悠久を奏でる地にて・・・
第六話『お仕事開始!』
アキトが無実の罪で捕まった次の日・・・・・
先日の宣言どおり、アキトの手伝いをするべく、シーラやクレアを始め、
昨日と変わらぬメンバー全員が手伝いに来てくれた。
そう・・・・全員が・・・・・・・
「え〜と・・・・みんな、おはよう。」
「おはようございます。アキト様」
「おはよう、アキト君」
「おう、おはよう」
と、様々ではあったが、みんな快く返事をしてくれた。
そんな様子に、アキトは笑顔を見せはするものの、どことなく、引きつった感じがある。
「ちょっと質問があるんだけど・・・・良いかな?」
「・・・・??何かおかしな所でもある?」
パティは周囲とみんなを見回し・・・・異常がないことを確認し、視線をアキトに戻した。
「おかしな所ってわけじゃ・・・いや、おかしいかな?」
「何だよ。男がハッキリとものを言わないと、ナンパした女性に逃げられるぜ?」
「ナンパ云々は聞き流すとして・・・・今日は平日だよな」
「そうだけど?どうかしたか?」
「何でマリアちゃんやクリス君、トリーシャちゃんにシェリルちゃんがいるのかな〜って・・・思うんだけど」
「ひっど〜い!マリア達をのけ者にする気!?」
「そうですよ!僕たちもアキトさんのためを思って・・・・」
四人が口々にアキトを非難する。周りの皆も、どことなく、アキトを非難の目で見ている。
視線を一概に訳すると、『昨日のことは嘘だったのか』というものであった。
アキトは視線の意味を悟り、苦笑しながら弁解する。
「そういう訳じゃないって。四人とも、学校は?」
『あ!!』
全員が・・・といっても、アリサは朝食の後かたづけでいないが・・・・・今さら気がついたと言わんばかりに驚く。
「手伝ってくれるのは嬉しいんだけど、本業や学業などを疎かにしてほしくないんだ」
『・・・・・・・』
アキトのしんみりとしたもの言いに、学生四人組は何も言えなくなる。
「とにかく、四人とも、早く学校へ行かないと。仕事を手伝ってもらうのは、学校が終わってからでもいいから」
「「「「は〜い」」」」
そして、トリーシャ達四人は(しぶしぶ)学校へと向かった。
そして後に残されたのは、シーラ、クレア、パティ、メロディ、リサ、エルの女性六人。
そして、学校に行っていないピートに、何の仕事をしているのか分からないアレフの男性二人、計八人だった。
「それじゃあ・・・仕事をやる前に、みんなに話があるんだけど・・・・
さっきも言ったんだけど、手伝ってくれるのは嬉しいけど、自分がやるべき事があったら、
それを優先させてほしいんだ」
「ボウヤはそれで良いのかい?悠長なことを言っている場合じゃないんだろう?」
リサが横から意見を挟む、確かに、言っていることは至極まともな意見だとも言える。
目的にしている金額は、生半可な気持ちでは手の届かないほどなのだから。
アキトは、リサの意見を軽く頭を振って否定した。
「この中には、色々と忙しい人もいるはずだよ?
