銀色に輝く巨大な光の柱・・・・・

それをジッと見つめながら、ルナはアキトに注意を向けていた・・・

 

もちろん、実際に見えるわけでもないし、気配を感じるわけでもない。

その両方とも、自らが使った術によりかき消されているのだから・・・・・・

 

 

「そろそろ・・・・鎮まる頃ね。一体どういう手を使ってくるのかしら?アキト君・・・・・」

 

 

ルナ自身、アキトがこの術でどうにかなるとは思ってはいない。

手加減をした・・・というのもあるが、例え本気で放ったとしても、アキトなら大丈夫・・・そう思っているのだ。

誇張でも、過大評価でもない。正当に評価をした結果がそうなのだ。

 

事実、銀色の光が弱まるにつれ、その中心に蒼銀の光が見えてきても、

ルナは至極当然・・・・といった表情をしていた。

 

その時、蒼銀の光の傍に赤い光が発生し、その数瞬後、光の柱の中から赤い何かが飛び出した!!

その赤い何かの正体を、ルナは一目で看破した!!

 

 

「ブーメラン!!」

 

 

ルナはそう言うものの、やや遠く見ていたニースを除く三人は、一目でそれがブーメランだとは思えなかった。

第一にその回転・・・超高速の回転により、ブーメランと言うよりは、円盤が飛んでいるようにしか見えない。

第二にその大きさ・・・赤い円盤と化している状態ですら、その直径は人の腕の長さ並はある・・・・

一目で正体を看破しろという方が、無理難題なのかもしれない・・・・

 

 

ルナは真っ直ぐに飛んでくる巨大なブーメランを、横に少々動いただけで避ける!

そのまま飛んでいったブーメランは、岩を二つに切り裂きながら旋回して、再びルナに襲いかかる!!

 

その様子を、横目で見ようと首を回そうとした瞬間、またもや光の柱から・・・今度はアキトが飛び出した!

アキトは昂氣を纏いながら、ルナに向かって閃光の如く走った!!

 

(実質的には挟み撃ちと同じ状況というわけね・・・

でも、私は飛来物ぐらい見なくても十分対処できるのよ・・・こうすればね)

 

ルナは感覚を風の精霊と同調させる・・・それにより、後ろで飛んでくるブーメランの軌道から、

それによって切り裂かれる風の流れさえも完全に把握した。無論、アキトの動きも・・・・

 

 

「ハッ!!」

 

 

ルナは後ろ一瞥することもなく、襲いかかってくるブーメランを強烈な剣の一撃で弾き飛ばす!!

弾き飛ばされたブーメランは、力無く宙を舞った・・・と、思われた瞬間!

赤い光球へと変化し、そちらに向かって手を伸ばしているアキトの手の内に瞬時に戻った!!

 

アキトは手の内に戻った赤い光球を握りしめると、光球は長剣ロング・ソードへと変化させる!!

それを右手で握りしめると、一足飛びにルナとの間合いを詰め、胴を狙って右薙ぎに剣を繰り出す!!

ルナはその攻撃を、大剣グレート・ソードで真っ向から受け止めた!

 

 

「力の使い方・・・上手くなったわね、アキト君」

「ええ、おかげさまで。かなり感覚がつかめました」

「そう、それはよかったわ」

 

 

ルナは風の精霊の力を剣に纏わせ、強烈な突風でアキトを吹き飛ばす!!!

アキトも、風に逆らうことなく、空中で体勢を整え、大地に舞い降りた。

 

 

「さてと・・・・そろそろ終わりにしましょうか」

「ちょっと残念のような気もするけどね・・・こんなに楽しい戦いなんて、滅多にないのに・・・」

「そうなんですか・・・・でも、今からやることが成功すれば、もっと面白いかもしれませんよ?」

「・・・・・・・??一体何をするの?さっぱりわからないわ・・・」

「すぐにわかりますよ・・・・・・」

 

 

アキトはそれだけ言うと、右手を軽く握りしめながら前につきだし、赤竜の力を集束させる。

これから創り出す武具のイメージに集中するためか、目を半分ほど閉じている・・・・・

 

 

(赤竜の力の具現化は、イメージが全て・・・・長剣ロング・ソードにもなり、棍にもなり、ウィップにもなる・・・・

ただし、並はずれて大きい物や、精密な機械などは創り出せない・・・・・・

だが、この世界にはない、銃でさえ創り出すことができたんだ。アレも・・・できるかもしれない)

 

 

