<一方、その頃……>




 ……ここ、どこなんでしょうね?

 多分、パラレルワールドって場所なんでしょうけど……、

 ……心臓に悪過ぎです、ココ。

 なんというか、
いろんな意味で。


 いえ、もう本当に………………。





 ルリが意識を回復した時、目に映ったのは、真っ白な天井。……知ってるような、見ただけのような……?


「…やっぱり、知っている天井……医務室ですか?」
 何の気は無しに呟く。


「うん、それで正解だね――――」
「?!」

 応えが来るとは思っていなかったので、思わず驚いて起き上がり、横を向くと―――、


「……大丈夫? 何だか、急に倒れちゃったんでどうにか医務室に運び込んだんだけど――――……」

 その張本人がいた。




「……」
 思わずよろける。

 それを見た張本人―――もとい、ジュンが慌てて支える。

「っと、大丈夫?」
「え――……ええ。だいじょーぶです……」

 棒読み口調で答えつつも、―――ジュンを見る。

 ……思考が止まりかけた。









 ――――――――――――――…………………。









(―――アレは違うアレは違うアレは違うアレは違うアレは違うアレは違うアレは違うアレは別物アレは別物アレは別物アレは別物アレは別物――――――――)
 即座に視線を横に逸らして自己暗示。

 彼女がジュンだと思わなければ、何とか脳が飽和状態にならずに済むかもしれない。多分。……恐らくは。


 そうしていて多少平静を取り戻したのか、
 そんな“彼女”を見てみる。

 実に女性の理想形のような体型。
 自分のいた世界の方よりも髪が伸び、全体的により繊細さが際立つ容貌。

 ……やっぱり全く違和感がない。


 と、いうか。

 違和感が無さ過ぎて、逆に理不尽なまでの違和感を憶えてしまう――――



「―――……はぅぁっ
 また意識が吹き飛びかかっていたらしい。またジュンがルリの後頭部を支えている。

「いやあの、本当に大丈夫……?」
「はいー、のーぷろぶれむです」
 少し眉を顰めて聞くジュンに、更に棒読みっぽく答えた。

 自己暗示は見事に失敗していた。

 目は正直にも虚ろだ。


 ―――この世界は、ルリにとって初っ端から刺激が強過ぎたようだ。





 そんな状況の医務室に、男が一人入ってきた。

「―――おーい、ジュン。そろそろブリッジに行かないと遅刻決定だぞー?」
「え…? もう、そんな時間なんだ……って連絡入れてないの?!」
「あー……。そんな方法もあったか。忘れてたね、それ」
「いや、普通は忘れないよ……」

 ジュンが呆れたような困ったような笑みを返す。
 そんな様子から彼女が男に全幅の信頼を寄せている事が何となく判る。


「ま、いいさ。そんな事ぁ、ともかく置いといて―――」
「いや、置いちゃ駄目なんだけど…」

 ジュンのツッコミをさっぱり聞かないことにして、
 男がルリの方を向いた。


「……!」
 ルリはその青年を見て泣きそうになった。

 寝起きのままほったらかしなのか、ぼさぼさの黒髪。
 なんとなく柔らかそうな印象を受ける視線。
 固く結んだ口許。
 ……全体的に漂う優しい空気。

 その男こそは、
 ルリが長い間、身を削り心を砕き続けて捜し求めた相手――――



 耐えきれず、声に出してしまおうとする。



「アキ―――――」
ミスマル・アキト―――俺の名前だよ。よろしくね――――――」









 ルリの脳ミソが真っ白に染まりきった。










「……どうしたんだ? この子」
「さあ…? さっきからこの調子なんだよ……」

「ふーん。
 ―――まあ、あとの事は医者に任せるとして、こっちはこっちでブリッジに行くぞ?」
「あぁ……、そうだったね」
 一秒で目の前の出来事を忘れたかのようにあっさり部屋を出るアキトに、ジュンが途端に慌しくも付いていく。


 そうして残ったのはルリ一人。


「……」
 この分では暫くは回復にまでは至らないだろう。



 ―――アキトはああ言っていたが。

 実は医療班の面々、まだナデシコに乗りこんでいなかったりする。
 この艦があるドックに来てはいるのだろうが、艦に乗りこむまであともう少しかかりそうな気配だ。


 それまで、当然ルリはほったらかし。




 ……やっぱり、この世界は微妙な所で彼女に優しくないようだ―――――









◆◇◆……キミらいったいナニモノさ?◆◇◆







 そして視点はアキト達の方へと成り代わる。



 通路をアキトとジュンが歩きだして、暫くの後。

「―――…今更聞くのもなんだけど、アキト?」
「はいよ」

「どうしてこの件受けることにしたのさ?」

 本気で今更な事をジュンが言う。

 とは言え―――、
 これまで連合軍に所属していた所を―――、
 しかも結構それなりに出世していたというのに、この件の話が来たらあっさりと辞め、自分も巻き添え(?)のようにやってきたのだ。聞きたくもなる。


