殺してくれるか? ……この俺を……

 

〜すれちがいの反抗者〜

あるいは、欲望に素直な者達の物語

by.katana

 

第2話 呪いの黒百合 


 

黒の皇子は火星にて――……

 

 ……ユリカ……俺達は……一体……どこですれ違ってしまったんだ?

 俺はそんな事を考えながら、じっと目を閉じていた。

 あのランダムジャンプの時からまるまる一日……俺はずっと目を閉じ、これまでの事を反芻するだけで過ごしていた。これからの事など……いや、今の事さえ考える気力はない。

 現に、俺は自分が今どこにどんな状況で寝転がっているのかも知らなかった。ただ、瞼の裏に宿るルリ達の泣き顔を見つめ、耳の奥で反響するユリカの罵倒に聞き惚れていた。

 ……まったく……無様なものだ。

 ユリカに合わせる顔など無いと思っていた。嫌われて当然だとわかっていた。だから、会わなかった。

 そう思っていた。でも、それが違っていた事を……俺が俺自身を偽っていた事を……俺はユリカに突きつけられた。

 ……俺はただ……ユリカに会って拒絶される事が怖くて……逃げ回っていたに過ぎないんだ……

 そして、ルリちゃん達が俺を受け入れ……俺はユリカに否定された。家族は、仲間は誰もが俺を求めてくれたのに……妻が俺を否定した。

 当然だな。あいつにしてみれば、目がさめたらいきなり変わり果てた俺がいたわけだ。自分で言うのもなんだが、お人よしのコックと、このテロリストではあまりにも変わりすぎた。

 ……人を殺す事に執念を燃やしていたこの俺は、人を殺す事に禁忌を抱いていた俺ではない。あの火星の後継者達に囚われてからの日々は、俺から夢と命と共に人として最も大切なものを奪っていったのかもしれない。

 ルリちゃん……俺は……やり直せるかもしれないなんて、やっぱり妄想だったんじゃないか? 

 リョーコちゃん……俺……やっぱり変わりすぎたんだよ……

 サユリちゃん……やはり俺はコックにはなれない……

 イネスさん……アイちゃん……失った物を取り戻す……君が還ってきたのは……俺の力では……ないだろう……?

 ……彼女達は……いま……どうしている……? ……! ランダムジャンプに巻き込まれて……!

 く、くくくくく……くはははは! お笑いだ。やっぱり俺には彼女達に愛される資格なんか、側にいる資格なんてない!

 彼女達の身の安否を今まで思いつきもしなかった! 

 俺と同じA級ジャンパーのイネスさんは無事だろう。ルリちゃんも無事である可能性が高い。だがサユリちゃんは? リョーコちゃんは? 彼女達がジャンパーになったなんて……俺は聞いていない。

 俺は俺の中に宿っていた絶望が、彼女達は死んだに決まっていると耳元で囁くのを聞いた……

 もう諦めろ……

――諦める?  

 彼女達は死んだ……

――信じたくない。

 自分の悲しみに酔ったお前が殺した……

――まだ決まっていない!

 彼女らがあそこでお前を引き止めないと気がつかなかったのか、本当に……?お前は、自分を追いかけて来てくれた者達と共に死にたかったのではないか!?

――違う……

 お前が殺したのだよ、Prince of darkness! そしてお前は一人生き残った! お前は自分を愛した者も手にかけた永劫の罪人、壊れた心の狂い人だ!

――違う、違う違う、違うんだ!

 殺した、ころした、コロシタンダ!

――オオオオォォォォ!

 確かにその時には考えていなかった腐った毒を持つ思考を、まるでさも真実であったかのように突きつける俺の中の虚無主義――この言葉に身を任せ、いつまでも、飢えと渇きでくたばるまでこうやって自分で自分を切り刻んでいれば、一体どんなにか楽だったろう。 

 しかし、それを必死になって振り払う……例えそうだとしても……せめてそれを確認しなければならない……

 俺は仲間を殺したのだ……せめて、ヒカルちゃん、イズミさん、あの青いエステの操縦者、ホウメイさん、エリちゃん達……皆に罵られ、蔑まれなければならないだろう……もう一度、ハーリーと言ったか? あの坊やとユリカに罵られるのもいいだろう……

 

 それとも、皆……今度は殺してくれるか? この救いのない俺を…… 

 

 俺は目を開き、ワラった。

 そうだ……俺を動かすのは希望ではない……あの最後の幸せの瞬間から絶え間無く訪れる……この永劫の絶望がいい……

 俺は最後の自虐と共にゆっくりと立ちあがった。

 罵られるために、蔑まれるために、そして……殺されるために。

 


 

 まず必要なのは現状の確認だった。

 俺はゆっくりと立ちあがり……愕然とした。俺の前にはあまりにも見覚えのありすぎるものがあった。この二年間、追い求めつづけた物、実際に見たのは数えるほどだが、資料の写真でなら見飽きるほどに見た。

 全ての原因、俺にとっては凶事の象徴……ボソンジャンプのための超高性能演算機――遺跡……あの、俺が始めて見た時のように正方形に近い形で、そいつはただ静かに鎮座している。

 ……ここは……この場所は! 俺がたどり着いたのは火星極冠遺跡か!?

「は……ふ、く、くっくくくくっくっくくく――っはははははは! あはははは!」 

 自分が例えようもなく愚かで滑稽で――何より卑小に思えて仕方が無かった。どこまでもコイツに人生を左右される惨めでちっぽけな……

 無様な……俺……

「は――っふぅ、ふうぅぅぅ……」

 三分もたっただろうか? いい加減、笑い疲れた俺は肩で息をして……笑い疲れた? この俺が!?  

 バカな! 月臣との鍛錬で鍛えたこの体が、笑い疲れただ!? しかもたった3分程度で? 有り得ない事実に、俺はある事を思いつき、改めて自分の体を見下ろした。

 黄色いシャツ、青いジーンズ、それらに包まれているのは――間違いない、この“弱い”体は十七歳時の俺の身体だった。

 ……五感もあった。 バイザーもなく、スーツもない。それなのに俺の目は確かに遺跡を捉えている……俺のあの数年は……ただの悪夢だったとでも言うのか? そんな筈がない!

 俺はムキになったように自分の身体を調べた。はっきり言えば、ただの悪夢だったならばこれほどいい事はないのだが、何故だか俺はそれが容認できない。これは単に気持ちの切り替えが出来ないだけなのか、それとももっと重要な何かがあるのか、それは自分でもわからなかった。

 視覚、聴覚、嗅覚、触覚……味覚……すべてある……どうなっているんだ! かつてならばおそらく至高の歓喜を味あわせたはずの事実が俺をいらだたせる。 

 俺は上着を脱いだ。先ほど、味覚の有無を確かめるために噛み切った腕の傷から流れた血が服に張りつき、かなりうっとしかったが……しかし、火星の後継者による実験で失って以来、初めて味わった痛みが自分自身でつけた傷によるもの、かよ……全くもって皮肉だな……

 服を脱いだ俺は、過去が夢ではない証拠、自分の腕に走る傷を見た――人体実験の最中につけられた傷のうちの一つ……最も新しく、最も大きなもの……それが俺の二の腕を走っている。

「そういえば……同じような傷をイネスさんにつけたんだよな」

 発狂するほどの痛みを感じていた時の事を思い出す。外側からの痛みは絶えても、内側の痛みは絶え間なく俺をさいなんだ。イネスがいなければ、正直俺は気が狂っていただろう。いや、それ以前に、脳が破壊されていたかもしれない。

「……本当に……俺は彼女を振り回してばかりだな……」

 無邪気な少女と、冷徹でありながらも人として大切な何かは常に胸に留めていた彼女の麗貌と――たった一度だけ、彼女達はここに二人で並んだ。

 あの時を思い出しながら、シャツを力なく床に放り出した――すると、金属音……これは、あのC.Cをつけていたペンダント! その鎖だ! 

