赤き力の世界にて
第25話「過去からの使者・・・・」
時は・・・・アキトが赤竜の剣を手にしたときまで遡る・・・・
リナ達が進んでいった先、そこで待ち受けていた光景・・・・
それは地底の中には不釣り合いなほど光あふれている空洞だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こいつは驚いたな・・・俺は今まで異界黙示録への手がかりを求めて色々な遺跡を見てきたが、
ここまで非常識なものは初めてだ・・・・」
少々呆然としてつぶやくゼル・・・・その気持ち理解できなくもない。
本来、日の光なぞ大穴を空けても届きそうもないこの地底の中で、こんなに光があふれているのだ。
頭上を見上げてもそこには太陽などはない。天井自体が輝いているのだ。
原理などは皆目見当も付かない。
おそらくは降魔戦争以前から存在していたのだろうが・・・千年前の技術でこんな事が可能なのだろうか・・・
そしてこの部屋・・・というよりは空洞と言った方が適切か・・・
大体、街の一区画よりやや大きいといったところか・・・
へたな町より環境はいいように見える。ただし、かつては・・・と、付くが。
家という家は崩壊。かろうじて免れている物はかなり風化が進んでいる。
(まあ、どんなに頑丈な家だろうと、千年以上も放っておけば崩れるのも当然か・・・)
「驚くのは後にしなさい。わざわざあちらから出迎えてくれたのに悪いわよ」
「大丈夫よ、姉ちゃん。ちゃんと気配は掴んであるから」
「修行の成果が出ているのは良いけど、あまり過信しすぎないようにね」
「わかってるって!」
伊達に何年も世界を旅していたわけではない。
自分のであれ他人のであれ、命を賭けている以上、慎重に慎重を重ねすぎることはない。
天井を見ていても、ちゃんと視界の片隅には相手をとらえている。
「しかし・・・なんだな・・・・けっこう壮観な眺めって奴か?」
「話に聞いていた人魔とザナッファー付き獣人はともかくとして・・・
下級魔族が十数体・・・やたらごついデーモンが五十体以上いますね・・・・」
「レッサー・デーモンとも、ブラス・デーモンとも違うな・・・いったい何なんだ?」
「あれは・・・ツイン・デーモンという奴よ・・・」
「何なんだ?そのツイ何とかって奴は」
「ツイン・デーモン。名前通りの存在よ。一体につき魔族を二重に憑依させたものよ。
魔力許容量が馬鹿みたいに大きいから一度に百本近い炎の矢を放ってくるわ」
「よく知っているな。これもお前が昔に関わったことの一つか?」
「なんかそう言う風に言われると、あたしが悪事の片棒を担いだように聞こえるけど・・・まあ良いわ。
ガウリイと出会う前にちょっとあってね」
このツイン・デーモン・・・本当はレミィさんの父親が研究していたらしいのだが、
同僚に殺され、研究成果を奪われたといっていた。
まあその同僚も、あたしとレミィさん、そして『その他一名』が成敗したのだが・・・
意外なところで繋がっているものだ。
もしかして、その裏切りも今回の敵が裏で糸を引いていたとか?・・・・・まさかね。
「とにかく、相手をするのは良いけど、大技が使えないからちょっとめんどくさいわね」
これが野外なら、最初に竜破斬でも使って数を減らし、残った敵を各個撃破!!
ザナッファーを着込んだ獣人はともかく、その他は大分減るはず!!
・・・等という戦法が使えるのだが・・・まかり間違ってこんな所で使おうものなら、生き埋めになってしまう。
その前に使おうとしたら姉ちゃんにどつかれるのがおちなんだろうけどね。
「面倒だと思うのなら先に行け。こいつらの相手は俺達がしてやる」
「さっきはアキトさんに良いところを取られましたからね。今度は私達の番です」
ゼルとアメリアがそろって敵に向かって踏み出す。
まるでやっと自分たちの番が回ってきたとでも言っているかのように気楽な口調だ。
「あんた達、二人だけであれ全部の相手をするつもり!?無茶よ!!」
「無茶かどうかはやってから考えるさ。俺もアメリアも半端な気持ちで特訓をしたわけではないからな」
「それとも、アキトさんは信じても私達は信じられませんか?」
「そうは言ってないけど・・・でも」
今回の相手は半端ではないのだ。
何奴もこいつも魔法が効きにくい相手ばかり・・・魔法戦闘を中心としたこの二人では少々分が悪いはずだ。
「でもも何もあるか。リナとルナさんに無駄な力を使わせないためにアキトが残ったことを忘れたのか?」
「そうですよ。リナさんが戦うのはこの後です。この場は私達に任せてください」
私は二人の言葉に何もいえなくなる。二人が言っていることは限りなく正しい。
だからといって『そうね。じゃあ後は頼んだわよ』というわけにはいかない。
そんな事は例え正しいことであっても、私自身が認めない。認めるわけにはいかない。
「そんな顔をしないでください。リナさん。私もゼルガディスさんも死ぬ気はありません」
「それに、アキトや冥王と戦うことと比べたら、あいつらの相手ぐらいは軽いものだ」
なにげに、アキトと冥王が同格扱いになっているけど・・・違和感まったく感じないわね・・・
「リナの負けよ。一緒に旅した仲間でしょ?信じてあげなさい。
二人のことはあなたがよく知っているはずよ」
「・・・・・・・・・ハァ・・・・・わかった。わかりました!素直に二人にこの場を任せます!」
「素直じゃないわね。二人が心配ならそう言えばいいのに」
「リナは意地っ張りだからな。なかなか本音をいわないから誤解されやすいんだぞ」
(うるさい!こんな時だけ常識人ぶるなガウリイ!!)
