『時の流れに of ハーリー列伝』
Another Story

奏乱華

第陸章
「定めゆく必然の儘に…」







木星と地球、この両者で行われた不毛な戦争は一人の英雄の活躍によって終結を迎えた。

……其の名は、テンカワ・アキト。またの名を『漆黒の戦神』…。

 これは彼が不特定多数の女性を妻に迎え、数年の時が経過した頃のお話……。




 前回復活した北辰に修羅場真っ最中のナデシコに投げ込まれたハーリー君。
勘違いでその世界の北辰を殺っちゃい、四苦八苦しながらそこのナデシコに混じりましたが、
またも復活の北辰が現れ、その必殺技同士の衝撃に次元崩壊に巻き込まれてしまいます。
五次元世界で神我人にパワーアップをしてもらい次なる世界に向かいましたが、
 

 はてさて、次なる世界は如何なる所か?

 

 

 

 

 

 

 それは何とも奇妙な感覚であったろう。その圧迫する様な感覚、ひりつく様な空気、圧倒的な存在感…。その世界へ現れて初っ端からこんな感覚に襲われるのは初めてで、何なのだろうと見回してみると、そこにはとんでもない光景が展開されていた。

 どう表現していいか分からない巨大な、羽の様なものが生えた城ほどありそうなその蒼い生物?の様なものに、圧倒的な存在感で舞い散る光の奔流。その光に思わず苦悶の叫びを上げる蒼い奴。

 そしてその光がある程度治まった時、ハーリーから少し離れた所に、その空間から滲み出る様に一人の男が現れた。何やらどこかで見た様なローブ姿に眼鏡がキラリと光っているその男……。

「おや? 誰かと思えば、こんな所で再会するとは奇遇ですね、マキビ・ハリ? 実に久方ぶりです」

「ええぇ!? レザードさん、何でこんな所に!」

 そう、そこに現われたのは、共にオルトリンデの神技にふっ飛ばされ、行方不明であったレザード・ヴァレスその人であった。

 相も変わらずの飄々としたその態度と雰囲気が、何とも懐かしく感じられる。

「事情の説明は後にしましょう。まずはあれを倒さぬ事には、危なっかしくてまともに話も出来ませんから……おっと!」

 レザードは咄嗟に移送方陣を展開し、ハーリーごとその蒼い奴からかなり離れた場所に出現する。それに前後して先程まで居たであろう地点が凄まじい爆発に見舞われた。

「レザードさん、あれって一体何なんですか? 何だか途轍もない力の塊みたいな気がするんですけど…」

「正解です。アレはこの世界で、最上級の魔として扱われる存在。まあ、又聞きではありますがアレがこの世界に君臨する『魔王』らしいですね。いやはや、些か滑稽ではありますがその力、認めぬ訳にはいかぬでしょう。今、とある人物と協力してアレの討伐を試みている訳ですが……。ジークルーネ!

 そうレザードが虚空に向かい強く鋭く呼びかけると、何処からともなくズシャーーっと地面を削る様に少し小柄な、銀髪を三つ編みにした戦装束の少女が現われた。

「ちょっとレザードさん! こんな所でサボってちゃ駄目ですよ!! 早く決着つけなきゃ死んじゃいますよ?」

 ダダダダダンっとレザードに文句を叩きつけ、ビシッと指差す少女。そんな少女の態度にクスリと笑いながら、

「それは分かっていますが、ここにきて新たな加勢が来たようです。マキビ・ハリ、紹介しましょう。彼女はジークルーネ。この世界で偶々一緒になった戦乙女さん、らしいですよ?」

 特に戦乙女の部分を強調するレザード。その強調に、確かに後で色々聞かなくてはならない様だと納得しながらも、手早く紹介を済ませるハーリー。

「僕の名前はマキビ・ハリ。ハーリーって呼んで下さって結構です。それで僕達は何をどうすれば?」

「へぇ〜。結構凄そうですね。話が早くて助かりますが、とにかくアレを傾がして下さい。隙を見て私が止めを刺しますんで。よろしいですか?」

「了解、分かりました! それじゃあ早速…」

 っと、蒼い魔王の方に向きかえると、何やら強力な攻撃の為に溜めをしている様子。

「ちっ、まずい!」

 レザードがそう言った瞬間、レザードを中心に三人を囲むかのように真紅の光の五芒星が走り、次の瞬間その姿をかき消すと、数秒遅れてその場を魔王の一撃が荒れ狂う。

 場所は移動し、魔王の右斜め後ろくらいの所に真紅の五芒星が走り、出現する3人。

「悠長に話はしていられませんねぇ。とにかく、出来る限りの攻勢を私とマキビ・ハリで行いますので、ジークルーネ、止めのタイミング、お任せしますよ?」

「OK♪ 任されました! それでは早速行ってみましょう!!」

 ジークルーネのその一言を皮切りに、蒼い魔王と3人の決戦の幕は切って落とされるのでありました。

 

 ハーリーが戦い始めてまず何に驚いたかと言えば、確かに魔王の強力さも驚いたが、やはりレザードの放つ大魔法であろうか。確かにレザードは只者ではないと思っていたが、ここまで凄まじいとは思っていなかった。巨大な雷龍を呼び出したり、凄まじい爆炎を叩きつけたり、そして今もまた新しい呪文が朗々と読み上げられ、強力な一撃が放たれようとしていた。

「闇の深淵にて重苦にもがき蠢く雷よ。彼の者に驟雨の如く打ち付けよ」

 レザードの詠唱が一韻を踏むごとに、魔王の上空には凄まじいまでのプレッシャーを放つ重力塊が膨れ上がり、漏れ出るエネルギーがスパークしながらその出番を待ち構え、

グラビティブレス!

 その一言によって飽和寸前の高エネルギーは魔王に向かい降下、圧倒的な力の激流が捻じ切り引き裂き叩き潰してゆく。

 ゴガァァァァァァ!

 何やら叫びの様なものを上げる魔王さんであるがしかし、確かに所々ボロボロにはなっているがいまだその力衰えず、もう少々手痛い攻撃を加えねばならぬようだ。

 それを見て取ったハーリーは早速その機動性を活かし、怒りに吼える魔王さんの強力な一撃を何とか避けながら牽制し接近すると、一瞬で魔王さんの真下にたどり着き、その両腕に万色を纏わせ、螺旋を描く様に切り上げる。

「虹舞流 秘奥義 

 万色の輝きは凄まじい渦流と化し、辺り一帯を巻き込む様に爆流は収束し、全てを巻き込む巨大な虹色の蛇が、魔王を喰らい突き上げる。

 凄まじい勢いで放たれたその一撃であるが、ハーリーはその一撃の終わるか終わらないかのタイミングで、即行その場を離脱した。何せあんな声が聞こえてきては、流石にその場に何時までも居ようなどとは思うまい。

「汝、その諷意なる封印の中で安息を得るだろう永遠に儚く……」

 相当に喧しい筈なのだが、何故かレザードのその詠唱はハッキリ耳に聴こえて来たのである。そしてその詠唱にあわせ天空に舞い散る光りの羽。そしてそれは渦巻き集束していくと、幾つもの光りの環を形成し、流れる様にその中心に収斂していくと、光の束となって真下へと撃ち出されていく。

セレスティアルスター!

