赤き力の世界にて
第27話「復讐者・・・・」
祭壇・・・・それは神などを祭るために造られた神聖な場所。
まあ、ときには魔王を飾るなんて酔狂な人達もいるわけだが・・・概ね神を祭ることが主である。
その神聖な場所で、魔王を滅ぼした男達と、私達は対峙していた。
構図としては、男達は祭壇から私達を見下ろすような形だったが・・・・
その構図とは裏腹に、男の目には侮るとか蔑むといった感情はなかった。
「ご大層なお出迎えどうも。魔王の欠片を持った人間にザナッファーや人魔・・・
ついでにツイン・デーモンまで。懐かしくて涙が出そうだったわ」
「気に入っていただければ幸いでした。露払いにはちょうど良いと思ったのですが・・・
思った通りにはいかなかったようですね」
白衣を着た金髪の男がガウリイを見てそうつぶやいた。
おそらく、この場にたどり着くのは私と姉ちゃんのみだと思ったのだろう。
「それはさておき、自己紹介と参りましょうか。私達はあなた方のことを知っているのに、
あなた方は私のことを知らないのでは不公平でしょうから。
私の名前はアーウィン。かつて空竜王バールウィンに仕えていた竜です」
「―――――ッ!!」
私は驚きの余り、声が思うように出なかった。
隣の姉ちゃんも、驚いたのか少々目を見開いていた。
魔族とつるんだり、人と人とも思わないことばかりしている奴等に荷担している奴だから、
私はてっきり魔族と契約した人間か、その類だとばかり思っていたが・・・よりにもよって神の眷属たる竜とは・・・
私達の驚きをよそに、アーウィンは隣に立っていた女性を手元に招き寄せる。
その女性は見た目的には17、8歳といったところか・・・・
髪は金髪で、ソバージュをかけたセミロング。
着ている服は激しい運動しても大丈夫なように改良されているゆったりとした巫女装束。
そんなゆったりとした服装からでもわかるプロポーションの良さ・・・・どちくしょう・・・・
「この子はメアテナ。私の大切な娘です」
「大切な娘のわりには扱いが酷そうだけど?」
彼女の目には理性の輝きというのだろうか、そういったものが全く感じられない。
元々そういったものはなかったのか、それとも何らかの方法で封じているのかはわかりはしないが・・・
仮にも親と名のる人物がやることには思えない。
「ちょっとした思惑がありましてね。自我を封印しているのです」
「自我を・・・ね。それに関しては私達がとやかく言う義理はないわ。
でも、今回の一件については洗いざらい話してもらうわよ」
「別に構いませんよ、ルナ・インバースさん。で?何から聞きたいのですか?」
「そうね・・・まず、貴方は一体何者なのかを聞きたいわね」
姉ちゃんは一体何を聞いているんだろううか?
こいつは自分で言ったとおりの竜ではないということなのか?
「いきなり核心からきますか・・・」
「この時代の空竜王の眷属には、これほどの技術力はないわ」
「そうでしょうね・・・・・ま、別に隠しておくことではないでしょう。私の正体は先程言ったとおりです。
ただ普通と違うのは、生まれたのは神話の時代だということぐらいですか?」
「神話の時代〜!?いくら竜族でもそれは・・・・まさか魔族と契約!!」
私の推論を、穏やかな笑みを浮かべたまま、横に首を振ることで否定する。
これが冷笑とかだったら遠慮なく呪文の一つでもぶちかますところだったんだけどね・・・作戦そっちのけで・・・
「面白い推測ですが違います。それに、魔族でもそこまで長生きなのは腹心クラスですよ?
私なんかでは契約はおろか、話すことすらできませんよ。私は臆病なものでね」
臆病な奴が魔王を倒すなんて大胆なことをするか!!とつっこみたい気持ちをグッと我慢する。
私が話の腰を折ったことに怒って、隣にいる姉ちゃんから殺気が漏れ出ていることに気がついたからだ。
アキトさえ!アキトさえいれば!もうちょっと私の自由が利くはずなのに!!
