悠久を奏でる地にて・・・
第一話『始まり、そして影・・・・』
ひっそりとした山道・・・・抜けるような青い空・・・・・・
どこ遠くから鳥の鳴き声さえする。
周りの木々は天からふりそそぐ光を惜しみなく浴びるために雄々しく葉を広げていた。
もし・・・・この光景が絵画で、題名を予想してみろと問われれば、
穏やかな昼下がり・・・・と一般の人ならそう名を付けるであろう光景が広がっていた。
そんな山道を一人の女性が何かのカゴを持ちながら歩いている。
よく見れば、その女性を先導するかのように犬のような不可思議な動物が先に歩いている。
「ご主人様!もっと右の方を歩いたほうがいいっす!」
「そうなの?ありがとう、テディ」
どうやらこの犬のような不可思議な動物はテディという名前らしい。
驚くことに人の言葉まで喋っている。
「でもご主人様。山はやっぱり危ないっす!山道は傾斜があって歩きにくいし、
もしモンスターが現れたら・・・・・」
「大丈夫よ。この間、自警団に皆さんが山狩りをしたっていったでしょ?」
「でも・・・・万が一ということがあってからじゃ遅いっすよ・・・・・」
「心配してくれてありがとう。でもこの薬草を今日中に取ってこなかったら
依頼の期日に間に合わなくなるの・・・・」
「それは・・・・そうっす。けど・・・・・こんな事アルベルトにやらせればいいっす!
わざわざ目が不自由なご主人様が危険なことやることはないっす!!」
「まあ、ダメよテディ。アルベルトさんをそんな風にいっては」
「すまないっす・・・・」
このテディがいうとおり・・・女性の目には光が宿ってはいなかった。
どうやら完全な盲目というわけではなさそうだが、かなり重度のもののようだ。
一人と一匹が言葉少なく歩いていると、女性が急に立ち止まった。
女性の顔は何かに緊張しているように見える。
「どうしたっすか?ご主人様?」
「テディ!こっちに来て」
「ういっす!」
テディは言われた通り女性の足下まで近づいた。
それを感じた女性はテディを抱きしめるように抱え込む。
テディは何が何やらわからず、抱えられたまま女性を見上げる。
「本当にどうしたっすか?」
「何かいるわ・・・・周りに気をつけて!」
女性は盲目故に気配に敏感なのだろう。
いつもの森と違う何かを女性は感じ取っていた。
遠くに聞こえていた鳥の声でさえいつの間にか止んでいた・・・・・
静かな森林に不気味なほどの静寂が満ちる。
ガサッ・・・・・・・
微かな葉がすれた音・・・・・
それが聞こえたと同時に女性は街に向かって走り出す!!
女性が自ら動いたことで影から見ていたものとの均衡が崩れる!
『ガァァアァァァーーー!!』
「オーガーっす!!」
影から現れたのは数体のオーガーと呼ばれる生き物だった!
オーガー達は女性を追いかけるために走り出す!
オーガーは知力こそ無いものの、代わりに強力な筋力を持った種族。
それに追いかけられているのが人間であり、しかも女性。
なおかつ盲目とくれば捕まるのは時間の問題となる。それは女性自身がよく分かっていた。
女性は道の起伏や石などに足を取られながらも走り続ける!
しかしオーガーはその女性の努力をあざ笑うかのように距離をぐんぐん縮めている!
ようやく森を抜けて街までもう一息・・・・
というところで女性の先を防ぐかのように空から影が次々と降りてきた!
鳥と人間が重なったような姿・・・・それはハーピーと呼ばれる種族だった。
本来ならハーピーとてオーガーに蹂躙される種族。
そのハーピーがオーガーと結託、連携し獲物を追い詰めるなどと前代未聞のことだ。
だが、女性にとってはその様な事より、今この絶望的な状況こそ問題だろう。
「ご主人様!あぶないっす!!」
「キャア!!」
ハーピーの攻撃が女性をかすめる。
その反動で女性は突起につまずき、地面に転げ倒れてしまった!
抱えていたテディとカゴも同時に地に落ちる。
「大丈夫っすか!?ご主人様!!」
「ええ、大丈夫よ」
テディは女性の怪我が軽傷なのを見ると安堵の息をつく。
が、それでこの状況がよくなったわけではない。
「―――――っ!!」
「どうかしたっすか!?」
「転んだ時に・・・・足を捻ったみたい」
「エエッ!?」
この最悪な状況下、さらに続く不幸にテディの動きが固まる。
その瞬間!様子をうかがっていたハーピーが二体、この機を逃さず襲いかかる!!
その爪がテディと女性をとらえたと思われた時、
横の茂みより飛び出した何者かが手に持っていた棒状の武器でハーピーを攻撃した!!
