赤き力の世界にて・・・
第46話「覇道を極めんとする王・・・」
「まさか貴方まで魔族をやめるとはね・・・・・・」
ルナの言葉は・・・・それほど大きくなかったにもかかわらず、広い空間である部屋中に響いた・・・・
そんなルナの言葉を、覇王は鼻で笑った。
「フンッ。やめるつもりはなかったのだがな・・・結果的にはそうなった。だが、後悔はしていない。
無限とも云える力を得た上に、目障りな貴様等をいたぶりながら始末できるのだからな!」
覇王の身体から立ち上る魔氣が強まり、取り巻く大蛇が活気づく・・・
リナは、信じられないと云う表情で覇王を見ていた・・・
「そんな・・・・・・魔族をやめた?グロウだけでなく、覇王まで・・・・・」
「おい、リナ。一体どういうことなんだ?解りやすく教えてくれ」
覇王から切っ先を外すことなく、ガウリイは背後にいるリナに向かって声をかけた。
リナは・・・・少し躊躇したものの、意を決して言葉をつむぎ始めた。
「・・・・・・・・・・魔族という種族は、人間に対して本気を出せない。それが絶対のルールであり、禁忌でもある。
そこまでは以前、何度か話したことがあるでしょう?今の覇王にはそれが無いってわけ、解った?」
「あ〜・・・・何となくな。って事はなにか?奴は前に戦ったときでさえ、死ぬほど強かったっていうのに、
今はあの時よりももっと強くなっているっていうのか!?」
「・・・・・まぁ、私達の視点で、なおかつ簡単に云えばそうなるわね」
リナ達の視点・・・・つまり、人間の観点からすれば、覇王がパワーアップしたように見える。
しかし、実際には、今まで数割ほどしか出せなかった力が、全力で使える様になっただけでしかない。
だけでしかない・・・のだが、一言で云えるほど、現実は軽くはない。
特に・・・・以前、覇王と戦った際、手も足も出ないような絶望的な戦闘を繰り広げ、
奇策を用いて辛くも撃退したというリナとガウリイにとっては、死刑宣告にも近い・・・・
「まさかこんな状況になるとはね・・・・ただでさえ、私にとって不利な状況なのに・・・・・
精神世界面を視ることのできない人間を連れてきたのは失敗だったわ・・・・・・」
ルナは右手に赤竜の剣を持ちつつ、左の掌を軽く眉をひそめつつ見ていた。
その掌には何の変化も見られ・・・いや、その掌の上の空間は微かながらに揺らいでいた。
が・・・ただそれだけ。何かに変化することもなく、ただ揺らいでいるだけだった。
(結界によって、精霊達の出入りを封じた・・・か。
下級の精霊魔術ならまだしも、覇王相手に効くような精霊術となると、完全に無理ね)
ルナは自分の呼びかけに応える精霊の数の余りの少なさに、多少の後悔の念を抱いていた・・・・
結界内に閉じ込められた精霊達だけでは、覇王を相手にするにはかなり役不足なのだ。
本来の精霊術・・・・上級精霊や精霊王との契約によって行使される術とは違い、
ルナのはあくまで下級精霊を赤竜の力によって一時的に力の質を上級精霊並に変化させているだけ・・・
やはり、それなりの威力を望むのであれば、かなりの精霊の数が必要となってくるのだ。
ルナは、必死になって力を高めようとしている精霊達に、精神波で感謝の言葉を伝えると、
左の掌に集まった精霊達を自然に帰し、両手で赤竜の大剣を握り、構えた!
「無いものねだりしても仕方ないしね・・・・ここは一つ、自分の力だけで戦うとしますか」
ルナの身体より発せられた赤い光が、構えていた赤竜の剣の宝玉に次々に吸収される。
それに応じて、赤竜の大剣は赤みが増してゆき、より鋭く、より迫力のあるものへ形状を変化させる!!
ルナが剣を強化するのと同時に、ニースも創りだした二振りの魔剣に、さらに力を注ぎ込む!
魔王の力より作り出された魔剣は、元の力の影響によって、より禍々しき形状となる・・・・・・
という、リナの予想とは裏腹に、下手な装飾された剣よりも気高く、より美しいものへと変化する!
