守護者、そして……
第一話
火星陥落から三ヵ月後
ヨコスカシティ郊外の河原
少しくぼんだ野原に虹色の光が溢れる。
しばらくすると光は消え、倒れた青年が二人。
二人とも少し汚れたパイロットスーツ(火星海兵隊仕様。双方ともつや消しブラック)を着ていた。
「うっ……ここはどこだ?」
一人が頭を押さえながら起き上がる。
「! おいカイト、起きろ!」
アキトが幸せそうに寝ているカイトを起こそうとする。
「…もう寝れません」
(……寝てるだろうが…)
その寝言でアキトに青筋一つ。しかし、こらえて起こす。
「アキト、女性関係ぐらいは清算しとけよ」
青筋二つ。
なんとなく荒っぽい起こし方。
「安心しろアキト。不幸はお前だけだ……薔薇色の鎖とも言うから幸せか? 人数おおいが」
ぶちっ。
アキトの目がギュピーンと怪しげに光る。
背後に怒りのオーラをまとったアキトがカイトの頭を思いっきり蹴り飛ばす。
…ちなみに二人とも、鬼より怖い火星防衛軍海兵隊で特別強化訓練を受けている。
二人とも着ているのは火星防衛軍海兵隊型のパイロットスーツで靴底に特殊合金板が入っている。
そんなアキトが全力で蹴れば厚さ3cmの、鋼鉄と同硬度の強化プラスティックを割れる。
Q.その蹴りがカイトの頭に命中すれば?
A.
めきょっ
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”…!!」
何かが何かにめり込むような音と、誰かの叫び声、ごろごろ転がる音が辺りに木霊す。
しばらくすると頭から血をどくどくと流したカイトがアキトと向かい合う。
「なにすんだよ!?」
「起きないんだからしょうがないだろ?」
あっさりと受け流すアキト。
この際アキトもカイトも、カイトの即死に等しい怪我のことを全然気にしていない。
それどころか、死んでいるか絶対安静の重体のはずのカイトが元気にアキトに殴りかかっているのは大いなる宇宙の神秘(謎?)ということで終わらせておいてあげよう。
「…で、ここはどこなんだ?」
「さあ…な。地球かな? 火星はこんなに綺麗な町があるはずないし。町はみんな廃墟だし」
近くの丘の上へ移動し、そこから町を見下ろす。
町は多少木星蜥蜴の攻撃で荒れてはいるがそれ程深刻なダメージを受けているようには見えない。
「地球か……………?」
何かに気がついたカイトが辺りをしきりに見回し、倒れていた河原の方に目をずらす。
「どうしたカイト?」
それに気がついたアキトがカイトへ声をかける。
「気がつかないのか!? レナはどうした!?」
「!」
漸く気がついたアキトも周囲を探してみるが、レナの姿は…………ない。
二人の最後の記憶では、レナは一緒にいた。
しかし、いない。
ということは………。
「くそっ!!アレスに続いてレナまでもがかよっ!!」
アキトが近くの樹木へ拳を叩きつける。
「落ち着け、まだ死んだと決まったわけじゃないんだ。生きてる可能性が高い。アレスもな」
そんなアキトをカイトがなだめる。
と、その時。
「おい、何をしている?」
振り返ると道路に一台のジープがとまっており、運転席と助手席に軍人が座り、一人がアキトたちに自動小銃を向けている。
「そのパイロットスーツ…UNMDFM(連邦火星防衛軍海兵隊)か?」
「あ…いや、違う」
連合軍のパイロットスーツは宇宙軍・海兵隊等各組織が統一されたパイロットスーツを採用しているが、火星防衛軍では陸戦隊と海兵隊でデザインが違う。
特に火星海兵隊のデザインは他のものと大きく異なる。
通常のパイロットスーツは衝撃吸収能力など機動兵器を操作する上で必要な機能が主なのだが、火星海兵隊の場合、防弾・防刃・防水・絶縁・耐爆・衝撃吸収・耐熱その他もろもろ、戦闘に関するものをサポートする機能を有している。
まさに汎用スーツと呼べる存在になっているのだ。
これは火星海兵隊が機動兵器(エステバリス)パイロットとしてだけではなく、通常の戦闘員として活躍する機会が少なくないからだ。
火星海兵隊といえば、いまだに治安が少々心もとない火星で陸戦隊では不可能な状況下、少数で事態を解決することで有名。
無論、そんな状況下でエステバリスなど使えるわけがない。
火星海兵隊員にとってエステバリスは単なる戦闘補助兵器でしかなく、実質銃器と同類だ。
ということで、アキトもカイトも自動小銃もって戦闘してる回数の方が多い。
「では、何処の所属だ!? 姓名、階級、所属を述べよ!」
「火星防衛軍機動兵器師団第08小隊隊長テンカワ・アキト少尉」
「同じく第08小隊副隊長テンカワ・カイト准尉」
二人とも火星海兵隊式の敬礼を見事にしてみせる。
ジープに乗っていた二人の兵士は慌てて答礼し、
「失礼しました! 自分は連合軍地球守備隊、極東司令部所属JAPヨコスカ警備隊のナガセ・カズヤ軍曹です!」
