其処に居れば、居場所があると思った。
騒がしいけど・・・安らげる場所。
それが、求めて止まなかった居場所。
でも。
守れると思っていた――――護れなかった。
失いたくなかった―――――自ら手放した。
そして、
様々な因果の果てに俺は今、その場所に居る。
だから――――、
「しつもーん」
「はい?」
「そのサングラスみたいなの、何時までつけてるんですかぁ?」
「・・とくに意味はないんですが―――」
首を傾げながらバイザーを外す。
「へぇ・・・」
「わぁ」
何か感想らしき呟きを洩らしているミナトとメグミが見える。
取り敢えず、戦艦というよりも何処かの会社に居るような気になる。
―――相変わらず、と言うべきか?
自身の感想に苦笑気味になりながらも、
戻ってきたという感触を確かにする。
――――だから、
―――――俺は問う。
――――――俺は――――――
機動戦艦ナデシコ もう一度逢う貴方のために
第6話 Bパート
マスターキーによる起動後、エンジンがある程度稼動し出した時の事だ。
アキトが何かを思い出したかのように、ルリに指示を出していた。
「―――ルリちゃん、索敵を。
何か居たら、平面図でいいから上の状況も出してくれ」
「・・? 了解」
既に起動を終えているナデシコのセンサーが、周辺十数キロの広範囲に渡って手を広げる。
―――それに対するレスポンスは顕著に現れた。
「いました。バッタ300機が近づいてきます。
サセボに駐留する防衛軍との予測交戦時まであと約20秒」
ルリの報告が響き渡り、簡略化された図面がメインモニターに出される。
一つはこのドックを中心とした図。もう一つは更に範囲を広げたもので、それには徐々に近づいてくる光点があった。
「ああ、やっぱり」
「やっぱり―――って?」
ふと洩れた呟き声にエリナが反応する。
「相転移エンジンの反応でも嗅ぎ取ったんじゃないか?」
納得したのか、微かに首を動かしながら、小さく呟いている。
それを横目に、
或いは奴等のリークかだな―――、と胸中で付け足した。
そしてその会話に遅れる形で警報が鳴り響き始めた。
慌しくなったブリッジの中、アキトの凛とした声が響き渡る。
「―――ドッグに注水開始。及びグラビティー・ブラストへのエネルギーチャージ開始!
これより本艦は海底ゲートを抜けて一旦海中へ。その後浮上して敵を背後より殲滅します。
エステバリスパイロットには、その間の囮役を勤めてもらいます」
言いながらイツキの方を見ると、それに答えて頷く。
「了解しました。これより作戦行動に入ります」
イツキが軽く敬礼をして、ブリッジを退出する。
イツキを目で見送る形になったエリナは、ふと軽く首を捻る。
―――何かを忘れている。
「・・もう一人のパイロットは?」
現乗員記録を見ていたのか、呟く。
<・・それなんだけどよ――――>
唐突にウリバタケがブリッジに繋ぐ。
表情からしてあまりいい報告ではなさそうだ。
<実はだな―――>
事情は知ってるのか、プロスが一人冷や汗を浮かべた。
「もう一人のパイロット、ヤマダ・ジロウさんは現在怪我をして医務室でお休み中です」
ルリが他人事の様にきっぱりさっぱり言い切った。
<違う!俺の名はッ!!>
【五月蝿いよ】
ブツッ
一瞬コミュニケが開き、とある男の顔が表れるが、オモイカネの判断により、即座に閉じられた。
「・・・何?今の」
「さあ?」
「・・どうするの?」
エリナの溜め息混じりの声にも、アキトは平然としていた。
「パイロットならもう一人居るだろう?」
何処に、と返そうとして。
アキトが自分自身を指しているのに気付き、エリナは静かに溜め息をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
上へと向かうエレベーターに、黒と白、二機のエステバリスが乗りこんでいる。
リカルドが真っ先に調整を済ませておいた機体である。
その、黒いエスバリスのコクピットに積まれた特殊回線からは、ブリッジの様子がリアルタイムで流れ込んでくる。
それを横目に、アキトは背中越しにいる白いエステバリスに向けて、
「―――いけるかい?」
<はい>
イツキのその声に緊張の色が無い事を見て取ると、ブリッジに向け通信を繋いだ。
―――時間は少しだけ遡る。
「どーなってんのよ!早いとこなんとかしなさい!!」
「・・・少しは落ち着かんか、ムネタケ」
いきなりブリッジが騒がしくなっていた。
アキト達が格納庫に向かうのに合わせたかのように、
キノコ頭の男と初老を少し過ぎた感じの老人の二人が入り込んできたのがその原因だ。
カマっぽい口調でヒステリックに叫ぶキノコ頭に対して、老人の方は年の貫禄か、落ち着いた声でたしなめる。
そんな、実に対照的な光景だった。
後者が提督の、フクベ・ジン退役大将で、前者の方が呼ばれもしないでやってきた、ムネタケ・サダアキ准将である。
その光景を、エリナは据わった視線で見ていた。
(――――コレが判ってて行ったわね?)