 何しろ両親が殺されてから約十年、毎日肌身離さなかった形見だ。たとえ鎖だけと言ってもみ間違えるはずもない。

 ……どうなっている? 俺は確かに二十三歳……その間の記憶はちゃんとある。その時間が嘘ではない証拠の傷だってある。しかし、この兵士としてははっきり言って貧弱……無力と言ってもいい弱い身体は一体……?

 五感が治っているのも……これでは、まるで精神だけがジャンプしたような……しかし、あの傷はどう説明する?

「……いったい……何が……どうなっているんだ?」

 体が変わったのか? 心が変わったのか? 

――ルリ……ルリ! 

 もしやと思い、彼女の元へ心を飛ばす――だが、心は通じなかった。 リンクは切れているのか? ならば……やはりルリは死んだのか?

 それとも、ここが遺跡である事が関係しているのか? それとも、この変化が俺達のリンクを切ってしまったのか?

 自分を見下ろし、不可解なこの事実を一体何とすべきか……そんな事に気を取られていた俺は、気がつかなかった。

 何時の間にか俺の背後に忍びよった、謎の影……巨大な――恐らくはエステバリスクラスの巨大な腕の存在に。

「……っ! な、何だ! う、うおおおぉぉぉぉ!?」

 俺はそれにがっしと握られ、そいつの……その腕の主の元へと引き寄せられた……!

 


   

 俺は力を手に入れた。

 恐らくは、あのブラック・サレナをもしのぐ力を。

 ……だが……それがどうしたと言うんだ? この力……何に対してふるえばいい?

 


 

 2195年、夏――……

「……一体何者なんだ、アンタは……」  

 俺に向けられる言葉には、まさしく俺にふさわしく、恐怖が込められている。俺の背後には、何やら巨大なクルーザーが浮んでいる――いや、沈みつつあるのを俺の愛機によって支えられていると言う方が正しい。

 その真っ白いデッキには水着姿の男女、十人以上が櫛の歯のように並んで、俺に畏怖の眼差しを向ける……仮にも命の恩人なのだが、な。しかし、俺にはこの視線はたまらなく心地よい。

 自分が向けられるべき正しい視線だ、との思いが俺を安心させるのだ。この恐怖に満ちた視線……今の俺は、好意に満ちた態度ですりよられても、その裏にある何かを探ろうとしてしまう。

 そんなもの、有りはしないのに……

 ――あの時……ユリカに拒絶された俺は無意識に全てを無かった物としたがったのだろうか、それとも、共に跳んだ彼女達の中にこの時をイメージした人がいたのか……俺は西暦2195年の火星にジャンプしていた。

 それも、ユートピアコロニー壊滅直後……つまり、俺にとっては故郷が永遠に失われた時であり、護ると約束した一人の少女を救う事の出来なかった……一人安全な所に逃げ出した記念すべき日に俺は再び跳んだ、というわけだ。

 二転三転する事態についていく事が出来ずに呆然としていた俺は――ある出会いを果たした。あまりにもおぞましく、俺にふさわしい存在との出会い……俺の新たなる相棒との出会いだ。

 俺は手に入れた相棒と共に遺跡の外、火星の大地を駆け回って自分のいる時と場所を確認し、今の自分の立場を確認し、そして知った……全てが、リセットされている事を。

 たった、一人の少女を除いて。

 ――その少女の未来であるイネスさんを探して、俺は火星、ユートピアコロニーを目指し……そこで、彼女がいない事を知った。

「何故だ……何故、彼女がいない!」

 ようやく見つけた彼女らしき人物を目撃した男達……そのリーダー格らしい人物の襟首を締め上げ、俺は久しぶりに切羽詰った声と言うのを上げた――そして驚いた。

 俺にも、まだ必死になれる事があったのか……

「……悪いが、こっちもそれどころじゃなかったんだ……」 

 俺が自分自身に驚いて呆然としている時に、何か勘違いしたかのように同情の眼差しを向けてくる男。彼女が死んだとでも言いたげだな――俺はそんな事を考えて自失していたわけじゃない!

 俺の中で強暴な衝動が持ちあがるが、無意味な八つあたりだと言う事は自覚している。俺は男が自分の身に迫った危険に気がつく前につかみかかった腕を解き、気がつけば地面から離れかけた足をむしろ丁寧に地面に下ろす。

「ふう……凄い剣幕だな。彼女はアンタにとってよっぽど大事な相手だったのか」

「…………」

 勘違いをし続ける男に、俺はもう関心を向けるだけでさえ苦痛を感じ、男達の住まう地下シェルターに息苦しさを感じ、空と風を求めて外に出た。ナノマシンの風が俺に触れる、その感触がわずらわしい。 

 俺に襟首を捕まれた男の話では彼女は避難してきたその日に彼女はいずこかに消えたと言う……

 嘘をついているようには見えない……俺の存在以外の要因によって、事態が大きく変わっているのを認める必要があるだろう。ならば……

「……地球に行こう」 

 イネスも……俺と同じなのだろうか? 彼女とてA級ジャンパーなのだ、多分そうなのだろう。ならば、探すような無粋な真似はするまい。未来を知る彼女も彼女なりに何かを始めようとしているのだから……

 何かとはなんだ? 見当もつきはしない、ただそれでも、彼女が何かをするように、俺も何かをすべきだろう……

 何かを……何を?

 この……血塗れの手で……俺は何をつかめばいい……? せめて……それを見付けるべきなのだろうか?

 ……彼女達に、出会う前に……

 俺は、俺が巻き込んだ女達が、せめて一人だけでも生きていたと言う事実に湧きあがる暖かい何かの存在を、この時まだ気がついてはいなかった。

 今の自分を動かしているのがまぎれもなく前途への希望なのだと言う事実にも、また。

 


 

 ――そして俺は地球にきた。別に意味らしい意味も無い。ただ、イネスとも会えず、潰れた故郷しかない火星で遺跡とにらめっこをしながら過ごすなど、真っ平だったからだ。

 忌み嫌っていたジャンプに頼って地球にきた自分をワライながら俺は空から海を眺めた。これからどうすべきなのかを考えながら。

 ナデシコに乗ろうかという考えもないではなかったが、どこか踏ん切りがつかなかった……彼らの手で死にたかった。だが、ここにいるのは俺を責めるべき人達でも、俺がわびるべき人達でもない……

 彼らと同一人物であり、別人でもある皆……どう向き会っていけばいいのだろうか? 