それは、ニースが魔王の欠片を完全に取り込み、より強い力に昇華させたような印象を皆にあたえた。
「リナは今まで通り、遠距離系の魔術で覇王を攻撃しろ。ガウリイはリナの護衛。メアテナもだ。
特にメアテナは気をつけろ。その三人の中で精神世界面を視られるのはメアテナだけなのだからな。
しっかりとリナとガウリイを守ってやるんだ」
ニースは二振りの魔剣を構えつつ、後ろにいるリナ達に頭を向けずに言う。
「それとガウリイ。精神世界面の攻撃を迎撃しようとは思うな。
やり方次第で妖斬剣でも、精神世界面の攻撃を斬ることは可能だ・・・が、かなり危険を伴う」
「危険でも何でも、やらなくちゃいかないときには俺はやるぜ」
「・・・・・好きにしろ。ただし、これだけ覚えておけ。
視えない者が精神世界面の攻撃を防ごうとするのは、五感を封じたまま、
細剣での刺突攻撃を、同じく細剣の切っ先で受け止めるほど無謀なものなのだ」
「・・・・・・・・・・・・・・それでも、やるときにはやるぜ」
「覚悟があるのであれば、私は何も言わない・・・だが、死ぬことだけは許さない。解ったな」
「ああ」
「ならば良い」
ガウリイの返事を聞いたニースは、少しだけ身を屈めると、覇王に向かって疾走する!!
それと時を同じくして、覇王を挟んで反対側にいたルナも、赤竜の大剣を構えて疾走した!!
「人間相手への力の使い方にも馴れてきた・・・・・徐々に本気を出すとするか」
覇王の身体に、再び漆黒の大蛇が、今度は六匹も発生する!!
六匹の大蛇は、薄暗い紫の妖光を発しながら、金の瞳を輝かせてルナ達を見る!!
「面白い!やれるものなら・・・・」
「やってみなさい!!」
ニースとルナは、覇王の左右から斬りかかろうとする!!
だがその前に、覇王の体に巻き付いていた六匹の大蛇が、それぞれルナとニースに向かって口を開ける!
六匹の大蛇の口に、黒い光の粒子が集束するのを見たルナとニースは、ほぼ直角に横へと跳んだ!!
その数瞬後、二人の居た空間を三条の黒い閃光が貫いた!!
(あの黒蛇はなにかと厄介ね・・・すぐに復活するだろうけど、もう一度消し飛ばすか!?)
リナはルナ達の攻撃をサポートしようと、魔術の詠唱を始める!
ガウリイとメアテナは、リナを守るべく、それぞれの剣を構えてリナの前に立った!
その間にも、ルナとニースは覇王に向かって斬りかかるべく、間合いを詰めようとする!
無論、六匹の大蛇は休むことなく漆黒の閃光を吐き続ける!!
だが、そんな目にも止まらぬ攻撃も、ルナとニースは完全に見切り、さらに間合いを詰める!!
「さすがだな・・・・だが、そこまでだ!!」
覇王は左右の大剣を、ルナとニースに向かって振り上げ・・・降ろそうとするその寸前!!
「竜滅斬ッ!!」
覇王の身体を中心に、赤い光の柱が立ち上がる!!
その集束された赤光は、瞬時に黒き大蛇を消滅させる!!
だが、そこまでだった!!
「小賢しいわ!!」
覇王の一喝により、赤い光の柱はいともあっさりと砕け散り、霧散する!!
そして、覇王はその間にも間合いを詰めたルナとニースに向かって大剣を振り下ろした!!
しかし、ルナとニースはその剣を受けることなく、紙一重で避け、振り下ろしきったその隙に斬りかかる!!
だが、覇王の身体に当たる寸前、またもや黒い半透明な結晶が発生し、二人の剣を止めた!!
―――――次の瞬間!!
ルナとニースの剣の柄本に填め込まれていた宝玉が輝き、赤き刀身が黒き結晶を斬り裂いた!!
「同じ手が二度も通じるものか!!」
「やはり人間を甘く見すぎね!」
ルナはそのまま真っ直ぐに走り、覇王と交差しながら、赤竜の大剣で胴を半ばほど斬り裂き、
ニースも同じく、交差しながら二刀の魔剣は、右の肩を斬り裂き、右腕の肘から先を斬り飛ばす!!
二人はそのまま覇王から離れつつ、一旦体勢を立て直すため、リナ達の元へと一足飛びに戻る。
無論、覇王から注意をそらさないまま・・・・・
「やったのか!?」
ガウリイは思わず声をあげる。メアテナもほぼ同じ事を考えていた。
それほど、二人の攻撃はまともに入っていたのだ!
「なるほど・・・大した威力だ・・・・」
覇王は傷つけられた箇所を押さえながら、やや苦しそうにくぐもった声をあげた・・・・
致命的な傷とまではいかなくとも、それなりの大きなダメージにはなった様に見える!
リナは、全力の覇王とまともに戦わずにすんだことに、正直いって安堵していた・・・・
だが・・・その様な考えも、傷口から手をはなした覇王を見て、遙か彼方へと吹き飛んだ!!
「だが・・・・おしかったな。我を滅ぼすには、まだほど遠い」
ルナとニースがつけた傷は、もの凄い速さで塞がってゆく!
