪ ははははははははは」
ひとしきり笑い、色んな意味で恐怖を撒き散らし、北辰はナデシコからハーリーの居る宙域に、先程と同じ様にして帰ってきた。ナオの髪を直さぬままで…。
「いやいや、まったく。我とした事が少々座興が過ぎた。しかしこれで我が力の凄まじさ実感できたかマキビ・ハリ? これこそが我が新たに手に入れし力、
「も、妄想、具現化?」
「然り。この力の前には、さしもの主と言えど勝てはすまいよ。…くっくっくっくっ。それではいざ、戦いの舞台へ参ろうか、マキビ・ハリ?」
その言葉を皮切りに、機動兵器の肩を蹴り、両者の戦いの幕は切って落とされるのであった。
両者の戦いは、何と言うか理不尽さに熾烈を極めた。ハッキリ言えば出鱈目な戦いである。重力波を放てば波乗りを始め、光術を撃てば波に向かって泳ぎだし、真空中なのに炎が舞い、無重力下を走りまわる始末。
少々人よりも強いとは言え、まだ辛うじて人の範疇に入るアキトと北斗の二人は、そんな既知外じみた戦いに呆然としながらも、すこし遠くなってゆく戦いの様子を何とかできる限り気にせずに話をしていた。
「あぁ〜、なんだかいつの間にか凄い事になってるようだけども……。っていうかアレは現実? うぅ…ちょっと信じがたい光景なんだが……」
「あの親父はいつの間に人間やめてたんだ? いや、元から外道ではあったが、少なくとも人間だったような気がするんだが…」
「それを言えばハーリー君も……。いや、北辰の方がより人間やめてる様な気もするけど、この際どっちも変わらない気もするな〜」
「アレを見ていると、強さとか人の力って何なんだろうと疑問が浮かんできそうだな。いやもうアレは悪夢としか言い様がない。ゲキガンガーも真っ青だな…」
「俺もそこそこ強いとか思ってたけど……、儚い幻想だったな〜」
「……ん? はっ! 今まで気付かなかったが、お前テンカワ・アキトか!」
「え? そうだけど…。何でそんな事を君が知って…?」
「危うく忘れる所だった。知っていても可笑しくなかろう? お前は結構有名人だからな。戦ってみたいと思って、『場』の準備もしておいたんだが……そこへあのクソ親父が突然現われて有耶無耶になってしまったが。兎に角、貴様には戦ってもらう。その強さがどれほどのものか、試させて貰うぞ!」
そう言って、今まで対峙する様に浮かんでいた二機のサレナの内、北斗の真紅の機体が唐突に翔け、ブラックサレナに不意の一撃を放つ。
「危なっ! 何するんだ突然?!」
「ふっ。惚けた事を抜かすな! 元々お前と戦う為に用意した『場』であり機体だぞ? 期待に答えて貰うぞ、テンカワ・アキト!」
こうして、こちらはこちらで戦闘に入る北斗とアキト。こちらも一般的に非常識な戦いを展開するのだが…、やはり理不尽具合ではハーリーと北辰には敵わない様だ。
一方そのハーリーと北辰はと言うと、今だ激しく熾烈な戦いを繰り広げていた。
「非常識だ…、理不尽だ…、滅茶苦茶だ!?」
「ぬははははは♪ ぬるいぬるい! この程度の攻撃では我を倒す事など、できはせんぞ!」
結構強力な放出系の攻撃を色々と繰り出し、北辰に向け命中はしているのだ。がしかし、そのどれもが理不尽で出鱈目な避け方や返し技等で応戦迎撃され、一つとしてまともに効いてはいなかった。
「このままじゃ埒があかない。……あんまり近付きたくないけど、こうなれば直接斬り捨てるまで!」
キッと北辰を見据えると、今までの『つかず離れず』から『一気に接近』に切り換え、双剣抜刀の構えのまま一瞬で距離を詰め、有無を言わさず斬りつける。
「ぬ!?」
次の瞬間、カキンッという音と共に信じられない場景が展開されていた。双剣抜刀で二刀両断にしようとした所、双剣の刃先を錫杖の両端で止めていたのである!
「な!? そんな馬鹿な!!」
「ようやくその武器で戦う気になった様だな?」
神速と言っても過言ではなかったであろうその斬撃を、止められてしまった事が信じられず、驚きを隠せないハーリー。北辰の方も、待ってましたと言わんばかりに、愉しそうな表情を浮べながら、
「くくく。不思議か? 今の斬撃止められたのが? 主の抜刀は実に鋭く正確であったが、逆にそれ故こうして止める事も可能なのよ。しかし今の一撃を見、安心したぞ? これならば接近戦も楽しめそうだ!!」
言うが早いか両者ほとんど同時に離れ、またも素早き踏み込みもって、熾烈な打撃斬撃を交し合う。
しかし今度の斬り合いは先程の撃ち合いと違い、両者共に傷付きながらダメージを負っている。
そしてハーリーの技も放出ではなく剣に付与するものならば、何とか北辰に効いている様だ。
(よし! これなら奥義も効きそうだ! …………当たればだけどね)
色々と考えを巡らしながら、常人にはついていけない速さで切り結び、浅い傷の増えていく両者。一合二合三合四合と神速の舞踏を展開しながらも、しかしお互いの技を見切るかのごとく、次第に斬り合いだけでつく傷は減っていく。
双剣の斬撃が、錫杖の一閃が、あたかも流れる殺陣の如くありながら、ハーリーと北辰互いの、心を、魂を、熱く熱く燃え上がらせて行く。
気が付けば笑っていた。ハーリーも北辰も燃え尽きるようなその戦いに、興奮し、熱血し、その身を焦がすほどに二人で舞った。
身体が燃える、血が
戦い続ける刃となって、駆け巡る衝撃となって……。
「素晴らしい! 何と素晴らしき闘いよ!! この、身を燃やし、心を焦がす感覚、久しく忘れておったわ!!!」
「まさかこんなにてこずるなんて…。技の実力は伯仲してるってことか。でも何でだろう、はははは、こんなに身体が熱くなるのは初めてだ。…僕は…この戦いが、楽しい、のか…?」
躊躇いがあった。焦燥にも似たこの感覚にも迷いがあった。しかし認めるしかあるまい。自分は今、確かにこの不倶戴天の天敵との戦いを楽しんでいるのだ。ミツリとの戦いでも、他の誰との戦いでも、今まで感じる事のなかったこの感覚。
しかし互いに倒さねばならない事に変わりなく、興奮・焦燥・不安・歓喜・期待・殺意、色々な感情がない交ぜになりながらも、それでも自分は愉しいと感じている。
「なんとも甘美な一時よ…。もっと長く味わってもみたいが、そうもいかぬか。互いに最高の技を持って決着をつけるとするか、マキビ・ハリ?」