「納得したのなら先に行け」
「先に行けってね・・・通路はあいつらの向こうなんだけど・・・」
先へと進む入り口は敵の包囲を抜けた先にあった。
私達から見て向かいの壁に位置している。
それはつまり、この町の端から端まで走れということだ。
かつては頻繁に使った大通りなのだろう。障害物といえる物が無いのがせめてもの慰めか・・・
まあ障害物より、目の前にいる奴等の方がよっぽど厄介といえば厄介だが。
「安心しろ。突破口は作ってやる。だから隙があれば遠慮なく走れ」
ゼルは何か策でもあるのか、自信ありげにさらりという。
どう控えめに見ても、生半可な事では突破口を作るのは難しい。
その事についてはゼルも知っているはずなのだが・・・
「アメリア、あれをやるぞ」
「でもゼルガディスさん、あれをやったらこっちにも被害が・・・」
『あれ』だとか『それ』だとか私には訳が分からないが・・・・
被害云々いっている様子ではかなりやばめなモノなのだろうか。
「大丈夫だ。今回は人手もあるしな。ガウリイ」
「ん?何だ?」
「少しばかりフォローを頼む」
「何のフォローだ?俺が手伝えることなのか?」
「少々派手な呪文を使うからな。こっちに飛んできたら容赦なく斬ってくれ」
「は??」
「すぐにわかる。とにかく油断だけはしないでくれ」
話が分からない私達を置き去りにして、ゼルとアメリアは呪文の詠唱に入る。
聞こえてくる詠唱から察して、二人は違う魔法を使うつもりなのだろうが、そのどちらも対個人用のもの。
そのまま放つのであれば、突破口なぞ作ることはかなわないはずだが・・・
まかせると言った以上、二人を信頼するしかない。
私は黙ってきたるべきチャンスに備えて気を引き締めた。
「ポイントはあそこだ。準備はいいか!!」
「はい!いつでもどうぞ!!」
「覇王氷河烈!!」
「覇王雷撃陣!!」
ゼルとアメリアが同時に魔法を発動させる!
どうでもいいけど、本来ならタイミングよく同時に・・・というのはかなり難しい。
あの腕輪のおかげだろうけど・・・・そう考えてみるとけっこう便利なのかもしれないわね。
キィィィーーーン!!
聞いていると耳が痒くなるような甲高い音がすると同時に、
敵のど真ん中の地面に光で描かれた魔法陣が現れる。
その魔法陣は、お互いが使った魔法の相互干渉の為か、本来の五紡星だけではなく、
頂点が多少ずれた五紡星がもう一つ描かれていた。要するに十紡星というやつだ。
その十紡星が輝くと同時に、魔法陣の上にとんでもなく巨大な氷塊が出現した!
いつもの三倍・・・いや、五倍はあろうかというほどの大きさだ!!
だが、その氷塊に閉じ込められたのはホンの数体のデーモンのみ。
後は魔法陣が現れたと同時に、その場から避難していた!
「ゼル、どうするの?これじゃあ突破口なんて・・・」
「くるぞ!気をつけろ!!」
「へ?」
バリバリバリバリバリッ!!!
ゼルが注意を促すのと同時に、氷塊がすさまじく激しい雷撃を纏う!!
あれでは近くにいるだけでも感電死してしまうかもしれない!!
「でもあれだけじゃあ・・・・」
私の言葉が終わる前に、氷塊が爆発四散する!!
