空には月が、世界には闇が下りている。

森の奥、人の気配のない世界で・・・しかしそれは、この日だけは違う。

暗闇の中でうごめく影・・・森にすむ動物達ではない。

人。人間が、この闇の森に入り込んでいた。

その数、30前後か・・・

多方面から入り込んだその影は、唯一つのところを目指して進む。

誰にも、なににも見つからないように・・・


「・・・ここですね」

「あぁ。しかし、本当に良いのか? 俺たちだけでも・・・」

「今更ですね。もう私は戻れませんし、戻る気もありません。
 それに、他人に任せておくきにはなれませんしね」

「そうか。ならば、何も言うまい」


長髪の男の言葉に、銀髪の少女が答える。

そして、集まった影が動き出す。

その号令をかけたものは、


「この作戦は、『コック』及び『白雪姫』の救出です。
 破壊工作は後回し、間違って被験者達を殺さないように注意してください。
 では、突入!」


銀髪の少女であった。





機動戦艦ナデシコー暗躍する滅天使ー





あの人が死んだ。

その言葉が、理解できなかった。

私をおいてあの人が消えた事を、理解できなかった。

私がその言葉を理解したのは、葬式が終わった後。

・・・正確に言えば、そのときまで何をしていたかなんて憶えていない。

それに、そんな事は私にとって意味の無いことだった。





葬式が終わって、私は公園にいた。

あの人が、あの人達が、私達が、ここでラーメンの屋台を引いた。

もう、いつもなら屋台を引いている時間・・・でも、あの人は、来ない。


「ルリルリ・・・こんな所で、如何したの?」


人が来た。でも、あの人は来ない。
この人は、誰だったか・・・


「・・・ルリルリ、もう暗くなってきたわよ」


あぁ、ミナトさんだ。

何でそんな悲しそうな顔してるんですか?

何か、あったんですか?

そう聞こうとして、声が、出なかった。


「・・・い・・・です」

「え?」

「あの人が、居ないんです」


出てきた声は、これだった。

何故か、涙が出てきた。

それが何故なのか、判らないけど・・・


「居ないんです。アキトさんが、居ないんです」

「ルリルリ・・・」

「もう、屋台を引いている時間です。遅刻です」

「ルリルリ!」

「でも、来ないんです。待ってても、来ないんです!!」

「ルリルリッ! アキト君はね、死んだの。死んだのよ!! もう居ないの!!!」

「嘘です!! そんなはずありません! だって、だって・・・」


なんて言いたいのだろう、そこからは声が出てこなかった。

ただ、涙だけが出てきた。

否定したくて、否定できなくて、ただ、泣く事しかできなかった。


「もう、アキトさんはいないんですね・・・」


泣き止んで、涙が止まって、その言葉が出てきた。

そう。もうあの人は居ない。

あの人が居ない・・・のに、何で私がここに居るんだろう?

何であの人は、私を連れて行ってくれなかったんだろう?