パティちゃんはさくら亭のお仕事が、エルさんはアルバイトもあるはずだ。
シーラちゃんも、聞いた話だと、ピアノの稽古でいろいろと忙しいんでしょ?」
「ま、確かに・・・・客の少ない武器屋でも、休みすぎるのは問題だね」
「だから・・・・手伝ってくれるのは、暇な時や時間を見つけてでいいから。
でも、決して無理をしたりはしないでね」
一番無理をしそうな人物が何を言う・・・・・というのが、皆の気持ちだったが、あえて何も言わなかった。
少ない期間でありながら、アキトの性格を徐々に理解している皆だった。
「アキト様の仰りたいことはよく分かりましたわ。
では、比較的自由時間が多い、私やアレフ様、リサ様達が中心となる事になりますね」
「そうなるのかな・・・・すまないが頼めるだろうか」
「あたしは構わないよ。傭兵といっても、この街じゃあ、あんまり仕事はなかったからね」
「俺も構わないぜ」
リサとアレフは、二つ返事で了承した。
元々、二人ともそのつもりであったから、返事を返すのは早い。
「あ、あの!」
「ん?どうかしたの?シーラちゃん」
「ピアノのお稽古なんだけど・・・昨日、先生と相談して、練習を夜にまわしてもらったの。
だから、私もお昼の間はかなりお仕事を手伝えると思うの」
「そうだったんだ。ごめんね、ピアノの稽古が忙しいのに、わざわざ手伝ってくれて・・・・
でもあまり無理はしないでね。辛いときは素直に言ってくれていいから」
「う、ううん!私は大丈夫だから!気にしないで」
「うん。でも、ありがとう。シーラちゃん」
「・・・・・・・・・」
アキトが、お礼と共に見せた優しい微笑の所為で、シーラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
アキトは、自分が何か悪いことを言ってしまったのかと、狼狽えていたが。
「とにかく。まずはどんな仕事があるのか見せてくれないか?」
「ああ、とりあえず・・・・・今はこの程度しかないんだ」
アキトが取り出した仕事の依頼書の束。
束というのは大げさかもしれないが、それでも一日や二日で終わらせることはできないほどある。
「結構あるじゃないか」
「それでも、結構減ったッス。この前まで、これの倍以上はあったのに、キャンセルする人が昨日来たッス」
アキトが犯罪者かもしれないと言う噂は、かなりの早さで街中に伝わった。
やはり、胡散臭い人物には仕事を任せたくないのか、キャンセルが多かったのだ。
それでもなお、この依頼量は、ひとえにアリサとアキトの人望とも言える。
主に、女性の依頼者が多いのは・・・・お約束というやつだろう。
「仕方がないよ。それよりも、今ある仕事を片づけながら信用を得ないとね」
「ま、それもそうだね。どれどれ・・・・一体どんな仕事があるんだい?」
エルが依頼書を一つ一つ確認しながら、机の上に並べてゆく。
皆も、その並べられた依頼書を見ながら、自分にできる仕事を探していた。
「ん?」
エルが依頼書を並べていた手を止める。
皆が不審がってそちらの方を見やると、そこには、一枚の依頼書を睨んでいるエルがいた。
「エルさん??」
アキトは、何か変な依頼書でも混じってあったのか?と心配した。
・・・・・が、そのすぐ後、依頼書を机に叩きつけながら、エルが発した怒声によって全てを理解した。
「こんな依頼をこっちに寄越すなんて何考えてるんだ!!」
「ん〜・・・なになに・・・マーシャル武器店。倉庫整理の手伝い依頼。
何かおかしな所でも?人手がいるから頼んだんじゃあ・・・」
「そんなんじゃないよ!!」
アキトの問いに、エルはキッパリと否定した。気持ちのいいぐらいにキッパリと。
「あの馬鹿!!私が整理したら鉄クズの粗大ゴミを捨てられるからって、こっちに依頼をまわしやがって!
アキト!あたしがこの依頼を受けるよ!」
「あ、ああ。お願いするよ・・・・」
アキトは頭の片隅で、マーシャルに悪かったかな?と思いつつも、頷いて了承した。
エルはアキトの返事を聞くや否や、肩を怒らせながら店を出ていった。
「マーシャル・・・・哀れな奴・・・・」
「自業自得だろ?この前エルが言ってたけど、また変な武器商人から<伝説の剣>を買ったって言ってたから」
「リサさんにアレフ、一体何のことなんだ?」
「アキトは知らなかったっけか?マーシャルはな、『伝説の武具』とか言うやつのコレクターでな。