イメージが固定したのか、アキトの右手に集まった赤竜の力が、次第に形を整え始める・・・

そして、すぐに完全に具現化し、アキトの手の内に現れた・・・・・

 

その武器・・・というか、物体を見たルナ・・・ひいては、遠くで見ているリナ達は・・・理解に苦しんだ。

 

 

「アキト君・・・・それは・・・・・・柄?」

「ええ、そうですよ」

 

 

アキトの創り出したもの・・・・それは、剣などに使われる柄だった。ただし、刃が付いていない・・・・

だが、装飾は見事・・・としか言えないほど荘厳だった。

色はもちろん赤。柄本は、金の瞳をした赤竜が蒼銀の宝玉を抱え込んでいる・・・というデザイン。

鍔が竜の翼になっているため、今にも飛び立ちそうなほどの躍動感がある。

全長は大体、五十センチから六十センチ少々・・・・・かなり大きめの部類にはいるだろう。

 

だが、それだけ・・・・・刃無き柄など、まったく意味がない。

しかし、アキトはそれに構わず、両手で刀身のない柄を握りしめ、正眼に構えた。

 

(どういうつもりなのかしらね。アキト君・・・・柄だけなんて・・・・・柄だけ?)

 

創り出したのか柄だけ・・・という事実に、ルナは何か思いつきそうになった・・・・

が、それよりも先に、アキトのとった行動に目が奪われた・・・・

 

 

「ハァァァァーーーー・・・・・・・・」

 

 

アキトが息をゆっくりと吐くにつれ、昂氣の量、輝きが徐々に増加する!!

しかし、ルナが目を奪われたのはそこではない・・・・

その輝きの増してゆく蒼銀の昂氣を、柄本にある宝玉が吸収しているところだった!

 

(いい感じだ。ここまではオリジナルと同じ・・・後は・・・)

 

アキトは柄を握りしめ、力が刃となるようなイメージを描いた・・・・DFSと同じように・・・・・・・・・

その意志を受け取ったのか、柄本と宝玉が鈍い光を放ち、蒼き刀身を創り出した!!

 

 

「蒼い刀身・・・・・昂氣を刃に変えたの?そういう使い方なんて、考えたこともなかったわ・・・・・・」

 

 

ルナはアキトが創り出した、蒼い刃を見ながら呟いた・・・・

 

 

「DFSが壊れた以上、咆竜斬とかが秘剣などの技使えませんからね・・・それでやってみたんですよ。

でも・・・・大分オリジナル元のDFSとはかけ離れてしまいましたけどね・・・・・・」

 

 

アキトの言うとおり、赤竜の柄で作りだした昂氣の刃は、DFSの昂氣刃とはまったく似ていない。

DFSで作りだした刃は、エネルギーを束ねた感じに対して、

赤竜の柄から作りだした蒼き刃は、半結晶体・・・・透き通った蒼い水晶クリスタルで作りあげられているように見えた。

その上、刃の表面には、銀色の幾何学模様奇妙な文字が書かれていた。

 

アキトは創り上げられた蒼き剣を、二、三度ほど軽く振る・・・・

蒼き刃が通り過ぎた後には、銀色の燐光と、蒼い光が微かに残っていた。

 

 

「やっぱり重くないな・・・それに、柄もいい感じだ。手に吸い付くように握りやすい・・・・・・・

ルナさん、お待たせしました。準備が整いましたので、続きをやりましょうか?」

 

 

蒼銀の輝きを身に纏いながら、アキトは昂氣刃を構えた・・・・

 

赤竜の柄を使って、昂氣を結晶化させたためか、

DFSとは違い、刃を作り出すのに常時昂氣を供給する必要が無くなっていたのだ。

 

それを見たルナは、楽しそうに微笑みながら赤竜の力をさらに強めた。

 

 

「そうね・・・・最終戦・・・・やりましょうか」

 

 

ルナは、大剣グレート・ソードサイズの赤竜の剣を構え、強く握りしめる・・・・・・

主人の闘氣を感じ取ったのか、赤竜の剣はルナの纏う光を吸収し、より鋭く、より丈夫に変化する!

柄本の赤い宝玉は、その内に炎を宿したように、強く光り輝いていた。

 

 

 

二人が動いたのは、まったく同時だった・・・

同じタイミングで一歩を踏みだし、一足飛びに間合いを詰め、同じタイミングで剣を振るった・・・・

 

アキトは斬り上げるように!

ルナは袈裟懸けに!

 

二人の剣は、赤と蒼の光を残しながら激しくぶつかり合う!!

