赤き力の世界にて
第26話「分かれし者と共有する者・・・・」
ゼルガディスの質問に、冷笑のみを返す魔族・・・・
ゼルガディスはその雰囲気で答えを悟る。
(確かに・・・ヒントは幾らかはあったな・・・・
リナ達ほど名の知られていない俺達にあれ程警戒していたこと・・・
アメリアの非常識な攻撃にも冷静に対処できる事などは相対したものでないと無理な話だからな・・・)
「よく生きていたものだな。てっきり最後に自爆して滅んだものだと思っていたが?」
「そうですね。私はその所為で酷い目にあいましたからね」
以前、竜達の峰で相対した折、球体状の魔族は自爆して果てたはずだった。
アメリアとゼルガディスはその時、最後のトドメをそれぞれの武器でさし、爆風をまともに受けてしまったのだ。
ゼルガディスはその忌み嫌っていたはずの身体に助けられたが、
生身のアメリアは瀕死の重傷を負い、その場にいたミルガズィアに治療してもらった事があった。
もし、その場に強力な治癒魔法の使い手がいなければ、アメリアがこの場に立っていることはなかっただろう。
「確かに・・・我らはあの時お前達の手によって倒された」
「だが、赤眼の魔王様の一部が復活したことと、覇王様の手助けにより、
予定より早く復活することが出来たのだ。さらなる力を手に入れてな・・・・」
「倒した・・・だと?滅んだ訳じゃなかったのか」
「笑止・・・たかだかあの程度の攻撃で我らを完全に滅ぼせるものか」
赤髪の魔族が嘲笑と共にアメリアとゼルガディスを見やる。
事実、魔族を滅ぼそうとするのであれば、高位の魔族の力を借りた魔術で完膚無きまでトドメを刺すしかない。
魔術に頼らないというのであれば、他に何らかの方法を用いて精神世界面に干渉し、
魔族の本体である精神体を消滅する程のダメージをあたえるか・・・・
こう言えば簡単そうに見えるかもしれないが、下級ならまだしも、より高位の魔族の精神体を消滅させることは、
人間ではほぼ不可能に近く、ましてや倒すことすら困難ともいえる。
『混沌の力』を扱うリナや、『赤竜の力』を受け継ぐルナ、精神世界面でも絶大な威力を誇る『昂氣』を扱うアキト・・・
むしろ、魔族を滅ぼせるほどの力をもつ人間こそ異例ともいえるのだ。
かつて、あの双子の魔族にトドメを刺したのは、アメリアの霊王結魔弾であり、
ゼルガディスの 魔皇霊斬 だった。
双方とも、生半可な威力ではなかったものの、あの魔族を滅ぼすまでは至らなかったらしい・・・・
「ならばまた倒すまでさ・・・今度は二度と復活する気がしなくなるまで痛めつけてな」
「正義の光がある限り、私達は負けません!幾度蘇っても倒してみせます!!」
「口では何とでも言えるものよな・・・」
「そこまでいうのであれば、やってもらおうではないか・・・・できるのであればな」
「上等だ」
ゼルガディスは剣を握り直すとアメリアに目配せをする。
(アメリア、同時に呪文を放つ。タイミングを合わせろ)
(ですが・・・・同時に放っただけでは以前みたいに相殺されるのでは?)
(ただ放っただけなら・・・な。接近戦に持ち込んで不意をつく。
灰色でさえ吸収するまでは少なくとも崩霊裂が効いたんだ。
魔術をかけられたからと言って無条件に吸収する訳じゃないはずだ)
(了解しました!!)
「いくぞ!!」
「はい!!」
ゼルガディスとアメリアが同時に行動を開始する!!
目標は先程と同じ、アメリアが灰色髪の魔族、ゼルガディスが赤髪の魔族。
二人はそれぞれの得物に魔力を宿らせ、接近戦闘を仕掛ける!!
「以前と同じ手で来たか・・・だが」
「我々を侮りすぎだな・・・いっただろう?以前とは違うとな」
赤髪の魔族がその手に集めた魔力球を握りつぶす。
その握った拳から黒い魔力が放出され、剣の形をとる!