よくそういったやつを買ってるんだよ。もちろん、大半がまっ赤なニセモンばかりだけどな」
「は〜・・・・そういった人は何処にでもいるものなんだな・・・・」
アキトの脳裏に、随分前に知り合った、刃物マニアの危険な女性を思いだしていた。
案外、出会えば結構気があったりするのではないのだろうか・・・・
ちなみに・・・後日、粗大ゴミの日に、ゴミ集積所で涙を流すマーシャルがいたとかいなかったとか・・・
「ま、あっちは放っておいて・・・・私はこれでもやろうかな?」
「私はこれを・・・・メロディ様と御一緒にやらせてもらいますわ」
「私はこれを。音楽関係なら、私にもできそうだから・・・」
「んじゃあ、俺とピートはこの依頼でも受けるか」
各自、自分ができそうなものを選んで依頼書を手に取った。
ちゃんと、自分にできることはどう言ったものかを自覚している。
「ちょっといいかい?」
リサが、並べていた依頼書を眺めていたアキトに声をかける。
この声音は、幾分か怒気が混じっているようにも見受けられる。
「何?リサさん」
「この中に、私向けの仕事が一件も無いというのはどういうことだい?」
「それは・・・・」
リサの視線に負けるかのように、目を泳がせるアキト。
はっきりいって、アキトの嘘を見破るのは十歳児の女の子でも容易い。
「どうせボウヤのことだ。みんなには危険な仕事をさせたくない。とか言うんだろうけど・・・・
傭兵稼業のあたしにとっては、侮辱の他ならないんだよ」
「すまない。そうだな・・・リサさんには手伝ってもらった方がいいか」
アキトは机の引き出しから、三、四枚ほどの依頼書を取り出す。
先に、戦闘関連などの依頼書を分けていたらしい。後で、一人で全部片づけようとでも思っていたのだろう。
「こういった戦闘関連の仕事は依頼料が多いんだ。
一つでも多く片づけておいて、損があるもんじゃないんだよ」
「それでしたら私も御一緒に・・・」
「今回はいいさ。ざっと見たところ、私とボウヤで充分みたいだからね。人手が要りそうなときにでも頼むよ」
リサはそういったものの、内心では全く別のことを考えていた。
それはクレアの戦闘力のことだ。
リサから見たところ、護身術という面で見るなら、クレアはかなりの腕前・・・・・だが、
戦闘という面で見るなら、いまいちに感じたのだ。
事実、先のオーガーの群に襲われた折、クレアはオーガーを一匹も倒していない。倒せなかったと言うべきか・・・・
アリサを庇っていたことを考慮しても、リサから見れば、及第点すれすれなのだ。
もし万が一のことがあれば・・・アキトは自分を責め苛むことになる。
そういったことを、リサは危惧しているのだ。
(ま、そういったことは、これから鍛えればいいだけか・・・・)
「・・・・・リサ様。ハッキリと仰って下さっても構いませんわ。
今の私の強さでは、かろうじて足手まといにならないのが関の山だと・・・・・」
クレアが悲しそうな表情でリサに言う。
リサも、自分が言わずにおこうと思っていたことがばれたことに、少々驚いていた。
「何なら、闘い方を教えようか?良ければ・・・・だけど」
リサとクレアのやりとりを見ていたアキトが、良かれと思い、口を出す。
クレアは、嬉しそうな顔で、アキトを見る。
「私の武器は長刀なのですけど・・・・よろしいのですか?」
「武器の扱い方は一通りしか知らないけどね。戦闘に関しては、それなりにアドバイスできると思うんだ」
「それでしたら、是非、お願いいたします」
「俺も頼むぜ、いざッて時に困るといけないからな」
「あたしもいいかな?何か面白そうだし」
アレフやパティも、ついでといわんばかりにアキトに頼み込む。
何かと物騒なので、強くなっておいた方がいいと判断したのだろう。
「わかった。今度の休日にでもね。とりあえず、今日はそれぞれの仕事を片づけようか」
「それもそうね」
「みんなよろしく頼む。じゃぁ、解散!」
アキトの一声によって、それぞれが依頼主の所へと散っていった。
アキトは、多少の不安は残るものの、自分の仕事に気持ちを切り替えた。
「じゃあ、リサさん。俺達も行きましょうか」
「そうだね。早めに行って、数をこなすのも良いだろうからね。
(それに・・・こいつの実力というやつもまだ分かんないからね・・・・)」
そして、アキトとリサは、アリサとテディに一声かけ、モンスター退治の仕事にでた。
