赤き力の世界にて
第21話「すべての真実・・・・・」
あの命を賭けた試合から一週間。
リナちゃん達は一応、及第点をとったので修行は自主的におこなうことになった。
そうなると俺とルナさんは修行に付き合う必要もなくなり、
こうして朝からアルバイトをする日常に戻った。
そんなある時・・・・
「―――――!!」
昼前の休憩をとっていたルナさんが急に椅子から立ちあがった。
ルナさんの顔は驚愕したようにも見え、そしてすぐに表情を引き締めた。
それは以前、ニースとの闘いの折に見せた戦士としての顔だった。
「どうかしたんですか?怖い顔をして・・・・」
「え?そんな顔してた!いや〜ね〜・・・・・」
そう言って笑顔を取りつくろってはいたが、明らかに無理をしているのがわかる。
「何か北の方にあったんですか?」
何でもないという顔をしながらでも、その視線は何もない壁・・・・北をしきりに気にしていた。
「・・・・・・アキト君には隠し事ができないわね・・・・
いいわ。今日は早めに引き上げさせてもらいましょうか・・・・・店長!!」
「どうかしたのかね?何だか騒がしいようだが・・・・」
「すみませんが私とアキト君は早めにあがります。それと明日からまたしばらく休みます」
「わかった」
店長は真剣な顔をしているルナさんの顔を見て何かを感じたらしい。
色々と心配そうな顔をしていたが、結局は何も聞かず了解してくれた。
「でも今日は昼が終わってからにしてくれよ」
「わかりました。ということで、話は帰ってからね」
「わかりました」
俺は・・・来るべき日が来たことを感じていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの後、昼の混雑が過ぎ、すぐに俺とルナさんは家の方に帰った。
そして主要なメンバーを居間に集めた。
「どうしたの、姉ちゃん?いきなりこのメンバーを集めて・・・」
この場にいるのは俺にルナさん。リナちゃんにガウリイ、ゼルにアメリアといったメンバーだった。
「まさかまた試合をするなんていうんじゃあ・・・・」
「残念ながらそうじゃないわ」
「残念ながらって・・・・」
さらに何か言おうとしたリナちゃんだが、ルナさんの真面目な顔を見て何もいえなくなった。
下手なことをいってもいい雰囲気じゃないことを察したのだろう。
「まず集めた理由から話すわ・・・・・ここから北。カタート山脈に封印されていた・・・・
いえ、封印されているはずの赤眼の魔王の気配が消えました」
リナちゃん達はその意味を理解するのにしばらくの時間を要したようだ。
確かに、いきなり魔王の気配が無くなったと聞かされたら驚きもするだろう。
この場でその重大性をいまいち理解できていない人物もいる・・・・・若干二名・・・・
すなわち俺と・・・・・
「ふ〜ん・・・・だからどうしたんだ?」
ガウリイの言葉にあたりは気まずい沈黙におおわれた。
これだけはいつまで経っても変わりが無いというかなんというか・・・・・
「あ・ん・た・は!!相変わらずスカみたいなこと言ってんじゃないわよ」
「じゃあリナは何がとんでもないことなのかわかってんのか?」
「当たり前でしょ?あんたみたいな脳味噌タルタルソースと一緒にしないでよ」
「リナちゃんそれはいくらなんでも言い過ぎじゃないかな」
「いいのよ!こいつは何度言っても理解しようとはしないんだから!」
「リナ、あんまり怒ると血圧あがるぞ〜」
「あんたのことを言ってんでしょうが!!」
「そうだったのか?」
「俺に聞くな・・・・・」
ゼルはガウリイの問いにこめかみを押さえながら答える。
どうでもいいけどいつまで続くんだ?