その大きさは 大 剣 に勝るにも劣らぬ程の大きさだった
灰色髪の魔族は、失った右腕を修復し、即座に腕に魔力を集束させる。
アメリアと同じように見えるが、腕自体に魔力を帯びさせているために、防御の幅はこちらの方が広く思える。
「ハァッ!!」
ゼルガディスは突進した勢いそのままに剣を振るう!赤色はその剣撃を受け流す!
しかし、ゼルガディスはそんな様子など気にせず、次々に攻撃をくり返した!
最初は余裕ある態度だった赤色だったが、徐々にその顔から焦りがにじみ出す!
「以前の戦いから予測していた以上に腕を上げている!?」
「一体いつの話をしている。人間ってのは短期間で化ける場合もあるんだぜ」
ゼルガディスの剣が、赤色が持つ黒き剣をはじく!!
その隙に繰り出した一撃が軽く胴を薙ぐが、
魔剣との衝突により魔力が薄くなったゼルガディスの剣では大した一撃にすらならない!!
「惜しいな。その剣が、それなりに名のある魔法剣であればダメージをあたえただろうに」
「魔法剣でなくとも、魔力の通った短剣ではどうだ?」
「―――――!!」
再び襲いかかる黒い魔剣をかろうじて魔力の通っているブロード・ソードで受け止めるゼルガディス。
受け止めた姿勢のままさらに懐に入り込み、左腕の袖に隠していた短剣で魔族を刺す!!
ゼルガディスはブロード・ソードに 魔皇霊斬 を使うと同時に、
隠していた短剣にも魔力を付与していたのだ。
無論、その分ブロード・ソードに蓄積される魔力は減るものの、
その短剣によって得られた好機はそれを補って余りある!!
「グオォォオオオッッ!!」
ゼルガディスはすかさず呪文の詠唱に入る!!
(後はアメリアとのタイミング次第だ!)
ゼルガディスは横目でアメリアの方へと視線を向けた。
一方、アメリアの方は・・・・・
「どうした!何も手を出さないまま死ぬ気か?」
「・・・・・・・・・・・」
先程までの攻勢が嘘のように、アメリアは防御に徹していた。
灰色の繰り出す拳を受け止め、時には捌いたりしている。
魔族も決まった一撃を繰り出す事が出来ないため、
時に無数の魔力弾を放つときもあったが、それらも全てアメリアは捌いていた。
防御に徹しているアメリア・・・端から見ると劣勢に感じるかもしれないが、
その実、戦闘の流れは確実にアメリアが掴んでいた。
「クッ!!」
灰色は、焦ったように拳を繰り出す。
それと平行するように、アメリアの死角に魔力弾を作りだし、攻撃に加えるが、
アメリアは後ろに目でもついているかのように、流れるような体さばきで死角からの攻撃を避ける。
「オオオォォォォッッ!!」
アメリアの鉄壁の防御の向こうに見える冷静な目を見たとき、
灰色は焦りに後押しされたかのように、強力な一撃を繰り出すために右腕を後ろに引く!!
それを見たアメリアも、四肢に残った魔力を両の拳に集束させ、左腕を大きく後ろに引く!
灰色の拳の軌道とアメリアの拳の軌道とが交差し、ぶつかり合う!!
ズガン!!!
とても拳同士がぶつかったとは思えない音と共に、軽い衝撃波が発生する!
ぶつかり合った二人の拳は、魔力の加護を失い、元の状態に戻った。
「クッ、利き腕では無いのにここまで威力があるとは!予想外だ!!」
灰色は体勢を立て直すためか、拳を引いて後ろに転移しようとする!
しかし!拳を引く前にアメリアが突き出した左手で、魔族の右手を掴む!!
「体勢を立て直させるわけにはいきません!!」
「なにを!!」
灰色は掴まれていない左腕でアメリアを殴り飛ばそうとする!!
魔力で補強された灰色の左腕は正確にアメリアの頭を狙う!!
しかし、アメリアは、唯一魔力が残っていた右手でその拳を掴んで受ける!!
「この両腕を封じた体勢でどうするつもりだ!貴様は攻撃手段が無くなったぞ!!」
灰色は無数の魔力弾を作り出そうとしているのか、
バチバチという音と共に、身の回りの空間に電撃が発生し、光が生じ始める!!
「何も攻撃が腕だけとは限りません!霊王結魔弾っ!!」
再び、アメリアの四肢に眩いほどの魔力光が発生し、急激に集束する!!