やつ当たりなのは解っているが。
アキトがブリッジを出る時、妙にそそくさと出ていったかと思えば、これだ。ついつい勘繰りたくもなる。
意識的にその光景を無視すると、ルリに声をかける。
「―――ナデシコへの資材の搬入状況、解るかしら?」
「はい。・・・・・今日運び込む予定の物資は搬入終了しています」
「そう。なら問題ないか」
そんな会話がされる最中、
正面に写し出されたウィンドウの二つが、片方―――ドックを中心とした図のみに変わる。
膨大な数の赤い光点―――無人兵器が、軍との交戦を始めたのだ。
―――ほぼ時を同じくして、
<ブリッジ、状況に付加するものあるか?>
それにはメグミの隣に座ったフィリアが応答していた。
「軍と無人兵器との交戦が始まりました。現在、全体の5%が沈黙しています」
<注水と、ランデブーポイントは?>
「注水完了まであと二分半。ランデブーポイントはここです」
と、これはルリ。ポイントを割り出して、二機のエステバリスに向け送信する。
ドックの真上、切り立った崖になった場所だ。
<了解した。タイミングはこちらで合図する>
「ちょっと、今の誰よ!」
とても囮役に言うべき言葉ではない台詞を叫び出したムネタケに対して、プロスが律儀にも答える。
「彼はこのフネの艦長ですが?」
で。
あっさり切れた。
「何で艦長があんなところにいるのよ!」
「いやぁ彼は優秀なパイロットでもありまして」
「だから何で艦長?!」
それを真下近くで聞かされたオペレーターの感想は、
(・・・・・・・・ばか?)
つい空いた手で頭を押さえてしまう。
そして、
同じく額を押さえていたエリナと目が合って。
・・・全く同時に溜め息を吐いていた。
「さて―――」
元々は物資運搬用のエレベーターが、止まり―――、
「始めるか」
二機のエステバリスが、その姿を現した。
白いエステバリスが空高く飛翔する。
それを追って発砲を始めようとしていたバッタが、何の前触れも無く縦横に割れ、爆発する。
―――爆炎の向こう側から、カメラアイに紅い輝きを湛え、揺らめく様に黒いエステバリスが現われた。
「うわぁ、すっごーい」
「・・・すごいですねぇ」
「・・・・」
ブリッジを感嘆の声と溜め息が占める。
略図とは別に、正面に大きく出されたウィンドウには戦闘を開始した様子が写っていた。
白いエステバリスは、一旦空へと飛んだかと思うと、
縦横無尽に空を舞い、敵を翻弄しながら、一定の距離を保ちつつ確実に撃ち落していく。
明らかに戦闘慣れしていた。
そして。
黒いエステバリスは更に、異様だった。
左右、順手と逆手に持ったブレードを構え、滑る様に移動している。
ローラーで移動しているわけではない。各個所に点在するスラスターによって超低空飛行で移動していた。
バッタが照準を合わせようとしても、一つのフェイントや体捌きで射線をずらし、全ての攻撃を避け、或いは攻撃すらさせず、
すれ違い様に全てを斬り捨てていく。
どちらも敵を引き付けつつ、徐々にランデブーポイント―――ドック海中出口の真上にある崖へと向かっていた。
「相変わらずね。―――流石に、本気にはなってないみたいだけど」
「はい。あの人の事です、今回はフォローに回る気でしょう」
そんな声が聞こえる中、ムネタケは面白くないとばかりに黙っていたが、それとは違う意味でもう一人が、黙っていた。
その人物―――、フクベは、僅かに目を見開いていた。
「――――ドックへの注水、終了しました」
「フィリアさん、アキト君―――もとい、艦長に連絡――」
<聞いている。微速前進開始。海中に出たら180度反転を>
二機のエステバリスが海岸線を沿って移動していく。
先を行くイツキ機を、アキト機が少し遅れて付いて行き、更にその後を150機程のバッタが付いて行く。
付かず離れずの距離で連れさせているそれらを見ながら、
(数が以前より多かったか?・・エリナに言った言葉も、あながち外れじゃないか―――)
<アキトさん、どうします?>
「どうするも何も、今回は、あくまでもただの囮を通すさ」