 括りの一言に、光りの羽を撒きながら凄まじい勢いで、いまだ突き上げを喰らっている魔王へと幾条もの閃光が降り掛かる。その様は雨などと易しいものではなく、まさに豪雨と言って差し支えない威力で降り注ぎ、魔王の体を地上に縫い止める。

 そのなんと美しい情景だろうか。一足早にその場を離脱したハーリーも思わず見とれてしまいそうな、そんな光景。そんな光景の展開される最中、これまた嬉しそうな声が何処からともなく聞こえて来る。

「うはぁぁ〜♪ 凄い凄い! 思ったよりもやるんですね御二人とも。それじゃ私も取って置きを見せちゃいましょう!」

 光りの乱舞する中、ふわぁ〜っと舞い上がるジークルーネ。そして丁度魔王と相対するぐらいの高さで静止すると、両手を脇に構え力を溜めると、カッと目を見開き、

「その身を散らせ! 神技 サリシャガン・ランページ!

 それを皮切りに、目にも見えない凄まじい乱打(ラッシュ)がその前面に向け撃ち込まれて行く。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、オラァ!

 掛け声ごとに数十発と叩き込まれて行く拳撃に、相当の距離があるにもかかわらず魔王は打ちのめされて行く。しかも外側から撃たれるのではなく、内側から凄まじく爆裂している様に見えるのは気のせいだろうか? その拳撃の嵐に手といわず足といわず体といわず、隅々までボコボコにされ、最後の気合一閃を放った瞬間、凄まじい衝撃と共に、その身は木っ端微塵に砕け散り、辺り一帯をミサイル以上の物理的霊的衝撃が吹き荒れる。

 正直洒落にもならないその衝撃を、伏せてフィールドを張り何とかやり過ごすハーリー。それでも元いた位置よりだいぶ動かされるあたり、その衝撃の凄まじさがどれ程のものか判ろうというものである。

 何とかその衝撃が収まったのを見計らい、先程の爆心地へ歩いてゆくと、そこには凄まじいまでのクレーターがデンッと出来上がっていた。って言うか一見底が見えないというのはどういういりょくなのか?

「うはぁぁ…。凄……」

 その光景に、思わず呆れるハーリー。どれ程のエネルギーがここで暴発したのだろうと考えたりしていると、空中からフワリとジークルーネが、クレーターの円周を歩きながらレザードがやって来ていた。

「御疲れ様です。なんとかかんとか終了です! 通りすがりとはいえ、手伝って頂き申し訳ありません」

 そう言ってペコリと頭を下げるジークルーネ。

「なに、特に気にするほどの事でもないでしょう。どちらにしろ、ここにいた時点で巻き込まれる可能性は大であったなら、一方的に巻き込まれるよりも、協力を持って手早く済ませてしまった方が被害も少なかろうというものです」

 飄々とそう言い、こちらに同意の視線を向けてくるレザード。

「まあ、そうですよね。それにこういうのには慣れてますし…」

 あんまり慣れたくはないな〜っと思いつつ答えるハーリー。そして、ふと先程レザードが言っていた事を思い出し、質問してみることにする。

「それは置いとくとして、ちょっと質問いいですか、ジークルーネさん? もしかして、御知り合いか何かにオルトリンデさんっていらっしゃいません?」

 ハーリーのその言葉に、思わずギョッとするジークルーネ。

「え?! なんであなた方がオル姉の事を御存知なんですか?」

 ジークルーネのその言葉に、やっぱりかと顔を見合わせるハーリーとレザード。まったくもって御存知も何もあったものではない。

「知ってるも何も、この前彼女の神技の巻き添えを食らって、別世界に吹っ飛ばされたばかりですから」

「私の場合、その吹っ飛ばされた先からもう一度飛ばされたのがこの世界であったという訳です。それからまあ色々あって、貴女に協力するに至るという訳ですよジークルーネ」

 ハーリー達の言葉を聞きながら、思わずアチャ〜っと顔に手を当てながら溜息をつくジークルーネ。そして切り替える様に毅然と顔を上げ、スッと改めて礼をする。

「改めて名乗らせて頂きます。私はクロノハイダース・ワルキューレ九姉妹が六女、ジークルーネと申します。この度は我が姉、オルトリンデが大変御迷惑をお掛けした様で申し訳ありません」

「ああ〜、そんなに畏まって頂かなくても結構ですよ。こうして無事にいるのですから、あの時に飛ばされていてもいなくても、さして変わりはありません」

「そういう訳には参りません! 一般ピープルを巻き込まないのが私達の常なんです。それが、魔王退治を手伝って貰った上、姉が御迷惑をかけていたとあっては、見過すわけには参りません!!」

 ぷんぷんと胸を張りながら言い放つジークルーネ。確固としたその瞳には、その意志の強さが伺える。なにより、ハーリー達よりも明らかに背が低いあたり、そんな態度も何だか可愛らしく見えてしまって、思わず微笑してしまう。

「あ、そうだ。それなら連れの方を探してもらったらどうですかレザードさん? 僕達だけじゃ相当時間も掛かりますし、手は多い方が良くありませんか?」

「…ふむ。確かにそれは名案かもしれませんね。よければですが協力をして貰えませんかジークルーネ?」

「取りあえず話を聞かせて貰えますか? 私の力だけで何とかなるかどうか聞いてみないと何とも言えませんので…」

 神妙な顔をするジークルーネに、今までの経緯なんかを織り交ぜて説明してゆく。

「うはぁ〜。この広い時空世界で迷子なんですか……。それはちょっと私の力だけでは手に余っちゃいますね。こういう時は専門の人に任せるのが一番です。幸い借りもあることですし…。それにそれぐらいの願いなら、何とかなるかもしれません。私も頼んでみますので一緒にお願いしましょう !♪ そうと決まれば善は急げデスね!!」

「ちょっと待っ…、お願いって、訳解んないですってば?!」

「いやはやまったく強引な方だ♪」

 ハーリーは混乱の口調、レザードは楽しげな口調で、ぐいぐいと引っ張られながら、ジークルーネに掻っ攫われていくのでありました(笑)

 

 

 所変わってここは、ワルキューレを始めとした時空神霊その他多くの者達の集まる、四次元世界の要、クロノパレス。強引な客引きに掛かったハーリーとレザードは、ジークルーネに連れられて現在ここに訪れているのであった。

「うわぁ〜〜。呆れるほど広くて大っきいですね〜」

 見渡す限りの広大な庭園に感心しながら見回すハーリー。今いるのは何やら神殿らしき施設の庭先で、ハーリーとレザードはジークルーネに連れられて直接ここに降りて来たわけである。

「先程降りる時に見た目算だけでも、この区画一つで大陸ほどの大きさがあるのではありませんか? 空に浮いていた別の島がどれ程のものか判りませんが、どれもこれも桁外れだった様に思うのですが……」

「いえいえ。ここに集まっているのは時空神様の関連施設ばかりで、比較的おとなし目な方なのです。世の中にはもっともっととんでもない所があるんですよ? 例えば夢幻神様が戯れでお創りになられた世界なんて……」

 そう言いながら思わずフイッと目を逸らすジークルーネ。何だかとっても遠くを見るような目で、

「アレはもう、どう言っていいのか解りません。いろんな意味で凄い世界でしたね〜〜。奇妙奇天烈摩訶不思議〜って感じで、あはは、夢幻神様ってば本当に楽しい方なんですから…」

 ジークルーネの言動が何やらとても怪しい感じに極まって来ているのは気のせいだろうか? 何だか知らないがそろそろヤバイノデハっと思ったハーリーは、先を促してみる事にした。

「あの〜、ジークルーネさん? 僕達は何時までここに居ればいいんですか?」

「え? あ! はいはい、そうですね。何時までもここに居ても仕方ありませんし、中に入りましょうか」

 そう言って、ジークルーネに促されるままその神殿らしき建物に入っていく事となった。中もこれまた凄く広く美観的にも整った感じで、しかし重いといった感じはなく、どちらかと言うともっとライトな感じで清浄さをまず印象に受ける事だろう。