「夫婦漫才は結婚してからにしなさい。今からそんなにとばしてたら後でネタが無くなるわよ」
「だからなんで!!」
「具体的にいうとね・・・・・」
「姉ちゃん御免なさい。言わないでください」
「その話はともかく・・・・魔王については俺もよく分からないので教えてくれますか?」
「そうね、アキト君もよく分からないかもしれないわね・・・・
といっても魔王がどうなったかで色々と状況が変わるの」
「??姉ちゃんも知らないの?」
「ええ、私も気配が消えた・・・・までしかね。
その気配が消えた理由も様々な予想がたてられるしね。
水竜王によって封印された魔王を何者かが解き放ち、そして気配消したのか・・・・
それとも他の誰かが封印ごと魔王を倒した・・・・この場合は消滅させたと言うべきかしらね・・・・・」
倒したって・・・・・そんな魔王を倒せる人がそうそう・・・・・・
いたな・・・・ここに二名ほど・・・・・インバース姉妹が・・・・
「魔族が封印を解いたということでしょうか?」
「その可能性は・・・・低いわね。もし魔族の力で封印が解けるのなら
冥王 が一番に解いているでしょうしね。それにあの封印は神が施したもの。
たとえ五人の腹心がそろったとしても解ける可能性はごく僅かね」
「そんなに強い封印なんですか?ルナさん」
アメリアちゃんが疑問をもったらしく質問した。
確かにそこら辺が俺も疑問に思った。
「確かにあれは強い封印よ。水竜王が残りの命を賭けて施したからね。
それよりも魔族にとってもっとも厄介なのはそれが神の属性をもった封印だからなのよ」
「神の属性・・・・」
「そう、神の属性。しかも水竜王独特の属性を使った・・・・ね。
だから同じ神の属性である他の竜王でも簡単には解けないの」
「ルナさんならどうなんですか?」
「どうかしらね・・・・水竜王の力は 赤竜 の力から生まれたものだから、
封印を解くことまではできるかもしれないけど、中から出てきたものまでは対処しにくいわね。
封印を解くこと自体に全力を使わなければならないだろうし・・・
それに、何だかんだいっても私の力は魔王の一欠片よりも弱いから・・・・」
「へ?そうだったの?」
「そうよ。知らなかったっけ?」
「初耳よ、姉ちゃん・・・・」
ルナさんの言葉にリナちゃんはおろか、アメリアちゃんとゼルも驚いたような顔をしていた。
おそらく、ルナさんがあっさりと負けを認めていることに驚いているのだろう。
「じゃあこの前ニースと戦ったときのことは・・・・・」
「あの時は剣での闘いに拘っていてくれたからね。
もし力を全力で出していたら・・・・・被害をそっちのけで考えていても負けていた可能性もあるわね・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
リナちゃん達はこれから戦うかもしれないニースの隠れた実力を知って開いた口がふさがらないようだ。
しかし俺はなんとなく疑問をもっていた。
「でも、あの時俺が感じた二人の力の差はそうはないような気がしますが?」
「・・・・・確かに・・・・実力を出していない事を差し引いても私とそうは差がなかったわね・・・・」
「それは・・・・同じ魔族にでも訊いてみますか?」
「それもそうね」
「え?どういうこと?」
「魔族が今ここにいるんですか!?」
リナちゃんとアメリアちゃんは気配を探るように辺りを見回す。
ゼルも腰にある剣に手をかけ、いつでも抜けるように気を張っている。
対してガウリイは席に座ったままお茶を飲んでいるままだったが・・・・・
ガウリイも魔族に悪意がないことに感づいているのだろう。
悪意のない魔族というのもなんだか変な感じだが・・・本当だから仕方がない。
「と、いうことで出てきなさい。ゼロス」
「ゼロス!?またあの使いっ走りの性悪ゴキブリ魔族!?」
「会うたびにどんどん酷くなってませんか?リナさん」
居間の誰もいないあたりから突然と現れるゼロス。
相変わらずというか、この前となんの変化もない。
「あんた何時からいたの!」
「それはですね・・・・」
ゼロスが人差し指を口のあたりに持っていく。
「ひみ「俺がルナさんに魔王のことをたずねたあたりからだよ」
「あんたかなり初めからいたのね」
「ひどいです!久しぶりにあの言葉が言えると思ったのに!リナさんとアキトさんのいけず」