「で?魔族とも契約をせずに貴方はなぜ遙か長い時を生きているの?」
「別に・・・・私はずっと封印されていただけです」
「その理由を聞いてもいいのかしら?」
「かまいません。というか、是非聞いてもらいたいですね。その為にここに呼んだ訳ですから」
「そう・・・・なら聞かせてもらいましょうか」
姉ちゃんは完全に話を聞くつもりだ。
ガウリイは視線で、『どうする?』と訪ねてきた。手はすでに剣の柄にかかっている。
私は、今は話を聞くべきだと判断し、静かに頭を振ることで否定した。
それを納得したのか、緊張は解かず、剣から手をはなした。
「ずっと昔・・・神と魔が、表立ってこの世の覇権を争っていた時代・・・
私は空竜王に仕え、様々な魔導具を作り上げていました。
魔力を蓄積できる魔石、一振りで大地を容易く切り裂く刃を持つ魔剣。
そして如何なるものも、自力では解除できない結界・・・」
う〜ん・・・・確かに、今よりはるかに技術が進んでいた神魔戦争の時代なら、
それこそ見つけだすのを苦労する魔剣がポコポコあっても不思議ではない・・・・
今の時代では、城一つ買えそうな値段で取り引きされる魔剣も、
神魔戦争時では、武器屋で並んでいた可能性さえあるのだ・・・・・
とは言うものの・・・・いきなり創っていました・・・という奴がでてきても胡散臭いことこの上ない。
それに竜族といえば、先陣を切って戦っている!とまでは言わないが、そんなイメージがある。
「リナ・インバースさんは納得してないみたいですね。
いくら竜族とはいえ、空竜王の眷属は他の竜王の眷属に比べて最弱でしてね・・・
その代わりといっては何ですが、知能の方はずば抜けていたのですよ。
故に、人間との結びつきも強かった。自分たちは戦場に出られませんでしたからね。
強力な武具を創る代わりに、人間に戦ってもらっていたわけです」
なるほど・・・・だから人間サイズの魔剣などが多いわけか・・・・
一番先陣を切るはずの竜族の武器、防具が見つからず、人間が使えるような武器はそれこそ多い・・・
竜が人間に化けていたという考え方もあるが、いまいち説得力がないもんね・・・
洞窟の中で戦うのならいざ知らず・・・
「そして月日は流れ・・・赤き竜神と赤眼の魔王の戦いが終盤に迫った頃です。
私は一人の女性に出会いました。彼女は賢く、気高く・・・・・そして美しかった・・・・
魔導士として戦場に立つ者でしたが、そんな中でも優しさを失わない、穢れ無き人でした。
私は人間だと知りつつも、彼女に恋してしまったんですよ・・・年甲斐もなくね」
アーウィンはその女性を思いだしているのか、優しい笑顔を浮かべ、隣のメアテナを見る。
「私は彼女が生き残る確率が高くなるようにと、強力な道具を創り出そうとしました。
ある時は、異界から『烈光の剣』を召還し、人間に扱えるように改造もしました。
又ある時は、完全な賢者の石を精製しようと、異世界の魔王の欠片を召還したときもありました」
私は今、もの凄い人物と話をしているのではないのだろうか・・・・
光の剣に魔血玉・・・・その魔導具を作った人物に会えるとは・・・・
もしかして、妖斬剣も創ったとか言いだすんじゃないだろうか?
「その甲斐ありまして、彼女は生き続けました。
私が作った導具のおかげで生き残ることができた。そういってくれる度に、私は舞い上がる気分でした。
しかし・・・・・・しかし・・・・・・」
アーウィンは不意に言葉をとぎらせ、右手で顔を押さえ、表情を隠した。
その所為で、最後の感情はわからなかったが、寸前に現れた表情だけは見てとれた。
それは『憤怒』・・・・溢れ出す激情を抑えつけるかのように、右腕が激しく震えていた。
「人間は!!人間達は彼女を抹殺しようとした!!
強い力への嫉妬!!恐怖!!そういった醜い心に後押しされて!!
彼女の力が自分たちに向けられたら、彼女が扱う力が暴走したら!!
そんな疑心暗鬼にかられて!人も、エルフも、生きとし生ける者が彼女を排斥しようとした!!
彼女が何をした!!彼女はただ、皆が幸せに暮らせる世界を夢見て戦った!!
その為に望んでもいなかった才能を使い、あの方の力を借りて戦った!!
