赤き力の世界にて

 

 

 

 

 

第22話「北へ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北の魔王というのが消滅した次の日。

準備を整えた俺達はリナちゃん達が修行をしていた湖のほとりまで来ていた。

 

 

「さて皆さん。最後の準備をして下さい。僕の準備は後少しで終わりますから」

 

 

ゼロスの言葉に俺達はうなずく。

少しでも早く到着した方がいいというルナさんの提案でゼロスに運んでもらうこととなったのだ。

 

普通の人間である俺達はいいのだが、赤竜の力を受け継ぐルナさんも一緒に跳ばそうとすると、

かなり面倒な空間移動になるらしく、ゼロスはその準備に追われていた。

 

その僅かな時間でみんなも見送りにきた人達とそれぞれ話をしている。

 

リナちゃんとルナさんはレナさんとロウさんと話をしていた。

家族水入らずというか、みんなはこの四人に近づくことなく遠慮していた。

 

 

「みんなの受けた借りはきっちり返してきなさい。利息つけてね」

「ま、死なない程度に頑張れよ」

「わかってるって。死んだら何にもならないしね」

「大丈夫よ。私が鍛えたのだからそう簡単には死なないわ」

 

 

娘達の言葉を、頼もしそうな顔で聞いているロウさん達。

その顔には、死闘に向かう娘達を悲しんでいるという様子は見えない。余程信頼しているのだろう。

 

 

「それでも見送りにはそう言う言葉がつきものだろ?」

「親としてね」

「うん。ありがとう。じゃあいってくるわ!」

「いってきます。父さん、母さん」

「「気をつけて行って(らっしゃい)(こい!)」」

 

 

 

 

 

ゼルとアメリアちゃんはアリスちゃんとエルさんと話をしていた。

この四人はこの一ヶ月間、修行などで一緒にいることが多かったので不自然な感じはしない。

 

ただ、やはり女性が三人よれば何とやら・・・・唯一の男であるゼルはかなり肩身が狭かったらしい・・・

 

 

「じゃああんた達!女王様の護衛で行けないあたい達の代わりにしっかりとやって来なさいよ!」

「まあ、努力はするさ。できる限りはな」

「お気をつけて。例え力およばずとも、戦い方次第だということをお忘れなきように」

「はい。でも大丈夫です!この一ヶ月で学んだことは無駄にはしません!!」

「まぁな。この一ヶ月の間にかなり技を身に付けることができたしな」

 

「調子に乗るんじゃないよ。まだまだなんだから。

あんたはこれから習ったムチの技と今まで培ってきた剣術を組み合わせなくちゃなんないんだからね。

それはある意味、始まりと言ってもいいんだよ」

 

「分かっている。これからは自分一人で歩く番だ」

「わかっているのならいいよ」

「それをふまえていてだ。あんたには感謝している」

感謝の言葉そういうのは帰ってから聞くことにするよ。だから五体満足で帰ってきな」

 

「そうですよ。ゼルガディスさん。アメリアさん。勝つことよりも何よりも生き残ることが大事なのですから・・・

生きてさえいればやり直しのきくこともあるのです。自己犠牲は何にもなりませんからね」

 

「そうだな。死ねば可能性は零になる。当然のことだな」

「私もゼルガディスさんも必ず帰ってきます!正義は絶対に勝つのですから!!」

 

 

アメリアちゃんの言葉を聞いた二人は面白そうに笑う。

嘲るとかそう言うのではなく、頼もしいものを見るような目で。

 

 

「正義かどうかは知らないけど、その意気なら大丈夫そうだね。エル」

「ええ、そうですね。きっと元気で帰ってくるでしょうね」

 

 

 

 

 

そしてガウリイは・・・・意外なことにレニスさんと話をしていた。

一体いつの間に仲良くなったのか・・・まったく気がつかなかった・・・・

それとも同じ剣士同士だから気があったのか?