「ええ、そうですね。残念な気はしますが、仕方ありません」
そう言葉を交え、お互いに気息を整え、力を溜めていき、タイミングを計るかのように数瞬を緊張し張り詰めた雰囲気が漂う。そして次の瞬間、申し合わせたが如く同時に駆ける。
「武想無式 奥義 絶陽!」
「剣斬連舞 百華繚乱!」
どこまでも漆黒に染まる錫杖を振るう北辰、そして別々の色に染まる双剣を、答えるが如く放つハーリー。
凄まじい衝撃波とエネルギーの奔流に、二人を中心に何かが弾けた。
一振りするごとにその色を変える、双剣の属性攻撃。一撃一撃が必殺の威力であろうその斬撃に、これまた過剰とも思える尋常でない力が込められた錫杖の必殺の攻撃。
めまぐるしく輝く万色の乱舞。それに混じり、融け合うように、しかし断固としてその存在を主張する様な、深い漆黒とのコントラスト…。
外から見ればなんとも美しい光景だが、一歩でもその中に足を踏み入れれば、一瞬にしてその身を滅ぼされるであろう力の渦流。互いの力が拮抗し、つくりだされたその光景は、拮抗しているが故にその力の弱まった方に、その全てが流れて行くだろう。それは即ち敗れた側の容赦無い滅びを意味する。
そんな事を考えているのかいないのか、両者威力を緩めず、何合もその攻撃を見舞い合う。流れる様なその動きで、自然とも思えるそのやり取りを…。
そんな中にあって二人は矢張り楽しんでいた。チリチリ来る様なその危機感も、ゾクゾク来る様な緊張感も、極限状態であろうこの時に、二人揃って楽しんでいた。
しかしそんな二人の状態もそれほど長くは続かなかった。世の中はえてして予想もしない事が起こるものである。そしてそれは隙を突く為のその一撃が交わった時に起こった。
「終わりです!」
「そうは行かぬわ!!」
隙を突いての渾身の一撃に、これまたそれを凌ごうと無理な体勢から無理矢理放つ渾身の一撃。その双方が交わった瞬間、遂にその空間が、辺りに溢れる凄まじい力に飽和状態を超え悲鳴を上げる。許容限界を超えた力はアッサリとその周辺の次元を崩壊させた。
「「なにっっ!?」」
三次元では支え切れなくなったエネルギーの奔流は二人を巻き込み、凄まじい爆流となって辺り一帯を巻込みながら別次元へと流れ込んで行く。
「な!? そん、うわぁぁぁ?!!」
「こんな! ばか、ぬわぁぁ!??」
その力の前に、人など
To
Be
Continue(笑)
なんちゃって♪♪♪
そこはどことも知れぬ空間。人という種が理解しきれないそんな場所。五次元とも精神世界とも夢幻界とも呼ばれるそんな世界。
そんな世界のある場所で、彼はそれを発見したのである。
「ほお! これは珍しい。まさかこんな所で三次元体に御目にかかれるとは。何か凄まじい力に押し上げられた様だが……。面白い、少々調べて見るとしよう」
そう言って彼は、ソレをお持ち帰りするのであった(笑)
音が聞こえる。昔何所かで聞いた音。不快感と共に思い出される、その音は悪夢へ向けての先駆け。
今日もまた地獄が始まる。進歩という名を借りた狂気の実験が……。
「うわあぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」
凄まじい叫びを上げ、思わず起き上がるハーリー。荒い息を整えながらふと辺りを見ると、そこはまったく見覚えの無い、白を基調とし広く奇麗に整えられた室内であった。
「え? ここは一体…。僕は、僕は実験に……。 ? 実験? 実験って何だったっけ?」
先程まで何か思い出していた様な気がするが、それが何だったのかイマイチ思い出せない様だ。夢の記憶はかくも儚く…。
「目が覚めた様だな、少年?」
思い悩むハーリーに不意に掛けられるそんな声。ハーリーが振り向いた先にいたのは、これまた白っぽい服を基調として着て鼻眼鏡をした、少々目付きの鋭く皮肉げな口元の、ウェーブのかかった銀髪の男であった。
「貴方は? いえ、それよりもここは一体…」
「ここは私の
「へ? あっ、すみません! 名乗るのが遅れました。僕の名前はマキビ・ハリです!」
「私の名は
名前を聞いたにもかかわらず、その名前自体にさして興味を示さず、唐突に話を進め始める神我人。
「実に稀有な事では有るが、信じ難い事に君はここにこうしているのだから、それは可能であったという証明であるわけだ。ゆえに聞きたいのだよ、如何様にして君の居た次元よりも二階梯上のこの次元へとやって来れたのか、をね」
「は? あの…、仰ってる意味がよく分からないんですけど、それってどういう事なんですか?」
「…ふむ。つまりここは君が居た筈の三次元世界ではなく、それよりも存在階梯が2つ上の、君達が五次元と呼んでいる世界なのだよ」
「……………はい?」
実に簡潔に解り易く説明されたにもかかわらず、ハーリーは思わず間抜けな声で返事を返す。
「霊質世界、精神世界、夢幻界。他にも色々呼び名はあるが…、どちらにしろ肉体あってこれる様な所では無い筈なのだが……。まったくもって奇妙な事だ。しかもその身体自体かなり危ういバランスで保たれている様に見受けられる。ますます持って興味深い」
「え〜〜っと、危ういって僕の身体、どこか拙いんですかね? 人より丈夫に出来てると思ってたんですけど…」
神我人の言動に思わず不安にかられるハーリー。そんな不安げな顔に、フムと何かに納得しながら、
「詳しく診て見なければ何とも言えんが…。どうする、少年?」
無表情にも見える神我人の顔に、何やら不安を感じるハーリーであったが、少し診てもらうぐらいいいかと納得する。
「えっと、もしよろしければ診て頂いてかまいませんか、神我人さん?」
そのハーリーの返事に、思わず嬉しげな愉しげな何ともいえない笑みを浮べる神我人。
「そうか!!! いやいや、任せておきたまえ。悪い様にはせぬからな♪」
そんな神我人の様子に、思わず(ちょっと早まったかな〜)っとチョッピリ後悔するハーリー君でありました。
「あの〜、何かそれらしい装置とか、使わないんですか?」
特に何の準備も無く事を始めようとする神我人に、思わずそんな疑問を投げかけるハーリー。そんなハーリーに苦笑しながら、