崖を越えると、バーニアをこまめに吹かして落下していき、
海面に立った所で止まった。
ナデシコがそのすぐ下まで来ていたのだ。
徐々にその純白の姿を顕わしていき。
ナデシコ正面、中心部のシャッターが開き、光が収束する―――
その刹那、
黒い光が敵機全てを飲みこみ、
重力を軋ませ、空間を歪ませ、文字通り圧壊しながら爆発していった。
「作戦終了、と。帰還するんでハッチ開け――――って」
<―――敵機、全機消滅。味方機、損害率30%で軽傷者多数ですが、重傷者及び死傷者無し>
<ほぼ完勝ね>
<お見事でしたな、艦長>
<――作戦成功か。初陣としては最高だ>
<うきー、マグレよマグレ!認めないわ!!>
【はーい、おぉるおっけー♪】
<・・聞いてませんねー・・・>
イツキの苦笑気味の声に、アキトの顔にも苦笑とも微笑ともつかない笑みが浮かぶ。
「・・ふう。オモイカネ、頼む」
【はーい】
◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の夜―――、
ナデシコはまだ、サセボ付近に留まっていた。
サセボの街自体の被害は軽微だったが、軍側の被害がそれなりにあったため、事後処理に追われていたのだ。
また、それとは別に、地球に居られる最後の日という事もあってか、あちこちで騒いでいるのが感じられる。
或いは、
ある人は感傷的に。ある人は空を見、思いを馳せる。
その光景の中に、かつての妹がいるのを見届けて、
それらすべてを尻目に。
何となく―――、その場を後にした。
「・・・・」
ここは相変わらずだ、そう思う。
それぞれ思い思いな自分勝手さ。
そんな“らしい”空気が、心地良い。
・・・ただ。
自分に向けられた、『知らない人を見る』目。
自分の事を、だれも憶えていない、否、誰も知らない――――
・・・解ってはいたが。
形容のし難い感情に、瞳が、揺れる。
僅かに目を伏せ―――、
「俺の知っているみんなは死んでいる、か」
自らの台詞に自嘲した。
そんな時。
「―――――艦長?」
「ハルカさん?」
「ミナトでいいわよー」
どこか曖昧な表情をしている彼女に、怪訝に思い、
「・・えぇと、何か?」
取り敢えず、聞いてみる。
「んー、まぁ、何と言うか」
頬を掻いて、首を傾げる。
「何か、随分と雰囲気が変わってるな―――って」
気遣うような、興味深げな。
何処か曖昧な表情。
そう言われ、顔を撫でる。
(そういえば、バイザーを付けていなかったか――――)
どうやら、自分は素のままでは表情が読まれやすいようだ。
普段の反動だろうかと、ふと思う。
・・・。
今はもう、必要が無い筈なのに。
それを付ける事で己を消そうとするのは、
今も昔も変わらない。
ミナトの問いには、薄く苦笑ったまま答えずに。
ふと、アキトは唐突に、切り出した。
「・・・ルリちゃんの事ですけど、少し、お願いされてくれませんか?」
「―――は?」
ミナトの目が点になった。
「・・へー、一般常識をね」
「ええ。この艦でのあの娘の保護者は、一応俺なんですが、所詮俺も男ですし」
「別にかまないけど、私でいいの?」
「フィリアさんとかにも頼んでますけど、出来れば」
「ふうん・・・・」
何時の間にか、ミナトの顔には笑みが浮かんでいた。
それに対し、もう一度怪訝な表情を向ける。
「・・・何か?」
「ん、大事にしてるんだな、って」
「・・・・・えぇ、まぁ」
言葉少ななアキトに向け、ミナトはにっこりと微笑む。
「何か―――、保父さんみたい」
「保父さん、ですか」
意外だ、と言わんばかりのアキトの表情に、ミナトの笑みが深まる。
その笑みを浮かべたまま、アキトの持つバイザーを指して、
「そう。その無粋なバイザー外してエプロン着けて。
・・意外に似合うんじゃない?」
「・・・そんな事を言われたのは初めてですよ。ですが―――」
アキトの顔が、ほころぶ。
「悪くないかもしれません。・・・再就職に困ったら考えときますか」
アキトはもう一度、
今度は、透明さを持つ笑みを浮かべた。
――――だから、俺は問う。
―――――俺は今、間に合っているのか?
