赤き力の世界にて・・・
第43話「過去の亡霊・・・・・・」
かつて・・・サイラーグ・シティの周りには、『瘴気の森』と呼ばれる森があった・・・・
それが誕生したのは今から数百年前、当時、魔導士協会の本部であったサイラーグの魔導士協会が、
とある実験を行ったことに始まる・・・・・
それは、『異界黙示録の写本』の真偽を確かめるため、書いてある物を作ってみる。というおこない・・・
そして、造られた物とは、如何なる魔術も通用しない生体甲冑という、とんでもない代物であった・・・
だが・・・それは、原因不明の暴走を起こすという結果に終わった。
ザナッファーと呼称される魔法を寄せ付けぬ魔獣は、瞬く間にサイラーグを壊滅した。
その時、光の剣を持った一人の男が、ザナッファーを退治した。
退治したのは良かったのだが・・・その後に問題が残った。
ザナッファーの骸と流れ出た大量の血潮・・・・それが、凄まじい瘴気を放ったのだ。
その瘴気は人の心を狂わせ、近辺の街の殺人や暴行、強姦などといった、ありとあらゆる犯罪が増加した・・・
近くに住む獣も例外ではなく、普段、怯えて人を襲わない小動物さえも、集団で人を食い殺す事も・・・
その被害総数は、尋常ではなかった・・・
だが、それは光の剣を携えし剣士が、竜族の長から手に入れたという、木の苗・・・・・
瘴気を吸収、そして浄化するという樹・・・・・神聖樹を植えたことにより、軽減した。
そして・・・少々前、とある計画をこの地で進めていた冥王によって、完全に消え去った。
消え去ったはず・・・・なのだが、今現在、その森は過去のように瘴気を放っていた。
アキト達が、この森に入って暫くして・・・唐突に・・・・である。
これが覇王とその一派の仕業であることは、口に出すまでもなく、アキト達は理解していた。
「懐かしい・・・と言うべきかしらね。この感じ・・・・」
「そうだな・・・・俺がこの森に来たのも数回だけだが・・・まったく変わってないな」
「そうね・・・まるで、一年前に戻った感じね」
リナとガウリイは、森を見回しながら道を歩いていた・・・・
このメンバー内では、瘴気の森に入ったことのある者は、この二人だけなのだ。
ルナに至っては、噂で耳にした程度・・・アキト、ニース、メアテナは聞いたことすらなかった。
「ニース、周囲の気配を読むことが出来る?」
「無理だ。濃い妖気のため、気配が感じづらい・・・ここにいる全員の気配がなんとか感じる程度だ」
「そう・・・・私もよ。範囲も同じ・・・いつもの十分の一以下よ・・・・
リナやメアテナちゃん、ガウリイさんも似たようなものでしょうね・・・・」
ルナは、警戒した目で周りを見回すリナ達に目を向ける。
感覚が特に優れているルナ達が、殆ど気配を読めない状態なのだ・・・・他の人間が読めようはずはない。
「アキト君・・・・周囲の気配をつかめる?」
「気配はダメですね・・・ニースの言うとおり、妖気が強すぎます。
でも、《氣》は何とか感じます・・・本当に、なんとか、程度ですけど」
アキトは、この森の動物であろう、小さな氣をいくつも感じていた・・・
動物達も、突如発生した妖気に怯えているのか、動いているものは全くなかった。
「それは良かったわ・・・全員の感覚がつぶれていないだけでも、かなり違うもの」
「氣功術を学んでいた甲斐がありましたよ、ルナさん達は感じないんですか?」
「私は気配と似たような感じ・・・アキト君ほど鋭敏には感じられないわ」
「私もだ。通常ならば多少なりとも感じられるのだが・・・今はさっぱりだ」
「そうなのか・・・・・ルナさん、この瘴気を浄化することは出来ないんですか?」
「やって出来ないことはないでしょうけど・・・無理でしょうね。状況から考えて、これをやったのは覇王。
無論、私が瘴気を浄化できることもしっているわ。それでもなお、やっているのだから・・・・」
「やるだけ、無駄に力を消費する・・・ということですか」