掴まれた腕から少量のダメージでも受けているのか、魔族は苦悶の表情を浮かべる。
そして魔力の集束が終わったと同時に、アメリアの右足が霞むようにぶれる!!
ドドゴォッッ!!
アメリアの二段蹴りが灰色の腹部に炸裂する!!
あまりの早さにその打撃音はほぼ重なって聞こえるほどだった!!
「グハッ!!」
本来なら、その蹴りの衝撃に飛んでゆきそうなものだが、
両腕を掴んだアメリアがそんな事を許すことはなかった!!
「まだまだっ!!」
ドグゥ!!
アメリアはさらに追撃をするように蹴りを繰り出す!!
だが、今度はそれにかまうことなく、灰色は周りの魔力弾をアメリアに向けて解き放つ!!
それに気がついたアメリアは、掴んだ両腕を放すと同時に蹴りをいれ、
その反動を利用して大きく後ろに跳びずさる。
並でない攻撃を三発もまともに受け、さらに渾身の一撃を受けた灰色は、
そのあまりのダメージのためにアメリアへの集中が途切れてしまった!!
(チャンス!!ゼルガディスさんは?)
攻撃のタイミングを合わせるため、横目でゼルガディスを見やる。
すると、ゼルガディスも同じくチャンスを作り出した様子で、ちょうど視線をこちらに向けたようだった。
(やるぞ!!)
(はい!!)
「崩霊裂!!」
『グオォォォォッッッ!!!』
蒼い光の柱につつまれた双子の魔族は苦悶の表情を浮かべ、口から絶叫をほどばしらせる!!
ある程度ダメージをあたえてからの同時攻撃!!
その上、腕輪を介して魔力許容量を増幅させた崩霊裂!!
ゼルガディスとアメリアは少なからず、勝利を確信した。
・・・・・・・その次の光景を見るまでは!!
「オオォォォーーッッッ!!」
双子の魔族は苦悶の表情を浮かべながらも滅びから抗おうとしていた!!
そして蒼き光が発生している足下に向け、右手をかざす!
「な!!」
「そんなバカな!!」
ゼルガディスやアメリアの驚きの声をあげた。
そう、双子の魔族はその蒼き光を、かざした右手より吸収していたのだ!!
「なめた真似を」
「してくれたな!!」
憎々しげにアメリアとゼルガディスを見る魔族。
灰色髪がアメリアを・・・赤髪がゼルガディスに向けて左腕をかざした!!
魔族の左手より発せられた蒼き閃光!!
縦と横の違いこそあれ、それはまさしく崩霊裂そのものだった!!
先程と同じ現象とはいえ、こちらの方が威力はかなり大きい!
二人は何とかかわすことに成功しつつ、魔族から距離をとった。
「灰色の方はともかくとして、赤色もだと?
以前とは違うと言っているのも伊達じゃなかったわけだ」
ゼルガディスが憎々しげに悪態をつく。
単純に終わりそうにない戦闘の事で頭を悩ませているのだろう。
「それもありますけど・・・まさかあの崩霊裂に耐えるとは思いませんでした。
その前にもかなりのダメージをあたえたと思っていたんですけど・・・・」
「確かにな・・・それに、以前ならば完全に同一だったせいか、
片方にダメージをあたえたら、もう片方も痛がっていたんだが・・・
一部を除いて完全に別離しているみたいだな・・・・」
ゼルガディスは頭の中で戦闘中に得た情報と、過去の戦闘を比べ、結論を出した。
アメリアはと言えば、次の手について思案に耽っていた。
無論、その間も二人は魔族より注意をはずしていない。
「しかし、不意さえつけば魔術は効いたんだ。今度は吸収する暇もない程の一撃で決めるしかない」
「融合魔法ですか?でもあれは対個人用・・・相手を一カ所にまとめなくては・・・・」
「その点さえクリアすれば、後のことは俺に任せろ。少なくとも数秒は動きを止めてみせる」
「分かりました。ではいきます!!」
アメリアとゼルガディスが三度魔族に向かって走り出す!!
向かっている相手もこれまでと同じ・・・・今までと違う点は、一瞬にかける意志の強さか・・・・
アメリアは一気に勝負をつけるべく、最初から攻撃に出た!