それが罪だというのか!!」
ほどばしる激情を吐露するように、彼は吠え猛る。
隠している目からは、内に溢れる感情が洩れだしたかの如く、涙が流れていた。
その言葉は、呪詛となり、聞いている私達の心を締め付け、
その涙は、さらなる悲しみを私達の心に刻みつけた。
相変わらず、表情は手の平によって隠されていたが、
今の独白で、今の感情―――――『憎悪』―――――を想像することは難くない。
彼は、言葉なく荒い息をついていたが、それもしばらくすると、徐々に落ち着いていった。
それにともない、表情を隠していた手も、必要がなくなったのか顔の位置からのけられる。
「すみません。つい感情的になってしまいましたね。
私は、彼女が殺されそうになる前に、共に逃げ出しました。無論、追っ手もきました。
それでも私達は逃げ続け、遙か遠く・・・・水竜王が居た地方、つまり、此処まで逃げてきました。
幸い、水竜王は慈悲深く、私達がこの土地に来たことを見て見ぬふりをしてくれました。
この土地に来てから一ヶ月、二ヶ月とすごすうちに、私達は平穏を手に入れたつもりでした。
まだ、神と魔の戦いが終わっていないのにも拘わらず・・・・
ある時、私達の住んでいた村に、一つの噂が流れてきました・・・
私達が住んでいた国が、魔族の攻勢によって滅びかけている・・・・と。
それを聞いた彼女はすぐさま飛び出そうとしました。
私は彼女を引き止めようとしました。もう関わり合いになるのはよそう。此処で静かに暮らそう・・・とね。
でも彼女の意志は変わらなかった。
それもそうですよね・・・皆が幸せになってほしいためだけに戦っていた優しい人なんです。
そんな彼女が、知り合いが死ぬかもしれない、そんな状況で静観できるはずがない。
彼女は国に戻りました。例え疎まれようとも、助かる人がいるのなら・・・・そう言って・・・・
しかし・・・そこで待っていたのは、十重二十重と包囲した軍勢でした。
人も、エルフも、ドワーフも・・・・そして竜でさえも彼女を殺そうと待っていたのです。
彼女は・・・反逆者という汚名を着せられていたんです。
彼らは、他の竜王が治める地域に手出しするわけにはいかず、
私達がいた地域に嘘の噂を流し、おびき寄せた・・・・そんなところだったんでしょうね・・・・
そんな光景を見た彼女はなんていったと思います?嬉しそうに微笑みながら、
『みんな無事だったんだ。ああ、よかった』
そう言ったんですよ?そして彼女は最後まで微笑んだまま、誰かが放った魔術の光によって消滅しました。
その時わかりましたよ・・・悲しみも、憎しみも・・・・あまりに強すぎると表に出なくなるとね・・・・
私は彼らに捕らえられ、しばらくの間、閉じ込められていました。
そしてまたしばらくすると、赤き竜神と赤眼の魔王が共倒れしました。
皆は焦ったようですね・・・まさか神族側が優勢だったのに、結果が相討ち・・・夢にも思わなかったのでしょうね。
竜族の長老達は、私に魔導具の生成を命じました。従うのなら罪は不問とする。
少しでも苦しい状況を打破できるよう、強力な武具を欲したのでしょうね。もちろん私は拒否しました。
面会したとき、考えつく限り罵倒しながらね。その腹いせか、奴等は私を封印しました。
おそらくは、私の魔導具生成のノウハウを失いたくなかったのでしょうね。
記述とかは、逃げるときに全て燃やしましたから。
それから・・・・・・・私は封印され、長い時を過ごしました。
そしてこの時代に、一人の男性の手によって封印から解放され、自由を得たのです」
「どうしてあんたは封印されたままだったの?知識惜しさだったらすぐ封印を解きそうなものだけど・・・・
それに、封印を解いた男っていうのは・・・・・」
「まず、前者のことですが・・・無理だったんですよ。私が封印された後、その国が滅んだそうですから・・・・
冥王の手によってね。ついでに、私を封印した張本人である長老達も死んだらしいですから、
覚えている人もいなくなったのでしょうね。
私も古い文献や言い伝えから推測しただけですから、どこまで当たっているかは分かりませんが・・・
そして、後者のことですが・・・あなた方も知っているはずですよ?」
私が知っている?そんな過去の封印を解けることができる知り合いなんていたか?
そんな事ができそうな人物なんか、隣にいる姉ちゃんぐらいしかいないが・・・・一体誰だ?