 俺の眼下の海で、真っ白いクルーザーがバッタに襲われているのを見たのは、闇雲に地球に現れ、それから何をすべきか迷う……俺が、そんな中途半端な事をしている時だった。

 ……今更バッタの十や二十は相手では無い。機体の性能を差し引いても簡単に殲滅したんだが……俺はクルーザーの乗員から転覆しかけの船体を支え、港まで牽引する事を要求され、乗りかかった船と言う訳で俺も承知したんだが……

「まったく、しかし情けない事だ」

 突然男が一人、そんな事を言い出した。二十歳前後、か? 何故だかちょび髭を生やしているが、プロスには感じられなかった品性の卑しさを感じさせられる。どこか、懐かしくもないキノコを連想させられた。

 ……確か、俺が来るまで一際騒いでいた男だったと思うが……俺の方をちらちらと見ていた面子が彼の方を一体何事かといっせいに見つめる。

 男はまるで舞台俳優のように両腕を振って言葉を続ける……しかし、俺が護衛のエステを袋叩きにした無人兵器どもを殲滅した時には、その戦い振りに怯えたような顔をしていたが……随分態度が大きくなっている。

 そいつは俺の機体が牽引しているもう一つのモノ――……パイロットがまだ中にいる破壊されたエステバリスを見ていた。明らかに侮蔑の色を宿した眼差しで。

「あの護衛だよ。あの趣味の悪い真っ黒な機体があっさりと倒したと言うのに、散々追いたてられた挙句、ろくに敵を倒せずに死ぬとは、全く役立たずもいい所だ」

 ……丘に上がったら、こいつは殺そう。

 聞いた話では、こいつらが海で遊びたいなどとワガママを抜かし、護衛のエステをつけさせたのだとか………それで出てくるのがこのセリフか? ふざけやがって……!

 俺にどこぞのキノコの事を思い出させた己の愚かを呪いながら逝かせてやる――……

 と、俺が物騒な事を考えながらアレな意欲と比例して移動速度を高めながら陸地を目指すと……突然乾いた音が大海原に響いた。見れば、あの腹立たしいキノコモドキが黒髪の佳人に横っ面を張られていた。

「か、カグヤさん……」

 男は赤くなった横っ面を押さえて、呆然としながらくだんの女性を見つめ、カグヤとやらは軽蔑の眼で男を迎え撃つ。

「…………」

 その男など見るのもバカらしいと言わんばかりの態度で、男の頬を赤くした手を振る凛々しい女性に、俺は少し好感を持った。少なくとも、死者に敬意を払いはするらしい。まあ、こんな所にのこのこ遊びに出てきた時点で、敬意より、軽蔑に値するが……今は戦時中だぞ?

 それにしても、カグヤさん、か……月のお姫様を火星の鬼が救うか……ふん…… 

「お礼を申し遅れまして、申し訳ありません、パイロットの方! 身の危険を顧みず我々を護っていただき、感謝の言葉もございません。私、カグヤ・オニキリマルと申します。あなたは?」

『……俺は……カグヤ・オニキリマル?』

 男に背を向けて俺にぺこりとお辞儀をする頭が……名前が……どこか、記憶を掠める……気のせいか? 

「あの……? どうかなさいまして?」

『いや……なんでもない』  

 古いナンパの手段でもあるまいに、“君の名前を聞いた事があるような気がしたので”などとは絶対に言わん。

『俺の名前は……テンカワアキト。他に言うべき事は……特に無い』

 彼女は一瞬ならず音を立てて固まった……なんだ?

「……テン、カワさん? ま……まさか……?」

 うん? ……なんでそんな潤んだ目で俺を見つめる? さっきまでとギャップが凄すぎるぞ……

 何か途方も無くイヤな予感がした俺は、しかしここでクルーザーを投げ出すわけにもいかず、どこかでいつか味わった、戦慄すべき危機感に苛まれていた。何故かその危機感の色は桃色だった。

「テンカワ、アキトさん……もしや……火星、ユートピアコロニーにいらっしゃいましたか……?」 

 彼女はゆっくりと俺の方へ歩み寄ってくる。その目は潤み、両手は(水着のせいで豊かさが際立った)胸の前で組まれて、頬は紅潮し、肩は期待と興奮に震えている。

 ひっぱたかれた男も、彼女を遠巻きに見つめていたその他大勢も、彼女の急な変化についていけず、何事かと彼女の背中を見つめている。

『……ええ、まあ』

 ……事実を答える以外に何がある? 

「……お歳は……?」

 ……そこまで言う必要などありはしないのだが……逆らったら凄い目にあわされそうな、そんな目の色をしている。

『十七才だが……』

 精神年齢に限定すれば、そろそろ二十四才……って、おい、何を考えている!

「アキト様ァァァァァ!!」

 『どぇぇぇぇぇ!』

 カグヤ・オニキリマル――ユリカのライバル、火星時代の、俺のもう一人の幼なじみ――……俺と彼女の十年ぶりの再会は、彼女が俺の愛機に抱きつこうとするのを、慌ててハッチから乗り出して、俺が取り押さえる事で始まった。

 この時、カグヤは確かに自分達を祝福する天使のラッパが聞こえたと言っていたが、もちろん、空耳だった。

 


 

 カグヤ・オニキリマル――……明日香・インダストリー社長令嬢。火星時代の幼なじみで、ユリカがいなくなる少し前に引っ越していった少女……性格は……深くは言うまい。ただ、ユリカに貴族的な教育を施し、天然さが上品さにとって変わったような……とでも言おうか。

 とにかく、今俺の隣で人目を憚る事なく腕にしがみついている黒髪の美女の体内には、あのユリカに匹敵するパワフルさが眠っているのは間違いない。いや――もう既に起きてガンガン活動しまくっている。

「ああ、戦火に襲われるアキト様をお助けするために単身火星に乗り込もうとしましたのに、幾度も家の者に妨害されてしまって……」

 そりゃするだろ……

「けれど、挙句の果てに渋る私を学友達が無理に引っ張っていった海で、よもやアキト様があのように颯爽と現れて、私を救って下るとは! ああ、運命を感じますわ……」

 俺も運命を感じるよ、カグヤちゃん……俺の人生、料理と縁が切れても、パワフルな女性との縁が切れる事は決して無いんだって、運命を、ね……

 それにしても、現状が……なにか……俺が俺らしくないような、もしくはとても俺らしいような……彼女と再会して以来絶え間無く胸に居座る、そんな奇妙な感覚に振り回されながら、俺は目の前の作業を眺めていた。

 俺の愛機――そこに漆黒の追加装甲を装着する、その作業を。

 俺はあれから彼女の両親、及び彼女がよく懐いていると言う祖父殿と対面を果たした。

 両親は俺の事をどこの馬の骨かと、あまり好意的な目で見はしなかったが、彼女の祖父――なかなか格好のいい白髪に白髭のミカド・オニキリマル氏は何やら随分と古風な性質らしく、俺に何としてでも礼をしたい、と感涙とともに申し出てきた。

 カグヤちゃんの話では、ミカド氏は華僑の大物らしく、かなえられない願いは無いのだとか――……願いなどそうは無いんだが……と、断ろうとすれば、二人掛かりで逃がしはしないと言わんばかりに揃って俺の腕をつかむ。

 一時保留と言う事にしたのだが、滞在中に俺は知った。カグヤちゃんが“お礼”と称して俺との結婚を画策していた事を……カンベンしてくれ……

 そんな事になってはたまらんと慌てて申し出たのは、俺の愛機に追加装甲を施してくれる事、俺にナデシコの乗船の便宜を図ってくれる事……その二つだった。

 カグヤちゃんと、何故だかミカド氏まで不満そうな顔をしていたのがとかく印象的だった。

 ともかく、不満そうな顔をしつつもミカド氏は、ナデシコの存在を俺から聞き、即時確認……見事に俺の乗艦許可を取ってくれた。

 その際に、何故華僑の長老たる自分も知らないネルガル重工のトップシークレット、最新鋭戦艦ナデシコの存在を何故一介の小僧でしかない俺が知っているのか――それについて聞きたがったが……カグヤちゃんの援護もあり、何とかごまかせ……ごまかしたと言っていいのか? あれはかなり力押しだったが。