「そうなるわね。でも、一応やってみましょうか?」
「止めておきましょう。それよりも、先に進みましょう。いつまでもここにいても仕方がありませんし。
進んでいれば、あちらから何らかの手出しをしてくると思いますしね」
「そうね・・・リナ、そろそろ行くわよ」
「わかった」
「メアテア、はぐれるなよ」
「うん、気をつける。ニース姉さん」
アキト達はなるべく警戒しながら、覇王の気配を感じた方向に向かって歩き始めた。
もちろん、今も感じているわけではない・・・寸前まで感じた方向に向かっているだけなのだが・・・・
どれ程歩いただろうか・・・・
いつまで経っても変わり映えしない景色に、メアテナは不安の声を上げた・・・
「アキト兄さん。なんか、同じ所をぐるぐる回っているみたい・・・・」
「そんなはずはない・・・・と思うんだけど・・・・」
さすがのアキトも、自信なげにメアテナの問いに答えた。
アキト自身も、同じ所を回っているのではないのか?と、疑問に思っていたからだ。
濃すぎる妖気が、皆の方向感覚を狂わせているため、余計にそう思える。
(確かにおかしい・・・・一体どうなっているんだ?周囲の動物達の氣も感じられなくなるし・・・・・)
歩き始めてから暫くすると、少数ながらも存在していた動物の気配が感じられなくなったのだ。
それも唐突に・・・数が急激に減ったという感じではなく、ある時を境に、文字通り消え去ったのだ。
アキトは立ち止まり、周囲の氣を読む範囲・・・氣の結界の領域を拡大する。
かなり苦労する・・・が、そうも言ってはいられない状況なので、限界近くまで集中する・・・
すると・・・・信じられないことに気がついた!
「どういうことだ・・・・」
「どうかしたの?アキト君」
「全方位から、俺達の氣を感じるんです・・・・」
「全方位から?どういう感じで?」
「ある一定の距離離れています。全部同じ様な距離です・・・
けど、感覚がかなり曖昧な感じなので・・・俺の気のせいかもしれません」
「いいえ、多分そうじゃないでしょうね・・・となると、やられたわね」
「ああ、間違いなく、空間を繋げられたな・・・・・」
「まったく気がつかなかったわ。誰がやったのかは知らないけど、かなり高位の魔族の仕業ね・・・」
「どうする?」
「とにかく、空間の歪み・・・もしくは繋ぎ目を探しましょう」
「そうだな・・・」
「その前に、客が来たようです」
アキトが道の先に目を向けると、何もない空間から十数体の魔族が姿を現せていた。
それを見たルナ達は、それぞれ構えをとる!
「全部下級魔族・・・・間違いなく嫌がらせね。私達が空間のことに気がついたから・・・・・」
「正解者には下級魔族を一ダースでプレゼントってやつ?気が利いているわね」
皮肉を口にしながら、出現した下級魔族を見るリナ・・・
このメンバーに下級魔族十数体など、嫌がらせ以上の役にたたないことを熟知しているからだ。
「問題はない。全部叩き斬るだけだ」
ニースは右手に力を集束させ、魔剣を創り出す。
そして、飛び掛かろうとしたところで・・・・アキトのそっと肩をおさえられ、止められた。
「俺がやる。ニース達は無駄な力を使うことはない」
「気をつかうな。あの程度の魔族、肩慣らし程度には役にたつだろう」
「それでも・・・少しでも力の消費を抑えるに越したことはない。
おそらく、俺は覇王との戦いには不参加だからな。ここで力を消費しても問題はない」
「・・・・・・・・わかった」
「ルナさん、すぐにすませますからちょっと待っていてください」
「ええ、でも、一応気をつけてね」
「わかりました」
アキトは微笑みながらルナに返事をすると、魔族達に向かって歩き始める。
歩きながら両の拳に氣を集束したアキトは・・・・突如、その姿を消した!
―――――その直後!!
パパパパパパン!!!
下級魔族達は全て破裂音と共に、内側から弾け、瞬く間に消滅した!!
