赤き力の世界にて・・・

 

 

 

 

 

第35話「赤き竜と蒼き竜・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・・次は私達の番ね」

「ええ、どうぞ。これ以上はやる気力もないわ・・・・でも姉ちゃん、こんな状態で始める気?」

 

 

リナは、自分たちが闘った後を指差した。

そこには、大きさに違いはあれど、無数のクレーターがあり、平地は数えるほどしかない・・・・

場所によっては、クレーターに湖の水が入り込み、小さな溜め池を作っていた。

 

 

「ああ、あれ?気にしない気にしない。こうすればいいのよ」

 

 

そういいながら、ルナはパチン!と指を一回鳴らす。

それと同時に、今まであった周りの違和感が無くなり、同時に闘いの傷痕も消え去っていた。

 

 

「ね?これで元通りでしょ?」

「もしかして・・・・結界を解いたから?」

 

「そうよ。あの結界は、この世界よりほんの少し位相のずれた世界を創り出すもの。

どんなに周りを破壊しようとも、元の世界に被害を出すことはないわ。

絶対に・・・・とはいいきれないけど、まあ、余程非常識でない限りは大丈夫なはずよ」

 

 

ルナの答えに、リナは感心したような・・・ともすればあきれたような顔をして納得した。

今度、重破斬ギガ・スレイブを試してやろう・・・・と、考えつつ。

 

 

「納得したところで・・・・もう一度結界を張るわね」

 

 

ルナは、前と同じように光球を作り出し、結界を張った。

やはり、いつものと同じらしく、アキトの体には蒼銀の光が・・・・

ルナ、ニース、メアテナの体には、色に差異はあれど、赤い色の光が発せられていた。

 

それらを見ながら、リナはふと、疑問を思いついた。

 

 

「姉ちゃん。結界を維持したままアキトと闘うの?」

「そういわれれば・・・・・そうよねぇ・・・・」

 

 

ルナの脳裏に、ゼフィーリア王城でニースと闘ったときの事が思い浮かんだ。

あの時は、お互いの攻撃の余波だけで、結界が崩れたわけではない。

ルナが戦闘に集中し熱くなりすぎたため、結界の維持が疎かになっていたのも要因の一つだったのだ。

 

今度の闘いは、アキトのリハビリと、譲られた赤竜の力の使い方を実戦で学ぶ・・・というのが目的なのだが、

ルナ対ニースゼフィーリア王城の闘いより派手にならない・・・・という保証は全くない。

むしろ、派手になる可能性の方が圧倒的に高い。

 

ルナは、意外な盲点に少しの間、頭を悩ませていた・・・・・・

 

 

(どうしようか?ニースは結界なんて苦手だっていっているから、おそらく無理でしょうし・・・

メアテナちゃんも、結界を創り出すことは・・・・・できなかったっけ?)

 

「メアテナちゃん。結界を創り出すことはできる?」

「ん〜・・・よくわからない。やったこと無いし・・・・・私の赤竜の力って、ルナ姉さんより弱いし・・・・」

「一つの体に神と魔の力が半分ずつだものね・・・・そうだ!」

 

 

結界の創造は無理か・・・・と、ルナが考えていたとき、別の方向で問題を解決することを思いついた。

 

 

「メアテナちゃん。私の手を握って、目を瞑ってくれる?」

「うん・・・・・これでいいの?」

 

「ええ、それで、今度は赤竜の力を集中して・・・・・・そう、いい感じよ。

今から私が結界の維持をメアテナちゃんに任せるから・・・・頼める?」

 

「うん、頑張る!」

「ありがとう。じゃあ、いくわよ」

 

 

ルナとメアテナの身体から発せられていた赤い光が、一瞬だけ、まったく同じタイミングで光を強くした。

結界の維持をメアテナが受け継いだのだ。

周りにはこれといった変調が見られないことから、上手く成功したらしい。

 

 

「これが・・・結界を維持しているという感覚・・・・思ったより楽だね。ルナ姉さん」

 

「まぁね、一番疲れるのは結界の創成時だもの。

それにね、その軽い負担でさえ、アキト君やニースを相手にするときには命取りになりかねないのよ。

まさに紙一重の勝負。力に余裕があることに越したことはないのよ」

 

 

ルナの説明に、メアテナは理解した・・・といわんばかりに、しっかりと肯いた。

少し離れていた所で聞いていたリナも、内容は予想はしていたものの、

はっきりと、目標にしている姉から聞かされる事実に驚いていた。

予想していても、実際に聞かされるのとでは、大きな差がある。

 

 

