赤き力の世界にて

 

外伝「アキトのアルバイト日記」・第三話

 

 

 

 

○月☆日(晴れ)

                                       トラブル
《アルバイト十五日目・・・・・・思いもよらぬ事件が発生。

何の因果か俺は城の牢獄のお世話になってしまった。

まったく・・・・・・何処の世界にでもあんな連中はいるもんだ。

ちゃんと掃除はしておかないといけないよな・・・いろいろと・・・・》

 

 

 

事の起こりはとても単純だった。

朝一番にちょっとした注文の手違いで店で使う料理の材料が足りないことが判明した。

手違いといってもそんなによく作る料理の材料ではなく、数もごく少量なのでよく忘れると店長は言っていた。

以前に俺は何度か食材店に出向いたことがあり、場所も熟知していた。

一品だけだったので注文するよりもこちらから出向いた方が早いということになり

俺は店に着いた早々使いを頼まれることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「放して下さい!!」

「そんな事いわずにさ〜」

「言いじゃないか!」

 

店に行く途中の路地で俺は聞いたことがある声と、軽薄そうな声が聞こえてきた。

どう聞いても穏やかそうではない雰囲気な声だ。

俺はなんの迷いもなく声の聞こえた方に足を向けた。

 

やや狭い路地を抜けた所に空き地があり、

そこには、いかにも・・・というか予想通りの軽薄そうな顔をした男が三人と、

15歳ぐらいの長い黒髪をした可愛らしい少女・・・これから行く食材店の一人娘のサキちゃんがいた。

 

 

 

「私は店が忙しいんです!」

「いいじゃないか。君1人ぐらい居なくても。俺達に付き合えよ!」

「そうだぜ!それに俺達に逆らうということはどうなるか分かってるよな〜」

「お得意様が無くなるんだぜ。一番大きいヤツがな」

「・・・・・・」

 

そう言われた彼女・・・サキちゃんは悔しそうな顔をして自分を取り囲んでいる三人の男を睨み付ける。

その言葉を聞いただけで俺はサキちゃんの立場というものがわかった。

 

(サキちゃんの店は城の注文も受けていたと言っていたな・・・

おそらく城の高官かなにかの息子といったところか・・・

・・・・??以前この状況に似たようなことがあったような気がするな・・・・)

 

そう考えつつも俺はサキちゃんに声をかけた。

 

 

「どうかしたのかい?サキちゃん」

「あ!アキトさん!」

 

サキちゃんは嬉しそうに俺に向かって走り、俺の後ろに隠れる。

よほど怖かったのか、それとも悔しかったのか、その瞳には涙が浮かんでいた・・・

それをみた瞬間、俺はこいつらを無事に返す気はなくなった。

 

「なんだお前は!」

「部外者は引っ込んでろよ!」

「そうそう!怪我をしないうちに早く家に帰りな!ギャハハハハハ」

 

・・・・・・・こいつらと話をしたらこっちの知性が落ちてゆくような気がする・・・

少なくとも俺はお友達はおろか知り合いにすらなりたくないな。

 

「部外者じゃないよ。サキちゃんの店に用があってね。道に迷って歩いていたら

サキちゃんの声が聞こえてね。ちょうど良かったから声をかけたんだよ」

「え?でもアキトさん・・・」

「案内してくれるかな?サキちゃん」

 

そう言って俺は不器用ながらも(端から見れば十分器用)ウィンクをする。

 

「・・・・あ!はい。わかりました。案内します」

 

                  考え
サキちゃんは俺の意図がわかったらしく、偽りの案内役を引き受けてくれた。

 

「じゃあ行こうか」

「はい!アキトさん」

「おい!ちょっと待てよ!」

 

予想通りの展開だな・・・この展開の仕方は世界が違っても変わり映えはしないものだな。

 

「何か用かな?」

「ふざけてんじゃねえ!」

「俺達の楽しみとりやがって!何様のつもりだ!」

 

でた・・・何様だって・・・こういうタイプにはよくいるんだ・・・世間は自分を中心で回っていると勘違いした奴が・・・

 

「とりあえずコックのアルバイトかな」

「たかがアルバイト風情がいい気になりやがって!!」

 

まったく・・・・ここまでパターン通りだと面白いかもしれないな・・・

俺の思っていたとおりに事が運んでいっている。

おそらく次の台詞は決まってこうだろうな『ぶっ殺してやる』とか何とかだな。

 

「ぶっ殺してやる!」

 

(ほらね・・・・)

 

三人組は俺とサキちゃんを取り囲んだ。

俺はその動きから強さを予想したが・・・・

 

                                                       思い上がったバカ
(素人と喧嘩をしてなんとか負けない程度か・・・典型的な 暴力的思考者 だな・・・)

 

「今さら謝っても許さないからな!」

「謝るつもりは全くないから安心してもいいよ」

 

むしろ俺の方が許す気は全くない。

 

「てめえ!!」

 

おそらく三人の中のリーダー格であろう男が声を上げたのを合図に三人は一斉に飛びかかってきた。

 

「くらいやがれ!

