赤き力の世界にて・・・

 

 

 

 

 

第38話「静かなる怒り・・・・」

 

 

 

 

 

 

太陽が大きく西に傾き、世界を紅に染める時間帯・・・・

アキト達が訪れた街では、それは限りなく血に近い色であった。少なくとも、住民達にとっては・・・・・

 

 

「さて・・・・一つ聞きたい事があるんだが・・・・・」

 

 

アキトは、町の中央にある石柱に並べられた野盗達を見ながら、静かに問う。

頑丈そうなロープで、数珠みたいに繋げられた野盗達は、

質問をするアキトに見向きもせず、傍にいる女性・・・・ニースの方を見ていた。好色そうな目を輝かせながら・・・・

 

(こういう輩を見ると、無性に腹が立つ・・・ルナがいれば、この場にはいなかったのだがな・・・・・・)

 

そう、今現在、この町にはルナとメアテナは居ない。先の町に一足早く出向き、救援を呼びにいっているのだ。

十数人を高速で移動させることのできるルナには、うってつけの役だろう。

メアテナは、その手伝いをするため同行している。表向きの理由では・・・・・・

 

 

「おい!俺達をこんな目にあわせて後悔するぞ、アジトには俺達の仲間が百人以上残っているんだからな!」

「俺が聞きたいのはそれだ。おまえらのアジトは何処にある」

「誰がそんな事教えるか!バカじゃねぇのかてめぇ」

 

 

頭の悪そうな野盗達は、口々に罵りながら笑い始める。

だが、当の本人はそんな事お構いなしだった。顔色一つ、眉も動かさず、ただ冷たく野盗達を見ていた。

 

 

「そこの綺麗な姉ちゃんが脱いでくれたら、しゃべっちまうかもしれねぇがな!」

「そりゃあいい!サービスしてくれたらどんなことでも喋るぜ!」

「どうせなら、村中の女が奉仕してくれたら・・・にしねぇか?」

「お?お前頭いいな!」

「当たり前だろうが、この程度!!」

 

 

野盗達は、再度馬鹿笑いを始める。

それを見ていたニースは、右腕をほんの少し動かす・・・・

 

 

「クズが・・・・・・」

 

 

その一言と共に、ニースは野盗達の首を切り落とす・・・・はずだったが、

寸前でアキトがニースの肩を押さえ、そのまま無言で連中の手前まで歩み寄った。

 

野盗達は、前にでてきたアキトに憎悪のこもった視線を飛ばす。

この場にいる約半分以上の野盗が、アキトに倒されているのだから、野盗達の行為はもっともだろう・・・・

それが逆恨みかどうかは別にして・・・・・・

 

アキトはそんな視線を真正面から受け止め、そのまま静かに問うた・・・・

 

 

「もう一度聞く・・・・・おまえらのアジトは何処だ」

「何度も言わせ・・・・・」

 

 

その時!アキトから、衝撃波に近い程の氣が発せられた!

その強烈な氣の圧力プレッシャーによって、野盗達は思わず仰け反り、開きかけていた口を閉じる。

しかも、アキトの放っていた氣は、ただの氣ではない。

 

殺意のある氣・・・・『殺氣』が放たれていたのだ。

 

その殺氣により、周りの木々は怯えるようにざわめき、辺りの大気が異様なほどにうねっていた!

 

野盗達は、今まで見せていた覇気もなく、青白くなった顔で、恥も外聞もなく震えていた。

神魔戦争を生き抜いたニースでさえ、アキトの殺氣に悪寒を感じ、鳥肌を立てているのだ。

たかだか野盗程度が、この殺氣に耐えられようはずもない・・・・・

 

 

「三度目はない・・・・答えるか?」

 

「こ、こここ、ここから西にある山間の中に、む、昔エルメキアが使っていた砦がある!

お、お、俺達はそこを根城にしている!!」

 

 

例え一秒でも早く、この圧力プレッシャーから逃れようと、野盗は必死に答える。

周りにいる仲間達も、必死に頷き、その通りだとアピールしていた。

 

 

「そうか・・・・・・・」

 

 

アキトはそう呟くと、氣を鎮めた・・・・表面上は。

ニースは、その内面で荒れ狂うアキトの氣と感情を、敏感に感じ取っていた。

 

 

「行くつもりか・・・・」

「ああ・・・・後は頼む」

 

 

ニースに返事をするアキトの声音は、限りなく暗く・・・・そして深い・・・・・

それは、この世界では誰も聞いたことがない・・・・アキトが、かつて復讐鬼だった頃を彷彿させる声だった。

 

 

「町の者に話を聞いたところ、こいつらは複数の盗賊団が、つい最近一つとなって出来上がったものらしい・・・

先程こいつらが言った百人以上残っているというのも、あながち嘘ではないだろう」

 

「そうか・・・・・・・」

 

 

ニースの言葉を聞きながら、町の入り口へと向かって歩くアキト・・・・・

その後ろ姿に、ニースは声をかける。

 

 

「アキト・・・・お前は、見ず知らずの人間のために戦うというのか?」

「・・・・・・・・・・・」

 

 