しかし致命傷にはほど遠かったらしく、ハーピー達は宙に舞い、様子を見る。
オーガー達もいきなり現れた人間に警戒したらしく、一定の距離を保ち様子を見ていた。
「大丈夫ですか!?」
現れたのは紺の髪をした年の頃が十七、八の少女だった。
なぎなた
棒と思われた少女の持っているものは薙鉈と呼ばれる武器であった。
少女は油断なく周りを取り囲んだモンスター達を睨み付ける。
だが見る者が見れば、その瞳には怯えと恐怖が微かながらも含まれていることに気づいただろう。
「私が引きつけておきます!その間に早く逃げて下さい!!」
女性は少女の言葉を聞いた後、少し考え込み、そばにいたテディに話しかける。
「・・・・・テディ。あなたは一足早く街に戻って助けを呼んでちょうだい」
「そんな!!ご主人様をおいてはいけないっす!!」
「よく聞いて・・・私は足を挫いて歩くこともままならないわ。
それにあなたが助けを呼んでくれれば私達二人が助かるの。いいわね・・・・」
「・・・・・・わかったっす!!全力で助けを呼んでくるっす!!」
「頼んだわよ・・・・すみませんが・・・・」
「話は聞いていました。私が少しの間引きつけておきます。その隙に・・・・」
「お願いします。テディ、頑張ってね」
「ういっす!!ご主人様達も気をつけるっす!!」
「ではいきます!!ハァッ!!」
少女は手に持っていた薙鉈で街への道をふさいでいたハーピー達に斬りかかる。
ハーピーは高度を上げ、その斬撃をやり過ごそうとする。
しかしそれこそが少女達の狙い目だった!
「今です!!行ってください!」
「すまないっす!」
テディはハーピー達の下をくぐりぬけるように走っていった。
むろんハーピー達も逃がす気はない。鷹が獲物を捕まえるようにテディに攻撃を加えようとする!!
「ルーン・バレット!!」
少女より解き放たれた火球がハーピー達の攻撃を邪魔した!
その隙にテディはかなり遠くまで距離をかせぐことができた!!
「すみません。今の私にはこれが精一杯です」
「大丈夫よ。きっとあの子が助けを呼んできてくれるわ。だから頑張りましょう」
「はい!」
(街まで助けを呼んで・・・・この場に到着するまで早くて大体二十分から三十分・・・・・)
助けが来るまでの時間を計算した少女は目の前が真っ暗になるような錯覚におちいる・・・・
少女にとって、今までの過ごしてきた人生の中でとても長い二十分に思えた・・・・・・
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所変わり・・・・ここは森の入り口から街まで大体真ん中あたりになる高原。
そこに明らかにこの世界の物とは違う、大きな黒い巨人が鎮座していた。
その巨人に相対するかのように話しかける一人の青年・・・・
それはかつて漆黒の戦神と呼ばれ、異世界に跳ばされたテンカワ・アキトだった。
黒き巨人は言わずと知れた戦神の愛機『ブローディア』だった。
「一体どうなっているんだ?俺達は元の世界に跳んだんじゃなかったのか?」
「言っても怒らない?」
「・・・・・・・・・・・・・・ものの程度による」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・わかった。怒らないから言ってくれ」
「あのね・・・・・ボソン・ジャンプって時間移動なのは知っているよね・・・・・」
「それぐらいはな・・・・・・・」
「でも今回のジャンプって世界を越えるジャンプなの・・・・
時間を超えるわけではなくて、事象を越えるわけだからそう簡単にいかないの」
「事象ってのはなんなんだ?」
「事象っていうのはすべての世界の成り立つ要因・・・簡単に言うと世界を構成するものなの・・・・」
『物事の始まりがあり、そして終わる・・・・
それが次の始まりになる。その積み重ねが世界そのものになるんだ』
「たとえ過去に戻り、別の結果を生んだとしても元の世界が変わる訳じゃないの。
新しい可能性に基づいた別の世界・・・・俗にいう平行世界が新たに出来るというわけなの」
「なるほどな・・・・」
(ということは、俺のしたことは過去のやり直しではなく、新たな世界の創造になるわけか)
「話を元に戻すけど・・・・時間移動と事象移動は全然違うの。
曲がり角を曲がるのと、隣の道に飛び移るぐらいにね・・・・」
『移動する為に必要なエネルギーの桁が違うんだ』
「難しいのはわかったし、エネルギー不足もわかった。
だがなんで事前に教えなかったんだ?」
「だって・・・・私達も知らなかったんだもん」
『この世界に来たら教えてくれたんだよ・・・・・もしかして怒ってる?』
「別に怒ってないよ・・・・じゃあ次に跳べるエネルギーが貯まるのはいつぐらいなんだ?」
「長ければ長いほどよく跳べるよ」
「元の世界に帰るほどはどれぐらいだ」
「ざっと計算して五年ぐらいかな」
ディアの言葉を聞いたアキトは頭を抑えた。
アキトの脳裏の中にはルリ達のお仕置きの光景がリフレインしている・・・・・
「一ヶ月ほど溜めて次々に跳んだ方が早いと思うよ」
『大体十回未満ですむぐらいかな』
「仕方がない・・・・・それでいこう。じゃあとりあえず一ヶ月の間、俺はどうするかな・・・・・」
アキトは一ヶ月間の糧を得る方法を考える。
視線は街の方に向いているため、大体の思想は固まっているようだ。
大方コックのアルバイトでも探してお金を稼ぐつもりなのだろう。
事実、アキトはそのつもりだった。少なくとも今この時までは・・・・・・
「え!?なにこれ!!」
「どうした!ディア」
「何かに引っ張られるような感じが!!アキト兄!!」
次の瞬間、ブローディアは空気に溶け込むように姿をかき消した。
まるでそこには元から何もなかったかのように・・・・
アキトは一瞬自分の目を疑ったが、すぐさまコミュニケでディア達を呼び出そうとした!