電撃を纏った細かい氷塊・・・といっても一つにつき、大人の頭ぐらいはあるが・・・は、
辺りの廃墟もろとも、敵に襲いかかる!!
いくら人魔やザナッファーを装着した獣人が魔法防御力が高かろうとも、
高速で飛来する氷塊は洒落にならないはず!
魔族にとってもそれは同じ事、元が精神世界面を主とした攻撃魔法ゆえ、無視することはできないはず!!
そして!!それは私達も同じ事!!
爆発四散した氷塊は、例外なく辺りに飛んだ!敵味方の区別無く!!
「こういうことか!!」
魔法を使ったばかりで対処が遅れたゼルとアメリアをフォローするべく、
ガウリイが飛んでくる氷塊を全て叩き斬る!!
かくいう私も、ちゃっかりと一番安全な場所に避難していたりする。
「凄いわね・・・当たったらひとたまりがないわ・・・」
「そのひとたまりもない攻撃の中、自分の姉を盾にするなんて、一体どういう了見なのかしらね?」
「ははは・・・・だって姉ちゃんがこの程度でどうにかなるとは思えないし・・・」
「はぁ・・・まあいいわ、この後のことを考えたら無駄な体力を使わせるわけにはいかないからね」
かくいう姉ちゃんにも、例外なく氷塊は襲ってきているのだが、
まるで目障りな蠅や蚊でも追っ払うかのように、無造作に手で払っていたりする。
氷塊の嵐が収まるまでは、そう大した時間ではなかった。
敵にとっては悪夢の一時だっただろうが・・・
「リナ、そろそろいくわよ。ガウリイさん!!」
「わかった!!」
「え?うにょわーーー!!姉ちゃん!!絞まってる!!」
姉ちゃんは一声かけると同時に、私の襟首をひっつかみ、もの凄い早さで駆けだした!!
私は引きずられるまま(といっても、あまりの早さのために凧のように宙に浮いていたが)敵陣へと突入した!
ガウリイも、姉ちゃんより少しばかり後ろで走ってついてきている。
この早さで走りながらも確実に敵を斬り倒しているガウリイ・・・あんたも十分人外の仲間だ。
んな事より!あたしは戦う前にダウン寸前・・・・やっぱり盾代わりにしたことを根に持ってるのか!?
「一気に最後まで走るわよ。少々のんびりしすぎたみたいだからね」
「わかった。ゼル、アメリア!後は頼んだぞ!」
「後は私達に任せておいてください!!」
「俺達のこと気にせずにさっさと行け!」
その言葉を聞いた姉ちゃんとガウリイは、通路の入り口まで走った。私は未だに凧状態・・・
「あんた達!絶対に死ぬんじゃないわよ!
もしも死んだりしたらあの世まで追いかけて 竜破斬 でトドメさすからね!!」
姉ちゃんに引きずられたまま、私は二人に励ましにならない台詞を吐く。
その言葉を広間に少しばかり響いて消えた。
私はそれを聞くこともなく、再び薄暗く、先に通じる洞窟へと入っていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「素直に死ぬなとか言えんのか・・・・」
「それがリナさんらしいといえばらしいじゃないですか。
でも、私達よりもリナさんの方が危ないような気もしますけどね」
「完全に喉に極まってたからな。それでもよくあんな台詞が言えたものだ・・・
さて・・・お喋りの時間はここまでだ。
さっさとこいつらを掃除をしてリナ達に追いつくぞ。俺達でも何かの足しになるかもしれんしな」
ゼルガディスは腰に下げてあったブロード・ソードを静かに抜き、右手で構える。
左手には懐から取り出した投擲用のナイフを数本、指の間に挟むような形で持つ。
「そうですね。じゃあ、最初から全力でいきましょうか」
アメリアもいつの間にやら、金属製のナックルガードをはめていた。
それの具合を確かめるように、指を開いたり、拳を打ち合わせたりしている。
このナックルガード・・・例の特殊金属を加工したものだった。
無論、シンヤお手製。ゼフィーリアを離れる前に、シンヤから送られたのだ。
女性の肌が傷つくのはあまりよくないと、気を利かせたのだ。
こと、女性に関しては結構気配りの利く男である。
「アメリア!行くぞ!!」
「はい!ゼルガディスさん!!」
ゼルとアメリアが散開したままの敵中に突入する!!
「ハァ!!」
ゼルの剣が冴え渡る!!
しかし、獣人はともかく、着込んでいる白い鎧はとても堅く、傷一つつかない!!
「そんななまくら剣でこの鎧が傷つくものか!!」
「そうか・・・だがお前は違うようだな」
「―――――!!」
ゼルが言い終わると同時に、左腕を一薙ぎする!