そのさらに向こう側では・・・アキトが平然と立っていた。
「な、何あれ・・・ガウリイ、見えた?」
「なんとかな・・・だが、見切るのは無理だ」
実際、アキトがやったことは、その場から高速で移動し、下級魔族達に氣を叩き込みながら通り過ぎただけ・・・
ただ、それが見切れたのはルナとニースのみ・・・ガウリイとメアテナはなんとか見えたのみだった。
リナに至っては・・・気がついたら下級魔族が破裂した・・・それしか見えていない。
(まったく見えなかった・・・・人間があれだけの速さで動けるものなの?と、考えるだけ無駄よね・・・・)
リナは呆れの混じった溜息を吐いた・・・
あまりにも、常識から外れているような人物が自分の周りに多いことに・・・・
そして気がついていない・・・自分もその一人だということに・・・・
それはともかく・・・・魔族を一瞬で倒したアキトは、ルナ達の傍に歩いて帰ってきた。
「早かったな」
「あまり時間をとっても仕方がないしな」
むしろ、下級魔族にアキトの相手をしろというのが酷だろう・・・
仮にアキトではなく、ニースが相手をしたとしても瞬殺は間違いない・・・・
倒した後になんのリアクションもないことから、本当に覇王の嫌がらせでしかないのだろうと、アキト達は判断した。
「じゃぁ、アキト君が倒してくれたことだし・・・次は私達の番ね」
「頑張って下さい、ルナさん」
「任せておいて。とりあえず、もう一度進みましょう。きっと何処かに、空間を歪めている箇所があるはずだから」
ルナはそう言うと、一旦目を瞑ってから、再び歩き始めた・・・・・・ごく普通に。
リナ達は、その後をついて行くだけ。アキトとニース、メアテナは周囲に気を配りながら歩いていた。
歩き始めて一分少々経っただろうか・・・ルナは立ち止まり、周囲を見回す。
リナ達は気がつかなかったが、ルナが周囲を見回したとき、目の虹彩が一瞬だけ赤くなった。
「ここね・・・ここが空間の繋ぎ目。ループしている所よ」
「ここ?私には何もわからないんだけど・・・・ニース、貴方ならわかる?」
「何となくな・・・言われてみれば、その程度にしか分からん。
更に、妖気が邪魔をしていて、尚更視えにくくなっている・・・・・
そもそも、こういった『視る』などといった事に関しては、神の方が適しているからな」
「そんなものなの・・・・・」
リナは納得したような、しないような・・・奇妙な顔で頷いた。
横では、両方持っている自分はどっちなのかな?と、メアテナが思案していたが・・・・
「ルナさんよく分かりますね・・・俺はまったくわからないんですけど・・・」
「アキト君の中にある赤竜の力が増せば、わかるようになると思うわ」
「そんなものですか?」
「そんなものよ。じゃぁさっそく・・・・」
ルナは空間の繋ぎ目を斬ろうというのか、右手に赤竜の力を集束させる・・・
だが、それよりも先にニースが魔剣を創り出していた。
「待て、私が斬ろう」
「別に良いわよ。私がやっても・・・」
「繋ぎ目を探すのを任せたんだからな。これくらいは私がやろう」
「そう?じゃあ、お願いね」
「ああ・・・・・・」
空間の揺らぎ・・・正確には繋ぎ目辺りに向かって、ニースは魔剣を神速で振るう!!
すると、魔剣の通り過ぎた後にそって、空間に切れ目が入った!!
一本の線・・・そこから亀裂が生じ・・・急速に周囲の空間全てに広がる!!
そして、周囲の空間は、割れたガラスのように剥げ落ち、真実の姿を現せた!
偽りの光景が消え去り、本当の景色が現れたと同時に、アキトとルナ、ニースは武器を構えた!
その先には・・・・杖を持って静かに立っているグロウの姿があったからだ!