 

 

「それではガウリイ殿。お気をつけて」

「おお、ありがとうな。それにこの一週間、無理を言って剣の練習に付き合わせて悪かったな」

「いえ、私も良い訓練になりました。久方ぶりに本気で戦えましたからね」

 

 

なるほど。自主特訓になったこの一週間の間に剣の相手になってもらっていたのか。

道理で生傷が絶えないわけだ。

 

俺はてっきりまたいつものようにリナちゃんに呪文で吹き飛ばされたのかと思っていたんだが違っていたのか・・・

 

 

「しかしガウリイ殿はお強いですな。結局この一週間の間に一度しか勝てませんでした」

「俺が勝ったと言ってもどれもギリギリじゃないか。その剣の炎がヘビみたいに絡み付いたときはかなり焦ったぞ」

「そうですか?いとも簡単に切り裂いていたから私はてっきり・・・」

 

 

この二人・・・魔剣を使って戦っていたのか・・・命賭けてるな・・・

 

しかしまあ、よくレニスさんの武器はガウリイの剣撃に耐えたものだ。

伊達に火竜騎士団・団長が使っているわけではないということか。

 

 

「リナと旅する前だったら負けていたさ。リナと旅してからは強敵がわんさかでてきたからな。

いやでも変則的な戦い方を使ってくる相手にも慣れて来るさ」

 

「それは羨ましい。やはり実力を上げたいのなら実戦が一番ですからね。

私は女王様や王女の護衛がありますから自然と真剣勝負そういうことから遠のいてしまって・・・・」

 

 

俺は日々平穏が一番だと思うんだがな・・・・

まあ、剣士という性質上は常に実戦で腕を磨きたいものなのかな?

 

 

「帰ってきたらまた相手を頼むわ。良い運動になるしな」

「こちらこそお願いいたします」

「おお!じゃあ行ってくる」

「ご武運を。ガウリイ殿」

 

 

 

 

 

 

そして俺の所には・・・・案の定というか消去法というか・・・

残りの人達である女王様とティシアちゃん。そして身辺を警護しているガイウスさんが来た。

 

よくよく考えてみるが・・・このメンバーがいるのに襲いかかる馬鹿はいないと思うんだがな。

例え、魔王が襲いかかってきたとしても、この場の全員がいれば何とかなると俺は思う・・・

 

 

「アキトさん。ルナ姉様達のことをお願いしますね」

 

「うん、力およぶ限りしっかりとね。ティシアちゃんも後のことは頼んだよ。

まだこの前に事で国が安定してないから色々とあるだろうけどしっかりとね」

 

「はい!任せて下さい!」

 

 

そう言って力強くうなずくティシアちゃん。目の輝きが全然違う。

どうやらこの前のことは吹っ切れたようだ。

今は前に向かってしっかりと歩んでいることを表情が語っている。

 

 

「私達のことは心配なさらずに。アキト殿は必ず生きて帰ることをお願いします」

「もちろんです。俺には帰るべき場所がありますからね」

「そうですね。でも忘れないで下さい。ここも・・・ゼフィーリアもあなたの帰るべき場所に一つだということを」

「はい。ありがとうございます」

 

 

例え何処に居ようとも・・・ナデシコのみんながいる場所が俺の帰る場所。それは変わらない。

でも・・・・俺の心の中にはゼフィーリアも帰ることができる場所の一つとなりつつあった。

帰るべき場所がある事がこんなに嬉しいと思えるのも幸せなのかもしれない。

 

 

「アキト。俺が言いたいことは全部女王様達が言ったみたいだからとくにはいわんが・・・生きて帰れよ」

「はい。まだまだ習っていない氣功術がありますからね。きっちりと帰ってきますよ」

「おう、五体満足で帰ってきたら、俺の知る中でも最高の技を伝授してやるよ」

「それは楽しみですね」

「そう思うんだったらしっかりと帰ってきな。うちの女房と娘もお前さんの事を気に入ってるからな」

 

 

ガイウスさんの娘さんと奥さんには何度か会ったことがある。なぜか妙に気に入られてしまったが・・・・

娘さんからは『アキトお兄ちゃん』なんて呼ばれるし・・・・

 

余談だが、娘さんの容姿は奥さん譲りだったりする。

かなり尻に敷かれていたから、遺伝子の方も尻に敷かれているのかもしれないな・・・・・

 

 

「よろしく言っておいて下さい」

「わかった。だからお前もしっかりとやってこい」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

そして俺達は準備がととのったゼロスにカタート山脈の手前にある 竜達の峰 ドラゴンズ・ピークへと転移した。

 

出現したところを狙い撃ちにされる危険を避けるためらしい。

確かに・・・歩いて行くなら気配などを事前に察知できるかもしれないが、

転移直後を狙われ、リナちゃんの言っていた 重破斬 ギガ・スレイブでも使われたらそれで一巻の終わりでもある。

 