その攻撃は何よりも速く、どんなものよりも鋭い!

 

ぶつかり合った蒼と赤の刃は、すぐに離れると、今度は縦横無尽に振るわれ始める!!

 

お互い本気の攻撃、一撃でも受ければ洒落にはならない。

しかし、二人はさらに速く、さらに鋭い攻撃を次々に繰りだす!!

 

その闘いの内容とは裏腹に、その姿、光景は非常に美しかった・・・・

乱舞する二つの刃、赤と蒼の残光、それを自在に操る男と女・・・・美しき剣舞。

ニースとアキトの闘う姿とは別の、力強い美しさがそこにはあった・・・・・

 

 

「ハァッ!!」

 

 

ルナは剣の間合いよりもさらにアキトの懐にもぐり込み、無理矢理に胴を薙ぎ払うように攻撃する!

アキトはそれを受けることを嫌い、大きく後ろに跳び下がることにより避ける。

 

(今の攻撃はルナさんらしくない、これじゃあまるで間合いを開けたがっているようだ・・・・)

 

アキトの脳裏に、一瞬疑問がよぎったものの・・・

それは、ルナが頭上に大きく振りかぶった赤竜の剣を見ることによって氷解した!

 

ルナが再び作りだした黄金きんの炎・・・・それが、刀身に集束していたのだ!

剣に集束した黄金きんの炎は、第二の刀身となっていたのだ。

その炎の刀身の長さと大きさは、元の刀身グレート・ソードの二倍以上もある!!

 

 

「セイッ!!」

 

 

金色こんじきの粒子を残しながら、炎の刃はアキトに向かって振り下ろされた!

しかし、アキトは横に半歩ほど移動するだけでその攻撃を避ける!

炎の刃はそのまま振り下ろされ、地中深くまで深々と突き刺さった!

 

アキトは、ルナが再び攻撃を繰りだす前に懐に飛び込もうとすぐさま走る!

だが、大地の抵抗など無いと言わんばかりに地中から斬り上げてくる炎の刃に、後退をやむなくされる!!

 

 

(あの炎の刃は厄介だな・・・・問答無用の威力の上に、剣速はまったく変わってない。

槍などは、間合いが長い故に、懐に入られたら威力は半減する・・・・

だが、あれの場合、根元まで刃の上、間合いリーチがとんでもなく長い。

懐に飛び込むまでに、二、三回は攻撃を受ける覚悟は必要だな・・・・・・)

 

 

考えている間にも次々に繰り出されている炎の刃を昂氣刃で受け止めながらも、

アキトは懐に飛び込める隙をうかがっていた。

 

しかし、ルナもその事は解っているらしく、剣を受け止められても、すぐさま剣を引いて、

二撃目、三撃目と、休むことなく連続して攻撃を繰り出していた!

 

(こちらから攻撃しても、受け流すだけだろう・・・・・だったら、剣の威力を高めて弾き飛ばすまでだ!!)

 

アキトは柄を握りしめ、身に纏っていた昂氣を増加させる!

蒼銀の昂氣は次々に柄頭の宝玉へと吸収され、刃は蒼い色合いをさらに濃くし、輝きが増す!

 

 

「オオォォォオオーーッッ!!」

 

 

横薙ぎに繰り出される黄金きんの炎の刃!それを真っ向から迎撃する蒼銀の刃!!

昂氣の刃は炎の刃に衝突し・・・・・真っ二つに斬り裂いた!!

超強力なエネルギーである昂氣を半物質化させた刃に、流石の炎の刃も太刀打ちできなかったようだ。

 

予想していなかった事態に驚きながらも、アキトは返す刃で今度こそ剣を弾いた!

剣を手放すことはなかったが、弾かれた勢いで体勢を崩すルナ!

 

一気に間合いを詰めるべく跳びかかろうとしたアキトだったが、

その寸前、ルナの前に水晶のような結晶体の壁が、大地よりせり上がった!!

 

 

「ハッッ!!」

 

 

アキトは裂帛の気合いと共に、ルナを水晶の壁ごと真一文字に斬る!!

斬られた水晶がずれた後・・・・そこにルナの姿はなかった!

 

すぐにルナが上空に避けたことを察知し、氣を感じた方向に目を向ける!

そこで見た光景に、アキトは戦闘中でありながらも、一瞬だけ呆然とした・・・・

 

上空に浮かんでいるルナ・・・・その背には、暁の如く紅に輝く、本物の翼があった。

その姿は地上界に降りた戦乙女ヴァルキュリアか・・・・翼から発せられる光と相まって、神々しいことこの上ない。

 

アキトはさらに攻撃をするために、ルナに向かって跳躍した!!

