「電波なのはいけないと思います」



 不意に、何かが轟と動き出す。

 全てはただ一つのことのために。


 「……行きますか?」

 ルリは尋ねる。


 「ああ」

 誰かがそう答えた。


 「追いましょう」

 と、誰かが言った。


 「もっとも、約束は違わないわよね?」

 と、誰かが尋ねる。



 「勿論です」

 後ろから声をかけたのは戦術指揮者だ。


 「先に情報を得る権利は確かに」

 ルリは言う。



 「では―――創作にあたりましょう」




 彼女達は互いを見詰め合い、そして―――


 ≪「我ら、愛の炎によりて、世界を更新せん!!」≫





 そしてそれが始まりだった。


   









ハーリー列伝

第十話










 




 「j3、世界は誤りに満ちているのだよ」



 月が光々と世界を包む中、ハーリーは歩いていた。

 月の精霊たちを従えて歩いていた。

 静かだった。いつもなら良さげに爆音やら銃声やら聞こえてくるのだが、気持ち悪いほどの静寂だった。

 ハーリーは、もはや自分が本当に『マキビ・ハリ』なのかわからなかった。

 いや、ここにいる自分は確かに『マキビ・ハリ』ではあるのだが、何かが変わってしまったかのような気がしたのだ。



 自分は、この空間を支配していた。

 ハーリーは、まさしく夜の帝王だった。


 ハーリーは、空虚な座にしがみつく、孤独な王だった。

 そうなのだ。

 「僕はマキビ・ハリであり、マキビ・ハリでない者―――僕はどこにでもいて、どこにもいない」


 彼は悟った。世界が広がるかの様に感じた。

 ―――そう、まるで自分に光が降り注いでいるのかのように。





 実際、それは気のせいでもなんでもなく、彼を中心に光は降り注いでいた。何人もの兵隊に囲まれていたのだ。

 「ようやく見つけました」

 そこに一人の女性が立っていた。

 しかし、そんなことはどうだっていいことだ。ただ、ハーリーはそれで確信することができた。


 「なるほど。『T.A.同盟』が動いていたんですね――どうにも大規模すぎると思ったんですよ」

 ハーリーは、そう言って黒いサングラスをかける。


 対峙している女性は混乱した。

 自分が知っている少年は、こんなにも落ち着いていただろうか?

 いや、そんなことは大したことじゃない―――あの、少年にピッタリのサイズのサングラスなど、どこで手に入れたというのだ。

 「それで・・・」 ハーリーは続ける。 「こんなに大人数で来られるのは嬉しくないんですが」

 「でしょうね」

 彼女も同意する。

 「でも、それだけの情報を握っているという事。・・・苦労しました。あの二人だとばかり思っていましたからね」
 

 ハーリーはとぼけた。

 「何の事ですか? 僕としては後はこの島を脱出するだけだったのですよ」

 「彼らがみんな話してくれました」


 内心、ハーリーは舌打ちした。

 「それで、その彼らはどこに? 偽情報で追い掛け回されるなんて、あんまりだ」

 「とぼける気なの?」

 「証拠はあるんですか? 想像はつきますが……それがアキトさんの居場所なら知らないとしか言いようがないです」


 彼女は眉をしかめた。

 「貴方はね。疑惑のデパートーとか呼ばれてますけど、疑惑の総合商社ですよ!

 負い目がないのなら、大人しくついて来なさい!」


 「嫌だと言ったら?」

 「地獄に逝く」

 「そうかな?」

 ハーリーは微笑する。

 「僕を殺すとでも?」


 「必要ならば勿論」

 彼女は即答した。

 「私は、全てを彼に捧げると誓いました。それなら―――あくまでも邪魔をするというなら、やむを得ません」


 ハーリーは、面白そうに笑った。

 「まるで、狂信者だ。それなら、やってみるといい・・・」



 ・・・できるものならね。

 彼の嘲るような声が聞こえた後、一瞬にして姿が掻き消え、一陣の風が吹いた。

 変化は一瞬だ。彼の周りの兵士達が吹き飛ぶ、驚愕と悲鳴。

 そして、何もわからぬままに兵士達が倒れていく。

 彼女は、風が自分のほうに向かってくるかのような感じを受け、ただ衝動のままにそれを発動した。


 プシャー

 不可思議な液体が空間にばら撒かれた。

 「ごほっごほっ・・」 思わず咳き込み、ハーリーは姿を現す。

 それは消火器だった。
 


 何人もの兵士が倒れていた。

 そこに一人の少年と女性が対峙している。

 彼女は、ふっと笑みを浮かべた。同時に、少年の体がぐらっと揺れ、倒れ・・・なかった。

 「・・・なかなか強烈ですね。でも、僕に毒は効きませんよ」

 ハーリーは、頭を押さえて言う。


 (・・、・・うそ。どんな生物でも一瞬で眠らせる奴なのに) 

 サラは、何かとんでもない勘違いをしているような気がした。

 だが、その気持ちは表にはださない。ただ……


 「とは言いつつも、効いているようですが?」

 「そう思いますか?」


 再びハーリーが来る!

 轟という圧迫感が迫る。


 発動!


 だが、瞬間的に音。


 目の前の圧迫感は不意に消えうせる。

 これは―――上? いや!!


 彼女は瞬間的にホースを持ち、後方へと振り回す。

 その真っ赤な鈍器は真っ直ぐに何かへとぶちあたった。



 ダガン!



 吹っ飛ぶ衝撃音!