俺はゼロスの非難の視線(目は見えていないが)にどうしたらいいかわからず頬を掻いた・・・・
「気にしなくていいのよアキト。こいつを相手にするのは
悪戯してくる猫を逆さ吊りにして煙で燻るぐらいの気持ちで充分よ」
リナちゃん。それって動物虐待だよ?本当にやらないでね・・・・
「言葉の端々に棘を感じるのは気のせいですか?」
「思いっきり気のせいじゃないわ。気にしないでしっかりと刺さりなさい」
「しかも猛毒までついていますね・・・・・」
「リナ、そこまでにしなさい。さえない中間管理職をいじめてもつまらないでしょう?」
「わかったわ、姉ちゃん」
「相変わらず苦労しているようだな」
「わかっていただけますか?ゼルガディスさん」
ゼルの慰めにより少しばかり立ち直るゼロス。しかし・・・・
「所詮は魔族ですからこんなものですよゼルガディスさん」
「それもそうだな」
再びアメリアちゃんの言葉により撃沈した・・・・
何だか可哀想に思えてきたな・・・・・
「そろそろ許してあげませんか?次の人が待ちくたびれたらいけませんし」
「ヘ?まだ居るの?」
「わざわざ気を使ってもらってすまぬな。テンカワ アキト殿」
部屋に声が響くと同時に、ゼロスがいる後ろの空間から、今度は金髪を後ろにまとめた大柄な女性が現れた。
気配、氣の性質共に人間と変わらないが、
俺が感じる魂の波動ともいうべき感じがこの魔族の強さを物語っている。
少なくとも今まで会った魔族の中で、最高に近いぐらい強い。
むしろ格闘家としての氣質を強く感じたニースよりも魔族としての感じはこちらの方が強いぐらいだ。
「あ、あんたは!」
「この前は失礼した。リナ・インバース殿、ガウリイ・ガブリエフ殿。
そして久しいな、ルナ・インバース殿。まさかまた会う事があるとは思わなかったぞ」
「私もそう思いますよ。ゼラス・メタリオムさん」
「「な!!」」
ルナさんの一言により、アメリアちゃんとゼルは石のように固まった・・・・
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あの後、石のように固まった二人が復帰するまでに時間がかかり、
その間に俺はお茶を入れることにした。
なんとなくだが、話が長くなりそうな気がしたからだ。
「お茶をどうぞ」
「あ、どうぞお構いなく」
「ありがたく頂く」
ゼロスとその上司であるゼラス・メタリオムさんはそれぞれにお茶を飲む。
なかなか貴重な光景かもしれない・・・・・
そうこうしているうちに二人も元に戻ったようだ。
「挨拶が遅れたわね・・・・サイラーグの時はどうも」
「気にしないで頂きたい。あれは私が興味本位でしたことだ。
ダルフィンに任せていれば、あの場で無用な諍いがおきていたかもしれないのでな」
「リナ、一体どういう事なんだ?」
「私達にもわかりやすく教えて下さい」
「あ〜、詳しいことは後で説明するけど・・・・・この前ね、魔王との戦いの場に案内してくれたわけ。
獣 王 と 海 王 の二人がね・・・・
もっとも、話の流れからすると頼まれていたのは 海 王 だけだったみたいだけど」
その言葉によりゼルとアメリアちゃんは石になり・・・・・かけた。
「また戦ったというのか・・・・それで三度目か?」
「よく生き残ってますね・・・感心を通り越して呆れますよ・・・・」
「まぁね。確かに私もそう思うわ。それとゼル。その時は二度目よ。三回目はニース」
「リナさんの人生は密度が濃いですね〜」
「魔族のあんたが人生について語るな!!」
「リナ達の事で色々と便宜を図ってくれてみたいで感謝するわ」
「私も興味があったゆえにしたこと・・・・別に構わぬ」
「そうだったわね。あなたは・・・・・」
「そう言うことだ」
「それで?今回は何のよう?」
「ルナ殿も気がついておいでだろう。北のことを・・・・」
「ええ、ちょうどそのことを話していたのだけど・・・・」
「知っている情報を渡す。その代わり頼みを引き受けていただきたい」
魔族のトップに立つ一人が神の力をもつルナさんに頼み事・・・・
常識的に考えればかなり異様なことだ。
リナちゃん達も真剣な表情をして二人の話を聞いていた。
「頼み事次第ね」
「カタート山脈に封印されていた魔王を滅ぼした者。そやつの行うことを阻止していただきたい。
あの者はすべてを無に帰すつもりだ」