「おや? 帰って来ていたのですか、ジークルーネ?」

 いきなりそう声をかけてきたのは、ジークルーネよりも些か軽装な、ショートの銀髪に単眼のデータグラスをかけた、理知的な印象の美人さんであった。

「あ! シュウェル姉、ただいま♪ 今さっき帰ってきたとこだよ!」

「意外に早かったですね。それで、『蒼穹の魔王(カオティックブルー)』の変異分身体は討伐出来たのですか?」

 小首を傾げる様に聞いてくるシュウェルにジークルーネは元気一杯といった感じで答えてくる。

「それはもう、バッチリグッドだよ! 完璧に葬り去っちゃいました♪ ……まあ、途中で色々とありはしちゃったんだけど」

 そう言いながらハーリーとレザードの方をチラリと盗み見るジークルーネ。その視線の方にシュウェルも注目し、

「何やらあったみたいですね。まあ、人を連れて来ているのですからそれなりの事情があるのでしょう。姉上方は今出ておられるので、私が事情を伺いましょう」

 ふむ、と納得する感じで言ってくる。

「え? 大姉達今いないの? 三人そろって?」

「ええ。姉上方は今、某所で発生した事象相克界の後始末に向かわれています。何やら今回起こった災害は今まであったどれよりも被害が大きいとか…。作為的なものも感じるとの事で三人揃って出向かれましたよ」

「ふえ〜。大姉三人が出向くなんてどんな被害が出てるの、シュウェル姉?」

「ある一点の世界を軸に他の多々ある世界が融合しているとか。被害がどんどん増えているらしいので、その辺の調整などをしに行ったみたいですね…」

「それはまた…。一部世界は大混乱!って感じだね」

「当事者の方々からすればそれどころの話ではないでしょう。そこが良く似た場所であっても、まさに見知らぬ世界に放り出される様なものです」

 淡々と語るシュウェルであったが、ハーリー達の方に視線を向け、少し考える。

「……まあ、客人もいる事ですし何時までもここで立ち話もなんでしょう。あちらでジークがお茶を入れている筈ですから、話しはそちらでいたしましょう」

 何やら話が長引きそうだと踏んだシュウェルがそんな提案をしてくる。ジークルーネはそれに激しく同意し、ハーリーとレザードもそれに従う形となった。

「それでは参りましょうか?」

 

 

 先程までいた神殿らしき建物を今度は来た時とは逆方向に抜け、出た先に広がっていたのは先程の庭園とはある意味逆の、平原や森やティーテラスが…………? 何故にこんな所にティーテラスがあるのだろう? どちらかと言うと先程の庭園に在る方が似つかわしい気がするのだが…。

 そんな奇妙な空間で、何やら人当たり優しげな青年と物静かそうな少女が、一緒のテーブルで美味しくお茶を頂いているようだった。

「おや、今日は何だか大所帯ですねシュウェル? お客様が来るのは久しぶりじゃないですか? ささ、お茶を入れますから御席にどうぞ」

 ニコニコ微笑みながらそう言うと、青年は席を立ちお茶を淹れだした。同席していた少女もそれを手伝う様に立ち上がり、青年の方へと向かう。

「貴方達だけですかジーク? カインやエマ達の姿が見えませんが…」

「エマはルーネがいませんでしたから、グリムを連れていつも通り森の奥で鍛練してると思いますよ。カインはさっきまでその辺の木の上で昼寝をしていたみたいですが、オルが新人を連れてきまして、挨拶回りの案内を頼まれて付いていったみたいですね。クーとロスは相も変わらず何処にいるやら見当もつきませんが……」

 お茶を淹れながらそう答えてくる青年に、それに同意する様にうなずく少女。その返答にシュウェルはふむと頷きながら、ハーリー達に席を勧め、はふっと一息つくと早速事情を訊き始めるシュウェル。

「それで、どういった事情でそこの二人を連れて来たのですかジークルーネ?」

「……実は魔王討伐を手伝って貰っちゃったの。それで今回は早く終わったんだけど、でもそれだけだったらここまで連れては来てないよ? オル姉の名前が出てこなければね〜」

「どういう事です? 何故そこでオルトリンデの名が出てくるのですか?」

「なんか、以前オル姉が迷惑をかけたとかなんとか…。詳しい事情は直接本人さん達に訊いてみて下さい」

 ジークルーネは笑って誤魔化すように、よろしく〜〜っとジェスチャーでハーリーとレザードにふる。

「それでは御二方、事の顛末をお聞きしてよろしいか?」

 そう訊いて来るシュウェルに、レザードは何やら渋い顔をしながら、

「…まずは名を知る所から始めるのが、物の道理だとは思いませんかお嬢さん?」

 これは失礼した。私はクロノハイダース・ワルキューレ九姉妹が四女、シュウェルトライテと申す。あちらでお茶を入れているのがリーブラナイトのジークフリートと我らが末妹のブリュンヒルデ。御二方の名を伺ってもよろしいか?」

 何処までも実直なシュウェルトライテに微笑しながらも、答えを返すレザード。

「我が名はレザード・ヴァレス。そしてあちらが…」

「マキビ・ハリです! ハーリーって呼んでくれて結構ですよ? まあ、色々事情があってこの前オルトリンデさんに遭遇したんですけど、間の悪い事にその場に幽祢が居たんですよね。それでまあ、幽祢を追ってたオルトリンデさんが幽祢に手玉に取られて、激昂して神技を放った結果、その場に居た民間人?らしき人達含めて全員が別次元に吹っ飛ばされちゃったと言う訳です。はい」

 淡々と普通に話すハーリーに、その内容を聞いていたシュウェルトライテとジークルーネが驚きの顔を見せる。

「え!? 幽祢って確か結構上級の指名手配犯じゃなかったっけ?」

「1級全時空指名手配されていたと記憶しています。…しかしこれはまた厄介な者を相手にしたものですね。オルトリンデの性格を考えるなら、なお相性の悪い相手でしょうに…。しかも周りの被害を考えられないほど激昂するとは、オルトリンデを未熟と言うべきか、幽祢が上手であったと言うべきか、まったく……」

 深い溜息をつきながら、シュウェルトライテは思わず額を押さえる。

「まあ、そんな訳で、これはこっちの身内の失態なんだから借りは返しておかなくちゃ、って思っちゃったわけなのよシュウェル姉。そいでもって、レザードさんの連れの人が現在行方不明で、この広い時空世界のどこかに居るらしくて、その人を捜す事で借りを返そうと思ったんだけど、そんな事私達じゃ人にもよるけど難しいじゃない? あの御方に頼めば一発だし、これぐらいの御願いなら私達が嘆願すれば何とかなるかな〜っと思ったんだけど……」

 どうなんだろうとシュウェルトライテの反応を窺うジークルーネに、シュウェルトライテは何やら悩みながらも答えを返す。

「…そうですね。非はこちらにあるようですし、我々が嘆願するなら聞いて貰えぬ事もないでしょうが………、いいでしょう何とかしましょう」

 シュウェルトライテの色好い返事に、ジークルーネは思わず笑みをこぼし、

「ヴィクトリーーー!!!」

 っと思わずハーリーとレザードにVサインを送ってみたり(笑)