 だが、手応えあり! と、そう感じたのも束の間、 衝撃が体を支配する。



 とっさの機転でもう一つの消火器で体をガードしたものの、力のベクトルは彼女を真横へとふっ飛ばした。




 「くっ―――!」


 「サラさん、真逆あなたがここまで強いとは思ってもみませんでした。でも……もう立ち上がれないでしょう?」


 内心、ハーリーはもう一つの消火器はどこから出したのだろう? などと思ってはいたが、それは表に出さない。



 サラの視界の片隅に、それが目に入る。

 先ほど、ふっ飛ばしたものの正体だ。


 ――――キン消し!!?


 だが、彼の言う通りだ。自分は立てない。立ち上がることができない。

 もしも、あの衝撃を直に受けていたらと思うと、ぞっとする。




 ハーリーは、サラをじっと真剣な面持ちで見ていた。

 後ろでハーリーに銃を向ける奴がいた。ハーリーは、掻き消すように姿をその兵士の元に現れると・・・微笑して・・・





 ……嘘。


 血があふれていた。

 ハーリーは自分が何をしたのかわからなかったが、手に血がついているのを見て、(ああ、いつものことか)そう思っていた。

 サラは、もう何がなんだかわからなくなっていた。ただ、恐怖が満ちていた。

 少年がこちらを見て、微笑した。

 サラは、恐怖に突き動かされ、再び手に持っているものを発動する。

 「戦術がワンパターンだ。サラさん、貴女もう死んでますよ」

 ハーリーは、後ろから耳元で囁いた。

 サラは、驚愕に顔を歪める。


 首に手刀。

 サラは、何の苦痛も感じないまま倒れた。










 ハーリーは、今日のテンション具合を考えていた。


 ハーリーは振り返らない。

 ハーリーは過去を振り返らない。

 過去にあまり興味がないからだ。

 おそらくさきほどサラと戦ったことや、屠った兵士のことなど、もはや頭の片隅にもないだろう。

 「T.A.同盟ね。・・・ま、彼女も確かここに来ているはずだし」

 ハーリーは属さない。

 ハーリーは真に、己の存在以外の何者にも属さない。

 自分の存在こそが重要だと認識しているからだ。

 「・・・そろそろ行くか」












 ハリ達が訪れた国は、城壁に囲まれた国だった。

 ハリ達が城門を叩き、入国許可を申請すると、無愛想な顔をした男が、ぞんざいに中へ入れと告げた。


 やがて、城門が開き、

 ハリはエルメス(注:サイコミュ搭載試験兵器。人語を解す。宇宙用MA)を押して中に入っていく。




 そして三時間ほど後、

 この国は










 

  

 
 

 


 * * *







 「つまりなんだね。俺達はさ、どうしてこんなところにいるんだ?」

 と、アキトは尋ねる。

 いや、それはもしかしたら純粋な意味のアキト、つまり彼女が必死になって探しているアキトではないのだが。

 えと、つまり――ああ、もう。どうだっていいか。気になるなら、前の奴でもご覧あれ。

 見てもわかんない可能性は十分に考えられるが。

 後、もしかしたらというのは何となく違うような気がしたので一応訂正しておく。

 「そうでなきゃ、ルリちゃんを筆頭に色々楽しんでいる予定だったのに!」

 無論、この台詞から一目瞭然ではあるかと思うが。


 「ふむ」

 と、その紫銀の髪を持つ男が呟く。

 「だが、どうでもいい愚民共の影に混じるよりは断然良いのではないかと私は思うが?」

 「はっ。 いやだねぇ。これだから名前の無いキャラは」


 「は? 
ふっふざけんじゃねぇ――!! 大体な。てめーこそ、女女うっせんだよぉ!

 そういう輩は意外とありふれてんだからな!!?

 わかってていってんのか!? このヤロー!!  」
 

 
 「おめーこそ、そのキレやすい性格何とかしろや。てか、何だそりゃ。い○き?」


 「ふっ……だが、考えても見れば私のような性格のキャラはどこにもいないぞ?

 それこそ、使いがいがあるというやつだ。だが、貴様はどうなんだ?」


 「ああ、そういやー、あれからずいぶん経つが、結構需要はあったなぁ。

  ありふれてるってことは、それだけ使いやすいってことだもんな。

  そういや、お前もあったんだろ?」



 「き……きさまぁ!!!」


 「はっ。 怒れよ」




 そんな会話を交わしている。

 どこかわからない空間で、ただ醜い言い争いが続いている。


 何でこんなこと書いてんだろ? 私。


 ふとそんなことを思ったが、まぁ、よしとしよう。



 とりあえず、思うことは一言だけだ。

 新年早々のSSが、こんなもので良かったのだろうか?





 ……だが落ち着いて考えてもみれば、これを書いているのはまだ年も明けてないし良いはずなのだ。

 これを読む人――時間限定されるものの、もしかしたら未だ年は明けてない可能性だって考えられる。


 ただ、何となく元日に更新されるような気もするので、一概にもそうと言えないのではあるが。




 j3、一言だけ今の気持ちを。


 ……何だかなぁ。 いや、本当に。


















後書き

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。



 予告


 彼がそこを歩いているところ、不意に何かを察知する。

 それは危険という名の信号だ。

 そう、それは危険の類だった。

 ハーリーが咄嗟に飛びのくと、ああ危機一髪。

 そこに木で作った鋭い槍が飛んでくる。

 そして、彼の前に立ちはだかる新たな敵とは!?

 次回 『ナデSS間でのブーム』

 それとも、下火になってきてる今がチャンスなのか?






代理人の個人的な感想

残念でした、今日は早めにUPです(爆)。

と、言ってもたかだか数時間の差ではありますが(苦笑)。

 

 

・・・・時に、j3ってなんですか?