「質問をいいですか?」
「何だ?アキト殿」
「あなた達魔族はすべてを滅ぼして無に帰ることが祈願と聞きました。
それを阻止するというのはなぜなんですか?」
「ルナ殿はもう知ってのことだが・・・・・私は自らの手で滅びを招こうとは思ってはいない。
むろん、魔族としての無への回帰という本能はある。
それよりも私は興味の方を優先させているだけなのだ」
「興味というと?」
「人間だ」
「人間?」
ゼラスさん(長いのでそう呼べといわれた)は重々しく頷いた。
「人間はとんでもないことをしでかす。魔族よりも残酷な場合もある。
時には神でさえ不可能なことをやってのけることもある。リナ殿のようにな」
「いや、まあ・・・・魔族のお偉いさんにそこまで言われるとむず痒いような何というか・・・・」
「私は見てみたいのだ。人間が滅びを迎えるその時まで・・・・」
「早い話が人間が勝手に滅んでゆくのを高みの見物をしたい。そういうこと?」
早い話も何も・・・・シリアスをぶち壊すような話し方はしなくてもいいんじゃないのかな〜
とってもリナちゃんらしくていいのはいいのだが・・・・ガウリイに至っては笑ってるし・・・・・
「極論をいえばそうなる」
それでゼロスが俺の技術をこの世界に持ち込まないでくれっていったのか・・・・
それぞれの世界の技術というのはその世界の思想が形になったものとも言える。
早い話が、この世界では魔法が発展し、俺の世界では科学が発展した。
それぞれの文化体系は本来混じることはおろか、接触を持つこと自体無いはずなのだ。
ただ純粋にこの世界のあり方を見たい者にとっては、異世界の思想を混ぜたくないのだろう。
「話がかなりそれたわね。とりあえず依頼のことは条件付きで受けるわ。
それよりも先に情報からよ。そうしないと対策のたてようがないからね」
「別に構わぬ。そちらからの質問を答えるような形にしよう。
答えることの出来るものは何でも答えよう」
「じゃあ私から」
「何かな?リナ殿」
「魔王が滅んだのはわかったわ。その方法は?生半可な事じゃ封印が壊れないと聞いたけど・・・」
確かに・・・その話はたった今したところだ。
魔族でも神族でもそう簡単に解けるものではないと聞いたばかりだ。
「リナさんの切り札・・・・といえばおわかりになりませんか?」
「じゃあ・・・ 重破斬 を!一体誰が!!」
「それは僕でもわかりません。ただ、その者はかなり前から魔族と接触を持っていたみたいです」
「かなりって・・・・どれくらい前から?」
「 魔竜王 ガーヴと共にいたようですね。少なくとも反旗を翻した時点で・・・・・と付きますが」
「それってかなり昔の事じゃないんですか?ゼロスさん」
「そうですねぇ・・・・少なくとも今生きている人間はかなり少ないでしょうね」
「つまり人間ではない可能性もある」
「そういうことです。あくまで可能性ですがね・・・・」
つまり・・・調べてもわからなかったということになるな。
かなりの長い年月になるはずなのに正体をさらすことがない・・・・大したものだ。
「それで納得いったわ・・・今度の相手がザナッファーの製法を知っているわけが・・・・
あの教団、確かガーヴの息がかかってたんでしょ?」
「ご推察の通りです。というか、魔王崇拝者達に合成獣のノウハウを教えたのが北にいる者らしいです。
もしかするとあの時、ザナッファーの製造現場にいたのかもしれませんね」
「じゃあ人魔の方は何か知らないの?」
「人魔・・・・・ですか?ああ、あの人と魔の合成した!人魔とはなかなか良いネーミングセンスしてますね」
「誰もそんなとこ褒めろなんていってないわよ。で?知ってるの、知らないの?」
「残念ながら。あの時は異界黙示録の写本という接点があったので調べたまでですので・・・・
そちらの事と僕とはなんの関わり合いがありませんでしたからね」
「役に立たないヤツだな」
「そんな言い方はしないで下さいよ〜、ゼルガディスさん」
「事実だ」
「そうです!たとえ関わり合いがなくとも悪の匂いを感じれば即参上!それが正義の味方です」
「あの、僕はいちおう魔族なんですが・・・・」
「そんなのは些細なことです」
それは些細じゃないと思うよ、アメリアちゃん。
しかも話がどんどんずれていっているし・・・・
「じゃあ次に・・・・なんであなた達自身が動かないの?