「おやおや・・・お早いお着きで。もうちょっと時間がかかると思ったんですけどね」
「なかなかの空間だったけどね」
「それはありがとうございます。そう言って下さると作った甲斐がありました」
グロウはニッコリと笑う。それは何の邪気もない笑顔のように見えた。
故に・・・空間を破られたことにどう思っているのか、察することは出来なかった。
「色々と聞きたいことがあるんだけどね・・・・」
「答えられるようなことであれば、何でもお答えしますが・・・・・」
「では聞くけど・・・あの鉄のゴーレムはどうやって手に入れたの?」
「ああ、これですか?」
グロウの背後の大地に、黒い影が広がると、そこからブラック・サレナらしきものが出現した。
らしきもの・・・とつくのは、アキトの知っている姿と変わっていたからだ。
追加装甲であったはずの黒き鎧は、中身のエステバリスと一体化して、よりスマートになっている・・・・
だが、それより何より・・・ブラック・サレナは、まるで生き物のように脈打ち、禍々しいほどの気配を放っている。
それ自体が、凶悪な一生命体であるかのように・・・・・
「これは元々、カタート山脈に落ちてきたものでしてね・・・
それをアーウィンが拾ったんですが、なにぶん使い方がわからなかったらしくて。
それで、とある手段をとったんです・・・何だと思います?」
「みりゃわかるわよ。同化させたんでしょ。魔族とそいつを」
「ご名答です、リナさん。これと私は同化したんです。といっても、最初はほんの一部だけだったんですけどね。
何でも、これのエネルギー源・・・相転移エンジンというのでしたね。
それが発する純粋なエネルギーを引き出したかったそうです。神と魔の力を培養するためにね」
その言葉に、アキトはメアテナの事を横目でチラッと見た。
神と魔の力を内包した、アーウィンの一人娘であるメアテナを・・・・
「おかげでしばらくは調子が悪かったですよ・・・リナさん達と戦ったときは、実力の半分程度でしたからね」
「それはどうも。そのおかげで私は生きてるってわけね」
「いえいえ、こちらこそ感謝していますよ。離反したアーウィンを始末してくれたんですから。
あの方の力を使った魔術は厄介ですからね。本当に感謝しております。殺してくれて。
裏切り者をこの手で始末できないのは何ですけど・・・・まあ、愚か者を殺す手間が省けたと思えば良いでしょう」
メアテナはグロウの言葉に、思わず飛び掛かろうとした・・・
が、それよりも先に、ニースがメアテナの肩に手をおき、メアテナを抑えつけた。
それは、自分の心も抑えつけているのも同様だということを自覚しつつ・・・・
「もう一つ聞くわ・・・なぜセイルーンを早めに襲ったの」
「ああ、それは貴方達が近づいていることを聞いたからです。
あの時はまだコレの実験段階でして・・・実戦はまだ早いと思いましてね。
まあ結局、戦ってしまいましたが・・・ですが、そのおかげであの時点での限界を知ることができました。
感謝してますよ。テンカワさん」
グロウに笑顔を向けられたアキトは、表情を動かすことなく聞いていた。
あらゆる感情を心の奥底に押し込めているためだが・・・それに気がついていたのは、ルナだけだろう。
無表情のまま・・・・アキトはグロウに声をかける。
「ブラック・サレナを渡してもらおう。それはこの世界にあって良いものじゃない」
「お断りします。もうすでに此は私の半身です。
それに、捨てられていた物を有効活用しているんです。感謝してほしいですね。自然に優しいって・・・」
「ならば・・・・破壊するまでだ」
「出来るものなら・・・・・・・かなり強力になっていますよ?
以前の戦いを忘れたのですか?言うだけなら誰でも出来ますよ。あの愚か者の竜みたいにね。
争いのない世界を作るなんて言う、馬鹿げた夢を持っていた・・・・」
「―――――ッ!!」
「止せ、メアテナ!!」
グロウの言葉を聞いたメアテナは、怒りに我を忘れ、ニースの制止をふりきってグロウに飛び掛かる!!
メアテナの両手に神と魔の力が集束し、二種類の赤い光の刃を創り出す!!
「お父さんのやり方は間違っていた・・・・でも、争いのない世界を作りたい・・・・
その気持ちを侮辱するのだけは許せない!!絶対に!!」
メアテナは、右手に赤竜の力を集束させて創った光の刃を振り下ろした!!
その光の刃は、下手な魔剣など束にしても苦もなく両断するほどの威力をもっている!
しかし、グロウはその一撃を、手に持っていた杖で軽く受け止めた!!
いつも以上に力を篭めていたメアテナは、驚きに目を大きく広げる!
「やれやれ・・・・いきなり斬りかかるなんて。野蛮ですね」
「まだっ!!」
メアテナは左手の光の刃でグロウの胴を両断しようと横薙ぎに振るう!
唯一の武器である杖は、右手の光の刃で抑え込んでいる為、今度の攻撃は止められない!!
そう、メアテナは考えた・・・・だが!
信じられないことに、グロウはメアテナの攻撃を、今度は素手で掴み、がっちりと受け止めた!!