「あ〜!お兄ちゃんとリサさんが一緒に歩いてる〜!」
アキトとリサが道を歩いていると、突如として元気がいっぱいにつまった声がかけられる。
二人がそちらの方向に目をむけると、地面から数センチほど浮いている少女が、こちらに向かって来ていた。
この少女は、ローラ・ニューフィールド。
見た目の年は十三歳。色恋沙汰に敏感で、色々と首をつっこむ性格。
本人には、恋愛の経験は皆無。俗に言う『恋に恋する』という表現がピッタリなのかもしれない。
彼女は少々変わっており・・・・・一言で言うならば『幽霊少女』(本人は否定しているが・・・・)というやつ。
実際は、100年前の人間で、当時、治療不可能な難病にかかってしまった少女。
ローラの両親は、未来ならば、病気の治療法も確立されるのではないか?と考え、
魔法によってローラを永き眠りにつかせた。
それが最近になり、ローラの精神(魂)のみが目を覚ましてしまった。
仕方無しに、体を起こそうにも、本人が場所をさっぱり覚えていないらしく、どうしようもない状態・・・・・
結局、ローラはセントウィンザー教会で、孤児達と一緒に暮らすこととなった。
アキトとは、教会からの依頼で訪れた際に知り合う。
それから、何かと孤児達と遊んでいるアキトは、結構孤児達に人気があるらしい。(特に女の子)
「やあ、ローラちゃん。おはよう」
「おはよう、お兄ちゃん!それにリサさんも」
「あぁ、おはよう」
「ねぇねぇ!二人ともどうしたの?もしかしてこれからデート?」
「馬鹿言ってんじゃないよ。昨日のこと知らないのかい?」
「昨日・・・・って、あれってデマじゃなかったの?」
ローラ達・・・というか、教会の人間にとって、アキトが犯罪を犯した。ということはとうてい信じられることではなく、
全員一致で、単なるデマだと決めつけていたのだ。
「半分は正解。ボウヤは誰かにはめられただけだよ」
「やっぱりね。お兄ちゃんがそんな事するはず無いもん」
「信じてくれてありがとう。ローラちゃん」
「ヘヘヘ・・・・教会のみんなにもそう言ってあげて。みんな喜ぶはずだから」
「そうなんだ。じゃぁ、今度の休みの日にでも、おやつを作って行こうかな?」
アキトとローラが談笑をしていると、横からリサが口をはさんでくる。
「ちょっとボウヤ。今はそんな事している暇はないよ。さっさと依頼を片づけないと日が暮れるよ」
「ごめん、リサさん。ローラちゃん、それじゃ・・・」
「ちょっと待ってっ!私も何か手伝えない?」
「ローラ!これは遊びじゃないんだよ!」
「わかってる!でも私も何か役に立ちたいし・・・・」
「私達はこれから、モンスター退治の依頼に行くんだ。結構危険なんだよ。
それに、そもそも物に触ることすらできないんじゃぁ、手伝う以前の話だ・・・」
「なら、応援だけ!邪魔なんかしないから!それに、私の体って精神体だから、攻撃もあたらないし」
ローラの申し出に、アキトは困ったような顔をする。普通の女の子に戦場には来てほしくないし、
精神体といっても、アキトにとって、なんら普通の体と変わったものではない。
アキトがその気になれば、『氣』を介して、触れないはずのローラにも、簡単に触れるのだから・・・・
アキトは助けを求めようと、リサの方に目をむけるが、リサは諦めたように、肩をすくめるだけだった。
「はぁ〜・・・仕方がないか。でもローラちゃん。危険だと思ったら俺達に構わず逃げるんだよ。いいね」
「は〜い!気をつけま〜す!」
元気いっぱいの返事・・・というか、軽すぎる返事に、アキトはかなり不安を覚える。
(万が一のことを考えて、被害が広がらないようにさっさと倒すのが一番だな・・・)
「・・・・とにかく、行こうか。ここから依頼された場所まで遠いの?」
「いや、祈りと灯火の門を越えてすぐの街道脇だ。ものの数十分で行ける所さ」
「なら早めに行こうか。お昼までには終わらせたいし」
「そうだね・・・・(そう簡単に終わるといいけど・・・・・)」
それから数十分して、アキト、リサ、ローラの三人は依頼された場所にたどり着いた。
街道脇と言っても、かなり離れたところであり、何らかの意志がない限りは旅人はここへ寄ることはないだろう。
傍にある森は、薄暗く、どことなく不気味な雰囲気を感じさせる。
アキト達がここを選んだ理由は、此処がもっとも襲撃されやすいポイントだったからだ。