「一つ認識しておくといい。ここは根本的に君のいた三次元とは異なる世界であるという事を。ここでは基本的に精神力がモノを言う。確たる思い、強固な意志、そうと思う強い心、そう言ったものが力を持つ。そしてここの住人は基本的に精神体だ。こうした外見を持ってはいるが、物理的な肉体を持つ者は皆無だろう。今の君を除いてはね」
ハーリーの認識の無さに説明を入れる神我人。そんな神我人をポカ〜ンと見るハーリー。
「ん? どうした、少年?」
「いえ、そんな存在次元の違う世界へどうやって来たんだろうと思いまして……」
「ふふ。それも含めてこれから調べるのだよ少年。さあ、リラックスして精神を安定させたまへ」
ハーリーをリラックスさせると、神我人はおもむろに右手に嵌めていた手袋を外しハーリーの顔に向けてくるが、驚いた事に先程まで手袋を嵌め動いていた右手はどこにも無かったのである。
神我人の右手にギョッとするも、先程言われた事を思い出し、そんなものなのだろうと思い直す。
そしてそうしている事数十秒。いまだ右手をかかげたまま神我人が話し掛けてきた。
「少年。君の身体はかなり際どいところで均衡している様だ。今すぐどうこうと言う事は無いが、これだけならばとっくに均衡が崩れていたろう。別に何か身体を支えているものがある様だな?」
「え? あ、はい。守護精霊の皆さんが身体のフォローをしてくれてるみたいなんですけど…」
「ふむ…。この身体を支えるのであれば、かなりの負担がかかっていただろう。誰がやったかは知らんが、この程度の物を共生させる事もできんとは、とんだヤブにかかったものだな少年?」
「正直その辺の記憶が無いんで、僕からは何とも言えないんですが…」
「記憶が喪失しているのかね?」
「はい。異世界に渡った時のショックか、着いたばかりの時は自分の名前以外思い出せなかったんですけど、旅をして行く内、段々と思い出してきました。それでもまだ思い出せてない記憶があるみたいで……」
神我人は少々神妙な顔付きをしてから、
「まあ、原因を調べるぐらいの事はできるが……。とにかく、先にこの体内に乱生しているナノマシンを最適化してしまうとしよう。これでかかる負担は皆無になり、逆に今までに倍する身体能力を得る事になる筈だ」
「え? それって今より強くなっちゃうって事ですか!?」
「君の身体は元々丈夫に出来ている様だ。それにこの身体能力が加われば、その手一つとて文字通り凶器と化すだろうな。ようは己の使い方次第と言う事だ少年」
そんな理知的な神我人の態度に、思わず尊敬の眼差しを向けるハーリー。
「神我人さんって凄い方なんですね〜」
「この程度の事、埒も無い事だ。逆にこの程度の物もモノに出来ん様な奴が不出来過ぎるのだ」
フッと鼻で嗤いマッドな邪笑を浮べる神我人。もうヤマサキ、ボロカスである(笑)
「これでいい。物理的にも魔術的にも最適化しておいたので、既に身体の一部となっている筈だ」
「へ? もうですか? ……そう言われてみれば、何だか身体が軽くなった様な…」
「それと、どうにも体内で役に立っていない、別種のナノマシンがあったので取り除いて置いたぞ少年。どうも人格マトリクスの様な感じだが…。何とも面白いサンプルだ。これを貰っても構わんかね?」
「へ? いや別にそれは構いませんけど…。お世話になってるわけですし…」
「そうか! すまんな少年。お陰で面白い研究材料が一つ増えた♪」
喜々としてそんな事を言う神我人であったが、すぐに元の表情に戻り、
「それでは続けて記憶の喪失部分の方に移るが……、君の記憶を少々見せて貰っても構わんかね?」
「それは構いませんけど……」
どこか不安げな感じのハーリーの様子に、神我人は苦笑しながら、
「そんなに不安がらなくてもいい。例えるなら、君の今までの軌跡を、印象的な所を抜き出してダイジェストビデオにした感じだ。何も君の全ての記憶を覗き見る訳ではない。第一それでは全て見終わるのに何年もかかってしまうぞ少年?」
「あは、あははははは。そうですよね。よく考えれば判る事でした、すみましぇん」
(何だか僕って最近こんなんばっかしだな〜(泣))などと、ひたすら後ろ向きな事を考えながら、思わず自分の迂闊さに落ち込むハーリー。
まあ、それはそれとして、ハーリーの記憶を走査し始める神我人。ハーリー的に大事件だった事や、やけに心に残っている事などがダイジェストとなり、産まれてからのハーリーの物語を観て行く。
やがてナデシコと出会い、憧れの艦長との出会いがあり、火星の後継者との戦い、戦いの終結と続き、艦長の追い掛けっこに付き合い、そしてボソンジャンプ、記憶はロストし、美津理との出会い、幽祢との追い掛けっこ、色々な世界を巡り、北辰との戦いになり、莫大な力の奔流に巻き込まれ、吹っ飛ばされて今に至る……。
神我人はそんな感じの内容を見たのだが、ふと疑問に思う所があった。記憶のロストしている部分に、何やら作為的なものを感じた。…いや、封印されていると言った方が近いだろうか?
兎に角、鍵はココにあるだろうと、再びそこを重点的に調べ様としたその時……、
《駄目ですぅぅぅ〜〜〜〜!!!!》
っと、精神内にその声が響き渡り、思わずギョッとする神我人。
《その記憶は触れちゃダメ駄目ですよ、神我人さん!! そんな事して、もし記憶が戻ったりしたらどうするつもりですか!》
イキナリ現われた鳳燐がギョッとしている神我人に捲くし立てる。そんな鳳燐に神我人はいつもの冷静さを取り戻すと、
《君が鳳燐君かね? 彼のもっとも信頼する第一守護精霊。神霊 鳳凰の化身……》
《え? もっとも信頼してるだなんて、照れちゃいますね。てへへへ♪》
などと、褒めの言葉とも取れるその言動に、思わず照れる鳳燐。相好を崩すイメージが伝わって来そうである。
《どうやらこのロストしている記憶の部分に、全ての原因がありそうだが…、どうして止めるのかね、鳳燐君?》
《兎に角、ココの所は駄目なんです。まだ中盤ぐらいまでならマシだったんですけど、終盤辺りはとても見せられません! 辛過ぎる記憶ですんで、マスター自身が記憶を無くされたんですけど、今そこを含む辺り全体が封印されているのは、途中まで半端に憶えていたら、何かの拍子に芋蔓式に記憶が全部蘇るのを防ぐ為なんですよ?
