悠久を奏でる地にて・・・

 

 

 

 

 

 

第7話『お料理の価値はどれくらい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――四月十五日―――――

 

 

この日の仕事は、アキトの一言によって決まった。

 

 

「リサさん、『モンスターの捕獲』という依頼が来ているんですけど・・・・どうします?」

「ん?退治じゃなくて捕獲かい?」

「ええ、それも早急に」

「ふ〜ん・・・どれどれ・・・・」

 

 

リサがアキトから受け取った依頼書に目を通す。

横から、今日の手伝いに来てくれたシーラとクレア、そしてアレフがのぞき込む。

エルもいるのだが、顔をはさむ隙間がなかったので、端で見ていた。

 

そして、依頼書を読んだ皆は、一様に呆れ果てた顔つきになった。

 

 

「なんなんだい?このふざけた依頼・・・というか、モンスターは・・・・」

「ちょっと見せてくれないか?」

 

 

リサは黙って・・・というか、呆れて何も言えないといった表情で、持っていた依頼書をエルに渡す。

 

 

「何々・・・自警団からだね・・・魔物の捕獲依頼とは珍しいこともあるもんだ」

「エル、もっと下を見てみなって」

 

「・・・・ん?この魔物は、人に危害を加えるという可能性はきわめて低い。

今まで出てきた怪我人は、みな軽傷で、魔物の姿に驚き、逃げようとした際の転倒によるものが主である。

おこした犯罪は・・・・食料品を奪ったり、女性の着替えを覗いたり、下着を奪ったりすること・・・・

注意事項、逃げ足は異様に早いので気をつけられたし・・・・・なんだこりゃ?」

 

 

最後の一言は、ここにいるみなの気持ちを代弁しているとも言えるだろう。

魔物らしくない・・・もっとよくいえば、人間くさい魔物ともいえる。

 

魔物が危険という常識を、根本から覆しそうな魔物だった。

 

 

「なんちゅ〜魔物だ」

「まともに相手するのが嫌になるね」

「意外と、自警団も相手をするのが嫌で、私達にまわしたのかもね」

 

 

アレフ、リサ、エルが呆れた口調で言う。

それは、仕方がないことだろう・・・誰から見ても、やる気など起きにくい・・・・・

真面目に取り組めば取り組むほど、虚しくなってくるような気がするのも確かだろう・・・・

 

 

「自警団の第一部隊の誰も追いつけなかったって・・・・・昨日、兄様が言っていましたけど」

「あの第一部隊・・・というか、リカルドですら追いつけなかったって言うのかい?」

 

「いえ、その時兄様が、『隊長にあわす顔がない』って嘆いていましたから、

たぶんリカルド様はいなかったのでは・・・」

 

 

事実、リカルドは隣の街の自警団に所用があり、三日ほど出張していたのだった。

その間に、良いところを見せようと頑張ったアルベルトだったのだが・・・結果は惨敗という有り様だった。

 

 

「どっちにしても、あのアルベルト猪突猛進が追いつけなかったんだ。結構足が速いんだろうね。

それに、出没位置が無造作ときたもんだ。一体どうすればいいのやら・・・・何か策はあるのかい?アキト」

 

 

リサがアキトに話をふる。アキトも、ずっとその事を考えていたのか、答えは早くでた。

 

 

「考えつく策は一つ。その魔物の本能を利用すること。それでいこうと思っている」

「本能・・・というと、食い気か色気で魔物を釣るって事か・・・・で、どっちにする?色気だと金はかからないけど」

「そうですわね。何と言っても、この場には女性が四人もいらっしゃるのですし」

「え?私も?」

 

 

自分が囮役になる可能性が出てきたためか、少しばかり狼狽えるシーラ。

しかし、頭の中では、一体どんな服を着ようかと悩んでいるから、ただ者ではない。

 

単に、天然が混じっているだけなのかも知れないが・・・

そんな事とはつゆ知らず、狼狽えるシーラに、アキトは微笑みながら話しかける。

 