というのも灰色と赤色、どちらの方がダメージが大きいかといえば、間違いなく灰色だからだ。
アメリアの虎牙弾にて片腕を吹き飛ばされ、多少とはいえ崩霊裂を二回も受け、
アメリアの強力な足技を計四発も喰らった。
中級魔族の中でも下位に属するものならば、十分に倒れるほどのダメージを受けているのだ。
未だ人の形を保っていることの方が奇跡に近い。
「ハァァァーーー!!」
アメリアの攻撃・・・それは拳による弾幕に近い!
灰色髪の魔族も腕に今まで以上の魔力を集束させ、何とか防御をしているようだが、
それを破るのも時間の問題だった。
「クッ!!」
灰色の周りに雷光を纏った無数の魔力弾が発生する。
最後の悪あがきなのか、大きさこそ今までの半分以下だが、その数は桁違いに多い!
その魔力弾の今までにない気配を感じ、すぐさま間合いをとるアメリア。
飛び退いた直後、今までいた大地に無数の穴が空いた!!
「(早い!威力も破壊力から貫通する事に重点を置いている!)―――――っ!!」
その威力に驚いている暇もなく、その場から走るアメリア!
数瞬遅れで、雷光を纏った魔力弾が雨霰といわんばかりに降り注ぐ!!
はっきりいって下手な攻撃よりもかなり厄介だ。
しかも、失った弾数は即座に生成し、灰色の身体を覆いつくしている。
まさに攻防一体ともいえる。
(これが普通の魔族相手なら隙を見つけて崩霊裂をかけるけど・・・
そんな事をすれば間違いなく返される・・・・他に何か手は・・・・・)
思案しようにも灰色はそんな隙は与えてくれない。
アメリアは少しでも考える時間を稼ぐために呪文を唱える。
「烈閃砲っ!!」
アメリアから放たれた光線は真っ直ぐに灰色に迫る!
が、その身を守るように配置された魔力弾と相殺しあい、霧散してしまう。
(相殺した・・・・それなら)
何かを思いついたらしいアメリア。
いまだに自分に降り注ぐ魔力弾の群をかわしながら、決め手へと繋がる魔術の詠唱に入る!
「悪あがきだな・・・かくいう我もそうだがな」
「私は勝って生き残ります!そう約束しました!!だから絶対に最後まで諦めません!!」
アメリアはその瞳に固い決意をみなぎらせ、声高らかに術を解放する!!
「崩霊裂っ!!」
灰色の足下より、蒼い光が立ち上る!!
しかし、灰色もこれで三回目、数瞬の間、光を浴びただけで、後はかざした右手で吸収した!
が、吸収するまでの数瞬の間の光によって、灰色の周りにあった魔力弾は全て消滅した!!
(最後のチャンスに全てを賭けます!!)
アメリアは体内の氣をさらに練り上げ、限界まで溜め込む!!
動きの止まったアメリアを格好の的と思ったのか、灰色は蒼い閃光を真っ直ぐに放った!!
アメリアはその場から動かず、蒼い光に包まれる・・・・と、思われた次の瞬間!
アメリアの姿が霞み、その場から跡形もなく消えた!!
「消えた!?そんなバカな!!」
灰色が驚きの声を上げるとほぼ同時に、
つい先程までアメリアがいた場所より右手の方向にあった廃屋の壁が吹き飛んだ!!
灰色が音のした方向に目をむけると、
そこには自分に向かって一直線に飛んでくるアメリアの姿があった!
蒼い閃光が灰色の手より放たれた瞬間、
体内で練り上げた氣を一気に解き放ち、その力によって筋力を爆発的に増加させたのだ。
後はその驚異的な筋力を用いて右手方向に跳び、廃屋の壁を蹴って灰色に向かって飛んだというわけだ。
「アアアアァァァァァーーーーー!!」
アメリアの右拳が今までにないほど光り輝いていた!!
その光景は、飛んでいる姿と合い重なり、一条の流星を連想させる!!
「グッ!!」
魔力弾による防御や迎撃では間に合わないことを悟った灰色は、
両腕を眼前で交差させ、集められる限りの魔力を集束して完全防御に徹した!
二人の魔力がお互いを相殺するときに生じた衝撃波をまき散らしながら、
灰色の防御がアメリアの拳を受け止める!!
「私の・・・勝利です!!」
「―――――!!」
パンッ!!
