『トンでもない夢を見た・・・・・・って、そりゃ当然でしょう。夢なんだから』






 マキビ=ハリがこれまでの生涯で、もっとも多くの体験をしたのはこの島である。


 おそらく、マキビ=ハリが生まれ変わるまでの短い生涯で、最も重大な言葉を交わしたのもこの島であろう。



 …………いや、別に死んでないけど、似たようなもんだし。



 さておき、彼女は――その彼の人生を著しく変えたランという女性は、何かあるたびにいつも、


 「ハリ君、世界は誤りで満ちているのだよ」


 などと言っていたような気がしなくもない。

 言ってなかったような気もするが。




 それはともかく、彼女の存在がハーリーに与えた影響はかなり強いものであった……という事実に変化はない。



 彼女との会話は。


 くだらない日常会話であり、

 他に打ち明けることもなかったであろう、淡い過去の思い出であり、

 将来に対する予想と達観であり、

 現状に対する閉塞感の吐露であり、

 難解な思想と難解な理論に、ちょっぴり何か怪しいものを付け足して構築された強大なものだった。




 そのすべての会話を。

 そのすべての風景を。




 ハーリーはほとんど覚えていない。




 僅かな仕草や、行動さえも。


 まるで、コピー防止のビデオテープをダビングしたかのように。



 いや、それどころか完璧な再現率を誇るはずのTVとビデオデッキを繋ぐコンセントが外れていたかのように。


 刷り込まれた彼女の暗示が、それを可能としていた。






 ハーリーは折に触れて、彼女との記憶を思い出そうとした。

 その内容は勿論、その時の表情、声のトーン、ふとした仕草、存在感からにおいまで何もかも。

 無論、存在以上は思い出すことはできなかったのではあるが。


 彼にできることは、死んでしまった彼女のことを考えることしかなかったのだから。




 しかし、皮肉にも時間が、そして刷り込まれたもう一つの暗示によって、彼は彼女を思い出してしまった。



 そう、いまでは。



 彼は彼女のことを完全に思い出すまでに達していた。

 それは、ハーリーが彼女といたころの記憶だった。

 彼女が考えたこと、感じたこと、為そうとしたこと、為せなかったこと、ゴキブリよりもカマキリの方が苦手だとか、セロリだけはどうしても食べれないことなどなど・・・・・・



 いまや、ハーリーは、


 彼女の存在を完璧に空間に投射するまでに至っていた。



















 「で、これが私って言うわけかい? 妙な気分だね。 それに何だか不愉快だ」

 その目の前の女性は、そう微笑みながら呟く。


 「嫌ですか?」

 「いや、別に私は何も思ってはいないよ。まぁ……そうだ。例えばここに本物の私がいたとして、

 その私がこの君の作り上げた私と出会うことは、必ずしも愉快ではないだろう……と。だから、私は不愉快という発言をしたわけだ」


 「はぁ……」

 正直、あまりよく理解はできない。


 「だがまぁ、私……いや、ランと呼ばれた彼女は、結局あんなくだらないことで死んでしまった。それはひどく残念だ」


 「目的を達せられなかったからですか?」

 「それもある。だが、一番の心残りは、君だった」


 彼女はそう答え、そして僕を見つめた。

 「それは・・・嘘ですよ」

 僕は答える。


 「どうして?」


 「だって……結局貴女にとっては、僕は道具だったでしょう?」


 「・・・・・・」


 「いえ……僕だけじゃない。目の前にあるものなら何でも利用する。それが、貴女ですから」


 「そうかな?」 彼女は微笑む。 「ああ、確かにそうだ。君は、その中でも極めて優秀だった。だけど、それでは私が救われない」


 彼女はふと指をくるくる回し、

 「だって、私は……いや、ランという人は死んで、君は生きてるじゃないか」

 そう、言った。



 僕は、それに答えない。

 答えられなかった。







 「結局……」

 僕は、何かを言おうとして……


 「気づいたのか」

 彼女は言った。


 「確かに、洗脳探偵とか偽ったのは私だ。悪かった」



 ……そんな、驚愕でもあり、頭の片隅にも入れていなかったことを彼女は言ってくれた。



 「はい?」

 「わかってる・・・あそこは、ほうき少女と言うべきだったのだろう? 代理人もそんなことを言っていたが」

 首を縦に振り、

 「そういう狙いだったのだから、正解というべきであろう」

 そんな訳のわからないことを言っていた。






 「わからないということはないんだよ。これは、君の脳内でシュミレートされた結果なのだから」



 わからないのは、あんたの指向性だ。


   