ですから、ココから先はお見せする訳には行きません! お引取り下さい》
断固として通さずの姿勢を見せる鳳燐に、神我人は少々考え話し出す。
《その辺に関しては心配せずとも構わんよ。本人に影響無く記憶を見るすべぐらいは持ち合わせている。それにその中の記憶で、悪影響と思われるものに関しても言わずにおくつもりだが、どうだね? 君を除けて無理矢理見るという手もあるが、私は出来ればそういう乱暴な手段はとりたくないのだが……》
ニヤリと笑う神我人に、ウッと言葉を詰らせる鳳燐。確かに自分だけでは神我人を止められないだろうし、出された提案はまったくもって理想的だ。しかし、矢張り何処かで見せたくないという気持ちがある様で、素直に了承できないでいた。
まあ、それでもそうやって悩んでるのは僅かな時間だった。何とか理性で感情を抑え、渋々了承する。
《…………分りました。でも本当に本当にお願いしますよ? 封印部分は蘇らせない様にして下さいね?》
《承知しておる。任せたまえ》
そう言うと神我人は、早速問題の記憶部分に潜行していく。始まりから途中までは、まあ鳳燐の言う通り普通と言っても良かったが、シャトルより拉致されてからの経験は、まさに人なのだろうか?と思わせる様な体験や、常人が考えうる人間のする事か?と思える様な事が満載されていた。
確かにこんな体験、通常の精神では耐えられはすまい。それでも三下り半を突きつけられるまで精神状態が異常をきたさない辺り、かなりの精神力であるだろう。
ハーリーのそんな記憶を興味深げに観ながら、この素晴らしいサンプルならアレの仕様にも堪えうるのでは、と胸を高鳴らせる神我人。原因も判った所で胸の高鳴りを抑えながら、潜行を止め戻ることにするのであった。
「ふ〜む…。何とも難しい問題だな。これは私がどうこうする様な問題ではない様だ」
「そうなんですか?」
「君自身の微妙な部分でもある。自身の力で思い出す事をお勧めするぞ、少年」
「やっぱりそうですか……。実は鳳燐にも…あ、僕の守護精霊なんですけど、にも前に言われたんですよね〜」
何やら困った様な嬉しい様な、複雑な表情をするハーリーに、神我人は微妙に楽しさの浮かぶ顔で話し掛ける。
「それはそうとだな少年。少々今の身体の性能を確認してみんかね? 操れる力も今までとは比べるも無くの筈だ。調整した私としても、その結果を見てみたいのだが……」
「そうですね。僕もちょっと試してみたかったんです! お願い出来ますか?」
「任せておきたまえ♪」
そう言って神我人が指を鳴らすと、スゥ〜っと今までいた部屋が別の部屋へと変わってしまった。
「うわ〜。凄い…」
「さあ、ここならば力を試すのに丁度いい筈だ。的もあるので使ってみたまえ」
神我人の言葉と同時に、黒光る床からスッと円柱のような物が多数貫けてきた。
「それじゃあ、ちょっと使わせてもらいます」
そう言い駆けてみると、ハーリーは自分が思うよりもずっと、とんでもない能力が発揮された。瞬発力や跳躍力などが思ったよりもずっと強力になっていたのである。それに加え、どうやらフィールドや空間支配等の力も増しているようだ。
そして試しに的たちに攻撃を仕掛けてみるが、これも素晴らしい速さと威力で次々と撃破してしまった。
「…凄い。何だかとんでもなく能力アップしちゃってますよ、神我人さん!?」
「まあ、そんなものだろう。今までの君の状態が異常で、身体に随分負担をかけていたようだし、それが無くなりプラスに働けば当然そうなる」
「有難う御座います神我人さん! こんなに良くして貰っちゃって…」
「別に構わんよ。片手間にやっただけの事だ。それよりも、それだけの能力があっても、はたして彼女に勝てるか、っと言うのが問題ではないかね?」
「そうなんですよ……って!? 神我人さん! 彼女の事を、幽祢の事を知ってるんですか?!」
「君の記憶の中でチラッと見かけたのだが…。彼女は結構有名人なのでね。私も知っているよ、あの変わらずの姫君の事は、ね」
不敵に笑う神我人に、驚きの表情のハーリー。幽祢はどうやらこっちの世界では有名人らしい。まあ、ハーリーが知らないだけなのかもしれないが。
……そう言えばこの前出会ったオルトリンデも知っていた様だし、やはり知らないのは自分だけの様だとハーリーは一人納得する。
「はあ〜。幽祢って有名人だったんですね〜」
溜息をつきながらぼやくハーリー。そんなハーリーを見、神我人は何だかワクワクした雰囲気で、ハーリーに話し掛ける。
「色々とこれからが大変そうだが…。そこでだ、少々私の試験に付き合ってみないか少年?」
「試験って、一体何の試験なんですか? お世話になりましたし、多少の事ならお手伝いしますが………」
「なに、簡単な事だよ。私の造っているある物のモニターをやって貰うだけだ」
「……ある物って、一体何なんですか?」
不安の隠せないハーリーが訝しげに訊ねると、神我人は握った右手を差し出し、
「そう警戒するような物ではない。ほらこれだ」
そう言って開いた掌には、6つの小粒な深紅の宝玉が、綺麗に輝いていた。
「これは?」
「今研究中の超小型のパワージェネレイターだ。これを付けるだけで相当な力が得られる筈だ。より完成度を高める為に、これのモニターをやって貰いたいのだよ。もし結果が良好ならそれを差し上げるが、いかがかな、少年?」
「それは構いませんが……」
「そうか! よしよし。では早速取り付けるとしよう」
喜々として言う神我人であったが、その動きがふと止まる。ハーリーを、正確にはその腰の方をジッと見詰めている様だが…。
「少年、その腰の剣を少し見せてもらえるかね?」
「はい、いいですけど…」
スラリと双蛇剣を引き抜き、神我人に見せると、何やら感慨深げな顔をしながら、
「少年、この剣の銘は何かね?」
「邪神双剣・
「ふふふ。奇しくも双蛇の剣と言うわけか…。まったく何かの縁なのか。
すこし前に私が、三次元世界で乗っていた艦の名も『双蛇』という。そう、その剣もまた双蛇。中々に縁がある様だな少年」
双蛇剣を調べながらそう言う神我人。偶然ではあるだろうが、その偶然がまた面白い。
「どうやら、かなりの物らしいなこの剣は。よし、まずはこれにするか…」
神我人が手にしていた剣が、その言葉と共に神我人の前に浮き、蛇頭を向ける形で止まる。神我人は手に持つ深紅の宝玉を蛇の眼の辺りに近付け、押し当てる様にすると、どうした事か宝玉はそこに穴があるかの様に、瞳にはまり込み、見事な象眼と為ってしまったのである。
天地両方の剣に象眼し終えると、剣はそのままハーリーの手に戻って来た。
「うわ〜。綺麗ですね、これ」
「これで剣自体の力も上がった。次は……少年、両腕を出して貰えるか?」
持っていた双蛇剣を仕舞い、言われたとおり両腕を差し出す。次は何をやるんだろうと、期待の眼差しで神我人を見るハーリー。
神我人の手に残っていた残り2つの宝玉がフワリと浮き上がり、スッとハーリーの両腕の手首の少し下あたりに移動すると、何の感触も無く腕に落ち、ハーリーの腕と融合してしまったのである。傍目には手首に半球の飾りをつけている様に見えるが…。
「え? え?? えぇぇ〜!? 神我人さん、これ大丈夫なんですか?」