「同部隊所属、オオセキ・ケイジ伍長です! お会いできて光栄です!!」
アキトとカイトは彼らに近づいていって尋ねた。
「すまないが、俺達を身近な司令部へ連れてってくれないか?」
「了解しました少尉! お二人とも後部座席へ」
「ああ」
カイトが先に乗りアキトが次に乗る。
アキトが乗るとジープのエンジンがかかり、ジープは司令部へと向かっていった。
コンコン。
「入れ」
ドアの置くから威厳のありそうな声がした。
二人が気を引き締め、面会用にと渡されたIDカードをスリットに通す。
ドアの横に設置された端末の一部が赤から緑へと変わり、圧縮空気が抜ける音と共にドアがスライドした。
「テンカワ・アキト少尉、テンカワ・カイト准尉、入ります!」
「確認した。少尉、准尉。本来なら連合軍の連中が聞くところを無理矢理呼んで悪かったな。だが、君たちには私が直接聞きたくてね」
部屋の奥のデスクに座っているのは銀髪をざんばらに切っている中年男性だ。
「さて、お会いできて光栄だよ。世界最強の機動兵器部隊、守護者の『漆黒の王子』と『白銀の騎士』殿」
「我々もです。総監」
「私のことはエリス…いや、大佐とでも呼んでくれ」
第三代地球連邦政府総監、エリス・レーヴァン。それがアキト達の目の前に居る人物だった。
本来、出頭した司令部で事情の説明をするはずだったが、司令部につくといきなり待たされてエリスが待つここへと輸送されたのだ。
「では、君たちの覚えてることを話してもらおうか」
「…まず、俺達のことはご存知ですよね?」
「ああ、若干14歳で軍に入り防衛軍陸戦隊へ配属」
エリスが用意していた二人のプロフィールに目を通しながら話し始める。
何故か、その報告書は何度かつてをつけられていた感じがする。
「三ヵ月後、海兵隊に引き抜かれる。ついでに辻褄あわせで二人とも一階級昇進」
「「……」」
「で、数十回の実戦経験で昇進。火星防衛軍も無茶やるな。ウチ(機動軍)ほどじゃないが」
「「………」」
「ネルガルが機動兵器エステバリスを開発。プロトタイプ80機がデータ収集の為火星に配備。適性検査で両名が選抜」
「そうです」
アキトが答える。
「08小隊に人員が与えられ機動兵器師団として………めんどくさいので以下略」
「「はあ!?」」
驚いている二人の顔を見てしてやったり、という感じでにやりと笑うエリス。
「いちいち過去を掘り返すのは趣味じゃなくてね。嫌そうだからやめた」
「は…はあ…」「そうっすか…」
「私が知りたいのは双子のテンカワ兄弟のデータではないのでな。本番行くぞ」
「「はい」」
「木星蜥蜴の襲来時君らは独立部隊として迎撃に当たってユートピアコロニー郊外のシャトル空港を死守しようとした」
「……はい」「その通りです」
「空港に存在した50隻のシャトル全てを射出。それまでにアキト少尉は敵機動兵器5426機、護衛艦12隻破壊。カイト准尉は5565機、10隻破壊」
「必死だったので数まで覚えておりません」
「なお、レナ准尉は機動兵器6523機撃破。アレス准尉は4109機撃破、38隻の護衛艦と敵母艦1隻撃沈してる」
「………」
「ふむ…で、全機の機体反応消失。死亡とみなされる。………ここからがわからんのだよ。どうやって地球にきた? シャトルで三ヶ月…ってのは時間的に可能なんだが肝心のシャトルは無い。わけわからんのだよ」
「それが……」
「よく憶えてないのです」
「………憶えてない…だと?」
苦々しそうな顔をしている二人を見て、本当のことだと理解したエリスが顔をしかめる。
「気がついたら…河原で寝てたんです」
「……ふむ、本当のようだな。……………HDブーストか………違うな…」
二人の目は嘘をついているように見えなかったエリスは、端末を操作して二人の情報を引き出す。
両名の顔写真に「died」と斜めにスタンプされているのを消す。
「これで君たちの死亡通達は取り消された。連合軍に行くか? ならば手続きしておくぞ。あっちも英雄が行くから喜ぶ」
「英雄?」
カイトが聞き返す。
「何、いつものお決まりさ。負け戦にゃ英雄を出す。君たち守護者、フクベ・ジン提督―責任とって退役したがね―、ブラックウィドゥ小隊…」
「なるほど…なりたくなどありませんが」
「アキト君、その通りだ。で、どうする? 軍に復帰するか?」
「総監」
アキトの顔が真剣なものへと切り替わり、カイトもそれにならう。
「我々の守るものは……既にありません。ですから…もう軍とは…」
「…分かった」
エリスは端末を操作し続ける。
「…そうだ。君たちが生きているのだ。レナやアレス准尉も死亡ではなく行方不明にしておくか?」
「そうしてくれると嬉しいです」
すぐさま、二人のデータが変更される。
それを見届けて、アキトとカイトが退室しようとする。
「あ、二人とも」
「「なんです?」」
アキトたちを止めたのはエリスだ。