―――――!!」

 

                          一 番 偉そ う な                むぞうさ
俺は最初にかかってきた リーダー格の 男のパンチを無造作に受け止め、

そのまま逆に腕をつかみ、二人目の男に向かって投げつけた。

 

「こ、こっちに来るな!ゲフゥ」

 

                                     慣 性 の 法 則 を 越 え る
いくら何でもほとんどの人間はいきなり飛んでいる方向を変えることはできないだろう。

ぶつかりあった二人は重なり合ったままとばされ、空き地の塀に衝突し、そのまま動かなくなった。

 

(何だか思ったより飛んでいったな・・・あいつらの存在価値が軽いせいかな・・・まあいい、次だ)

 

三人目は俺に向かって蹴りを放った・・・いや、放っていた。

二人がやられたことを認識するよりも先にくり出していた感じだった。

俺はその蹴りをまたもや無造作につかんで受け止めた。

 

「ヒィッ!や、やめて・・・」

 

俺は最後までその言葉を聞く気にもならず、そのまま先の二人に向かって投げつけた。

 

「うわぁぁぁ・・・グハァッ」

 

男は地面と水平に飛んでゆき、そのまま空き地の塀に衝突して

寸分の狂いもなく倒れている二人の上に落ちた。

 

パンパン!!

 

俺は手についた埃をはらってサキちゃんに向きなおった。

 

「さあ行こうか」

「はい・・・でも・・・」

 

そう言ってサキちゃんは心配そうに折り重なって気絶している三人組に目をむける。

あんな事があったのにサキちゃんはあの三人を心配している。優しい子だ・・・

 

「あそこまでする必要はなかったのではないですか?」

「いいのいいの!!サキちゃんを泣かそうとしたんだ・・・アレでも手加減したほうだよ」

 

                                         フレア・アロー
サキちゃんの前でなかったらこの前習った 炎の矢 をとどめに使おうと思っていた。

          威力の確認
早い話が人体実験ということになるが・・・・まあこいつらなら別に構わないだろう。

 

「あの、その・・・・ありがとうございます・・・」

 

そう言ってサキちゃんは顔を赤くしながらうつむいてしまった。

 

「うん。だけどこれからは気をつけてね。サキちゃんは可愛いから狙われやすいからね・・・」

「・・・・は、はい」

 

サキちゃんの顔はますます赤くなっていった・・・何でだろう??

 

 

 

その後、俺とサキちゃんはすぐに食材店についた。

お城の御用達をするだけあって店はかなり大きい。なぜ、そんな店と一介のレストランが取引をしているか・・・

前にルナさんから聞いた話だと店長同士が気があったらかららしい。

ちなみにシンヤさんとも気があい、ロウさんを入れた四人で親友をやっているらしい。

・・・・・なにげに個性の強い人が集まっているような気がするのは俺の気のせいだろうか・・・

 

それはさておき・・・俺は店長から聞いていた食材を注文した。

 

 

「はいこれ!注文の『ニャラニャラ』ね」

「あ・・・・うん・・・・でもこれ本当に食べ物なの?」

 

なんなんだこれは・・・・みたこともないこの食材・・・・本当に食べられるのか!?

少なくとも俺の世界ではお目にかかったことはまだない。

 

「あれ?結構有名な食材ですよ。原産地では名物料理の一つになってるんですけど・・・・」

「まったく知らなかったよ・・・ところでその料理の名前って何?」

「『ニャラニャラの鍋』とかが一般的でしょうか・・・・

あ!『ニャラニャラのおどり食い』なんてモノもありましたっけ」

 

全くなぞの料理だな・・・・恐るべし異世界・・・・

 

「ま・・・・まあいいけどね・・・で、お代の方なんだけど」

「お代はただでいいぜ!」

 

そう言って話しかけてきたのはサキちゃんのお父さんであるこの店の店長、アルナックさん。

親しい人からはナックと呼ばれている。俺もそう呼んでいる一人だ。

 

「しかし・・・」

「なぁに、娘をあいつらから守ってくれた事を考えたら安いことよ!