相手の真意がわからない以上、慎重に慎重を重ねても無駄にはならないだろう。

 

 

 

「そろそろ来る頃だと思っていた。獣神官プリーストゼロスと人間達よ」

 

 

竜達の峰で待っていたのは一ヶ月前に別れたミルガズィアさんと無数の竜達だった。

ミルガズィアさんはここの長だと言っていたから、別に不思議ではないが・・・・

俺は今のミルガズィアさんの言葉に引っ掛かりを憶えた。

 

 

「ゼロス。ミルガズィアさんに此処に来ることでも言っていたのか?」

「いいえ、そもそもここにはルナさんの提案がなければ寄るつもりもありませんでしたし・・・」

「じゃあ待っていたってのはなんなのよ」

「それはなんとも・・・直に訊いた方が早いのではありませんか?」

「そうだな。少なくともそんなに長い話ではない」

 

 

俺達は全員そろってミルガズィアさんの方に向いた。

ミルガズィアさんは全員が聞いていることを感じ、淡々と話し始めた。

 

 

「まず・・・なぜそなた達が此処に来ることがわかっていたのか・・・

それは先日、ある者から言付けを頼まれたからだ」

 

「言付け?一体誰が・・・・」

「その者はニースと名のっておった」

 

 

既に俺達が動いたことを知っていたのか・・・・それとも予想していたのか・・・

どちらにせよ、相手からの不意打ちという線はなくなったな。

 

 

「言付けの内容は

『カタート山脈の中心、貴方達の目的の場所でもある水竜王の神殿があった山の中腹にて待つ。』

だそうだ。それを伝えると去っていった」

 

「わざわざそんな事を言いに来て・・・・罠のつもり?」

「たぶん違うんじゃないかな。罠とか回りくどいことをするのなら此処で不意打ちする方がもっとも良いだろうし」

「ニースは邪魔の入らないところで戦いたがっているのでしょうね」

 

 

俺はルナさんの言葉が真実に思えた。

この前の戦いは全力で戦えなかったらしいから、今度は手加減無用な場所を選んだと言うことかも知れない。

 

 

「で、ミルガズィアさん達はその言付けに来たニースを黙って見ていただけなの?」

「ほぼその通りだ」

 

 

あっさりと敗北を認めるミルガズィアさん。

ここまであっさりと認めるということはニースに何かやられたのかもしれないな。

 

 

「所でメンフィスさんはどうしたんですか?一緒にいたんじゃないんですか」

「メフィは西にあるエルフの集落に戻っている」

「じゃあ故郷に戻ったわけか・・・」

「そう言えばそうなるが・・・正確に言うのなら鎧の修理といったところだ」

「壊れたんですか?」

「斬られたのだ」

「斬られたということは・・・あの暴走エルフ、ニースに挑みかかって返り討ちにあったのね」

「そうだ。鎧のみ切り裂かれた。メフィ自体は全くの無傷といえるだろう。少なくとも体はな・・・・」

 

 

そう言うとミルガズィアさんは大きく溜息をついた。

おそらくメフィちゃんはニースの強烈な闘気か何かにあてられて精神的に参っているのだろうな・・・

 

 

「生きてるのなら良いわ。死ぬよりははるかにましだからね」

「そうね、所でゼロス君、ここからニースの言っていた場所までどれくらいあるの?」

「そうですねぇ・・・・おおよそ人の足で約三日から四日といったところでしょうか・・・直線距離で、での話ですけど」

「そうなの・・・じゃあ、近くまでまた転移してもらおうかしら」

「良いんですか?僕はいっこうに構わないんですけど・・・・」

 

「待ち伏せをするならここでやってるわ。それをしないということは真っ向から仕掛けて来るつもりでしょ。

むろん、私も気を抜くつもりはないけどね」

 

「わかりました。ではまた準備をするのでしばらくの間お待ち下さい」

 

 

ゼロスは少し離れた場所で作業を開始し始めた。

同じような作業をくり返すとなれば少々時間が掛かるだろう。

 

 

「さて私達は準備が整うまでに武器の最終点検チェックなりをしてね。

次に転移した瞬間から、いえ、もう既に戦いは始まっているのだから」

 

 

こちらの行動はほぼ読まれている。気を抜かないようにした方がいい。

 

 

