その世界の何処か。宇宙の片隅で。

 激しくチェイスを繰り広げる、二つの白き艦があった。



 ……どこかで見たような展開だ。



 その内一方の、一振りの剣のような形をした艦が虹色の光を纏ったかと思えば、
 もう一つの艦からアンカーが打ち込まれ。


 暫くして、虹色の輝きが激しいスパークを起こし両艦を包んだかと思えば、

 一瞬にして両者共に消えた。


 その日を境にして、永遠に。






 そして、別の世界―――時間軸で。








 運命の車輪はゆっくりと回り出して―――――

















 もげた。



















 ……おや?















 機動戦艦ナデシコ
  『burst logic』

     第一話「運命は一つじゃないようで」

















 遥か彼方の空を流れる雲。

 涼やかに頬を撫でていく風。

 風に微かに乗った土の匂い。


 ただ何もかもが懐かしい……



 ……なのだけど。









 公園。
 幾多の自然が残るそこで、一人。人が立っていた。

(………何故?)

 そして一人、考え続ける。


 目が見える。バイザー越しの視界ではない、数年振りの世界。
 遠くから人の生活の音が聞こえる。
 そのまま頬に触れる。―――柔らかい。触覚がある。


「あ……」
 思わず声が洩れて――――――首を傾げた。
 やけに声が高い。


 僅かに、違和感が募る。


 少し頭を振ると、顔に何かが触れる。
「?! ……ああ髪か……………………髪?!」
 よく見ると、何故か髪の毛が腰近くまで伸びていた。
 信じられぬままに手をやって、更なる違和感に気付く。
 手が細い。腕から手のひら、指の先に至るまで細く柔らかい。その上肌がきめ細かく白い―――

 ……胸が重い。

「……」
 ここまで来て、嫌な予感がよぎる。

 躊躇しつつも、
 意を決して視線を下に下ろす。
 見慣れた黒一色のボディースーツ姿だった。
 公衆の往来でこんな格好もアレだが、これはまだいい。

 問題は……

 自分の胸に見慣れない二つの物がある事だ。

「……う……うぅ……」
 くらくらしかけている頭を辛うじて動かしつつ、最後の手段として、あるものとないものを確認しようと手を伸ばし―――


 ふにゅ。
 すかっ。


「……………」
 完全に石化する。


「……はうっ」
 こうして。
 “彼女”―――元、テンカワ・アキトは意識をあっさり手放した。









「……はっ」
 次に気がついた時、公園のベンチに寝かされていた。
 そのままで見える空には、晴天が広がっていた。

「夢か……?」
 なんて夢だ、そう思いつつ。
 アキトは身体を起こそうとして片手をベンチにやって、もう一方の手で自分の身体に触れて、

 …ふに。

 何とも言えない感触に再度沈黙した。



「……」
 精神的に燃え尽きていた所で、自分に対して呼びかけているだろう声が聞こえた。
 そんな状態のまま、声をかけてきた方を見ると。


「―――あ、気がついた?」
「? ……!!!!」
 アキトは再度固まり、口を半開きにしてしまった。

 ―――“自分”が目の前に立っていたのだ。彼はこちらが気付いた事にほっと一息ついていたが。


「? どうかしましたか?」
 そのままアキトそっくりな男―――十中八九アキト本人に相違ないだろうが―――が呑気に聞いてくるが、

「……」
 アキト(女性版)はそれ所ではないようで。
 男(多分アキト)を凝視したまま固まっていた。


 ……事態の把握には時間が掛かりそうだった。




「……いや、すみません。助けてもらったようで……」
「あぁいや、たいした事じゃないっすよ。困った時はお互い様です」
 アキト(女性版)の礼に、男(多分アキト)は朗らかに答える。
 裏表の無い彼の様子に、何やら懐かしい物を見た気がして、こちらもまた笑顔を浮かべる。
 ……その瞬間、彼が顔を赤くしていた気がして、首を傾げる。

「?」
「…あ、な、なんでもないっす」


 暫し、間が空いて。


「……それで……聞きたいことがあるんですが……」
 男(多分アキト)がいきなり真面目な顔になった。

 自然とアキト(女性版)の顔も引き締まる。
 聞きたい事とは自分のことだろうか? だとしても何も話せない、―――というか、自分も誰かに説明して欲しいくらいだったりするのだが。




 ただ、彼の次の言葉は予想とは別方向を向いて独走していた。










「……俺、何でここに居るんでしょう?」
 彼は直球気味に
ボケた。




「……それは……こっちが聞きたいような……」
 辛うじて、それだけ答える。
 それは、紛れも無い本心だった。







<一方、その頃……>




 ……ここは、どこでしょう?
 それと、私、どうなっちゃったんでしょう?