あなた達が動いた方が人間に任せるよりはるかに早く片がつくんじゃないの?」
「それはできないことだ・・・・我々が動けば確かに早く片がつくかもしれない。
だが、こちらもの被害も甚大なものになるだろう。
そうなればそれを好機と思った神達が何をするかわからないのでな。
今現在ですら、神と魔の均衡はかなり危うくなっているのだ」
「それで比較的身動きのとりやすいリナさん達にお願いに来た理由の一つです」
「一つ?わざわざ魔族がリナさんに頼らなくてはならないことが他にも何かあるんですか?」
「あの方の力を使った魔術・・・・それを抑えることははるかに難しい。それは私も例外ではない。
だから同じ力で相殺しあい、その隙に核である人物を消滅させるしかない」
「リナに 重破斬 を使わせて相手の術を相殺させるわけか。
確かに・・・聞いているだけなら上等な作戦に思えるな」
「そうですね・・・・相手の力の方が強かった場合、全滅は必死でしょうけど・・・・」
「その点は大丈夫でしょ?私もリナと同時に力の相殺をすれば成功の可能性もあがるでしょうし」
それは逆の意味でとれば失敗の可能性も少なからずあるというわけになる。
ルナさんほどの力でも難しいのか・・・・
「私の知る限り、あの方の力を使う者は二人のみ・・・・
そして今現在、生きている者はリナ殿ただ一人だ」
「リナさん以外にもいたのですか?」
「いた。もはや記述ですら残されてはいない程はるか昔のことだ。
伝説でしか語り継がれていない時代に起きた神と魔が世界を二分した戦いおり、神族側に与した人間」
「それって神魔戦争!?昔も昔、大昔じゃない!!」
「ああ。そしてその人間は、種族を問わぬ英雄の中でも二強といわれた程の魔導士だ」
「魔族のトップの一人にここまで言わせるとは・・・・かなりの魔導士なんだな」
「希代の魔導士だ。今まで生きてきた永き時の中でもあれ程の者は見たことはない。
かつて相対したおり、二人がかりとはいえ、なんの小細工もなく正面から戦い、滅ぼされかけたからな・・・・」
「ぶっ!!たった二人で魔王の腹心を滅ぼしかける?!本当に人間?」
「ああ確かに人間だ。少なくともその時までは・・・・・」
「までは?」
「二人のうちの一人は今も生きている。その体に魔を宿してな。
おそらく・・・・北での戦いで、そなた達の最大の障害になるだろう」
そこまで話されたとき、俺の脳裏には一人の戦士が浮かび上がっていた。
俺の知っている戦士の中でも・・・・その力と技は北斗やルナさんと同様、最強に並ぶ人物。
「ニース・・・・・・」
「 魔王 様の力を取り込んだ人間。その力の程はそなた達も知っているはずだ」
「取り込んだ?同化したの間違いでは?」
しかしゼロスはアメリアちゃんの言葉を首をふって否定した。
「本来ならあり得ないはずの出来事・・・・人間が魔王の力を乗っ取ることなど・・・・
しかし、ニースはその桁外れの精神力で逆に取り込んでしまったのです」
「でも人間の精神力でそんな事ができるというのか?」
「これは予想でしかないのだが・・・赤き竜神が 魔王 様を七つに引き裂いたことは知っているな」
「それは、まあ・・・伝説で伝わっている程度には・・・」
「七つに引き裂かれたとはいえ、それは均等に・・・・というわけではないだろう」
「つまり・・・七つのうち、一番小さいものがニースに宿った。ということか・・・・」
「あくまで私の予想にしかすぎない。
転生せずに生きている人間に宿ったというのも要因の一つなのかもしれぬしな」
「七つのうちでも小さい方だった。だから姉ちゃんとはほぼ互角だったというわけか・・・」