次の瞬間、獣人の頭に金属製の物が突き刺さっていた!
「鎧云々言うよりも、まず中身を鍛えてからこい」
「貴様!!ゆるさん!!」
「許してもらわなくて結構だ!!」
ゼルガディスが剣を一閃させる!すると目の前にいた獣人達の首が次々に地に落ちる!!
振り向き様に放つナイフは後ろから襲いかかろうとした者の眉間を正確に突き刺さる!!
「離れて撃ち殺せ!!」
一人の獣人の提案に、襲いかかっていた連中が飛び離れ、手のひらをゼルガディスに向ける!!
ゼルガディスはそんな事はお構いなしに、敵が一番密集している所に突進する!!
「馬鹿が!自分から死に急ぐとは!!」
「死ね!!醜いゴーレムもどきが!!」
獣人達は嘲笑と共に、手から閃光を放つ!!
その光景に、ゼルは怯える様子はおろか、逆に獰猛な笑みさえ見せる!!
「五十歩百歩ということわざを知らん様だな。 魔光霊斬っ!!」
ゼルは放たれた閃光の軌道を見切り、紙一重でかわす!!
かわしきれないと思ったものは、赤黒い光を纏った剣にてはじく!!
剣の間合いまで後一歩というところで、ゼルは剣をムチ状に切り替える。
そして走る勢いを殺さず、ムチを振るいながら敵陣を駆け抜ける!!
その後には首、または四肢を切断された人魔と獣人の死骸が数多く横たわっていた。
「来るなら全力で来い。仰々しい登場の割には歯ごたえが無さすぎるぞ」
ゼルガディスは剣を突き付けながらそう言い放つ。
人魔と獣人・・・ゼルガディスに相対していたものは全て彼の気迫に飲み込まれ、萎縮した。
かつて、自分の身すら焦がさんばかりの狂気を完全に制御した『狂戦士』が全ての者を圧倒した!
一方アメリアも、次々に敵をうち倒している!!
彼女が無手での戦いを主としているので、倒した数こそゼルガディスにはおよばないものの、
武器という差を考えれば、アメリアの強さは、ゼルガディスの戦いぶりに、そう引けをとるものではなかった。
「たあぁぁーー!!」
アメリアの拳が振るわれる度に、獣人が派手に吹き飛ぶ!
既に何体かの人魔もアメリアの一撃で地に沈んでいた。
今のアメリアをアキトやガイウスといった『氣』を操るものが見れば、感心したかもしれない。
それほどアメリアの体内の氣は充実しており、身体能力を倍以上にアップさせていた。
さらに、アメリアの両手両足には魔力の光が輝いていた。
いくら人魔が魔力に対して優れた防御力をもとうとも、
対上位魔族用にカスタマイズされた霊王結魔弾の前では意味のないものに成り下がっていた。
現に、影から現れて不意打ちをしようとした下級魔族など、アメリアの踵落としにて消滅していた。
ツイン・デーモン程度ならば殴るまでもなく、たださわるだけで倒してすらいる。
「ハァァーーー!!」
アメリアが右腕を後ろに振りかぶりながら、五人ほど固まっている人魔達に突進する!!
その早さは尋常ではなく、空間転移の隙すら与えないほどだった。
アメリアは拳に魔力と氣をさらに集束させながら勢いそのまま突っ込む!!
「直伝 虎牙弾!!」
アキトより伝授・・・というか、無理矢理に教えてもらった技が人魔達を軽々と吹き飛ばす!!
その三人はぶつかった壁が砕け散るほど叩きつけられる!!
強力な物理攻撃と精神世界面の二重攻撃にて完全に事切れる人魔。
「オォォォーー!!」
アメリアの隙をつこうと、背後より数匹の獣人が襲いかかる!!
しかし、アメリアは驚きもせず、獣人達を流れるような・・・・演舞のような華麗な動きで投げ飛ばす!!
例え鎧を着込んでいようとも、手加減も無しに投げ飛ばされた衝撃は半端なものではない!!
「喰らえ!!」
アメリアは人魔のはなった魔力弾を余裕で避ける。
しかし、その魔力弾はアメリアの後ろにあった家の壁に当たり、廃墟寸前だった建物にとどめを刺した。
その倒壊の余波により土埃が舞い上がり、アメリアの視界を不鮮明なものへと変えてしまった!!
それは同時に、人魔達からもアメリアの姿が見えなくなる事を意味する。
「デーモンよ!あの小娘を焼き殺せ!」
人魔の命に従い、残り少なくなったツイン・デーモンは 炎の矢 をアメリアのいる辺りに放つ!!