ハーリー列伝

第十壱話










 




 『クロスオーバー小説というのは、お気に入りの伽羅を別世界でも活躍させたいという願望から来ているんです。
  そういう、作者のどうしようもない妄想が出ているんです』








 気持ち悪い。



 別にオレンジの海みたいなところで、脆弱な少年に首を締められた後泣き出された訳でもないのに、


 ハーリーは純粋にそう思った。


 「おえっ・・・・・・うげっ・・・・・・」


 吐きそうってか、吐いた。実はこれが最初だけでなく、ずっと吐き気が続いている。



 「おやおや、苦しそうだね。ハリ君」



 目の前の女性は、にやにや笑いながら、その情景を見ている。


 不思議と殺意を抱いたりはしなかったが、それでも。


 「何故笑ってるんです?」


 苛立ちは感じる。



 「決まってるじゃないか」

 彼女はそう言って、静かに言う。

 「鮮やかなキノコは大抵食べれる。食べれない例外のキノコがあまりに有名なせいで、地味なキノコは安全と思われがちだが」

 彼女はため息をついて、

 「私が知ってるのだから、君が知らないはずはない」



 ハーリーは涙目になって、いや、当然吐いてるのだから涙も出る。

 「だったら、教えてくれればいいじゃないですか」


 ランは肩を竦め、

 「それが食べれるか、食べれないか・・・・・・私がそんな事、知ってるわけないじゃないか。

 君がそれを食べようと思った=それは食べれるキノコだと思うのが普通だろう?」

 そう言って、

 「大丈夫?」

 と、心配そうに聞いてきた。


 ああ・・・・・・そう言われたら、僕は何も言えない。
 
 たとえ、それがあまりに投げやりでおざなりだったとしても。



 彼女の言葉ならば。





 気持ちが悪い。

 精神と肉体は別物らしい。


 病は気から、気が大丈夫なら病は決しておきないというが、あれは嘘だ。

 もっとも、これは病じゃなくて毒だが。


 毒は効かないはずなのに、効果覿面なのは何故だろう。

 量がいけなかったのだろうか?


 思い出そうとして、気持ち悪くなったので、吐いた。思いもろとも。














 そうして、ようやく地獄の責め苦から開放された後、



 何時ものように、いや、それは何時ものようでは決してなかったが、歩く。

 

 そこでふと、妙な風切り音を感じる。

 
「なっ!?」





 不意に。



                     槍が、



        飛んできた。







 ザクッと、その木でできた槍は地面に突き刺さり、



 かわした瞬間、何かが足に触れる。






 ぶぅん・・・と、音。

 丸い何かがハーリーに向かって飛んでくる。



 反射的に避ける!



 「えっ?」

 その場所に、何かが引っかかる。




 「!」


 あっと思ったのも束の間、ハーリーの体は重力を離脱させ、ぶわっと引き上げられていた。





 網が、完全にハーリーを捕らえていた。




 影が、ゆっくりと近づいてくる。



 「初めまして」

 透き通ったような声が響き、ハーリーは静かにその彼女を見た。

 「琥珀と申します。T.A.同盟では策士などと呼ばれていますが」



 そして、何故か箒を持っていた。

 T.A.同盟では、妙なものを得物にするのだなと、少し感心し、



 ふと、横の彼女がマジマジと、その琥珀という少女を見ていた。

 何かつぶやいているので、聞き耳を立ててみる。


 
「ふむ・・・・・・ネタがつまって、こういう手段に出たのか。だが、廃れてきたとは言っても、誰かが書くとどんどん広まる危険な・・・・・・」


 聞かなかったことにして、彼女を見る。







 幼い顔立ちに、琥珀色の瞳。

 わずかに髪を彩るリボンが可愛らしい。

 しかし、それより目を引くのは、

 まるで小料理を営んでいるようでいて、何か微妙に異なっているかのような和服姿。

 そういえば、どうにもこうにも割烹着に似て、非なるものとどこかで代理人が言っていたような気がした。

 閑話休題。





 「琥珀さん……ですか?」 

 ハーリーはその子をじっと見る。

 観察できるほどに観察しようとする。



 「はい」

 にっこりとどこか透明な微笑を浮かべながら、

 「もしくは、ほうき少女、マジカル
「却下!」……残念です」



 急いでハーリーは否定した。

 いや、そこで否定しなければ、何かがオカシクなる。



 現実と、虚構の境目


 地点と、地点の境界


 そこにある壁を崩してしまったら、もはや何もかもが流れ込む。




 だからできない。今は未だ、ぎりぎりで、この「ハーリー列伝」の場所は動かない。

 だがしかし、ここでそれをやってしまったら、何もかもが終わりだ。



 ハーリーの顔を汗が伝う。



 そう、それだけではない。

 もう一つの課題……それは―――いや、これは特に問題ではない。



 そう判断し、ハーリーは腰に刺してあったナイフを一閃!