アキトは、ニースの言葉に足を止めるものの、振り返ることなく、再度歩き始める。

その姿を黙ってみているニースの眼差しは、その場にそぐわないほど優しいものだった。

 

 

「見ず知らずの人のために戦う・・・か。アキトらしいな・・・・しかし、戦場では無用な甘さだ。

だが、私は嫌いではない・・・・・お前のその優しさがな・・・・」

 

 

ポツリ・・・と、呟くニースの言葉は、誰にも聞かれることはなかった・・・

聞く者がいなかったからこそ、呟いたと言うべきかも知れないが・・・・・

 

ニースは、アキトの殺氣により気絶した盗賊に一瞥をくれると、沈みゆく太陽に目を向けた・・・

 

血のように暗く赤い色で世界を染める時間帯・・・・

それはまさしく、それは『逢魔が時』と呼ぶのにふさわしいかもしれない・・・

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

かつて、人と人・・・国同士が争っていた時代、エルメキア帝国は国境沿いの山の麓・・・・

今では森の中だが、かつては大きな街道が通っていた所に大きな砦を造り上げた。

目的は守備のため・・・その役目にふさわしいほど、砦は頑丈に造られてあった・・・

 

しかし今は・・・盗賊達の根城とされ、活動地域の中心地として栄えていた。

その盗賊団の名前は『悪霊ゴースト』・・・・・一人の男が近隣の盗賊団をまとめ上げ、一大勢力となった集団。

幾度となく、帝国から討伐隊が派遣されたものの、全ては返り討ち・・・・

そして、本腰を入れて討伐しようとした矢先、今回の帝都壊滅・・・・

 

邪魔者がいなくなった盗賊団は、正にやりたい放題だった・・・・

今日もまた、町を襲撃した成果を肴に、大きな宴を開いていた。

規模が大きいため、一日で幾つもの町を、同時に襲っていたのだ・・・・

 

その騒ぎの音を聞きながら、見張り台に立っていた二人の男は、ブチブチと文句をたれていた・・・・

 

 

「ちっくしょ〜〜、なんで俺がこんな所で立たなくちゃなんないんだよ・・・・・」

「それは仕方がないっすよ、兄貴。何てったって、賭けに負けた兄貴が悪いんっすから・・・」

「うるせぇ!あの時、爺がナイフ刺さった程度で死ぬから悪いんだ。あれさえ無かったら、俺が勝っていたんだよ」

 

「あ〜・・・俺はその時いなかったからしらないっすけど・・・あれをやったんっすか?

交互にナイフとかを投げて、殺した方が負けってやつ・・・・」

 

「そうだよ。二日前に襲った町でな・・・クソッ!思い出したら腹が立ってきた!

最初の一発、しかも太股に刺さったぐらいで普通死ぬか?軟弱なくそ爺が!!」

 

「そう怒らないで下さいよ・・・東に行った奴らが帰ってくるまでなんっすから・・・・」

「チッ・・・どうせ奴らのことだから、そのまま好き勝手にやって・・・・・・・・ん?妙だな」

「どうかしたんっすか?」

「森が・・・急に静かになった」

「・・・・・・そうっすか?いつもと同じじゃないっすか?」

「俺は森育ちだぞ、その俺が間違うはずがねぇ・・・・梟どころか、虫の鳴き声すら聞こえねぇ・・・・・」

「そういや・・・いつもは喧しいくらいなのに・・・」

「一体なんだってんだ・・・・・」

「あ!兄貴。誰か来たっすよ?」

「何?」

 

 

砦の正面入り口前にある森が開けた場所に、一人の男が居た。

その男・・・・アキトは、砦の扉に向かって歩いて行く・・・・・迷いもなく、しっかりとした足取りで・・・

 

 

「なんだぁ?あの黒ずくめの野郎は・・・・それに、変なものを顔につけてやがる」

「本当っすね・・・あんなのつけて、よく暗い森を歩いてくれたっすね・・・目隠ししてるも同然じゃないっすか」

「んな事より、おまえはちょっと下にいって頭に伝えてこい。変な奴が来たってな」

「了解っす!」

 

 

下っ端の男が見張り台から降りようとした矢先、正面入り口の巨大な扉が、木っ端微塵になって吹き飛ぶ!!

大きさは身の丈の三倍以上、一見木製に見えるが、その中身はほとんど鉄でできているのにも関わらず・・・

 

宴のために広場に集まり、騒いでいた野盗達は、いきなりの出来事に、事態を把握できなかった。

しかし、吹き飛んだ扉の後にいるアキトを見て、それなりに把握できたらしい。

 

殺気立ちながらも武器を構えて、中央まで歩いてきたアキトを取り囲んだ!

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(ここだな・・・・)

 

 

アキトは、バイザー越しに、砦を観察していた・・・

砦の中から、数えるのが面倒くさいと思えるほどの気配も感じ、確信する。

 

そして、体内で氣を練り上げながら、正面にある入り口に近づき、かるく扉に手を当てる。

その次の瞬間!大きな破砕音と共に、扉は粉々に砕け散る!!

 

砕け散った門から歩いて入るアキト・・・・正面広場の中央まで来たとき、無数の野盗に囲まれた!

