赤き力の世界にて



外伝『アキトのアルバイト日記』・第一話

 

 

 

○月△日(晴れ)


《俺がゼフィーリアに来て三日目、つまりアルバイト二日目になる。
今日は昨日より客の入りが多く忙しかった・・・なぜ??》

 

 

 

「さあもうすぐ開店だ!今日も頑張ろうか!!」

「はい!・・・って店長、昨日も言ってませんでしたか?」

「ハッハッハ!これを言わないと今日が始まらないような気がしてね」

「まあ、この店の恒例行事みたいなモノよ。気にしないでアキト君」


それもそうだな。
仕事始めの挨拶みたいなものだし・・・


「さあさあ!アキト君は料理の仕込みの続きを。
ルナちゃんは着替えて準備してくれ」

「「わかりました」」

 

 

今日はなぜか客が多い・・・
理由はわからないがまだ昼前だというのに空席はなかった。

昨日はこの時間帯でも半分は空いていたはずなんだけど・・・

疑問に思った俺は隣で料理をしている店長に質問をしてみた。


「店長?」

「ん?なんだいアキト君」

「今日は何か特別な何かでもあったんですか?
何だか昨日より客が多いみたいですけど・・・」

「・・・・・・本気でそれを聞いているのかい?」

「???そうですけど・・・」

「ハァァァ〜〜」


店長はそう言った俺を見て、盛大に溜息をつく。

この溜息の仕方は以前何度か見たことがあるが、
いつも同じ時に出るものではないので未だ共通点が見つからない・・・


「アキト君・・・今の客層を見て何か気付いたり思ったりしたことは?」

「う〜〜ん・・・昨日に比べて女性が多いですね」


そういって店内を見回す。
その最中に何人かの女性客と目があったりしたが、
顔を赤くしたり、にっこりと微笑んで手を振ってきたりした。


「・・・・・・それだけかい?」

「顔を赤くしたりしている人は風邪かな?
それに何だか俺が見られているみたいですけど、この格好なにか変ですか?」


今日の俺の姿はいたって普通の服装。
さすがにこの世界に来たときの服装は目立つからと、ロウさんの服を借りている。

俺の目から見ても地味なんだけどな・・・

ちなみに色は黒に近い色を選んだ。何となく・・・


「あの娘達はべつに風邪をひいているわけでもないし、
君の格好は・・・まあ別に変でもないよ」

「なら一体どんな理由が??」

「アキト君・・・キミね『鈍感』って言われたことないかな」

「よくわかりましたね。たまに言われていましたよ」

「・・・本当に『たまに』かどうかは分からないが、まあそうだろうね・・・」

「それって一体どういう・・・」

「店長!アキト君!何をやっているんですか!!
お客さん待たせたらダメでしょう!!」

「「は、はい!!」」

「わかったらさっさとやって下さい」

「・・・早く作ろうかアキト君・・・」

「・・・そうですね」



その日は閉店間際まで忙しかった。
一体なにが原因だったのかは未だわからない。

その日の帰り道、ルナさんが、


「今日のは予想以上だったわね・・・何か手でも打ちましょうか・・・」


と呟いていた。
一体なにが予想以上なのかは、聞いても答えてくれなかった。

 

 

 

 

 

○月▲日(晴れ時々曇り)

《アルバイト五日目。
ルナさんに挑戦したいという戦士の人が来る。
間が悪いというか何というか・・・》

 

 

 

 

時は昼を回ったばかり。
早くも客が大勢入り、俺は大忙しだった。


「そこの兄ちゃん!A定食二人前ね!」

「はい!」

「ウェイターさん。本日のおすすめはなにかな?」

「今日は魚を使った料理になってますよ」

「じゃあそれお願いね」

「わかりました」


いま俺はウェイターとなって店内を駆けずり回っていた。


「おう!きたぜ」

「あっ、シンヤさんいらっしゃい!」

「ん?アキトなにしてんだ・・・ってそうか、ルナちゃん今日は城の日か」

「ええ、そうです」


そう、今日はルナさんはお城に呼ばれていた。

何でも月に二回はお城に呼ばれているそうだ。
特に決まった日ではなく、何らかの晩餐会や異国よりの大使が来ていると
呼ばれるときがあるとか・・・むろん、呼ばれないときもあるが、
やはり呼ばれるときの方が多いそうだ。