 

「大丈夫だよ、シーラちゃん。女性を囮なんかにしないって」

「それじゃあどうするんだよ・・・・」

 

 

少し不機嫌な感じのアレフがアキトに言う。

彼が不機嫌なのは、色気のある姿をする、女性陣の姿が見られなかったからなのだが・・・・・

 

 

「ここに見習いのコックがいるだろ?今回は料理で釣るさ。少し待っててくれるかな?」

「ボウヤ、ちょっと待ちな。この仕事はみなで片づける気なのかい?」

 

「ええ、依頼書の期日にはまだ余裕がありますけど、そう言った問題じゃないでしょう?

今日一日で片づけたいので、みんなでかかろうと思うんです」

 

 

そう言って、アキトは台所に向かうため、店の奥に姿を消した。

それからしばらくして、美味しそうな匂いを纏わせた料理を、アキトが店の方に運んできた。

 

 

「とりあえず、冷たくなっても食べられるやつを選んで作ってきたけど・・・どこに設置しようか?」

 

「そうだね・・・出没地点が一番多い・・・街の北側。それも森の近くが良いんじゃないかい?

問題の魔物も、そこの森を根城にしている可能性も高いし」

 

「そうか・・・それじゃぁ、とりあえずその辺りに行ってみようか」

「少しお待ちください」

 

 

みなが腰を上げるより先に、クレアが声をかける。

 

 

「どうかした?クレアちゃん」

「万が一のことを考えて、もう一つ、囮を用意しておいた方が宜しいのではないかと思うのですが」

「もう一つというと・・・色仕掛け?」

「はい。いけませんか?」

「俺としては・・・・できるだけ、女性には危険な役目を負わせたくはないんだけど・・・」

「私たちなら大丈夫です。それに、アキト様が近くにいらっしゃるのであれば、危険など万が一にもないでしょうし」

「クレアちゃん。それは過大評価だよ。俺はそんなに凄くないよ」

「アキト君・・・・・ダメかな?」

「シーラちゃんまで・・・」

 

 

シーラとクレアは、揃って上目使いでアキトを見る。

やや涙目であるところがポイントだろう・・・・・・・・かなり威力が増している。

 

 

「何と言いましても、元手は無料タダですし、やって損はないと思いますわ」

 

「(・・・・・・魔物の行動パターンからすれば、危害を加える可能性は少ない・・・・か)

・・・・・・・・・・・わかった。ただし、料理がダメだった場合だからね。危険なことも禁止!」

 

「ありがとう!アキト君」

「ありがとうございます!アキト様」

 

 

この場合、アキトに礼を言うのは、間違っているような気がしないでもないが、

喜んでいる二人を見れば、そう言う気も失せるというものだった。

 

ちなみに、傍にいたアレフも喜んでいたが・・・・

 

 

「仕方がないね・・・とりあえず、由羅の所にでも行くかい?」

「そいつは良いな、由羅なら化粧やら何やら持っているだろうしな」

 

 

エルとリサは、自ら破滅への選択肢を選んだことに気がついていない。

もうすぐ、激しい後悔に襲われるのだが・・・・それは余談である。

 

 

「由羅さんの所ですか・・・あそこなら北の森にも近いですし。早速行きましょうか」

「「はい!!」」

 

 

クレアとシーラがはりきって返事をする。

後の面々は、そんな様子に苦笑しながら、椅子から腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?私の所に来たってわけなの?」

「そうなんだ、悪いけど、手伝ってくれないかな?」

 

「いいわよ〜。アキト君には色々とお世話になってるしね〜。

それに、そんな面白そうなことだったら、お姉さん、進んで引き受けちゃうわ」

 

 

由羅が、気軽に返事をする。

 