数体のツイン・デーモンの放つ 炎の矢 は千数百本・・・下手をすれば二千を越えていた!
その光景は、炎の『矢』というよりも『津波』と表現する方が正しい程のものだ!!
その 炎の矢 は、立ちこめていた土埃をも勝る爆炎にて、その場を覆い尽くした!!
その爆炎も少しずつ収まり、視界が鮮明なものへと移り変わってゆく・・・・
おさまった後に人魔達が見たものは、大量の 炎の矢 によって荒らされた地面のみだった・・・
「ハッ!塵も残らず消し飛んだか。俺達に逆らうからこうなるんだ」
「笑止!!この世にはびこる悪がある限り!
正義は決して負けることはありません!!」
「そんなバカな!どうしてあの小娘の声が!?」
「一体どこから聞こえて来るんだ!?」
人魔達が辺りを見回す。デーモン達もつられて辺りを見回す素振りをする。
「いたぞ!あそこだ!!」
一人の獣人が三階建ての建物の屋上に立っているアメリアを指差す。
何だかんだいっても 『英雄譚』 的な展開につられている人魔達・・・結構根が単純なのかもしれない。
ちなみに・・・アメリアは 炎の矢 が当たる寸前に魔力障壁を張り、
それを盾にするかのように、押し寄せる炎の一角に向かって突進し、脱出せしめたのだ!
そして、爆炎によって視界が遮られたその隙に、建物があった方に飛び込むように避難し、
今立っている建物によじ登ったのだった。
「あなた達が私達に勝てないのは自然の道理!これ以上無駄な抵抗をせず降伏しなさい!!」
人魔や獣人達から見て、アメリアはちょうど見上げるような形になっている。
その為、天井の光を背にしたアメリアの姿は後光がさしてみえた形となっていた。
ご丁寧に、大した風も吹いていないのにマントがなびいていたりする。
まったくもって芸の細かいことである。
その時!突如としてアメリアの後方上空に人魔が現れる!!
その手にはダガーが逆手に握られていた!
その刃には猛毒が塗ってあるため、どす黒い色に染まっている!!
人魔は音も立てず、自由落下の勢いのままにアメリアに襲いかかる!!
「甘い!甘いです!そんな卑怯なことをしている限り私には絶対勝てません!!」
アメリアは振り返りもせず、身体のバネを利かせた裏拳を人魔に叩き込む!!
身動きのとりづらい空中で、しかも不意打ちによる優位を信じていた人魔には、避けようもない一撃だった!!
まともに喰らった人魔はくの字になりながら吹き飛び、したたかに地面と衝突した!
それを見た他の人魔達は空間転移を躊躇した。
獣人でさえ、今の不意打ちをカウンターで返したアメリアに恐れを抱いていた。
こちらの方が武器も持っていないし、何より小娘だ。
と思っていた甘い認識を思う存分否定された瞬間でもあった。
「どうやら降伏するつもりはないようですね・・・ならば!
私の正義の鉄槌にて悔い改めなさい!!とおーーー!!」
かけ声と共に、建物の屋上から敵の真っ只中に向かって跳躍するアメリア。
同時に、高さを利用した跳び蹴りを獣人の顔面にめり込ませながら着地する!
「そして!これが平和を愛する者が受け継ぐ必殺技!
あなた達の瞳に焼き付けておきなさい!!」
アメリアの背景になぜか炎がうかび上がった・・・・様な気がした。
少なくとも、相対している獣人や人魔達にはその光景が見えたらしい。
「直伝!!平和主義者クラァーーーッシュ!!!」
アメリアの一撃にてダース単位でやられる人魔達!!
先程の虎牙弾の威力をはるかに越えたその攻撃力!!
人魔達はよくは分からないが、その脅威だけは瞳に焼き付いたようだ。
その間にも次々に敵を倒してゆくアメリア!
その快進撃を止められるものはこの場にはいない!!
アメリアとゼルガディス・・・・この二人が敵を全滅させるのに、そう長い時間はかかりはしなかった。
「さて・・・雑魚は片づいたな」
「そうですね。逃げ出した者が多少はいましたけど・・・・」
「リナ達の方に向かって行かせなかっただけで上等だ。
一度逃げ出した奴が戻ってくる度胸があるとも思えんしな。
そんなのにかまわず先に急ぐぞ」
「はい。・・・・・・でもそう簡単には行かないみたいですね」
「―――――!!新手か!?」
アメリアは先へと通じる入り口の方に向かって視線を向けていた。
ゼルガディスもアメリアに遅れながらも、発生した魔気に気がつき、目をむける!