「今日は何かあったか?」

「今日は何でも国境警備の人達が半年ぶりに帰ってきたのをねぎらう為の晩餐会があるらしいです」

 

 

俺はこの話を聞いたときは驚いた。

仮にも一国の王(この場合は女王)がいくら晩餐会を開こうとも、
招かれるのは大体その部隊の隊長、そしてそれに付随する人達だけだろうと思っていた。
それが新兵関係なく、戻ってきた全員を招いて開くと俺は聞いた。

いくら内々のこととはいえ、最初に聞いたときは正直いって信じられなかった。

ルナさんに女王はどんな人だと尋ねたら、
「私が信用する人よ。人としても、女王としても」

と言われた。
ルナさんがそこまで言う人なら、きっと信頼に足る人なのだろう。

 

その為、今日は厨房の方を店長に任せ(追い出されたとも言う)、
俺は即席のウェイターとなった。

店長曰く 「俺よりもアキトの方が女性客が喜ぶからな」 とのこと。

俺なんかで女性客が喜ぶのか?



「そうか・・・まあ残念だな、ルナちゃんの姿が見えないのは・・・」

「ハハハ・・・そう言わないで下さいよ。で?今日は何にしま・・・」

「頼もう!!」


俺の言葉を中断するようなタイミングで入ってきた大柄な人。
背中にやたら大きな剣を担いでいたりする。

頼もうって・・・ここはレストランなんだけど・・・・
どう見てもここは道場には見えないぞ・・・

何はともあれ、俺は臨時とはいえウェイターとしての責務を果たすことにした。


「いらっしゃい。今は席が込んでいるので・・・」

「ここに『赤の龍神の騎士』(スィーフィード・ナイト)であるルナ・インバースがいると聞き、
遙か遠方よりこの私が来てやった・・・早く出せ!」


俺の話をまるで聞いていないかのように(実際聞いてないのだろうが)
無視をして自分の用件だけ言いだす。


「はぁ・・・また馬鹿がきたのか・・・」

「どうゆう事なんですか?シンヤさん」

「ああ、偶にこんな事があるんだよ。
かの有名な『赤の龍神の騎士』(スィーフィード・ナイト)を
倒して名を売ろうとかいう奴とか自分の実力を過信した奴とかがな・・・」


なるほど・・・まあ名が売れるということは、
そういった面倒な事も呼び込んでしまうということか・・・

おそらく元の世界に戻ったら俺の所にも似たようなことが起こるんだろうな・・・
いや?既に北斗の元にはそういったことがおきているかもしれないな・・・


「今まではどうしてたんですか?」

「ああ、ルナちゃんが叩き出していたよ。素手でな・・・
例外があるとすれば手を出すのが躊躇われた老騎士ぐらいなものかな?」


まあ老人にしても程度があるけどね・・・
リョーコちゃんのお爺さん位になると
ためらいがあったらこちらが負ける可能性が出てくるからな・・・




「なにをゴチャゴチャと話しておる!!
早く『赤の龍神の騎士』(スィーフィード・ナイト)を出せ!!」


(参ったな、ルナさんは居ないし・・・いっそのこと俺が叩き出すか・・・
どう考えても害にしかならないみたいだし・・・よしそうしよう!)


とその時、調理をしていた店長が店の雰囲気がおかしいことに気付いたのか、
厨房から出てきて様子を見に来た。


「一体どうしたんだい?」

「貴様がこの店の主か。ちょうど良い!
私は『赤の龍神の騎士』(スィーフィード・ナイト)ルナ・インバースに勝負を申し込みにきた。
取り次いでもらおうか!!」


店長は戦士をしばし観察し、おもむろにこう言った。


「・・・君程度の実力では勝負以前の問題だ」

「なに!!」

「君ぐらいの実力者なら世界中にいくらでもいる。
腕をみがいて出直すことだ」

「いわせておけば!!ほろ汚いレストランの主ごときに戦いの何がわかる!!
俺はブラス・デーモン10匹を相手に圧勝した男だぞ!!」


確かリナちゃんに聞いた話だと、
最初に戦ったあれがデーモンという奴だったな。
・・・・・・たった10匹相手をしただけで強気になるのか?
おそらくルナさんならその20倍いたとしても笑ってきりぬけると思うぞ・・・・