確かに・・・その過程に基づくと、ルナさんとニースの力が限りなく拮抗していることにも説明が付く。
「ニースは後天的に力を手に入れた。だから結界とかが苦手なわけか。なるほどね」
「ルナさん、どういうことなんですか?」
「人間は精神世界面での感覚がわからないから力が扱いづらいってことなの。
生まれた頃から欠片が宿っているという人なら、なんとなくは感じているかもしれないけどね」
どう頑張っても人間にはわからない感覚・・・・実際に俺もまったくわからない。
もう一つの世界といっても知識として知っているという程度にしか感じないのだ。
「そして、魔王の欠片を持つ者に、魔導のエキスパ−トが多いのは、
ただの人間には決してわかることのない、精神世界面を身近に感じていることもあると私は思っているわ」
なるほど・・・確か、リナちゃん達が一番最初に出会ったという魔王の欠片を持つ人物、
赤法師・レゾも、超絶的な魔導士だったらしい・・・・
もう一人のルークという人物も、魔法を応用させることに関しては一流以上だと、
以前、リナちゃん達から聞いた覚えがある。
「ニースは魔王の力を宿しているとはいえ、その意思で魔族に刃をむける人間なのだ。
人間ゆえに、我々魔族も全力で闘うことができない。ルナ殿と同じ立場なのだ」
「姉ちゃんと?」
リナちゃんの言葉に、ゼラスさんは軽く頷く。
「魔族が人間相手に全力は出せない。これは絶対の法則といってもいい。
ルナ殿がいくら強大な力を宿そうとも魔族から見れば人間なのだ。
だからこそ、 冥王 も手を出さずに静観していたのだ」
確かに。ルナさんはハンデを背負って勝てる相手じゃないからな・・・
この世界の魔族と神はややこしい力関係になっているみたいだ。
「神魔戦争からこっち、長い年月の間にニースは何をやっていたの?」
「戦争終結前に仲間であった人間に封印されたと聞いた。
それが北にいる者の手によって解かれたのだろうな」
仲間に裏切られたのか・・・・・おそらく魔王の力を宿しているから・・・・
他人事ではないな・・・平和になったときに、俺の力も恐れられ、疎まれるものになるだろう。
俺はニースの気持ちが如何なるものか想像し・・・・悲しさを感じた。
「どうしたの?アキト君」
「いえ、なんでもありませんよ。ルナさん」
「ならいいのだけど・・・・・・」
ルナさんは俺の様子が変なのを感じたのか心配そうな視線を向けてくる。
「それで・・・引き受けてはくれるのだろうか?」
「そこまで聞かされたら受けないわけにはいけないでしょう?ね、リナ」
「そうね、世界がどうとかは知らないけど、私達姉妹に喧嘩を売ったのはいただけないからね。
きっちりと利息分も叩き返してやらないと私の沽券に関わるわ!」
「ま、それでこそリナだな」
「ですね。これで引き下がるリナさんなんか考えられませんしね」
「感謝する」
ゼラスさんは俺達に向かって感謝の意を示した。
この人もこういう意味では魔族らしくないのかもしれないな・・・・・
「相手とつるんでる 覇王 はともかく、 海王 の方は頼んだわ。
私が動くと何するかわからないからね」
「わかった。 海王 は私が責任を持って抑えておくことを約束する。
それとカタート山脈までの案内はゼロスにさせる。あまりいじめすぎないようにしてくれ」
「わかったわ。適度にいじめておくから安心して」
「リナさ〜ん!勘弁して下さいよ」
「毎晩アメリアに枕元で人生の賛歌を熱唱させるぐらいよ」
「それは以前にもやめて下さいっていったじゃないですか!」
「ま、まあ程々に頼む。では私は・・・・」
「あっ・・・と、最後に一つだけ質問!この件には 覇王 が絡んでるんでしょ?