その様子を見ながら、アキトはさらに奥・・・一段高いところでこちらを見ている連中を視野に入れる。

自分達が見られていることが解ったのか、幹部の一人がアキトに対して声をかけた。

 

 

「なんだお前は。ここが『悪霊ゴースト』の本拠地だと知っての行為か!」

「無論だ・・・・ここから東にある二つの町・・・・殺された者達の代理として来た」

「代理だぁ?まさかとは思うが、俺達を殺しに来たっていうのか?たった一人で?笑わせてくれるな!」

 

 

笑い始める幹部の一人・・・・周りもそれにつられて笑い始める。笑っていないのは二人のみ・・・

幹部よりもさらに高い位置にいた二人の男女の内、女の方と、アキトだけだ。

 

その女を見たアキトは、微かに顔をしかめた・・・・

年の頃は二十歳前後・・・艶やかな紅い髪を腰まで伸ばしている。

そして、その容姿はこの場に似合わないほどの絶世の美女。

しかし、受ける印象は極寒の地で食べる氷菓子・・・・周りにいるだけで凍てつきそうな雰囲気を纏っている。

 

(あの女の氣は・・・・・)

 

アキトがそこまで考えたその時、

上座にいた二人の内の一人・・・今まで笑っていた男が、砦中に響くような大声を出した!

 

 

「お前ら!その男を始末して、さっさと宴を続けろ!せっかくの酒が不味くなる」

『おうっ!!』

 

 

アキトを取り囲んでいた野盗達が、返事と共に襲いかかってくる!

 

 

「もらったぁぁ!!」

 

 

最初に襲いかかってきた野盗の刃が突き刺さる寸前!

アキトの姿は掻き消え、その男のはるか後ろに現れた!

 

―――――次の瞬間!!

 

アキトが消え、再び現れた場所の間にいた数人の背中が裂け、

その箇所を含めた体中の穴・・・・口や鼻、耳などから血を噴き出して倒れた!

 

 

「地竜式 氣功闘方術 『水破』・・・殺してきた人達の苦しみを少しでも味わえ・・・・」

 

 

人の身体に流れる水・・・すなわち『血液』を、水破によって衝撃を与え、内部から破裂させたのだ。

アキトが本気でやれば、人の身体など木っ端微塵にもなる・・・・が、今回はかなり手加減をしていた。

喰らった野盗達は、死ぬことはないが、一生まともな生活をおくることはできないだろう・・・・

 

アキトの冷徹な表情の奥には、怒りの感情が荒れ狂うほどに渦巻いていた!

 

それを見ることによって、野盗達はアキトの実力を知ったらしい・・・皆、一様に腰が引けている。

そんな連中を苛立たしげに見ていた野盗の頭は、大声で叱咤する!!

 

 

「てめぇら!少々のことでびびるんじゃねぇ!どうせ魔術か何かだ!呪文を唱える隙を与えるな!

そいつを倒した者はどんな奴でも幹部にしてやる!」

 

 

親玉の言葉に、腰が引けていた下っ端達の目に、強い欲望の光が宿る!

下がっていた気迫が、前にも増して大きくなっていた!

 

それを満足げに見ていた親玉は、次に下にいる幹部連中を睨み付ける。

 

 

「お前らもさっさと行け!行かない奴は問答無用で下っ端だ」

「そいつは横暴だぞ!俺達は幹部待遇でお前の元に集まっ・・・・・」

「やかましい!ゴチャゴチャ言わずさっさと行け!それとも何か?お前達もあいつらの仲間に・・・・」

 

 

盗賊の親玉がつけている首飾りが、不気味な光を放ち始める。

それを見た幹部連中は、一様に顔を青ざめさせ、急いで肯定の意志を伝える!

 

 

「わ、わかった!わかったから止めてくれ!」

「ならいい・・・さっさと行け!!」

 

 

幹部達は、渋々とだが、広場に降り立ち、こんな事態の元凶となったアキトを睨み付ける!

そんな視線などまったく意にも介していないアキトは、親玉がつけている首飾りと、その傍にいる女を見た。

 

(全部で二人・・・・・・あの連中が手を貸していたのなら、国の討伐隊が勝てるはず無いな・・・・・)

 

「余所見している余裕があるのか!ふざけやがって!!」

 

 

アキトが自分達を歯牙にもかけていないことに腹を立てた野盗は、次々に襲いかかってくる!

順番、戦法などあったものじゃない。自分のやりやすいように戦っているだけだった!

それでも、次々に襲いかかってくる刃の数が尋常でないため、危険極まりないことこの上ない。

 

だが、そんな状況下でも、アキトは流水の如き動きで、全てを避けきっていた!

しかも、その避ける際に相手に触れ、『水破』を放ち、次々に野盗達を倒していた!!

 

その時!長衣ローブを纏っていた一人の男が、アキトに向かって光球を投げる!!

 

 

喰らえ!!火炎球ファイアー・ボールッ!!」

 

 

光球は男の狙い通り、アキトのすぐ足元に着弾し、大量の火炎を撒き散らした!!

魔導士らしき男は、跳び上がらんばかりに喜びながら、高らかに声を張り上げた!!

 

 

「やった!やったぞ!!これで次の幹部はこの俺―――――ッ!!」

 

 

ゴウッ!!