・・・ミナトさんと別れて、ミナトさんは着いて来るって言ったけど断って、部屋に帰った。



小さなアパートの一室。

あの人と、私と、ユリカさんの家。

私の人生の中で、ナデシコの次に思い出の多い場所。

でも、ここはとても閑散としていて、冷たかった。

もう、ここには居ない人達に想いをはせる。

でも、思い出すのはアキトさんのこと。

ユリカさんの事を、あまり思い出せない。

ユリカさんを嫌いなわけじゃない。

むしろ、好きだと思う。

でも、思いだせるのは全てアキトさんの事・・・

と、そこで、自分の想いに気付いた。

私は、何てバカなんだろう。

これほど好きなのに、これほど愛してるのに、それを知った時、もう彼はいない。

冷たい部屋の中で、一人だけで、とてもさびしくて、とても悲しくて・・・

だから、おいて行かれたことが悔しくて。

――私は、風呂の中で手首を切った――

命が抜けていく様な、不思議な感覚。

そして私は死んだ。死んだ、はずだった。



次に目を覚ましたのは、見知らぬ病院の一室。

私が起きたことを聞き、医者が入ってきた。

ここに来た時の私は、3分の1近い血液を失っていて、危険な状態だったそうだ。

どうせなら、そのまま死なせてくれればよかったのに・・・

言葉には出さないが、私が考えていた事はそれだった。

暫くして、ミナトさんとユキナさんが入ってきた。

ミナトさんの話を聞いたユキナさんが、心配して私の様子を見に来た時、手首を切った私を見つけたらしい。

ミナトさんには泣かれた。

ユキナさんには殴られた。

私は、ミナトさんの家に住むことになった。



その一ヵ月後、くだらない学校の授業の中、散歩していた電脳世界の中で、私はそれを見つけた。

そして、私は行方不明になった。






目の前にあの人が居る。

一年前、ルリの前から消えた人。

一年前、ルリが追っていこうとした人。

・・・ルリが、好きだといえる人。

でも、“私”はなにも思わない。

“私”は、そんな資格はないから。

その場を離れる。

彼は復讐を口にした。

ならば、私はそれのお膳立てをする。

私にできる事など、そう多くはないのだから。



「ま、待て! お前の望みは何だ!? 金か? それともここの研究成果か!?」


パン、と、わめき散らしている研究者を撃つ。

うめき声をあげて、研究者が崩れ落ちる。

撃ち抜かれたのは心臓。床に赤い水溜りを作って絶命した。

それを見た研究者が騒ぎ出す。

それを、一人残らず撃ち殺す。

逃げようとするものを後ろから。

腰を抜かしたものを正面から。

反撃しようと銃を探し出した相手を構える前に撃ち殺す。

1分とかからず、20人近く居た研究者は全滅した。

そこに・・・


「ククク・・・一瞬の躊躇いもなく皆殺し・・・見事なものだ」


組傘をかぶり、マントを羽織った男。

それが、七人。

暗殺者。それぞれが人の常識を超えた化け物。


「これほどの殺気を放つか・・・よもや地球にこれほどの暗殺者が居ようとは・・・
 小僧、名は?」

「・・・・・・“滅天使”」

「どうだ、我等と共に来る気はないか?
 貴様の腕なら我等とも引けをとるまい」


私は静かに構えを取る。

語る言葉は無い。そういうことだ。


「ふむ、残念だ。貴様の力、我等の物にならぬのなら危険でしかない。
 ここで消えてもらうぞ小僧・・・斬!」

「「キエエェェェエエエ!!」」


短刀を構え襲い掛かってくる暗殺者二人。

声を出さずその後ろに隠れてさらに二人。

さらに二人、左右に分かれて私を囲む。

隊長らしい男はその場を動かず私を見ている。


「ぐぼぁ!」


ゴス、と鈍い音が鳴り、右の男が沈む。

私のナイフの柄が、男の鳩尾に突き刺さっている。

左から来た男に向けて引き金を引き、男は飛び去りそれを避ける。

右の後ろから来ていた男に対し、一人目の男を投げつける。

そのまま自由になった腕で左から来た男の腕を切り落とす。


「グゥ・・・」


切られた腕を押さえて飛び去った男と、あわせるように飛び込んできた二人の男。

 一人は背後から、もう一人は左方から。

さらにこれを見ていた隊長と思わしき男も正面から襲い掛かってくる。

それに対し、左から来た男にさっききり飛ばした男の腕を、その手に握っている短刀ごとけりとばす。

それを避けて出来た隙に銃を放つ。

足を撃ち抜かれ倒れる男。

後ろから来た男に振り返らず身体を半歩ずらし短刀を避ける。

相手の勢いを殺さぬまま腕を取り、そのまま投げ落とす。

そこに手に持ったナイフで心臓を穿つ。

顔を上げたとき、もう隊長らしい男が刀を振り上げていた。


「ッ!」


それを見て、そのまま横に飛ぶ。

ナイフを手放した。深く刺さっていて抜けなかった。

その私を見下ろして、今度は横薙ぎに刀を振る。


「キエエエェェェェェエエエェェイィィイ!!」


ギィィン、と甲高い音が響いて、私はそのまましゃがみこむ。

盾にした銃が、二つに分かれて壁に向って飛んでいった。


「むっ!」


そして、私が相手に向って飛ぶ。


「ガアアァァ!!!」

「ぐっ!」


私の指が、ズブ、と言ういやな音と共に男の左目に突き刺さり、男が振り回した腕が私を弾き飛ばす。


「「「「「隊長!」」」」」

「ぐうぅ・・・おのれ・・・次にあったときには、殺す!」


今は私の手の中にある目があった場所を押さえ、男が走り去る。

その他の男達も、死んだ男を棄ててそれを追う。

私もそれを追おうとして、止める。

今回の目的は彼らを殺す事ではない。

私はその部屋の扉を空け、研究室に入る。

羊水に入った少年少女たち。

腕のないもの、足のないもの、人のカタチをしていないもの・・・

そんな中で一つだけ、完全な人のカタチをしていたモノがあった。

私と同じモノが。

羊水を抜き、カプセルを開ける。

恐怖に慄いた顔で私を見る少女。

そんな少女に私は一言だけかける。

「生きたいですか」と。

少女は何も話さず、おびえた顔でただ頷く。

ならば、と。

私は彼女に名を授ける。


「これからあなたの名前はラピス・ラズリ。
 貴方にはある人のサポートをしてもらいます」





こうして、名前を持たないマシンチャイルドは、ラピス・ラズリという名を得た人間になった。

だが、彼女はまだ知らない。自分がこれからどういう運命を辿るのか。

・・・それらが動き出すのは全ては一年後。

でも、ここで語られるのはここまで。

全ては史実と違う運命のままに・・・





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後書き


こんにちは、計架です。
劇場版再構成で、“もし、ルリが火星の後継者の実験のデータを見つけたら”というコンセプトで書いてみました。
性格、物凄く違いますね・・・偽者です・・・
気が向いたら感想でも書いてみてください。
よろしくお願いします。

補足

北辰がルリを『小僧』呼ばわりしてますが、それは仮面みたいなので顔を隠して変声器で声を変えているから。
北辰達はあんなのですが、普通こういう場合正体隠すと思いませんか?

ちなみに北辰の左目はラピス攫った時点で義眼でしたが、これではここで義眼になります。
まぁ、パラレルワールドだとでも思って・・・(爆
駄目?

 

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代理人の感想

北辰の義眼は右目じゃなかったかな、とささやかに突っ込み。

それはさておくとしても、短編としてもちょっとどうか・・・という出来かと。

はっきり言って読者置いてけぼりです。

例えばルリを小僧呼ばわり云々と言う話がありましたが、下手するとそもそも「小僧」がルリだと分からない読者もいるのでは。

読者がわからないようにして、その上で「小僧=ルリ」だと明かす。コレはありです。

また、北辰には分からないけど読者には分かるように「小僧=ルリ」だと提示する。これもありです。

しかし、読者が分かるか分からないか微妙なところで主体がルリだと分かっているのが当然という書き方をする、これは駄目です。

このように情報が読者に提示されていないこと、情報が提示されなくても何となく理解できるように話がつながってすらいないこと、

それらの結果として短編に絶対的に重要な「流れ」が出来ていないことが最大の失敗かと思います。