機動戦艦ナデシコ もう一度逢う貴方のために
プロローグ
閃光が疾る。
激しい爆発と、それに伴って爆光が周囲を照らす。
それが爆発の中に消え去る前に、その光に照らされて、その姿を一瞬晒される。
それは一隻の艦だった。
形状はかつて『統合軍』と呼ばれていた軍の旗艦クラスの物に良く似ている。
だが。
火星の後継者――――、
2201年、夏に起きた前代未聞のクーデター。後一歩のところまで迫りながらも、
たった一隻の艦によって、―――その裏で動きつづけた者達によって潰えた事件。
その艦は、その残党が操るものだった。
それが、驚異的な速さで駆け抜けるたった一機の機動兵器の前に成す術もなく落ちていく。
通常の機動兵器よりも一回り大きい、漆黒の機体。
―――アキトの仕業だった。
いかに旗艦クラスのディストーションフィールドといえども、それをも遥かに凌駕する戦闘能力を
秘めた機動兵器であるブラックサレナと、それを十二分に使いこなす男の前には紙切れに等しく、
その猛攻のもとに轟沈していく。
しかし―――――、
追い詰められているのは、アキトの方であった。
別の艦からのグラビティブラストが轟いた。
それも一隻ではなく、それに呼応するように複数のグラビティブラストが空間を震わせる。
グラビティブラストとディストーションフィールド。その二つがぶつかり、僅かに光芒を上げる。
それに巻き込まれて、ブラックサレナを囲っていた無人兵器が四散する。
おびただしい量の艦の、或いは無人兵器の残骸が漂う中―――、
四隻の艦と、生き残った無人兵器が、緩やかに円陣を描いていた。
いずれも何時でも動き出せるよう、機を伺っている。
その中心に、直撃は躱したものの各部を損傷したブラックサレナの姿があった。
アキトの腕前であれば、切り抜ける術は幾らでもあったのだろうが、無人兵器のみならず、艦その
ものまで捨石にする事を前提とした戦略によって確実に消耗していった。
そういった経緯もあるのだが、この窮地を招いたのは―――、
何よりも怒りに身を任せた無謀な行動にあった。
彼にはかつて妻がいた。その妻は数々の辛酸を嘗め尽くした後、助け出した時には心よりも身体が
壊れきっていた。
最後までかつての夫を信じ、一目会う事を望みながらの死であった。
その死を聞いた瞬間から、アキトの精神の底に消し様のない激情の炎が燃え盛っていた。
それは、誰に向けたのでもない。何と説明できたものでもない。無限に噴き出す怒りだった。
それは、その時戦闘中だった、火星の後継者の艦隊を徹底的に、狂ったように破壊し尽くしても、
到底鎮まるものではなかった。
その後、ラピスとのリンクを外し、オモイカネ´に後の全てを任せた。
そして、
ただ戦い続ける。――――そうする他に、自らの中に芽生えた無限に湧き出してくる怒りを消化する
術は持ち合わせていなかった。
アキトは、ただ幽鬼の如く駆けていった。
火星の後継者であろう存在を見た瞬間、見極める前に全て斬り捨てていった。
―――彼の駆け抜けていった跡には、凄惨を極める屑鉄状の物体しか残らなかった。
だが、それは遭遇した敵の数が比較的少なかったからこそ通用した。
どれ程の力を持とうとも、圧倒的な戦力差を覆すのは難しい。それを可能にしていたのが、ラピスとの
IFSリンクでありユーチャリスの援護であったりしたのだが、それがない今、戦局を切り開くのは
自らの力のみとなっていた。それも、五感の欠如した。
アキトがそれまで無傷だったのは自身の戦闘能力もさながら、敵の数が自身の許容範囲内で対応
できたという運に恵まれたに過ぎなかった。
(・・・・これまで、か)
機体の異常を知らせるウィンドウが次々に表示される中、アキトは冷静に『死』を見据えていた。
どのように遣り繰りをしてもこの機体は周囲を巻き込んで爆発を起こすだろう。
ならば―――、
せめてこの場にいる奴等でも道連れにしてやろうじゃないか。
もし相手との回線が開けていれば、恐らく震え上がったであろう凄惨な笑みが、その口元に浮かぶ。
恐らく、行動を開始した瞬間から遠からず自分は息絶えることになるだろう。
その間に残存した四隻の艦隊、それらを殲滅できるかどうかに全てを賭ける事にした。
せめて、この場にいる奴等だけでも倒しておきたい。
つまらない意地なのは判っていたが、それが全てを失くした後、戦いに全てを投じて来た己自身への
手向けでもあった。
復讐と称して戦いに身を投じて、何年が過ぎたであろうか――――