 

今だおさまらぬ爆炎がいきなり膨れ上がると、まるで破裂するように散り散りち ぢ に吹き飛ぶ!!

その後には、火傷一つ負っていないアキトが、左腕を横に持ち上げた体勢で平然と立っていた・・・・

 

アキトが纏っている凄まじい・・・否、凶悪なまでの氣の奔流が、

火炎球ファイアー・ボールの猛火と衝撃波を完全に遮断したのだ・・・

そして、左腕の一振りによって、爆炎を吹き飛ばした・・・

 

三流の術者が使う火炎球ファイアー・ボールでさえ、直撃すれば人間を丸焼きにする・・・・

その威力をよく知っている者にとっては、正に悪夢のような現実だった。

 

 

「そ、そんなバカな・・・・今ので怪我一つないなんて・・・・・」

 

 

男が呆然としながら呟く・・・・それは、ある程度魔術を学んだ者にとって、共通の思いだろう・・・・

 

 

「気が済んだか?」

「俺の・・・俺の火炎球ファイアー・ボールが・・・必殺の・・・何人も消し炭に変えてきた俺の・・・・・」

 

 

魔導士は呆然と呟いていた・・・しかし、その言葉はアキトには無視できるものではない。

だが、アキトが動くよりも先に、魔導士の男が動く方が先だった。

 

 

「俺の魔術がぁっ!そんなはずはない!火炎球ファイアー・ボールッ!!

 

 

再び魔導士の男が放った光球を、アキトは横に半歩ほど体をずらしただけで避ける。

その光球は、後ろにいた野盗達を巻き込みながら、炎を撒き散らす!

 

 

「避けるなぁ!火炎ファイアー―――――ッ!!!」

 

 

男がさらに呪文を解き放とうとしたとき、その胸からあるはずのない金属が生えてきた・・・・・

ゆっくりと地に倒れ伏す男・・・・その後ろには、小剣ショート・ソードを持った初老の男が立っていた。

 

 

「馬鹿が・・・意味のないプライドなど持ちおって・・・」

「仲間を殺しておいて、平然としているとはな・・・・」

 

「仲間?こいつなどただの使いっ走りの馬鹿弟子よ。

しかしまぁ・・・一応、こいつのプライドらしきものは満たしてやらんとな・・・師匠として・・・・・」

 

 

男は後ろに控えていた十数人の魔導士風の男達に合図をする。

すると、男達は一列に並び、まったく同じタイミングで、同じ呪文の詠唱を始める。

 

アキトの周りにいて、機を窺っていた野盗達は、被害を恐れてか、足早に離れていった。

 

 

火炎球ファイアー・ボールか・・・・・」

「左様・・・例え一撃は効かずとも、十数発もの火炎球ファイアー・ボールは防げまい」

 

 

そこまで言うと初老の男も、早口で火炎球ファイアー・ボールの詠唱をすませる。

 

 

「火葬する手間が省けたのだ。感謝してもらおうか・・・・・・火炎球ファイアー・ボール!!」

 

炎の矢フレア・アローッ!!」

 

 

男達が手の平に光球を生み出した瞬間!アキトは唱えていた呪文を解き放ち、十数本の炎の矢を作り出す!!

その炎の矢は、男達が持っている光球を寸分の狂いもなく射抜き、爆発させた!!

 

至近距離・・・ほとんど零距離で火炎球ファイアー・ボールを爆発させた男達は、悲鳴をあげる間もなく、爆炎の中に姿を消した・・・

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

その様子を、ただ呆然と見つめる野盗達・・・・

自分達の切り札の一つ、強力な破壊力を持つ魔導士が、一瞬で倒されたのだ・・・・

 

アキトが向き直った瞬間、盗賊達は無意識の内に恐怖で身体を震わせていた・・・・

 

 

「あ、悪魔か貴様・・・・・・・・・」

 

 

野盗の一人が、畏怖する瞳でアキトを見ながら、ただ一言呟いた・・・・・

 

 

「悪魔?違う・・・・今の俺は・・・・・」

 

 

アキトは上空に跳び上がり、盗賊達が密集している所の真ん中に飛び込む!

その際に広がったマントが、まるで翼のように広がる・・・・夜の闇に広がる、漆黒の翼のように・・・・・

 

 

「死神だ!!」

 

 

その姿を見た野盗達は、アキトの言うことを本気で信じかけた・・・・・

 

百人近くいた野盗達が、血の海に沈むまで・・・・それほど時間が必要ではなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

中天に月がかかる頃・・・・・砦の中で立っているのは、アキトと野盗の頭・・・

そして、側近らしき女だけだった。

 

アキトと二人は、砦の上にある広場で対峙していた。

正確には、そこで待ち受けていた野盗の頭の元へ、アキトが行っただけなのだが・・・

 

怪我一つ無く、全ての野盗を倒したアキトを前にしても、男は逃げるそぶりすらしない・・・

余程自信があるのか・・・それとも、実力差も解らないほどの馬鹿なのか・・・・

少なくとも、その態度からは自信が有り余っているようにも見受けられる。

 

 

「あ〜あ・・・せっかく集めて作った盗賊団が壊滅かよ・・・・面倒めんどくせぇな。

雑用とかやらすのに、結構便利だったんだがなぁ・・・・仕方がないか」

 

 

野盗の頭は、無意味に頭などを掻きながら、本気で面倒くさそうに呟いていた。

子分達の容態を心配している様子などは微塵にも見受けられない。

 

 

「てめえをとっとと片づけて、新しい人材でも集めるか・・・・」

 

 

男がそう言いながら、首飾りを掴む。

すると、赤い石が付けられただけの簡素な首飾りは、暗い紫色の光を放ち始める!