 そして、俺は孫娘にイヂメられてちょっと涙目になってる彼の経営する工場へと赴き、そこでかつての俺の相棒の再現を――ブラック・サレナの作成を依頼したのだ。 

「なんだい、こりゃあ……相転移エンジン? ディストーション・フィールドに、グラビティ・ブラスト……? それもこんな小型の!? おい……アンタどッからこんな……こりゃあ、完全にオーバーテクノロジーじゃないか!」

 まったくのゼロから作り上げるのならば、苦労どころか間違いなく不可能だったろうが……俺の持っている知識がかなり役に立った。

「今は……何も聞かないで欲しい……これはこの戦争の全てを左右しかねない情報だから――聞けば、否応無く引き返せない所にまで引きずり込まれるぞ」

「…………」

 元々俺はテロリストであるが故に、極力ネルガルとの接触は避ける必要があった。しかし、補給、整備、情報……全てがユーチャリスとサレナを動かすのには不可欠である。そこで俺は、両機の製作者、改造屋のウリバタケの下で整備をある程度学んだのだ。

 ある程度と言っても、俺が手をかけるべきはこの二機だけであり、何よりも命と復讐がかかっていたのだ、俺は二年間で、愛機サレナのハードに関してならばかなりの部分を――特にサレナ独特の回路や機械パーツについては、的確に把握していた。

 ユーチャリスに関しては、かなりの部分をダッシュに任せてしまったが……

 その俺の知識を基本にして、明日香インダストリーの技術者が知恵を出し合い―― 一年弱の月日を経て、俺の愛機は様々な変化を遂げながらも、この時代の俺の前に、その姿を表した。

 漆黒の鎧……

 張り出した肩部装甲、その中に仕込まれた小型相転移エンジン――背部からは尾のように伸びるヒートウィップ――そして、足と言うよりもブースターと言った方がいい脚部、両の手に持ったカノン砲――接近戦用のイミディエット・ブレードを腰の背面側にさし、背には超小型収束型グラビティ・ブラストを背負い――

「……何とも、凄まじいバケモノを作り出したもんだな……我ながら……しかし、テンカワ君――元々君が乗ってきた機体にしても、なんなんだい? 何と言うか……これまでの規格が全く当てはまらない機体だ。いや……そもそもアレは ――ヒトが作ったモノなのかい?」

 最後の日――俺と共に、ついに再現されたブラック・サレナの前に佇んでいたプロジェクト・サレナのチームリーダーがさも今思いついたように俺に聞いていたが、俺は彼がそれを聞きたがっていたのを知っていた。

 何しろ、このサレナのデータは完全に破棄、と要求したからな……彼らにしても、自分が開発したわけでもないのだからここは諦めるべきだとわかっているだろうが――それでも、やっぱり納得がいかないんだろう。

 さらに、俺の持ちこんだ機動兵器は得体が知れない、未知の機体ときたもんだ。これまでにない新しい技術に触れられると入っても、彼らにしてみれば不満だらけの仕事だったろう。これで、ジャンプ・フィールド発生装置まで作らせてたら一体どう言う反応を示したろうな?

「……ひとまず――いいカンをしている、とだけ、言っておこうか――……」

 だが、俺は彼らにサレナの技術を与える事は出来ない。

 未来がどうのこうのとか、そんな事ではない。ただ、これはウリバタケの作った物だから、全ての決定権を持っているのはあいつだと、それだけだ。

「あいまいだな。これまで随分手を貸してきたんだ、少しはこれの事を教えてくれてもいいだろう? 一体どんな天才なんだ、こいつを作った人物は」

「すまないが、これは俺が作った物ではないんでな……大した事を教えてはやれないんだが……ふ……サレナを作った男、か……」

 アニメが好きで美人が好きで、お手製ロボット“リリーちゃん”の改造が趣味で、エステバリスの装甲にほお擦りをする女房からトンズラしようとした違法改造屋……って言っていいものだろうか?

 俺は、彼らがまだ見ぬウリバタケに対してブラック・サレナを通して憧れのような物を抱いているのを知っていた。

 ……この場合、夢は夢のままの方が幸せだよな。

「――そいつは法に触れるような事をしているんでな……」 

「そうか……もしかして、これのデータを破棄しろってのは……それが理由か?」

 そんなようなもんさ、とつぶやいて……俺はサレナへと歩み寄る。 

 ここから全てが始まる。

 俺はナデシコへと赴く――そして……火星へ行く。そこで彼女達と会い……そして……そこで俺はどうなるのだろう?

 罵られるか?

 蔑まれるか?

 悲しまれるか?

 呆れられるか?

 空気のように、無視されるか?

 憎まれるか?

 それとも……殺してもらえるか、彼女達に……その手で……?

 有り得ない願望に口元を歪める。これは俺がして欲しい希望だ。彼女らが俺を殺すわけも無く、そもそも、彼女らの手を、俺の穢れた血などで汚させるわけにもいくまい。

 ……ナデシコ、か……

 俺の遠い時代の希望と喜び、楽しかった事の象徴。自分が彼女らを想い、先を見始めた事に俺はまだ気がついてはいなかった。

 何故、サレナを用意したのか。

 何故、ナデシコを目指したのか。

 何故、心が踊るのか。

 やり直しの機会に臨めた事を喜んでいる自分を、俺はこの時自覚していなかった。気がつかないままに、俺は逸る心を、戦いを望んでと思いこみ、愚か者は真新しいマントとバイザーを身にまとい、リボルバー一丁、ナイフ一本を懐に隠して黒い巨神へと歩み寄る。

「……なんでもいいんだが、お前さんも黒にこだわる男だな。バイザーはともかく、マントに下のスーツまで黒かよ」 

「……戦装束を、そのまま敵の死装束にする――これは喪服さ」 

 俺は剣呑な笑みを浮かべて蘇った相棒に乗りこむと、IFSでサレナに命令を伝える。

 小型相転移エンジン、正常に作動――黒の鬼に命の火を点し、その狂暴な力を解放させて低く静かに唸る。俺の相棒は大きく、多岐にわたって変化を遂げながら――この時代に、その姿を現した。

 剛毅にして鋭利……鋭く、力強く、深遠を思わせる深い黒に身を染めて、かつてゴーストとも、黒い悪魔とも呼ばれた姿そのままに――……

 

『ブラック・サレナ――テンカワアキト……出る!』

 

 呪いの黒百合は飛び立った――遠い遠い海の向こうに眠る、思慕の名を持つ船へと向けて!

