『ついにねんがんの練炭抱きまくらをてにいれたぞ』
 『素晴らしく永遠の眠りにつけそうなアイテムですね』




 雲ひとつない夜だった。

 一面澄み渡ったダークブルーの向こう、素晴らしい電波を受信したと誰かがはしゃいだ声をあげる。

 そのたび、そこらに集まった親達は頭を痛めながらそう叫ぶ子供を
 「いい加減にしなさい」
 「馬鹿なことを言ってるんじゃないの」
 と、うんざりした表情を覗かせていた。

 まぁ、それは当然だ。

 大人になってから、私の頭に突然バモイドオキ神が降りてきたのだとか言い出されたら困る。
 そんなことになったら兎の奥さんに後ろからぐさっと包丁で後頭部を刺されるだろう。マジマジ、本当。

 勿論、空想力が豊かだよなぁ、と微笑む親達が居たのも事実なのだけど。

 ああ。でもせめて17歳ぐらいの子供には注意しておきましょうよ。放っておく心境が理解できませんよ。
 え?言うと怒る? ちょっと奥さん。親が子供におびえてどうするんですか。 

 などと、そんな人様の悩みに頭を抱えている場合ではないのだ。面倒くさいし。
 真の問題は何故目の前の女性が料理をしているのかということなのだ。

 「ふっふふっふふ〜ん♪」

 しかも鼻歌を交えながら。


 「―――――――――」
 言葉が出ない。

 何でこの場所にユリカさんがいるのか。
 なんで厨房で一人、食事(っぽいもの)をつくっているのか。

 それも凄い勢いで。
 これは私の愛のミックススペシャル、受け取ってーという修羅の如き気迫。

 というか意地になってないか彼女、製作してるものが尋常じゃない。

 もしかして食物なのか。
 あの墨ときな粉とハバネロとくさやにケミカルXをぶちこんで無理矢理合体融合のあげくオレ外道物体X今後トモヨロシクみたいな群青色のモノが食物とでもいうのか。

 だとしたらまずい、あの物体もまずいがユリカもまずい。

 アレ、絶対やばげな毒持ってる。これじゃ、ほうっておいたら確実に死者が出る。

                      か
 口笛なんか吹いてる彼女――マジ殺るらぶりぃミスマル=ユリカを、ルリは呆然と見ていた。

 「なに……やってるんですか?」
 それだけしか言えない。

 「料理を作ってるの♪
 ほら、アキトを探すためとは言え、皆に協力してもらってるんだから」


 「―――――――――」
 「―――――――――」
 視線が合う。
 ユリカさんはいつものようににっこりと微笑んで、

 「ルリちゃんも食べる――?」
 「食べるか――――っ!」

 息を切らせながら叫び、ルリは指をさして聞く。
 「で、それ、何です?」

 「え、見てわかんないかなぁ。餃子だよ」

 「餃子?」


 ―――駄目だコイツ……早く何とかしないと。

 ルリは心底そう思った。






 ルリが戦慄している頃、ネルガル会長、アカツキ=ナガレもまた戦慄していた。

 多くのネルガルの株が、何時の間にか秘書のエリナ=キンジョウ=ウォンによって買われていたのだから。

 それどころか、所有していたはずの株の一部も、何時の間にかエリナ名義に変わっているという始末。

 「もう少し遅かったら取り返しのつかなくなるところだった」

 勿論、一方で安堵している自分が居たことも確かなのだが。

 もうちょっとで、金で全てが買えるという考え方がおかしいよねとかトンチンカンなことを言い出す羽目になるところだった。
 無論、世界はどうであれ日本人の多数はその通りだと言ってくれるかもしれないけど。ビバ、日本。

 あの莫大な資金力は何処から出たのだろうと一瞬考えたのだが、気がつけばすぐにリーマン同盟が思い浮かんだ。

 しかも、彼女は幹部だ。造作もないのだろう。きっと、たぶん。

 どちらにせよ、彼女が居ないのは僥倖だ。
 現ネルガル会長アカツキ=ナガレは激動の中へ身体を進ませた。 






 一方その頃ハーリーは、

 「秘剣―――ツバメ返し!」

 「そんな馬鹿なっ。一つしかないはずの剣が同時に三つ存在するなんてっ!」

 不条理と戦っていた。












ハーリー列伝

第十弐話















  Q:「僕は不幸なんです。何時の間にか弄られ伽羅が転じて不幸伽羅とか苛められ伽羅とかにされたあげく、
    どんなに苛められても死なない不死身伽羅とかにもされていますし、人体改造とか平気でやられているんです。
    一方、マシンチャイルドの筈なのに、能力はあまり生かせないですし、某妖精二人どころかぽっと出のオリ伽羅
    なんかにも当たり前のように僕の能力が劣るんです。
    どうすれば僕は活躍できるんでしょうか? どうしたら僕は幸せになれるんでしょうか?」

    A:「ソープへ行け!」






 