二人が見ていた空間・・・・その大地から透き通るように姿を現せる二人の魔導士風の青年。
それぞれ、赤い髪と灰色の髪との違いはあるものの、顔立ちは双子の如くそっくりだった。
中級以上の魔族になれば、姿形を自由自在に変える事が可能なので、
見た目にこだわることはない・・・・が、なぜかアメリアとゼルガディスにはそれが引っ掛かった。
「やはりクズはクズか・・・・『赤い竜神の騎士』の足止めはおろか、雑魚に倒されるとは・・・・」
「雑魚とはいえ、我がゼロスと竜どもに足止めされていた短い時間でこの者達を倒したのだ。
その戦闘力は称賛には値するがな」
「確かに・・・以前よりも腕を上げているか・・・だがそれは我らとて同じ事・・・・」
「その通りだ」
双子の魔族は辺りの状況を見ながら、なかなか辛辣なことを平然と言ってのける。
アメリアとゼルガディスはその言葉を聞き、顔をしかめる。二重の意味で・・・・
一つは相変わらずの魔族の思考に対して・・・・・もう一つは・・・・・
「アメリア・・・・今の言葉を聞いたか」
「はい、しっかりと。まるで以前に私達と相対したことのあるような言い方でした。
私にはああいうのと戦った覚えはありませんけど・・・・」
「俺もない。そもそも中級魔族以上と戦ったこと自体、数えるほどしかないからな。
それらにしても、全てきっちりと滅んだはずだが・・・・・」
正確にいうとグロウという例外があるが、
ゼルガディスはその考えを否定した。わざわざ姿を変え、二人で来る必要性を感じなかったからだ。
「姿形が変わるだけで本質を見抜けぬとはな・・・・所詮は人間か」
小声で話していた二人の会話を、魔族はきっちりと聞いていたみたいだった。
しかもその視線には、蔑みといった感情と共に、若干の怒りが加えられていた。
「「フッ・・・まあ、そんな事はどうでもいい。以前の屈辱、今ここで晴らすのみ!!」」
口をそろえて言い放つ双子の魔族。二人とも、両手に魔力を溜めていた。
アメリアとゼルガディスも、それぞれ構え直した。
(アメリア!俺は赤髪の方をやる!)
(わかりました!)
「螺光衝霊弾!!」
ゼルガディスより放たれた白く渦巻く光弾は、一直線に赤髪の魔族に向けて飛んでゆく!
しかもその直後、ゼルガディスは腰から剣を抜きその光弾の後に続いて走り出す!!
「子供だましを!相変わらず我をなめておるのか!!」
赤髪の魔族は怒気を含んだ視線でゼルガディスを睨む。
その怒気に呼応するかのように、手に集めていた魔力が加速度的に集束をする!
「フンッ!!」
魔族より放たれた赤黒い魔力弾は光弾をいともあっさりと貫き、
そのすぐ後にいたゼルガディスに襲いかかる!!
「魔皇霊斬!!」
ゼルガディスの持つブロード・ソードに再び魔力の光が宿る!
ゼルガディスはその剣で魔力弾を串刺しにするかのように突く!!
ブロード・ソードに込められた魔力と魔力弾は互いを相殺しあい、その威力をうち消した。
ゼルガディスは手に持った剣がただの頑丈な普通の剣に戻った事を気にもせずに
そのまま魔族に向かって突進する!!
しかし魔族は、ゼルの剣が突き刺さる寸前に大きく横に避けた!
「チィッ!この程度では引っ掛からんか」
何か思惑が外れたかのような台詞を吐くゼルガディス。
そんな事を言いつつも、魔力を宿らせた短剣を赤髪の魔族に向けて投げる手つきは素早い!!
「フン・・・・貴様達が油断のならないのは先刻承知だ」
赤髪の魔族は避けることもなく、飛んできた短剣を苦もなく掴み取り、握りつぶした。
普通の短剣ならいざ知らず、曲がりなりにも魔力が宿った短剣を・・・・・
ゼルガディスはそんな光景を認識しつつも、既に呪文の詠唱を完了させていた。
今、ゼルガディスの頭の中は、戦況を冷静に把握し、敵の一歩先を予測しようと思考している。
ゼフィーリアでアリスに学んだことは武器の扱いだけに留まらなかったようだ。
「崩霊裂!!」
ゼルの解き放った呪文は、灰色の髪をした魔族を蒼い閃光でつつんだ!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
少し時を遡り・・・・・ゼルガディスが赤髪の魔族にかかっていったのと同時に、
アメリアも灰色の髪をした魔族に対して戦闘を開始していた!!