 


 

 ちなみにその時、飛び立ったブラック・サレナの背後で、黙って置いてきたはずのカグヤが何やら不敵な目で遠ざかる黒い影を見送っていた事も、その祖父がネルガル相手に何やら交渉していた事も、アキトは知らなかった。

 ……一年間逃げ回るアキトに付きまとっていたために、彼と彼女は黒の皇子のやりそうな事が少しは想像できるようになっていた。

 


 

 ナデシコ出港――その時、無防備なナデシコに向けて無人兵器が殺到してくる――その事実をアキトは知っていた。

しかし、現在ナデシコのあるサセボ・ドッグへの距離はまだまだ遠い……

「……間に合うのか?」  

 アキトはバイザーの向こうで眉をしかめる。真っ黒な闇の中、ブラック・サレナは尋常ならざる速度で空を駆け抜けていく――その姿は空に爪を食いこませて疾る黒い虎のようだ。

 アキトの全身はその凄まじい速度が生み出す苛烈なGに押しつぶされそうになりながらも、当人は平然としていた。アキトのパイロットスーツは一般的なスーツよりもはるかに対G性が優れており、また、コクピットその物にも手が加えられているとは言っても、並みの耐久力ではない。

 ――この一年、暇を見つけては積んできた異常とも言える鍛練の成果だった。明日香インダストリーの技術部要員をもってして『棺桶』と言わしめたブラック・サレナを彼は見事乗りこなしている。

『現在、虫型無人兵器多数が目的地“サセボ”に向かい高速移動中――エンゲージまで128秒』 

 この場合、交戦するのはアキトではない、まずは連合軍が戦うのだろう。そして――けっこうあっさりと全滅するに違いない。ウィンドウに映る報告を見て、アキトは愛機に更なる加速を命じた。

「ガイの事だから、今回もこけてるのだろうな――……」

 苦笑するアキト。思い出すのはあの懐かしい大声の親友。彼の前ではどこまでもコックのアキトでしかなかったせいだろうか? 思い出に浸るアキトの顔には破滅を望む黒い影はなかった。その顔を見ればルリ達は嫉妬の炎でガイを焼き尽くさなければ気がすまない程に、あの頃のままだった。

 あいつはまた足を折っているのだろう、ならば今回、ナデシコは自分がいない分無防備なままなのだろう。取り返しがつかない事態になる前に行かなければ、な……

「加速最大! 全力を持ってサセボに向かう!」

 全身を締め付けるGに心地よい物を感じながら、アキトは思考を戦闘用の物へと切り替えていった――……

 感覚補正用から遠距離偵察用に用途の変わったバイザーの奥で鳶色の瞳が細められ、目の中にどんどんと大きくなる黄色い無数の蟲どもを捕らえる。

「――間に合ったか……」

 アキトはドッグに群がる黄色いボディの無人兵器達を見た途端に、気分が高揚してくるのを感じた。あの時代、復讐の炎に身を焦がしていた時代に生まれ、育ち、身に巣食った獣が目を覚ます……!

 血を浴びたい、肉を噛みたい、敵を叩き伏せ、その上に立ちたい――! 

 アキトのは己の細胞の一つ一つが興奮し、そう叫んでいると感じる。この銀河をまたにかけて駆け抜けた時に感じた。火星で、この時代に蘇ってからも感じた。

 そう、身体にではない、魂に刻み込まれた、戦いへの抗う気も起こりえないほどの興奮! 

 ――アキトは腰から背骨を伝って脳へと向かう冷たい物を感じる。それが脳に到達した途端、全身の皮膚の下を熱い物が駆け抜け、視界が一瞬白く変わる。脳の芯に冷たい氷柱が一本生まれ、背骨と意識を凍らせる。

 身体は燃え盛り、頭は冷え切る。その中間に位置する心が命じた。

 戦え! 命を奪え! 踏みにじれ! 壊せ!

 殺せ!

 ころせ!

 コロセェェェェェェ―――――ッ!

 

 ギュオオオオォォォォォオオオオォォォォウゥッ!

 

 サレナに搭載された二機の相転移エンジンが唸りを挙げて力をためる――その様、まさに鬼の咆哮!

 まるでその声に引き寄せられでもしたかのように、朝日が昇り始め、黒百合を包む闇の衣が剥ぎ取られた――日の光に照らされて、夜の闇の中に隠れていた漆黒の機体が顕になっていく。

「……さあ、初陣だ、ブラック・サレナ――あの世界で悪魔とも死神とも呼ばれたその力、いや、それ以上の力を今、この俺の前に見せてみろ! それを――お前の存在意義、破壊の力を!」

 その酷薄な命令に答え、黒い悪魔は音を超え、エンゲージに備えて灼熱化した尾のごときヒートウィップが流星を思わせる赤い軌跡を消えかけた闇に残す――そして黒の流星は、風と共に舞って街を蹂躙する蟲どもに襲いかかる! 

「受けろ、木連ども――これが俺達の戦争の号砲だ!」

 アキトの叫びと共に赤い輝きが螺旋を描いて無人兵器に襲いかかる! まずは三体――赤い光に貫かれ、より赤い輝きになって、虫は消えた。新たな爆音に引かれた有象無象がサレナに気がつき、襲いかかる。

 その姿はまさに、花に群がる虫――しかし、この花には虫達と共生するつもりは無く、当然蜜など吸わせてやろうはずもない。 朱に染まった黒百合の蔓は近づく虫を当るを幸い、次々と刺し貫く。無人兵器達の放つ攻撃、バルカンやミサイルなど、何の意味も為さない。

 彼らが先ほどまで弄んでいた旧型の戦闘機とは、機体の性能もパイロットの腕も何もかもが違いすぎる――対戦闘機用に慣れきった無人兵器の戦闘プログラムには、黒の皇子の相手は荷が勝ち過ぎた。

 アキトは殺戮と破壊への衝動の命じるままに機体を駆る……にやりと、狂悪な笑みを浮かべるそんな彼の中で、冷静な部分が声に出さずにつぶやく。

「ナデシコ――俺が何を為すべきなのか、俺は何をしたいのか! それを見定めるために――そして、彼女達と再び出会うために……居させてもらうぞ、お前の元に!」

 ――彼が彼女らに……特に、ミスマルユリカに出会った時、自分がどう出るのか、自分はどんな顔をするのか……そんな不安は、彼の心に例えどれほど渦巻いても、黒の皇子の面には現れなかった。

 だが、その思いは確実に存在している――彼の胸に。

 


 

ナデシコ・ブリッジ――

 

「……見事だな――いや、見事過ぎる……あんなパイロットが存在していたとは……ミスターは知っていたか?」

 気絶した(させた)ガイを肩に乗せたゴートの無骨な顔、声、それぞれに、この感情を表面に出すのを苦手としている男の限界にまで感嘆の思いが込められていた。

「知っていれば必ずナデシコにスカウトしますとも――アレほど見事なパイロットがいたとは……あれぞ、まさに逸材……そもそもあの機動兵器、ブラック・サレナとは何ですか? 確実にネルガルの技術力を上回っている……」

 プロスが実に悔しそうな顔をする。スカウトマンとしては思う所があるようだ。

 普段それぞれの形と理由で感情を表に出さない男二人が珍しく感情を表に出している、その一段下で、サレナを見て以来目の色を変えていたウリバタケが何やら釈然としなさそうな顔をしている。

「どうしました? ウリバタケさん。もしや、あの兵器に見覚えが!」

「……ん〜〜、確かに大したマシンだな。ハッキリ言って、今の技術水準を5年は超えているはずだ。一目見ただけでそれがわかる。でも、なんつ〜〜か……ど〜も、あのマシンの製作者のクセって〜のか? それに見覚えがあるんだよなァ?」

 装甲の形、ブースターノズルの形、それらの接続、溶接、全体のフォルム、その他――どうも多分に製作者の趣味が盛り込まれているような気がする。ちなみに、かなりの趣味人だろう。

「ど〜しても、名前が出てこないんだが」

「むう……整備主任が知っていると言う事は……もしや、あのマシンの開発者は民間の技術者!?」

 ゴートの発言に、しかしウリバタケはムキになって首を横に振る。

「バカ言っちゃいけねェ! アレだけの兵器作るのにどれだけ金がかかると思ってんだ!? 個人レベルじゃ到底無理だ! そうさ……そんな金があるってんなら、俺のリリーちゃんだってもっともっとスペックアップを……!」

 ……どこにたいしてムキになっている?