コンコンと宝玉を指でつついて見ながら、不安げに神我人に聞いてくる。
「心配しなくても良い。一応そこに埋まってはいるが、まだ完全に融合してしまった訳ではない。まあ、それでも十分力は出ると思うが…。完全にそれと一体化したなら、今の状態よりも出力は跳ね上がるだろうが……。……ある意味それをやると生命として存在を1つ上にシフトしかねないのでね。モニターを引き受けてもらっているのに、そこまでするのはどうかと思って、現状のまま留め置いたのだが……、進化を望んでいたかね? それならば余計な事だったかもしれんが」
「あ、そうなんですか…。いえ、ご配慮有難う御座います。まあ、僕自身あんまりそんな事考えもしなかったんで実感湧きませんけど」
「……まあ、それはいい。それよりも、今はその力試してもらわねばならんのだが…」
「? この部屋じゃ何か不味いんですか?」
「元々私の研究していたその宝玉には、今のそれよりも強力なオリジナルがあったのだが、私の手ではまだそのオリジナルの出力を超えられないでいる。その為出力の問題を一応数でカバーする為、オリジナルの倍の数を用意したわけだが…。
その出力を発揮していた場所が、ここ五次元ではなく三次元であったので、私もそれ用にチューンしておいたのだ。ここで力を発揮しないわけではないが、三次元での成果が見たい訳だ。理論的には同等に近い数値が出るはずなのだ。まあ、それは完全融合した場合ではあるが。その誤差の修正もある程度は予測できる。
なので君にはちょっとした戦場に跳んで貰おうと思っている。その力が存分に発揮できそうな、そんな場へとね」
輝ける星々に飾られた満天の星空…、いや宇宙にいるのだから空も何もあったものじゃないが、兎に角闇と星光の支配するこの宙へハーリーは来ていた。
正確に言えば神我人に送り込まれたのだが…。
「ああ、こうして宇宙を見るのって久しぶりな気がするな…」
今まで色々とゴタゴタしていて、こうして星を眺める暇など無かった為、シミジミとそんな事をつぶやくハーリー。
そこへイキナリ頭の中に神我人の声が響いてきた。
《無事に着いたようだな少年。では早速だが、今からその辺りの宙図を送るので参照してくれたまへ》
神我人にそう言われた直後、ハーリーの頭にこの辺の宙図らしきイメージが広がる。どうやらココは地球の近くらしいが…。地球と月以外に、他にも何やら大きい光点と小さい光点があり、どちらも地球に向かっている様だ…。
《参照はできたかね? 単刀直入に言えば、今移動している光点が、君がどうにかすべき対象だ》
淡々とした口調で説明していく中、小さい光点の方のイメージが展開される。それは人が貼り付けられた脱出ポッドらしきもの。そして大きい方も展開され、こちらは結構大型のコロニーらしき物…。
《そのどちらも今地球に向かっているのが判るかね? このまま放って置けば、小さい方は貼り付けの人物が大気圏で燃え尽き、大きい方はそのまま地球に突っ込み直撃。ちなみにそのコロニーは大体直径10Kmほどの大きさがある。それが何を意味するか判るかね少年?》
冷静な神我人の口調とは裏腹に、ハーリーの脳内では凄まじく嫌な予測のイメージが広がってゆく。海に落ちればまだマシな方だ。最悪人類の何分の一かは一瞬で壊滅。舞い上がった塵により地球は閉ざされ氷河期が訪れ、人類は確実に滅びの道を歩んで行くだろう。そう、かつて恐竜が滅んでしまった時の様に…。
「そ、そんな事を…!!!」
《どちらか一方をどうにかすれば、もう一方は間に合わ無いだろうが……、君ならばどちらを選ぶ、少年?》
「決まってます! 両方です!!!」
そう叫ぶや否や、小さい光点の方に全速力をもって疾走するハーリー。その速度、今まで出し得ていたスピードとは比較に無らない速さであった。
そんなハーリーの様子に、思わず苦笑する神我人であったが、ハーリーがそれに気付く暇は無い様であった。
場所が宇宙にもかかわらず目標のポッドにはすぐに追いついた。しかしそのスピードから追い越すかとも思ったが、信じられない急制動をもって減速し、ポッドに取り付いてしまったのである。
「大丈夫ですか!? 生きてますね?」
心配で貼り付けられている人に思わず声をかけるハーリーであったが、かけられたその人物は、その状況にもかかわらずポカ〜ンと呆けた様に見返してきていた。よく見るとその人物は少女の様だが…。
(ラプラスさん、どうにかなりますか? フィールドをこのポッドに纏わせたまま、僕はコロニーの方に向かいたいんですけど)
(正直ちっときついが…。そうじゃな、その片腕の宝玉で出力を上げてみてくれんか? どうにか維持できるぐらいはやってみるが)
(うぅ、初めてなんで遣り方が……。ええぇ〜い、やってやれない事は無いはず!!!)
思い直し、腕の宝玉から力が流れ出す感じでイメージすると、意外に簡単に、しかも予想もしていなかった力がハーリーの中に流れ込んできた。
「…凄い。身体中に力が溢れる。これなら……」
「うむ。十分じゃぞ坊。儂が顕現しフィールドを維持するぐらいは何とかなるじゃろう。しかし正直どれほど持つかは分らん。儂も頑張ってはみるが、できるなら早目に戻ってくる事をお勧めするぞい?」
「分ってます! もう少し頑張って。必ず助けてあげるから」
貼り付けの少女にそう声をかけると、今度はコロニーに向かい全速で駆けていくのであった。
「…今の人は一体何だったの?」
呆然とそう呟く少女に、思わず苦笑するラプラス老であった。
一方、コロニー方面に向かっているハーリーは…、
「10Kmなんてとんでもない大きさの物、どうにか為るのかな? いや、成さなくちゃ為らないんだ! どこかも知れない世界だけれど、見捨てるなんて
不安を零しながらも前を見据え先に進むハーリー。そんなハーリーに同調するかのように輝きを増す宝玉。その溢れる力を受け、鳳燐とマクスウェルも思わず顕現してしまう。
「さっすがマスター、好い事言います♪ どんなに大きいコロニーだって、メッタメッタにしちゃいましょう!」
「出来れば一撃で終わればよいですが……、フォローはお任せあれ。撃ち洩らしの始末もサポートしますぞ、マスター」
「ははは。ありがとう鳳燐、マクスウェルさん。どうやら見えて来たみたいだね」
その言葉通りハーリーの見据える先に、ポツンと小さくではあるがあのイメージ通りのコロニーがあった。しかし、そのコロニーは相対的に凄いスピードで迫っている為、もの凄い速度で大きくなってきていた。
「
行きます!! 虹舞流魔双剣術 橙の奥義 重操襲星断ぁぁぁぁぁん!」
双蛇の両目が輝きを放ち、剣身から橙色の光が数百mも伸び、一瞬にして近付いてきたコロニーに向けて、X字に斬りつける。最初の交点が少し下すぎた気はするが、見事にX字が刻まれ、斬られた所からボロボロと崩れていく。
「いかん!!! 不味いですぞマスター! 今の攻撃、少々切れ味が良すぎたようです。それに加え目標がでかすぎた為、まだ斬りつけておらなんだ上三分の二ほどが残っておりますぞ?!」
マクスウェルのその叫びに顔を引きつらせながら振り返るハーリー。確かにいまだ上方部分が残り進行を続けている様だ。