「霊王結魔弾!!」
魔族との間合いをつめながら呪文を解き放つアメリア。
発動と同時にアメリアの両手両足に眩しいほど光り輝く魔力が宿る。
その光り輝く魔力はアメリアの意志に従い、急速に集束する!!
その威力は先程人魔や下級魔族に使った時、もしくはそれ以上の威力を秘めていた!!
「以前の様にただ纏うのではなく、過剰供給した魔力を意志により制御、集束させたか・・・・」
灰色髪の魔族は冷静にアメリアを観察し、そう結論づける。
そして両手に集めた魔力弾を握りつぶす!
手の内にあった魔力弾は、握りつぶされることによって、砕けるように飛び散り、魔族の周りに浮遊する。
細分化された魔力弾は、個々に10センチ程に膨張し、無数の魔力弾へと変化する!!
「行け!」
魔族の号令と共にアメリアに襲いかかる魔力弾の群!
しかしアメリアはその魔力弾の群に怯むことなく、さらに走るスピードを上げた!!
アメリアは自分に当たる魔力弾だけを見抜き、手のひらで魔力弾の進路をそらす!
迎撃するのではなく、魔力弾に横から力を加えることによって進路を変えたのだ。
やろうと思っても、誰にでも出来ることではない。
少なくとも、以前のアメリアには無理だったはずだ。
「何と非常識な・・・・」
魔族はあきれが含まれたような声音でつぶやく・・・・
しかし、その両の手には新たに魔力を集束させていた。
そして出来上がった魔力塊を再び握りつぶす!
それは前と同じく、飛び散った粒子が肥大化し、それぞれが魔力弾へと変化した
ただし、今回は以前とは違い、灰色の魔力弾だったが・・・・
「これならどう捌くかな?」
灰色の魔力弾がアメリアに向かって解き放たれる!
(これなら?ということは何か細工があるはず!)
そう考えたアメリアは、今度の魔力弾は捌こうとせず体さばきだけで全てをかわす!
先程放たれたものより、魔力弾の間隔が広かったために可能だったのだが・・・・
「さすがに・・・・辛いですね!!」
やはり無理があったのか、最後の方になるとかなり余裕がなくなる!
そして残り二つの時、避けることに限界が訪れた!
アメリアは覚悟を決めて魔力弾を逸らそうとして手を伸ばす!!
ドン!!
「―――――ッ!!」
アメリアがふれた途端、魔力弾は短い爆発音と共に炸裂する!!
その炸裂の余波により、間近に迫っていたもう一つの魔力弾も誘爆し、爆発を二重させる!!
アメリアは反射的に横に飛んだことで幾分かの衝撃を逃がすことは出来たが、
運悪く、近くにあった瓦礫に体当たりする形になってしまった!!
(避けた魔力弾に向かって飛ぶよりはましだったかもしれませんけど・・・これも結構きついです!!)
身体に走る痛みを意図的に無視して瓦礫より飛び出るアメリア。
そして魔族を視認しようとしたとき、別のものが目に入った。
それは、飛んでいった灰色の魔力弾が所狭しと自分を取り囲んでいる光景だった!!
「今度は我の勝ちのようだな・・・・もっとも、人間には次はないがな」
「まだです!!」
アメリアは魔力弾の群に向かって右腕を振るう!!
その軌跡にそって光の衝撃波が魔力弾に向かって飛んでゆく!!
光の衝撃波を放つと同時に、右の拳に溜めていた魔力が消えてなくなる。
どうやら、アキトが偶にやる昂氣の衝撃波のように、拳に溜めていた魔力を解き放ったようだ!!
ドドドドドドド!!!
光の魔力衝撃波と魔力弾がぶつかり、爆発を起こす!
その爆発の余波で他の魔力弾に誘爆した!!
その連鎖する爆発により巻き起こされた土煙を突き抜けるように飛び出すアメリア!
そのまま全速力で魔族に向かい、一気に間合いをつめる!!
「クッ!!」
灰色髪の魔族は右手の拳に魔力を集束させ、アメリアに殴りかかった!
しかしアメリアは拳を合わせようとはせず、寸前でその攻撃を避ける!
アメリアはさらに間合いをつめ、四肢に宿していた全魔力を右の拳に集束させる!!
「直伝 虎牙弾!!」
アメリアが繰り出した拳を身を捻ることで避けようとする魔族!
しかし完全に避けられずに左腕に直撃し、肘から先が消失した!!
「グオォォ・・・・おのれぇぇ」
なくなった左腕の傷を抑えるようにふさぎ込む灰色髪の魔族。
その顔は苦悶と憎悪に満ちていた。
「崩霊裂!!」
ゼルガディスの放った蒼い光の柱が魔族の身体を包み込む!!