驚きに動きを止めるメアテナ・・・そんなメアテナに、グロウは優しげに微笑んだ。
何の悪意も見せない、純粋な微笑みを・・・・・・
「邪魔な両手ですね・・・・切ってしまいましょう」
まるで、庭掃除のついでに邪魔な雑草でも引き抜こうか・・・・そんな軽い口調だった。
グロウは微笑んだ表情のまま、目だけをスゥッ・・・と、細めた。
それと同時に、メアテナは背後に何らかの力を感じる!
だが、対処しようにも眼前のグロウが放つ殺気に、身動きがとれない!
注意をそらした瞬間、やられてしまう・・・・それが解っているのだ。
(どうすれば!?)
その時!
「―――――ハァッ!!」
グロウが攻撃する寸前に大地を蹴ったアキトが、
瞬時に間合いを詰め、メアテナの背後の空間を赤竜の剣で薙いだ!!
何もない空間を薙いだはずなのに、金属同士がぶつかったような音が二回鳴り響く!
「メアテナちゃん!ふせて!!」
アキトの声に、メアテナは一も二もなく反射的に身を屈める!
アキトは返す太刀で、グロウに斬りかかる!!
グロウは、間にメアテナが居たため、まさか斬りかかるとは思ってもおらず、反応が少し遅れた!
しかし、さすがは高位魔族か・・・手に持っていた杖を身代わりにして、後ろに跳びずさった。
「痛いですねぇ・・・杖でも身体の一部なんですよ」
「すまなかったな・・・今度は痛くないように一撃で決めてやる」
「怖いですねぇ・・・」
杖を復元しながら、戯けたように肩をすくめるグロウ。
その様子を、ルナとニースは険しい目で見ていた・・・・・・
「ルナ、先程のあれは・・・・・」
「ええ、間違いなく・・・・・だとすれば・・・・かなり厄介ね」
「どうかしたの?二人とも・・・・さっきの空間を越えた攻撃ぐらい、姉ちゃん達には余裕じゃ・・・・・・」
「違うわ。先程の攻撃・・・・あれは精神世界面の攻撃よ・・・」
「―――――ッ!?精神世界面の攻撃!?だって!あれって人間相手には出来ないってはずじゃあ・・・」
「そうよ、そのはず・・・だったわ。でも、現にグロウは攻撃した・・・・これも事実よ。
リナ・・・目の前で起こったことは全て認めなさい。否定するのは現実逃避よ」
「わ、解ってるわよ・・・・・(と言っても、一般人である私の目には見えなかったんだけどね)
でも、一体どうして・・・・魔族は攻撃できないんだから・・・・・グロウの奴、魔族やめたとか?」
リナはいつもの減らず口・・・・と言うか、冗談半分に自分の意見を述べる・・・
その言葉に、ルナは苦笑する・・・・・そう、リナは思っていた・・・・
しかし、ルナの答えは・・・・至極真面目な顔をして肯いただけだった。
「それ以外に考えられないわね・・・・・・
おそらく、人と魔を融合させて、精神世界面の攻撃ができる人魔を作り出したのも、その実験・・・・
私の想像が正しければ・・・根本的な部分からあのブラック・サレナと同化・・・いえ融合したのね。
魔族という枷は外すために・・・今のグロウは、人間相手にも全力を出せる半魔族みたいなものね・・・」
「ご明察。仰るとおりです。私は魔族たることを捨ててしまいました・・・・・覇王様の鎧となる為に・・・
そして、来るべき神との最終決戦にて・・・更なる力を得るために・・・・
そうそう、それで思い出しましたが・・・・一つ勘違いなさっていますよ。
私が先で、人魔はただの大量生産目的の実験ですから。間違わないでくださいね」
グロウは生徒に注意をしている教師の如く、やんわりと・・・そしてキッパリという。
「私は、たかが人間如きを相手にするために、コレと融合したわけではありません。
魔族の枷が外れたというのは、あくまで結果です。偶然の産物なんですね。
そもそも、道ばたの石程度にすぎない人間相手に、手間を必要はありませんからね」
グロウの宣言に、その後ろにいたブラック・サレナが低い唸り声を上げる・・・肯定の意志を伝えるかのように。
「なら、そのたかが人間如きの底力を教えてあげるわ。格安でね」
「なんか小難しい事を言っているようだが、俺にはさっぱりわからん。
だが・・・これだけはわかるぞ。お前を今ここで叩き斬ればいいってな!!」
リナは魔術の詠唱を初め、ガウリイは腰に下げてあった妖斬剣を抜く!