「話はまとまったみたいですね。ささ、熱い内にお茶をどうぞ皆さん」

「……どうぞ」

 タイミングを計っていたのか、そう言ってテーブルに熱いお茶を置いていくジークフリートとブリュンヒルデのコンビ。

「あ、どうもすみません。ジークさん、でいいですかね?」

「ええ。長いでしょうからそれで構いませんよ」

 ホワ〜っと何やらほんわかした雰囲気をハーリー達が醸し出す中、突然遠くの方から凄まじい爆音が響いてきた。

「な!? 何なんです?! 一体何が!」

 突然の爆音に焦って周りを見回すハーリーだったが、ハーリーとレザード以外はいたって何か変わった様子もなく、美味しそうにお茶を飲んでいた。

「えぇっと、皆さん?」

 怪訝そうに疑問を投げかけるハーリー。

「あはは、大丈夫大丈夫。別に何かがここに攻めて来たとかじゃないから♪」

 笑って答えるジークルーネだったが、そんなセリフの最中も何度も爆音が響いている。

「今日は少し派手目ですね…。心配は要りません。あれは多分エマがグリムゲルデと技の応酬でもしているんでしょう。いつもの事です」

 そんなシュウェルトライテの答えに思わずハーリーは呆然としてしまった。一体どういう鍛練をすればあんな凄まじい爆音が響くというのだろう? しかも日常化しているあたり、ここの凄さが窺い知れるというものだ。

 爆音の方はまだまだ続きそうであったが、呆然としているそんなハーリーをよそに、この場に居ない誰かの声がふいに聞こえて来た。

「まったく、加減というものを知らないのでしょうかあの二人は?」

「まあ、どっちもバトラーだからな。誰も止めなきゃ行くとこまで行くんじゃないか? 新入りもあいつらに喧嘩を売るのは止めといた方がいいぞ? 死にはしないがボロボロにされる事請け合いだからな(笑)」

「………………」

 爆音のする森の方から格好のバラバラな三人組が、何やら文句を言いながらこちらに歩いて来ている様だ。そんな三人を発見し、

「おやおや。今日は本当に千客万来だな。これで総勢9人ですか。久々に賑やかで楽しいお茶会ですね♪」

 そう言いながらジークフリートはまたもその三人の為にお茶を入れるべく席を立ち、ブリュンヒルデはトコトコと三人の方に向かい声をかける。

「…ジークがお茶を用意してるから……どうぞ」

 抑え目ながら通る声でそう言うブリュンヒルデに気付き、

「お、ありがとよヒルデ嬢ちゃん。へぇ〜、今日は何だかお客が沢山だな」

「ありがとうヒルデ。それではありがたく頂くとしましょう。ジークのお茶は絶品ですからね」

「…ふむ、それは楽しみだ」

 と返す三人。なにやら格好も雰囲気もバラバラで、一人はだらけた感じのぐうたら昼行灯といった感じの男、一人は凛とした面持ちの銀装の少女、一人はクールで静かな漆黒の青年、といった風情である。

 そんな三人に一同目を向けるが…

「あぁーーー!!! アルカードさんじゃないですか!」

 思わず叫び声を上げるハーリーに、これまたビックリと反応したのはクールで静かな漆黒の青年である。

「その声、もしかしてハーリーか?」

 これまた驚いた顔をしているのは、紛う方なきあの悪魔城で出会った漆黒のヴァンピール、アルカードその人であった。

「ハーリー、新人の彼を知っているのですか?」

「えぇ、まあ。色々事情がありまして、昔一緒に悪魔城を攻略した仲なんです。オルトリンデさんに会ったのも、アルカードさんをスカウトしに来た時が初見ですし」

 ハーリーのそのセリフに思わずピクッと反応するシュウェルトライテとアルカードの傍にいる銀装の少女。おや? よく見るとその少女は武装が減ってはいるが、幽祢を追いかけていた、あのオルトリンデその人ではなかろうか?

 あれ?とハーリーが思いつつ見ているのにオルトリンデは気付いたのか、ギクリとしながら目を逸らした。拙いな〜っといった表情をしている所に、ポンと不意に肩を叩かれる。ヒキッと引きつるオルトリンデの肩を叩いたのは、いつの間にそこまで移動したのか、先程まで向かいの席にいた筈のシュウェルトライテさんであった。

「…オルトリンデ。貴女私に隠し事がありましたね? あちらの少年から色々と興味深いお話しを伺ってますよ? ふふふ。何やら1級全時空指名手配犯がどうとかこうとか…」

「は、は、はひぃ(涙) あ、あの、シュウェル姉様? その、少しわたくしの御話しを聞いて頂きたいな〜とか思うんですが、あのその……」

 幽祢相手に確固として折れなかったあの毅然とした少女はその姿見る影も無く、肩に置かれるシュウェルトライテの手に恐怖し顔を引きつらせる只の女の子がそこに居るのみであった。

「ほほぉ〜。何か言える様な立場だと思っている訳ですね、この口は? 久し振りに愉しいジョークが聞けて嬉しいですよ? あらあら、どうしたのですオルトリンデ、そんなにほっぺたを伸ばして? あらあら本当に良く伸びるほっぺね? 何処まで伸びるか試してみたくなるわ♪♪」

 笑顔のままフニ〜っとオルトリンデのほっぺたを伸ばしにかかるシュウェルトライテ。やられているオルトリンデは涙目になりながら「やふぇてやふぇて姉さふぁ」と訴えている。

 そしてその顔に笑みを浮かべたまま、ぐうたら昼行灯風の男の方に向き、至極丁寧な感じでシュウェルトライテが御願いをする。

「ちょっと御願いがあるんですけど、いいですかカイン・マクラクラン?」

「Yes ma'am! いかな御用でしょうかシュウェルの姐さん!!!」

「この戯言をのたまうタワケを反省房まで連れて行ってもらえませんか? 私はこれからコレの尻拭いをしに出かけなくてはならないので…。頼まれてくれますか?」

「謹んでお請けします! 御任せ下さい姐さん!!」

 まっこと変わらぬ美しい微笑みのままデータグラスを光らすシュウェルトライテに、カインは足をガタガタブルブルと震わせながらも力強く答える。誰も逆らいがたいその雰囲気に、一同一様に口を挿めないでいる様だった。

 そして尚も素晴らしく素敵な微笑を浮かべるシュウェルトライテ。

「カイ〜ン♪ もしまかり間違って逃がしたり逃走を許した場合…、解ってますね?」

「勿論であります!!! この孤騎(ソロナイト)カイン・マクラクランに万事御任せ下さい!」

「よろしい。それでは引っ立てなさい♪」

「はっ!」

 「いぃやぁ〜! たすけて〜〜! ちがう、ちがうんです〜〜!! はなしを、はなしをきいて〜〜〜!!!」などと涙ながらに訴えるオルトリンデを引きずりながら、孤騎(ソロナイト)カイン・マクラクランはこのお茶会の場を後にするのであった。

 

「すみませんジーク。お茶の用意を2杯分無駄にしてしまって」

 先程とうって変わって、至極普通のシュウェルトライテに苦笑しながら答えるジーク。

「いえ、構いませんよ。丁度僕とヒルドのお茶を淹れようと思ってたところでしたから」

 丁度空になっていたカップを指しながらそう言うと、一人残っているアルカードのお茶を入れるジーク。

 一方再会を果たしたハーリーとアルカードは…、

「…そうなんですか。じゃあ、僕達が吹っ飛ばされた後スカウトし直しに行ったんですね」

「こういう展開になるとは思いもしなかったがな。まあ、オルトリンデには母上の件で借りもある…」

「あ、でもマリアさんの事ですから、どんな所に居ようが追いかけて来る様な気がしますけどね(笑)」

「……否定出来ない所が恐ろしいな(苦笑)」

 御互いに今までの経過などを話し合い、不意に出てきたマリアの名に互いに苦笑する二人。あながち間違っていないあたりマリアの恐ろしさが窺える。アルカードの中でさえ既に彼女、マリア・ラーネッドは謎少女なのである(爆)