「ところでリナ・・・そんな物を持って何処に行くつもりなのかしら?」

「え?あはははは・・・・ちょっと潮干狩りでもしようかな〜っと思いまして」

 

 

そう言っているリナちゃんの手にある物は片手で持てる熊手にバケツ・・・・

道具をどこに持っていたのかはさておいて・・・こんな山奥で潮干狩りはないと思うのだが・・・

 

しかしルナさんは別に驚いた様子も見せず、

 

 

「あらそうなの。頑張ってらっしゃいね」

 

 

にっこりと笑ってリナちゃんを見る。かなり危険な兆候だ。

今までの経験からいくと、この笑顔の後にはお仕置きが待っているはず・・・

リナちゃんもその辺りのことがわかっているのか、ルナさんの笑顔を見て顔を真っ青にしている。

 

 

とってきたものはちゃんと食べなさい。私がしっかりと料理してあげるから。

もちろん、残すなんて事は許さないからね」

 

「すみませんでした!実はオリハルコンを取りに行こうとしていました」

 

 

確かオリハルコンって言うのは希少度の高い金属だったよな・・・・売ればかなりの金になるといってたっけ。

 

リナちゃんはルナさんに平謝りしてやっと許してもらったようだ。

こんな時じゃなかったらルナさんもそうは怒らないんだろうけど・・・今回は間が悪かったね・・・

 

 

「ところでリナちゃん。オリハルコンを採取するのにバケツと熊手が必要なの?」

「いや、まったく。オリハルコンってのは魔法を受け付けにくい物なのは知ってるわね」

「以前にちらっと聞いたかな?それが?」

 

「だからその辺りに土を削除する 地精道 ベフィス・ブリングを使えばあら不思議、

土の無くなった後にはオリハルコンしか残っていないって寸法なのよ」

 

「なるほどね・・・・でもそうするとなぜ道具を・・・・」

「雰囲気作り!それ以下でもそれ以上でもないわね」

 

 

ウリバタケさん辺りの人なら、この辺りの論理を『雅』みやびとか『お約束』言うんだろうな、きっと・・・・

 

 

「それはいいけどね・・・準備はいいの?」

「気合い十分!!どこからでも来なさいってなもんよ!」

「それは心強いね」

 

 

「皆さん、僕の準備は整いましたよ」

「それじゃあ行きましょうかルナさん・・・決戦の場へ」

「そうね・・・」

 

 

俺達は前と同じようにゼロスの近くに集まり、転移の瞬間を待つ。

ゼロスも、皆が集まったことを確認した。

 

 

「皆さんを転移させるのはこれが最後ですので・・・僕はこの件には表立って干渉できませんからね」

「あんた・・・・今度は一体なにするつもり?また観戦なんていったら・・・・」

 

 

リナちゃんは懐からスリッパを取り出しつつ凄む。

物が物だけあって迫力はいまいちだが・・・リナちゃんの眼光がそれを補ってあまりあるような気がする。

 

 

「リナさん、そんな物スリッパしまって下さいよ〜。僕は 覇王 ダイナスト側の魔族を牽制するつもりなだけです」

「やけに親切ね・・・・上からの命令なの?」

「ええ、そうじゃないとやってられませんよ。こんな危ない仕事・・・」

 

「そうね・・・ 覇王 ダイナスト側の牽制は任せるわ。ミルガズィアさん達はどうするつもりなの?

 冥王 ヘル・マスターの時みたいに手出しはしないの?」

 

「ミルガズィアさん達には僕の方からお願いがありまして・・・・」

「お願い?ミルガズィアさんに何か頼んだのか?ゼロス」

 

「ええ、僕はグロウさんといった上級魔族を抑えておきますので中級以下を竜達に任せるつもりなんです。

いくら僕でもすべてを抑えきることはできませんからね」

 

「そう言うわけだ。魔族と共闘することになるとは千年前には夢にも思わなかったがな」

「ま、世の中臨機応変と言うことで・・・・そうじゃないと人生疲れますよ?」

 

 

お前もミルガズィアさんも人じゃないだろうに・・・・よくもまあぬけぬけと言えるもんだな。

 

 

「それでは行きますよ・・・・・・ハァァァァアアアッッッ!!」

 

 

ゼロスのかけ声と共に俺達の視界が徐々に歪み、景色が移り変わる。

 

おそらく、立っているところが目的地である山なのだろう。

転移と同時に空気の質が変わったのがすぐにわかる。

 