「分かりませんか・・・仕方がないかもしれませんね。
彼は貴方とは敵対していたらしいですから・・・・」
ということは、過去、私がぶちのめした奴等の中にいるということか?
そんな無茶苦茶凄い奴なんて・・・ゴロゴロいたから分からん。
結構昔から居て、なおかつ私と敵対、しかもすでに倒した・・・魔族か?
「赤法師・・・と言えばお分かりになりますか?」
「―――――!!」
赤法師・レゾ!!確かにあいつなら私とガウリイに敵対し、なおかつこの世にはもういない。
ゼルの話だともうかなりの年齢になるとのこと・・・
それに、目を治すという妄執に取り憑かれたあいつなら、過去の技術に目を付けていてもおかしくはない。
「彼は、自分の目を治療するため、過去の技術や魔法を調べている際、偶然私の封印を解いてくれたのです。
以来、それが元でいろいろとつき合いがありました。お互いの技術の提供しあったり、知識を寄せ合ったりと・・・
しばらく世話になった後、私は彼の元を去りました。お互いの最終目的が違いすぎましたからね。
私は復讐の為に魔竜王と手を組み、色々な国や教団に手を回しました」
「インチキくさい魔王崇拝教団に手を貸して異界黙示録の写本に書かれている知識を手に入れたり、
ルヴィナガルド王国のぼんくら国王に、人と魔を融合させることを吹き込んだってわけ?
ついでにいえば、デーモンの研究をしていた魔導士の技術をかっさらわせた事もあるわね」
私の推測と皮肉の混じった口調にも、アーウィンは顔色一つ変える事なく、
ただ、じっと私の言葉を聞いていた。
「ええ、その通りです。しかし、まさかその全部に貴方が関わり、邪魔したときには驚きましたね。
がらにもなく、運命なんていう曖昧なものを信じそうになりましたよ・・・・
その上、魔竜王は滅びるし、私の復讐の一つであった冥王までも消滅する・・・
正直に言って、私のしてきたことを根本から否定された気分でした」
「それを聞いただけでも、あたしは胸が少しはスッキリするけどね」
「スッキリしすぎているような気もするがな」
「あんたは黙ってなさい」
私は横でいらん事を言ったガウリイを裏拳で黙らせる。
最近、腕力が嫌になるほどついたため、攻撃力はなかなかのものがある。
「で?それで今度は覇王についたわけ?」
「ええ、利害の一致でね。あくまで表向きは・・・ですけど・・・・」
「表向き?」
「ええ、覇王は、千年前の降魔戦争の再来以外にも、ある計画を練っていたのです」
覇王が練っていたもう一つの計画・・・私はそれがなんなのか、なんとなく予想がつく。
とにかく、覇王は、誰かが先にやったことをまねようとする所がある。
ディルス王国で、ウェルズ国王に化ける際に、わざわざ赤眼の魔王の真似をして、
本物の国王に屍肉呪法という邪法を使ったり、
冥王が千年前に起こした降魔戦争を、今度は自分の手でやろうとした。
となると、つい一年とちょっと前に冥王が考案した計画の二番煎じをやろうとしてもおかしくはない。
こう考えるとなんだが・・・あいつは自分で考えるという思考を持っているのかが疑わしい。
部下の名前だの何だのと、やることなすことろくに考えちゃいない。
「金色の魔王の降臨・・・というか、混沌の力による世界の破滅」
「ご明察です。私がその力を引き出す手だてを考え、それによって世界を破滅させる。
・・・・・という計画だったのでしょうね。それが土壇場になって反逆、
自分の主を消滅させることになるとは夢にも思ってもなかったでしょうがね」
確かに・・・あの覇王も全てを信じているはずはないにしろ、
自分に噛みつく以前に、親玉にちょっかいかけるとは思ってもいなかったのだろう。
何にしろ、私から言わせてもらえば自業自得なのだが・・・・
一つ気になることがある。こいつは今、反逆といった。
それは即ち、覇王の計画より逸脱した目的があるということだ。
「あんたの最終的な目標っていうのはなに?復讐する対象はもういないんでしょう?」
自分が慕っていた女性に手をかけた連中はもう遙か時の彼方・・・・
その対象を消し去った冥王は消滅。
もし、過去でなにも手出ししなかった空竜王に復讐したいと思っているのなら、
いつまでもこんな所に引きこもっているのはおかしい。
「復讐の対象はもういない?そんな事はありませんよ?