「で?依頼には何を退治するって書いてあったの?」
「ゴブリン十数匹と、オーガーが二、三匹。って書いてある。
ところでボウヤ。仕事前に言っておきたいことがあるんだけどね」
リサは真剣な顔をして、アキトを見る。
それは、いっさいの甘えを許さない、戦士としての・・・戦場を渡り歩く傭兵の顔だった。
「この前・・・・あんたがアリサさんやクレアを助けたときのように、
モンスターを殺さずにすまそう。なんて考えるんじゃないよ。
もし、そのつもりだったら・・・・今すぐ帰ってくれ。そして二度とこんな仕事に関わることは許さないよ」
「リサさん!そんな言い方ってないんじゃない!!」
「いいんだよ、ローラちゃん」
アキトは、微笑みながらローラの頭をなでる。
ローラも、そんなアキトに少々むくれながらも、頬を少し赤く染めた。
アキトの、あまりにも自然すぎる動作のため、
ローラとリサは、アキトが精神体に触っていることに気がついていなかったが・・・・・
「リサさん、それについては、大丈夫です。理由もちゃんと聞きましたから」
「なら良いんだけどね・・・」
アキトの言った理由・・・・それは、モンスターの繁殖力と、学習能力のことだった。
とにかく、モンスターは繁殖力が強い。種族に差はあれ、総じて人間よりも高い。
滅ぼしていたと思って、数年ほど何もしなければ、以前よりも数が多くなっているという例はいくらでもある。
そして学習能力・・・・それほど上等なものではないが、厄介なものでもあった。
無防備な旅人を襲える、労せず家畜が狙える。などということを一度覚えれば、
多少の危険はあっても、再三やってくる可能性があるのだ。
故に、街道の警備などは、それぞれの街の自警団が、こまめに目を光らせている。
今回、ジョートショップが受けた依頼も、
自警団から人手が足りないという理由で回ってきたものの一つだったりする。
(司狼やリカルドの根回しが、多少はあったのだが・・・・)
「それよりも、あんた一体何者なんだい?そんな事も知らなかったなんて・・・・」
「旅人ですよ。色々と事情は複雑ですけど。それと、リサさん。気配を抑えませんか?
闘気や殺気を出していたら、モンスターでなくとも現れにくいですよ」
「あ、あぁ。すまないね・・・(出しているつもりはなかったんだが・・・・それに気がついたっていうのかい?)」
リサが慌てて闘気といった警戒されそうな気配を弱めた。
アキトはというと、普通の人間並・・・よりもやや弱いぐらいの気配しか発していない。
ただし、それは表面上でしかなく、体の中では、恐ろしいまでに氣が練り上げられていた。
「やっと俺達に気がついたようだ。森の中からこっちに近づいて来ている」
「なんだって?」
アキトの言葉に、森に向かって注意を向けるリサ。
しかし、アキトの言ったような気配は感じられなかった。
「もう少し、森から離れましょう。森の中に逃げられたら面倒ですし・・・・」
「わかった」
アキト達三人は、森から三十メートルほど離れた。
この距離であれば、リサの実力でも森に入られるまでに仕留めることができる・・・と判断したからだ。
ガサッ
森の一番手前の茂み、それが風と関係なく揺れる。
リサはそちらに目をむけると、ゴブリンの影が見えた。
(ホントに来ている!いったいボウヤはどういう感覚をしているんだい!?)
ゴブリンはといえば、リサに気づかれたことを悟り、一斉に飛び出し、アキト達を取り囲む!
奥にいたオーガーも、囲まれた獲物にトドメを刺すべく、その姿を現せる。
アキトは、周囲に氣を張り巡らせ、他にもいないことを確かめる。
リサはそんなアキトの様子を見て、尋ねてみた。
「囲まれちまったね・・・一体どうするつもりなんだい?何か策があるんだろ?」
「この程度の連中に、凝った策も要らないでしょう?俺が魔法を使って数を減らします。
その後、敵はバラバラになるでしょうから、各個撃破しましょう」
「あんた、そんなに大きな魔法が使えるのかい?初級の魔術程度で大口叩いてんなら蹴り飛ばすよ」
「たぶん、それよりも強力だと思います。全ての力の源よ・・・」
アキトは呪文の詠唱に入る。
風に乗って聞こえてくる詠唱に、リサとローラの二人は首を傾げる。
二人にとって、アキトの唱えている詠唱は、聞いたこともないものだった。
リサがアキトに声をかけようと口を開けるのと、アキトの呪文が完成したのが同時だった!