 ちなみに、リリーちゃんとはウリバタケ特製の人型ロボットだ。ただし外見はマネキンの方がまだマシである。

「……まあ、こんな所で俺達が議論するよりも女の子達に聞いた方が絶対に早いんだが……」

「むう……」

「目の色が変わっていますからなァ……」

 三人(気絶しているガイも加えれば4人)を除いてブリッジのクルーは……いや、この戦闘をコミュニケを通して見ている全員が、声も無くモニターやウィンドウを見つめているわけだが……ブリッジにいるホシノルリ、スバルリョーコ、そして厨房にいるテラサキサユリの三人は、他とは違って目が完全に潤んでいる――だけなのだが、何故か誰も声をかけられない。こう言う時に真っ先に詰め寄りそうなキノコさえもが同様である。

 ……そのツヨい彼女達の目の先では黒い花が美しく明け方の空を舞い、敵を打ち砕く……

『残敵、約50%――全五十三機』 

「百機中四十七機破壊――ふ……実にわかりやすい」

 冷たい笑みを浮かべる皇子と共に黒百合の花びらが舞うごとに、虫は喰われて消える。

 縦横無尽にミサイルを放つ対空、対地用虫型無人兵器、通称バッタ。だがその全ては自分よりも遥かに巨大なはずのブラック・サレナにかすりもしない。一機につき一度に十発以上――それが四方八方から襲いかかってくるにも関わらず、黒百合はその内の一つたりともかすらせはしない。

 無骨な黒の甲冑が、皇子の手による舞踊のような動きによって華麗とさえ言える戦いを見せる――それは異様とさえ言える光景だった。特に、今のアキトはヒートウィップしか使ってはおらず、銃器類を全く使ってはいない。

 鞭の類は他の武器に比べて圧倒的に軌道が多彩で読みづらい。銃器の直線軌道に対処するための戦闘プログラムはこの攻撃に対抗できない。だが、アキトがカノン砲やグラビティ・ブラストを使わなかったのは他にも理由があった。

「まだ避難が終わらんのか――ちぃ!」

 己を修羅と嘲る男の取った行動は、流れ弾でサセボに被害が出る事を考慮した上での、見知らぬ他人の為に我が身を危険にさらす行動なのだが、その姿が人々の抱く近代的な戦闘と言うもののイメージから大きく離れ、やはり近代的な兵器とは言いがたいバッタのフォルムと合わさって、どこか神話的な光景にも見えた。

 そのイメージはアキトが腰にさした左右一対のイミディエット・ブレードを抜いた事でますます強まる。

 胴体部に比べて腕パーツが小さすぎるサレナは本来、近接戦闘にははっきり言って向いていない――技がふるえないのだ。たとえば、ノーマルエステでフィールドランサーを使うのに比べ、動きには強く制限が付きまとう。

 その欠点を、アキトはヒートウィップと大型イミディエット・ナイフ――イミディエット・ブレードで何とかクリアした。折りたたみ式にして腰背面部に収納してあるイミディエット・ブレードは、その長さがサレナの2/3と極めて長大――その長さ、そしてブレードの名の通り、日本刀のフォルムによる細さでリーチと動きの幅を得るのだ。

 何しろサレナでナイフなど構えても、張り出した胸部装甲がナイフの柄とロクに変わらぬ位置にまで飛び出してくるのである。この頑健な追加装甲のおかげで、彼はかつて北辰との一騎うちにおいて何とか勝利する事が出来たのだが……これではナイフの意味がほとんど無い。

 ちなみに、“何とか”クリアという暫定的な表現をしたのは、このあまりの長さにより、いったん懐に入られた日には完全に無防備となってしまう事。そして、両手持ちの剣ではないためにアキトが収めた木連式抜刀術がろくにふるえないのである。

 ――元々、抜刀術に不可欠な鞘が無いのだから技にはある程度制限ができてしまうのだが……それでも、ふるえる技はある。アキトは木連式抜刀術を木連のエリート部隊、優人部隊の一員だった月臣元一朗と言う男から二年で学び、実戦の中で磨いた……その中で、独自に機動兵器でも扱える剣術を編み出したのである。

「ふ……バッタども、ミサイルが尽きたか……地上で出番の無かったジョロの弾薬を生かすつもりだな?」 

 アキトの見てとった通り、弾薬が尽き、サレナに対しての有効な攻撃が不可能となったバッタ共は、地上専用の赤い無人兵器・ジョロをまるで猛禽類のように掴み挙げると、ジョロに攻撃をさせながらブラック・サレナに向かってきた。

「ふん……これなら、無人兵器は全て俺に――サセボはもう安全だな。ならば――ついてこい!」

 アキトは期せずして、かつてのナデシコのデビューにおける様に無人兵器に対して囮役を務め、1箇所に集めた。その目的はかつてとは異なり、とにかく既に壊滅状態のサセボから無人兵器を引き離す事――この時点で殲滅対象をブラック・サレナ一機に絞った無人兵器は、サセボの上空を掠めて再び海へと戻っていくサレナを、アキトの狙い通りに追いかける――……自分を追いかけてくる無人兵器のあまりの単純さに、狙いの当りを喜ぶよりも先に苦笑をしながら、アキトはいったんバッタどもを引き離す。

 距離を稼いだサレナの両手に持ったブレードは左右にまるで翼のように構えられ、精一杯に最大長にまで伸ばされた伸縮自在のヒートウィップは真っ赤に燃え上がる――全ての準備を整えたアキトの目が、バイザーの奥でカッとばかりに見開かれた。

 その全身からあの黒の皇子と呼ばれた頃にも勝る凄まじい殺気が迸り、その強烈な感情がルリに破壊欲を通してリンクの存在を知らせた。

「アキトさん……やはり……あなたは……」 

 傷ついた彼の心を嘆くべきか、彼が再び自分の前に現れ、そして心が今だつながっている事を喜ぶべきか、苦悩するルリの前で、彼女の心など知らぬアキトは己の殺意を形にすべく――吼えた。 

「我流・妖刃の一……銀茨・穿ちーっ!」

  黒百合が銀の葉と赤の茨を携えて、回転をしながら弧を描いて蟲共を蹂躙する――! 

 

 斬!