斬り飛ばされた腕も、時間を巻き戻すかのように元へと戻る!!
神の力の影響か・・・赤竜の剣で斬った胴の傷は、ニースが傷つけた部位の比べて治りが遅かった・・・が、
それでも、驚異的と言うべき治癒速度であった!!
覇王は、再び繋がった右手の調子を確かめながら、ルナとニースを横目で睨んだ。
「しかし厄介なものよ・・・それほど強い力を持ちながらも、人間としか感じぬとは。
全力を出さぬ限り、我ら腹心とはいえ勝算は低い・・・・冥王でさえも迂闊には手を出せぬ訳よな・・・」
完全に傷が消えた覇王は、体から暗黒の魔氣をさらに発生させ、大蛇を再生する!!
その数は元の六匹にさらに二匹を加えた計八匹の黒き大蛇!!
瞳を金色に光らせる漆黒の大蛇は、鎌首をもたげながら鋭い牙を見せつけるように口を開く。
「やはり・・・・本当に傷が癒えているようだな・・・・・」
「ダメージによる力の減衰もない・・・・か。嫌な予想ばかり当たるわね」
ニースの言葉に付け足すように、ルナは苦々しく言葉をつむぐ・・・・
「嫌な予想ってなに?姉ちゃん」
「覇王の傷が癒えた理由・・・そして、無秩序なまでに配下の魔族を強くしている事についてよ」
ルナの言葉に、覇王の顔が微妙に歪む。おそらくは、驚いているのだろう・・・
「ほう?何か気がついたようだな・・・言ってみるが良い。正否を答えるだけはしよう」
「ご親切にどうも・・・・」
ルナは、赤竜の大剣を左手にもって自然体に構えた。無論、油断もしていないし注意もそらしてはいない。
ニースもルナと同様、自然体で立っている・・・・
しかし、二人の剣は、その間にも主からの力を受け入れ、その力を増している!!
話をすることにより、時間を稼いでいる間に、覇王への戦いのために着実に力を溜めているのだ。
その後ろの二人・・・ガウリイとメアテナもルナ達に習い、自分の力・・・魔剣の力を高めている。
「その異常な・・・いえ、異様なほどの回復力。魔族を無差別なまでに格上げする魔の力・・・・
そして、『覇王様の鎧となるために・・・・』というグロウの言葉・・・・
これらから予測すると・・・・・あなた、『相転移エンジン』そのものと融合したわね」
「ハッハッハッハッ!よくそれだけで気がついたものだな・・・・・その通りだ。
我はあの存在の心臓とも云うべき物質と融合した。半永久的にエネルギーを生み出す物質とな・・・・」
「英断と云うべきか・・・それとも、愚挙と云うべきか・・・
どちらにしても、私達はかなり不利だということがはっきりとしたわけね」
「ルナ・・・その『相転移エンジン』というのは何だ?私は聞いたことがないのだが・・・・」
「そうよね・・・ニースはもちろん、みんなも知らないわね。何せ、この世界のものじゃないのだから・・・」
「それはわかる。大方、アキトの世界から来た物だろう?一体どういったものなんだ?」
「仕組みなどについて、私も詳しくは知らないわ。
ただ、『相転移エンジン』というのは、アキト君のブローディアやあのブラック・サレナが動く為の動力源。
それも、なにかを消費することなく、強いエネルギーを生み出すもの・・・だと思ってくれて結構よ。
ディアちゃんの話だと、その生み出されたエネルギーは魔力でも神力でもない・・・純粋なエネルギーらしいわ」
「なるほど・・・・な。大方、覇王と融合したその『相転移エンジン』とやらは、
覇王の魔力・・・いや、『力』そのものを生み出すための存在と変化した・・・・というわけだな」
「左様。今の我はいくら傷つけられようとも、どれ程の強力な力を使おうとも、『力』が衰えることはない!!」
覇王の身体より強力な魔氣が発せられ、衝撃波のようにルナ達に襲いかかる!
リナやガウリイ、メアテナは強力な魔氣に体が竦み、震えが止まらない!
精神的に蝕まれる事により、闘争心といったものが本能的な恐怖に押し潰されそうになっていた・・・・
現に、リナとガウリイ、メアテナの三人は、身体が震え、大地に膝を着きかけていた・・・その時!
「しっかりしなさい三人とも!!今から負けるつもり!!」
「「「―――――ッ!!」」」
ルナの魂さえ震わせるような大声に、リナ達は正気に戻るかのように目を見開き、
気力を奮わせて、いつの間にかうつむいてしまっていた頭を上げる!!
頭を上げた三人の目に、吹き荒れる魔氣の風に圧されることなく、堂々と立っているルナとニースの姿が映る!!