「ガアァァアアアァァァァッッッッ!!」
灰色髪の魔族の絶叫が洞窟内に響き渡る!!
「まずは一人!!」
「なめるなぁぁ!!」
怒りに満ちた声を上げると共に、魔族の身体を蝕んでいたはずの蒼い光が、
逆に吸収するかのようにかき消えた!!
「ゼルガディスさん!危ない!」
あまりに予想外の展開に、驚いたゼルガディス。
そのゼルガディスを庇うようにアメリアが飛び掛かるように押し倒した。
それと同時に、居間さっきまでゼルガディスがいた空間に、
身の丈もある大きさの蒼いレーザーみたいなモノが通り過ぎる!!
二人は驚いた表情で蒼い閃光の元を見る。
そこには手の平をゼルガディスに向けている赤髪の魔族がいた。
あれ程の魔力を溜めている暇はない・・・・
それは術を放つ寸前まで赤髪の魔族を見ていたゼルガディス本人が一番わかっていた。
「まさか・・・崩霊裂なのか!?」
「今の光景・・・というか、この現象は以前にも見た覚えがありますけど・・・・」
二人の脳裏に思い浮かぶことがあった・・・
それはかつて、竜達の峰で球体の形をした純魔族と戦ったときの光景だった・・・
その魔族の特技というのが、相手の呪文を吸収し、増幅をして相手に返すといったもの・・・
あの時は灰色の球体が吸収、赤色が解き放つといったものだった。
そして今回は灰色の髪をした魔族が吸収し、赤髪の魔族がそれを解き放った・・・
この奇妙な符号・・・・そこまで考えたとき、ゼルガディスとアメリアはある一つの結論にいたった。
それは・・・・・・
「貴様達、いや貴様は・・・まさかあの時の魔族なのか・・・・」
魔族がそれに応えたのは嘲り等の言葉ではなく、冷ややかな笑みだった。
(第二十六話に続く)
どうも〜、久方ぶりのアリスで〜す☆まったく出番がなくなったため、ここにでてきました!
今回は、ゼルガディスとアメリアの戦闘・・・ま、次回もそうなんだけどね。
前哨戦というか・・・準備運動かな?あれくらいに勝てなくてどうする!
私自らが教えたんだから、それぐらい当たり前!ってなもんよ。
次の話では、あの双子の魔族との戦い、決着編ね。気張りなさいよ!二人とも!
あ、それと・・・作者からの伝言。
『剣の長さに関して、色々とご指摘いただきました。いい加減で申し訳ありません。
しかし、専門的な用語で云々書くのもいいのですが、あまり細かく書くと、つまらないものになってしまいそうなので、
『長剣』・・・・ああ、長い剣なんだな。
『大剣』・・・大きい剣なんだな。しかも重そう。
『細剣』・・・かなり細い剣。つつかれたらかなり痛そう。
とでも、考えて下さい。それなりの専門知識のある人は、長さの明記から、
『なるほど、長さからいって、○○○とか言うやつみたいなものだな』とでも思ってください。
知りたいという人がいれば、その都度、メールでもください。できる限り対処します』
だって・・・単に頭の処理が追いつかないだけなのに、何大層な言い訳してるんだか・・・・
最後に・・・・K・Oさん、YU−JIさん、神威さん、カインさん、ホワイトさん、一輝さん、watanukiさん。
tjさん、T氏さん、下屋敷さん、東 風雅さん、森乃音さん、黒田さん。
感想ありがとねぇ〜!
とくに、刀剣の類に関して資料をくれた東 風雅さん、目一杯感謝しま〜す!
では!次回、第二十六話『分かれし者と共有する者』(仮)で会いましょうね!
代理人の感想
あ〜、やっぱり連中でしたか・・・・・・・生きてたんだ(笑)。
ここは一発、ギャバンとシャリバンの如く息の合った同時攻撃・・・
いや、愛の力で勝利を(笑)
#そう言えば連中のコンバットスーツって銀色(=灰色?)と赤・・・まさかね(笑)
>剣
ひとつ補足しときますと、西洋の刀剣は「片手剣」(ブロード・ソードやロングソード、ショートソード)、
「両手剣」(グレートソード、ツーハンデッドソード)、「紳士の剣」(レイピア、エペ)、「その他」
くらいで考えておいたほうがいいかと思います。
特に片手剣の場合、ブロードソードとロングソードの違いなんて
3cm幅が広いとか5cm刀身が長いとかその程度のものなので。