「火炎球っ!!」
アキトは、手の内より生まれた光球を、ゴブリン達が一番密集していたところに投げる!
グォドォォォン!!!
激しい爆炎と共に、轟音が辺りに響き渡る!
見たことのない魔法、その上、かなりの威力・・・・
リサとローラは驚きのあまり、辺りに敵がいることすら忘れてしまっていた。
その間にも、アキトは二度目の詠唱をすませていた!
「もう一度!火炎球っ!!」
今度は後方のゴブリン達に向かって光球を投げる!
だが、先の魔法に怯え、逃げだそうとしていたため、爆発に巻き込まれた数は二、三匹だった。
しかし、やはり二度に渡る火炎球はかなり効いており、
残るモンスターはオーガーが二匹、ゴブリンに至っては三匹という有り様だった!
「リサさん!後ろのゴブリン二匹をお願いします!前は俺が!!」
「あ、ああ!無理すんじゃないよ!」
リサは慌てて後ろに注意を向ける。
そこには、やぶれかぶれで襲いかかろうとしていたのか、手に持った棍棒を振りかぶったゴブリンがいた。
「雑魚が!いい気になるんじゃないよ!!」
リサは、襲いかかってくる二匹のうち、動きの遅い右側のゴブリンに向かって疾走する!
ゴブリンは、自分に向かってくる人間に棍棒を振り下ろすが、紙一重で避けられる!
リサとゴブリンが交差したあと、ゴブリンの首から、まるで噴水のように血が噴きだす!
あの交差した瞬間、リサは逆手に構えたナイフで、ゴブリンの首を半ばまで斬り裂いていたのだ。
恐ろしい魔術を使う男が相手ではないからといって、油断していたゴブリンの片割れは、
あっさりと仲間がやられたのを見て、一目散に逃げようとした。
「悪いが・・・逃がすわけにはいかないんだ」
リサは、左手に持っていたナイフを逃走しようとしたゴブリンに投げる!
そのナイフは、持ち手の狙い通り、正確に眉間を貫いた。
リサは、念のために二匹のゴブリンが絶命したことを確認した。
「よし!後はアキトの方を手伝って・・・・・!!」
振り返ったリサがみた光景・・・・それは、オーガー二匹とゴブリンが、大地にうつぶせに倒れている姿と、
何事もなく、平然とした足取りでこちらに歩いていたアキトだった。
オーガー達は、ぴくりとも動かず、その命が事切れているかどうかはわからない。
・・・・その胸に、大きな穴が空いているのを見ていない場合は・・・・とつくが・・・・
「お兄ちゃん、格好いい〜!!」
ローラが黄色い歓声を上げていたが、
アキトとの実力差を見せつけられたリサの耳には、入ってくることはなかった。
(冗談だろ・・・私が最速でゴブリン二匹を倒している間に、
ボウヤはオーガー二匹にゴブリンを苦もなく倒したってのかい?)