(よく考えれば、私ってアキトが本気で闘っているところなんて見たこと無いのよね・・・

ゼルとアメリアとの戦闘訓練時でさえ、まるで本気を出してなかったし・・・・・・)

 

 

リナは、これからおきる戦闘に戦慄をおぼえ、無意識の内に後ろに二、三歩下がった。

今までの人生で培ってきた生存本能が、この場からの撤退を推奨しているのだ。

リナとしても、この提案を素直に受けたかったが、

それよりも、二人の戦闘に対する興味の方が強く、結局はこの場に留まった。

 

・・・・・・さらに後ろに下がりつつ・・・・

 

意外なことに、リナ達よりも近場で見物すると思われていたニースも、リナに倣ってかなり後方に下がった。

ガウリイやメアテナも、ニースと共に後ろに下がった。実に正しい行動だ。

 

 

「しかし・・・ニースが後ろに下がるとはね。あんただったら近場で見そうなのに」

「確かに、近場で見たいのはやまやまだが・・・見物料を命で支払うのは嫌だからな」

「ま、まさかぁ・・・いくら姉ちゃんでも、アキト惚れてる相手にそこまで・・・・」

「見ていればわかる」

「そりゃごもっとも・・・・・」

 

 

リナとニース、ガウリイとメアテナの四人は、

間合いをとりながら、光を強めている力を発揮しようとしているルナとアキトに目を向けた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ねぇアキト君。ただ闘うのもなんだから、賭でもしない?」

「賭ですか?」

「そう。負けたら相手の言うことをなんでもきくの。一度だけね」

「それは・・・・」

 

 

何となく・・・・受けてはならないような気がして、返答に困るアキト・・・

それを見越していたかのように、ルナはアキトに再び声をかけた。

 

 

「そんなに深く考えないで。嫌だったら、拒否してもかまわない、って条件だから」

「それなら・・・」

「決まりね!じゃぁ始めましょうか!」

 

 

そういって、さっそく構えをとるルナ・・・・

もちろん、武器などは持っていない。つまりは無手での格闘の構えだ。

かなりの実力をもっているのか、アキトの目から見ても隙は全くない。

 

 

「てっきり剣でくるのかと思ってたんですけど・・・・」

 

「意外だった?私もあんまり格闘技が得意ってわけじゃないんだけどね。まあ、準備運動も兼ねてね。

力を使った攻撃もするから、アキト君も遠慮しないでね」

 

「わかりました」

 

 

アキトは数歩後ろに下がり、全身に力を漲らせ始める。

それに比例して、身体からは蒼銀の色とは違った、純粋な光が溢れ始めた。

 

 

「凄い『氣』ね・・・・でも、昂氣は使わないの?」

 

「使いますよ。でも、準備運動ってルナさんも言っていたでしょ?

それに、習った氣功術の技を験してみたくて・・・・」

 

「そうなんだ。アキト君の氣功術か・・・・・楽しみね。アキト君はいつも、良い意味で予想を裏切ってくれるから」

「ははは、ルナさんの期待に応えられるように頑張ります」

「あんまり気張らないでね・・・・じゃぁ、始めましょうか!」

「はい!」

 

 

その言葉を言い終わると同時に、二人はその場から姿を消す!

その次の瞬間には、一気に間合いを詰めた二人が、拳同士を打ち合わせていた!

拳を中心にして、軽い衝撃波が辺りに走る!その一撃の威力はかなり高い!

 

二人はすぐに拳を離すと、後ろに一歩もひくことなく、次々に攻撃を繰りだし始めた!

疾風よりも速く、嵐よりも激しい攻防!

しかし、二人にはまだまだ余裕の範囲レベルらしく、汗一つかくことなく、いつもと変わらぬ会話をしていた。

 

 

「凄いですね、ルナさん。格闘技は得意じゃないってのは謙遜だったんですね」

 

「そんなこと無いわよ、アキト君。私はこれが精一杯。本当に凄いのはアキト君の方よ。

私の攻撃を全部避けてるのですもの。私は防御しないといけないのにね」

 

「格闘技が、俺の数少ない特技ですからね。面目躍如といったところです。

それより、ルナさんも氣功術が使えたんですね」

 

「多少だけどね」

 

 

そういうルナの拳は光を纏っていた。ただし、アキトとは多少違い、少々赤い色が混じっていたが・・・

 

 

「氣功術は苦手なの。それに私の場合、生まれついて赤竜の力があったから、無理に極める必要もなかったしね」

「確かに・・・そうかもしれませんね」

 

 