 どさっと、縄ごと重力の決まりによって、地面に落ちた。




 「……それ・・・結構特殊な材質なんですよ」

 だとしても、このナイフに切れぬものなど、ない。たぶん。



 だが、敵もすぐに看破する。


 「なるほど。。。ゾーリンゲンですか………」

 最強の威力を持ち、頭にHitさせれば確実に相手のHPをごそっと奪える代物。



 だが、彼女の表情はただ、微笑むだけだ。

 「だからと言って、問題はない。 それは確かに威力は凄いですが……」

 すっと、彼女の身体が動く!

 一閃!


 「……コチラとちがって、当たり難い」


 間一髪!


 ハーリーは避けていた。しかし、服を犠牲にしてではあるが。

 「これはマサムネ。 高威力かつ、ゾーリンゲンより当たり易い」

 そう言って、箒のしこみ刃を、ちらっと見せた。






 この勝負の間にじゃんけんをして相手の体力を減らす作戦に出ようとしたが、策士を名乗るだけはある。


 彼女はそれに応じない。



 「くっ―――!」



 
 
 おかしい。何かがずれはじめている。


 ハーリーはそう思ったが、今はこの勝負に集中する。


 そう……認めなければ、彼女はただの琥珀に過ぎない。

 このハーリー列伝に出てくる、マシンチャイルドに過ぎないのだ。


 ヘンな考えはよせ! 


 そうだ。認めてしまったら、物凄く厄介なことにになることは想像し難くはない。




 だが……


 そこで、もう一つの考えが



 「……ちなみに、剣道二段です」



 ―――駄目だ!駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!



 そうだ、それを形にしてしまったら、トンでもないことになる。

 細い糸で、体中がバラバラになって、首チョンパされるのだ。

 そういえば、作者は『あれ』をかなりお気に入りだったような………


 「そういえば、チミは世界の敵っぽいな」

 五月蝿い、黙れ。







 ずれ始めてる嗜好性志向性を回避し、ハーリーは向き直った。

 





 抜刀の態勢で、静かにこちらを少女が見ている。

 殺気は無い。いや、それどころか戦意というものが無いのだ。

 だがしかし、それでも。


 ひゅん! と、抜き放たれた仕込み刃が、ハーリーの先程までいた空間を薙ぎ払う。


 純粋に、強いと思った。

 しかしそれは、違和感のある強さ。

 方向性がしっかりしてないからこそ、妙に強く感じるのだろうと、ハーリーは危険な事を考える。


 そう……それに………


 再び目の前の少女は、箒の仕込み刃を元に戻し、トウメイに微笑んだ。

 「思ったほど強くないんですね」




 ハーリーは、冷や汗を感じつつ、その不条理な少女を見ていた。





 何故、彼女は剣道二段にも関わらず、居合いの構えを取っているのだろうと。












 「ああ、それはですね」

 彼女は、こういう時のお約束のように、何故かハーリーの考えを読みとって言う。

 「そちらの側面に、設定されているからです」






 危険だと思った。

 設定という事を口にする少女が。

 無論、自分が考えてることは忘れる。

 まぁ、それは当たり前の事ではあるが。






 











 最近、一番やりたいGAME

 ::影牢2
      理由:迷い込んで来たり、正義感溢れている奴を罠に誘い込んでヤルという傾向が。
         何となく訴えるものがあるから。
         主人公女だし。

         追伸:てか、その前に2はあるんですかね? 1があるのは知っているので、
            きっとそれよりは面白いだろうという考えからなんですが(何


  前回の感想に対しての追伸:そういえば、j3の意味はわかったのかにゃw?


  更に一言:お久しぶりです







 

 

代理人の感想

うむ、相変わらず訳がわかりませんね。

ここは素直にそのまま読んで楽しみましょう。

グレート・オールド・ワンやアウターゴッズの行動を理解しようとしても無駄なことです。(ひでぇ)

 

>似て非なるもの

似て、つーか白い以外は全くの別物。

本物の割烹着というのは姫宮アンシ(だっけ?ウテナの黒肌眼鏡娘)が作中で着てたような

肩から腕、膝あたりまですっぽりと覆うスモックのようなものを指す。