 

 

「この盗賊団の名前、『悪霊ゴースト』の由来を教えてやる・・・・・・」

 

 

 

男の周りに、半透明な何かが大量に発生する!

その半透明の何かは、人の顔らしきものを浮かび上がらせて、苦悶の声をあげる!

 

赤竜の力を持つアキトの視覚には、それらの姿がはっきりと見え、表情すら判別できた・・・

アキトの目に、激しい怒りの炎が揺らめく!

 

 

「死者の魂か・・・・・死してもなお、人を苦しめるというのか!」

「どうせあのままでも苦しんでたんだ、それを有効に再利用しただけさ」

 

 

その時、アキトの脳裏に昼間のルナの言葉がよぎった!

 

『あの町では、無念の死を遂げた人がたくさんいたにも関わらず、それがなかった・・・・綺麗さっぱりね。

あれ程の惨劇があったのなら、残留思念ではなく、悪霊になっていても不思議じゃないのに・・・・・』

 

その言葉と、今の状況・・・二つの話から導き出される可能性に、アキトの怒りは更に増す!!

 

 

「貴様・・・・殺した街の人を・・・・・・」

 

「よくわかったな。そうよ、あの連中を俺が使ってやってんのよ、

毎日毎日、同じ事を繰り返しながら年とって死ぬ・・・・そんなつまらない連中を使ってるんだ。

人の役に立てたんだから、感謝してるんじゃないのか?」

 

「つまらない・・・だと?平和な日常をくり返す・・・・それがどれだけ難しいか・・・・

貴様達に、それを踏みつぶす権利などはない!!」

 

「そこまで言うのなら、この悪霊達こいつらをなんとかしてやったらどうだ?

ちなみに・・・白魔法の浄化呪文程度では、まったく効果はないがな・・・

それとも、こいつらを魔法で消滅でもさせて、苦しみだけでも止めてやるか?ん?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

この状況が面白いのか、さも楽しげに笑う盗賊・・・・・

 

アキトはあふれ出る怒りと殺意の感情を、無理矢理にでも心の奥に封じ込める・・・・

 

そして、氣と昂氣を混合させ、より強力な昂氣を練り上げる。

その練り上げられた昂氣は、体内にて集束され、後は解き放つばかりとなる!!

 

 

「済まない・・・・俺はお前達を救う術を知らない・・・・恨むなら、俺を恨んでくれ・・・・

秘拳 竜吼―――――ッ!!」

 

 

今まさに、アキトが秘拳を放とうとした瞬間!辺りの空間に淡い光を放つ球体が、無数に発生した・・・・

その光球の大きさは、握り拳の約半分ほど・・・光量は星の瞬きのように儚い・・・・

 

 

(これは・・・・・まさか!)

 

 

アキトがよく知る氣を察知したのと同時に、光球の群がまばゆい閃光を放った!

しかし、その閃光は目を焼く・・・といった感じではなく、限りなく暖かな、優しい感じがする光だった。

 

 

『アアーーー・・・・アタタカイ・・・・・・キモチイイ・・・ヒカリ・・・・・・』

 

 

その光に照らされた悪霊ゴースト達は、安らかな表情をしつつ、消えていった・・・・

全ての悪霊ゴーストが浄化されると同時に、光も消滅し、辺りは闇に戻った・・・・・

 

残る光源は、砦の篝火と、天にある月と星の輝きのみ・・・・

その光に照らされて浮かび上がった野盗の顔は、驚愕に満ちていた。

 

 

「馬鹿な!この首飾りの魔力によって、悪霊ゴーストは半永久的に呪縛されるはず!どう言うことだ!!」

 

 

男は、後ろにいた女に喰ってかかる。

しかし、その女は呆然とした表情で、ある一点を凝視していた・・・

その先には・・・・・アキトがよく知る女性が静かに立っていた。

 

 

「久しぶりね・・・・・確か、マゼンダ・・・・だったかしら?」

「クッ!『赤き竜神の騎士スィーフィード・ナイト』・・・・・・なぜここに」

 

 

ルナは、女・・・・マゼンダの質問には答えず、自分を見ているアキトに向かって微笑んだ。

 

 

「必要がなかったかもしれないけど・・・・ごめんなさい、手を出しちゃって」

「いえ、ありがとうございます・・・・ルナさんのおかげで、あの霊も浄化できましたし・・・・」

「ならよかったわ」

 

 

微かながらに微笑みながら、礼を言うアキト・・・・そんなアキトに、ルナも微笑み返す。

話を無視されたマゼンダは、苛立たしげにルナを睨む!