「剣が折れても、魔力が尽きても・・・・戦える限り、生きている限り、真の敗北はない。
戦うことを・・・・生きることを放棄すれば、大切なモノを全て失うぞ!最後まで諦めるな!!」
ニースの檄に、リナ達の目に闘志が再び灯る!
「参ったわね・・・自分から喧嘩売っておいて、怯えるなんて・・・情けないったらありゃしない・・・」
「そうだな・・・・こんなんじゃあ、ルークに笑われちまう」
「そうね・・・一応、私達は魔王に二度も勝ってるんだから、覇王如きに手間取ってらんないわね!」
リナとガウリイは、今だ吹く魔氣をはね除ける勢いで立ち上がる!
その姿には、先程までの敗北を決めつけていたような弱気な姿勢はどこにもない!!
立ち上がった二人を、チラリ・・・と、横目で確認したルナは、嬉しそうに微笑んだ。
「私も・・・この戦いは、自分で戦うって決めたんだもの・・・・
どんなに辛くても、苦しくても諦めない・・・・生きて帰る、そう、アキト兄さんと約束したもの!!」
立ち上がったメアテナの体より、明暗二つの赤い光が渦巻きながら発せられる!!
その赤い光は、強い魔氣をモノともせず、徐々にではあるが光度を増してゆく!!
「いい心意気だ」
「そうね」
ルナとニースは微笑ましくも嬉しそうに、二本の光の剣を構えるメアテナを見た。
「さて・・・・三人が立ち上がったのは良いが、どうする?」
「手は二つ・・・再生速度を上回るほどの攻撃で覇王を打ち砕くか、
アキト君が覇王が融合した相転移エンジンを破壊するのを待ち、弱ったところを一気に叩くか・・・
そのどちらかでしょうね。無論、後者はアキト君がグロウに勝つ・・・・というのが前提なんだけどね」
「疑うのか?」
「まさか。言ってみただけ」
ニースの揶揄するような言葉に、ルナは一言の元に否定する。
ニースは、そうだろうな・・・・という感じで軽く笑うと、覇王に向かって剣を構えた。
「アキトがその『相転移エンジン』というヤツを破壊するのが早いか・・・・
それとも、私達が覇王という闇を微塵に打ち砕くか・・・・・勝負だな」
「そういう考え方もあるわね・・・・じゃぁ、負けないように頑張りますか」
「そうだな・・・・いくぞ!!」
「ええ!!」
ルナとニースは同時に覇王に向かって疾走する!!
二人は覇王の数歩手前で左右に分かれ、反対方向から攻撃を開始する!!
「深遠なる暗黒の底にて這いずりし存在よ!全てを喰らえ!」
覇王の身体より発生していた黒い闘氣が巨大な渦を巻き始める!
その巨大な魔氣の嵐を、八匹の大蛇は際限なく吸収し、巨大な体躯をさらに大きくしていた!!
しかも、すでに元が闘氣とは思えないほど精密な姿をしており、鱗まではっきりとしている!!
「やはり、先程までとは違うな!!」
「迅い!!」
ニースは次々に襲いかかってくる黒い大蛇を横に跳びながら避ける!
ルナも同様、先程までとは動きがまるで違う大蛇に勢いが削がれ、覇王に攻撃できないでいた!
「ルナ、精霊術はどうした!」
「使用不可能!!」
「さすがにそこまでは譲歩してくれなかったというわけか!!」
ルナの一言だけで、ニースはルナの言いたいことを全て察した。
ニースは舌打ちすると同時に、またもや襲いかかってきた黒い大蛇を紙一重で避け、その胴体を真っ二つに両断する!!
だが、まるでそれは空気や水であったかのように、瞬時にして元に戻った!!
「やはり本体を叩かなければ無理か!ならば!!」
ニースの持つ二刀の魔剣の魔力が共鳴し、振動と共に激しい明滅を繰り返す!
そして、右手に持つ魔剣を横に振りかぶったニースは、覇王に向かって一気に振るう!!
「魔影二式 残光翔裂破!!」
集束された魔力衝撃波の三連撃は、魔風を斬り裂き、覇王に向かって飛翔する!!
だが、その一撃も、たった三匹の黒き大蛇の牙によって全て噛み砕かれ、赤い残滓が飛び散った!
しかし、その防御もニースの予想からかけ離れてはいない!
残光翔裂破に構っている間に、ニースはすでに本命の技の発動体勢を完了していた!!
「(アキト、技を借り受ける!)魔影二式 残光十字閃!!」
ニースは右の魔剣を縦に一閃、左の魔剣を真横に一閃させ、文字通り十字の剣閃を放つ!!
方法などに違いはあるが、それはまさしく、アキトが以前ニースに対して使った『十文字』そのものだった!!
それもオリジナルを超えているほど強力な!!