 

 

 

 

 

一方リナ達は・・・・真紅の翼を広げるルナの姿に目を奪われていた・・・・・

ニースも数瞬、ルナの姿、そして行動に呆然としていた・・・・・

 

 

「ルナ姉さん、とっても綺麗・・・・・」

 

 

メアテナは一時も目を離すことなく、ジッとルナを見続けた・・・・

ガウリイも口を開けたまま、その光景を見ていた。

 

リナも同じ様なものだったのだが、冷静な思考が、美しさよりもおかしさを感じていた。

 

 

「あんなの見たこと無い・・・・でもおかしいわね。なんでわざわざ翼なんか・・・

精霊術を使って風を纏って飛べばいいのに・・・なんだってわざわざあんな凝ったことを?」

 

「それは簡単なことだ・・・・」

「ニース・・・どういうこと?」

「剣を振るうのには不都合だということだ」

「それって・・・・・・・」

「私達が創り出す剣は、威力が高い・・・・だが、それゆえに欠点もある。そういうことだ」

 

 

ニースはルナとアキトの二人から視線を動かすことなく、リナの問いに答えた。

リナも、ニースに習って二人・・・・特に、ルナに向かって跳躍したアキトに目を向ける。

 

 

 

ルナに向かって跳躍ジャンプしたアキト!

だが、剣の間合いに入る前に、幾つも作り出された超高速回転する水の輪が襲いかかった!!

 

水といえども侮る事はできない。以前使った水針もだが、高速で噴出する水は金剛石ダイヤモンドですら切り裂く。

アキトに襲いかかる水の輪も、金剛石ダイヤモンドを紙のように容易く引き裂くほどの威力をもっている!

 

 

「クッ!!」

 

 

水の輪の群を昂氣刃で迎撃するアキト!

だが、その攻撃により、跳躍の勢いは削がれ、剣の間合いに入ることなく落下し始める。

 

ルナは攻撃の手を休めることなく、次々に水の輪を投擲する!!

それらが再び迫り来る間に、アキトは呪文の詠唱をすでに終わらせていた!

 

 

封翔界レイ・ウィング!!」

 

 

 

最近覚えたばかりの高速飛行呪文を使い、水の輪を次々に避ける!

人並み外れた集中力故に術の制御は完璧で、その回避行動力は他に類を見ないほど素晴らしいものだった。

教えたリナ自身が、嫉妬するほどに・・・・・・

 

しかし、そのスピードは遅い。ルナが使う封翔界レイ・ウィングの半分ほどもない。

封翔界レイ・ウィングの飛行速度は、高度・重量・魔力・魔力許容量キャパシティの総合よって決定される。

今現在のアキトは、高度はともかく、他の三つにおいて、リナと比べて圧倒的に負けているのだ。

 

そして、その速度ではすぐに回避行動の限界がくる!案の定、六つほど避けたあたりで、限界が訪れた!

水の輪はアキトを両断するように迫る!!

 

だが!当たる寸前に、アキトは信じられないスピードで回避し、ルナよりも上空に昇った!!

その動きは、まだまだリナには及ばないが、先程までに比べてかなり速い!

 

ルナは上空にいるアキトに向かって剣を構えながら、先程の動きの変調を予測していた。

 

 

(おそらく、昂氣を使って、体重を零に近づけたのね・・・・良い考えよ、アキト君。

でも、その状態で剣を振ればどうなるのか・・・・知っているのかしら?)

 

 

ルナの考えを余所に、アキトは急降下しながらルナに向かって剣を振り下ろした!

アキトの斬撃を真正面から受け止めるルナ!

アキトの一撃にはそれなりの勢いがあったにもかかわらず、

ルナはその場から少しも下がることなく、しっかりと受け止めた!

 

 

「―――――ッ!」

 

 

剣を打ち合わせたのも束の間、アキトは重力に引かれて落下し始める!

昂氣刃を振るって攻撃したため、封翔界レイ・ウィング・・・飛翔するための風の結界を一緒に斬り裂いてしまったのだ!

これが、ルナが風を纏って飛ばなかった理由・・・・ニースも、こうなることを薄々と理解していたのだ。

しかし、魔術を知って数カ月足らずのアキトに、それに気づけというのは少々酷なのかもしれない・・・・

 

ちなみに・・・ルナは、翼を創りはしたものの、何も羽ばたいて飛んでいるわけではない。

翼はいわば媒介。それによって重力などを操る特殊な力場フィールドを作り出し、宙に浮いているのだ。

風の結界などとは違い、力場を発生させているだけなので、剣などを振るってもなんの問題もない。

だが・・・ただ力場を発生させる為だけに、翼を創りあげるルナではない!