ルナ、そしてニースも、己の内に宿る力を集束し、赤き剣を創り上げる!
そして、全員が戦闘姿勢に入る・・・・寸前に、アキトが皆の前に立った。
「みんなには悪いけど、彼奴と戦うのは俺の因縁なんだ。みんなは手を出さないでほしい・・・・」
アキトはグロウ・・・そしてブラック・サレナから視線を外すことなく、背後の皆に向かって話した。
リナやガウリイ、メアテナは何かを言いかけたが・・・・その強い意志を感じる背中に言葉を紡げなかった。
ルナとニースは、こうなることを半ば予想していたのか、すんなりと構えを解いた。
「アキト君・・・・・・・そうよね、これがアキト君の目的。私達が邪魔をする権利はないわね」
「すみません・・・・」
「私達は覇王を引き受けるわ。後、邪魔をするとすれば彼奴ぐらいでしょうし・・・・
覇王とのけじめは私達でつけるから、ここはアキト君に任せるわ」
「ありがとうございます。俺も、きちんとけじめをつけます」
「頑張って・・・・グロウ、そう言うことだから」
「わかりました。では他の皆さんは覇王様の元へどうぞ・・・・」
グロウは、杖で右方向を指す・・・その先には、本来ならばあるはずのない、大きな城がそびえ立っていた。
その城は、魔族の一人が住んでいるとは思えないほど豪華で、
下手をすれば、神が住まう居城・・・・・と、言っても違和感がないほどの風体であった。
「一体いつの間に・・・・・」
「覇王が別の空間に創った物を、こちらに見えるようにしているのね・・・」
「その様だな。つまり、あの城は覇王の体内と言っても過言ではない。どうする?」
「無論、行くわよ」
「その通りだな。では行くか」
「そうね・・・あ、ちょっと待って。アキト君!」
「何ですか?」
「ん、ちょっとね」
ルナはそう言うと、アキトに顔を近づかせて・・・・・口づけをした!
ただし、カタート山脈の時とは違い、頬であったが・・・・
「ル、ルナさん!」
「前もやったでしょ、景気付け!」
「そうは言っても・・・・・・」
顔を赤くしてしどろもどろするアキト。
唇ではなかったためか、先のように思考停止まではいかなかったが、その代わりかなり恥ずかしがっている。
「私もやる!!」
「ちょっとメアテナちゃん!」
「まぁいいじゃない、アキト君」
「でもですね・・・あ・・・・」
アキトは慌ててメアテナを制止しようとしたが、時すでに遅く、
メアテナはアキトの頬・・・ルナとは反対の方・・・・に、口づけをした。
「アキト兄さん、私の分もお願い」
「・・・・・・わかった。メアテナちゃんの分、確かに引き受けたよ」
「うん!」
アキトは、優しげな笑顔を浮かべると、メアテナの頭を撫でた。
メアテナはアキトに撫でられると、とても気持ちよさそうに目を細めた。
「あの程度の奴に負けるなよ、アキト・・・」
「ニース・・・・わかっているさ」
ニースは、その返事に満足したように頷き、そして、アキトに向かって一歩近づいた・・・・・
「おい、まさかお前も・・・・」
「いや、握手しようとしただけなんだが・・・・してほしいのか?別に構わないぞ」
「いや、そう言うわけでは・・・・・・ちょっと、ルナさんにメアテナちゃん!!」
アキトは左右に立ち、両腕を掴むルナとメアテナに驚いた。
慌てて二人の顔を見るアキト!
「良いじゃない、ここまできたら二人も三人も変わりはないわよ」
「ニース姉さんだけ仲間外れじゃ可哀想でしょ、アキト兄さん!」
二人はにっこりと笑いながら、がっしりとアキトの腕を掴んで放さない。
そんな事はお構いなしに、横に向いたアキトの頭を、ニースは両手で自分の方へと向かせ・・・優しく口づけする。
唇に・・・・・・触れ合う程度に・・・・・・
思いがけない人物からの大胆な行動に、アキトは混乱しかける!
