―――その日は、良く晴れた午後だった。

 

「人間生きてるとよく解らない事が多いと思わない?」

 

 今時珍しい紙の資料が散らばる部屋で、金髪の女性がたれていた。

 

「・・・今度は何をした?」

 

 その台詞に、彼女は文字通り目を輝かせる。

 

「! 説明しま――――――」

 

 ごす。

 

「・・・痛い」

 

 煩いので、黙らせとく。

 

 その女性は、彼にとってある種の鬼門だった。
 外見だけなら切れ長の瞳を始めとした理知的な美貌と、年齢も性格も見た目そのまま、だと思わせる 
 ―――所だが、妙に幼い部分も持ち合わせている様で、結局は年相応に見える様だ。
 実際、童顔で年下に見られかける彼自身と同じ年なのだ。
 ただ、
 彼女は外見と年不相応に持った肩書きにマッチしたシュミを持っていた。
 そして巻き込まれるのは、何時も自分で。

 

「・・続けていいよ」

 

「いいの?」

 

「・・・ああ」

 

「♪」

 

 

 だから思う事がある――――
 いっその事、これから起こる全ての事を知ってれば―――――

 

「便利だろうねぇ―――」

 

 その時の、その感情に嘘は無い。多分。それなりに。
 その時にはそう思ったのだ。
 ―――なのだが。

 

 

 現在、時はちょっとばかし過ぎて、初夏の空。
 ユートピアコロニーの何処かの歩道にて――――
 其処には、後に数奇な運命に翻弄されまくる予定の筈の“彼”が、

 

『――――もうちょっと、上手く立ち回れなかったのか、コラ?』

 

 と、知ってしまった未来(偽)に対して文句をたれていた。

 

 

 

 

 

 

 機動戦艦ナデシコ IF
  あくと・つー『そうして彼は深みにハマル』

 

 

 

 

 

 

 彼は走っていた。結構必死でもあった。

 

 本来なら、結構余裕があった筈なのだが、再起動に時間がかかり―――、
 約束の時間より、今現在で10分オーバーしていた。
 問答無用の遅刻だった。

 

 待ち人の性格を考慮すると、これはあまりよろしくないのだ。

 

 仕方ないので更にスピードを上げようと力を振り絞ろうとすると、
 不思議な違和感を持った。
 “何かが違う”と。
 もどかしさにも似た感覚。
 思うままに動きを変えていく。
 暫く動きがちぐはぐになり―――、その次の瞬間、桁外れのスピードで駆け始める。
 『記憶』によると木連式柔とかいうのの、アレンジの一つ―――らしい。
 一見すると大きく駆けているようにも、滑る様に歩行している様にも見える、不可解なものだった。
 使いこなすには妙なコツを必要とする特殊な歩法で、今も不条理なスピードを叩き出している。

 

「確か、旋風駆け――――だったか」

 

 名前を思い出した頃には、もう慣れていた。
 そして、この時初めて『記憶』に感謝したという―――――

 

 

 ―――途中で何人か撥ねた気もするが、多分気のせいだ。

 

 

 

 

 それから一分ほどで目的地の、『雫』と書かれた喫茶店に着く。
 軽く息を吐きつつ、店内に入る。
 それに合わせてカウンター近くに座っていた女性が立ちあがる。

 

「遅刻よ」

 

「すまん、寝坊だ」

 

 その相手は、自分の研究で講師役―――というか、なんの因果か手伝ってくれてさえいる―――を務めてくれている。

 

 

 そんな彼女の名前は――――――、

 

 忘れた。

 

 

 ごがしゃ!