「はぁ〜〜・・・その程度じゃあほろ汚いレストランの主にすら勝てんよ」

「グヌヌヌヌ!!貴様!!」


顔を真っ赤にして怒りだしたな・・・そんな短気でよく今まで戦場で生き残ったな・・・
しかし店の備品を壊されるのは勘弁してもらいたい・・・暴れる前に始末するか・・・


「叩き切る!!」


男は背中の大剣を掴むと、いきなり店長に斬りかかろうとする。

店長の方はといえば、そんな様子を見る目つきはいつもの優しい目つきではなく、
一流の戦士を思わせるような目つきへと変わっていた。

 

ヒュッッ・・・ガシィ!!

 

男の繰り出す剣の風切り音。そして何か重い物を受け止めた音。


客が見たその音を出したその光景は、一瞬の間に店長の前に回り込み、
なおかつ男のくり出した剣を片手で受け止めたアキトの姿だった。

そしてそのまま男に向かって半歩踏み出すと同時に、
空いたままの店の扉から飛んで行く男の姿のみだった。


(この私でさえいつの間に回り込んだのか見えなかったよ・・・
最後の攻撃も避ける自信が全くない・・・というかこれも見えなかった・・・
アキト君ならルナちゃんと良い勝負するんじゃないか?)


「アキト君。別に手を出さなくてもよかったのに・・・」

「・・・店長が強いということはわかっていましたし
怪我させられるとは思ってませんでした・・・けど・・・」

「けど?」

「店長、攻撃を避けようとしていたでしょう?」

「ああ」

「避けたら床が壊れるじゃないですか。
もし閉店にでもなったら来てくれたお客さんに迷惑がかかりますからね」

「・・・・・・・くくっ・・・はっはっはっはっ!!
そうだね。いや〜すまないすまない!すっかり忘れていたよ。
これは礼を言わないといけないかな?」

「別に良いですよ」

「いや〜まさかまた同じ台詞が聞けるなんて思いもしなかったよ。なあ、シンヤ」

「ああ。ここのアルバイト始めたときのルナちゃんと同じ台詞だぜ」

「そうなんですか?」

「全く同じだよ。これじゃあどっちが責任者かわからないかな?」

「まあいいじゃねえか店長!それじゃあ表の奴はいつも通りにやっとくよ」

「頼むよ。後でまた来てくれ、昼食をおごるから」

「わかったよ」


そういってシンヤさんは店の中にいた男性客数人を引き連れ、
表で気絶したままの男を引きずっていった。


「・・・・・一体どうするんですか?」

「さあ?以前聞いたときは平和的な話し合いで帰ってもらったといっていたが・・・」


『平和的』ねぇ・・・簀巻きにでもして川に流したのかな?


「アキト君、気にしても仕方がないよ。
今まで死者がでなかったんだから大丈夫さ」


・・・・ちょとまて、いま聞き捨てならない言葉が聞こえたような気が・・・


「あの店長?」

「アキト君お客さんがお待ちだよ!さあお仕事お仕事!!」

「ちょっと人の話聞いてますか」

「早く注文とってきてね」

「店長!!」


結局、いくら聞こうとも店長は話してはくれなかった

この後、戻ってきたシンヤさんにどうなったか訪ねてみたところ、


「ルナちゃんに聞いてみな、俺達の話し合いはルナちゃんが
リナ嬢ちゃんにやっていたお仕置きを参考にしているからな」


との返事が返ってきた為、俺は聞くことをやめた。
俺の(ルリちゃん達に鍛えられた)勘が叫んでいたからだ。

思いっきり『聞かない方がいい!!』と・・・


こうして、挑戦者の来訪騒動は一応終わった。
次の日からなぜか増えた女性客を不思議に思いつつ・・・

 

 

 

 

 

 

○月▽日(曇り時々晴れ)