変わりゆく世界の中で 〜Fin〜
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
○補足説明
あー、マオよ。
何の因果か、私が補足の説明をする羽目になったわ。
何?こういうのはイネスがやるものだ?
―――そんな細かい事を気にするものじゃないわ、青年。
世の中死ぬまで好き勝手、と相場は決まってるのよ。
・・因みに私がこの説明をやる事になったのは、作者があみだクジで決めたそうよ。
相当精神がアレだったようね。
今回の補足は、アキト君が艦長をやることになった経緯ね。
まあ端的に言って干渉しすぎたのね。
ネルガルのとある研究所が無人兵器に襲撃された時に、アキト君がそこに居た。
んで、あっさり壊滅した。そこまでなら問題はなかったのだけど、それが軍に漏れたらしくて、
軍が引き抜きに走ろうとしたのが発端。
そんなこんなで自分達の存在意義にでも疑問を持ったかどうかは知らないけれど、
ネルガルからのスカウトに対して、軍からのあからさまな圧力が軍関係の所へ向かったようで。
大抵の所はともかく、軍直轄の所からのスカウトは難しくなったの。
その後のアキト君の報復行動が苛烈を極めた―――かどうかは知らないけどね。
そんなんで現在に至る、と。
・・・さり気無く悪党ね。
ども、かわです。
正月中の投稿、間に合いませんでした(汗)
もう以下の感じで。
大晦日〜正月―――ひたすらバイト。挙句の果てに初日の出をバイト帰りに見ることになる。
背中が煤けた気がした。
学校初日―――小テスト&レポートがでる。
担当講師にマジツッコミする俺を誰が止められただろうか・・・。
おまけ1―――発売当初で買っておきながらやっていなかったゲーム
(ガン○レー○マー○)にハマル。睡眠時間が2時間まで削れた。
おまけ2―――期末テストとレポート提出、豪快にブッキング。もはや笑うしかなかった。
結果―――風邪引いたし(現在進行形)
加減を考えて欲しいと、ちょっとだけ思いました(いやマジで(汗))
で、話を本編に戻して、と。
私の書くアキトは基本的に暗躍系です。
次回辺りでアキトの暗躍っぷりが判るかと(予定は未定、ですが)
フクベ、ムネタケの階級の変化に関しても、次回で。
後半のアキトの台詞ですが、
アキトにとって今の現状は殆ど別世界だろうし。
そういう意味で、「死んで」いるという表現でス。
―――時間が有り余るっていうのも考え物、と言う事で。
ついでに今使ってるエステの見た目は、
イツキ機は劇場版とほぼ同じで、
アキト機の外見イメージは、某GP−03S参照(?)て所で。
PS:今回の次回予告は、題名のみ。
・・ちょっと頭くらくらして思いつかんのです。
次回 第七話「黒衣の魔人」
管理人の感想
かわさんからの投稿第九弾です!!
やはり襲撃にきましたね〜、バッタ君達!!
でも、ガイはやっぱり乗り込んでいたんだ(ニヤリ)
・・・そんでもって、やっぱり怪我をしているみたいだけど。
オモイカネにすら煩いの一言で消されるガイ。
・・・哀れだ(苦笑)
それでは、かわさん投稿有難うございました!!
風邪と過密スケジュールで大変そうですが、健康には気を付けましょう!!
さて、感想のメールを出す時には、この かわさん の名前をクリックして下さいね!!
後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!
出来れば、この 掲示板 に感想を書き込んで下さいね!!