 しかもまんざら嫌いという訳でもないらしい(核爆)

「さて、それではそろそろ行くとしましょう御二方」

 そう言いハーリーとレザードに声をかけるシュウェルトライテ。その言葉にジークルーネも食べていたお茶菓子を急いで口に入れ、残っていたお茶で流し込む。

「あ、はい。それじゃあアルカードさん、縁があったらいつかまた」

「ああ。心配しなくても、こうして再会できたんだ。縁があるのは確実だろうからな。またな、ハーリー」

 お互いに微笑みで返すと、それじゃっと手を振りレザード共にシュウェルトライテ達の方に歩を進める。

 いまだ響き続ける爆音をBGMに森と隣り合った道を歩き出す一同。

「さて、それでは御二人を今からある所に御連れしますが、そこではくれぐれも失礼の無い様にして下さい。ハッキリ言ってこれから行く所は、私達とは管轄の違う別世界といいますか別次元といいますか……。兎に角、私達が御願いに上がるのはとんでもなく上の方ですので、機嫌を損ねたり、まして怒りに触れようものなら、どうなるかはまったくもって保障できません。…まあ、あの方が御怒りになるなんて事はまず無い事ですが、一応注意しておきます」

 真剣な面持ちで話しかけて来るシュウェルトライテに、思わず神妙な顔で頷く二人。

「まあ、問題なのはあの御方じゃなくて、その前の方なんだけどね…」

 何やら意味あり気に笑っているジークルーネに、どういう意味か聞こうとするハーリーであったが……、

 

バキバキバキ! ボゴォウン!!!

 

 などという凄まじい音と、目の前で薙ぎ倒される木々と起こった爆煙に一瞬呆気にとられてしまった。

「な?! 今度は一体何なんですか!?」

「いつつつつつ。やっぱやるねグリムのやつ。流石ルーネと並ぶ武闘派。楽しませてくれるわね♪」

 そう言いながら爆煙の中から出て来たのは、禍々しいほどの深紅の槍を持ち喜々として嬉しそうな顔をした、シュウェルトライテとはまた違った意味の美人さん。ザンバラとした感じの髪を後ろでお下げに編込んだ蒼髪、深紅にぬれたその瞳、凶悪なまでに自己主張しているそのスタイル、そしてなによりその纏う雰囲気が彼女自身を引き立たせ、とても活動的な印象を受ける快闊美人に仕立てていた。

 そんな美人さんに深い溜め息をつきながら話しかけるシュウェルトライテ。

「もう少し被害を抑える事は出来ないものですかね、エマ・フーリン?」

「え? ありゃま、シュウェルじゃない。あはははは、いや〜〜ちょっと鍛練に力入っちゃってさ。それもこれも全ては鍛練時に居なかったりするルーネの所為……」

「勝手に人の所為にしないで下さいエマ!」

 誤魔化すが如き微笑を浮かべて、おもむろにジークルーネに責任転嫁しようとするエマに、思わず突っ込みを入れるジークルーネ。

「あれ〜? 何でここに居ちゃったりするのルーネ? あんた確か任務とか何とか言って出てたんじゃ…」

「さっき帰って来たんです! まったく何で貴方はいつもそうなんですか? 基本的になんですから…。一応女性の最上形容を貰った身でしょう! そんなんじゃ神妃(シャクティ)の名が廃りますよ?」

「んなもん別にあたしが望んだわけじゃないし…。まあ、便利だから使ってるだけで、名に引っ張られるのは違うだろ? あたしはあたしの遣りたい事を遣りたい様に遣るのみなのですよ、ルーネさん?」

 その人をチョッピシ小馬鹿にする様に言うエマに、少々こめかみ辺りに血管が浮かぶジークルーネ。

「巫山戯てますね…。ええ、巫山戯てる! 貴女には淑女の嗜みとかそういうものは無いんですか!! 戦闘に関しては、ええ何も言いませんとも。それが本分であるわけですし、それに口出しはしませんとも。でも仮にも神妃(シャクティ)なんて(あざな)を貰っている身として、もう少し普通に振舞えませんか! 貴女ってば貴女ってば通常の生活でも雑すぎるんですよ! 女らしくとか言いませんから、せめてジーク並みに生活態度を改めて下さい!」

「うへぇ、薮蛇…。まあ、その件に関しては善処だけはしよう。そいじゃグリムも待ってるだろうし、あたしはこの辺で。バッハハ〜イ♪」

「あ、こら待ちなさいエマ! 貴女は本当にこの場で考えるだけなんだから、たまには実生活に結果を反映させ……、ってこら! 話し聞け馬鹿!!!」

 ムキ〜っと怒るジークルーネを爽やかに笑いながらいなし、すたこらと逃走するエマでありました。

 

「まったくエマにも困ったものです。もう少しリーブラナイトとしての自覚を持って貰いたいものですが…、まあ仕方ないでしょう。アレが彼女ですしね。…さて、ジークルーネ、いつまでも遊んでないでさっさと行きますよ。ここで時間を潰しても仕方ありません」

「ううぅ〜。それはそうなんだけど…。シュウェル姉からも言ってあげてよ、あの雑な所を直せって」

「言って直るようなものでもないでしょう。それに彼女は彼女で存外見違えるほどの態度をとる時があります。遣るべき時に遣るというのなら、それはそれで良い様にも思うのですが…」

「それはそうなんだけど…。女の子としてアレはどうかって思うんだよね私は……」

 先程の姉の様に深い溜め息をつきながら、お手上げですみたいなジェスチャーを入れる。そんなジークルーネに苦笑しながら、一行は先に歩を進めることにした。

 そうして森と隣り合った道を進む事しばし、幾つかの建造物を尻目に奇妙な形の東屋の様な物に入り、見知らぬ所に転送され、そうして行くうちに何やら立派な建物の前に一同は到着していた。

「こりゃまた凄い……、神殿、ですかね?」

「これまで見て来たいずれとも比べ物にならない、凄まじい施術が成されていますね…」

 その威圧感と尋常でないほどに組まれている圧倒的な術の数々。人ではとてもではないが成せぬであろうその神秘の塊に、流石のレザードも少し背中に冷や汗が伝う。

「まあ、ここが何が在るのかを考えれば、これぐらいは当然。いやまだぬるい位でしょうか」

 そんな言葉に、中には何があるのだろうと考えようとするが、その間もなくシュウェルトライテに呼ばれ中に入る事となった。

 中は中でこれまた外に劣らず凄まじいものがあった。レザードの見る限る、かなりエグイ仕掛けや、正気とも思えない様な罠の数々が巧妙に、それこそそこらじゅうに仕掛けられているのではなかろうか? 正式な訪問以外では、絶対に訪れたくない場所である。

「さて、この扉の向こうが、まあ受付の様なものです。こちらの事情等を説明しますが、くれぐれも無礼の無い様に御願いします。一応中に居るのは私達の同僚なのですが、場所が場所だけに揉め事を起こすのはよろしくない。よろしいか御二方?」

「はい、解りました」

「承知した。……しかし、ここは一体何なのです? この尋常でない結界群、正気とも思えない程の攻勢防護陣の数々…。生半可な施設でないのは判りますが…」

 整然と奇麗に鮮やかに、一分の隙無く組まれているその圧倒的な陣式にレザードは疑問を口にする。それに今度はジークルーネが答えて来る。

「重要も重要、なんてたってこの奥は全ての世界の運命を紡ぐ運命の三女神様方に降臨願う祭壇があっちゃうんですから!」

 正直何を言われたのか一瞬解らなかった。ジークルーネの言葉が段々と頭に染み込んでいき、言われた言葉の意味を理解して驚愕した。

「どえぇぇ! それってかなりとんでもない事なのでは…」

「ほほぉ〜、そういう事ですか。確かにそれならたった一人を見つけ出すことも可能でしょうね。…しかしこれは、私が言うのもなんですが、かなり無茶な事ではないのですか?」