あの時、彼女が殺されそうになっても何一つ動こうともしなかった神・・・
醜い心で彼女の心と命を踏みにじった全ての種族・・・
その醜い心を影で操った魔族・・・・すべて私の復讐の対象です」
「魔族が操ったって・・・一体どういう事かしら?」
姉ちゃんが疑問の声をあげる。
確かに、今の今まで、魔族がどうのこうのとはいっていなかったはず・・・なぜ?
「簡単ですよ、私達が世話になっていた帝国、その皇帝に魔族が近づき、たぶらかした・・・そういう訳です。
もっとも、魔族は正体がばれ、逃亡の最中、滅ぼされたそうですが・・・
魔族の残した疑惑の種は見事に発芽し、当初の狙いどおり、彼女は死んだ。
竜族の長老達はそれに気付きながらも、無視していたそうです。
神族側が優勢な今、危険すぎる力は必要ない・・・そう、私に言ったのですよ」
「だから・・・この世の全てのものを滅ぼすため、力を欲した」
「そういうことです。まあ、例外があるとすれば、この子と水竜王・・・そしてニースぐらいですか・・・・」
なるほど・・・こいつがカタート山脈に封印された赤眼の魔王を真っ先に滅ぼしたのは、
恩があった水竜王の仇をとるためだったのか・・・
もちろん、重破斬を試すという目論見もあったのだろうが・・・
しかし、私が一番気になったのはそれではない。
「前の二つについてはなんとなくわかるけど・・・何でニースまで除外されるのかしら?」
「ニースは・・・彼女の相棒であり、親友でしたから。
そして、彼女を守ろうとしてくれた数少ない人でもありましたしね。
私のやることを、良くは思ってはいないようですが・・・・力を貸してくれる恩もありますし・・・・・・」
アーウィンは少し悲しそうな顔をすると、ゆっくりと頭を振った。
その様子は、何かの考え、もしくは思い出を振り払うかのようにも見える。
「私はこの大地に生きる全ての者を滅ぼす・・・それがこの世界の存続を望む神族と人間達への復讐・・・
そして、全てが滅んだ後で、私が創造した新たなる種族と共に世界を再形成する。
それが、世界の滅びを望んだ、魔族への復讐です」
世界を巻き込む程の『悲しき狂気』と『激しい憎悪』・・・・それが、アーウィンを突き動かす原動力なのだろう。
私はかつて、愛する女性を殺されたことによって、魔王になった男と相対したことがある。
その男の瞳に浮かんでいた色と、アーウィンの瞳の色は、悲しいまでに酷似している。
私はまた・・・あんな戦いをくり返さなくてはならないのだろうか・・・・・・・
「・・・・・・話が長くなりすぎましたね・・・・そろそろ始めましょうか」
「・・・・・もう一つ教えてくれる?なぜ、私達をこの場に招いたの?
ニースとあなた達がその気になれば、いつでも私達を倒せたはずよ」
そう、身動きがとれない北の魔王よりも、自由に動ける私達の方が厄介なはず。
そして、不意打ちをする機会は、いくらでもあったはず。
問答無用で世界を滅ぼすのなら、さっさと消してしまえばいいのに・・・・
それなのに、こうして真正面からぶつかり合っている。私にはこの男の意図がまるで見えない。
「最後の審判です。私達が勝てば、この世界に生きる者を全て滅ぼし、新たなる世界を創造する。
あなた達が勝てば、今の世界が存続する。単純明快でしょう?
それに・・・・試したいのですよ。自分が世界を滅ぼすほどの決意と意志の強さがあるのかどうかをね・・・」
私達と此奴との戦いが世界の運命を左右する。
なんとも話が大きいことだ。私はそんな気持ちは一片たりとも持ってはいない。
ただ、自分が生きてきた今まで、そしてこれからを守りたい為だけに戦うのだ。
その為には、手段は選ばない。例え、卑怯と罵られることがあろうとも・・・・
「さあ!始めましょうか!!」
「あんたには悪いけど、そうそう付き合うわけにはいかないのよね!!」
私は右手でアーウィンを指差し、こっそりと唱えておいた呪文を解き放つ!!