その赤い剣閃は、凄まじい集束率なのか、衝撃波というよりは線に近く、
残光の刃も、三連撃ではなく、五連撃にまで増えている!!
「オォォリャァアアアーーー!!」
「斬り裂け!二乗の閃光!!斬紅閃!!」
ガウリイとメアテナも、ニースの攻撃をサポートするためか、同じく遠距離系の技を放つ!!
赤い十字閃を噛み砕こうと顎を開く三匹の大蛇!!
ガウリイの漆黒の剣閃には一匹、メアテナの二乗の赤い剣閃には二匹の大蛇が向かう!!
(一気に決める!!)
このチャンスを確実なものとするつもりなのか、リナはもの凄いスピードで魔術の詠唱をすませる!!
覇王はこの状況を拙く思っているのか、低く唸っているだけだった!!
「竜滅斬ッ!!」
覇王の足元より三度立ち上った赤い光柱が、漆黒の大蛇を掻き消す!!
はずだったのだが!『力ある言葉』を言い終えようとも、赤い光柱が発生することはなかった!!
(そんなバカな!詠唱、集中どれをとっても失敗はない!!魔術はちゃんと発動したはず!!
まさか魔術の発動を阻止した!?そんなはずは・・・・・魔竜王でさえ、短い詠唱が必要だったのに・・・
その魔竜王と同格の覇王が詠唱無しなんて・・・・まさか!さっきの唸り声が!!)
リナは直感で、覇王が上げた唸り声らしきモノが、魔術の発動を阻止する為の詠唱だと察した!!
魔術の不発により、行動を阻止されることのなかった漆黒の大蛇は、飛来する剣閃に喰らいつく!!
ガウリイの放った黒き剣閃に鋭い牙をたてる大蛇!
その隣でも、同じく二頭の大蛇がメアテナの放った二乗の赤い剣閃にそれぞれ牙をたてる!
三頭の大蛇は、噛み砕こうと剣閃に抵抗したが、二人の剣閃は思ったよりも強く、相殺し消滅する!!
「クソッ!!あの蛇!前より強くなっているのか!?」
「最初の蛇だったら間違いなく勝ってたのに!!」
ガウリイとメアテナは悔しそうな声をあげる!!
二人にとって、全力に近い攻撃が相殺されたのはかなりショックだったのだろう。
ニースが放った十字の剣閃も、三頭の大蛇によって受け止められ、牙をたてられる!
だが、それは初撃!その後にはまだ四連撃も残っている!!
『シャァァァッッ!!』
十字の赤い剣閃に牙をたてる三頭の大蛇!!
何とか拮抗しているものの、それは残光の刃が追いつくまでの刹那の間だけだった!!
二撃目が一撃目に重なると、大蛇の口に大きくめりこみ、三撃目が加わった時点でバランスは崩れた!!
三撃目が加わった赤い十字閃は五匹の大蛇を苦もなく斬り裂き、その後にいる覇王に迫る!!
「小癪!!打ち砕いてくれる!!」
覇王は二刀の漆黒の大剣を振り上げ、十字閃に向かって振り下ろした!!
赤い十字閃と二刀の大剣が接触した箇所から、激しい閃光が発生する!!
思ったよりも手強い剣閃に、覇王は力を篭め、一気に斬り裂こうとする!!
だがそれよりも先に、、四撃目と五撃目が追いつき、十字閃はさらに力を増した!!
大剣の刀身にめり込む十字閃!!だが、押し合いでは完全に覇王が勝っていた!!
そして、覇王は一気に圧すつもりなのか、魔氣を両手に集束、大剣に送る!!
「砕け散れ―――――ッ!!」
「悪いが、そういう訳にはいかん!!」
剣閃の後を走り、間合いを詰めたニースが十字閃を後押しするように二刀の魔剣を十字に振るう!!
強力な五連撃をまとめた剣閃と、それとほぼ同等、もしくはそれ以上の力を篭めた実体のある攻撃に、
覇王が創り出せし漆黒の大剣は、刀身の三分の一程度を残して斬り飛ばされる!!
そして、ニースはそのまま覇王を斬り裂こうとしたが、覇王は浅く斬らせただけで後方へと転移する!!
「ルナ!!」
ニースは自分と同等の攻撃力を持つ者へ声をかける!!
ルナも、ニースの言葉よりも早く、覇王の転移先に向かって飛び掛かり、
姿を現した覇王に向かって赤く輝く赤竜の大剣を振り下ろした!!
「神竜剣技 竜爪斬!!」
空中にいる状態で、同一方向の神速五連撃を加えるルナ!
空間に剣の軌跡にそって、五条の赤い残光が煌めいている!
大剣が斬られた状態の覇王には防ぎようのない攻撃!!