《アルバイト八日目。
今日も平穏な一日が過ごせた・・・と書きたい気持ちがいっぱいだ。
なぜ俺が決闘をしなくてはならないか・・・頼むから静かにしてくれ》





俺はいま、レストランの前の往来の真ん中に陣取り、一人の男と対峙していた。
大勢の野次馬に見守られながら・・・



「ルナさんを我が手に抱くため!俺にやられてもらおうか!!」

(・・・・なぜ俺がこの様な目に遭わないといけないんだ・・・)

「俺はルナさんファン倶楽部、攻撃部隊隊長ランツ!
この勝負、男の意地にでも負けるわけにはいけない!!」

「ハァ〜〜〜・・・・」

(白鳥九十九と闘った時のジュンの気持ちが少しだけ分かったような気がするよ・・・)


「さあさあ!!『リアランサーの若きコック、アキト』VS『ファン倶楽部、攻撃部隊隊長ランツ』
どっちが勝つか!!賭の締め切りまで時間がないよ〜!」


あのね・・・人ごとだと思って賭けなんかしないでくれるかな・・・リナちゃん・・・


「はぁ〜〜」


俺は溜息をもう一度つき、なぜこんな事になってしまったのか・・・
事の始まりを思い出していた・・・

 

 

それは昼の時間も大きく過ぎ、
ちょうど人が少なくなる時間帯の出来事だった・・・

俺とルナさんは客足が落ち着き、余裕ができたので少し休憩をしていたときだった。


「あ〜〜やっと着いた〜〜・・・もう動けない〜〜」

「リナ!入り口で倒れるな、ここまで来て飯を食わない気か!」

「あ〜〜ガウリイ〜テーブルまで運んで〜」

「無茶いうな!そんなにくそ重たいもの担げるか!」

「何よ!私が重いみたいなこと言わないでよ!!」

「はいそこまで。二人ともどうかしたのかい?修行の方は?」

「ああ、俺は今日やっとあのドラゴンが倒せたんでな」

「やったじゃないかガウリイ」

「おお、結構きつかったがやっと終わったぞ」

「では明日から二段階目ですね」

「二段階目?」

「ええ、今度はプラズマ・ドラゴンを倒してもらいましょうか」

「げげっ!!」


早速次の課題か・・・まあがんばれよガウリイ。
応援だけはいくらでもやってやるからな。


「まあともかく、リナちゃんはどうしたんだい?」

「それよ!やっとの事で湖までの道のりが往復できるようになったのよ。
それで早めに家に帰れたのは良いけど母さんが・・・

『あら?リナ帰ってきたの?こんなにも早いと思ってないからご飯ないわよ』

なんて言うもんだから最後の気力振り絞ってここまできたのよ・・・」


まあなんとも・・・元気があるのかないのか・・・
少なくとも食欲は人より十倍はありそうだな・・・


「そんな事より!!食事をじゃんじゃん出してよ!!
お腹がペコペコなんだからさ!!」

「早く出してくれよ!!俺もリナも限界だからな。
これ以上待たされると暴れるかもしれん」

「フフフッ・・・リナもガウリイさんもちょっと待ちなさい。
そんなにすぐにはできないけど早めに作るからね」

「じゃあ俺も厨房を手伝ってきます」

「「「早く、早く!!」」


子供みたいな事をしないでくれるかな・・・二人とも・・・


俺と店長は急いで大量の料理を作った。
俺は正直多すぎるのではないかと思ったのだが
二人は軽く二十人分はあった料理をあっという間に平らげてしまった。

ガウリイもそうだが、リナちゃんの身体のどこにそんなに食べ物が入るのか・・・
質量保存の法則を無視しているのではないか・・・半ば本気で考えた。

 