実際に考えても、氣功術で得られる力より、赤竜の力を使う方がはるかに効率がいい。

身体能力の強化アップをはじめとし、ありとあらゆる面で赤竜の力が勝っているのだ。

使い勝手という面では、昂氣よりも勝っているといっても良い程だ。

 

しかし、ルナには別の事情もあった。

ルナが氣功術を使おうとしても、無意識の内に赤竜の力を使ってしまうのだ。(だから、赤い色が混ざっている)

アキトの昂氣のように、後天的に得たのなら、力の使い分けもできたかもしれないが、

ある意味、本能の一部になっている赤竜の力の扱いは、人が物を掴むことや歩くことと同様、

特に意識することのない、ごく自然な事といってもいい。

 

 

「私には力を使い分けることができない・・・・・

だから、もの凄い『氣』をもち、氣功術を会得しつつあるアキト君を純粋に凄いと思うわ!」

 

「俺としては、自分の持つ力を、自由自在に制御しているルナさんの方が凄いと思いますけどね!」

 

 

二人はそう言い終わると同時に、右足に『氣』を集束させ、まったく同じタイミングで上段回し蹴りを繰り出す!

それなりの力を持った攻撃がぶつかり合った際、辺りに衝撃波が走り、

ルナとアキトはそれより数瞬遅れ、弾かれたように後方へと吹き飛んだ!

 

だが、そこは人外な実力を持つこの二人、かなりのスピードで吹き飛んだのにも関わらず、

空中で一回転をしつつ体勢を立て直し、なんの苦もなく地面に足をついた。

 

 

「アキト君、身体の調子はいいようね」

 

「ええ、心配したようなぎこちなさもありませんし・・・腕に関しては前よりも調子がいいみたいです。

それより・・・・そろそろ良いですよ」

 

「そう?」

「ええ、ルナさん本来の闘い方にしても結構ですよ」

「じゃぁ遠慮なく・・・・といっても、無手のアキト君に武器は使わないけどね」

 

 

ルナは、半分ほど目を瞑り、息を深く吐きながら精神を集中させる。

そして、目を見開くと同時に身体から光の波動が放たれ、一瞬だけ辺りを柔らかく照らした。

 

 

「私本来の闘い方・・・・武器と術を併用し、相手を倒す・・・・とりあえず、術から・・・・・

私としても、術を本格的に使うのは久しぶりだから、徐々にいくわ」

 

 

ルナの周りに、黄金きん色の炎が突如発生し、数十本の矢へと変化する!

見た目的には炎の矢フレア・アローと大差はないが、その存在感と威圧感は比べ物にならない!

 

 

「行け!!」

 

 

ルナの号令に従い、数十本ある黄金きん色の炎の矢フレア・アローは、アキトに向かって飛翔する!

その速度も、本来の炎の矢フレア・アローの何倍もあった!

 

だが、アキトにとっては避けることは雑作もない距離であり、速度だ。

素早く右側に向かって飛び、炎の矢フレア・アローを難無く避ける。

 

目標を失った黄金きん色の炎の矢フレア・アローは、後方にあった岩に無数の風穴を開けつつ、さらに向こうへと飛んでいった!

そう・・・物理的には破壊することができなくなったはずの岩に、穴を開けて・・・・

 

 

「まともに喰らうと危険ですね・・・・」

「まだまだ序の口よ。それにアキト君なら、目を瞑っていても避けられるでしょ?」

 

「まあ、今の程度なら・・・・でも、お手柔らかにお願いします。

せっかく怪我が治ったのに、大怪我をしたら、元も子もありませんから・・・・」

 

「善処するわ。できる限りね」

「お願いします」

 

 

ルナは黄金きん色の炎をその身に纏わせ、なおも炎を増大させる!

アキトもそれを見ながら、体内の氣をさらに練り上げ始める!

 

二人の間に、張り詰めた緊張感が漂っていた・・・・

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

リナは、初めて見る姉の魔法に、ただ呆然としていた・・・・

見たことのない魔法・・・正確には、黄金きん色の不可思議な炎・・・に目が釘付けとなっていた・・・・・

 

炎の色は、温度によって変化する。それは誰もが知っている常識。

白魔法に、悪霊などを浄化する白き炎を作り出す術はあるが、それでも人への攻撃力は皆無。

だが、あの黄金きん色の炎は、まぎれもなく高い破壊力をもっている。

しかも、精神世界面アストラル・サイドにも有効な・・・・・・

 

未知の魔術に戦慄するリナの耳に、近くにいたニースの呟きが入ってきた。

 

 

「ほう、精霊術か・・・・・・」

「―――――!?」

 

 

リナは一瞬自分の耳を疑った。

この結界内では役立たず・・・よくて牽制程度にしか使えないと思っていた精霊魔術が、

ルナが使っている不可思議な魔術だという事実に!