大剣を再生させようにも、力を集束し具現化する時間もない!完全なタイミングでの攻撃!!
―――――だが!!
ガキキキキィィィーーーーン!!
「―――――ッ!!」
神速の五撃を、覇王は、瞬時に再生された右の大剣で受け止める!!
残っていた二匹の大蛇が、折れた大剣の刀身に絡みつき、新たな刀身へと変化したのだ!!
だが、やはり即席の刀身のためか、漆黒の大剣には幾つものヒビが入っていた!
「ヌンッ!!」
動きの止まったルナに、覇王は左の大剣を横に一閃させる!!
瞬時に下がったルナだが、一瞬だけ遅く、赤竜の力で創られた頑丈な服もろとも体を斬られる!!
「グッ・・・・・・」
「リナ!ルナの治療を!覇王の相手は私がする!!」
ニースはルナと入れ替わるように覇王へと間合いを詰め、剣を振るう!!
ガウリイとメアテナも、ニースと同じく覇王に向かって間合いを詰めた!!
「解った!大丈夫、姉ちゃん!!」
「大丈夫よ、傷は浅いわ・・・・」
ルナの傷が濃い赤光に覆われる・・・体内にある赤竜の力が傷を癒しているのだろう。
素早く近寄ったリナは、ルナに急いで『復活』をかける・・・が、治癒光が通常よりかなり弱かった!!
「何で!?」
「覇王の結界内だからよ。あらゆる力の流れを遮断しているわ」
『復活』という魔術は、周囲の氣を魔術によって集め怪我を癒す魔術。
その集められる『氣』・・・これは、大地や大気に存在している。精霊と同じく・・・・
それが、覇王の結界によって遮断されているゆえに、復活の効果も低下しているのだ。
「精霊術を使わなかったわけはそれなの・・・・・・せこい真似するわね」
「もういいわ、傷もふさがったしね」
リナは傷が完全に癒えたのを見て、魔術の行使をやめた。
斬られたはずの服も、赤竜の力を元としているためか、急速に復元していた。
「リナは後ろに下がっていなさい、思った以上に覇王が強い以上、決め手となるのはリナの―――――ッ!!」
ルナは言葉を中断させると、持っていた大剣を盾へと一瞬で変化させ、赤い防御壁を展開する!
その一瞬後、天蓋のように展開された防護壁が光を放ちながら歪んだ!!
「なに!?」
「覇王の精神世界面の攻撃よ・・・ニース達を相手にしたままでね。見た目に似合わず器用ねぇ」
「見た目って・・・魔族には関係ないんじゃぁ・・・・」
「まぁ、冗談はさておき・・・・メアテナちゃんとガウリイさんを下がらせるから、援護をしてもらいなさい。
そして・・・・チャンスがあれば、あの呪文を遠慮なくやりなさい。全力でね」
「全力って・・・無茶苦茶危険だってば!!」
「いいからやりなさい。ちゃんと策は考えてあるわ。
それに・・・全力じゃないと、覇王を倒すのは難しいわよ」
「それは・・・・確かに・・・・・」
「解ったら集中して待っていなさい。隙は私が・・・私達が作ってあげるから!」
「解った!!」
「いい返事ね」
ルナはリナの返事に納得すると、盾を大剣に戻し、覇王へと向かう!
「ガウリイさん、リナの援護にまわって!メアテナちゃんはリナの補助をお願い!」
「わかった!!」
「アレの補助だね!わかった!!」
ガウリイとメアテナは、ルナと入れ替わるようにリナの元に・・・後方へと下がった!
「魔影二式 残光翔裂破!!」
ニースは二刀の魔剣を共鳴させ、次々に赤い残光閃を放つ!
しかし、それらは全て復活した漆黒の大蛇に噛み砕かれ、散り散りとなる!!
「その程度の技、いくら放とうとも、今の我にとって剣を振るうまでもない!」
「・・・・・・・・・」
覇王の嘲笑にもニースは眉一つ動かすことなく、移動しながら次々に放つ!
「なら、これならどうかしら!!」
「―――――ッ!」
ルナは赤竜の大弓を構え、赤いエネルギー矢を引き絞り・・・・・放つ!!
赤い矢は閃光のように虚空を駆け、覇王に向かって一直線に進む!!
「笑止!!その程度のか弱き光で、我が闇を貫くつもりか!!」
覇王は放たれた赤い光矢に向かって右手に持った漆黒の大剣を振るう!!
その剣の軌跡と同じ形の漆黒の衝撃波が、赤い光矢に向かって走る!!
赤い光矢と漆黒の衝撃波が空でぶつかり、爆発をおこした!!