灰色の腕が、何かが破裂したような破砕音と共に弾け、黒い砂のようなものに変化した!
最後の勝負・・・・アメリアの攻撃力が灰色の防御力を突き破っていたのだ!!
「――――――――――!!!」
声にならない絶叫を上げつつ、灰色は後ろにむかってよろめいた・・・・・
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方・・・ゼルガディスは・・・・
「オォォッッ!!」
「クッ!」
ゼルガディスの繰り出す剣撃の嵐を何とかさばき続ける赤髪の魔族。
隠し武器を用心しているのか、何も持っていない左手をしきりに気にしている。
「そんなに短剣が気になるのか?」
懐から二本目の短剣を取り出すゼルガディス。
その短剣の刃にも、赤黒い魔力光が宿っていた。
「気に入ったのならやるぞ。そらっ!!」
何に躊躇いもなく魔族に向けて短剣を投げる!
早さはかなりのものだが、如何せん魔族とて馬鹿ではないし無能でもない。
剣を創り出していない左手で飛んできた短剣を無造作に掴み、粉々に打ち砕く。
下級魔族とて、不意打ちをしない限りはこの程度のことはやってのける。
「何か考えがあるのだろうが・・・・そろそろうっとおしくなってきたぞ!!」
ゼルガディスまで遠く離れているのにも関わらず、黒き剣を突き出す魔族。
その剣が不気味に鳴動すると同時に発射される無数の小さき刃!!
小さく鋭角的、数は把握しきれないぐらい多い!!
正面から見れば黒い壁が襲いかかってくるかのような錯覚さえ感じた!!
(避けるどころか防ぎきれん。剣で叩き落とすことも不可能だな。ならば!!)
ゼルガディスは覚悟を決め、真っ正面から突き進む!!
「自分から死ににきたか!!」
「アメリアとの約束があってな。そう簡単に死ぬ気はない!!」
ゼルガディスは剣を前面に構え、突進の勢いそのままに切り抜けようとする!!
だが、やはりその剣は擬似的な魔力剣。
襲いかかる魔力の刃を切り裂くたびに、ブロード・ソ−ドの魔力光はその力を失ってゆく!!
その黒い弾丸の嵐を切り抜けるのと、剣の魔力が底を突いたのがほぼ同時だった!!
だが、剣を前面に押しただけの防御ではやはり無理があり、
ゼルガディスの身体は、岩の肌を切り裂かれ、いたる所から血が流れていた。
しかし、ゼルガディスはそんな傷などにかまうことなく走り、魔族との間合いをつめる!!
「 魔皇霊斬っ!!」
二度、魔力の光を宿したブロード・ソードを両手で構え、魔族に向かって袈裟懸けに斬りかかる!!
それを黒き魔剣で真っ向から受け止めようとする赤髪の魔族!!
「傷ついた身体での剣撃を受けることなど、容易い事よ!!」
「剣じゃなかったらどうだ!!」
ゼルガディスは剣が打ち合わされる寸前に、左手で握っていた部分、赤い石でできた所を捻る!!
ガキンッ!!
金属音と共に分離される刃!!
ムチ状になった剣は、打ち合ったところを支点に、宙に円を描きながら魔族に襲いかかった!!
「なっ!?!」
驚きも半ばに、身を捻ることで迫りくる刃を避ける魔族!!
鞭状になった刃は勢いそのままに、剣に絡み付き、その動きを封じる。
封じられた黒い剣より手を離そうとする赤髪の魔族!
しかし、その腕は剣より離れることなく、赤い煌めきをもった何かに切断され地に落ちる!
「な、何がおこったのだ!?」
一瞬、目の前でおこったことに呆然とするものの、
右腕を失った事による激痛がその身に襲いかかり、後ろによろめく。
ドンッ!!
背中に何かがぶつかり、何事かと後ろを見る。
其処にいたのは、両腕を失ったかつての自分の半身・・・灰色の髪をしたもう一人の自分だった。
ドフッ!!
『―――――!!』
突如として腹部にはしる衝撃と激痛・・・・その痛みをこらえ、視線を下げると、
そこには先程までゼルガディスがもっていたはずのブロード・ソードが、
双子の魔族を縫いつけるかの如く貫いていた。
『ガアァァァアアアーーーッッ!!』
灰色と赤色の絶叫が、決して狭くないはずの空間に響き渡る!