おまけに叩きのめしてくれたんだ!こっちの方が胸がすうっとしたもんよ!」

「でもそれは当たり前のことをしただけですし・・・」

「いいっていいって!それにお父さんがそんな事を言うなんて珍しいことなんだし。

もらっておいた方がお父さんも機嫌がいいしね!」

「すみません。じゃあもらっておきます」

「おう!」

 

とその時、店の中に警備兵がなだれこんできた。

そして俺を確認すると同時に取り囲むように動いた。

 

(あきらかに俺1人が目的だな・・・店に迷惑はかけられないし・・・それに・・・・)

 

この警備兵達には俺をいたぶるとかそういった感じの感情はなく、

むしろその目を見れば申し訳なさがにじみ出ているようだった。

 

(こんな目で見られるとな・・・・嫌な目で見ているのだったら逆に面倒はないんだが・・・)

 

その場合は即刻叩き伏せているのだが、この場合は何となく躊躇われる。

 

「申し訳ないが君を城へと連行しなくてはならなくなったんだ。素直についてきてくれると有り難い」

「・・・・わかりました」

「そんな!!アキトさんは私を助けるために!!」

 

俺が連れて行かれるのに責任を感じてか、サキちゃんはそう弁護する。

 

「やはりそうだったか・・・・しかしすまない。こちらも上から直々の命令でね」

 

その言葉で俺は大体の事情を察した。

すなわち裏であの三人組が親か何かに泣きついていることに・・・

この人達は理解してはいるものの何も手が出せないと言うのが現状ということか・・・・

 

                                リア・ランサー
「サキちゃん、悪いんだけどこれアルバイト先に配達してくれるかな」

「で、でも!」

「何とかなるよ。俺は悪いことなんてしてないんだからね。

いざとなったら城を壊してでも戻ってくるさ」

「できるかどうかは別にして、それは困るんだがねぇ・・・」

「ならそうならないように頑張って下さい。いろいろとね」

「まあ善処するよ。では行こうか」

「そうですね。じゃあサキちゃん、配達の方はお願いね。親父さんお騒がせしてすみません」

「そんな事気にするな!いざとなったら殴り込んででも助けに行ってやらぁ!」

「ははははは・・・・その時はお願いします」

 

そうして俺と警備兵の一団は城へと向かった。

 

 

 

「お父さん!私この事ルナさんに話してみる!」

「・・・・今回は相手が悪すぎるかもしれねぇな・・・・・・余り迷惑はかけたくなかったんだがな」

「元はと言えば私が巻き込んだのも同然だもの!私ルナさんの所に行ってくる!」

「ちょいと待ちな!これ届けとかねぇとな。アキトに頼まれたんだ、サキが責任もって約束は果たしな。

それにこの時間帯だとルナちゃんもアルバイトの最中だろうしな。場所は一緒だ」

「うん!じゃあ行ってくるね!」

 

そうしてサキは大急ぎで店を出ていった。おそらく今までの人生の中で一番の走りだったろう。

 

「あ〜あ、あんなに必死になって・・・・・まったくアキトの奴は・・・・家の娘まで惚れられるとはな・・・

父親としては娘に男を見る目があったことを喜ぶべきか・・・盗られそうなことを怒るか・・・

家にいる母ちゃんは喜びそうだしなぁ・・・・難しいところだ・・・とりあえずは例の組織にだけは入っておくか・・・」

 

こうしてここに、シンヤ氏が創立した対テンカワ・アキトの組織に、加入者が1人増えることとなる。

ちなみにアキトのファン倶楽部もあり、事細かな対立をもたらしている。

まあ、ファン倶楽部の会員達は組織に対する殲滅戦をやらないだけ某同盟よりは安全といえた。

ただ、(今現在)戦闘力は遙かにファン倶楽部の方が強かったりはするが・・・会長の力だけで・・・

 

 

 

 

アキトが城の牢に入れられてから30分ぐらいたった頃・・・

アキトの元に取り調べの為、1人の兵士が訪れていた。

 

 

「すまないね・・・いきなり牢なんかに入れてしまって」

 

そう俺に話しかけてきたのは、先程俺を捕まえにきていた警備兵を指揮していた人だった。

 

「そうですね・・・アルバイトをさぼったのが痛いですね・・・

無断で休んだりするのは信用に関わるんですけど・・・」

「ああ、その事については大丈夫だ。ちゃんと店の方に連絡は入れておいたからね」

「それはどうも。感謝しておきます。ついでに牢から出してくれるとなお助かるんですが?」

 

俺がそう言うと、隊長さん(推測)はやや苦しそうな顔をした。

 

「私も出してあげたいのは山々なのだが・・・いかんせん相手が悪いのでね・・

君が叩きのめした三人組の親はこの国の中でもかなり上の方でね。

こういった事で逮捕するのは実は初めてではないのだよ・・・」

 

(やはりか・・・俺が相手にしてから余り時間が経っていないのに兵士が動き出すのが早いはずだ)

 