 

ルナは落下するアキトに向かって、大きく翼を振るう!!

すると、翼より放たれた羽根の群が、もの凄い勢いでアキトを貫くべく襲いかかった!!

 

 

「―――――クッ!!」

 

 

空中で振り向きながら、蒼銀の防護壁で防御するアキト!

百ほどもある羽根の群が、容赦なく防護壁につき刺さる!!

 

「(文字通り、羽根の弾丸フェザー・ブレッドだな!)裂閃矢エルメキア・アローッ!!」

 

 

羽根の弾丸フェザー・ブレッドを防ぎきったすぐ後、アキトは裂閃矢エルメキア・アローを放った!!

十数本の光の矢は、ルナに向かって襲いかかるが、真紅の翼の一振りによって砕け散る!

 

 

(攻撃にも防御にも利用可能か・・・・専用カスタム・エステバリスの光翼みたいだな。

さて・・・・どうやって攻撃をするか・・・銃を使うか・・・それとも思いきって・・・・・なんだ??)

 

「・・・・・・・周りが、暗くなっている?」

 

 

ルナが赤竜の剣を頭上に構えた直後から、周囲が少々薄暗くなっていた。

気のせいか?とアキトは考えたが、ルナがかかげた剣が光り輝くにつれ、暗くなっていることに気がついた。

 

(光を剣に集束させている?―――――やばいっ!!)

 

アキトが横に向かって飛んだのと、ルナが剣を振り下ろしたのがほぼ同時だった!

ルナの振り下ろした剣の軌道にそって、集束された光が走る!!

 

極限まで集束された白き閃光は、音も衝撃もなく、大地に一筋の線を刻みつけた!

 

 

(あまり考えている暇はない・・・・か。しかし、ルナさんはやっぱり強いな・・・・・

特に力の転用、多様性に優れている・・・負ける気はないけど、勝ちにくいのは確かだ)

 

 

ルナの実力・・・それは、あらゆる闘いにおいて、即座に対応する能力だった。

相手の武器、周りの状況を判断し、自分に有利となる武具、術を使う・・・・

時と場合によれば卑怯と言われることもあるだろうが、少なくとも、アキトにその心は一片たりとも無い。

 

現に、アキトにとって空中戦は不利にもかかわらず、攻略法を考えはすれ、不満などは考えてもない。

 

(少し派手にいくか・・・幸い、ニースの時と違って体力にもかなり余裕があるしな・・・・)

 

アキトは赤竜の柄を握りしめ、昂氣の輝きを強める!どうやら、本気で派手にいくつもりのようだ!

蒼き刃は、次々と昂氣を吸収し、その輝きと色合いを増す!!

 

しかし、そんなアキトの気迫を感じたのか、ルナは翼をはためかせながら大地におり立った。

大地に足をつけたルナは、赤い翼を折り畳み、そして邪魔にならないように消した。

 

 

「どうかしましたか?」

「別にどうしたって事もないけど・・・・アキト君、本気で飛び掛かろうとしたでしょ?」

「ええ、まあ・・・ルナさんが色々技とか術を使うのに、俺だけ使わないのは卑怯かな?と思いまして」

 

「だと思った。だから、私も全力で受け止められるように降りてきたのよ・・・・

それにしても、アキト君は律義ね・・・・わざわざ手の内を見せてくれる人なんて、そうそう居ないわよ?」

 

「そうですね・・・・でも、相手がルナさんだから、安心して使えるような気がします」

「それは信頼してくれているという事かしら?」

「そう思ってくれてもいいですよ。ルナさんもでしょ?」

「そうね・・・・うん、アキト君と同じかな」

 

 

微笑みながら、キッパリと答える。アキトも、そんなルナに微笑み返す・・・・

 

相手に手の内を見せる・・・それは、戦士や格闘家といった、実戦に命を賭ける人にとって、

かなり致命的な行為に他ならない。

技、もしくは術が知られるということは、予め対抗策が練られやすい。

内容を知られれば、おのずと対抗策や、打開策が講じられるものなのだ。

 

それをふまえて、お互いに技を知られても安心できる・・・・・・という関係は、

これから先、一生闘わない、もしくは相手を心の底から信頼している・・・・と、とられてもおかしくはない。

ある意味、下手な絆などよりも、頑強な繋がりともいえる。

 

 

「では、行きます・・・・・・」

 

 

アキトはゆっくりと昂氣刃を頭上にかかげる・・・・・

 

 

「蒼竜剣技・・・・竜爪斬!!