「そりゃあ……、そうだな――――」
 アキトは一拍の溜めの後、


「何とゆーか、面白そうだから」
 きっぱりと断言した。


「……」
 その際、ジュンがよろめいた。

 浮かべる表情は、今にも倒れそうなくらいのものになっているのは気のせいだろうか?


「……それじゃぁ、連合のヒトタチも……立場が…無いような…………」
「そか? …いーじゃん、そんな事

 ジュンの言う通り、連合でのアキトの存在は決して軽い物ではなかったのだが――――、

 他者から見た自分の価値をこれっぽっちも考えない男は、肩を竦めて言いきった。




 そう言ったそばから、


 づっしゃぁっ……ごしゃんっ!!



 やかましいくらいの騒音と振動がしている。



「ほーら、……面白そうだろ?」
 何を見たのか、アキトの顔には紛れもなく無意味に嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

「……?」
 それに釣られて同じ方向を見たジュンは―――

 見てしまった。





<うわはははははははははは!!!>

 変態的な踊り(ジュン主観)をするエステバリスを。

……変態?
 思わずジュンの口から洩れると。

<誰が変態だ!!!>

 言われた側のピンクのエステバリスが、どういう原理かそれを聞きとがめる。

<俺の名はダイゴウジ・ガイ!! ヒーローだっ!!!>

 少しばかり頭が足りないのかな? と思われかねない台詞を吐くと、
 さっきから続けていた踊りにはもう満足でもしたのか、一旦止め。

<見ィせてやるぜぇぇぇぇぇぇっ、ガァァァァイ! スゥゥゥパァァアッッパァァァァァァァァァァァアアアア!!!!!>

 続いてエステバリスが変態的ポージング(やっぱりジュン主観)をしつつ天目掛けて飛び上がり、

 ぐるり。


<……お?>

 天井近くまでいった所でバランサーが効いていないかしたのか頭の向きが反対、つまりは地面向きになり―――


 そのまま落ちた。



 ……ぐしゃ。



 そんな音がした―――気がした。




 取り敢えず、全てが終わった頃にはジュンが固まりきっていた。



「―――――――――…………………はっ」
 倒れかけた所で持ち直していた。
 どうやら立ったまま気絶しかけていたようだ。


 一応、常識人に分類される彼女の感性では予想する事もない光景だったのだろう。


「ジュン……そんな事じゃ、この先保たないぞ?」

 アキトは一度息を吐き、


「よっと」
「え? は―――――――」
 両手でジュンを抱き上げた。
 格好はまさしく『お姫様だっこ』だ。



「――――――――――!」

 そんな彼女の顔は真っ赤っか。
 時たま、感電したかのよう体が震えている。



 そしてジュンは、
「……はふぅ」
 気絶した。




「ん? おいおい、気絶してるヒマあるんだったら、先行かないと―――……おや?」
 僅かに首を傾げて。

 何か面白そうなものでも見つけたのか、
 アキトの顔が楽しげにほころんだ。

 楽しげというには些か物騒っぽい香りが漂っていたが。







 アキトが首を傾げた頃と、ほぼ同時刻―――、


 ドックを小走りに往く少女が居た。

 年の頃は約16,7才か。
 髪を帽子に押しこみ、だぶだぶの男物の服を着てはいるが、
 時折見せる仕草やらその他表現からもうバレバレだった。


 そして、非常に挙動不審でもあった。

 それでも怪しまれたり声を掛けられる事は無い。
 それは単に気配を完全に断っている為だろう。……そんな事ができる割には格好がアレだが。

 少女がそのままご都合主義よろしくドックに繋留している白い艦―――ナデシコに難無く乗りこむ、と。




 いきなり異様な光景を目にした。




 其処は格納庫。その筈だが。

 そのド真ん中で、
 エステバリスが頭から足場である筈の方へとめり込んでいた。

 その様は正しく○神家の状態だ。




 当然の様に可愛らしく小首を傾げる。

「……自爆芸?」

 そう思うのも無理はない―――かもしれないが、
 そうではない事は、その場所に群がった整備士然とした面々の殺気立った様子から明らかだった。各々の持った整備用具が凶器に見える。

