機動戦艦ナデシコ  もう一度逢う貴方のために

第4話  Bパート

 

 

 

 

 

 

 

「―――――彼、もう行った?」

 

 その声は唐突だった。
 それもあるが、何よりも心が無防備になっていた頃に声をかけられ、珍しく動揺し、固まる。

 

「・・・にしても、コイツを使いこなす人がいるとはね――――って」

 

 イネスに語りかけようとして、いまだに固まったままのイネスに気付き、その女性は――――、

 

 

「・・・・ま、こう言う事もあるか」

 

 煙草を吹かして誤魔化した。

 

 

(・・こんなことになるとはねぇ・・・。一年前は想像もしてなかったわ・・・)

 

 その視線の先には―――、
 片膝を下ろした漆黒の巨人がいた。

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ―――――」

 

 溜め息と共に紫煙が口から洩れる。
 いつもなら落ち着く気がする煙草も、今はあまり効果が無い。

 

「まいったわねぇ」

 

 据わった目線でぼそりと呟く。
 ―――実際、彼女は困っていた。ただ、その悩みは自分で解決しなければいけない類のもので。
 視界の先で、紫煙が揺れているのをぼんやりと見ていた。

 

 

 

 その日――――、
 アキトがオリュンポス研究所に出向いてから数日後の事だった。

 

(さぁて、コレを誰に見せるべきかしら?)

 

 イネスが手元のディスクを玩びながら何とはなしに自問する。
 話に乗りそうな人物には心当たりはあるが、兄妹揃って一癖ある人物でもあるのだ。

 

「ま、面白そうな物には食い付きそうだけど」

 

 その心当たりの有る人物をそう評し、自分の研究室に入る。

 

 ―――と、煙草の匂いがした。

 

 思わずこめかみを押さえる。

 

(そんな真似をするのは一人しかいないのよね・・・・・)

 

 軽く息を吐き、肩をすくめて。
 取り敢えず、机の向こうにいるだろう人物に向け、声を放つ。

 

「・・・・ココは禁煙よ」

 

「んー?イネス、固い事は言いっこナシよ」

 

 大小様々な資料が積もっている一つの机の向こうで、女性が一人、椅子にもたれかかって
煙草を吹かしていた。

 

 外見はベリーショートの黒髪に灰色の瞳の美人なのだが、自身の身の回りの事には無頓着らしく、
髪は撫で付けただけ、着る服も実用一点張りのラフな物である。

 

(・・・もう少し身の回りに気を使えばいいのに・・)

 

 これだから未だに彼氏ナシなのかしら?
 と、本人が聞いたら『あんたが言うな』とでも返されそうな思考を浮かべていた。

 

「・・・マオ。研究が行き詰まってるからって人の所で遊ばないでよ」

 

 イネスが呆れた視線を送ると、マオと呼ばれた女性が煙と一緒に溜め息を吐く。

 

「・・仕方ないのよ」

 

「何が」

 

 遠い目線で語るマオに、イネスは冷めた口調で応える、と。

 

「・・・長くなるんだけど」

 

「聞いててあげるからさっさと話しなさい」

 

「実はね―――」

 

「・・・」

 

「・・・・・仕事、全然はかどってないのよ」

 

「・・全然長くないじゃない」

 

 冷ややかさを増した視線と口調に、マオは冷や汗を浮かべながら続きを話す。

 

「そうは言ってもねぇ、今私のやってるの知ってるでしょうに」

 

 その台詞に少し考える素振りを見せ、頷く。

 

「次世代型機動兵器――――エステの後継機ね」

 

 

 

 

 

 

「・・ったく、上も無茶言ってくれるわよ。
 アレはアレで完成度高いんだからスグ簡単に新型できるかっての」

 

「・・・・」

 

 愚痴り始めたマオに対して、どういう訳かイネスも少々憮然としていた。
 ―――取り敢えずの目処が立った事は良いのだろうが、こうも都合が良くて良いのだろうか?
 色々と思う所はあったが、少しだけ瞑目して気を落ち着けると、先程のディスクを見せる。

 

「―――コレでも見てみる?」

 

 

 それからのマオの反応は特筆に価した。

 

 初めは何となく見ていたものが、ある一点を越えると目が輝き始め、
 更に読み進めていくうちに険しくなっていき、
 ―――最終的には蒼くなっていた。

 

 

「・・・・・何なのよ、これ」

 

 その一言が全てを表わしていた。

 

「見ての通り、よ」

 

 イネスの見せたものは、一つのプランだった。それに付随して、ある程度略された設計図の概案が
記載されている。
 所々に不備が見うけられるが、全てを繋げ合わせると、一体の機動兵器が出来上がるだろう。

 

 現在の常識を完全に無視した高性能の機体が。

 

 ただ―――、
 その設計図通りに作ることができても、人間が使いこなせる様には、
少なくともマオには見えなかった。

 

 

「・・で、どうするの?―――作るのなら、私も手伝う事になるけど」

 

「・・・・」

 

 その言葉を一つのウィンドウに食い入って見たまま聞き、思索をしていた。
 紡がれる思考は、表情とは裏腹に冷静さを残していた。

 

 イネスが自分自身をどう見ているのかは知らないが、彼女は仕事を選ぶ。
 自分の気に入った研究は率先してやり通すが、気に入らない、或いは自身の主義に反すると思えば
何が何でもやらないという、子供の我侭にも似た頑固さを持ち合わせている。
 今までの事からして、この手の話には乗りそうには思えなかったのだが―――

 