赤色はささった剣を引き抜こうと残った左腕を動かそうとしたが、
その動きよりも先に、赤黒い煌めきをもった細い糸のような物が灰色と赤色を幾重にもからみつき、動きを封じた!!
「アメリア!!」
「はい!!」
「崩霊裂っ!!」
「フレイム・ブレス!!」
アメリアとゼルガディスが、今使える中で一番最高の融合魔術を剣に向かって発動させる!!
二人の魔術に反応し、剣の柄に埋め込まれた翠色の魔石の中に描かれていた五紡星が、
真紅の光を放ちながら浮かび上がる!!
そして、赤色と灰色の双子の魔族が赤い光の柱につつまれる!!
その赤い光は天井からの光をはるかに凌駕し、辺りを夕焼けか暁のように赤く染めた!
「ア・・・ガ・・・・・・・・・・」
双子の魔族は、絶叫を上げることなく、二つの世界から痕跡を残さず消滅した。
そう、消滅だ・・・二度と蘇ることのない、永遠の眠りについたのだった。
自分を支えるものが無くなったブロード・ソードが乾いた音と共に地面に落ちる。
そして、双子の魔族を縛り上げていた鋼糸が、
シュルシュルっという音を立てながらゼルガディスの左手の袖の中に巻き戻される。
「今度こそやったか・・・・」
「ええ、その様です。魔気も消滅したみたいですし・・・・」
ゼルガディスはブロード・ソードを拾い上げながら辺りをうかがう。
アメリアも、念のために辺りの気配を探るが、特別に変わった様子はない。
「しかし、最後のは少し驚いたぞ。まさかあれ程の威力になるとはな・・・・」
最後の融合呪文のおり、蓄積していた魔力を放出したためか、
翠色に輝いていた魔石は酷く淀んだ色になっていた。
「一度使えばしばらくは使えないのが欠点だが・・・贅沢は言ってられんか」
「しばらくってどれぐらい時間がかかるんですか?」
「長くて一日だな・・・持ち主が魔力を意識して送るのならば四半日もかからん。
どっちにしても、リナ達の援護には使えんな。俺自身の魔力が尽きた」
ゼルガディスはやれやれと言いながら、疲れたように近くにあった瓦礫に腰をかける。
戦闘中は気にもしていなかったが、満身創痍なので体が怠いのだ。血の気が少なくなっているのかもしれない。
「ゼルガディスさん、今すぐに治療します」
「すまないな・・・・」
ゼルガディスの怪我の程度に驚き、すぐさま近づいて 復活 を唱えるアメリア。
ゼルガディスも、大人しくアメリアの治療を受けている。
周りの状況を見回しながら、ゼルガディスが口を開く・・・・
「思ったより手間をくったな・・・・下手をしたらアキトに追いつかれるかもな」
「そんな事はないと思いますよ」
「ごめん。もう追いついてるんだ」
二人から少し離れた所にある廃墟の影からアキトが姿を現す。
警戒を怠ったわけではないのに、
アキトの存在に気がつかなかったゼルガディスとアメリアは驚いてアキトを見ていた。
「「一体いつから・・・・」」
「二人が魔族に向かっていくところかな?もちろん最後の方だったけど」
「なら手伝ってくれてもいいじゃなかったんですか?