「まあ城まで連行したのは君が初めてだよ。

ついでに言うと叩きのめしたのも君が初めてなんだけどね。テンカワ・アキト君」

「どうして俺の名を?そういやアルバイト先の事なんて話してないのに何で知っているんだ?」

 

俺は疑問に思った。

元の世界ならまだしも(というか元の世界なら牢に入る事なんておきないが・・・)

この世界ではまだ俺は何も問題は起こしてない・・・・はずだ・・・

ランツとの決闘は・・・・まあ些細なもの・・・・・だと思う。城勤めの兵士がいちいち覚える訳がないはずだ。

 

「私の部下にね、ルナ殿のファン倶楽部に入会している者がいてね。

といっても大半の者が入会しているのだが・・・まあそんなわけでね、君の顔を知っていたわけだ。

          ブラックリスト
倶楽部の要注意人物の最上位にいる君のことをね・・・」

「そんな物を作っているのかあの人達は・・・・・ところでいつ頃出られる様になるんですか」

 

正直言って俺は暇だった。そろそろ本気で脱走でもして三馬鹿の親でもお仕置きしようか?と思っていたところだ。

 

        私 の 上 司
「今、我が騎士団長に連絡をつけているところだ。もうちょっと待ってて欲しい」

「そうですか。お手数をかけて申し訳ありませんね・・・・・え〜と・・・・」

「おっとそうだったな。自己紹介がまだで済まなかったな。

私の名前はライル。地竜騎士団に所属する市街警備団の団長をしている者だ」

「俺の名前は知っての通り、テンカワ・アキトです。ルナさんの所で居候をさせてもらっています。」

 

俺は礼儀に習い、自己紹介を仕返す。

まあこの人はいい人そうだからね。礼儀には礼儀で返すのが人間というものだ。

 

「ところで『地竜騎士団』ってなんですか?聞いたこと無いんですが・・・」

「聞いたことないのかい?ゼフィーリア王国を守護する『四竜騎士団』その一つなのだが・・・・知らない?」

「・・・・全く知りません」

「そうかい・・・」

 

そう呟いたライルさんは肩を落として落ち込んだ。

 

「結構有名だと思ったんだがねぇ・・・・地竜って地味なのかなぁ・・・・

やはりもうちょっとインパクトのある名前に変えてもらえるように申請しようかなぁ・・・」

「いや、その・・・・気にしないでください。俺そういうことにうといですから」

 

そこまで落ち込まれると何だか俺の方が悪いような気がしてきた。

何しろ俺はこの世界に来てまだ日が浅い。何が有名か、そうでないかは全くと言っていいほどわからない。

知っている事実などほんの一部でしかない。

 

「いいんだよ・・・どうせ私なんか・・・私なんか・・・」

 

さらに肩を落としながら、さらには背中に影を背負って床にのの字を書きながら愚痴を言いだすライルさん。

大の大人がそんなことをやっても、うっとおしいだけだからやめて欲しいんだけど・・・

 

「最近何だか娘はよそよそしいし・・・好きな人ができた様だから私なりに理解してやろうと思っているのに・・・

聞いても恥ずかしがって話してくれないし・・・やはりあれが悪かったのか?

『好きになった男を確認して、悪い男だったら根性を叩き直してやる!』

といって剣の手入れをしていたのが気に入らないのか!?やはり拳じゃないと駄目なのか!?」

 

もはや俺のことなど眼中に無いようで、どこか遠くの方を見ながら一人ごとを言いだす始末・・・

話の内容も家族の心配事になってきているようだし・・・しかも訳がわからないし・・・

 

「ま、まあ落ち着いてください。大丈夫ですよ。

きっと時が来れば娘さんの方から話をしてくれますから。そう落ち込まないでください」

「・・・・・・そうかな?」

「ええ。それだけ娘さんを大事に考えているんです。きっとわかってくれますよ・・・・・たぶん

「ありがとうテンカワ君」

 

しかしこの二人は知らない。実はライルの娘さんが最近できたとあるファン倶楽部に入会していることに・・・

事実を知る時はまだ遠い未来なのかもしれない。

 

 

 

 

 

ライルさんの話が一段落したとき、俺の耳は近づいてくる大勢の足音を聞いた。

 

「団体さんがお越しのようですね・・・何かあったんですか?」

「よくわかるね・・・しかし何もないはずだが?ここは特別犯罪者用の牢屋だ。

もしも連れてくるにしても付き添いは一人か二人のはずだが?」

「??なんですかその特別犯罪者ってのは」

「ああ、建前上の君の罪状は暴行罪だ。

その場合は町中にある警備団事務所の牢屋に入れるのが筋なんだが・・・

何らかの理由で城に連行する場合があった場合、この牢屋を使うことになっているのだよ」

「なるほど・・・つまりはあの三馬鹿がよく利用をしている所ということか・・・」

 