爆発は煙幕となり、覇王の視界からルナの姿を隠す・・・だが、いくら辞めたとはいえ、半分以上は魔族、
人間と違い、視ている世界は物質が支配する世界ではなく、精神を主とする精神世界面。
爆炎や煙幕などものともしない・・・ゆえに、ルナがすぐさま放っていた第二の光矢にも気がついている!!
「無駄だ―――――何ッ!?!」
爆発を貫いて現れた赤い光矢に、今度は左の大剣で迎撃しようと振りかぶった・・・・その矢先!!
赤い光矢は弾けるように分散し、覇王に向かって豪雨の如く降り注いだ!!
ニースの残光翔裂破を迎撃している以外の大蛇が、その身を盾にして覇王を守る!
それでも守りきれないところは、例の如く、黒い結晶体が出現してことごとく弾いた!!
「鬱陶しいわ!『ソード・ダンサー』!!」
いつまでも効果のない遠距離攻撃を繰り返すニースに業を煮やした覇王は、
残像の剣閃を迎撃するように漆黒の剣閃を放ち、その先にいるニースを攻撃する!
その剣閃を、ニースは退くことなく、逆に前に進み、紙一重でかわして覇王との間合いを一気に詰める!!
ルナも、右手に大剣をもち、左手は赤竜の手甲を装着して覇王に迫る!!
二人の持つ武器はどれ程の力を集束したのか、凄まじいほどの力の波動を放っていた!!
「フン、同時攻撃か!!」
ルナの赤竜の大剣が砕け散るのと同時に、八匹の大蛇が霧散するように消滅する!!
そして、ニースが二刀の魔剣を何もない空間に受かって振るうと、覇王の二本の大剣が根元から切断される!!
そのまま二人は覇王に迫り、ルナは手甲で覆われた左手で拳打を叩き込み、
ニースは振り上げた二刀の魔剣を振り下ろし、覇王に斬りつける!!
衝撃波が攻撃の接触面から放たれ、三人の動きが止まる・・・・
「三種類の同時攻撃とはさすがだ・・・だが・・・惜しかったな」
覇王がそう言い終えるのと同時に拳を振るい、ルナとニースを殴り飛ばす!
普通なら後方に跳ぶなりして衝撃を和らげる二人だが、今回は何もせず、ただその拳をまともに喰らった!!
殴り飛ばされたルナとニースは受け身すらとることなく、リナ達の目の前まで転がってきた!!
「姉ちゃん!!ニース!!」
「おい!大丈夫かよ!!」
リナとガウリイはすぐさま倒れていた二人を起こして支える。
メアテナはその間、覇王に向いたまま、油断なく二刀の光刃を構える!
「・・・・・・ウグッ!!」
「ゲホッ・・・・・・・」
上半身を起こされたルナとニースは、咳き込むと同時に少量の血を吐く!
「待って!すぐに復活をかけるから!!」
二人の吐血を見たリナは、慌てて『復活』の魔術を使う!
リナは気がつかなかったが、その治癒光の強さは、先程ルナに行った時よりも強い。
といっても、普段の半分程度の光量しかなかったのだが・・・・
(そう・・・リナに力を貸してくれているの・・・・・ありがとう・・・・・)
ルナはリナに力を貸している存在・・・・結界内に存在している数少ない精霊達に礼を伝えた。
この精霊達が、結界内に散らばって存在している『外氣』をリナの元へと運んでいることにより、
リナの『復活』は多少ながらも力が増している状態だったのだ。
外にある氣・・・・『外氣』を集めて治療する『復活』。その氣の集束率はかなり低い・・・・・
もし、精霊達がリナに力を貸していなければ、『復活』の効果は今の十分の一程度も望めなかっただろう。
だが・・・それでもニース達の回復は遅い。かなり傷が深かったのか・・・それとも・・・・・
目に見えて回復しないルナ達に、ガウリイは苛立ったように口を開く。
「一体どうなってんだよ!この二人がこんなに深いダメージをくらうなんて・・・
それに、二人があんな攻撃をまともにくらうなんて・・・信じられないぜ・・・・」
「あたしだって信じられないわよ!!」
「・・・・・大きい・・・・・一撃をくらった後だったからな。私も・・・ルナも・・・・」
「ニース!喋らないで!!」
「もういい・・・・・大丈夫だ」
「これ以上・・・・手を休めている場合じゃないしね」
ニースとルナはそう言うと、体を震わせながらも何とか立ち上がろうとする・・・・
見ていて弱々しい動作・・・とてもじゃないが、リナにはにわかに信じられない姿だった。
ガウリイは二人の様子を見て顔を顰める・・・・・
「クッ・・・・・二人とも休んでいろ!時間稼ぎぐらいは俺だって出来る!!」
ガウリイは妖斬剣を握り直すと、覇王に向かって疾走する!
それに合わせて、メアテナもガウリイに並ぶように疾走した!!