「獣王牙烈閃!!」
私の右手の指から、一条の閃光が解き放たれる!!
この呪文、一見は獣王牙繰弾に似ている・・・が、中身は全然違う。
まず第一に、この呪文は獣王牙繰弾と違って、自由自在に操ることができない。
ただ単に、真っ直ぐに飛ぶしか芸のない呪文なのだ。
その代わり、光線のスピードは桁違い。文字通り、閃光の如く速い!
アキトや姉ちゃん程の強さをもった人物ならともかく、
世間一般で一流といわれるレベルでは避けるどころか、反応できるかどうかすら怪しい。
ガウリイで試したところ、避けることができず、剣で叩き落とすのがせいぜいだった。
(俺を殺す気か!!って、かなり怒ってたけど・・・・・・)
そして、アーウィンはどう贔屓目に見ても武術とかはできそうにない。
一条の閃光は、驚きに目を見開いているアーウィンの胸元に突き刺さ・・・・
キィィィーーーーン!!
「―――――そんな!!」
光線がアーウィンの胸元に後少しで届こうとしたとき、
アーウィンの前方に赤い光を放つ何かが出現し、光線をはじいてしまった!!
その光景は、まるでアキトが使っている空間を歪めた結界に限りなく似ていた。
色の違いさえなければ、同じモノだと言われても納得したかもしれない。
私はそれを確かめるべく、素早く次の呪文の詠唱を唱える!!
「烈閃砲!!」
私の手の平から放たれた光が、先程と同じ軌跡を辿り、アーウィンに迫る!!
が、結果は同じ・・・・赤い結界にはじかれ、あらぬ方向へと飛んでいった。
(アキトの使っているヤツとは全然違うみたいね・・・しかも精神世界面の攻撃にも有効みたいだし・・・
強度においても、獣王牙烈閃を余裕で防いでいたから、同じ腹心クラスの魔法じゃビクともしないわね・・・)
「危ないですね・・・防護結界がなければ死んでいたところでした」
アーウィンは、最初の魔法で驚いたのか、しばらく硬直していたみたいだ。
逃げようとする素振りさえ見せなかった・・・というよりは、反応すらできなかったのだろう。
やはり、武術等のそういう方面では素人といい勝負ということか。
しかし、そんな事を考えている暇はない!何とか私がフォローをしないと・・・
そう考えている隣で、姉ちゃんは瞬時に創りだした魔力弾をアーウィンに向かって投げる!!
「ハッ!!」
なかなかの早さだが、それでも獣王牙烈閃と比べると、かなり見劣りする。
その上、溜の時間がない以上、その威力は期待できるものではないはず。
一体姉ちゃんは何を考えているのか?
そうこう考えている間に、魔力弾はアーウィンに迫っていた!
「リナ、目を瞑りなさい」
姉ちゃんが、私に聞こえるかどうかというぐらいの声で呟く。
私は一瞬、訳が分からなかったが、反射的に目を瞑った。
―――――その次の瞬間!!
閉じた目蓋を通してもなお眩しいと思うほどの光が発生した!!
正確にはわからないが、おそらく、姉ちゃんが投げた魔力弾が激しい光を放ったのだろう。
要するに明かりの応用といったところだろう。
アーウィンの防護結界と接触したら、閃光を放つように魔力弾に細工をしてあったというところだろう。
目を瞑っていた私ならともかく、完全な不意打ちだったはずのアーウィンはたまらないだろう。
閃光は一瞬だけ・・・目を開けた私の視界に飛び込んだ光景は、
視界を奪われ、顔を押さえて悶えているアーウィンと、
間近まで迫っていたガウリイが、妖斬剣を振りかぶっているところだった。
本当なら、獣王牙烈閃が避けられた場合の保険だったのだが・・・・
姉ちゃんの目眩ましが効いていないところを見ると、事前にでも話をしていたのだろうか?
そんな私の考えを余所に、ガウリイの振り下ろした剣が、赤い防護結界によって阻まれる!!
「ダリャァーー!!」
ガウリイが力を篭めると同時に、妖斬剣が紫色の光を纏い、赤い防護結界を切り裂いた!!
そして、剣はそのままアーウィンへと殺到し、その身を斬り裂く―――――はずだった!!
しかし、いつの間にかガウリイの目前に回り込んだメアテナが、右手に目映い赤色の光の剣を持ち、
妖斬剣の一撃を易々と受け止める!!