 

 黒百合が、隼の翼のように後方に銀の葉の切っ先を構えて空に静止する――その背で、蟲どもは一斉に爆散した。まるで1枚の絵のようにのように出来すぎた光景……昇りつつある朝日をはね返す銀と黒――その眼下には青の半ばを紅く輝かせた海が広がり、紅い鞭は細いながらも旗のように揺れる――その姿は三国の時代の武将を思わせる。その姿に潤んだ眼差しを向けながらも、ちゃんと冷静な部分を残したルリの報告が沈黙の支配した、息遣いさえ聞こえないブリッジに通り良く聞こえた。

「ミッション・コンプリート――敵、無人兵器、総数百機――全て殲滅です」

「……な、なん、なん、何なのよ、アレは……」

 大口を開けるキノコ。顔色まで悪くなっている。その隣では、フクベが普段は眉の下に隠れている目を一杯に見開いていた。歴戦の軍人である彼には、この場の誰よりもサレナの異常性を理解できていたのかもしれない。

 ――未来を知っており、そのブラック・サレナと戦い続けてきたルリとリョーコを除けば……

「凄まじい物だ……あれは……もしや、ナデシコをも簡単に討ち滅ぼせるかもしれん。少なくとも、この船があの黒い機体に勝つことはあるまい……」

「「きれい……」」

 光に照らされたブラック・サレナの雄々しい姿を目にして、メグミ、ミナトが感嘆のため息をつく中、パイロットのリョーコはその凄まじさを実感して呆れたように頭をかいた。

「あれは……傀儡舞の変形か? 撹乱の動きをもっとストレートに攻撃に利用した、のか……なんてヤツだよ――あんな機動をしたら普通は内臓を吐き出してるぜ……」 

 ……彼女の目は、そののんびりとした口調とは正反対に生き生きと輝いていた。その輝く瞳で想い人の操る漆黒の百合を見つめる。

「――やっと、会えたな……アキト……」

 獅子姫の万感の想いを込めた呟きに、電子の妖精がピクリと眉を跳ね上がらせた。その目はもちろんアレを湧きあがらせている。彼女らの瞳は物を見る器官であり、心の色を映す鏡であり、アレを湧きあがらせる泉であるらしい。

「リョーコさん……? いつからテンカワ、じゃなくてアキト、に呼び名が変わったんですか?」

「う……い、いいじゃねぇか! 事、これに関しては俺とアキトの問題だ!」 

 アレになっているルリ、うろたえているリョーコ、それぞれに頭に血を上らせている彼女達は気がついていなかった。一段高い艦長席で、アホのように口を開けていた天然娘がぶつぶつとつぶやいていた事を。

「テンカワ……テンカワ……アキト……テンカワ、アキト……う〜〜ん、どっかで……」

 彼女の様子に何やらとてもイヤな予感がする幼なじみの副長。彼はしばし躊躇したが、意を決すると乗員名簿を調べ、アレ色のルリとリョーコに誰何の声をかけた。まさに勇者だ。

「ス、スバル君にホシノ君! 君達はあのパイロットについて、何か知っているのかい!? テンカワアキトとは何者だ!?」

 勇者は報われなかった。

「テンカワ、アキト……あああ! やっぱりィィ!」

「「「「「うおぉっ!?」」」」」

 ユリカ絶叫。その瞬間、アレ色の二人は正気に返って非常に厄介な目覚めがミスマルユリカの身に起こってしまった事を知った。ジュンを始めとして、艦長席近くにいた五人があっちの世界に行った。片道切符でないのがせめてもだった。

「アキトアキトアキトアキトアキトォォォォォッ!」

  大絶叫、恐るべし。

 ギリギリで助かったウリバタケが距離を稼ぐ間に、倒れた五人の鼓膜を容赦無く打ち据える――このままでは完全に脳を破壊されるかもしれない。それを危惧したルリがまさに絶対零度の声をかけた。彼女にしても、距離の有利を数が征服する前にやめさせなければ身の危険であるため、迫力は三倍増しである。

「艦長、通信はつながってはいません。ここでいくら彼の名前を連呼しても無駄です。周りへの被害も甚大ですから、即刻やめてください」

「アキトアキトアキトアキトアキト――! なんで〜〜! なんで答えてくれないの〜〜!」

 ルリの迫力も辛らつな言葉も通じなかった。と言うよりも、彼女は周りが完全に目に入ってはいない。モニターの向こう、こちらに近づいてくるブラック・サレナに向かってひたすらに絶叫を繰り返している――何故喉が枯れんのだ? 舌を噛まないのも不思議である。 

 メグミが元声優としての知識をフル動員してユリカの声帯の神秘に思いを馳せているのを余所に、リョーコがずかずかと音までたててユリカの元に歩み寄る。途中誰かを踏んづけたようだが、鼓膜を必至に手でかばっている彼女には気にする余裕など無い。

「……艦長――……こっちが大人しくしている内に静かにしろよ……?」

 自走式騒音公害発生装置のあまりの暴虐に、獅子姫様のこめかみに引きつる物がある。なにより、例えこのユリカには何の責任も無いと知っていても、彼女が最後に見た病院でのある一幕を覚えているのだ、自然と当りもきつくなる。

「アキトアキトアキトォォォッ!」

「……だから……」

「アキトアキトアキトォォォ―――……ふげぇ!」

 「――やかましい!」

 スバルリョーコ、本日2回目のやかましい! である。前回はガイのエステバリスに同じくエステでツッコミをいれ、今回はユリカの後頭部に拳骨一発である。その拍子にユリカは舌を噛み、ようやく静かになった。

「ひろいりゃりゃいでふか、ぱいりょっとふぁん!」

 ようやく声量が人間の可聴領域にで安定する。リョーコは涙目で抗議するユリカを無視して一番耐性があるだろう副長、ジュンを介抱する。

「う……うう……ユ、ユリカ……閉鎖空間で大声を上げるのはよせとあれほど――……」

 言ったところで聞くわきゃ無い。何故なら彼がアオイジュンであり、彼女がミスマルユリカだからである。リョーコはさすがにそこまで言うのは気が引けたので、ジュンを立ち上がらせると、ルリに指示を出した。 

「ルリ、ドッグに注水! アキトを迎えに行こうぜ!」

「ええ、何時の間にかオモイカネがやっててくれました。注水率80%、いつでも発進できます」

 偉いぞ、唯一仕事をしていたオモイカネ。彼(女)のおかげで順風満帆、発進は順調である。その中、気絶していただけの副長が文句をたれた。

「ちょっと、スバル君、ホシノ君。君達は艦長でも提督でもないんだから、そう言った艦の航行に関する指示は――」

「そう言った指示――なんだ? そー言う事は気絶した自分を省みてから言えよ、副長」

 会心の一撃。

「艦長は騒いでいるだけ、副長、提督、副提督、戦闘オブザーバーは気絶――軍関係者ばかりが軒並み役立たず、ですか……バカばっか」

 痛恨の一撃。

「……その上、君達二人は遅刻よ、艦長、副長。長、の名がつくあなた達がそれでどうするの? しかも二人とも、軍人さんなんでしょ? さらに、気絶の原因は艦長だし」

「そもそも、なんで遅刻したんですか? おかげで死ぬ所だったんですよ?」

 ミナト、メグミ、ツープラトン攻撃。二人ともかなり目が怖い――死にかけた事に加え、ユリカのブラスティング・ボイスを都合3分連続でくらった事をかなり根に持っているようだ。前回はユリカの指揮で見事勝利を収めたために、さらにはキノコが騒いで彼女らの注意を引きつけていたために、全てを水に流したようだったが……

『注水完了』

『ゲート開放』

『相転移エンジン始動、異常無し!』

『艦内安全、火の用心』

『その他、発進準備オールOK!』

 ブリッジの各所にオモイカネのウィンドウが開き、発進準備の完了をルリに知らせる。 

「ナデシコ、発進」

『大変良く出来ました』 

 ルリの静かな号令により、思慕の名を持つ船は外界へと旅だった――……

「ああああああ、それ、私のセリフなのにぃぃぃ!」

 素早く舌の復活した艦長の素っ頓狂な悲鳴をBGMにして……

 