二人が食べ終えてまもなく、若い傭兵風の男性客が一人入ってきた。


「いらっしゃいませ・・・ってランツ君!いつ帰ってきたの?」

「お久しぶりですルナさん!このランツ、
男を磨くための修行の旅より、いま帰ってきました!」


どうやら知り合うらしいな・・・
このランツという人の話し方からすると結構、仲がいいみたいだな。


「そ・・・そう・・・それはご苦労様・・・」


やや引き気味にルナさんがそう答える。


「ちょっとランツじゃない!」

「ん?胸の小さい小娘・・・じゃなくてリナ嬢ちゃんに・・・
兄キ!!お久しぶりです!!」

「おおランツか!久しぶりだな」

「ガウリイの割りにはよく覚えてたわね・・・それよりも・・・
何だか聞き捨てならないこと言ってた様な気がするんですけどね〜・・・ランツ?」


見た目はほがらかに笑っているリナちゃん。
ただし額の青筋が全てを裏切っていたりする。


「ハハハハハ・・・キキマチガイジャナイノカナ」

「何だか棒読みの台詞を聞かされているような気がするけど・・・まあ良いわ
それよりもどうしてあんたがここにいるのよ」

「ああ、あんた達と分かれた後にな、全く役に立てなかったのがちょっぴり悔しくてな・・・
強い人に弟子入りでも・・・と思ってな。
そこで噂に名高いスィーフィード・ナイトに弟子入りでもしようかなって・・・」

(弟子入りって・・・私からみれば死の一番の近道にしか思えないんだけど・・・・)

「そしてルナさんに出会い!俺は一目惚れをしてしまったのさ」

「なあリナ・・・ランツってこんな奴だったっけ?」

「悪い意味か良い意味かは分からないけど、
前会ったときより性格が変わっているわね・・・」

「おおっとそうだ、リナ嬢ちゃん!
俺のことは呼び捨てでも構わないができるなら義兄さんと呼んで欲しいな」


それを聞いたリナちゃんは寒気でも襲ったのか鳥肌を立てていた。


「誰が義兄さんか誰が!!却下よ却下!!
それに姉ちゃんの相手はもういるからそれは不可能よ」


へぇ、やはりそんな人がいるんだな。
まあこれほどの美人だから・・・・ってリナちゃん。何で俺を指差しているのかな・・・


「な・・・そんな!!」

「こら!リナいきなりなんて言うこというのよ!」

「いいじゃない姉ちゃん。ここら辺でビシッとしておかないと
後で面倒なことになるかもよ・・・特にアキトの方は色々とありそうだし・・・」


まあ・・・思い当たることはそれこそ掃いて捨てるほどあるけど・・・
話したことないのに何で知っているのかな・・・リナちゃん・・・


「まあそれはそうかもしれないけど・・・」


ルナさんまで否定無しですか・・・
俺って一体どういう風にみられてるんだ?

 

「そこのお前!!」

「ん?俺?」

「そうだ!!貴様にルナさんを賭けた真剣勝負を申し込む!!」

「何で?」

「言い訳無用!!表に出て勝負だ!!」

「あんた人の話聞いてるのか?」


俺の質問なぞ全く聞かずさっさと表に出てしまうランツ・・・
一体俺にどうしろというんだ?

 

 

「おお!決闘だそうだぞ!!」

「いや〜久しぶりですね〜。
ルナファン倶楽部ができる前はそれこそ毎日のようにあったものですがね」

「久しぶりに酒の肴ができましたな」




「みてみて!!あのコックの彼が決闘するようよ!!」

「え〜!!彼が怪我でもしたら毎日の楽しみが減っちゃうじゃない!!」

「そうよね〜・・・でもチャンスかも!!
怪我した彼を献身的に看護してゆくゆくは・・・」

「それもそうね!でも大怪我した場合は?」

「みんなでお金を出し合って魔法医院にでも連れていきましょうか・・・
もちろん決闘相手を処分してから」

「じゃあ彼のファン倶楽部のみんなを集めましょうか!」

「ええ!急ぎましょう!!」

 

 

何だか聞き捨てならないような言葉も聞こえたが・・・

ここまで大騒ぎになってしまったからには無視できないよな・・・


「はぁ〜・・・何でこんな事になったんだ・・・」

 

 

とまあ、こんな経緯でいま現在の状況となっているわけだ・・・・




「さあ勝負の前にランツよ!この中から武器を選べ!」


そういって、大剣、ロングソード、レイピアにカタール、
はては斧やら弓やら色々な武器をランツの前に並ばせるシンヤさん。
この人はいつの間にかにランツの補佐についていた。