「HAHAHA。そうなんですよね〜。これってかなりの反則技なんですけど、まあ今回の非はこちらに在るという事で何とか押し通しますんで、そこんとこよろしく!」

 まあ、暗に「無茶するから覚悟はOK?」と聞いている様なものだ。ここまで来て引き下がる訳にもいかず、ハーリーとレザードは覚悟完了させ向かう事にした。

「それでは参ると致しましょう」

 

 

 まあ、端的に言えばその豪壮豪奢な、部屋と呼ぶのもおこがましい様な広さの神殿の室内に、それぞれを象徴する様な鎧を纏った金銀黒の三女神がそこにおわした。

 一人は黒。流れ(しず)る黒髪に、併せた如くの金に縁取られた漆黒の鎧のきつげな美人。

 一人は銀。後ろで編まれた銀髪をたらし、機能を重視した様な白金に縁取られた紺碧の鎧の冷静そうな美人。

 一人は金。ウェーブがかった金髪に、嫌味無く似合っている黒に縁取られた白金の鎧の穏和そうな美人。

 そんな三人の中から銀の美人さんが代表する様に話し出し…、

「汝ら何用か? ここは運命司る三女神の「おおぉ〜、何という事でしょう! まさかこの様な所で再び出会おうとは、まさに運命としか言いようが無い!!! そうは思いませんか、我が愛しき女神よ!」……は?」

 行き成りのレザードの言葉に口上を遮られた上、レザードは瞬間移動したとしか思えない速さで迫り、その両手を握りながら銀の人を口説き落そうとしていた(笑)

「ちょっと待て貴様! 一体何を言って「ははは、照れる事はありません。今更貴女と私の仲ではありませんか。いやいや、照れる貴女も中々にチャーミングですよヴァルキュリア♪」」

「何だ、あの男レナスの知り合いか? シルメリア知っていたか?」

「いえ、わたくしもトンと今日まで知りませんでしたわ。でもレナス御姉様も遣るときは遣る方だったんですね♪」

 などと、銀の人が口説かれる中、黒の人と金の人は何やら微笑ましげに見守っている様子だ。先程からの銀の人の戸惑いは無視の方向なのだろうか?

「うわ〜。あれっていいんですかね?」

「え〜、いや〜、どうなんだろう? 本当に知り合いだったら野暮ってもんですし、そうじゃないんだったら止めるべきなんでしょうけど……」

「……(呆)」

 判断に迷うジークルーネは如何するべきかシュウェルトライテの方を窺うが、あまりの事態に流石のシュウェル女史も呆気に取られていた。

 そして尚も続くレザードの攻勢であったが、何を思ったのか銀の人――レナス――はふむと何かを思い直し、満更でもなさげな態度にでた。

「お前、中々の男の様だが先程からの事、本気か?」

「当たり前ではありませんかヴァルキュリア。貴女を前に、どうして私が虚言を呈する必要があるのです?」

「なら少しばかり付き合ってやっても構わんが…」

「………」

 そんなレナスの態度に何を感じたのか、好意的な返答を返されているにもかかわらず、レザードの顔には不審げな表情が浮かんでいた。

「どうした? お前の言葉通りに付き合っても構わんと言っているのに嬉しくないのか?」

「……………………。貴女は誰です? 私とした事が我が愛しき女神の御姿に、少々我を忘れしまった様だ。貴女は私が愛した唯一人のレナス・ヴァルキュリアではありませんね?」

 疑念は確信に変わりそう言うと、レザードの鋭い眼差しを受けてなお、レナスはその顔に楽しげな表情を浮かべる。

「ほぉ〜、流石に見抜いたな。いかにもこの身は貴君の知るレナス・ヴァルキュリアではない。しかしまったくの別という訳でもない。私の名は確かにレナスであるし、この容姿も貴君の知るものとほぼ同一だろう。ただ私は彼の世界の創造神ではなく、クロノハイダースが一、現在の女神守護役であるだけだ」

「ほぉ、それはまた…。これもまた一つの因果という奴でしょうかね? 我が愛しき女神も運命の女神でありましたが、同一存在である貴女もそれに近い位置に居るというのは……。どうやら如何に環境や世界が変わろうと、同一存在はその因果の在り様ゆえに似通った要因・選択・結果に片寄ってしまうようですね。在り様如何にして尚変わらず、と言った所でしょうか」

「つまり根っこは一緒って事ですねレザードさん?」

「………それでは身も蓋もありませんよジークルーネ」

 身も蓋も無いジークルーネの言い様に、レザードといえど少々いじけてしまいそうだ(笑)

「へぇ〜、別世界のレナス御姉様ってあの方に迫られてたんですね〜。別世界の御姉様も堅そうですけど、意外にあの人に落とされちゃって、メロメロのラブラブになっちゃったりして(爆)」

「レナスはああ見えて、意外に一度崩れると脆そうだからな。あるかもしれん…」

「あぁん。やっぱりアーリィ御姉様もそう思われるんですね? はぁ〜、恋するレナス御姉様、ちょっと見てみたいですね〜」

 何やらレナスの後ろの方でコソッとした口調で堂々と喋る黒の人――長女アーリィ――と金の人――三女シルメリア――。隠す気全然無し。からかう気満々であろうか?

「はぁ、まったく。そんな事とは縁が無いだろうシルメリア? 共々に埒外でしょう…」

 レナスとしてはここの守護役を任されているのだから、私達にそういう機会は無いだろう、とそういう気で言った。しかし……、

「…え? レナス、御姉様? 私達だけって…」

 脳内変換⇒お前は男運とか無いから知り合えさえしないでしょう? アーリィ姉さん共々機会も何も無い。私はそんな運命とは関係ないけれど♪

 ………。

 三女シルメリア、ちょっぴり想像力豊かな元気っ子。情報収集と早合点が得意技である(笑)

「ふ、ふふふふふふふふふ。駄目ですね、駄目ですよ。いくら敬愛するレナス御姉様でも、人には言って良い事と悪い事があるんですよ?」

「シルメリア、一体何を言っているのだ? 実際真実だろう。ここの重要性を考えるならそれぐらいは……」

「あ、駄目ですよ?! わたくしの憧れの方まで捕ろうだなんて、いくらレナス御姉様でも許しません!!!」

「は!? え? シル、メリア?」

 ますますもって先走るシルメリアの思考に、こういう面を見るのは初めてなのか、シルメリアの言っている事が理解できず戸惑うレナス。

「待たんかシルメリア! レナスはそういう意味で言ったのでは…。聞いているのかシルメリア!! ちっ、耳に入らんか。……拙いな。シルメリアが切れると見境が無くなる。………仕方が無い。おいお前達、早急にこの部屋を離脱するぞ。いくら私達といえど、アレを喰らってはただではすまん! 」

 呼びかけにも答えないシルメリアを諦め、ハーリー達を急かしこの部屋からの離脱を図るアーリィ。その瞳に悲しみを浮かべながら、シルメリアに迫られるレナスに、

「すまぬ。生き残れよレナス…」

 そう呟くと、そそくさと一同と一緒に部屋の外に脱出し、素早く扉を閉ざしてしまった。

 長女アーリィ、沈着冷厳で大人な人。冷徹な判断と押しの弱さが得意技である(笑)

 

 一方室内では……、

「シルメリア待て! いくらなんでも宝具を出すのは遣り過ぎだ!! 姉さんも何とか言って……って、ああ!いない!?」

 不気味な笑い声を上げ、頭上で柄長で打頭部が小さめの金の槌を振り回しながら迫るシルメリアに、何時の間にか自分以外部屋を脱出した事に愕然とするレナス。

「ふふふ。それじゃあレナス御姉様、神様へのお祈りは済ませましたか? 部屋の隅でガタガタ震えながら逝く準備はOKですか?」

「本気で待てシルメリア!!? これ以上は私も剣を抜かざるおえ……」

「光と消えよ! 神技 ゴルディオン・インパクト!!!