 少女はそれに気を引かれるものがかなりあったが―――

 取り敢えず、目的を優先させることにした。
 そのまま奥の方へと足を向ける。
 幸い、誰も注意を払っていない事だし。


 だが―――

「ん? ねえ、君―――」


(見つかった―――?!)
 そう思えばこそ、反応も自然と出るもので。

 少女の体がコマの回転のような早さで翻った。
 ついでに右足を軸にし、左足を高く伸び上がらせる―――


 それは敢えて言うなら左上段回し蹴り。



 素晴らしい弧を描いて放ったそれは、声をかけてきた男の顎―――というより頬骨の下辺りに吸いこまれ、衝撃はそのまま脳にまで達する。


 男は音も無く、誰にも気付かれぬまま地に伏せてしまった。




「……」
 少女はすぐさま、男を目立たない所へと引きずっていく。

 その際に着ている服を見ていたのだが、どうやら彼は整備士の一人らしい。

 はて、と少女は首を傾げた。
 どうやら、自分を捕まえに来たわけではない様だ。

 ―――あのバカみたいに怪しい黒服じゃないし。

 更に熟考する。

 ……ひょっとするに、彼はあんな状況(犬○家なエステ)なので気を付けるよう言いに来ただけかもしれない――――

 少女の頭にそんな考えが浮かぶ。


 が。



「……アディオス!」

 ぐっと親指をその男に向けて立てると、
 少女はまた小走りして奥のほうへと向かっていった。




 なかなかにイイ根性だ。







 その十数分後、
 けたたましいアラームが鳴り響く事になる、のだが……

 其処に居る面々には、
 そんな事情など、それこそ知った事では無いようだ―――――













 続くのサ




後書き


 ようやく落ち着いたので、今回の投稿です。

 …最近、自分の運が低下している気がしてなりません。去年、某友人宅発の修羅場に接近遭遇(巻き添え)してから、なんというか色々と。

 …で。そんな状況だとこういうSS書くようです、私。
 ほのぼのとしていますか? めっちゃ不安ですわ(汗



「もう一度〜」の方は、もうちょっと待って下さい。八割程出来てますが、それ以上はどうにも進んでません。無理に書いても何だか厭ですし……。




 ……ま、それらはどこかにやるとして。


 ウィザードリィってゲーム、知ってますか?
 昔のRPGの方のですが(PCの古いのとかFCの)
 それのとある転移魔法“マロール”、ゲームのシステム上転移先の座標を指定して跳ぶ代物なんですね。これが。

 でも……転移先の座標を間違えると、

 岩盤のド真ん中に実体化しちゃったりとか、
 標高4000メートル上空に現れちゃったりとかしちゃうんです。

 無茶苦茶を通り越して実に爽快です。
 コレ初めてやらかした当時、私は笑いました。取り敢えず思いっきり。

 で。今回のハーリー君の現状は即ちそれです。
 ……どーでもいーや、とか言わないでくださいね?
 いえもう本当に。


 サイゾウさんの奥さん役、マユコさんの暴走は予定外です。
 …ナニかが迸って余計なモノまで出たようです(汗)
 ……キャライメージは……某カレーイエローなんですが……(汗)


 ……詳しく書くと自爆するんで次行ってみましょうか。



 一応このSS、メインはアキト(アヤノ)かルリが跳んだ世界なので、他の面子はピンポイントで登場……予定。……故に所詮は未定です。

 なお、今話を書くに至って実に素敵なネタを提供してくれた人達がいました。ので、キャラ設定―――主にアキト(ルリ世界)の設定を急遽書き直しにしました(本当)。



 あと。ジュンの処遇ですが、「全く違和感無い」との感想が大多数を占め(寧ろ全員)……ちょっとばかし目頭が熱くなったのは……つい先日の事です(苦笑)
 ……みんな容赦ないなあ(爽笑)




 んで最後にルリなんですが……、壊れない代わりにヘタレになりつつあります(滝汗)
 ……どっちがより幸せなんでしょうね……?








追記:ナデシコIF・続話の配布は終了しました。読んでくださった方に感謝――――――というか二桁に達していた事実にびびりました(爆)






代理人の感想

あ〜・・・つまり、各々が別の世界に飛ばされていた、って事ですね?

別々の「場所」というから、単に同じパラレルワールドの別々の場所に飛ばされていたと言う意味かと思いました。

それはともかく・・・・・面白い。

基本設定を一つ変えるだけで中々面白くなる物ですね(笑)。

 

 

>カレーイエロー

イエローは基本的にカレー属性なので、ここはメガネキレンジャーとか不死身のカレー魔人と言う表現がベターかと(爆)。