「ねぇイネス。コレを作るとして、誰が乗れるって言うの?」

 

「・・今の所、秘密って事にしておいて」

 

「で、コレを作っていけばそれが判るって寸法ね?」

 

「ええ、一年以内にね―――――」

 

 何かを楽しむかの口調のマオに、イネスもまた余裕のある笑みを浮かべて答える。

 

 沈黙が暫くの間続いて、不意にマオが不敵な笑みを浮かべて、頷く。

 

「OK、・・・で」

 

「何?」

 

「この機体の名前は?」

 

 それに対して、目を伏せ考える素振りを見せると、一言。

 

「・・・・・名無しよ」

 

 ―――今は、ね
 そう胸中で呟くと、これからの事を思い、苦笑した。

 

 

 

 

 

 

「さて、作るにしても私達だけでも時間がかかるわね・・・」

 

 思案顔のイネスに対して、

 

「問題無いわよ。・・まあ、あと一人くらい巻き込んで、と」

 

 心当たりの見当をつけたのか、即座に行動を移し始めた。

 

 

 

 男が一人、夕暮れの日差しを見つめながら思索に耽っている。
 眉間に皺を寄せ、目を細めている。
 さながら何かを憂うる賢人と言った所か。
 時間の経つに連れ、より目を細めて最後には閉じて。

 

 一言―――――。

 

「――――面倒くせぇ・・・」

 

 ・・・気怠げな雰囲気がいや増した。
 外見からして若い筈なのだが、やけに老けて見えるのは何故なのだろう――――

 

「勤務時間は既に終わってるってのに、何で俺ぁここに居るんだ?」

 

「リカルドさん、頼みますから少しはやる気出してくださいよ・・・」

 

 近場に居る同僚から懇願じみた声が聞こえてくるが、知ったこっちゃあない。

 

「何優等生ぶった事言ってんだよ。残業なんざ俺は真っ平だ」

 

「そんな事を言われても・・・・」

 

「うっせぇ」

 

 理不尽な事を伝法な口調で言い、そっぽを向く。
 いよいよ周囲すらも巻き込みつつ、気怠い空気を発散させていた。
 が。

 

 ・・ごす。

 

 重く鈍い音がしたかと思うと、リカルドの身体がぐらりと揺れて、倒れる。
それに周りが驚く暇も無いままに、

 

「さて、連れてくわよ」

 

 兄妹特有の気安さから来るものだろうか、スパナで殴りつけた挙句に気絶したリカルドを
引きずりつつ、マオはそうのたまった。

 

「・・・・無茶苦茶ね」

 

 何とはなしに付いてきたイネスの呟きは、丁重に無視された。

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「・・・・何時まで呆けてるのよ」

 

 先程のお返しの様にイネスが背中越しに言うが、

 

「あんたが言う?どうせ彼の事でも考えてたんでしょ」

 

「なっ、何を――――」

 

 あっさり返されて絶句する。
 何かを言おうとして口篭もっているイネスを、手をひらひらとさせて黙らせると、もう一度視線を
元に戻す。

 

「はいはい、それはいいから。・・・・・それにしてもよく一年足らずで完成させたわねぇ。
 我ながら感心感心」

 

「予定より出力落ちたけどね」

 

 事実、出力は予定の六割ほどで、総合的に見ても七割くらいの出来栄えに留まっていた。
 ―――それでもその戦闘能力は、比類無き物だったが。

 

「・・まあ、兄貴が途中で地球に戻っちゃったのが痛かったわね・・」

 

 元々、地球勤務だったのを何だかんだで半年居残っていたのだ。

 

「・・・・さて。これ、どうしよう?」

 

 膝立ち状態で十メートル前後。全長にして十数メートルにも及ぶ漆黒の巨人を見上げ、イネスは
思案げに呟いた。

 

 その片膝をおろした姿は、さながら主を待つ騎士の様でもあった。

 

「暫くはここに置きっぱなしでもいいでしょ。
 コレの能力を全開にすれば絶対に見つからないし。
 その内彼、また来るんでしょ?その時にもう少し安全な所へ運びましょ」

 

「・・・そうね」

 

 

 

 二人の居る場所―――――オリュンポス研より数キロ離れた、
一部の人間しか知らないとある格納庫。

 

 その一角で―――――、

 

 未だ名を与えられぬ漆黒の巨人騎士は、唯一自らを使いこなすその男―――
 漆黒の王子を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 〜Fin〜 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 イネスの性格が少し変わったかな?
 まあいいけど。
 なお、オリキャラ二人については作者のネルガル科学者のイメージそのものです(爆)

 

 

 

 

 とりあえずな登場人物その3

 

 

 マオ・トリアノス

 

 23歳、

 

 科学者にして技術屋。
 本人は(周りも)整備士としての認識が強い。
 敢えて言うなら女性板ウリバタケである。
 ・・・いや、あそこまで濃くないですが(汗)
 現在兄(リカルド・トリアノス、25歳。既に妻子持ち)は地球にいる。
 イネスとの関係を一言で表わすなら、
 『類は友を呼ぶ』の一言が全てである(爆)

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

かわさんからの投稿第六弾です!!

なんか、まだ隠し機体が存在するみたいっすね。

あれ以上の機体・・・

と言うか、そんなモノが作れるなら、アキトの今の機体を100%に仕上げられるのでは?

と、思わず心の中で突っ込んだのは秘密です。

 

でも、マオさんは気に入りました(爆)

 

それでは、かわさん投稿有難うございました!!

 

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