 

待ち合わせ場所私達の目的地はもう少し上のようね」

「その様ですね、ルナさん」

 

 

俺とルナさんは頂上に向かって視線を向ける。

その先には静かに研ぎ澄まされているニースの闘氣を感じる。

俺やルナさんが感じるということはニースも俺達が着いたことを感じているはずだ。

 

 

奇襲攻撃お出迎えがないことはよかったとして・・・・ 二 人 姉ちゃんとアキトの様子からして結構近いみたいね」

「そうなんですか?私にはなんとなくしかわからないんですけど・・・・」

「俺にはさっぱりわからんな。あの二人が規格外なんだろ?ガウリイの旦那もわかってるみたいだが・・・・」

「ん、まあ・・・なんとなくな。居ることと方向まではわかるが距離まではちょっとな」

 

 

ニースは力を抑えていないものの、気配という点では完全に人並みに抑えこんでいる。

それが故意的にかどうかまではわからないが、この距離では気配は微かにしか感じない。

アメリアちゃんは修行に氣功術を学んで、それなりに周囲の氣の流れを感じるようになったからだろうけど・・・・

この距離で感じられるガウリイの感覚は大したものだ。

 

 

「みんな。これから先はいつ死んでもおかしくないほどの闘いが待っているわ・・・・」

 

 

ルナさんの言葉にリナちゃん達は気を引き締める。

皆もルナさんの言葉が例えや冗談ではないことがよく分かっているのだろう。

 

 

「今まで魔族との死闘を演じてきたあなた達に今さらいうことはないけど、これだけはいわせてね・・・・

必ず生きて帰ってきましょう。待っている人がいる限り・・・・泣かせたくない人がいる限りはね・・・・」

 

 

ルナさんの言葉に全員がうなずく。

その顔には迷いや不安といった感情はなく、ただひたすらに生き抜く闘志が感じられた。

 

 

「じゃあ行くわよ、みんな!!」

「「「「おう!!(はい!!)」」」」

 

 

 

そして俺達はニースの気配を頼りに、目的地に向かって登り始めた。

幸い、傾斜などは緩やかでそんなに体力を消耗することはなかった。

これから先のことを考えたら、体力は温存しておくに限る。

 

 

 

登り始めて少々すると、目的地にはすぐに着くことができた。

ただ、中に入るための障害はこの上なく厄介なものだろうが・・・・・

 

 

「そんな所で受け付けご苦労様。まさかずっと待ってたわけ?」

 

 

なかなかきついことをさらっと言うリナちゃん。

以前、ニースには手痛くやられているから仕方がないのかもしれないな・・・・

リナちゃんは負けたことをかなり気にする性格だからな・・・・・

 

 

「ずっと・・・・というわけではない。頃合いを見計らって出てきた途端にそなた達が来ただけだ」

「こちらの動きは完全に予測済みというわけね・・・・・」

「昔の経験から予想したまでだ。思ったよりは早かった方だがな」

 

 

ゼラスさんから聞いた話を真実とするならば、

神と魔の入り乱れる大戦の中で培ってきた経験と勘は馬鹿にならないほどの力となるだろう。

時としてそれはどんな強力な力でも太刀打ちできない武器になりえる。

 

それは俺自身がよく分かっていることでもある。

 

 

「それじゃあ、あの時の闘いの続きでもしましょうか!!」

「そいつはいい。俺も負けたままというのは性に合わないしな!!」

 

 

リナちゃんはやる気満々のようだ。ガウリイも何時でも抜刀できるように剣に手をかけている。

 

 

「待ちなさい。今のリナ達ではまだ敵わないわ。ここは私が・・・・」

「三人とも落ち着いて下さい」

 

 

俺はリナちゃんとルナさんの肩に手をおき、闘いにはやる気持ちを静かに抑えつける。

 

 

「ニースの相手をするのはリナちゃん達でもルナさんでもありませんよ。今度は俺の番です」

「でもアキト君・・・・・」

 

「ルナさんもわかっているはずですよ。この闘いはリナちゃんとルナさん主役メインなんですから・・・・

二人の力は最後まで温存しておくべきなんです」

 

 

相手の 魔術 混沌の力に対抗するのはルナさんとリナちゃんの二人の力が必要なのだ。

そうなると途中にいる障害は二人以外が担当することとなるのだ。

 