「ちょ、ま、うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 全てのモノを光に還す黄金の鉄鎚の放つ光の奔流の中、レナスの女の子らしい悲鳴が室内に響きわたるのであった(合掌)

 

 

「ふむ、そういう事情でここに来たわけか。まあその程度の事なら多分あの御方も御引き受け下さるだろう。…いや、既に見知って呼ばれるのを待っているかもしれん。なにせ今起きている事象は、あのお方には全て御見通しだろうからな」

 部屋の扉を閉ざしてから幾ばくかの時間が過ぎ、一同はここに来た事情をアーリィに話し現在に至っていた。

「女神様って結構お茶目な方なんですか?」

「ん? いや必然の君はそれ程でもない。まあ、軽い悪戯程度を時々為さるぐらいだ。どちらかと言えば困り者は運命の君だ。あの方は守護役である私が言うのもなんだが、かなりの悪戯好きだ。過去の女神で在らせられるからか、過去から予測されうる観測から最も効果的な方法を選択し、罠を仕掛けられる。憎めない方ではあるのだがな〜。本気で嫌がる様な事をしないだけになお性質が悪い

 何やら守護役としては有るまじき発言を聴いた様な気がするが、まあ聴かなかった事にして置く方が無難だろう。面倒な立場に立てば立つほど愚痴を言いたくなるものだ。

「苦労しているのですねアーリィ。解りますよその苦労。うちの上司や姉妹方にも苦労させられている身としては…」

「シュウェル…。貴女…」

 グワシッと握手するアーリィとシュウェルトライテ。どうやらお互いに苦労人な女同士、友情が芽生えた様である(笑)

「それにしても中は大丈夫なのですかね? 先程視た感じではかなり危険な攻撃であった様に見受けましたが?」

「あれは下手すると神技クラスの技を使おうとしてたんじゃないかな?」

 お互いの疑問を口にしながら首を傾げ合うレザードとジークルーネ。結構馬が合っている様だ。

 そんな当然な疑問に、友情を確かめ合っていたアーリィがフムと頷き、

「確かにそれは言えるが……、まあ仮にも運命の女神守護役を仰せつかっている身だ。何とか死ぬ様な事は無いと思うが…」

 何かを計る様な顔で扉を見、

「頃合いか、な? そろそろ冷静になっているだろう」

 そう言うと扉に近づき、先程素早く閉めた扉をゆっくりと押し開けだした。っと、

「うわぁ〜〜ん、レナス御姉様しっかりして下さい。傷はきっと浅いですから、目を覚まして下さい〜(泣)」

 などという泣き声が中から聴こえて来るのであった。

 

「目を覚ましたかレナス? どうやら無事な様で安心したぞ」

「うぅ、私、は、何とか、生きてる? は、ははは! ……まあ無事だから良しとしましょう。それより姉さん! 知っていましたねシルメリアの事?!」

「ははは。まあ、前に一度切れる所をな…。お前の前ではそういう事もほとんど無かったので言うのを忘れていたのだ。すまぬ、許せ」

 気まずげに説明するアーリィに嘆息しながら、

「早合点が得意技だとは思っていましたが、あそこまで飛び抜けるとは思ってもみませんでした。今度からは前段階でシッカリ止めて置かないと」

「身内だから良かったが、予兆が見え次第大事になる前に止めて置くに限るな」

 うんうんと互いに新しい姉妹の誓いを立てるアーリィとレナスであった。

「まあそれはそれとして、立てるかレナス? お客さんがお待ちかねなのでな、お前が立てなくては話にならんのだ。事情は私が訊いておいた。必然の君への呼び掛けを願えるかなレナス? 久々に降臨なさって頂こう」

「………分かりました。事情は後でタップリと聴かせて頂きましょう。幸い姉さんに訊かなければならない事も色々有る事ですしね?」

「御手柔らかに頼むよ、レナス」

 姉の返事にまたも嘆息しながら何とか起き上がり、神殿内の奥にある数段高くなっている斎場の様な場所の手前、一段高くなっている他とは違った設えの祭壇の様な場所に立ち、その手にいつ出したのか、何かの意匠が施された幾何学的な両刃の剣をその手に持ち、何かの儀式めいたソレは始まった。

 

「……十天に配するその法に、六天に御座すその御名以って、此の呼びに御答下さい必然の君よ!」

 荘厳なる神殿に韻が響き、括りの言を発した瞬間、斎場に凄まじいまでの力の渦流が発生し、同時にそこから物理的圧力さえ持った凄まじい気配が出現。確かにその場に何かが現れた事を示し、光り渦巻いていた力が治まり始めた時、それはやって来た。

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜〜ン♪ってあれ? 外しちゃいました?」

 あは♪と言いながら現れたのは、何と言えばいいのか、腰まである長い白金の髪に、どこまでも澄み切ったメタルブルーのその瞳、清楚に纏っている巫女の様な服装に、嫌味でない程度に髪や全身を飾る宝飾装飾の数々。静かに優しい力の具現の様な妙齢な女性がそこにあった。

「ベ、ベルダンディー様……。あ、貴女という方は、貴女という方は貴女という方は貴女という方は! どこまで御巫山戯になられれば気が済むのですか!!!

「ひゃん?! もう、レナスちゃんは相変わらずお堅いんだから。変わりがなくて安心したけど。アーリィちゃんもシルメリアちゃんも元気そうね。シュウェルちゃんとルーネちゃんは久し振りかな? ……そして、初めまして、ね、ハーリー君にレザード君?」

 ニコニコと微笑みほんわかとした雰囲気を醸し出しながら、名乗りもしていないハーリーとレザードの名前を、さも当然の様に言ってくるベルダンディー様。その如何にも前から見知った者に今日初めて会う、みたいな口調に思わずギョッとするハーリー達。

「あの〜、何で僕達の事を御存知なんですか? 何所かで会ったなんて事は無かったと思うんですが……」

「うふふふ。そうね、会うのは今日が初めてね〜。でも知ったのは少し前になるわね。スクルドが面白いのがその内ここに来る事になるって言うものだから、どんな人達なのか興味が湧いて、ちょっと前から見ていたの」

「はぁ〜。それでは我々が何の為にここに来たかという事も先刻承知、という事でよろしいのでしょうか?」

「勿論です♪ その原因とか、何でそうなったかなんて過程まで、全部お見通しだったりするのよ、これが♪ ね、シュウェルちゃん?」

「グッ、至らぬ妹で申し訳ありません」

「いいのいいの。全ては必然のままに、よ。それと、あんまりオルちゃんを苛めちゃ駄目よシュウェルちゃん? 何だかんだ言って、あの娘もカクちゃんに手玉に取られてたし、あまり責めるのも酷よ?」

 ダメダメよ、っと嗜める様に指を振りながら微笑むベルダンディー。既にそんな仕草だけで大方の者の毒気を抜いてしまうであろう彼の方に、恐れ入ってしまう守護役三姉妹以外の一同。