「なに!!」
「それはまさか!!」
ガウリイと姉ちゃんが同時に驚いた声をあげる!
特に姉ちゃんにいたっては、ここまで驚いているのはそうそう見られるものじゃない。
メアテナは周囲の驚きを気にもせず、何も持っていない左腕を振りかぶり、
斬り結んだままだったガウリイに向かって振り下ろした!!
ガウリイが後ろに飛び退くのと、暗い色をした赤色の光の剣が通り過ぎたのが、ほぼ同時だった。
「今度は・・・・無茶苦茶ね・・・・」
姉ちゃんは驚きを通り越して、かなり苦しい顔をしている。
それにしても、あの暗い赤色の光の剣・・・以前どこかで見かけたことがあるような無いような・・・・
「おっそろしい武器だな!!」
そう言ったガウリイのブレスト・プレートが、浅く切り裂かれていた。
念のために、以前と同じように魔皇霊斬をかけていたのだが・・・何の役にもたっていない。
もしそのまま斬り結んでいれば、ガウリイは真っ二つに斬られていただろう。
ガウリイは、後ろに下がりはしたものの、この機会を逃すつもりはないのだろう。
すぐにメアテナに向かって斬りかかった!
ガウリイはメアテナをやり過ごし、後ろにいるアーウィンに斬りかかるつもりだったのだろう。
だが、メアテナの動きは、私とガウリイ、そして姉ちゃんの予想をはるかに裏切っていた!
「くっ!!」
ガウリイが焦った声をあげる!
それもそのはず、メアテナはガウリイとの斬り合いに少しも劣っていない。
それどころか、あのガウリイが、二本の赤い光の剣に圧されている感じさえもする!!
「リナ!!」
「わかってる!!」
姉ちゃんが先に動き、私も後に続いて走り出す!!
が、ガウリイの援護をする前に、そのガウリイが祭壇の上からいきなり弾き飛ばされる!!
ガウリイは斬り合いに集中していたのか、横からの衝撃波をまともに受けたようだ!
ろくに受け身もとれないまま、祭壇の一番上から落下した!
「ガウリイ!!」
私は心配になってガウリイに駆け寄る。
「大丈夫だ」
私が近寄る前に、ガウリイは立ち上がったのだが、足下がフラフラしていた。
落ちた衝撃のせいで、軽い脳震盪でもおこしているのかもしれない。
「ガウリイさん、構わないからそこに座っていてください。後は私とリナがやります」
「俺は大丈夫だ」
「大丈夫だじゃないでしょうが!そんな口はまともに立てるようになってからいいなさい」
私はガウリイを無理矢理に座らせる。
本当は辛かったのだろう、思ったより抵抗もなく、ガウリイは地面に座った。
「まさか・・・そんな手でくるとは・・・何が何でも勝つためにはあらゆる手を用いて戦う。
それがあなた達の強さというやつかも入れませんね。一つ勉強になりました」
アーウィンは薄く目を開けながらこちらを見やる。おそらく、ガウリイを吹き飛ばしたのは彼なのだろう。
指向性の衝撃波・・・メアテナが何ともないところを見ると、そういったものだろう。
もし、彼がガウリイを殺す気があれば、放たれる殺気でも感じて避けていたかもしれないが・・・
それでも、あくまで『かも』だ。大した怪我がなかったことを僥倖と思うべきなのだろう。
「でも、ここは私に付き合ってもらいます。私とメアテナ・・・・そしてあなた方姉妹・・・・
持てる力の全てを使い、私達と勝負してもらいます!!」
これは・・・私には迂闊なことはできない。
あの防護結界を突破しようにも私の手持ち呪文でそれができそうなものは三つだけ・・・
この世界の魔王、赤眼の魔王・シャブラニグドゥの力を借りた世間一般での最強呪文、竜破斬・・・
金色の魔王の力を借りた、対個人用で無類の攻撃力を誇る神滅斬・・・
同じく、金色の魔王の力を借りた、私の最強呪文であり禁呪である、重破斬・・・
だが、竜破斬で倒せるかどうかは、あくまで私の予想。
もし、相手がこの状況を想定していたとすれば、容易く防がれる可能性は大だ。
神滅斬に至っては、問答無用で却下。
ガウリイを剣の技術だけで圧していた相手に、私程度の腕前では斬り結ぶ前にやられるのが落ちだろう。
となれば・・・・いや?姉ちゃんなら何とかなるかもしれない。