ニースの相手をするにはゼルとアメリアちゃん、ガウリイの三人でも難しいだろう。

 

 

「わかっていたはずなんだけどね・・・・私は人に任せるというのは苦手なのよ」

 

 

その気持ちは俺にもなんとなくわかる。

大切な仲間など、失いたくはない人達に任せるのはかなり心苦しい。

危険な役目程、自分が担当した方がいいと思ってしまうのだ。

 

 

「俺にもわかりますよ。でもこの場は俺に任せて下さい。それとも俺は信用できませんか?」

「アキト君には敵わないわね・・・・・わかった。アキト君なら安心して任せられるしね。でも・・・・」

 

 

でも?まだ何か心配事でもあるのだろうか・・・・・と思考している間に、

ルナさんは俺に顔を近づけると・・・・・・

 

(―――――ッ!?!)

 

俺はルナさんの行動に一瞬・・・・どころかしばらくの間、頭の中が真っ白になる!!

 

 

「「おおっ!!」」

「・・・・・・・・・(真っ赤!!)」

「ね、姉ちゃん・・・・いきなりキスなんて結構だいたん・・・・・」

 

 

そう、俺はルナさんにキスをされていた。

油断をしていた・・・・というわけではないが、あまりに自然とした行動に対処できなかったのだ。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

―――――ほぼ同時刻・・・・

 

 

 

 

バキィッッッ!!

 

 

「ど、どうしたの?何かあったの?ルリルリ・・・・」

「いえ、なんでもありません、アユミさん。ちょっと手に力が入りすぎたようです」

 

 

そう言ったルリは、手に持っていた砕け散ったシャーペンの残骸に目を向ける。

(ちなみにネルガル製。キャッチフレ−ズは『象が踏んでも壊れない』というものらしい・・・・)

その視線は本人の意思とは裏腹に、絶対零度の凍てつきを感じさせる。

 

もしも、今のルリをアキトが見ていたとすれば、この世界に帰ってくるのを躊躇ためらったかもしれない・・・・

 

 

(こ、怖い!どっかの男子バカがルリルリの『彼氏』を冒涜したとき以上かも!!)

(どうしてでしょうか・・・なぜかイライラしますね・・・・アキトさんの身に何かあったのでしょうか)

 

 

かなり良い読みを見せるルリ。ちなみに他の女性陣達も似たり寄ったりだったりする。

恋する乙女の直感とは遙か時空をも越えるものなのか・・・・永遠の謎である。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

キスしていた時間はそう長くはなかった・・・・・はずだ。

俺にはそうしている間がとてつもなく長かったように感じたから正確にはわからなかった・・・・・

 

ルナさんは頬を赤く染めながらゆっくりと顔を離していった・・・・・

 

 

「景気付けみたいなものです」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

俺はあまりのことに今だ頭の中が混乱していた。

心臓が限界を越えて鼓動しているのかと思うほど力強く脈を打っている。

おそらく今の俺の顔は真っ赤になっているだろう・・・・・・・・

 

 

「アキト君。ニースの相手は頼んだわ」

「は、はい」

 

 

俺はそう返事をするのが限界だった。

 

ルナさんは俺の返事に笑顔で答えると、

ニースを気にしたふうはなく、洞窟の中へと向かっていった。

リナちゃん達も慌ててルナさんの後を追いかけていった・・・・・・

 

俺はというと、まだ身体が硬直したままだったが・・・

 

 

「いつまで惚けているのだ」

「い、いや・・・すまない。こういうのは免疫が無くてな」

 

 

俺はあまりの気まずさに無意味に痒くない頭を掻いたりする。

 

 

「そんなに可笑しいことでは無いだろう。戦地におもむく恋人や夫婦達がよくやっていたものだ」

「恋人ではないんだがな・・・・・」

「ふっ・・・まあいい。場所を変えようと思うのだが・・・・どうする?」

「逆に俺の方からお願いするさ。なんの気兼ねもないところの方がいい」

 

 

ニースは俺の返事に一つうなずくと、頂上に向かって顔を向ける。

 

 

「この山の頂上はかつて水竜王の神殿があり、最近までは赤眼の魔王ルビーアイの一部が封印されていた。

そこではなにもないからなんの気兼ねもなく戦えるだろう」

 

「わかった」

 

 

俺は返事と共に、身体に昂氣を纏い、頂上まで一気に駆け上がる。

ニースも紅い闘氣を纏い、同じように頂上までかけ登った。

 