 

 

「ニース!あんた、今なんて・・・・・」

「精霊術と言ったのだ。何かおかしな所でもあったか?」

 

「おかしなところって・・・・あんな精霊魔術は見たこと無いわよ。

それに、精霊魔術が精神世界面アストラル・サイドに干渉できるはずは・・・・・」

 

「ない・・・・か。まあ、そうだろうな。今現在、使える精霊術では、干渉できるはずはない。

だが・・・ルナの使っている精霊術は違う。あれは人はおろか、魔族にすら有効だ。

それに、基本的な勘違いをしているぞ。精霊魔術ではない、精霊術だ」

 

「精霊・・・術?」

 

「そうだ。精霊の力を借り、行使する術・・・神魔戦争時、神に属した人間達の主力の一つだったもの・・・

それが精霊術・・・そして、使い手を『精霊使い』又は「精霊術士』と呼ぶ・・・・

しかし・・・・まさか、再び見ることができるとはな・・・・・」

 

「と、いうことは・・・私でも使えるの?」

「いや、無理だ」

 

 

幾分か期待をこめて言ったリナの言葉を、まったく間を空けることなく即座に否定するニース。

気持ちいいくらい、キッパリとした返事・・・・もの凄く不愉快な感じもすることは否めない。

実際、リナは不満げな顔をして、ニースに喰ってかかった。

 

 

「どうしてよ。私じゃ無理だっていうの?」

「リナだけではない。誰にも不可能だ。何しろ、精霊自体が存在しないのだからな・・・」

「精霊自体って・・・どういうこと?私達が使う精霊魔術は、精霊の力を使っているはずでしょ?」

 

「言い方が悪かったな。今現在、リナ達が使っている精霊魔術は、世界に満ちる精霊の力を借りている。

だが、精霊術は根本的・・・・・力を借りる相手からして違うのだ。

精霊術は、ある存在・・・もしくはそれに連なる者に認められ、契約した者のみが扱える術だ」

 

「ある存在?」

「そうだ。世界中の精霊を束ねる者にして、精霊達の長・・・・精霊王だ」

「精霊王・・・・聞いたこともないわ」

 

赤竜スィーフィードと共に闘い、『眠れる竜の大地一つの大陸』ごと消し飛んだからな。その眷属たる上位精霊もろとも・・・

だから、それ以降、精霊術を扱える者は存在しないということだ。わかったか?」

 

「大体・・・・でも、なんで姉ちゃんは扱えるのかしら?」

 

 

リナの疑問を聞いたニースは、今しがた黄金きんの炎を纏ったルナに目を向けながら、

少しの間、思案し・・・・・おもむろに言葉をつむいだ。

 

 

「間違いなく赤竜の力を使っているのだろうな・・・・

おそらくは、周りの精霊から力を借り受ける際、精霊そのものが赤竜の力の影響を受け、

一時的に上位精霊クラスの力を得ている・・・と考えるのが普通だな」

 

 

なるほど・・・と、リナは呟き、一人で肯いていた。

ニースの仮説によって、疑問に思っていた呪文詠唱がなかった事に、納得したのだ・・・・

 

(つまり・・・私達みたいにいちいち言葉にしなくても、念話か何かで直接力が借りられるってわけね・・・・・

しかしまぁ・・・また姉ちゃんとの差が大きく広がったというべきか、

それとも差がちゃんと見えてきたと言うべきなのか・・・・どちらにせよ、大きな差には変わりないわね・・・・)

 

 

リナは、自分が目標としている者の実力の一端をかいま見て、そこまでの道のりの長さを痛感していた。

だが、その考えとは裏腹に、表情は姉の非常識さに呆れ、目は遠いものを見るような、達観した感じがあった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「次々行くわよ、アキト君!」

 

 

ルナの身体にまとわりついた、黄金きんの炎より、新たに数十本の炎の矢が生み出される!

今度は、ルナの合図を待つことなく、作り出されたら順次、アキトに向かって殺到する!!

 

アキトはそれを見つつ、今度は避けようともせずに、光り輝く右の拳を後ろにひく!

拳の光が強くなるにしたがい、まるでそれに呼応するかのように、周りの空気がアキトを中心に渦巻き始める!

その渦巻く風の中には、無数の光り輝く粒子が含まれていた!

 

 

「地竜式・氣功闘法術・・・・空破!!

 

 

アキトは右の拳を、横に一閃させる!!