仲間の魔族を敵に回してまで趣味を優先させる理由はなぜ?」
「それは私にもわからない。ただの気まぐれに近いのだ。
そなた達が敗北し、この世界が滅ぶとしても魔族の私はいっこうに構わないからな。
強いて理由をあげるのなら・・・・」
「あげるのなら?」
「私は 覇王 が嫌いだからだ・・・・それでは不足か?」
「上等の答えよ。思わずあんたが好きになりそうなくらいね」
リナちゃんはゼラスさんの答えに愉快そうな笑い顔になった。
それを見たゼラスさんも面白そうにリナちゃんを見ていた。
「それは光栄だな。後のことは頼んだぞ、ゼロス」
「はい。お任せ下さい。獣 王様」
ゼラスさんはゼロスの言葉を確認した後、来たときと同様、空間に溶けるようにかき消えた。
「さて・・・ゼロスをいじめるのは後回しにして」
「永遠に後にして下さい・・・・」
「安心して。あんたの上司のお墨付きなんだからしっかりと手加減していじめるから」
「僕は一体何を安心すればいいんですか・・・・」
「隅で暗くなっている魔族は放っておいて・・・今日中に準備、出発は明日。でいいかな?」
「そうね、早ければ早いほどいいわ。ゼロス!相手がカタートから離れる可能性は?」
「今のところはまったくと言ってもいいほど何も動きはありません」
「私達を待ってる?考えすぎかな・・・・・」
「さあね・・・・その答えは行けばわかるでしょ。話はここまで!
時間がないのだから早く準備しなさい!今日できることはすべてしておきなさい。
(最悪の場合・・・最後の自由になるかもしれないしね・・・・)」
リナちゃん達はそれぞれ二人ずつに別れて部屋を出た。
明日の激戦にそなえて思い思いの行動をとるのだろう。
腹ごしらえなり、修行の総仕上げなり・・・・・・・・・・
ルナさんの言いたいことは俺にはなんとなくわかった。
あの戦争の最中・・・出撃するたびに俺は同じことを思い、心配した。
しかし・・・思っていることはそれだけではない。
「大丈夫ですよルナさん。リナちゃん達は俺達が思っている以上に強いですよ」
「そうね、頭ではわかってるんだけど・・・感情はどうもね・・・・」
俺は言葉で返事をせず、笑顔で安心させようとした。
どうやらうまくいったようで、ルナさんも安心したように微笑んだ。
俺にも、ルナさん達にも帰りを待っている人はいるんだ。
誰一人として悲しませたくはない。
俺もルナさんもそれぞれの準備に取りかかった。
この闘いの後も・・・お互いが笑っていられるために。
(二十二話に続く・・・・)
―――――あとがき―――――
どうも〜!!前回に引き続き、ディアちゃんで〜す!
うるさいブロスを黙らせて再びやってきました!!
さ〜て・・・今回はかなりのねたばらしの話しになってるね・・・
ニースの正体もハッキリしたし・・・って、そんなに仰々しいものでもなかったけど・・・
そして、今回の特別ゲストのゼラス・メタリオムさん!!
正解者はいなかったけどね・・・ゼロスの方は全員当たっていたけど・・・
中には『どこかの平和主義者か?』という声もありました。だしてほしいのかな?
話の中にあった、ルナ姉は魔族から人間として扱われているから、
精神世界面での攻撃を魔族ができないっていうのは完全にオリジナルだそうだから。
もし、魔族がそれを可能だったら、腹心一人はともかく、二人掛かりでは危ないぐらいなんだって。
現状ではどうとでもなるらしいけどね・・・
アキト兄にいたっても同じ、魔族が精神世界面の攻撃を仕掛けるのは不可能なんだって。
アキト兄なら感で避けそうなんだけどね。
それと、よく分からないというところがあったら遠慮なく質問してね。
できる限り答えるっていってたから。その場で考えて・・・・
とにかく、この話も大分佳境になってきたらしいよ。
色々と謎はあるかもしれないけど、それは全て北で解けるのか?
それとも設定倒れになるのかはへっぽこ作者次第・・・早く次の話を見たい人はどしどしせっつくように。
最後に、E・Tさん、Endさん、ほたてさん、蒼夜さん、MUSAさん。
12式さん、T氏さん、watanukiさん、森乃音さん、フナムシさん。感想ありがとうございます!!
最近仕事に忙殺されて、作品を書くだけで精一杯だってほざいている作者に代わって感謝です!!
それでは次回『北へ・・・・』で会いましょうね〜。
代理人の感想
そらま〜、腹心が直接出てくるとは思いませんわな(苦笑)。
しっかり外れちまったい(笑)。
今回は話が動きませんでしたが、元々閑話休題、謎解きと伏線のお話ですからしょうがないですね。
次回から動き始めるお話に期待しましょうか。