 

そして・・・・闘いの場は千年前、魔王と神が戦ったとされる場所に移行された。

 

 

 

 

 

 

―――――おまけ―――――

 

少し前の 竜達の峰 ドラゴンズ・ピークにて・・・・

 

 

「さて・・・・ミルガズィアさん。先程も言ったように雑魚のお相手はお任せします」

「わかった。そっちの方は我等が責任を持って引き受けよう」

 

「すんなり引き受けていただいてありがとうございます。

本来なら我々魔族だけで何とかしたいのですが何しろ人手不足ならぬ魔族不足でして・・・・」

 

「ウム、協力にあたって、一つ頼み事があるのだが・・・・」

「できる範囲のことなら・・・・・」

「簡単なことだ。今から私が話すことをしっかりと聞いてほしい」

「その程度のことなら構いませんが・・・・」

「これはあの人間の魔導士が試してみろといったのでやってみるのだが・・・・」

 

(あの人間の魔導士・・・というのはリナさんの事ですね。

何だかそれを聞いただけで嫌な予感がしてきました・・・・)

 

「まあ、ものは試しというやつだ。存分に楽しむと良い」

「はぁ?楽しむ・・・・ですか?」

「それでは・・・・今から話すのはこの前の事なのだが・・・・・・」

 

 

 

そして・・・・・ 竜達の峰 ドラゴンズ・ピークにゼロスの絶叫が響き渡った・・・・・・・らしい。

 

 

 

―――――もう一つおまけ―――――

 

 

 

ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス!!

 

 

華麗なる連撃コンボを決めるラピス!

人間サンドバック状態のハーリーはあまりの衝撃のため、天高く舞い上がる!!

 

 

「いきなりなにするんだよ!死んじゃうじゃないか!!」

 

 

ちなみに、この連撃コンボ・・・・完全に友達を無くすくらいえげつない。

それを喰らってもたんこぶだけですますこの少年は魔族を越えているかもしれない・・・

 

 

「うるさい!!なんかムシャクシャするから大人しく喰らいなさい!!」

「・・・・・もしかして・・・あの日?」

「コロス!!」

「うわ〜〜ん!!」

 

 

この後、連撃コンボを3セット喰らうこととなったハーリー・・・・

そんな彼だが、次の日には傷一つなく学校に来ていたというのだから凄まじい・・・・

 

 

ルリの時と同様・・・この光景をアキトが見れば、ゼフィーリアへの永住を真剣に考えたかもしれない・・・・

 

 

 

 

 

 

 

(二十三話に続く・・・)

 

 

 

同盟の報復が怖くて逃げ出した作者の代わりのディアちゃんで〜す!

 

や〜・・・アキト兄ってば油断しすぎ。

ルリ姉がこれを見れば、お仕置きフルコースの十セットを一ヶ月は決定だね。

もちろん、この映像はコミュニケを通して録画してるし・・・・フフフフ・・・・(ニヤリ)

 

コホン!!

 

話は変わって・・・次回はとうとう、アキト兄対ニースの戦い!

感想をくれた人の半分以上は予想していたことなんだけどね。

 

初めて本気で繰り出すニースの剣技!そしてルナ姉の剣でさえ叩き斬った謎の技!!

迫りくる赤い凶刃をアキト兄はどうやって対処するのか!!

 

とまあ、仰々しく宣伝してみたりして・・・大したことなかったらウイルスメースの殺到ね。

ただでさえ、一日に二、三通は来ているのに・・・・この前なんか危うく開きかけたらしいし・・・

学習能力っていうのがあるのかしらね?あのヘッポコ作者・・・・

 

気を取り直して、感想を送ってくれた、森乃音さん、YUROPAさん、YU− JIさん、ふなむしさん。

12式さん、T氏さん、watanukiさん、K・Oさん、miyokoさん、カインさん、ほたてさん、yasuoさん。

どうもありがとうね〜!!根性無しの作者に代わって深く感謝します!!

 

 

それでは、次回、二十三話『魔人と戦神・・・・・』で会いましょうね!

 

 

代理人の感想

 

〜♪(口笛)

 

いや〜、なかなかに大胆ですねぇルナ姐さん(笑)。

頬を染めてるのがちょいと可愛いと思ったり思わなかったり。

 

 

追伸

さすがは魔族、精神攻撃には弱かったか(爆笑)