「…御心のままに」

 思わずそう言い、身を傾がせ礼を執ってしまうシュウェルトライテであった。

「それで、捜して貰いたいって子の事を……、めんどいからこっち来て頭に浮かべてくれるレザード君?」

「了解しました女神殿」

 内心、自分の力だけでこの女神をどうにか出来ないものかと企んでいたりするレザードだったが、流石に相手があのレナス・ヴァルキュリアよりも高位な上、この布陣ではどうにも成らぬだろうと、自らの案に没を出すレザード。そこにコッソリと、ベルダンディーがレザードに呟く。

「ふふふ。やってもいいけど返り討ちにしちゃうから、痛い分だけ損よ?」

 どうやらこの女神様には全てお見通しらしい。レザードにしては珍しい事に、心の中で自分の完敗を素直に認め手を上げてしまった。

「貴女にはまったく敵わない様だ。素直に敗北を認めましょうベルダンディー殿」

「そういう素直な所が可愛いわよレザード君? さ、貴方の捜している子の事を頭に浮かべて」

 可愛いなどと言われ、苦笑しながら目を瞑り、自分の連れであるあの娘の事を頭に思い浮かべる。共に前の世界を脱出した時の服装に、その手に抱えられるAIの核玉。あの衝突に巻き込まれ怪我などしていなければよいのだが…。

「見つけたわよ。これは……、何だかお城みたいな所に居る様ね。うん、怪我とかは大丈夫みたいよレザード君」

 始めて10秒と経たない内に、まさに速攻で見つけられてしまった様だ。流石女神様、仕事が速い(笑)

「そうですか。あの衝撃でしたから怪我が無いのは僥倖でした。まあ、取り敢えず一安心といった所でしょうか…」

「それも、今の所、だけどね? 早く迎えに行ってあげるのに越した事は無いんじゃない?」

「まあ、場所が判ったんなら早速……って、ああ、しまった! 僕じゃ場所を教えられても行き方が…」

 ベルダンディーの「今の所」発言に、少し焦ってしまうハーリーだったが、自分では次元は渡れるが一度行った場所でなければ場所を教えられても行き方が解らない事に思い至り、あうあう言いながら悩みだした。

 まあ、その点はレザードも同じであったが、ハーリーとの違いは利用出来るものはすべからく、容赦無く、完膚なきまでに利用し尽くす、ある意味手段を選ばない点であろうか?

 これに関しては、ここまで来たのだからそれなりの手段が用意してあるのではという、可能性としてはそれ程低くない予想が立つ所為もあった。

 そして案の定…、

「ああ、レナスちゃん。アレ持ってない、ほらアレ。ここまで来たらついでだから送呈しちゃった方がスッキリするし♪」

「いえ、私は今持ち合わせが…。私達よりもシュウェルトライテやジークルーネの方が持ち合わせているかと思いますが」

「アレって、もしかしてコレですか? 私はしょっちゅう飛び回ってますから幾つかストックがありますけど…」

 そう言ってジークルーネの取り出したのは、溜息が出るほど深く透き通った、血よりもなお深き深紅の神秘の雫。

「時空珠パランティアの照影の一滴、ティアレプリカ。私達はティアガーネットって呼んでいる、まあ次元間移動時の扉の開閉と、通行手形を併せた感じの物よ。コレに目的世界の座標を入れておくから、後はコレで扉を開けば勝手に目標世界に連れてってくれるわよ」

「これはまた、何とも凄まじい神秘を秘めた宝具ですね。私でも次元の扉を開くには相当の時間とリスクを背負ったというのに、コレはそれらを一切無しで行おうというのですから…」

「? 開くだけなら僕の双剣でも出来ますよ? 何処に行くかは運任せですけど(笑)」

 何気ない様に言うハーリーに、レザードは嘆息し肩をすくめながら、

「マキビ・ハリ、貴方は解っていないようですが、貴方の持つその双剣も人が持つには相当に過ぎた宝具ですよ? 本気でその力を解き放てばどうなるか判ったものではありません。まあ、その剣自体が貴方を認めているようですので、どうにかなる事は無いと思いますが、ね。
 それにその双剣には元々それを行える属性機能が付いているようです。それを行える事自体はそれ程不思議ではありませんよ?」

「へぇ〜、コレってそんな物凄い物だったんですね。流石ミツリさん、免許皆伝祝いにこんな物くれるあたり、やっぱり只者じゃないですね〜

「うん、結構良い対剣ねそれ。もしかしてレナスちゃん達の宝具とも遜色無いかも。まあ、それはそれとして、はいレザード君」

 そう言って、いつの間に受け取ったのかティアガーネットをレザードに差し出してくるベルダンディー。そんなベルダンディーの行動にレナスは一瞬呆れ、

「ベルダンディー様! そういう物は一旦私に預けて下賜するのが筋というものでしょう! 貴方が直接御渡しになって如何するのですか!!!」

「もぉ〜〜〜、レナスちゃん堅いってば! 良いじゃない、そんな一々畏まらなくても。それに一旦預ける分、時間の無駄よ」

「ああぁ、もう! 何故貴女はそんなに分らず屋なんですか!!! 私は、私は、貴女の為を思って…」

「スト〜〜ップ。それ以上は不毛な言い争いになっちゃうから一旦置いときなさい。それよりもまずはこっち」

 そう言ってレザードの前まで来ると、その手にティアガーネットを渡す。

「ハーリー君は一応その剣で行き来できるみたいだから、これはレザード君が持ってなさい。一応コレがあれば次元間移動が自由に出来る様になるけど、悪い事に使っちゃ駄目よ? さっきも言ったけどコレは通行手形みたいな役割もあるから、見つけ様と思えば一発でばれちゃうから。あと、コレを使った後は必ず魔力の補給をしときなさい。数回なら補給無しで稼動するけど、限界超えると砕けるからね。
 取り敢えずはこんな所かな? 何か質問とかある?」

「いえ、知り得るべき事はほとんど貴女が補完して下さいましたから、私からは特にありません」

「ああ、僕からも特には無いですね」

「そう。ならそろそろ御行きなさい。それの使い方はシュウェルちゃんかルーネちゃんに訊きなさいね。私はちょ〜〜っとレナスちゃんとさっき置いといた話し合いをしなきゃいけないから」

 ふふふふと綺麗に笑いながらレナスを見つめるベルダンディー。そんなベルダンディーに怯みながらも、負けじと見つめ返すレナス。そんな二人にヤレヤレと肩を竦めるアーリィとシルメリアの二人。

「それでは、御世話になりました皆さん」

「このぐらいの事、気にしなくて良いわよ。それじゃ色々頑張りなさいね二人とも」

 そう言って微笑むベルダンディーに見送られ、一行はひとまずこの神殿を後にするのであった。

 

「それじゃ、さっき言ったとおりに力を通せば扉は開くから、後はそのまま身を任せていればオールOK!」

「恐らく到着点は多少の誤差が有ると思うが、そこは済まないが自分達で捜索してくれ」

 そう言いビッと親指を立てるジークルーネと、付け足す形で口を挿む毅然としたシュウェルトライテ。

「それでは色々御世話になりました。何だか皆さんとは縁があるみたいですから、また何所かでお会いするかも知れませんけど、その時はまたよろしく」

「中々に貴重な体験、感謝致しますよ。機があるならまたいずれ…。ああそれと、貴女とのコンビ、存外悪くありませんでしたよジークルーネ?」

「レザードさんは本っっっ当に素直じゃありませんよね〜。でも…、うん、結構私も楽しかったです。またいつか機会があれば御一緒しましょう♪」

 悪戯っぽく微笑むジークルーネに苦笑を浮かべ背を向けるレザード。

「それでは行きますよ」

 そう言いティアガーネットを起動させ門を開くと、チラリと後ろを見、小さく手を振るハーリーと共に門へとその身を躍らすのであった。