「ディア!ディア!!返事をしてくれ!ブロス!無事なのか!!」
しかし、コミュニケは無情に何も返事を返してはくれない。
不幸中の幸いか・・・・・生活道具などが入っている荷物は手元に残ってはいるが、
アキトにとって優先順位から言うとディアとブロスの方がはるかに大事なのだ。
「今のは明らかにジャンプしたものじゃない・・・・一体何がどうなってるんだ!」
「それは俺が教えてやろうか?ヒャーハッハッハ!」
「誰だ!!」
アキトは声のする方向を向く!そこには異様な風体の男がいた。
前が全く見えないと思える眼帯。髪はボサボサ・・・・
服は全身黒色・・・・しかし見た目以上に男を異様たらしめているのはその気配だった。
少なくともアキトが今まで感じたことのない氣だった。
(全く気がつかなかった・・・・・いつの間にか現れていた。
それになんだこの氣は・・・・人でも魔でもない・・・エルフといった種族でもない・・・・
今まで感じたことのない気配だ・・・)
「お前は何者だ!」
「人に名前を聞くときには自分から名乗るもんだぜ〜。テンカワ・アキトさんよ」
「何故貴様が俺の名前を!」
「俺の名はシャドウ!お前さんの愛機は預かった。返してほしかったら自力で探すんだな!
この街のどこかにあるからよ!ま、そんな事しなくても一年後にはキッチリ返してやるけどな。
ヒャ〜〜ハッハッハッハッハッハ〜!!!」
「どういうことだ!」
「大変っす〜〜!助けてほしいっす〜!」
アキトは突然聞こえた助けを求める声に一瞬注意を向けた。
そして視線を戻したとき・・・・そこにはシャドウの姿はどこにもなかった・・・・
現れた時と同様・・・・アキトになんの気配も悟られず・・・・・・
「大変っす〜〜!!」
「クッ!」
アキトはシャドウを追いかけたい気にかられたが、なんの手がかりもない上に、
助けを求める声を無視することができず、思考を声のする方に切り替えた。
「あ!そこの黒い人!助けてほしいっす〜〜!!」
アキトは助けを求める声のする方に顔を向けた。
そこにはアキトの予想を超えたものがあった・・・・
「・・・・・・しゃべる犬?」
「ひどいっす!!犬じゃないっす!!」
「す、すまない」
アキトは犬?に非難の声と視線を浴びせられ、素直に謝る。
「そんな事を言ってる場合じゃないっす!!助けてほしいっす!!」
「一体何が大変なんだ?俺で手伝えることがあったら力を貸すけど?」
「ご主人様と女の人がモンスターに襲われてピンチっす!!」
「それはどこなんだ!」
「この道を真っ直ぐいった森の入り口あたりっす!助けてほしいっす!!」
「わかった。この道をまっすぐだな!」
「僕は街に行って助けをよんでくるっす」
「ああ、頼む・・・・・え〜と・・・・」
「僕の名前はテディっす!」
「俺はアキトだ。テディ、頼んだぞ」
「ういっす!アキトさんも気をつけるっす」
「ああ」
アキトはその言葉が終わらないうちに森に向かって走り出した!
あまりの早さにテディは驚きで目を丸くしている。
「―――――ハッ!!見てる場合じゃなかったっす!!」
テディは我に返ると街に向かって再び走り出した!
しかし・・・・なぜかテディの頭の中には自警団に向かうという考えはなく、
近くにある酒場兼宿屋である店のことが真っ先に浮かんでいた・・・・
(第二話・・・・『出会い』に続く)
―――――あとがき―――――
どうも、ケインです。
『赤き力の世界にて・・・』も書かずに何やってるんだ!!という方。すみません。
新年になったから・・・・というわけではありませんが、
最近これの元となったゲームのSSにはまっておりまして・・・・・書きたいと思ったから送りました。
この世界でのアキト君は『赤き力の世界にて・・・・』の後にあたります。
故にあの世界でも魔法を使ったりいたします。
まあ、気まぐれで書いたものなので、更新の方は『赤き・・・・』の方が優先ですので・・・・。
次は『赤き・・・』を更新しますので待っていた下さい。
ちなみにこの世界の元となったゲーム・・・・知っている人は何人いるんでしょうかね?
代理人の感想
・・・・・さっぱりわからん(笑)。
「悠久幻想曲」とか言うアレかな?