「何て事だ!? 交叉点が少し下過ぎた! クソッ間に合え!!!」
言い始めるが早いか全力で追い縋るハーリーだったが、今度は先程の様に簡単にはいかない様だ。
(どうする? 前に回ろうにも、その時間が勿体無い。でもこの距離じゃ奥義は当てられないし……。まだ使いこなせてないけど秘奥義を出すしかないか…)
考えを纏めると、早速走りながら準備にかかる。するとハーリーの身体の周りを万色に輝く光が被い、渦巻き両手へと集束していく。
「虹舞流 秘奥義 虹蛇滅翔!」
両手に渦巻いていた万色の輝きが、両手を前方に合わせる事で凄まじい渦流と化し、両腕を軸に円状に爆流を放ち、爆流の泉よりあたかも天に昇る竜の如く、巨大な虹色の蛇が凄まじい速度でコロニーの残骸に向かい飛翔する。
その凄まじい力を受け、残骸の半分が一瞬にして喰らわれ消滅してしまった。しかし残った半分はその勢いを受け、ますます速度増しつつ進行して行くのであった。
「やっぱりまだ完璧にコントロール出来てない。どうする? また外したらますます時間が無くなる。どうしたら…」
走りながら苦悩するハーリーであったが、その時不意に出掛けにかけられた言葉を思い出す。
・
・
・
「一応念の為にその宝玉との融合の方法を教えておこう。使うかどうかは君次第だがな」
「まあ、聞くだけならタダですしね」
お気楽な調子のハーリーであったが、それは特に気にせず話を進める神我人。
「なに、難しい事では無い。むしろ簡単にしたぐらいだ。用はただの一言で済む。しかし唱える前によく考える事だ。それが君にとって、後悔しえぬ事であるかどうかを。用いて得られるものが対価であるかどうかを。道を進む事は出来ようが、戻る事はあたわぬのだからな…」
神我人の神妙な口調に、しかしハーリーはお気楽そうでありながら当然といった口調で、
「でもきっと、僕がその選択をしようと決めたんでしたら、その時はそうすべき時だったって事ですよ。それに、今まで反省はしても後悔はしない様にしてきましたんで。ですからきっと大丈夫です」
「…………………そうか。ならば私が言うべき事は一つしかない。教えておこう、その言霊を…」
・
・
・
「ちょっと早すぎる気もするけど、今がその時…かな?」
そして思い起こすは神我人の最後の一言。
―― 進化の
「
その瞬間、宝玉を中心に何かが変わった。自分の中の何かが全てが、確実に違う何かに変わっていった。今までとは明らかに違うこの感覚に、溢れるこの力に、途惑いながらも受け入れる。これが、後悔せぬよう選んだ道だから……。
そしてハーリーは、一瞬にしてコロニーの残骸に跳んだ。
「ここは? 残骸の中?」
気が付くとそこは、何かしらの構造物の中らしかった。そして恐らくあの一跳びでここまで来たのであろう。
宙図のイメージで確認すると、丁度光点の中心らしかった。
「結構便利だな…。まあ、都合がいい。ここなら一瞬で決められる。一片残さず無くす!」
そう言って双剣を抜くハーリーの周りを、多色の光が乱舞し始める。今までよりもずっと簡単に技に入れる事に感心しながら、気合を込めその一言を発す。
「絢爛舞踏 精霊乱舞!」
その一言に、周囲を乱舞していた精霊達が一気に解放され、全てを巻き込み踊り狂い始めた。
その苛烈さとは裏腹に、何と華麗で圧倒的な美しさだろうか。精霊達の乱舞踏は一層激しさを増し、数秒後には残骸を溢れ出し、正味30秒もかからずその全てを消して見せた。
「…ははは、スゴイ。これ程とは思わなかった。…まあ、それは置いといて、ポッドの方は今どこだ?」
確認すると、光点は今にも大気圏に突入しようかという所であった。
「少々遅れましたが、今行きますよラプラスさん!」
走り出したハーリーは、ほとんど飛ぶような速さで加速し、大分地球に近付いていたらしく、程なくポッドと合流した。
「お待たせしましたラプラスさん!」
「間に合ったな坊! 何とか持たせたが、途中のパワーアップが無ければ、ちょいと危なかったかも知れんぞ?」
「しゅみません。それで、無事ですよね?」
「あたぼうじゃ! 間に合ったと言ったじゃろう? 来た時のまんま、何も変わっておりゃせん」
「そうですか。大丈夫ですよ、もうすぐ助かりますから」
先程まで呆然としていた少女だったが、そんなハーリーの言葉にハッとし、
「ちょっと、ちょっと待ってよ! 何がどうなってるわけ?! そんな…、そんな所にいたら危ない…燃えちゃうわよ!!」
「あはは。大丈夫ですよ♪ 大気圏突入は前にも体験してますし、何よりフィールド張ってますからノープログレムです」
「はぁ〜〜ん(泣)、そういう事じゃないと思うの。大体ポッドの外にいるのに何の装備もしてないって時点で、人として可笑しいでしょ!??」
「そういう事は気にしちゃ駄目です。眼の前に在る現実は変わりませんしね。僕も昔理不尽を感じた事がありましたけど、現実は変わりませんでしたし…。そういう物だと納得するしかないですよ?」
ハーリーの脳裏には、少し前に出会ったマリア・ラーネットの数々の理不尽な所業が思い出されていた。ウンウンと納得するハーリーに四肢を固定されている少女が今動かせる頭を振って理不尽に抗しようとしていた。
「ちが〜う! 絶対違います! こんなの…、こ〜ん〜な〜の〜〜、ちが〜〜〜〜〜う…」
少女の叫びをBGMに、大気圏に突入したポッドは、地上に向け流星が如く翔けるのでありました。
それから数分後、フィールドで覆われたポッドは、ハーリーに姿勢を制御されながらゆっくりと地上に降り立ったのである。
「ようやく到着ですね。いや〜長旅でした」
「もういいわよ。ここまで来ちゃったら、いくとこまで行っちゃえばいいじゃない」
チョッピリいじけ気味の少女に苦笑しながら、ふと少女の四肢が目に入る。ポッドに宇宙服ごと貼り付けられているがこれは……
「これって腕まで行ってるんじゃ……。マクスウェルさん、これってどうにかなりますかね?」
(どれどれ、もう少し近付いてくだされ? ふ〜〜む。これまたえげつない事をしよりますな。ですがまあ、鳳燐殿の力をお借りしながらでしたらどうにかなるかと思いますぞ、マスター)
「本当ですか?! それじゃ早速始めましょう! あ、今から溶接されてる手足を解いてあげるからじっとしててね?」
「え? でもそんな事出来るわけ………」
心許なげに話す少女であったが、先程までの理不尽を見ている為、もしかしたらと思い、ハーリーの様子をじっと観始めた。
そんな少女の事は気にせず、まずは左手の溶接部分に両手を当て、混じり合っているポッド壁面・宇宙服・肉体に構成を分解し、不要なポッド壁面と宇宙服の構成要素を排除。残った肉体構成部分を鳳燐の力を使いながら、変質部分を除去・再構成し、構成し終えた部分をマクスウェルと鳳燐の力を使い、元の形に繋げ癒していく。
その間約2分。それを両手両足共に施し、少女はようやくポッドから離れる事が出来た。
「……凄い、嘘みたい。本当に離れちゃった…。って、そうだ! それよりもアオイさん大丈夫!?」
思い出したかのように、ハッとしポッドの扉を開ける少女。次の瞬間、少女を抱きすくめる様に、ポッドから何かが飛び出して来た。
