そこに、自身がいつからいるのか、もはやあやふやになってしまっている。

 どうして、僕はここにいたのだろう?

 どうして、僕はここにきたのだろう?


 誰かが言ったような気がする。

 「……知らない方がいい」

 僕は確か、こう言ったような気がする。

 「僕も知りたくはありません。でも、どうして言ってくれなかったんですか?命の安売りが駅前のスーパーでやってるって」


 ふむ?

 やはり、少しあやふやだ。


 基地にはあんなに明るかった様々なスポットライトや投光照明が消えていて、

 ひっそりとそこを照らすかのように月が照らす。


 そこはもはや基地ではなく廃墟のようであったが、それでもしっかりと機能しているようだ。


 騒々しくトラックがひっきりなしに走り、飛行機が飛ぶ準備を万端に並んでいる。

 人は歩いていない。

 人は走り、慌しく蠢いている。


 今何時だろう?

 いや、むしろ今何時だと思っているんだ?


 少し憤りながらも、僕は木の上でその有象無象を見ている。

 爆音。

 流れ弾がわずかに僕の数ミリ右を通り過ぎる。


 そこは夜なのに夜ではない。

 静かになったと思えば光り、光とともに声。音。



 ……でも、何故こいつらはそこにいるの?

    そこにいてもいいの?





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええと。




 そこにいてもいいのだろう。

 
 それこそが、命を道具として、もはや意味も無い(と僕は思っている)戦いの意味でもあるのだ。



 そう、祭りだ。









ハーリー列伝

第五話









 「ハリ君……ENBの危険性は?」

 「ほとんど、誤差ありません。修正範囲です」

 「そう………」


 ランの顔が、喜色満面に彩られた。


 「あははははは……やった!やったよ!完成だ!ああ……夢じゃないよね?あは♪」

 飛び上がるように……

 いや、むしろ跳び上がって喜びを隠そうとしない愛しい人を見つめて、ハーリーも嬉しそうに微笑んだ。


 僕がここに来て、もはや一年が経とうとする。

 研究はもっと前から続けられてきたものだ。

 それが、完成したことが嬉しい。僕がそれに一枚噛んでいるのだから、尚更だ。


 「……後は、本体其の物の製作ですか?」

 ふっと、笑みをランは崩した。


 「そう…ね。そうだった。そういえば、これを使うにはCCの存在が不可欠なんだよな……ふむ」


 完成したものは、『本体其の物』ではなく、データ上の産物である。

 だから、純粋な完成という意味では未だ遠いのかもしれない。

 しかし、『それ』は、シミュレーションの仮定上。電脳世界では、確固とした存在を持っていた。

 その数値を眺めながら、ハーリーは彼女を見た。


 「まぁ、いいか……ホログラフィック・メモリは、既存のもので賄うとして……」

 と、投げかけ、

 「半導体云々の効率良い新素材はシュウさんが……」

 ハーリーが受ける。


 「アウスの奴が、画期的な機関を開発したとか言ってたな」

 「誤差が激しすぎますけどね」

 「修正すればいい…私と君なら、それができる」


 ランが視線をハーリーに向ける。

 ハーリーがランを見返す。

 
 そして、ふっと二人は微笑した。

 手を重ね、ゆっくりと顔が近づいていき………



















 ……と。そこで何か行われたようだった。

 何が起こったかは興味深いが、あえて語ることでもない。そのはず。


 「さて、そういう訳でハリ君」

 彼女は服を着ながら、やはり同じように服を着ようとしている少年に向かって呼びかける。

 「買い出し・・・行くよ」


 「え?」












 そこから出るのは初めてだった。

 何となく、自分はずっとこの島にいるのだ。

 そんな風にどこか心の中で思っていたし、別にそれでも構わないとも思っていた。


 僕は、まるでどうでも良いと感じていた。

 僕はどこかの国へと移っていた。

 滞在予定は三日だ。

 何故三日なのか。

 それは微妙ではあるが、とりあえず不動のルールなのであろう。

 それにはパー○エイダーとモトラドが不可欠である。

 勿論、そんな物騒な代物はもっていない。


 とりあえず、ここがどこであるのか調べる……もとい、思い出してみようと思う。


 でも、やっぱりここがどこであるのかは判別がつかなかった。


 ランさんが知る必要はないと言ったので、その通りなのだろうと納得していたのだ。


 とにかく、そこはどこかの基地のようだった。

 軍人と思わしき人々がたむろし、騒がしいこと請け合いだ。


 「これは久しいな。クロフォード」

 「よう、久しぶり」

 結構大柄の人だった。

 「ここへは?」

 「さて?……ま、材料の入手だよ」

 
 そう答えると、ふと僕の方をその男は見た。

 「君は?」

 「私の有能な助手だ」

 僕が答えるよりも先に、彼女は言った。


 「ふぅん……まぁ、それよりも・・・」

 あ、流しやがった。この野郎。

 「悪いが」

 ランが言った。

 「忙しいんだ。とりあえず、話は後だ」


 そう言って、ひらひらと手を振り、場から離れた。


 男は残念そうな面持ちでランを見ていたが、仕方ないかという感じで、去っていった。


 「誰ですか?」

 僕は尋ねた。


 「知らん。きっとどこかで会ったことがあるんだろう」

 
 ちょっと僕はあの名も知れぬ男に同情した…なんてことはなく、むしろ『ざまぁみろ』という気持ちが多数占めていた。

 つまり、彼女の返答が小気味よかったのだ。




 部屋は、なかなか上等だった。

 良くわからないが、彼女は結構偉い人のようだ。

 と、いうことはそれだけ知られているという意味でもある。


 ええと……


 まぁ、本当にどうでもいいことではあるかなと。





 夜が来た。


 休息を告げる時間帯。





 とりあえず、僕達が休息したのは夜も更けたころだ。


 程好い体の疲れと、肌に触れている心地良い感触が、眠りへと誘う。












 そして、僕は眠った。







 僕は………幸せのはずなのに。








 僕が………不幸の代名詞などとは、一欠けら位しか無い筈なのに。










 なのに・・・・・・・・・・・・・・・・・この不安めいた気持ちは何なのか。















 後書き

 ごきげんようなのです。ども、風流(かぜる) です。

 さぁさぁさぁ!……ええと、今回はわりと閑話そのもの近いかもしれない。


 密かな休息。あるいは、最終回前の前兆。


 とにかく、まぁこの言葉が示すとおり、次回はハーリー列伝〜誕生編〜の最終回です。

 ……その時は電波の降臨と共に会いましょう(爆)


 ではでは。

 

 

 

 

代理人の感想

・・・・ん〜と。

「前置き」以外の何物でもないような話なので感想と言われても困りますね(爆)。

取り敢えずは次回に期待しましょう←御約束