その一振りによって生じた、光の粒子を含んだ衝撃波が、黄金きん炎の矢フレア・アローに衝突する!

だが、アキトが放った衝撃波は、黄金きん炎の矢フレア・アローの威力に及ばず、軌道をかき乱すだけに終わった。

 

 

「やはり・・・・空破の威力は低いな・・・・・もう少し、修練の必要があるな・・・・・」

 

 

地竜式・氣功闘方術『空破』・・・自分の氣と、大『氣』とを呼応させ、衝撃波などを増幅させる技・・・・

極めれば、動かずとも辺りの風を自由自在に動かす事ができるという・・・・・・

もちろん、氣を使った攻撃なので、魔族にもそれなりに効果はあるが・・・あくまで『それなり』でしかない。

 

先程のも、アキトが拳を振るった際に生じた風を、増幅させたにすぎない。

こう言えば、アキトが放った衝撃波が弱い感じがするが・・・そんな事はない。

ルナの使った黄金きん炎の矢フレア・アローは、魔風ディム・ウィンクラスの風を軽く突破できるほどの威力はある。

 

 

「空破・・・ね。いつの間に会得マスターしたの?」

 

「話だけならずっと前に。この一ヶ月間、やることが少なかったので、毎日『氣』を練りながら練習してました。

実際に使ったのは、今日が初めてなんですけどね。上手くいってよかったです」

 

「初めてね・・・見たところ、氣の威力も一ヶ月前と比べて格段に強くなっているし・・・

これは私も油断できないわね・・・・」

 

 

ルナはそう言いつつ、纏っていた黄金きんの炎を爆発的に燃え上がらせる!

黄金きんの炎は、周りにあるものに少しも影響を及ぼすことなく、さらに猛々しく燃え上がる!

アキトはその光景を眺めつつ、防御一辺倒じゃやばいな・・・・と、心の内で呟く。

 

 

「もう一回いくわよ、アキト君」

 

 

まるで、散歩にでも誘うかのような軽い口調で言うルナ・・・・

その口調とは裏腹に、放たれた攻撃は限りなく容赦というものがない。

その証拠に、今度は正面に加え、左右と上空からの攻撃が加わっていた!

 

(前面に関しては逃げ場はない!となれば・・・・無理矢理にでも突破する!)

 

アキトは二度、拳に氣を集束させ、大気中の氣と呼応させる!

だが、今度のは先程よりも光の粒子呼応する氣が多く、風も格段に強い!

 

ルナの放った黄金きん炎の矢フレア・アローが近づいたとき、

アキトは腕を一閃させる!それも、今度は拳ではなく、平手の状態で・・・・

 

 

「空破 つむじ!!」

 

 

内容自体は、先程と同じ・・・ただし、今度のは腕の一振りにより巻き起こった旋風つむじかぜを増幅させたようだ。

放たれた技の名称とは裏腹に、旋風は光を内包した竜巻となり、

襲いかかってきた黄金きん炎の矢フレア・アローをその身に巻き込んだ!

 

 

「竜巻をおこして盾代わりにするとは・・・・やるわね、アキト君」

 

 

内包した炎の矢フレア・アロー同士がぶつかり、黄金きんの光を放つ竜巻を見ながら、ルナは呟いた・・・

それと同時に、身に纏った黄金きんの炎をさらに燃え広がらせて、辺りを炎の海にする!

そろそろ、アキトの方から何らかの攻撃があることを先読みしての行為だ。

竜巻の陰に隠れて姿が見えないアキトに、ルナはさらに警戒を深める。

 

 

(攻撃に転じる際は竜巻を迂回するはず・・・となると、右が左か、二者択一になるはず)

 

 

右上や左上・・・といった選択肢もあるが、ルナの反応速度からすれば、それすら右、左で区別できる。

しかし、アキトのとった行動は、ルナの予測を越えていた!

 

 

「正面突破!?」

 

 

竜巻の根本を突き破り、アキトは真っ直ぐにルナに向かって間合いを詰めようとする!

アキトの身体は、竜巻を突破するために、集束した氣を纏って、光り輝いていた!

 

 

「でも・・・・充分対応できる範囲ね」

 

 

ルナはそう言いながら、大地をつま先で叩いた。

すると、ルナとアキトの中間地点辺りの大地がまるで水面のように揺らめく!

 

 

(なんだ?大地の力が集束している?)

 

 

アキトが大地から感じる力が集まってゆく様子を感じたのと、

揺らめいていた大地に、突如として巨大な壁が立ったのがほぼ同時だった!