  

 その時、厨房ではホウメイを始めとしたスタッフがウィンドウから飛び出してきた爆音に軒並みKOされていた。うら若い乙女達がくんずほぐれつして倒れている所は、ウリバタケなどが見たら垂涎物なのかもしれない。実際約一名、たまたまスカートをはいていた少女は随分とあられの無い格好をして倒れていた。  

 ホウメイまでも含めて、全員が見事に枕を並べて討ち死にしている厨房は、なにか接触不良でも起こったのか、天井ではパチパチと言う音がしている。

 ……ミスマルユリカ……敵艦に通信一つを入れれば、それだけで制圧ができるナデシコ最悪のリーサルウェポン、まったくもって恐るべし。

「う……く……き、きっついわ……相変わらず、なんてバカ声……ああ、ホウメイさん! エリ! ミカコ、ジュンコ、ハルミ! みんな、しっかりして!」

 最初に復活したのはこれまでに何度か経験して心の準備が出来ていたサユリだった。しかし、ランダムジャンプによって肉体はリセットされていたので充分に辛かったらしい。目の前にアキトの幻覚が見える。

「あ、アキトさん! 手伝ってください、皆が! ……あ、アキトさん!?」 

 彼女の目の前では、何時の間にか開いているウィンドウの向こうで愛しい男が困ったような顔をしている。

『……大丈夫か? 聞くまでもないか――……ホウメイさんまで倒れているとはな』

 最初は一体誰なのかわからなかった……彼はあまりにもすんなりと彼は自分の隣に現れたから――

「……アキトさん……生きてた……やっぱり、生きてた……」

 ――愛しい男……Prince of darkness,テンカワアキト。

『一目見て俺とわかる……君も……なんだね? サユリちゃん……サユリ!?』

 黒の皇子はうろたえた。

 ウィンドウ越しに見えた懐かしい黒髪の少女が、何も言わずにぽろぽろと涙を流して自分を真っ直ぐに見つめているのだ。それはもう、うろたえた。 

 うろたえにうろたえ、彼女を呼び捨てにしている事にも気がつかない――……

「アキトさん……アキトさん……よかった……また、会えた……」

『あ、ああ……君が生きてて良かったよ……ジャンパー体質って事から考えて、君とリョーコちゃんが一番心配だったから――』

「心配してたのはこっちです!」

 彼女はそのジャンパー体質の故か、五人の中では超えた時間が一番短かった。彼女が目覚めたのは、つい先ほど、つまり彼女にしてみれば、今さっきアキトが絶望して消えていったばかりなのである。

 泣かずにいろというのは、当たり前(と素直に言いきるには問題があるが)の女の子である彼女には正直酷な話だ。

「ひ……ひぐっ……あのまま、あのまま……死んじゃったかと思って……どこかで……自殺でもしてるんじゃないのかって……」 

『……自殺……いや……考えないでもなかったが……』

「やっぱり……」 

 存外素直に白状するアキトに、涙腺はますます緩む。

『い、いや、今はそんな事を考えてない! ないから! な、泣き止んでくれ!』

 ……黒の皇子、小娘の涙に負ける。

 アキトはナデシコに乗るまで抱いていた悲壮感も、自虐的な心も、殺意も、何もかもをふっ飛ばした。至極みっともなくうろたえて、おろおろと無意味にコックピットと厨房を見まわし、応援がいない事を知ると、無意味に手を振って、汗まみれになっているのがバイザー越しにもよくわかる顔でサユリを見下ろす。

 彼の知っているサユリはホウメイガールズのリーダー。しっかり者のお姉さんタイプと言う印象があるために、こんな風に泣きじゃくられた日には、威力は当社比3倍増である。

 彼女のいる場所が、師匠ホウメイが作り上げたナデシコ食堂である事も、彼の心を緩めた一因だろう。 

 リュウ・ホウメイ(年齢不肖)――アキトが絶対に勝てない、対アキト用最終決戦兵器である。ルリも、家族である自分が、アキトを助けられなかった自分が、と意地を張りさえしなければ、アキトの連れ戻しは至極簡単に行っただろう。

 ――連れ戻すだけならば。

 それがわかっていたからこそ、ホウメイもあえて口出しは控えていたのだ。いざと言う時にはアキトを一喝できるナデシコ食堂にどっしりと腰を据えて。

 そしてその彼女は、今も二人の雰囲気を壊さぬ為に気絶したままの振りをして暖かく後ろで見守っている。なんとも懐の深い女性である。 

 ――あれが“アキトさん”かい……? いきなり随分な女泣かせだねェ……なんだか随分と訳ありみたいだけど、ま、あの情け無くうろたえている様を見れば安心もできるさ……ひどいヤツじゃなさそうだ。

 しっかし、あの二人気がついているのかね。私達が皆起きてるって。特にサユリ、アンタこの後大変だよ? まあ、介抱をほっぽりだして男に走ったんだ。あたしはともかく、ジュンコたちに囃したてられるのは、覚悟しておくんだね。 

 師が背後でそんな事を考えているとは思いもよらず、アキトはうろたえ、サユリは泣く。

 二人のいつまでも変わらぬやり取りは、痺れを切らしたホウメイガールズ達がサユリの後頭部を一斉にハリセンアタックをかますまで、延々と続いたのだった……

「アキトさん、“もう消えたい”なんて言うし……ううう……」

『……もう、カンベンしてくれ……サユリ……』

 女の涙と、それにうろたえる男――ナデシコらしいと言えばこの上ない、デビュー戦の幕切れだった……

 

 The 1st mission clear...

 


 

歴史はまた繰り返す……

人の想い……思い……重い、想い……? 

喜び、欲望、悲しみ、痛み、快楽、冷たく、暖かい心の全てを乗せて……

物語は、続いていく……

 

to be continue.......


 

 どもども、ナデシコ第三弾、アキト、ナデシコに乗る。途中までは予告通りシリアス一直線で行きました。 

 ……ちなみに、百合には茨も蔓も無いだろう? というツッコミはご勘弁を……

 さて今回の目玉は、壊れ、かけの、アキト〜〜♪ と歌えてしまうくらいにイっちゃったアキト。いやあ、壊れる壊れる。

 目玉のその2はカグヤ嬢。コミックで出てきたアキトのライバルですが、彼女は今後……絶対ユリカとぶつかります。

 コミック版見直さんと……

 三人娘(+1)ですが、結局最後に目立ったのはサユリ嬢――泣きつくのは……説得の方が、などと言ってたクセに。

 さて、下に書いているのは今の所考えている機動兵器の名前。アキトの新たな専用機はどんな名前にしようか、現在

 考慮中! 当分はサレナで行きますが、どうぞご期待の程を。 

 

ゼフィランサス――期待

ゼラニウム――真実の愛情

アスフォデル――私は貴方の物

 


 

〜オマケ〜

 その頃、火星のイネス研究室では、愛しい男が自分を尋ねてきたという事を知らない白衣の美女が、大鍋で紫色の液体を楽しそうに煮込んでいた。

 それが一体何なのか知る者はいないが、彼女の白衣が黒衣に変わる日も、その内来るかもしれない……

 

 

 

 

 

代理人の感想

イネスさん、火星で何を作ってるのかと思ったら・・・・・

若返りの秘薬かい!?

 

当分出番はないんでしょうね〜(苦笑)。