 ざっと、土を蹴る音が聞こえ、二人が離れた。

 ハーリーはもはや手加減という言葉を思うことはない。

 危険なのだ。あれは、必ず世界を歪ませる。
 そのうち、きっとなんか巨大化したルリとかが現れるのだ。ファック。

 ゆえに、遮断せねばならない。カットカットカットカットカットカットカットカットカットォォォォォッ。

 数刻。
 二人は対峙し、呼吸を整える。

 「決着をつけましょう」
 琥珀は言う。

 「望むところだ」
 ハーリーは応える。

 にやりと笑った。

 戦士達の奇妙な友情がそこに流れていた。
 そして、再び交差した後にはそこで潰えるのだろう。

 そんなものを友情と呼ぶことができるのだろうか。だからこそ奇妙な友情という表現なのだとハーリーは自己完結する。

 二人は呼吸を合わせ、同時に大地を蹴―――


 
「ちょっと待ったーっ!」


 「な、何者!?」
 琥珀は驚き辺りを見渡す。

 「何者かと聞かれたなら、答えてあげるのが世の情け!

 「ふっ、貴様如き凡夫に名乗る名前など持ち合わせてはおらぬ。
 それに名前など人間が己を認識する為に付けた番号に過ぎない。
 お互いを認識し合わねば生きていけぬ人間らしい、簡潔な手段ではないか。まったくくだらん」

 「ちっ、ノリの悪い野郎だな。すかした態度とってんじゃねぇよ。ったくよ」

 「あ。あ。」
 琥珀は――不条理な少女は呆然とその人物を見る。
 当然だ。それは僕も同様だった。だって、現れた人物は、
 「アキト様!」

 そう、件の人物だったのだから。

 「おやおや。驚かせてしまったか、すまなかったね」
 そう言って邪悪な笑みを浮かべつつ、少女を抱きしめる。

 抱きしめる? ・・・・・誰だ。コイツは本当にアキトなのか。
 そんな疑問を浮かべている間にも少女はうっとりとした表情であり、

 「ふん、貴様のように片っ端から構わずと女性を食う輩に言われる筋合いはない。まったく見るに耐えん」
 ていうか誰だ。この髪の色が紫銀な偉そうオーラが溢れているような人物は。

 「アキト様の悪口を言う輩は死になさい。それよりも誰ですか。貴方は」
 少女も後半見るに同意見だったらしい。


 「ああ、気にするなよ。きっと焼いてるんだ。そんなことより俺は君の美しい唇を頂きたいな」

 そう言って、少女の唇をうば、うばbabababababa・・・・・ごほん、しかもなんかディープっぽい。
 てか何だ。オカシすぎる。なんだこのアキト。なんだこの変な男。
 あ、なんか紫銀髪の変な男が銃を構えた兵士に蟷螂拳っぽい技で目潰しした後鶴の舞に移行してぶったおしてる。

 少女ははにゃーんとか言ってるし、何なんだ。
 「これは、苦労カードの仕業や」
 ランさんの言葉は無視した。

 「さて、行くか。ふふ。俺を迎えに来ているんだよな。くくく片っ端から食ってやるぜ。まったく最高にハイってやつだぁぁぁ」
 誰だよ。


 余りの事に意識が遠くなってくる。
 だってほら、笑うしかない。

 僕の目の前には何故か、エルム街とかそんな感じの作品に出てくる殺人鬼っぽい姿の存在が近づいてきたのだから。






 * * *






 今回の被験者はわりかしキレイですねー。
 本人の自意識とか残してるって珍しいんじゃないでしょうか?

 そうだね。いやさ、それだけランさんのお気に入りってことですよねーあはは。

 いや、それは否定しないけどさ、彼は確かに優秀だし……でもさなんていうか、物足りない感じがするのだよ。

 ………いじってみますか?
 ………いじろっか?

 名案だ。うむ。よし、これより改造手術を行う!
 何かの手違いで拒否反応起こさないように、まずはワクチンを注射するのだ。

 イエス、マム!


 ウィーン。びゅーびゅー。ウィーン。すっすっはーすっすっはー。


 よし、インスタントにオペ終了!
 どうかねハリくん! 身体的にも魔。。。ごほんごほん、超人へと生まれ変わった気分は!
 だが君の意思を尊重し、最後の改造、脳手術は止めておいた!

 おいた!

 さあ、このまま自主的に我ら研究員の一員となるか、
 洗脳されてマシンとなるか! 君の意志で決めたまえ!


 ドドドドドドドドドドド


 た、たいへんですランさん!
 被験者がナノマシンのパワーを使って、拘束を引き千切りました!


 ドドドドドドドドドドド


 うわー、は、は、博士!おお暴れです! 第37研究室が破壊されます!
 わ、我々は自らの手で最凶の敵を生んでしまったのではないでしょーか!


 ドドドドドドドドドドド


 しまったーーーーー!
 まずは脳改造からしておくべきだったかー!


 ドドドドドドドドドドド


 きゃー!フツーはまず脳改造から始めると思いますよぅ!