 

 

「大地の精霊が作り出した壁よ。結構丈夫なんだけど・・・・どうする?アキト君」

 

 

その壁は、銀の光を放ちながら、まるで水晶のように透き通っていた。

もし、銀光さえなければ、壁があるというのが疑わしいくらいの透明度・・・

厚さもアキトの身の丈ほどもあり、ルナの精霊術で作り出された所為もあってか、かなり頑丈なもので、

リナの竜破斬ドラグ・スレイブを連発しても、壊すことはおろか、ひびを入れることすら難しい。

ちなみに・・・・材質的には金剛石ダイヤモンドと同じだったりする。

 

 

「確かに丈夫そうですね・・・・・・・」

 

 

アキトはそう返事しつつも、走るスピードを緩めることなく、氣を右の拳に集束させる!

その集束量は今までとは桁違いで、身体に纏っていた氣すら、集束させていた!

だが、おかしな事に集束したはずの氣は、今までの氣功術とは違い、輪郭をはっきりとさせていなかった。

 

それを見たルナは、アキトが何をしようとしていたのかを悟った。

 

 

(あれは・・・・カタート山脈で私を助けてくれたときに使った氣功術・・・名前は確か・・・・・)

 

「地竜式 氣功闘方術・・・・砕破!!

 

 

アキトは、輪郭がはっきりとしていない氣を纏った右の拳を、透明な壁に叩きつける!

その力加減、勢いからいって、壁をうち破れなければ右の拳が潰れてしまう事は間違いない!

ルナは内心の不安を押し殺し、拳を繰り出したアキトに集中した。

 

だが、ルナの心配は全くの無駄といわんばかりに、透明な壁がひびすら入る暇もなく粉々に打ち砕かれる!

打ち砕かれた破片は、全て砂のような粒子となっていた!!

 

(砕破・・・・対象に振動する氣を叩き込み、粉々に打ち砕く技・・・だったわね。

編み出したガイウスもガイウスだけど・・・・・アキト君も恐ろしい技を覚えたものね・・・・・)

 

迫りくるアキトを見ながら、ルナは赤竜の力をさらに放出する。

放出された赤竜の力と、精霊術によって生み出された黄金きんの炎とが融合し、さらに火力を増す!!

その火力の増した黄金きんの炎は色合いを強め、ルナの拳などに集束した!

 

 

「アキト君。熱いから気をつけてね」

「気をつけてどうにかなるものですか?」

 

 

アキトはルナの拳を避けながら返事をする。

少々余裕をもって遠めに避けているはずなのに、拳の炎による熱気に、アキトの肌はちりちりと痛みを感じた。

全身には氣による防護が行き届いているにもかかわらず・・・である。

氣だけでは、攻撃と防御を同時に行うには力が足りない・・・・と考えたアキトは、昂氣を使い始める!

そのおかげで、紙一重で避けない限りは熱気による影響を気にしなくてもよくなったようだ。

先程よりも、攻撃の避け方の動作が少なくなっている。

 

 

「何度見ても、アキト君の昂氣蒼銀の色は綺麗よね」

「ははは、どうも。でも、ルナさんの赤い色も綺麗ですよ」

「ありがとう」

 

 

ルナは拳に炎を集中させ、左、右と連続した攻撃を繰りだす!

左は余裕でかわしたアキトだったが、右の攻撃が問題だった。

その攻撃は、まるでアキトの回避行動を読んでいたかの如く、避けようとした先に繰り出されていたのだ!

これ以上の回避行動は致命的な隙をつくると判断したアキトは、

左手に昂氣を集束させ、ルナの拳を受け止める!

 

 

(昂氣を集束させてなかったら、今頃、大火傷だな!)

 

 

昂氣を通して感じる熱に、アキトは冷や汗を感じた。

かつて、拳に炎を纏わせる敵と闘っていなければ、そうなっていた可能性の方が高かったのだが・・・

だが、今回はそれだけにとどまることはなかった!

 

受け止めた右の拳に纏っていた黄金きんの炎が、拳より離れて幾本にも集束しながら、

まるで蛇か何かのようにアキトに襲いかかってきたのだ!

アキトは慌てて後ろに軽く下がりながら、左の拳を一閃させて作りだした衝撃波によって炎を散らす!

 

まるで、先の行動を知っていたような攻撃をするルナに、アキトは疑問をぶつけた。

 

 

「動きを先読みしたんですか?」

「いいえ、見えただけよ」

「え?」

 

 

ルナは手の平を見せるように、炎を纏った左手を横に一閃させる!

アキトは、横から迫ってくる力を感じ、さらに後ろに大きく飛びずさる!