 

 

神速の五連撃である竜爪斬に、昂氣の剣閃を加えた剣技!!

五つの蒼銀の剣閃が、大地を切り裂きながらルナに襲いかかった!!

 

 

「神竜剣技 断空裂破!!

 

 

横薙ぎから繰り出された赤い剣閃が、五本の蒼銀の剣閃とぶつかり合う!!

少々の競り合いの後、赤い剣閃は砕け散るが、蒼銀の剣閃はスピードを落とした!

 

ルナはスピードの落ちた蒼銀の剣閃を余裕で避け、すぐさまアキトに斬りかかった!!

 

 

「こちらからも行くわよ、アキト君!神竜剣技 竜爪斬!!

 

 

アキトの放った技を、そっくりに模倣コピーして放つルナ!

五つの赤い剣閃が、大地を切り裂くところまでまったく同じだった!

 

 

「(さすがルナさん!)全てを引き裂け!我が内にある竜の翼よ!!秘剣 飛竜翼斬!!

 

 

横薙ぎの攻撃より放たれた、蒼銀の弧月型エネルギーが、五条の赤い剣閃を打ち砕く!!

飛竜翼斬は、その威力をさほど落とすことなく、ルナに向かって飛翔する!!

 

 

「ハァァアアアアーーーーッッッ!!」

 

 

ルナが頭上にかかげた赤き刀身に、凄まじい数の光の粒子がまとわりつく!

その光の粒子は螺旋を描き、大きな刀身をさらに巨大に見せていた!

 

 

「神竜剣技 大地裂斬!!

 

 

ゼフィーリア王城の決闘ニースとの戦闘で使ったルナの剣技!

だが、威力を抑えたあの時とは違い、今度の攻撃は手加減などされずに繰り出されたものだった!!

 

迫りくる蒼銀の飛竜翼斬を、ルナは真っ二つに斬り裂いた!!

二つに裂かれた蒼銀のエネルギーは、ルナの後方にて強い光と衝撃波を放ちながら消滅する!!

 

 

「紙一重ね・・・危なかったわ」

 

 

ルナはそう呟きながら、赤い刀身の真ん中あたりに目を向ける・・・・

そこには、今にも折れそうな程の亀裂があった・・・・・・

 

(さすがに、あれ程のエネルギーを溜め時間無しの大地裂斬で斬るのは無理があったわね)

 

アキトの放った秘剣の威力に、ルナの背筋に冷や汗が流れる・・・・・

もし、先の竜爪斬が無ければ・・・・大地裂残で斬れていたかどうか、微妙なところだったと気がついていたのだ。

 

アキトも、自分が放った飛竜翼斬を真っ二つに斬られ、改めて知るルナの実力に冷や汗をかいていた。

もし、アレが昂氣刃ではなく、DFSで放ったものだったら・・・・・二つどころか、散らされていたのではないのか?

と、考えていたのだ・・・・そして、それはほぼ間違いない。と、確信もしていた。

 

 

「次で決めます・・・・・準備は良いですか?ルナさん」

「受けて立つわ。いつでも良いわよ、アキト君」

 

「死なないで下さいよ、ルナさん・・・・・・」

 

 

アキトは赤竜の柄を握りしめながら、頭上に大きくかかげた!

そして、アキトの身体より怒濤の如くあふれ出る昂氣が、柄頭の宝玉へと急速に集束する!

それと共に、蒼き刃はさらに色合いがさらに濃く、燦然と輝き始める!!

 

ルナも、アキトが技の体勢に入ったと同時に、赤竜の剣を身の丈近くある巨大な弓へと変化させる!

そして、赤い光でできている弦を、ゆっくりと、力強く引く!!

すると、ルナの身体から発せられている赤い光が集束し、一条の矢となった!!

 

 

 

 

「咆えろ!我が内にある蒼き竜よ!!」

 

 

蒼き刃は、極小の超新星の如く燦然と光り輝く!!

刀身に描かれた銀色の紋様も、同色の粒子を発しながら、その色合いをさらに濃くし、文字を際立たせる!

 

 

「この世を形成し、運営する四大の精霊達よ・・・・

我が力と一つとなりて、全てを貫く一条の閃光となれ!!」

 

 

ルナが創り出した赤い光の矢に、周囲の空間より発生した四色の光の粒子が集まり、

光の矢はさらに大きく、そして色鮮やかに輝き始める!!