(道理で牢に似合わない程の設備な訳だ。鉄格子さえなければ部屋で十分通用しそうだしな。)

 

本来、この牢(というか部屋)は王室関係の牢だった。

しかし、ここ50年使われておらず、埃をかぶっていた。それを三人の親が勝手に使っていた。

 

「そう言われると耳が痛い。アレの親達の中には私の上官がいてね・・・

報告するにしても握りつぶされるのが落ちなんだ。

今回は直接に渡すように手回しをしたのだが・・・正直言って難しいところだ」

 

その台詞が終わるのを計っていたかのように扉が開き、

通路からあの三馬鹿とその親らしき人物が二人、

そしてボディガードか何かと思わせる人達が10人ほど入ってくる。

 

こんなに入ってくるといくらこの牢といえど暑苦しい・・・

 

「ライル君。私はこの者を牢に放り込んでおけと言ったはずだが」

 

太り気味の男がライルさんに向かってそう言った。おそらく宰相の配下の親とは此奴のことだろう。

もう片方の親はなかなかいい体つきをしていることから推測してライルさんの上司だろう。

しかし二人だけというのは・・・もしかしてあの三人の中に兄弟でもいたのか?

 

「はい。こうして牢に入れておりますが?」

「・・・・・もういい。君は自分の職務に戻るといい」

「いえ、まだ職務質問が残っておりますので」

「残りは私達がやっておこう。下がりたまえ」

「しかし!」

「たかが市街警備団の長ごときが副騎士団長補佐である私に意見があるとでも?」

 

(どこの世界にでもいるんだな〜・・・わがままを通そうとする権力者は・・・)

 

「・・・・・わかりました。失礼します」

「おっとそうだ・・・こういった勝手なことはしないようにな・・・」

 

そう言ってライルさんの上官は懐から一枚の紙を出した。

 

「―――――!!くっ・・・・申し訳ありません・・・」

 

ライルさんは一瞬、悔しそうな顔をした後、無表情を装いながら一礼する。

そして俺にすまなそうに目配せすると部屋から出ていった。

 

「おい!良い身分だな!羨ましいぜ!ギャハハハハハ!!」

「俺達のやることを邪魔するからこうなるんだ!」

「俺達をあんな目に遭わせたんだ!死ぬまでいたぶってやる!」

「床に額をこすりながら謝ったら考えてやっても良いぞ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「な、なんだよ・・・・」

 

俺は黙って三馬鹿を見やる。ただそれだけでこいつらは腰が引けたみたいだ。

 

(相手にする気もおきんな・・・しかしやはりトドメはやっておくべきだったな・・・

魔法の実験も兼ねることができたのに・・・・・失敗した・・・)

 

「貴様が息子達を投げ飛ばした男か・・・一応名のっておこうか、私は・・・・」

「別に名のらなくても構わない。長いつき合いしたいと思わないし、覚えるだけ記憶の無駄だ」

「ふっ!口だけは減らないようだな。面白い」

 

がたいのいい男はそう言って楽しそうな目で俺を見る。

ただし・・・『相手をいたぶるのが心底好きそうな』と付くような目だが・・・・

 

「貴様は見せしめになってもらおうか。それと教育もな・・・」

 

今度は太り気味の男がそう言った。どうでもいいがこいつが一番暑苦しい・・・

 

「・・・・・・大体の予想はつくが一応聞いておく。何の見せしめと教育だ」

「一つは町の連中に対してだな。権力というモノは絶対的だと教えるためにな」

「そういうことだ。教育というのは君と息子達だ。息子達には権力の使い方について覚えてもらう。

まあ君には体で覚えてもらうがな。はっはっはっはっはっ!!」

 

(こいつらは俺の嫌いな人種だな・・・それも上位に位置するぐらいの・・・・)

 

「お前達、よく見ておけ。力が強いだけの男でもしょせん権力には勝てん」

「左様。権力と金は使い方次第だ。上の無能者のような使い方をしてはいかん」

「そういうことだ。お前達やれ!!」

「「「「「はっ!」」」」」

 

後ろに控えていた奴らは命令と共に俺の入っている牢の扉を開け、

中央にいた俺を取り囲むように立った。

 

俺は特に構えもせず男達をながめていた。

俺と男達はしばらくの間、そのままの体勢でいた。

 

「どうした!早くやらんか!!」

「し、しかし・・・・・身体が・・・動こうとしないのです」

「お、俺も・・・何だか手を出したくないって言うか・・・」

「あ、ああ・・・」

 

別段、俺は何もやってはいない。無駄のないように自然体で立っているだけだ。

かかってきたら瞬殺できるように・・・だが・・・

実力差が頭では分からないのだろうが、体は理解をしているようだ。

曲がりなりにもそれなりに優秀というわけだ。体の方は・・・・

 