 

 

「お前がこの場に来る必然がない!それなのになぜここにいる!!」

「必然ならあるわよ?そこにいる彼・・・・アキト君は私と縁があるもの」

 

 

ルナの答えに、マゼンダは歯軋りがしそうな程、歯を食いしばる。

 

 

「命令のついでに、あの小娘を呼び寄せて殺すつもりが・・・・・とんだ誤算ね・・・・」

「命令・・・・ね。相変わらず使いっ走りのようね」

「ルナさん、知り合いなんですか?」

 

「以前ね・・・魔竜王カオス・ドラゴン一派が、北の魔王を打つためにって、私に助力を求めに来たのよ。

その時の使者が彼女、マゼンダだったの。結局は断ったんだけどね」

 

「そう・・・自分には関係もなく、また『えにし』が繋がって無いと言って、貴様は断った・・・・」

「そうだったからね。それで・・・主が滅んだ今、覇王ダイナストに命令されて動いているってわけね」

「なぜそれを・・・・」

「他の二人は動きそうもないから・・・それに、こんな事しそうなのは覇王ダイナストぐらいだもの」

「・・・・・・・・・・・どうするつもり、私を滅ぼすの・・・・」

「私は手を出さないわ・・・・逃げるのならお好きにどうぞ。ただし、アキト君を倒せたらね」

「後悔しないでよ・・・少々強いぐらいの人間など・・・今の私からすれば塵も同然なんだからね」

「はいはい、どうぞご自由に・・・・(絶対に無理だけどね・・・・)」

 

 

ルナの余裕のある言い方とその態度に、マゼンダは憎々しげに表情を歪める。

話に置いてけぼりにされていた野盗の男は、イライラした表情でマゼンダにくってかかった。

 

 

「おい!一体どう言うことなんだ!」

「おまえには関係ない!さっさとあの男を始末することだけ考えればいいのよ!」

「なに!」

「いやなら別に良いけど・・・その時は・・・・」

「チッ!今さらこれを返せるか!わかったよ!」

 

 

男は首飾りを握りしめながら強く念じ始める。だが・・・・アキトにはその行為は全くの無駄にしか見えない。

ルナの手により、辺りを埋め尽くすほどいた悪霊ゴーストは、一体残らず浄化されているのだ。

 

 

「無駄なことを・・・・」

「それはどうかな?悪霊ゴーストは居なくても、その原料はそこらに転がっているんだぜ?」

 

 

男の握っている首飾りより発生したどす黒い紫色の光が、触手のように枝分かれをし、

階下の広場に倒れていた盗賊達を包み込んだ!

包み込まれた盗賊達は、皆一様に苦悶の表情を浮かべ、顔色が青白くなってゆく!!

 

 

「貴様!自分の部下を!!」

「あのまま生きていても役にたたんのだ、死んで役にたってもらうだけだ!文句があるか!」

 

 

アキトには文句が山ほどあったのだが、言っても聞く耳は持たないと考え、何も言わなかった・・・

それに、時間もなかった。すでに、数体足らずではあるが、下の盗賊達の周りに悪霊ゴーストが飛んでいたのだ。

悪霊ゴーストは、生者を同じ立場に引きずり込もうと、取り憑いて苦しめる・・・・

もはや、男の首飾りの助力が無くとも、勝手に悪霊ゴーストが増えてゆくのだ。

それが、悪霊ゴーストの恐ろしさでもある・・・・・存在する限り、確実に増えてゆくのだから・・・・

 

 

「あいつらを救ってやる義理はないんだがな・・・それでも、寝覚めが悪いんでな・・・・」

 

 

そう言うと同時に、男との間合いを一足飛びに詰め、拳を繰り出す!!

アキトは男の腹部を殴ると同時に、拳に集束させていた氣を爆発させる!!

 

 

「衝破!!」

 

 

ズドムッ!!

 

かなり重い衝撃音と共に、男はかるく宙に浮き、そのまま後ろ向きに倒れた・・・・

 

地竜式 氣功闘方術 衝破・・・・・

先程、アキトがやったとおり、集めた氣を爆発させ、その衝撃を相手に叩き込む技。

衝撃波として打ち出すことも可能だが、かなり弱いものとなる・・・・

本来の使い方、零距離で衝撃波を漏らさず直接叩き込む時の破壊力はかなり強力なもの。

 

ちなみに・・・『秘拳 竜吼破』は、衝破を昂氣によって極限まで昇華させたものだったりする・・・・

 

その様な危険な技をまともに喰らった盗賊の頭は・・・・・

 

 

「グハッ!!」

 

 

・・・・・・・・・・・口から血を吐きながら、全身を襲う激痛にもだえていた。

アキトは、男に叩き込むときに手加減をしていたのだ・・・・

例え、実力の半分程度で放ったとしても、男の身体は砕け散っていたのだから、かなり手加減をしているだろう。

 

しかし、当然の事ながら全くの無事ではない・・・男の全身の骨は、そのほとんどが砕け、

内臓などの器官も、かなりの深刻なダメージを受けていた。

 

ダメージの度合いで言うのであれば、『水破』を受けた方が、まだ重症なのだが・・・・

アキトは、あえて手加減をしやすい『衝破』を選んだ・・・・気絶させないために・・・・

 

 