二人が振り返ると、何時の間にか二人のすぐそばまで接近していた。
「娘が…世話になったな」
「は?」
戸惑い気味のアキトと、言葉すらでないカイト。
「…ミズキ・レナは養子だが、私の娘だ」
「「ええ〜〜〜!!」」
「…そう驚くな」
驚きまくってる二人に苦笑するエリス。
「あの子は私の子供ではない…だが、私は実の娘として育て、接していた……君達が生きていることで安心したよ。あの子も生きている可能性があるんだからな…」
「総監…」
「…さて、すまなかったな。止めて」
「……いえ…」
そういうと、アキトは退室し、カイトも数分はなして退室していった。
「ふむ。まだまだ人類の未来は明るいな。もうだめかと思ってたがまともな奴らもいるもんだ」
エリスはどこか遠くを見るような目で一人呟く。
「さて、お次はさっさと腐った議会と軍上層部を叩きなおさねばな」
そういってエリスは席を立った。
――1年後。ヨコスカシティの大衆食堂、雪谷食堂。
「お〜い、二人とも。店じまいにするぞ」
ここの店主であるサイゾウはコックとウェイターに声をかけた。
「ういっす!」
「看板かけてきます」
アキトがまかない食(料理人が余った食材で作る自分たちの食事)を作り始め、カイトが『閉店』の看板をかけようとして店の出入り口に向かう。
「ごめんください」
その時、サラリーマン風のスーツを着た小柄な男性と2mを越える身長といかにもMIBという感じの黒服に身を包んだ男性の二人が店に入ろうとした。
「あ、すみません。もう店じまいなんですよ」
「いえいえ。私どもはテンカワ・アキトさんとテンカワ・カイトさんにあいに来たものですが。あ、私はこういうものでして」
サラリーマン風の男性が名刺をカイトに手渡す。
「ネルガルのプロスペクター…さん?」
「あ、プロスとおよびください。で、アキトさんとカイトさんはいらっしゃいますか?」
「俺がカイトですけど…」
そう答えるとプロスはカイトに向かって
「あ、そうでしたか。実はお話がありまして。よろしいでしょうか?」
といった。
「え、ええ。まあ…アキト、時間あるか?」
奥にいて調理中のアキトへと声をかける。
「ちょっとまってくれ。今作ってるから」
そう返事が聞こえたのを確認したカイトがプロスにいう。
「あ、2・3分ほどまってくれますか? そこにでもおかけになってまってください」
「分かりました」
そういってプロスと大柄の男がカウンターに腰掛ける。
「お前ら、俺は上にあがっているぞ」
サイゾウがそういって店の奥へといってしまった。
しばらくして、アキトも席につき話し合いが出来る状態になった。
それを確認したプロスが用件を単刀直入にいい、アキト達の質問に答える形となり約30分が経過した。
「で、いかがなものでしょう? お給料はこれぐらいで」
プロスが電卓を見せる。
「うぐ…こ、コレでいいです。ええ、いいでぇすとも!! でも、できりゃもうちょっと…」
「…アキト……そーいや借金持ちだもんな」
身を乗り出すアキトとそれを冷めた目で見つめるカイト。
プロスは懐に手を突っ込み、契約書を二人に突きつける。
ナデシコの謎のひとつである、プロスの懐…だ。一体どーやっていれてるのだろーか。てか、しわ一つない。恐るべしプロス。
「では、この契約書にサインを」
「あ、はい………これでいいですか?」
「はい結構です。カイトさんもどうぞ」
「うい〜」
サラサラと契約書に名前を記入した二人から契約書を受け取り、プロスはにこやかにいう。
「カイトさんはパイロット、アキトさんはコック兼パイロット…でよろしいですね?」
「はい」
「ああ」
一応確認をとる。
「では、一週間後に佐世保ドックへ。お二人には専用機を用意していただきましたので、それに乗ってください」
そういい残して去ってゆくプロスをアキトがとめる。
「プロスさん! その新造艦の名前しりたいんですけど」
「おやおや…もうしわけありませんでした」
「機動戦艦ナデシコ。ネルガルの新造艦です」
独り言〜
ようやく第一話。
……このままだと更新ペースは一ヵ月ごとっぽいかも。
タグ…タグがぁぁぁぁ(滅
…手打ちってこんなにつらいのね(爆
んでは、第二話でお会いしましょう。
代理人の感想
HTML化誠にご苦労様あ〜んど大感謝です。
なお、タグの手打ちをする際は辞書登録でタグを一発変換できるようにしておくと便利でしょう。
例えば私の場合、「<」と打つだけで
「<font face=”MS P明朝”>」「<a href=””>」「<font color=red>」「<font size=7>」
がすっと出てくるようにしてあります。
同様に「>」だと「</font>」「</a>」「</b>」などなど。
・・・・まぁ、辞書の使えないツールというのもあるのかもしれませんが、
それは私の手におえないと言うことで(爆)