「え〜い!何をしておる!たかが一人相手に情けないぞ!」

 

コン、コン・・・

 

不意に扉がノックされた。俺は気配を感じていたのでわかっていたが・・・

それよりも不可解に思ったのはノックした人物についてだった。

 

「誰だ!!」

「失礼いたします」

「何だ?まだ何か用があるのかね。ライル君」

「はい。地竜騎士団・副騎士団長補佐ゼイラム殿、宰相の準補佐役ヴォルサム殿、

女王陛下がお呼びとのことです」

「―――――!!それは本当か!!」

「そ、それは急いで参じねば!!」

 

二人はライルさんの言葉を聞き終わると同時に急いで部屋から出ていこうとする。

 

「少しお待ちを。要件はまだ伝え終わってはおりません」

「何だ!早く言わないか!」

「両名のご子息も同行させて・・・との事です」

「な、なんだと!?」

「一体どういうことだ!!」

「なにぶん私は伝令を頼まれただけですので・・・」

「クッ!!まあいい!!お前達もついてこい」

「別室で着替えをするといい。後この男は・・・」

「テンカワ殿も女王陛下がお呼びです。私がしっかりとお送りいたしますのでご安心を」

「「「「「な!!」」」」」

 

三馬鹿とその親は思わず台詞がかさなる。

ついでにいうと男達は完全に硬直していた。

 

「お急ぎください。女王陛下をお待たせするわけにはまいりませんので」

「・・・・・くそっ!!」

 

これまでの経緯でなぜ自分たちが呼ばれたのかを察したのだろう。

罵声を吐くと同時に俺を取り囲んでいた男達と三馬鹿を引き連れて部屋から去る。

 

「さて、君もそろそろ行こうか」

「ええ!?俺もですか!!」

「そうだよ。もしかして嘘だと思ったのか?」

「それはまあ・・・タイミングが良すぎたし・・・」

「ああそれね・・・本当は別の人だったのだが代わってもらった」

「何でまたそんな事を・・・」

「あの二人をからかいたくてな・・・傑作だったよ」

「人が悪いですね・・・」

「役得さ・・・それは良いからさっさと行こうか」

「俺に拒否権はあるんですか?」

「無い」

「わかりました・・・」

 

 

 

 

 

 

 

そうして俺はこの国の女王と対面することとなった。

・・・・実は俺は王族というモノに対してやや拒否感がある。

何せ元の世界の某王家と関わると何かしら騒ぎに巻き込まれるからだ・・・

 

 

全ての王族というモノがそうではないと頭では分かっているのだが

                                               ト ラ ウ マ
染みついてしまった習性というか何というか・・・・心理的障害が多いな・・・・俺・・・

 

 

何はともあれ。俺は謁見の間に案内された。

かなり大きめに作られたその部屋には本来、重臣や近衛騎士が大勢控えるのだろうが、

今この場には俺とライルさんを合わせても十名足らずしかいない・・・表向きは・・・・

一応隠れてはいるが、俺の見知った気が物陰から感じられた。

 

(基本的な間取りはピースランドと比べても変わりはないな・・・ただし大きさはこちらの方がやや上か・・・)

 

謁見の間の中央にある玉座には長い金髪をした深緑の瞳の女性が座っていた。この国の女王だろう。

整った顔立ち。見る人全員が美女と言うだろう。しかし何より目を引くのはその瞳だった。

全てを見透かし、内なる罪をさらけ出す・・・そして、それを含めた全てを包み込む・・・

厳しさと慈愛という相反するモノを合わせ持った瞳だった。少なくとも俺はそう感じた。

 

(なるほど・・・・ルナさんが信用する訳がよく分かった・・・)

 

この人は信用できる。それが俺から見た女王の第一印象だった。

これが真の権力者としての風格なのだろう。

 

 

その両端にそれぞれ二人ずつ。計四人が控えていた。

右側は二人とも女性。

一人目は青いローブを纏った魔導士ふうの長い黒髪をした美女、

二人目は緑色をした動きやすそうな服をした少女。蒼い髪を後ろでまとめている・・・

 

左側は対照するように二人とも男性。

一人目は二メートルは超している程の大きな男。黄色い・・・ともすれば金色に見える高官服を着ている。

二人目は茶色の髪をした人物。こちらは赤いが、先程の大男と同じ様な、服を着ている。

唯一この人物のみ帯剣をしている。腕の方は・・・ガウリイよりやや下という所か・・・

 

 

 

 

 

俺が謁見の間に入ってすぐ、あの三人と親はやってきた。

この間の中央に座する女王から見て俺は左側に、後から来た五人は右側にそれぞれ立った。

 