店はいいのか?店は・・・・


「シンヤさん。この前もう手は出さないって言ってませんでしたか?」

「悪いなアキト。お前目当ての女性客が日に日に増えているのがどうしても腹立たしくてな・・・
この際だから徹底的に反抗させてもらうことにした
それに手は出さないとは言ってないぞ。負けは認めるとは言ったがな!」

「まったく・・・ここまで似ているのか・・・」

「まあお前に武器がないというのは不公平だ。
よってこの中から好きなのを選べ」


そう言って俺の前にも武器を置くシンヤさん。


「選べって一つしかないじゃないですか!しかもナイフ一本!!」

「贅沢言うな!曲がりなりにも純銀製だぞ。しかも俺様のサイン付きだ!」

「だから喜べとでも?」


まあ素手でも負ける気は全くないが・・・ちょっとだけ腹が立つな・・・

 

 

 

 

「よし!俺の方は準備できたぞ!!」


そう言ってランツが選んだ武器は・・・ガウリイが持っていた魔剣だった。


・・・・こらまたんか!!


その剣は無茶苦茶な切れ味だろうが!!


「おいガウリイ!何であの剣があそこにあるんだ!!」

「あ〜、あれか。剣の製作の参考にしたいとか言ってさ、
おっちゃんが貸してくれって・・・なんかまずかったか?」


まずいも何も・・・その所為で俺がやばい橋渡っているのがわからんのか・・・

いくら俺でも切られたら痛いし、血も出るんだぞ・・・


「まあいいじゃないアキト君」

「ルナさん・・・他人事だと思ってませんか?」

「そんな事思ってないわよ。いくら相手がもの凄い物もってても、
当たらなければ意味がないんだし・・・アキト君なら余裕でしょ」

「そうは言っても・・・はぁ〜〜・・・ジュンじゃないけど何で俺が・・・・」

「私は審判だから応援できないけど頑張ってね!!」

「・・・・・・善処します・・・」

 

 

「では・・・始め!!」


ルナさんの号令の元、俺とランツ(もう完璧に呼び捨て)の決闘が始まった。


「でりゃぁぁーーー!!」


いきなり斬りかかるランツ。遠慮も手加減もない攻撃だな・・・
なにげに危険人物が多いような気がするな・・・この町・・・

そうこう考えている間にも斬撃は襲ってくる。
北斗の攻撃に比べるとはっきりいって止まっているのも同然に見える。


キン!キン!キン!キン!キン!!


俺は手に持っていたナイフでランツの攻撃を次々にさばいていった・・・

 

 

 

 

「おお!アキトの奴やるな〜」

「そうね。ブラスト・ソードを受け止めることができないから
ナイフを剣の腹に当てて軌道を変えてさばくなんてなかなかできるもんじゃないわよ」

「そうだな〜、ランツの奴あれからかなり剣の腕を上げたみたいだけど・・・
まったく相手にされてないみたいだし・・・」

「どう考えても人間越えてるわね・・・アキトの実力・・・
どう?アキトと闘って勝つ自信はある?」

「剣の腕はどうか分からないが・・・
少なくとも力とスピードで圧倒的に負けてるんだ。
長くても十回ほど剣を交わしただけで負けると思うぞ」

「そこまでいくと私には想像もつかないわね・・・
アキトにはまだあの昂気とかいうのもあるし・・・実力の底というのが見えないわね」

「世界って広いんだな〜」

「まったくね・・・まあアキトは異世界の人間だけど・・・」



「しかしなんでアキトをリナの姉ちゃんの恋人役にしたんだ?」

「表の理由は話した通りよ」

「表?」

「本音の方はね・・・アキトがいると姉ちゃん猫かぶっているから
お仕置きが手加減されているのよ・・・」

「おいおい・・・あれでかよ・・・」

「そうよ。本当ならズタボロになって必死に修行の真っ最中でしょうね。
だからこそアキトの奴には姉ちゃんとくっついてもらわなければ!!」

「まあなんだ・・・ようするに生け贄に差し出すということか・・・」

「くっ!!ガウリイにしては的確な答えをだすとは!!」

 

 

 

 

キン!キン!キン!キン!