姉ちゃんがメアテナを相手にしている間に、私が神滅斬で・・・・
「リナ、あなたが何を考えているのか予想できるけど、それは無理よ。
仮に、私があの娘を引き受けたとしても、
あなたがアーウィンを斬り裂くよりも先に、相手の方があの呪文を完成させるわ。
そうなれば・・・問答無用で私達の負けよ・・・それに、同じ手が二度も通じるほど、甘くはないでしょうしね」
それはつまり・・・姉ちゃんはメアテナの相手をするだけで精一杯・・・ということか・・・・
本気を出せば勝てるのだろうけど、相手が呪文を完成させる前に倒すのは無理・・・ということなのだろう。
遠距離からの一撃で・・・というのもやはり無理がある。
いかな姉ちゃんといえども、強大な力を使おうとすれば、それ相応の時間を必要とする。
それがどれ程の時間かはわからないが、危険な賭になるかもしれない。
「結局・・・・獣王が言っていたとおり、混沌を混沌で相殺するという手しかない訳か・・・」
「そういう事よ」
「ようやく覚悟を決めてくれましたか・・・・ではタイミングを合わせましょうか」
アーウィンは懐から、スッポリと握りしめることができるくらいの硝子球を取り出す。
それを私達によく見えるようにかざした。
「この球が地面に落ち、砕けると同時に呪文を放つ・・・それで良いですね?」
「そんな事をしても良いの?もし私が先に呪文を放ちでもすれば、あんたはそれで終わりなのよ?」
「それは大丈夫でしょう。詠唱時間はそれほど変わりはないと思いますし・・・・
仮に、あなたが先に放ったとしても、余程のことがない限りは、この防護結界で数瞬は防げると思いますから・・・
その間に、私もあなた達に向かってあの力を解き放てばいいのですから・・・
それとも、この防護結界ごと一瞬で消滅させる自信がありますか?」
良くて相討ちに持ち込めるだけか・・・完全版の重破斬であれば、
あの厄介な防護結界ごと、一瞬で消滅させられるかもしれない・・・が、同時に世界を滅ぼしかねない。
奇跡と偶然、そして幸運の三つが重なることを期待するのは、あまりにも無謀すぎる。
「わかったわよ・・・真正面から受けてやろうじゃないの!!」
「感謝します・・・・」
アーウィンはその手に持っていた硝子球を強く握りしめる。
神も魔も・・・恐れ敬う最高の魔王『金色の魔王』の欠片が、この世界に降臨しようとしていた!!
(第二十八話に続く・・・・)
―――――あとがき―――――
どうも、エルネシアです。長らく出番がなかったので、この場をお借りして、皆さまに会いに来ました。
さて・・・どうでしたか?黒幕、アーウィンの正体・・・皆さまは予測できましたでしょうか?
『そんなのわかるか!』という言葉でもお有りでしたら、作者へ言ってください。
皆さまはどう思われましたか?アーウィンの行動を・・・非難しますか?それとも、賛同しますか?
こういったものには、正解があるとは思えません。
これは私の考えであって、他人に押し付けるものではありません。でも、少し考えてみてください・・・
次回では、混沌と混沌がぶつかり合う、魔法戦闘になります。
一体どんな結果になるのか・・・・それは、私にもわかりません。
威力的に見るのなら、水竜王の封印ごと魔王を消し去った、アーウィンの方が優勢だと思えますし・・・
かといって、リナさんの方には、ルナ様がいますし・・・五分五分でしょうか?
皆さまも、予測してみてください。結果は・・・次回のお楽しみということで。
最後に・・・・・K・O様、YU−JI様、D様、T2様、一輝様、下屋敷様、失敗作様。
TAGURO様、tj様、スレイヤー様、ホワイト様、watanuki様、kain様、ザイン様。
御感想、ありがとうございます。暑さと仕事に倒された作者に代わり、厚く御礼を申し上げます。
それでは・・・次回、第二十八話『願い・・・・そして、望み・・・・・』を、お待ちください。
代理人の感想
・・・・一言だけ。
竜族の長老って「無能な政治家」以外の何物でもないよーな気が(核爆)。