 

 

「秘剣 咆竜斬!!

 

「秘技 神竜天翔・光牙!!

 

 

銀に輝く牙と爪をもつ蒼き竜と、鋭く研ぎ澄まされた一条の赤い光矢が、真正面からぶつかり合う!

 

蒼き竜は赤い光矢を噛み砕かん為に、銀の牙を突き立てながら食らいつき、

赤い光矢は蒼き竜を打ち倒さん為に、その内に潜り込んで貫こうとする!!

 

しばらくは拮抗したのだが、咆竜斬の方が威力が高かったのか、蒼竜の牙が光矢に深く突き刺さる!!

だが、ルナはそれを見ても焦る様子を見せることはなかった!

 

 

「貫け!精霊が創りし真の牙よ!!」

 

 

ルナが鼓舞するように声をあげると、赤い光矢の中より、金、銀、白、青の四つの光矢が姿を現す!

四本の光矢は左右に散開し、蒼き竜を横合いから貫く!!

 

 

蒼き竜と五つの光矢は、光と衝撃波を残しながら、完全に消滅した!!

その際に、巻き上げられた土砂と粉塵が、この場にいる全ての者の視界を完全に遮った!!

 

しかし、アキトとルナの二人は、その様なことなどまったく気にせず、相手との間合いを一足跳びに詰めた!

 

 

「オォォオオオーーーッッ!!」

 

 

アキトは赤竜の柄を右手でもち、昂氣刃を袈裟懸けに振るう!!

対するルナも、赤竜の大剣を両手で持ち、右下からの斬り上げるような攻撃を繰りだす!!

 

だが、ルナが持つ赤竜の剣には、四色の光の粒子が螺旋を描くように、刀身にまとわりついていた!!

 

 

「精霊剣技 四聖 光破斬!!

 

 

ルナの精霊術と神竜剣技を融合させた一撃と、アキトの渾身の一撃がぶつかり合う!!

 

そして・・・・ガキン!という音と共に、蒼き刃が天高く舞い上がった・・・・・・・

 

 

そう・・・・アキトの創り出した昂氣刃蒼き剣は・・・・・無惨にも斬り飛ばされたのだ・・・・

 

昂氣の刃は、先程の咆竜斬で、内包していた昂氣をほとんど使い果たしていたのだ・・・・

斬り飛ばされた蒼き刃は、そのまま降りてくることなく、空中で光の波動と軽い衝撃波となって消滅した・・・・

 

 

(これで私の勝ちよ!アキト君!!)

 

 

ルナは残心を忘れず、すぐさまアキトの喉元に剣を突き付けようとして・・・・・・・動きを止めた。

正確に言えば、動けなかったのだ・・・・喉元に突き付けられた、蒼銀の光刃によって・・・・・・

 

 

「俺の勝ち・・・・で、良いですか?ルナさん」

「ええ、文句はないわ・・・・」

 

 

アキトの左手より伸びている、蒼銀の光刃を見ながら、ルナは負けを認めた・・・・

それを確認したアキトは、喉元に突き付けた光刃と赤竜の柄を音もなく消し、構えを解いた。

 

ルナも構えを解きながら、赤竜の剣を体内へと戻した。

 

 

「昂氣の刃は囮・・・態と私に斬らせたのね。無手で作り出した光刃を気づかせないために・・・・」

 

「ええ・・・氣功術で、『氣』を使って刃を創る技があったから、それを応用して・・・・

本来はナイフ程度が限界なんですけど、氣と昂氣を融合させれば、あの程度はできると思ったんです。

本当は隠し手なんで、使うつもりはなかったんですけど・・・・つい・・・・

ルナさんを傷つけたくなかったもので、あんな手を取ってしまったんです・・・・」

 

 

アキトは、苦笑いをしながら頭を掻いた・・・・・

ルナも、そんなアキトの様子を見て、少々嬉しそうに微笑んだ・・・・

 

一撃でも入れば致命傷になりかねない攻撃をさんざん繰り出しておきながら、

最後の最後では、ルナを傷つけることを躊躇い、奥の手を使ったアキトの優しさに・・・・

 

 

「・・・・・・で?私に勝ったアキト君。賭なんだけど・・・・どうする?」

「あれって、本気だったんですか?」

「もちろん。冗談じゃないわよ」

「・・・・・・・・・・無効ってのは、無しですか?」

「無し」

 

 