その一瞬後、アキトが立っていたところに、横から炎が走り、炎の壁を作り出す!

 

その隙に、ルナは大技を繰り出すために、周りにいる数多の炎の精霊に呼びかける!

 

 

「我が手に集え、炎の精霊達よ!」

 

 

ルナは、その身に纏っていた全ての黄金きんの炎を集束させ、火炎弾を作り出す!

それを見たアキトも、構想していた技の威力を試すのにいい機会だと考え、

右の拳を腰の辺りに引くような構えをとる。

 

 

(集束、加工といったものがやりにくいが、威力が高く、強い力を持つ『昂氣』・・・・

対して、威力は低いが、集束、加工が容易で、応用力に優れている『氣』・・・・

相反する長所と短所をもつ二つの力が融合すれば・・・・・・)

 

 

そう考え、アキトは体内で昂氣と氣を同時に高め、そして融合させる!

そして融合させた力を、手の平に集束させ、目映い程に光を放つ、蒼銀の光球を作り出した!!

 

 

「「ハァッッ!!」」

 

 

二人はまったく同じタイミングで、作りあげたエネルギー弾を放つ!!

二つの光球は、真正面からぶつかり合い・・・・閃光を発した!!

その閃光から数瞬遅れ、炎を含んだ衝撃波が二人に襲いかかる!

 

ルナは迫りくる炎の衝撃波に向かって右手を突き出し、風の精霊に呼びかける!

呼びかけに応えた風の精霊は、ルナの力を受け、蒼く輝く半透明な障壁を作りあげた!!

 

アキトの方は、氣功術で防護壁を作りあげる!

しかも、先程の昂氣弾と同じく、氣と昂氣を混合させたものを使用したため、

その防護壁は蒼銀に輝き、範囲、防御力共に元の防護壁とは比べものにならないくらい強力なものとなった!

 

二人が作りだした障壁の前に、炎の衝撃波はあっさりと散り、なんの影響もなくやり過ごすことが出来た。

 

 

「アキト君・・・大した事するわね、まさか昂氣と氣二つの力を掛け合わせるなんて・・・・・」

 

「昂氣と氣が上手く融合すれば、加工しやすく、強い新しい昂『氣』が出来ると思って・・・

上手く長所同士が合わさってくれてよかったです。

下手をすれば全く逆のものが出来上がったかもしれませんからね」

 

 

アキトは少々冷や汗をかきながら、はははっと笑った。

ルナは、アキトの言葉に少々呆れながら、同じ様に笑った。

 

 

「じゃあルナさん、続きをやりましょうか。昂氣を使った技も試してみたいので・・・・」

「そうね・・・・もう少し、無手での闘いもいいかもね」

「ありがとうございます・・・・それじゃあ、いきます!!」

 

 

アキトは、右手の五指に昂氣を出来る限り集束させつつ、頭上にかかげる。

その指は、何かを引き裂くかのように鈎手状に曲げられていた。

 

 

全てを引き裂け!虎爪襲撃!!

 

 

アキトは叫ぶと共に、腕を下に向けて振り下ろした!

五指が描いた軌跡と同じ形をした、五条の蒼銀の筋が、大地を削りながらルナに迫る!

 

それを横にステップしながら避けるルナ・・・・

後ろに飛んだ五条の蒼銀閃は、はるか後ろにあった岩を六つに裂いたにもかかわらず、

まったく威力を弱めることなく、何処かへと飛んでいった・・・・

 

 

(DFSとは比べものにならないくらい集束率が低い・・・・か。

やはり、なんの工夫も無しに昂氣だけを集束させるのは難しいな・・・)

 

「次は私ね・・・・風の精霊よ・・・」

 

 

ルナの呼びかけに応え、再び風の精霊が周りに集結し始める。

強い力を秘めた蒼き風が、ルナを守るように渦巻き、辺りに強い風が吹き荒れる!

 

 

「ちょっときついの行くわ。油断しないでね、アキト君」

 

 

そう言いつつ、ルナはアキトに手を向ける。

それと同時に、アキトはその場から弾かれるように横へと跳んだ!

次の瞬間に、アキトがいた大地に幾重もの鋭い傷痕ができる!

 

真空の刃かまいたちか!これはいくらなんでも、素手じゃあ受け止められない!)

 

一瞬でも同じ場所にいないように、目まぐるしく居場所を変えるアキト!

少しでも立ち止まれば、次々に襲いかかってくる風の刃に、身を斬り裂かれるだろう!