『橘 由羅』・・・・ライシアンという種族の女性。

種族の特徴として、キツネのような尻尾と耳を有しており、総じて美形が多い。由羅も例外に外れず美女である。

大の酒好きと美少年好き。最近では、クリスがお気に入りらしい。

そして、メロディの保護者兼居候先の家主。

姿が似ているという理由でメロディが懐き、そのまま由良の家に居着いたのが始まり。

今では、立派な姉妹として通用するほど仲がいい。

 

ちなみに・・・アキトの世話になったというのは、さくら亭で酔いつぶれたのを何度か運んでもらったのと、

美味しい酒のつまみを作ってもらったこと。

主に恩を感じているのは、後者の方・・・・知り合いに言わせれば、まったく由羅らしい、とのこと・・・・

 

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

 

そう言って、由羅はアキトアレフの手を取る。

それはもうガッチリと・・・・すでに手を取る、と言うよりも腕を組んではなさない・・・という方が正解だろう。

 

由羅はそのまま、二人を引きずりながら奥へと歩いて行こうとする。

 

 

「「は?」」

「は?じゃないでしょう?二人とも綺麗になりたいんでしょ?お姉さんに任せておいて」

「ちょ、ちょっと待ってくださいって!!人の話を聞いてました!?俺じゃなくて、シーラちゃん達です!」

 

 

それぞれ思い思いのものを掴んで抵抗する二人・・・・

アキトなど、かなり本気で抵抗しているらしく、掴んでいる木製の柱が指の形にへこんでいる。

 

 

「あら〜?そうだったの?」

「そうです!」

「お姉さん、ちょっとざんね〜ん。面白そうなのに・・・・・」

 

 

由羅は、本当に残念といった感じで、二人、特にアキトを見つめる。

対するアキトは、過去の精神的外傷トラウマが蘇りそうになり、鳥肌を立たせていた。

アレフなどは、冗談じゃない・・・・と呟いている。

 

 

「じゃぁ〜、改めていきましょうか?」

 

 

由羅は、今度はエルとリサの腕を掴む。

二人は予想外だったのか、鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような、唖然とした顔になった。

 

 

「な!」

「ちょっと待て!なんであたしまで!」

「え〜、だってアキト君、女性達って言ったでしょ?」

「それはそうだが、それはシーラとクレアのことだ。私達には関係ない!」

「ということは〜・・・もしかして、二人は男の子だったとか?」

 

「「そんなわけあるかーー」」

 

「なら問題はないわね〜。さ〜奥にいきましょう」

 

 

由羅は二人の腕を掴んだまま、家の奥へと姿を消す。

エルとリサも喚きながら必死に抵抗をしたが、なぜか非力な由羅に勝てず、引きずられていった。

シーラとクレアも、続いて家の奥へと入っていった。

 

後に残されたのは、後頭部に大きな汗を張り付かせた、アキトとアレフの二人のみだった。

 

 

「な、なぁアキト・・・なんだか凄いことになってないか?」

「う、う〜ん・・・・・・」

 

 

自分の一言により引き起こされた現実に、何もコメントできないアキト。

頭の片隅で、笑ったら殺されるな・・・・などと思いながら唸っているだけであった。

 

 

「ところでアキト、今朝から気になっていたんだが・・・なんでこの依頼を急いでるんだ?

この程度の魔物なら、アキトだったら一日もかからないような気もするんだが・・・」

 

「ああ、実は、この魔物に被害にあった女性達から依頼がきてね。早めに捕まえてくれって頼まれて」

「じゃぁ、何か?その魔物を捕まえたら、女性達と自警団からの礼金がもらえるのか?」

「まさか、女性達の方は断ったよ。だからといって、日を延ばして良いというわけじゃないだろう?」

 

 

ちなみに・・・断った際にも、アキトは似たようなことを言っていたりする。

その女性達がさらにアキトに好意を抱いたということは・・・・・お約束だろう。

 

 

「それは言えてるな。そうとわかれば!一丁俺も気張るとするか!!」

 

 