 …いえ、ここが何処なのかは判ってるんです。

 私にとって絶対に忘れる事のない場所。
 ……ナデシコ。しかもAです。
 
 ……あいさつ、遅れましたね。
 こんにちは、ルリです。


 唐突ですが、なんだかちぢんじゃってます―――――





 ルリが気がついた時、彼女の居る場所はナデシコのオペレーター席だった。
「????」
 訳が解からず疑問だらけだったが、
 其処に居たのは、ある意味幸いだった。

 すぐさま自分の現状が客観的な情報として得る事が出来たからだ。
 

(……はあ、やっぱり戻って来てしまってるんですね……)
 かなり非常識な事態に、ほんのちょっとだけ呆れた。




 ルリは周りに適当に言い繕ってブリッジを抜けだし、その後、格納庫へ向けて歩いている。
 恐らくは来るだろう、アキトを迎える為である。

 ルリの思う“アキト”が来るかどうかなど決まってる訳では無いのだが、どうやら信じて疑ってないらしい。


 曰く、
「B級ジャンパーの私が無事なんですから、アキトさんも無事なのは決定事項です。アキトさんなら確実に来るんです」
 との事で。

 しかし彼女はすっぱり忘れていた。
 こんな事態にでもなれば、自爆気味にも連絡しにやってくるであろう某少年の事を。
 そんな彼が連絡の一つもよこさないのは如何いう事態なのかを。

 ―――決して、その存在を忘れているわけでは……無い筈だ。




「……あれは……?」
 ルリは何かに気付いたのか、ある方向に顔を向ける。


 艦に乗り込もうとしている、二人の男女の姿がルリの居る場所からよく見えた。
 その二人は暫く其処でなにやら会話をしたかと思うと、辺りを見回す。


 こちらにでも気付いたのだろうか、
 その内片方、女性の方がこっちに近付いてくる。


 なんとはなしにそのまま見続けて。




 顔が確認できる所になって、固まった。




 それは―――――




「……君は、この艦の関係者かな? 申し訳無いんだけど、ブリッジまで行く道順を教えてくれないかな……?
 ……実は、まだ艦の構造とかを把握しきってなくて―――」

 近付いてくるなりそう言って、その女性ははにかんだ。


 しかし、ルリは固まったままで動き出しそうに無い。


「…あ、自己紹介もしてなかったね。
 私はこの艦“ナデシコ”の副長をやる事になる―――、
 アオイ・ジュンです。……よろしくね!」


「……」
 ルリの口が、かくんと開きっぱなしになった。

 今、なんと言いましたか?
 アオイ・ジュンと、確かに今……言いましたか??

 そんな……馬鹿な?!?


 だが―――確かに、首から上はそのまんまだし、下は何処からどう見ても女性であった。


 何より困った事に、
 ルリから見ても、それは全く違和感が無いのだった―――――


(……ま、負けちゃいました…………)
 何を見て何が負けたのかは知らないが、そう言う事らしい。

 ルリは自分の意識が跳びかかってるのを自覚していた。


「……はふぅ」

 ばったり。


 彼女の名はホシノ・ルリ。
 現在の職業、最新鋭艦“ナデシコ”のオペレーター。


 しかしてナデシコ発進を間近にして気絶。






 ―――先行きはいきなり怪しくなっていた。















 続くと思うさ





後書き


 ……私は何ヲ書いてるんでしょう。
 テスト近いのに……。
 レポートまだ書き終わってないのに……。


 しかも確実に続くネタだ…………。




 ま、まあ、それは置いといて補足を。

 逆行系で、ランダムジャンプすると必ずみんな同じ時間軸にやってくるわけですが(お約束ですが(爆))、

 もし遺跡に対するイメージングを唯一可能なアキトが碌にイメージを持っていなかったら? それでも消滅とかせず、遺跡がそれぞれを別の場所に“うっかり”適当に飛ばしてしまったら……どうなるんでしょう?

 そんなこんなで始まってると思ってください。


 ちなみに、この話はほのぼのを目指します。……無理と言わんで下さいね。


 あ。書いてませんが、三の字と玻璃君、ラピスといった面々も無事に跳んでます。

 ……どっかにね。




追記:ルリですが、壊れませんよ? …多分。……それより周りがどうなるかの方が不明ですが(汗)

 ……例えばホウメイさんとか(ぼそ)




 あと……ジュンですが……ああなった途端に出番があるとは……。




 …………不憫な…………








続・追記:「機動戦艦ナデシコ IF」の続話、できてるんですが、読みたい方居ますか? 連絡がつけば、試し品を送りつけます。
 ただし、使用上の注意(?)をよく読んで下さい。…読み忘れてダメージくらっても私ぁ知りません(苦笑)

 

 

代理人の感想

いやぁ、大笑い(笑)。

ジュンなんか全然違和感ないですし(爆笑)。

 

 

・・・・しかし、ぼそぼそと結構危険な事を(笑)。