「チハヤ!!! チハヤ、チハヤ、チハヤ! 無事なんだね!? 生きてるんだ! よかった。本当に…よかった。僕はもう駄目なんじゃないかと思った。二度と君の姿を見れないんじゃないかって…。気が狂いそうだった。こんなにも生きてて欲しいって。僕は…僕は…(涙)」
「大丈夫。私生きてるよ。こうしてアオイさんに抱き締めて貰ってる。だから、ねえ。あの時言えなかった事を言ってもいいですか?」
「………うん」
「私、夢を見れました。幼い頃の夢……何も知らず、幸せだったあの頃の……」
「夢じゃないよ。僕とずっと一緒にいて欲しいって、そう思える君は確かにここに居てくれてる」
「うん。…伝えたい思いが、伝えたい言葉が沢山あります。でも、やっぱりこれだけは最初に伝えておきたい―――貴方が、好きです」
そのあとの二人に言葉は要らなかった。嬉しさに涙を零しながら口付けを交わす二人。お互いの感触を確かめ合うかのように、強く強く抱き締め合う。もう二度と離すものかと、そんな思いを腕に込めて…。
やがて二人はその腕を離さぬまま、少しだけ顔を離し、
「僕は頼り無い男だけど、今度こそ守るから。精一杯君を守ってみせるから!! だから…」
「嬉しい、です。こんな私には勿体ないぐらい」
「そんな事無いよ! 僕にとって、君以上の人なんかいやしないよ」
……何と申すべきか、二人の世界はまだ続きそうな様子である。
そんな様子に端で当てられているハーリーは、そのあまりの恥ずかしさに、顔を赤らめ思わず転げ回っていた(笑)
(ほらほらマスター。愛し合う二人の前で失礼ですよ? ここは一つ、そっと見守ってあげなくちゃ♪)
「そうは言うけどね鳳燐。こんな…こっ恥ずかしい場面、まともに見れないよ(///)」
興奮と動揺の為か、思わず返事を声に出してしまうハーリー。そんなハーリーの声に、ようやく第三者がいる事に気付き、顔を真っ赤に染めながらパッと離れるジュンとチハヤ。
「あ、あは。ごめんなさい、その、助けて貰ったのに、まだお礼も言ってなくて、その、ふ、二人で話し込んじゃってその……あうあうあう。そう言えば名前聞いてなかったわよね? わ、私カタオカ・チハヤ。よければ名前を教えてもらえますか、命の恩人さん?」
かなり動揺しながらも、まだ名前を聞いていない事に気付き、先程の事を誤魔化す様に聞いてくるチハヤ。ジュンの方はそれ以上どうしようもないくらい顔を朱に染め、口を開くが何も言葉に出来ない様だ。
「は、いえ、こちらこそ大変結構なもの……って違ぁ〜〜う! ああ、何だか僕ってこんなんばっかし…。それは兎も角、ち、チハヤさんですか。いいお名前ですね。僕の名前はマキビ・ハリ。偶々偶然通りかかっただけなんで気にしないで下さい!」
はははっと笑うハーリーに、へ?っと疑問と驚きの顔を浮かべるジュン。
「君、マキビ・ハリってハーリー君なのか? そんな馬鹿な。何でそんな大きくなって? いやでも何となく面影が…」
「へ?!」
何やら自分の事を知られているッぽい、その男性をよ〜く見てみる。するとハーリーにも確かに見覚えがある。髪型は違うが共にナデシコCに乗った、…えぇ〜っと、確か何て名前だったか……。…そう! アオイ・ジュンっと言うのではなかったっけ?
「ジュンさん、何でこんな所に? ってもしかしてジュンさんが居るって事は、ここってナデシコのある元の世界軸なの?!」
ヤバイ。何がどうヤバイかは分らないが、兎に角咄嗟にそう思ってしまうハーリー。そこへ丁度都合よくかかる神我人の声。
《少年。そろそろ戻ってくるかね? どうする?》
《はう! 神我人さん丁度よかったです!! 30秒後ぐらいに戻して貰えますか?》
《ふふふ。何やらあったらしいな少年》
そう言うと神我人の声が聞こえなくなったので、急いで別れを言う事にした。
「ああ、その、僕そろそろ行かなくちゃならないんです。何と言いますか、お二人ともお幸せに♪」
ハーリーのその一言でまた赤面する二人であったが、そうもしていられないらしいと、何とか言葉を紡ぐ。
「あの、その、…こちらこそ命を助けてもらって、いくら感謝しても、したりないぐらい。本当にありがとうマキビさん」
「うん。僕も心から感謝してる。お陰でこうしてもう一度、生きてチハヤに逢う事が出来た。ありがとうハーリー君。……その、何やら色々事情がありそうだけど、気を付けてね」
寄り添う二人に最高の笑顔を贈るハーリー。すると丁度時間切れなのか身体がうっすら光りだし、徐々に透けていく。
「それじゃそろそろ行きますね。末長くお幸せに〜〜」
そう言ってセリフがかすれる様に、手を振りながらこの世界から消え去るハーリー君でありました。
何とか神我人のいる五次元へ無事戻って来たハーリー。ホッと一息ついている所に、神我人の声がかけられる。
「どうかね? 今の自分の能力、把握する事ができたかね少年? こちらでモニターしている限りでは素晴らしい成果を上げていた様だが…」
「何だか今までと感覚がまったく違って感じられました。何ていうか力がずっと溢れているような…。どう言えばいいのか分りませんけど」
「ふむ…。それはそれとして、よかったのかね少年? もう後戻りは出来んぞ?」
神妙な口調で聞いてくる神我人に、どの事かに思い至り、ハーリーは苦笑しながら答える。
「行く前にも言いましたけど、あれが最善と思ってやったんです。後悔はしてませんよ神我人さん」
「…そうか。なら構わんが」
「それよりも、何であそこだったんです? 一歩間違えれば大変な事になってましたよ!」
怒り口調のハーリーに、こちらは至って冷静に話す神我人。
「いや、君が何もしなかったとしても、あの世界はどうにかなっていた筈だ。それを知っているのは君の方だぞ、少年?」
「? どう言う事ですか?」
「あの世界のあの事件は君も体験している筈なのだよ。ただ今回と違う点は、あの少女は助からなかった、と言う事ぐらいだ」
「そんな……。それじゃまさかあの世界は…」
「君の記憶の中にあった事件から、今回の力を試すに相応しい場を選んだという訳だ。…何か思い出せたかね?」
どうやら神我人は色々と考えてあの場を用意した様だと気付き、思わず恐縮するハーリー。
「今の所は特には…。それよりもすみません、何だか色々気を使って貰っちゃったみたいで」
「そうか。何かまわんよ。これも片手間にやった事だ。さて、それでこれからどうする少年?」
「はい。取り合えずまた旅に戻ろうかと思います。幽祢との決着もついてませんし、それにこの力があれば、何とか引き分けぐらいには持って行けるかな〜っと思いますし」
「戻るなら、一つ頼まれ事をされてくれんかね? いやなに、ある人物に会ったらよろしく伝えてくれるだけでいいのだ。名は白眉鷲羽。私の師でもある。これが
そう言って差し出した右の掌に、背はハーリーよりも低く、活動的な服を着、何やら不敵な笑みを浮かべた、赤髪でカニさんを思わせる髪型の少女が、映し出されていた。
「この人が鷲羽さん何ですか? 神我人さんのお師匠って言ってましたから、もっと違う感じをイメージしてましたけど…」
「外見通りでない者は、君もよく知っているだろう少年?