だったらゼルガディスさんもこんなに怪我せずにすんだかもしれないのに・・・・」
アメリアが少し憮然とした顔でアキトの方を睨む。
「もちろん本格的に危険だったら手を貸していたけどね。
そんな様子はなかったし、ゼルも怪我が浅くすむように避けていたしね。
なにより、俺が出ていって二人の邪魔をするのも悪い気がするし・・・・」
「アキトなら一人でも奴等を片づけられるだろうに・・・」
「どうかな?やってみないと分からないよ。
それよりもゼルいつの間に鋼糸の使い方を学んだんだ?」
「学んだ訳じゃない。ただの鞭の応用だ。だから見てみろ、鋼糸といっても先の方に重りをつけてるだろう?」
そういって、ゼルガディスが袖から垂らした鋼糸の先には先の尖った重りが取り付けられていた。
「今の俺の技術じゃあ、鞭のように振り回すのが精一杯だ。
相手を縛るなんて器用な芸当はとてもじゃないが無理だな」
「あれ?でもゼルガディスさん。最後に魔族に対してやったのは?」
「あれは寸前に弦繰呪牙を唱えておいただけだ」
「なるほど・・・・」
ちなみに、弦繰呪牙というのは、細い糸を意のままに操る呪文。
元々は土木作業用の魔法で、崖とかに橋を架けるときに使用しているというもの。
ゼルガディスはそれを応用し、魔族を縛り上げたということだった。
「そんな事より。アキト、お前がここにいるということはニースとかいう魔族とはけりが付いたんだな」
「ああ、しっかりと倒したよ。といっても、ほぼ相討ちに近かったけどね」
「相討ちって・・・・アキトさん、もしかして腕が・・・・」
先程から全く動きを見せないアキトの腕をみて、アメリアが戸惑いながらも声をかける。
アキトは、気にしないで・・・というように微笑むと、先に続く入り口に目をむける。
「とにかく先を急ごう。最悪の展開だけは避けたい」
「リナ達なら大丈夫だろうが・・・・猫の手もあった方がましだろうからな」
「魔力も底を尽きかけていますけど・・・・微力ながらもお手伝いはできるはずです」
そんな事を言う二人を頼もしそうにみていたアキト・・・・しかし、その顔は少々すぐれない・・・
「俺が心配しているのはルナさん達じゃないよ・・・むしろ、今回の黒幕の方だよ」
「え?」
「アキト、それはどういう事だ。お前は一体何を知っているんだ」
「・・・・・・・少しでも先に急ごう。話は・・・・進みながら話すよ」
アキトは、悲しみを秘めた目で、言いづらそうな表情をしていた・・・・・・
ゼルガディスとアメリアは、アキトの様子に戸惑いながらも、
どんどん先へと進んでゆくアキトの後を追うために走っていった。
(第二十七話に続く・・・・・・・・)
―――――あとがき―――――
どうも〜、ディアちゃんで〜す!
作者が本業(仕事)が忙しく、いつものように代理としてやってきました〜!
今回も格闘シーンが多かったね〜・・・・シリアスばっかりでギャグがないから、
読者のみんなも不満がいっぱいかな?それとも、こう言うのも良いのかな?
アメリアさんとゼルガディスさんも、結構強くなったみたいだし・・・・
修行した努力が報われたって感じかな。かなり苦労してたもんね。
ちなみに・・・あの双子の魔族、二人一緒で中級の上位、個別だと、中位よりホンの少し下なんだって。
相手が一人だったら、かなり強いんだろうけど、相手が悪かったね。
なんたって、このシリーズ唯一の公認カップルなんだし。
(というか、カップルはこの一組しかいないんだけどね・・・リナさんとガウリイさんはまだまだだし・・・・・)
次回はいよいよルナ姉達と、黒幕との対決!といっても、前編なんだけどね・・・
ニースが語った、人と神がおこした過ちとは?黒幕の正体は?
今のところ、黒幕の正体の正解者は零・・・・仕方がないんだけどね。
(ヒントもないし、あの作者の性格は歪んでいるし・・・・正解しろって言うのが無茶・・・・・)
最後に・・・・K・Oさん、YU−JIさん、HNーD−さん、霞那岐さん、TAGUROさん、
東風雅さん、下屋敷さん、T2さん、ホワイトさん、watanukiさん。
そして、前回作者が慌てていた所為で忘れていた、mr−kitさん、アヤカさん、屍さん、音威神矢さん、E.Tさん。
どうもありがとうございま〜す!!ちゃんと感想掲示板見てますから・・・・・って言ってるから。作者が・・・
では、次回『復讐者・・・・・』で会いましょう!!
追記・・・・あのへっぽこ作者、仕事が忙しすぎるため、次回の投稿は三週間後になるかもとのこと・・・・・
励ますと、馬車馬の如く喜んで書きますので、応援なりなんなりしてください。
じゃぁまたね〜!!
代理人の感想
ん〜〜〜〜〜む。
上手いですねぇ。
今回は二対二のタッグ・マッチと言うことで描写も変則的でしたが、
戦いの展開がするっと頭の中に入ってくる描写の上手さはさすがです。
生身の戦闘シーンを書く人は参考にして損はないでしょう。