「女王陛下の命により、地竜騎士団・副団長補佐ゼイラム参上仕りました」

「同じく宰相の配下、ヴォルセム。参上仕りました」

 

そう言って二人は女王の前にて一礼した。

後ろに控えていた三人の息子も同じく一礼する。

外見上、牢で見かけた焦りなどの感情は見えない・・・・あくまで見かけは・・・

 

「よく来てくれました。面を上げなさい」

「「はっ!」」

 

「この度、そなたらを呼んだ理由は分かっていますか?」

「はい。この男との関わりがあった件と予測しておりますが・・・」

「ええ、その通りです。何やらそなたらの息子達と関わりがあったみたいですけど」

「それはそれは!陛下に心配をお掛けするほどのことでも御座いません」

「左様で御座います。所詮は一般の民がおこした事、陛下がお気にする程ではありません」

 

そんな会話を聞いている俺はといえば・・・・芝居を見ているような気分だった。

しかし、芝居に付き合っている女王の目は話が進むごとに鋭さが増していくのが端で見ていてわかる。

 

「そうですか・・・ですが一応何があったのか教えてはもらえませんか?」

「はい。とるに足らぬ事で御座います。

情けないながら・・・息子達とこの男、そして女性に関して何やらもめ事があった次第で・・・」

 

(なるほど・・・そう言えば問題の中心は見えにくくなる。そうなったら

           何の関わりもない                   自 分 の 配 下
本来なら ただの国民の 立場の者より、役職にある者の息子達の方が正しい行いをしたように勘違いする)

 

それがただの凡庸な権力者であれば・・・・の話となるが・・・・

 

「そうですか・・・ではテンカワ・アキト殿を城に連行したのは一体どういった理由でのことですか」

「それは何かの手違いで・・・事の真偽を問おうとして呼び寄せようとしたのですが

部下が意味を取り違えたらしく、連行という形になってしまったようです」

 

あくまで事を誤魔化そうというのか・・・真実を知る俺にとっては呆れ果てるほか無い。

 

「それで?事の真偽の方は明らかになったのですか?」

「いえ、それはまだですが・・・」

 

そう言って二人は気まずそうに顔を見合わせる。

それはそうだろう。事の全てが暴露したらどうなるか・・・想像に難くない。

 

「そうですか・・・ならばこの場にて明らかにしましょうか・・・全てを・・・」

「―――――!?そんなわざわざ女王陛下のお手を煩わせるほどのことでは!」

「左様です!所詮は一般の民がおこした事。我々が処理を・・・」

 

「お黙りなさい!」

 

「「―――――!!」」

 

「いつまでもしらを切れると思っているのですか」

 

二人は、女王の迫力に負け、顔を真っ青にしてうつむいた。

後ろの控えていた三人は今にも逃げ出しそうな表情で固まっている。

 

かく言う俺もちょっと吃驚した。

 

「貴方達の息子だけではありません。

貴方達の今までの所行、既に調べは空竜騎士団の者によって終わっております」

 

今度こそ、二人は絶望したような顔をして頭を垂れた・・・

 

「権力を笠に着た横暴な振る舞い!恥を知りなさい!!

衛兵。この者達を地下牢へ・・・貴方達には然るべき処罰を与えます。

自分たちが今まで行ってきた事の報いを受けなさい」

 

五人は衛兵に左右から腕を掴まれ運ばれていった。

 

「く・・・・・」

何を言う!能力のある人間が権力を使う!それの何が悪い!所詮貴様らとて・・・・

 

最後まで往生際の悪い奴がいるな・・・・見ている分でも気分が悪くなる。

 

ゴン!!

 

(あ・・・・衛兵が殴って気絶させた・・・ついでだから俺がトドメでもさしてやろうか?)

 

「私達の持つ権力とは国民より与えられたモノ・・・

その力を持って国民の安泰を守るのが義務・・・

それを履き違えるとは・・・・」

 

女王は連れられる二人を見ながら悲しそうな顔をして呟く・・・

 

「テンカワ・アキト殿・・・

改めて挨拶させていただきます。私の名はアナスタシア・レム・ネイス・ゼフィーリア。

この国の王をしている者です。

私が至らないばかりにこの様な目に遭わせてしまい、誠に申し訳ありません」

 

女王はそう言って頭を下げた。

権力を持つ者。特に上に行くほど頭を下げる奴は皆無となってくる。

異世界の者
ただの民である俺に頭を下げる女王を見て俺は好感を覚えた。

 

「いえ、気にしないでください。何も貴方が全て悪いわけではないのですから」

「そう言っていただけると幸いです。

しかし、先のデーモンの大量発生の事後処理に忙殺されていたとはいえ、

この様なことがおきてしまったのは私の落ち度です・・・」

 