アレフは体をほぐすために、腕をぐるぐる回したりする。

アキトはその様子を横目で見ながら、そっと嘆息した。

 

 

(気張る・・・ね。意気込みは良いんだけど、あの女性達の実力を考えたらね・・・

一体どちらが守られることになるのやら・・・・・・・頑張れよ、アレフ)

 

 

 

それからしばらくすると、奥の方からシーラとクレアがこちらに近づいてきていることを、アキトは感じた。

そして、奥へと続く障子をそっと開け、クレアとシーラがその姿を見せる。

 

 

「あ、あの・・・・似合ってるかな?アキト君」

「どうでございましょう?似合っていますか?アキト様」

 

 

二人は、声をそろえてアキトに問うた。

 

シーラとクレアの姿は、いつもの落ち着きを感じさせるような服ではなく、結構きわどい衣装に着替えていた。

二人の衣装は体にフィットしたもので、体のラインが一目瞭然。

スカートはかなり短く、胸の辺りなどは、強調する様なデザインとなっていた。

 

間違いなく、色仕掛けという面で見れば、合格ラインをぶっちぎりで突破しているだろう。

 

 

「二人ともすっごく似合ってるぜ!なんならこのままデートに誘いたいぐらいだ!」

 

 

シーラ達は、アレフの言葉に少々頬を染める。

女である以上、褒められて嫌な気分になることは少ないだろう。

 

しかし、肝心なアキトの返事は・・・・・

 

 

「よ、よく似合ってるよ。二人とも・・・・・でも」

 

 

あまりにも歯切れの悪いアキトの言葉に、二人は不安になる。

 

 

「今回は色仕掛けだからしかたないけど・・・・ちょっと無理した感じがあるかな・・・

二人には、もっと落ち着いた感じの衣装がよく似合っていると思うよ」

 

「はい!」

「それは、今度お見せすることにしますわ」

 

 

シーラとクレアは、アキトが期待した答えを言わなかったことをちょっと悲しみつつ、

ありきたりな答えなどで応えるのではなく、正直な気持ちを言ってくれたことに喜んだ。

 

シーラ達は、アキトが自分たちの個性をちゃんと理解して、正直に応えてくれたことに気がついているのだ。

 

そして、今度服を買いに行く際、アキトに選んでもらおうと、二人揃って考えていたりする。

 

 

「なんであたしがこんな服を・・・・・」

「言うな、悲しくなってくる・・・・・」

 

 

エルとリサも、準備が終わったのか、ぶつぶつと愚痴を言いながら奥から出てくる。

 

 

「あら〜、結構二人とも似合ってるのにな〜。そんなに嫌?」

「「嫌に決まってるだろう!!」」

 

 

二人は嫌がってはいるものの、着ている衣装はそれなりに似合っている。

由羅の手によるものか、うっすらと化粧までしている。

 

 

「二人とも、よく似合っているよ」

「そうだぜ?こう、大人の魅力があるというか・・・・」

「うるさい。何も言うな」

「何でアタシまで・・・・・」

 

 

二人は、今だ呪詛か何かのようにぶつぶつと呟いている。

余程気に入らないのか、それとも気恥ずかしいのか・・・・乙女心は理解しづらい。

 

 

「こうなれば自棄だ!さっさと終わらせてこんな服を脱ぐからな!」

「こんな格好までしたんだ!絶対に今日中に片を付けてやる!!」

 

 

かくして・・・動機はなんだが、魔物の捕獲にむけて異様に燃えている二人を先頭に、

アキト達は北の森付近に陣取り、魔物の捕獲作戦を実行することとなった。

 

 

 

 

「場所はここでいいだろう。じゃぁ、ここに料理を並べるとするか」

わたくしもお手伝いいたしますわ」

 

 

アキトとクレアは、広げられたマットの上に、持ってきた料理を並べる。

数は約二人前。作られてから時間が経っているため、冷たくなってはいるものの、

アキトが言ったとおり、冷めても美味しく食べられるものばかりが並んでいた。

 