誰も巻き込めない。そう思いつつ力を、求めつづけた。
戦い、闘い続けて―――
気付いたときには、巻き込まないと願った人達まで巻き込んで。
立ち止まれなくて―――、
自分はただ、力を振るうことしかできなくなっていた。
だがそれは、その力は『火星の後継者』事件において、結果的には、かつての仲間たちの力となって
いた。
・・・すでに己の役目を果たしている。そう思えば、然程悔いるところはなかった。
うっすらと笑い、いよいよ突進させようとIFS端子に手を添えた時、不意に思い浮かぶ人達がいる。
(・・これが、俺の未練か――――)
自分の記憶にある彼女達は、泣いていた。
バイザー越しに、己の瞳が揺れたように感じた。
しかし、もう逢う事など無い。
自分に残された命の刻はわずかなのだから。
アキトは―――、
全てを振り払うように、咆哮した。
陣を形作る一角に向け、突進する。
ブラックサレナに対して反応を示す前に、艦に機体そのものがめり込む。
その半瞬後、ブラックサレナが艦体を突き破っていた。
アキトはそのまま動きを止める事無く、次の目標へと駆ける。
その艦と残りの艦から、無人兵器から砲撃が飛ぶが、何ら気に留めずに突っ込み、右手のブレードで
艦首を両断する。それと同じく、ブレードが砕ける。
二つの艦が沈んでいく中、『火星の後継者』側も態勢を整えようとしていた。
残りの無人兵器を密集させつつ、沈もうとする艦二つを壁にさせつつ挟み込もうとする。
そして、
ブラックサレナのグラビティキャノンと二つの艦の全砲門が交錯しあった。
「―――ちっ」
片方の艦を沈められたが、こちらも脚部が殆ど持っていかれる。
生き残ったスラスターを吹かし、最後の艦めがけて突っ込ませる。
最後に、超至近距離からカノン砲を弾の続く限り叩き込む。
最後の艦が、炎に包まれ始めた。それと同じく、ブラックサレナもまた同様に。
(―――――こんなところか)
未だに無人兵器が残っているが、直に停止するだろう。
限界以上に酷使した機体が、火花を上げているのがIFSを通さずとも解る。
視界が、炎に覆われる。否、そう感じただけで、既にバイザーは砕けていた。
全ては一瞬の事の筈なのに、妙にゆっくりと時が流れていくようだ。
(ああ、そうか――――――)
不意に思い至った。
今なら、今だからそう思える。
自分は、悔しかったのだ。
当たり前のように己の周りに在るものを、理不尽に失くす事が。
自らの人生はそれを理不尽に奪われ、失くす事の連続であったから。
だから―――、力が欲しかった。
その為の、闘うための力が。
どんな因果であろうとも、その理不尽に異を唱えられるだけの力が。
「・・・・・力が・・・・」
・・・運命を切り開く・・・―――――、
「・・・・欲しい・・・・・・・」
・・・狂った因果を、断ち切る・・・・・・・・!
―――――その為の―――――
―――――力が――――欲しい―――――――!!!
「欲しい・・・・・―――――――」
―――――瞬間、視界が爆発した―――――
見渡す限りの漆黒の空間。
在るのは、既に物言わぬ屑鉄が漂うばかり。
だから―――、誰も気付かなかった。
その爆発の数瞬の間に、蒼の煌きが瞬き、
爆光の中にもはっきりと判る、不可思議な煌きがあった事を。
誰も―――――
プロローグ「流転」 〜Fin〜
◆◇◆◇◆◇◆◇
遅まきながらプロローグと相成りました。
色々ぼかしてる所もありますが、それは全て色々と削りまくった結果だったりします。
・・・・元がどうだったかは、聞いちゃだめです(謎)
しかし―――、
こういったモノばかり書いてると、コワレたSSを書きたくなるのは気のせいでしょうか?
管理人の感想
かわさんからの投稿です!!
Benのリクエストに応えてくれた、プロローグです。
う〜ん、ユリカは既に故人ですか。
まあ、ここらへんは意見が分かれるところですよね。
無事であって欲しいと、あの実験で無事とは思えない、とに。
まあ、Benにすれば無事でいて欲しいですが(なら時の流れは何だ? という突っ込みは無しね)
ですが、最後になってまで力を求め、そして消えたアキト・・・
その行き着く先はあの火星・・・
なるほど、こんなプロローグだったんですね。
それでは、かわさん投稿有難うございました!!
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