はぁ〜〜・・そろそろめんどくさくなってきたな・・・
そろそろ片を付けるか・・・


「ハッ!」


俺はナイフで剣をからめ取るように巻き上げはじいた。


「そこまで!アキト君の圧勝ね!」

「畜生!こうなったら・・・兄キ!!お願いします!!」


おいおい・・・チンピラ同士の喧嘩みたいなこと言うなよ・・・


「え?俺か?」

「そうです!ここであったのも何かの縁。俺に力を貸して下さい!」

「でもな〜・・・相手が悪すぎるし・・・」

「明日の昼食、いくらでも俺が奢ります」

「すまんなアキト。まさかお前と闘うはめになるとは・・・」


おい・・・即答するなよ・・・
それに俺との戦いは昼食一回分の価値なのか・・・いい度胸じゃないか・・・


「じゃあ始めるか・・・影縫い!!(シャドウ・スナップ)」


俺は手に持っていたナイフでガウリイの影を縫いつける。

俺の投げるナイフな生半可なスピードじゃないから
避けることのできるのは俺の知る限りでは北斗ぐらいなものだろう。
ルナさんやあの魔族のニースとかも避けれるだろうけど・・・さて・・・


「さようなら・・・ガウリイ」


そう言って、俺の拳は蒼銀色の昂気に包まれる。


「ちょっと待て!!何で魔法が使えるんだ!」

「昨日リナちゃんに習った」

「まさか昨日の今日で魔法が使えるとはね・・・
魔法に関して知識すらなかったのに大したものね・・・」


そんなに買い被ってもらっても困るが・・・
何しろこの魔法を覚えた理由はセイヤさん達からの逃走に使うためだし・・・


「安心しろ。手加減してやるから。
この世界は魔法があるから半日程度で回復するだろうしな・・・」

「ちょっと待て!俺は・・・」

「ハァ!!」


ガウリイは台詞を最後まで発することなく、隣にいたランツ、
そして後ろにいたシンヤさん共々蒼銀の波にのまれて吹き飛んだ。


「凄いわねアキト君。それってなんていうの?」

「昂気って言うんです。詳しくは家に帰ってからゆっくり教えますよ。
それよりもアルバイトの続きをしなくちゃならないんじゃないですか?」

「それもそうね」

「じゃあもう一頑張りしましょうか!」

「そうね!」



こうしてこの日の騒動は終わった。
まあシンヤさん達の活動内容が俺の撃退に変わったらしく、
その意味では始まりとも言えなくもない・・・

ちなみに賭の方はぼろ儲けだったらしい・・・が!
儲けはルナさんによって没収。
リナちゃん達の食事代にあてがわれることとなった。

リナちゃん達よく食べるからね・・・食事代出さないし・・・

 

 

 

 

・・・・・ここでも俺は平穏な日々とはほど遠いものなのか・・・

いったい俺に何の因果があってこんな目に遭うのやら・・・・

日々平穏というのは手に入りにくいものだとしみじみ思う今日この頃だった。

 

 

 

あとがき


どうも、ケインです。
やっとの事で外伝第1話が書き上がりました。
本編の方はネタがあるんですがこういう細かいのはなかなかでにくいですね・・・
もう少し努力をしなくては・・・

それよりも・・・今回から中身が少し大きくなります。
そうじゃないと話がなかなか進まないのです。

短い方が良いという意見の方は言ってください。考慮します。


さて問題ですが・・・・刃物マニアのあの人が登場予定!!
これはヒントは要りませんね・・・でも知らない人多いかも・・・スペシャルの人だから・・・・


最近本業が忙しくて・・・・次回の投稿も今月末になるかも・・・ちょっとだけ待っててください。


最後に川嶋さん。カルマさん。綿貫さん。嗚臣 悠久さん。涼水夢さん。感想有り難うございます!!

では次回で会いましょう!!

 

 

代理人のツッコミ

 

なにげに危険人物が多いような気がするな・・・・

 

危険人物の筆頭はアキト君では無いかと思うのですが(爆)。

自覚のまるっきりないあたりが彼らしい(笑)。