ルナのにべもない言葉に、アキトは、困った・・・・という表情になり、視線を意味もなく泳がせた。

 

 

「なんでも良いわよ。できることならなんでもするわ」

「ん〜〜・・・とりあえず、今は何もないので大事にとっておきます。その内に、何かあったら言いますから・・・」

「そう?ちょっと残念だけど・・・まぁ、良いわ。それにしても、鬱陶しい土煙ね・・・・」

 

 

ルナは今だ視界を不鮮明にしている土煙に向かって、手の平で埃を払うかのように一振りさせる。

すると、たちこめていた土煙は蒼い風によって散り散りに吹き飛ばされた。

 

鮮明になった事で、アキトとルナは自分達の姿がはっきりと見えた。

 

 

「お互い、汚れちゃいましたね・・・・・」

「そうね・・・・汗もかいちゃったし。ちょっと早いけど、家に帰ってお風呂にでも入りましょうか?」

「それは良いですね・・・・・」

 

 

ルナとアキトは、こちらに近づいてきているリナ達に向かって歩き始める。

先程まで、激闘を繰り広げていたとは思えないほど、穏やかに談笑しながら・・・・

 

 

「あ、そうだ!なんなら私が背中を流して上げましょうか?さっきの約束として・・・・・」

「勘弁して下さいよ、ルナさん・・・・・」

「ふふふ、冗談よ。だからそんな顔をしないで」

「頼みますよ・・・」

 

 

 

アキトは情けない顔をしながら、泣きそうな声で言う。

そんなアキトの様子を見て、ルナはさらに笑い出す。

 

だが、その様子とは裏腹に・・・・アキトの心内は、夜の湖面のように静かで、落ち着いていた・・・・

 

 

(とりあえず・・・・体調は完全に元に戻った。これで、何時でも動くことができる。

残りの心配は、ブローディアだが・・・・これも時間の問題だろう。

後は・・・・来るべき時に備えるだけか・・・・・・)

 

 

表には出さず、心の中だけで気を引き締めながら決意しているアキトを、ルナは心配そうな目で見ていた・・・・

 

 

そして・・・・アキトが懸念していたその時は近い・・・・

すでに、遠い異国の地にて、盛大なまでに狼煙が上がっていたのだから・・・・・・・・・

 

今だ・・・・アキト達はその事を知らない・・・・・・・

 

 

 

(第三十六話に続く・・・・・・)

 

 

 

 

―――――あとがき―――――

 

どうも、ディアちゃんで〜す!

 

今回は、アキト兄とルナ姉の戦いでした〜。

やっぱりアキト兄で人外だよね〜・・・この世界に来てからさらに強くなってるし。

それについてゆけるルナ姉やニースさんも、大したものだよね。

 

でも、赤竜の力って便利だよね。決まった形は無いらしいし、肉体強化はできるし・・・

剣や槍だけでなく、銃やDFSもどきまでできるもんね〜。ホント、便利。

 

もしかして、ハリセンとかも創れるのかな?ツッコミ用とか言って・・・・

 

まあ、それはさておき・・・・

次回は、アキト兄が旅にでる予定。ちょっとありきたりなパターンになるらしいって作者は言ってたけど・・・

まあ、そこはそれ、多少ぐらいは勘弁してやってね。

でないと、仕事やゲームが忙しいって理由に逃げ込んで、書くのやめそうだから。

本当にやめたら、非難メール殺到だろうけどね・・・・来ればの話しだけど。

 

 

では最後に・・・・K・Oさん、15さん、1トンさん、Dさん、Assamさん、m-yositoさん、oonoさん、

TAGUROさん、アイハラ・ヒカルさん、アッシュさん、ホワイトさん、霞那岐さん、危険地域さん、

起屍鬼さん、時の番人さん、森さん、浅川さん、谷城さん、百華さん、遊び人さん、

チクさん、憂鬱なプログラマさん、ノバさん、ナイツさん、HYPERIONさん、影竜さん、GPO3さん。

 

感想、どうもありがとうね〜!!怠け者の作者に代わって、厚くお礼を申しま〜す!!

 

じゃ!次回、第三十六話『旅立ち・・・・因果を断つために』で、会いましょうね!!

 

 

 

代理人の個人的な感想

ん〜む、バトル、バトル、バトル。

もーおなか一杯です〜〜〜。

 

何と言うか、物語が展開してエンディングを迎える中で話の締めや障害としてバトルがあるのであって、

バトル「だけ」の話というのは読んでて辛いかな、とちょっと思ったり。