 

(風の状態を乱すことができれば、攻撃に隙が出きるかもしれないな・・・・・)

 

そう考えたアキトは、『空破・旋』を繰り出すために体内の氣を練り、大気中の氣と呼応させる・・・・が、

アキトがいくら氣を呼応させようとしても、大『氣』が反応することはなかった!

 

 

「無駄よ、アキト君。結界内の風は私の管轄下にあるわ。それは大気であろうとも同じ事・・・・

私が風の精霊の力を借りている限り、空破系統の技は使えないわよ」

 

「そうなんですか・・・なら、これならどうですか?」

 

 

アキトは昂氣と氣を混合させ、体内で集束、圧縮する!

そして、その圧縮させた昂『氣』を、一気爆発させながら解き放った!!

 

 

「聞け!天に轟く竜の咆哮を!秘拳 竜哮破!!

 

 

アキトの体を中心として放たれた蒼銀の衝撃波は、

寸前まで迫っていた風の刃を消滅させ、辺り一面の風の流れを引き裂いた!

 

ルナは襲いかかる蒼銀の衝撃波を、風の障壁で防いだものの、

威力を相殺しきれずに、防御姿勢そのままで後方へと押された!

衝撃波の強さを示すかのように、大地には二本の筋・・・ルナの足跡が残されていた・・・・

 

ルナの攻撃が止んだ一瞬の隙を逃さず、アキトは拳に氣を集束させ、あるモノと呼応させる!!

今までと様子が違うことに気がついたルナは、周囲の氣の流れを調べる!

 

(空破?違う!大氣は私の力を受けた風の精霊達が抑えている・・・・・―――――大地!!)

 

ルナは、自分の足元で活性化する大地の氣を感じ、慌てて風を纏って空中へと退避する!

アキトが大地に掌底を叩きつけたのは、ルナが退避してから数瞬後だった!

 

 

「地竜式 氣功闘方術 地破・天昇!!

 

 

先程までルナが居た場所に、間欠泉の如く、氣の奔流が立ちのぼった!!

その勢いは凄まじく、まさに『天にも昇る』というのが比喩でないほどだった。

 

氣と土砂の噴き上げを風の結界で受け流すルナ。

その衝撃に逆らわず、さらに空高く放り上げられるかたちとなった。

 

(大地の氣と呼応させる『地破』まで覚えてるとは・・・・・底知れない才能の持ち主ね、アキト君は・・・・・)

 

素直にアキトの才能を称賛しつつ、ルナはその本人を目で探していた。

先程の大地の氣の噴出により、辺り一帯に濃厚な氣が漂い、気配で察知することができないのだ。

さらに、同時に巻き上げられた土砂や土埃のため、視界も不鮮明となっていた。

 

ルナは、目での捜索は無理と即座に判断すると、精霊術を使い、風の精霊の感覚と同調させる。

この状態になると、風の精霊術しか使えないが、代わりに知覚能力は桁違いに跳ね上がる。

何しろ風の精霊の感覚・・・空気あるところで、知覚できない存在モノは無い!

 

 

「アキト君は・・・・―――――上!?」

 

 

ルナは驚いた気持ちもそのまま、すぐさま感知した方向に目を向ける。

そこには、気配を消したまま、今まさに攻撃をしようとしていたアキトの姿があった!

 

(気づかれた!だったら面倒な気配を消す事を止めて、一気に行く!!)

 

アキトはそう判断し、右足に昂『氣』を集束させる!

 

(昂氣だけの時よりも、集束率が高い!・・・が、昂氣と氣二つの力を融合させる分、時間がかかるか・・・)

 

アキトは利点と難点を頭の隅に書き込みつつ、一気にルナに向かって跳び蹴りを放つ!

力を一点に集束させた攻撃!足と拳の違いこそあれ、その技はまさしく・・・・・・・

 

 

「全てを噛み砕け!虎牙弾!!

「数多の風の精霊達よ!我が手に集いて盾となれ!!」

 

 

ルナの手元に、蒼く輝く風の盾が形成される!!

その盾はあまりに高密度のためか、風なのに透けないほど色合いが濃く、眩しく輝いていた!!

 

アキトの虎牙弾と、ルナの蒼き風の盾が正面からぶつかり合う!

二人の技は数秒ほど拮抗し・・・・硝子が砕け散るような音と共に、風の盾が打ち砕かれた!!

 

 

「―――――!!」

 

 

ルナは、盾を砕かれたことを認識する前に、反射的に腕を交差させ、アキトの攻撃を防御した!!

が、その行為も虚しく、そのままルナはアキトに蹴り飛ばされ、湖に盛大な水飛沫を上げつつ着水した。

 

 

 

 

 

 

(その2へ・・・・・)