「しばらくの間、そこで悶え苦しんでいろ・・・・・暴れなければ、死ぬこともないはずだ」

 

 

アキトは忠告をするが、男はその忠告を聞く事ができるほど余裕がなかった・・・・

激痛から逃れようと体を動かし、それによってさらに激痛に襲われる・・・・ほとんど拷問に近い・・・

 

後ろでその状態を冷ややかに見ていたマゼンダは、やれやれと言わんばかりに溜息を吐く。

そして、男に傍にまで歩み寄り、ゴミか何かを見るような目で見下ろした。

 

 

「まったく・・・・わざわざ部下を貸してあげたのに・・・とことん使えない男ね・・・・・」

「グ・・・・ア・・・・き、貴様・・・・・」

「もういいわ、ソレも貴方の精神アストラルに程良く根付いたみたいだし・・・・・」

「な、何の・・・・・・」

「目覚めなさい、その人間を媒介として」

「い、一体・・・・何を・・・・ガ、ガァァァァァ!!!!」

 

 

男の付けていた首飾りが服を突き破り、体内へと潜り込む!

そして、叫びをあげる男の身体の肌は、急速に青銅色の何かへと変質していった!!

 

時間にしてほんの数秒・・・・全身が青銅色に変わった男・・・・元、人間の男はその場に立ち上がった・・・

全身の骨が砕けていたはずなのに・・・・である。

 

 

「マゼンダ・・・・あなた、魔族と人間を!」

「その通り、融合させた・・・いえ、乗っ取ったと言うべきかしら?」

「非道なことを・・・・・」

「そうは言うけど・・・・これの原型を発案した奴の方が、もっとも酷いと思うけど?人間からすればね・・・・」

 

 

マゼンダの一言に、ルナとアキトは微かに顔をしかめた。その張本人・・・とも言うべき者を、知っていたから・・・・

 

 

「もっとも・・・参考にしただけで、力はこちらの方が上なんだけどね・・・

ちなみに、こいつが実験台第一号よ・・・これから次々に作られるでしょうね」

 

「貴方達は魔族としてのプライドまで捨てるつもり!?」

 

「それは主が決めること・・・私達はただ命に従うのみ。

さあ、貴方の真の実力をもって、そこの男を殺しなさい!!」

 

 

マゼンダの命令により、男・・・・人魔は、その手に魔力の刃を作り出し、アキトに向かって振るう!

その振るった軌跡にそって、光の刃がアキトに向かって飛翔する!

しかし、その攻撃のスピードは大したものではなかった。

アキトは飛来する光刃を、身体を半分ほど動かしただけで避けた。

 

アキトにとっては、なんら脅威もない、平凡な攻撃・・・・・

しかし、それを見たルナとマゼンダは、それぞれ別の意味で驚いていた!

 

(あの男!精神世界面アストラル・サイドの攻撃を避けた!?見えているのか!!そんなバカな!)

 

(あれは精神世界面アストラル・サイドでの攻撃!?そんなはずは・・・魔族が人間に対してできるはずがない・・・

―――――ッ!!だからこそ、人間を乗っ取ったのね!魔族という属性を捨てるために!!)

 

魔族は人間に対して、精神世界面アストラル・サイドの攻撃・・・つまり、本気は出せない。

しかし、かつて、魔族でありながら、人に対して精神世界面アストラル・サイドの攻撃を行える存在がいた・・・・

魔竜王カオス・ドラゴン・ガーヴ』・・・五人の腹心であり、人間として転生した魔族。

ある意味、最強の人魔・・・ともいうべき存在となった男。

 

それを、今度は魔族の手で行ったのだ。と、ルナは見当を付けた。

同時に・・・それが現実ならば、今までの『人と魔』のパワーバランスが崩れることにも気がついていた・・・・

 

そんなルナの苦悩を余所に、アキトは振り返らないまま、後ろにいるルナに向かって話しかけた。

 

 

「ルナさん・・・こんな状態になったら、元に戻すのは不可能なんですよね・・・・」

「え、ええ・・・・」

「そうですか・・・・・」

 

 

そう言うと、アキトは赤竜の力を使って柄を創りだし、全身に昂気を纏った。

柄の宝玉は、アキトの昂気を吸収し、蒼き刃を創りだした!

 

 

「ス、スィーフィードの力!『赤の竜神の騎士スィーフィード・ナイト』以外の人間がなぜ!?」

 

 

マゼンダは、悲鳴じみた叫び声を上げながら、本来、唯一神の力を持つ人物の元へと目をやった。

そこには・・・マゼンダの視線を、にっこりとした微笑みで返すルナがいた。

その時点で、マゼンダは大きな大きな過ちに気がついた・・・・目の前にいる男の実力を見誤っていたことを・・・・

なぜ、『赤の竜神の騎士スィーフィード・ナイト』ルナ・インバースがあれ程余裕だったのか・・・それが理解できたのだ。

 

すなわち・・・中級魔族であるマゼンダでは、目の前にいる男テンカワ・アキトには絶対に勝てない。

そう信じて・・・・否、確信しているのだ。

 

 

(この者達を相手に、私と全力を出せるだけの下級魔族だけでは話にならない!!