覇王に攻撃を繰りだす二人を見たリナは、ルナとニースに治療呪文を再びほどこし始める。
「・・・・大きな一撃の後って何?一撃しかくらわなかったんじゃないの?」
「見た目的にはな・・・・あの時、私達は覇王に向かって三種類の攻撃を繰りだした・・・」
「覇王もそう言っていたけど・・・・一体何?」
「私が精神世界面からの攻撃、ニースが空間を越えた攻撃よ・・・・
残りの一つは見た通り、具現化した武器による物質を介した攻撃・・・・それで三種類よ・・・・・」
「覇王は・・・ルナの攻撃を大蛇で相殺し、私の攻撃を大剣を犠牲にしてやり過ごした・・・
そしてその直後、覇王は私達に精神世界面での攻撃をくらわせた・・・
何とか、力を纏うことによって防いだのだが・・・」
「それが完全じゃなくてね・・・・強い衝撃みたいなのをくらったのよ・・・おかげで、一瞬だけ気を失っていたわ」
「その為、私達の攻撃は浅くなり・・・・覇王の力を篭めた拳をまともにくらったのだ・・・」
「そんな・・・・じゃあ!ガウリイとメアテナが!!」
「幸か不幸か・・・完全に遊ばれているようだ・・・・・」
リナが覇王の方を見ると・・・ガウリイとメアテナが復活した漆黒の大蛇と戦っていた。
ニースの言葉通り、完全に遊ばれている・・・・覇王は必死に抗う二人の様子を面白がって見ているだけだった。
「ふん・・・・『赤の竜神の騎士』と『ソード・ダンサー』がようやく立ち上がったようだな・・・・
下がれ、目障りな雑魚共・・・・黒蛇よ!!」
覇王の意を受けた黒き大蛇は、三匹がガウリイとメアテナの剣を加えて受け止め、
動きの止まったガウリイとメアテナを、二匹の大蛇が体当たりするようにリナ達に元へと吹き飛ばした!!
メアテナは寸前で光刃を消し、体当たりする蛇に力を篭めた両手をつきだして防御したが、
妖斬剣を持っていたガウリイは防御が遅れてしまう!!
「ガウリイ!!」
リナはすぐさま復活を使うが、外氣の残りが少ないのか、魔力の光はかなり弱い・・・
「す・・・まない・・・」
「シッ!喋らないで!!(肋骨が何本か折れてる・・・たぶん、内臓も痛めているわね・・・・)」
「治癒せずともよい・・・・もうその必要もないのだからな」
「何を・・・・―――――ッ!!!」
怒りを込めて覇王を睨もうとしたリナは・・・・目に写った光景に息を飲んだ!
そこには・・・・・・・・・信じられないほどの巨大な暗黒球を作り上げた覇王の姿があった・・・・・
(第四十七話・・・・アキト・パートに続く・・・・)
―――――あとがき―――――
どうも、ケインです。
今回も、戦闘シーンが殆どです。
嫌になっている方、申し訳ございません・・・前回の感想で、長いという感想を、チラホラと受けましたので・・・
別に構わないと言う方もいることにはいますが・・・今回の反応が怖いです。はい・・・
今回の反応次第では、この話でこの作品をやめる可能性もあります・・・いろいろと言われましたからね・・・
特に何も言いませんが・・・戦闘は後二話分です。
次回で、アキトの戦闘が終わり、その次でルナ達の戦闘が終わります。
そして、後始末の話をして、アキトの帰郷となります。帰らせるなと言う方も多々いますけどね・・・
とりあえず、帰るという方向で話を書く予定です。一応・・・
それでは最後に・・・K・Oさん、15さん、K−DAIさん、NTRC直さん、tomohiroさん、ナイツさん、
ベヘモスさん、ホワイトさん、ミンクさん、やんやんさん、逢川さん、下屋敷さん、
黄昏のアーモンドさん、時の番人さん、大谷さん、夢幻草さん、遊び人さん、
ノバさん、Dark−Asasssinさん、GPO3さん。
感想、誠にありがとうございます・・・
特に、心配して下さったナイツさん、時の番人さん、15さん、重ねて感謝いたします・・・
それでは・・・次回『荒ぶる竜の咆哮・・・』(仮)にて・・・
代理人の感想
う〜〜〜ん。
ひょっとしたら一話丸々戦闘シーンでキツいと思うのは
「スレイヤーズ風味の戦闘」だからかなぁ?
基本的にスレイヤーズの戦闘はカタルシスに欠けるというか、
テクニックと力の応酬「のみ」が描かれていて盛り上がりにくいとか。
上手くいえないんですけどね。
ぶっちゃけ、たとえ一話丸々でも「Gガン風味の戦闘」だったら多分苦にならないとは思うんですが(核爆)。