 
ドカーーーーーーーン







 「はっ……!?なんか、すごいユメを見たっていうか、今のはまさか死後の世界……!?」


 「いい加減に、現実を直視したまえ、ハリ君」

 「いや、冗談ですよ。やだなぁ、HAHAHA」
 外人笑いをしながらハーリーは身を起こす。

 冷めた目つきでランはハーリーを見つめた。


 「ていうか、本気ですか。本当に本当なんですか」
 本当、笑うしかない。あは。あははははははははははははははははははははははは。。げふんげふん。

 「一応私も聞きたいのだがね。とりあえず、倒れたことを覚えているかね?」

 「ええ。判ってましたとも。解ってましたともさ。
 何となくおかしいと思ってたんですよ。だからと言って夢オチだなんて普通思わないでしょう!?」

 「落ち着きたまえ。それで、何処まで覚えているかね?」

 「あーそのなんですか。
 とりあえずなんかルリさんが変な船に何時の間にか搭載されてたアンカーぶち込んだ後逆行したのは現実なんでしょうか?」

 「ふむ、とりあえず現実だ。ていうかそこまで遡るのかね、君わ」

 「いや、はは。あはははは」
 苦笑しつつランさんを見つめる。

 「まったく。なかなか起きないから心配しちゃったじゃない」

 「すいません」

 「捕まんなくてよかったね」

 苦笑する。
 「はぁ、まぁ。それは運が良かったんでしょうね。それにしてもまったく。。。」

 「まぁ、それはそれとして私は聞きたいのだがハリ君」
 彼女は真面目な顔をして言った。ハーリーもおもわず真面目な顔で聞き返す。
 「何でしょうか?」

 「君は本当にあんなのが現実だとでも思っていたのかね?」


 正直、なんかなんでも起こりそうな気がするし現実でもおかしくなかったんじゃなかろうかとは応えなかった。
 いや、でもやっぱアレはやりすぎだったし、現実だったら困るな、うん。


 「へへへ、そりゃそうだ。ちげえねぇ、まったくもってちげえねぇや」
 吸血鬼に襲撃されている兵士のようにハーリーは笑った。当然やるせなさを帯びた苦笑いだった。


 何故倒れたか。
 そんなのは決まっている。あの多量の毒キノコのせいだろう。

 どんな茸か思い出せなかったので、とりあえずそれっぽい茸を想像してみる。

 まったく、豚っぽい煙を吐く茸なんて見るからに怪しい。そりゃあ僕も倒れるだろうし、ブッダだって殺られるだろうさ。
 アッチョンブリケ。そんな馬鹿な。



 刹那、


 ばっとハーリーは彼女と同時、同じ方向を見た。




 ひゅぅぅぅぅぅぅ。

 風が鳴る。

 視線の先、遥か向こうから風を斬るように響いてくる音は、紛れもなく、何かが高速で向かってくる音だ。

 何かがこちらへやって来る。

 ほどなくして風切り音は止み、草をかき鳴らすかのような音がした。
 軽い、土を噛むような音がハーリーの耳に響いている。その音は誰かが近くに居て、こちらへと歩んでくる音。

 ざっ、ざっ、と足音が近付いてくる。

 ハーリーは音の聞こえる方角へと目を凝らし、戦闘態勢を整えた。
 信じ難いが、ハーリーは認めたのだ。じき、ここにやってくる者が誰であるかという事を。


 それは、すぐに現れた。

 天上からの月光を背にして、一瞬その姿は影しか見えなかった。

 真っ白いワンピースと、その姿に映えるようなペンダント。
 簡易に後ろに縛られた燃えるような赤髪と、身体を覆う燃えるような紅いオーラ。

 彼女は、右手に長い鎖を持っていた。
 夜の闇のなか、その手に納められた鎖がきらりと輝きを放つ。
 無造作に鎖をぶら下げたその姿は、戦場を駆け回るという戦乙女にも似ている気がしなくもない。
 鎖とかほら、無理矢理魂縛ってるみたいだし。でも、アリューゼ召還とか勘弁な。

 「こんばんわ。ハーちゃん」
 彼女は微笑む。まるで天使のように。美しく、純粋に。




 呆然と、ハーリーは彼女の名を呟いた。




 「―――藤崎詩織」





 彼女は首を傾げた。
 「だれ?」







 聞かれてハーリーも首を傾げた。









 誰だろう。











今回茸ネタ多すぎですね。
そういえばこの物語自体、殆ど全てパロまみれなんですが元ネタとかどれくらいわかっているんでしょうか。
話は変わりませんが、夢オチって便利ですよね。






感想代理人プロフィール

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代理人の感想

多分半分以上は分かっているのだろうが、全部となるとさすがにわからんと、思いつつ感想。

というか、どこまでが夢でどこからが現実ですか、というか夢落ちだと思って目を覚ましたところが更に夢の中だったとかそう言う落ちですか。

気分は筒井康隆かニールゲイマンはたまた胡蝶の夢って言うかフィリップ・K・ディック。

 

ところで藤崎詩織って誰?