そんなアキトに、ニースは滅多にすることのない、優しげな微笑みを見せた。
「こういうのは初めてだが・・・・悪くはないな」
「は、初めてって・・・・」
「なに、気にするな。別に力を移したわけでもないのだからな」
「そう言う問題じゃないんだけど・・・・・」
「フフ・・・・・」
困った顔をするアキトに、ニースは軽く笑う。
そんな二人を見ながら、ルナとメアテナはアキトの腕を放した。
「さて、景気づけも終わったことだし。私達は先に進むわ。アキト君。後は頼んだわよ」
「ええ、任せて下さい、ルナさん」
「アキト兄さん!絶対に負けないでね!」
「わかってるよ、メアテナちゃん」
「油断せぬようにな・・・」
「わかった。ニースも気をつけてな」
「ああ」
「アキト!姉ちゃん泣かすような事だけはしないでよね。後が怖いんだから」
「気をつけるよ。リナちゃん」
「まあ・・・・何だ。別に言うこと無いけど・・・怪我をしないようにな」
「しないですむのが一番なんだがな・・・ガウリイ、リナちゃんを守れよ。後悔しないように」
「ああ。守りきってみせるさ」
「なら良い。だけど、命を粗末にだけはするなよ」
「ああ、二人とも生きていないと、意味がないからな」
「わかっているならいい」
「じゃ、行ってくるわ」
「ええ、ルナさん・・・・みんなも、気をつけて・・・・・絶対に、生きて帰りましょう!!」
皆はアキトの言葉に、解った!大丈夫!という返事を返すと、覇王の城へと向かった・・・・
ルナ達が城の内部にはいると、開いていた空間が閉じたのか、城の姿は蜃気楼のようにかき消えた・・・・
城が消えたことを横目で確かめたグロウは、ルナ達を見送っていたアキトに向き直った。
「これで、赤の竜神の騎士達の援護は無くなりましたね。
たった一人で、強力な武装つき、制約の外れた高位魔族と戦う気ですか?
はっきり言って無謀ですね・・・・あなたはもう少し賢い人だと思っていたのですが・・・・・・」
「誰が一人で戦うと言った。俺は仲間と共に戦うつもりだ」
「もしかして、森の外に置き去りにした四人を当てにしているのですか?それならば、期待しない方が良いですね。
確かにあの四人の戦闘力は大したものです・・・人間にしてはね。それは認めましょう。
ですが、あの魔族の大群を相手にした後、私と戦えるだけの余力は無いでしょうね・・・・・・・」
「俺はもう・・・・・これ以上この世界の人達の手を煩わせたくない・・・・・いや、煩わせない!!
その為に!ディア!ブロス!!」
「準備OK!!」
『いつでも行けるよ!!』
アキトの前に、二つのウィンドウが勢いよく開き、ディアとブロスが元気いっぱい!といった感じで現れる!
それと同時に、アキトの後方にて虹色の光が発生し、その場にブローディアが出現した!!
そう・・・これがアキトの切り札。
四日前、セイルーンの裏庭でしていた作業とは、ブローディアの整備だったのだ。
「ほほぅ?これは面白くなりそうですね・・・・戦いが楽しみです」
グロウはそう言うと、その場から姿を消した・・・・
そのすぐ後、ブラック・サレナの目が赤く輝き、本来あるはずのない口を開いて咆哮を上げた!
それはまるで、凶暴な悪魔が解き放たれたことを歓喜しているかのような咆哮であった!
アキトもすぐさまブローディアに乗り込み、システムを起動させる!!
「ディア、ブロス、調子はどうだ」
『相転移エンジンの稼働率は良好!むしろ、前より調子がいいくらいだよ!!
でも、装甲の修復は完全じゃないよ・・・戦闘行動に支障はないけど・・・』
「わかった。できるだけ被弾しないように気をつける」
「レーダー類、エネルギーバイパス等の調子は万全!システム・オールグリーン!
武装に関しては、元々装備されてあったDFS二本と、機体の修復過程で復元されたフェザー。
そして自己修復された際に一緒に直ったガイアの『ラグナ・ランチャー』の三つだけだよ、アキト兄。
この三つは優先的に修復させたから、使用にはなんの支障もないよ」
「ああ、それは四日前、ブローディアを整備したときに聞いていたから憶えているよ。
しかし、よくあのボロボロの状態からよく直ったものだ・・・
装備されてあったDFSとラグナ・ランチャーはともかく、殆ど無くなっていたフェザーが元に戻ったのがありがたい。
だが・・・・これをもたらした遺跡の力とは恐ろしいな。もうこれは修復じゃない、再生レベルだ・・・・」
アキトは、今だ解明されていないボソン・ジャンプのブラックボックス・・・・遺跡に畏怖の念を覚える。
常識ではありえない自己再生・・・それすらやってのける、古代火星人の遺産に・・・・・
(今は良い・・・今はただ、過去の決着をつけるべきだ・・・
例えそれが、遺跡が作り上げた必然だとしても・・・それを決めたのは、俺自身なのだから!!)