「いえ!その様な事はありません!むしろ私の所為です」

「それは私とて同じ事、この私の部下の不手際なのですから・・・」

 

そう言って女王に対して謝りだしたのは黄色い高位服を着た大男、

そしてやや離れたところに立っていた中年の男性だった。

 

「しかしラッセル殿!私の部下が・・・」

                                             た ち
「いやいや!それを言うならば私の部下の方が性質が悪い・・・」

「二人ともありがとう。私に気遣ってくれて・・・」

「「ハッ!」」

            あの馬鹿達
「ところで あいつら はどうするんですか?」

 

俺は気になっていたことを聞く。まさかこのまま無罪放免ということはないと思うが、

                  ちょっとしたお仕置き 
軽いようだったら 然るべき処置 を施そうと思っている。

ルリちゃん仕込みだから怪我させずいたぶることには馴れている。(馴れたくはなかったが・・・)

 

「命までは取りません。ですが命まで、です」

「そうですか・・・(余り追求しない方が良いか・・・)」

                     城内の粛正
「良い機会ですから 一斉清掃 をします」

「いいのですか?」

「ええ、このままだと一番に被害を受けるのは我々ではなくこの国の民なのですから・・・

ついでだからあの者達には見せしめになってもらいます」

 

そう言ったときの女王の目は猛禽類を思い出させるような鋭さがあった。

 

                       私の下
「処で話は少し変わりますが・・・ この国 で働いてはくれませんか?」

「本当にいきなり変わりますね・・・・」

「そうですか?清掃をしたら人材確保のために動かなくてはなりませんし・・・どうでしょうか?」

「遠慮しておきます。いつまで此処にいるか分かりませんし。

それに俺より採用されるべき人は大勢いるでしょう?」

「そうはいるとは思いませんが・・・仕方ありませんね・・・本人の意思を尊重しましょう」

「すみません」

「いいのですよ・・・」

(はぁ・・・テンカワ殿がこの国に仕えてくれれば

ルナちゃんが城に来てくれるかもしれないのに・・・・残念だわ・・・)

 

「は?何か?」

「いえ、何でもありません」

「そうですか・・・では俺はアルバイトがありますので」

「そうですか・・・では案内の者を・・・」

「いいですよ。俺と一緒にアルバイトに行く人がいますから」

 

俺は女王の後ろにある柱の方向の向かってそう言った。

 

「やっぱりばれてた?」

 

ルナさんが柱の影から出てくる。女王の後ろに隠れていたのだ。

無防備な背後を任せる。その行動だけでどれだけ女王からの信頼があるのか推し量れる。

 

「ええ、それにルナさん本気で気配を隠そうとしてないからわかりましたよ」

「そう?かなり気配は隠せたと思うけど?」

「まあ分かるとしたら俺以外にはガウリイしか知りませんよ。この世界ではね・・・

処でアルバイトはどうしたんですか?」

「アキト君の事をサキちゃんから聞いてね・・・店長も行ってこいって。

アキト君が怒ったりしたら城が壊されかねないからって・・・

まあ本当の理由はアキト君がいないと女性客がこないからってのが一番近いようだけど・・・」

「俺は客寄せパンダか・・・・でもそろそろ忙しい時間帯じゃないですか?」

「そうだったわ!急いでいかないと店長が困ってるわね・・・

では女王様、私とアキト君はこれで」

「ええ、貴方にも手数をかけたわね。ルナちゃん。それにテンカワ殿も・・・

近い内に改めてお詫びさせていただきます」

「そんなに気にしないでください。じゃあルナさん行きましょうか!店長今頃困ってますよ」

「そうね行きましょうか」

 

そしてルナさんと俺は急いでリアランサーに向かった。

案の定、店は混み合っていたが俺とルナさんが到着して客をさばくことができた・・・・

 

俺はサキちゃんに心配をかけたお詫びとして手作りのデザートをご馳走した。

まあデザートといってもごく簡単なかき氷なのだが・・・・

この世界には冷蔵庫という物が無く、こういった氷菓子はほとんど無いとのことだった。

まあ作った理由といえば冷気系の呪文の実験ついでの氷処理で思いついたのだが・・・

 

一品だけだったのだがルナさんと他の女性客まで注文が来てかなり作るはめになってしまい、

結局、その日のアルバイトはデザート作りで潰れてしまった。

 

次の日、メニューの中にはそのデザートが追加されていた・・・・

ここまでうけるとは思わなかったな・・・・何でもやってみるもんだ・・・・

 

 

 

 

 

あとがき

 

次いってみよ〜

 

 

代理人の感想

 

う〜む、ライルさんがいい味を出してるな。

代理人、再登場を希望(笑)。