 

 衝撃。
 ナニかで思いっきりブン殴られる。
 散らばる木製の破片。
 そのナニはどうやら椅子の様だ。もう砕けてしまったが。

 

「な、何するンだよ!」

 

 砕けた椅子のカケラを放り棄てる彼女に対して、全く無傷のアキトが文句を言う。

 

「あのねぇ。卒論の提出に手伝っている相手にして寝坊はないでしょうが」

 

 彼女の機嫌の度合いを示す様に、眉が斜め45度程になっている。
 ついでに額の隅に青筋を浮かべているが、それでも口調は冷静だった。
 今の所は。

 

「まったく、バイトに専念したいって言うから、人がせっかく時間割いてるってのに――それは無いでしょ」

 

 一転していきなり年甲斐もなくスネまくる彼女に、
 処置ナシと判断したのか、溜め息を吐き大人しく謝る。

 

「・・・悪かった」

 

 ある意味、凄まじくシュールな一連の光景だった。

 

 現に、店に入ろうとしていたサラリーマン風の男が、店に入ってすぐの光景―――今のやり取りを見て、
 全身に過度の水分を漲らせて出ていった。

 

 だが。
 二人はともかく、店長に店員、其処に居る客までが全く気にしていない所を見ると、どうやら結構日常茶飯事の様だ。

 

 

 話を戻してみる。

 

 

 自分でも何が何やら不明なのだが―――。
 何故か、
 彼女の名前が出てこない。
 ただ、忘れた、というのとは少し違って――――

 

(忘れたと言うよりも、思い出したくないような・・・・・・)
 そう思ったのが本日の運の尽き所だった。
 否、何かの始まりだったのかもしれない。

 

 

 

 ・・・・。

 

 !!!!!!

 

 何かに思い当たったのか、真っ青になる。

 

(そンな!?
 まさか・・・・・・っ!!!???
 ああっ、親父にお袋ぉっ。
 毎年欠かさず御参りしてるじゃないかっ、ちったぁ人生の運って奴にイロ付いててくれてもイイもんだと思わないかぁ?!
 何でこんな・・・・っ)

 

 ンな事言ってもどうにもならない事はどうにもならない。
 それが解かってるから、頭がある方向へ働いてしまう。

 

 ゆっくりと―――、自分の記憶と『記憶』が交錯する。
 不本意な事に。

 

 照合・・・・・完了。

 

「なあ、ふと思ったんだが・・・」

 

「んー、なに」

 

 声が震えてなかったのは、奇跡に近い。

 

「お前のフルネームってどんなだっけ?」

 

 内心冷や汗を浮かべまくっていたが、
 どうにか、辛うじて、そう述べた。

 

「はぁ?」

 

 彼女はアキトの内心の葛藤にも気付かない様子で、
 しょうがない、とばかりに苦笑しつつも。
 ―――こう、のたまった。

 

「ふぅ・・もう忘れちゃった?? フレサンジュだって。
 イネス・フレサンジュ―――――」

 

 

 

 ―――――やっぱりな。

 

 

 

 ぐらり。
 そんな前フリが相応しい揺れっぷりで揺れると。

 

 地面に向け軽めのダイブを開始した。

 

「ちょっ、アキト!?どうしたの?ねえ―――――」

 

 

 薄れ逝く意識の中で―――――

 

 

 ―――――ある意味終わったな。

 

 走馬灯の様に、そんな言葉が浮かび―――――、

 

 

 ・・既にそれにツッコム気力も失せていて。

 

 

 

 

 ・・・。

 

 

 今、解かっているのは唯一つ。

 

 もはや、自分がどうしようもない深みに片足突っ込んでいる、という事だ。

 

 そして意識を手放した――――――――

 

 

 

 

 ずしゃあっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 続くようで続かないようで続くかも。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 テンパッてます、かなり。

 

 そしてこのお話はそれなりに――――アレです。

 

 と言う事で。
 次回はその手のインスピレェションが浮かんだ時です。

 

 

 

 

 多分ね。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

かわさんからの連載モノです!!

ほぉほぉ、イネスさんが登場ですか?

しかも同い年?

・・・じゃ、ユリカより年下?(核爆)

凄い現象だな、ある意味(笑)

う〜ん、しかも何となくイネス×アキトっぽいしね〜

さてさて、さり気無く木連式柔を披露しているアキト君。

今後はどんな話題を振り撒いてくれるのでしょうか(苦笑)

 

それでは、かわさん投稿有難うございました!!

 

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