アキトの意志に応じるかのように、相転移エンジンの稼働率が跳ね上がってゆく!
「行くぞ、ディア!ブロス!!」
「『了解!!』」
完全に起動したブローディアは、空へと向かって飛び立つ!!
それに続いて、ブラック・サレナも飛び立った!
「まさか、こういった戦いになるとは思ってもいませんでした。実に面白い・・・
貴方は本当に面白いですよ・・・・テンカワさん」
ブローディアの内部にグロウの声が響く。ブラック・サレナの通信機器などは辛うじて生きているらしい。
映像などはでなかったのだが・・・アキトは別段見たいと思ってもいない。
ブローディアとブラック・サレナは、かなりの高空度で制止し、睨みあうように対峙する!
「あれが・・・・アキト兄が過去に戻る前に使っていた機体なの?」
「ああ・・・かなり姿は変わってしまったけどな」
『かつての相棒を壊すのは心苦しいの?アキト兄・・・・』
やや沈痛な顔をしてブラック・サレナを見ていたアキトに、ブロスは心配した・・・・
ディアも、言葉にすることはなかったものの、その表情だけで何か言いたいのかは察することができる。
アキトはそんな二人の気持ちが解っているのか、少しだけ表情を綻ばせた。
「確かに・・・心苦しい・・・俺の復讐のために造られ、殺戮を繰り返した機体・・・・
それが今、更なる殺戮のために利用されている・・・・それが心苦しい・・・」
アキトはブローディアを操り、腰に付けてあったDFSを握ると、光の刃を発生させる!
そして、その光の刃を真っ直ぐに、ブラック・サレナに向かって突き付けた!
「だから・・・・ここで終わらせる。もうこれ以上、ブラック・サレナが命を奪わないように・・・・
俺自身の手で、ブラック・サレナを眠りにつかせる・・・」
それがアキトの決意だった・・・・自分の過去を消すわけでも、忘れるわけでもない・・・・
自分の復讐に付き合わせたかつての相棒を、静かに眠らせたい・・・・・
その為に、今戦う・・・・
過去と現在・・・・本来ありえるはずの無かった戦いが、始まろうとしていた。
(四十四話に続く・・・・・・)
―――――あとがき―――――
どうも、ケインです。
入院しているにもかかわらず、投稿させていただきました・・・
医者の目を盗んで外出しているため、後で大目玉ですよ・・・
それはともかく・・・今回は、あまり戦闘がなかったですけど・・・次回からは、戦闘シーンだけになります。
とりあえず、次回はルナ達の前半、その次の話でアキト・・・といった感じでしょうか?交互に書く予定です。
ただ・・・入院中はノートパソコンのため、作品が書けません・・・
(私のノ−トパソコンには、ワードしか入ってないんですよね・・・)
だから・・・次の投稿は、来月になる可能性が高いです。申し訳ございません・・・
それでは最後に・・・K・Oさん、15さん、E.Tさん、haruさん、KーDAIさん、TAGUROさん、v&wさん、
カインさん、シンイチさん、ナイツさん、ホワイトさん、逢川さん、下屋敷さん、
時の番人さん、秋さん、大谷さん、夢幻草さん、遊び人さん、ノバさん、GPO3さん、零さん。
感想、誠にありがとうございます・・・
(今後、感想掲示板を見る暇がないかもしれませんので、見過ごした場合、申し訳ございません・・・)
それでは・・・次回、第四十四話『魔族の枷』(仮)にてあいましょう・・・では・・・
管理人の感想
ケインさんからの投稿です。
・・・駄目ですよ、病院から脱走したら(苦笑)
それにしても、とうとうブローディア登場ですか?
これは派手な戦闘になりそうですねぇ
・・・・・・・・・マイクロブラックホールなんて撃ったら、グロウ一撃じゃない?(汗)