リサの脳裏に、先程アキトが使った知らない魔法の光景が蘇る。
もし、アキトが敵だったら・・・・そこまで考え、リサの背中に冷や汗が流れる。
「お兄ちゃんって、そんなに強かったんだ!!私、お兄ちゃんが戦っているところを見て、感動しちゃった!!」
「ははは・・・ありがとう、というべきなのかな?」
「いつもの温かい感じのお兄ちゃんもいいけど、戦っている真剣な表情のお兄ちゃんもとってもステキ!!」
「そうなんだ?ありがとう」
「うん!」
アキトは、優しそうな笑顔でローラの頭を撫でる。
ローラも、今度は嫌な顔をせず、嬉しそうに目を細める。
そんな光景を、リサは安堵したような表情でじっと見ていた。
(少なくとも・・・あんな笑顔ができる間は敵に回ることはないか・・・・
しかしなんだね。ボウヤはアレフ以上のたらしだね・・・
今までで見ただけで、シーラにクレア、それにローラ。パティもなんだか様子が変だったし・・・)
「なんですか?俺の顔なんか見て・・・・何かついてますか?」
「いや、なんでもないよ。気にしないでおくれ。
それよりも・・・もしかして、あたしなんかが手を出さなくても、ボウヤ一人で片がついたんじゃなかったのかい?」
「そうですね・・・この程度の相手だったら、一人で充分対処できましたね。
最初の魔法も必要なかったぐらいですけど、早めに終わらせたかったので・・・・」
「早めに、ね・・・・魔法で思い出したけど、あれってなんなんだい?」
「あ!私も聞きたい!あんな魔法、見たことも聞いたこともないし」
「そうでだろうね。この世界の魔法じゃないから、知らなくても当然だよ」
「・・・・???どういうこと?この世界の魔法じゃないって?」
「異世界の知識でも手に入れたっていうのかい?」
「その話はまた後日にでも話します」
「え〜!!今聞きたい!!」
「そうは言ってもね、早く依頼を片づけないと、お昼に間に合わないから。
アリサさんやテディを待たせるわけにはいかないからね」
「それなら仕方がないよね・・・・でも、絶対に聞かせてよね!できれば一番先に!!」
「みんなが揃ったときにでも話すよ。二度も話すのは手間がいるしね」
「ん〜〜・・・今回はそれで我慢する」
「ありがとう。じゃぁ、次の場所にでも・・・次はどこなんですか?」
「一番近いところで、徒歩で一時間といったところだね・・・」
「早めに行って、片づけないとお昼には間に合いませんね・・・急ぎましょうか」
「ああ、わかった」
「りょうか〜い!」
かくして・・・アキト、ローラ、リサの奇妙な三人組は、次の依頼へと向かい、
一分足らずで片を付け、昼までにジョートショップに戻ることができた。
そして、その日一日で、モンスター関係の依頼を全てこなしてしまう。
依頼元の自警団は、些か怪しんだものの、証言もあり、報酬を払った。
後日・・・ローラはアキトの勇姿を仲間内に話し、女性数人を悔しがらせたという。
次の日、その数人はアキトと共にモンスター退治に同行しようとしたが、
昨日の今日で依頼がくるはずもなく、二度に渡って女性達は悔しがったらしい・・・・
ちなみに、アキトは最後まで、女性達がついてこようとする理由を理解することはなかった。
これもまた、お約束というやつなのだろう。
仕事内容とは違い、なんとも平和な日常の一コマだった・・・・・・
(第七話に続く・・・・)
―――――あとがき―――――
どうも、最近、焼き魚の気分がなんとなくわかったケインです。
一日中外にいる仕事なので、太陽光がきついんですよ・・・・おかげで肌が真っ黒です・・・・
余分な話はさておいて・・・・今回の話はどうでしょうか?皆とのお仕事初日・・・と言うやつです。
本編でも、学生の皆さんは平日から手伝ってくれるんですが・・・
本当、あの学校ってどうなってるのだか・・・謎です。
さて・・・次回から、『悠久幻想曲』の本編をアレンジしたものになっていきます。
(無論、ちょこちょこっとオリジナルな話も付け足したりしますが・・・・)
とりあえず、最初は『煩悩モンスター』です。
ゲーム自体を知っている人から、是非やってくれとの要望もありましたしね。
知らない人でも、面白く読めるように頑張るつもりです。
最後に・・・・K・Oさん、神威さん、鳴臣悠久さん、スレイヤーさん、ホワイトさん、
watanukiさん、Daisukeさん、感想、ありがとうございます!!
よければ次回も読んでやってください。では!!
代理人の感想
は〜、まったりまったり。
・・・だって、事件と言うほどの事件が起きてないじゃないですか(爆)。
あえて言うなら折角「幽体離脱少女」なんて美味しいキャラクターを出したのに
ただの賑やかしに終わってしまった事でしょうか。
もうちょっとアキトたちの足を引っ張るとか逆に意外な活躍を見せるとか、
あるいは生の戦闘を見て戻してしまう(笑)とかあったかなと。