たかが実験と思い、手勢を連れてこなかったことが仇になるなんて!)

 

 

洒落にならない状況に、完全に焦るマゼンダ・・・・

 

そんなマゼンダを視界の端に捉えたまま、アキトは赤竜の柄を右手で握り、自然体で立つ・・・・・・

そして・・・・その姿は忽然と消え、人魔の後方に現れた!!

 

 

「蒼竜剣技・・・・・天吼斬・・・・」

 

 

アキトに向かって振り返った人魔の身体に、蒼い線が斜めに趨った!

その蒼い線よりあふれ出た蒼銀の光は、人魔の身体を包み込み、一本の光の柱と化した!!

 

昂気の凄まじいエネルギーによって、人魔は塵も残らず・・・・精神世界面アストラル・サイドに痕跡すら残さず消滅した。

その後に残ったのは・・・消え去ろうとしている光の柱・・・・その残滓だけだった・・・・

 

 

「ご苦労様、アキト君」

「いえ・・・・それよりも、あの女魔族・・・・逃がしましたね」

 

 

アキトはマゼンダの居た辺りを見た・・・・

そこには、魔気の残滓と空間の揺らめきがあっただけだった。マゼンダの姿は何処にもない。

 

 

「良いのよ。自分の後始末は自分でする。でしょう?」

「??・・・・ええ、まぁそうですけど・・・・」

「そう言うこと・・・・・(だから、売られた喧嘩はキチンと始末しなさい、リナ・・・・・)」

 

 

ルナは、ゼフィーリアの方に目を向けて、心の中で呟いた・・・・

 

同時刻・・・・寝ていたリナはうなされていた・・・・らしい・・・・

 

 

「・・・・・下にいる連中はどうしましょうか?」

 

「放っておけば?悪霊ゴーストは私が消しておいたから、もう死ぬことはないでしょうし・・・

それに、セイルーンの国境警備隊に連絡入れているから、朝までには捕縛してくれるでしょうし」

 

「国境問題とかは良いんですか?」

「気にしなくて良いでしょ?今現在のエルメキアにそんな事気にする余裕はないしね・・・」

「そうですか・・・・・・・」

 

 

そう呟くと、アキトは下に広がっている惨状を見下ろした・・・

バイザーをつけているため、その表情はいまいち判りにくい・・・・・・

 

 

「どの世界にも・・・どうしようもない奴等はいるんですね・・・・・・」

「アキト君・・・・」

 

 

ルナにはかける言葉がなかった・・・

この世界は、平和が満ちているわけではない・・・裏では、盗賊が平然と横行している状態なのだ。

でも・・・ルナは、アキトにそういった場面を見せたくはなかった・・・・

世の中綺麗事だけではない・・・それを知らない訳ではない・・・が、

もし、アキトがこの世界を嫌いになったら・・・・そう思うと、ルナの心が激しく痛んだ・・・・

 

アキトの横顔を見ていたルナの顔が悲しみに満ち、泣きそうな表情になった・・・・

 

それに気がついたアキトは、ルナの様子に驚きながらも、真正面に向き直った。

そして、バイザーを外し、優しげに微笑んだ。

 

 

「ルナさん、そんな顔をしないで下さい・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「俺は大丈夫ですから・・・・・・」

 

 

ルナの考えていた事とずれてはいたが、アキトの心遣いによって、儚げながらも微笑み返す・・・

それを見たアキトは、安心したような表情をして夜空にある月を見上げるために、顔を上げた。

 

 

「それに・・・俺は、この世界が好きですよ・・・・故郷と同じぐらいに・・・・」

 

 

そう言いながら微笑むアキトを、ルナは極上の笑顔と共に見ていた・・・・

先程とは、まったく意味が違う涙を流しながら・・・・・

 

 

 

 

(第三十九話に続く・・・・・)

 

 

 

―――――あとがき―――――

 

どうも、ケインです。今回の話は、前回の続きです。

後で思いましたが、前後編にして、一気に投稿すればよかったですね・・・・反省です。

 

今回、出てきたマゼンダですが・・・スレイヤーズ本編で、ゼロスに倒されています。

個人的な考えで、あの時は倒されただけで、滅ぼされなかった・・・と、云うことにしております。

この話にも書いたように、主が滅べば、他の腹心に従属し、配下となるのですから、

無理矢理に滅ぼす必要が無いと考えましたので・・・・一時的な処理で、倒した・・・と云うことにしておいてください。

 

 

最後に・・・・・K・Oさん、15さん、m-yositoさん、NTRC直さん、ナイツさん、ぺどろさん、ホワイトさん、逢川さん、

危険地域さん、時の番人さん、自然好きさん、浅川さん、大谷さん、道雪さん、

覇竜王さん、凡指揮官さん、麒麟さん、ノバさん、Czさん、GPO3さん。

 

感想、誠にありがとうございました。

 

それでは・・・・・・

 

 

 

管理人の感想

ケインさんからの投稿です。

強いですねー、アキトっち。

ここまでくると、対等に戦える敵役を探すのが大変ですよね。

・・・ま、人の事は言えない身ではありますが(苦笑)

さてさて、次の話ではゼフィーリアに辿り着くのでしょうかね?