「二万って…、本当に人は外見じゃ判断できませんよね〜〜。分りました。それじゃあ、もし旅先で出会う事があったらお伝えしておきますね」
「よろしく頼む。それでどうする少年。ここから送った方がいいかね? それとも自力で跳んでみるかね?」
「ああ、そうですね…。まだこの次元の特性を理解し切れてないんで、神我人さんお願い出来ますか? 適当な世界に放り込んでくれれば、あとは勝手に行きますんで」
「ではランダムでどこかの星に送るとしよう。縁があるなら、また会おう少年」
「はい! 色々お世話になりました。縁があったらいつかまた!」
清々しい笑顔を残し、こうしてハーリーは次なる世界へと旅立つのでありました。
さて、大幅なパワーアップを果たし次なる世界に旅立ったハーリー君。
あのエネルギーに吹っ飛ばされた北辰はどうなったんだろうという疑問を残しつつ、
何はともあれ、勝利のその日まで残り16日!!
あとがき
おハロ〜です! 随分とお久し振りです皆様方! 狂駆奏乱華の第伍章をお送りしました。初めての方、そして待っておられた方々、ども神薙 真紅郎です!
鳳燐「どもども♪ 最近巷で大人気の鳳燐ちゃんです〜♪♪」
一体どこの巷ですか、という疑問は残るが…、まあ、それはひとまず置いておくとしよう。何にせよ随分と時間が開いてしまいましたが、今回はなんと最長の7ヶ月! どんだけ待たすんじゃ我、ってな話ですな〜。
鳳燐「本当、どれだけ待たせるんです? かなりの確率で忘れ去られちゃってますよ、きっと」
ううぅ。ごめんよ、ごめんよ皆しゃん。例によって言い訳とかありますけど、聞きます?
鳳燐「仕様のないお父っつぁんだね〜。仕方が無いからちょっとだけ耳を傾けてあげちゃうよ。はい、それでは言い訳タ〜イム! よ〜〜いスタート!」
あれは今を去る事7ヶ月前。仕事もかなり忙しい時期でしたが、何とか次回作に向けて書き連ねていた訳ですが、途中まではイイ感じで進んでおりました。しかしある時まったく筆が進まなくなってしまったのです! 書けない時期が数ヶ月過ぎ、これがもしかしてスランプってやつか!!!と思ったのは、何とか少しずつ書く事が出来出した頃の事でした。それでも何とか書き切ろうと頑張っておりましたが、これがまた異様に長くなって行くので御座いますよ。前回冗談で、この調子だと次は100K超えるな〜、とか思ってたんですが、マジ超えました。ううぅ、メッチャ長くてご免よ。これでも短くしようと努力はしたんですぜ? なのになんでだ〜〜!!!
鳳燐「はい、そこまで♪ ちょっと長いんで読み飛ばしてもらっても結構な文でしたね。特に支障は無いですが」
いや、まあ、そうなんだけどね……。それよりどうかね今回は? 予告通り笑ったかい?
鳳燐「あはははは。何だか北辰さんがもの凄い事になっちゃってますけど…。それにしたってあれじゃナオさん可哀相じゃないですか?」
う〜む。まあ、アレは仕方が無い。そういう仕様だ。ナオさんには泣いてもらおう(笑)
鳳燐「黒服・グラサン・スキンヘッド…。どこからどう見ても、真っ当な人種には見えませんね〜。ミリアさんファイト!」
ははははははは。いや、そこまでは考えなかったけど、そう考えるとすげぇな〜〜。
鳳燐「それにしても今回、何だかラブラブなシ〜ンが多かったですね〜。流石の私も赤面ものです」
いやまったく。そんなシーン入れる予定これぽっちも無かったのに、何でだろうな〜?
鳳燐「……はぁ。そんなんだから、予定外に書く事が増えて、気が付くととんでもない量になっちゃったりするんですよ? って言うか、もうそのものって感じですよね♪」
言うな。そんな事は本人が一番解ってる。まったく、お恥しいったらありゃしない。
鳳燐「本城! ってネタはもういいですし、次行ってみましょう」
ええ、続いてお礼のコ〜ナ〜。castさん、ノバさん、桃次郎さん、通りすがりの人、読んで下さってありがとう御座います。感想無くば挫けていたかもしれません。ありがたやありがたや(拝)
鳳燐「ええまったく。ありがたい事ですね〜。良ければ次回も期待してあげて下さい」
そうそう、今回からおまけの方にネタ解説を載せてみました。前回のネタもフォローしてみましたけど、どないでしょうゴールドアームさん? 参考になれば幸いですが…。
鳳燐「その辺は初めからやるべきだったのでは?」
まあ、過去を言っても仕方が無い。未来に羽ばたいて行こうじゃないか鳳燐君!
鳳燐「…ははは。それではこの御人もテンパッてきましたんで、そろそろ終わりに致しましょう。お次はどうなるんだろうと、気になる所ですが、見捨てないで待っててくれると嬉しいです。お願いです見捨てないで下さい(涙) そんな訳で次回第陸章でお逢い致しましょう! そりでは再見ぇ〜〜ん♪♪♪」
管理人の感想
神薙真紅郎さんからの投稿です。
いや、はっちゃけてるねぇ北辰(笑)
登場時はまだ悪役然としたオーラを発してしたのにねぇ・・・そんなに北斗に御執心だったんですか(苦笑)
まあ、ナオにはご愁傷様だけどなw