何も知らない人間が見れば、ピクニックか何かの途中か?と思わせることすら可能なセッティングだった。

 

 

「後は、魔物が餌にひっかかってくれるのを待つばかりだな」

「俺達はどうするんだ?」

 

「とりあえず・・・森の近くにある茂みにでも隠れようか。

魔物が逃げようとするなら、森の方に逃げるはずだからな。

それぞれ、二人ずつに別れてはなれて隠れよう。その方が捕獲の確率も上がるだろうから」

 

「それでは、わたくしはシーラ様と一緒に、右手の方に隠れます」

「そうね・・・・・私もその方が良いと思う」

 

 

同じ人間を好きになった者同士、何か通じるところでもあるのか、この二人は結構仲がいい。

だから、この場合は、どちらがアキトと二人っきりになっても不公平なので、それぞれが組んだのだろう。

 

 

「おいおい、二人が一緒になって、万が一のことがあったらどうするんだよ。

俺とアキトが、それぞれ片方と組んだ方が良いんじゃないのか?なあ、アキト」

 

 

アレフはアキトの同意を求めるが、アキトが口にしたのは意外な言葉だった。

 

 

「二人とも、それで良いのかい?」

「はい。わたくし達のことはご心配なさらずに」

「大丈夫よ、アキト君。それに、男の人と一緒だったら、警戒して囮にならないかも知れないでしょ?」

「・・・・・・・わかった。二人とも、万が一の時は、全力を出すんだよ」

「おい!それで良いのかよ!?」

「二人が決めたんだ、俺達にできるのは、危害を及ばせないように守ることだよ」

 

 

アキトの言葉に、アレフは何もいえなくなった。

何より、シーラとクレアの態度を見る限り、自分が何を言っても無駄だということを悟ったのだ。

 

 

「それじゃぁ、エルさんとリサさんは左の方にある茂みに。シーラちゃんとクレアちゃんは右の方に。

俺とアレフは、どちらにもすぐ行ける、中央付近で身を隠そう」

 

 

皆はアキトの提案に納得すると、言われた方向の茂みに身を隠した。

 

 

それから待つこと数分・・・・・・・

 

 

「なあ、アキト。一体いつになったら来るんだ?まさか気長に待つなんて・・・・」

「シッ!その魔物なら少し前からこっちを窺ってるよ」

「何!?」

 

 

アキトの言葉に、アレフは思わず立ち上がろうとしたが、

その行動はアキトがアレフの肩を押さえることによって防いだ。

 

 

「今は動くな。あの料理に食らいつくまで待つんだ」

「チッ・・・・・面倒だな!」

 

 

アレフは一言悪態をつくと、体の力を抜き、隠れることに専念する。

それとほぼ同時に、魔物も危険がないと思ったのか、森の中からその姿を現す。

 

 

「うひっ・・・・うひひひ?」

 

 

奇妙鳴き声を出しながら、魔物はアキトの料理へと一直線に走り出す。

その足の速さは、確かにかなりのものがある。素人では、絶対に追いつけないだろう。

 

魔物はすぐに料理に近づくと、早速食べようと言うのか、置いてあったサンドイッチに手を伸ばす。

 

 

―――――次の瞬間!!

 

 

頃合いと見たのか、エルとリサが茂みから飛び出す。

それにつられて、シーラとクレアまでが、茂みからその姿を現す。

 

 

「うひうひ!?!うひひーーー!!」

 

 

魔物は、自分に向かってくる女性達を驚いたように見る。

そして、手に持っていたサンドイッチを放り投げると、一目散に走り始める。

 

 

(森に逃げるのか!?)

 

 

と、女性陣は一瞬思ったが、すぐさま否定した。

魔物が駆けだしたその先には、シーラとクレアがいたからだ。リサ達にはすでに、見向きもしていない。

 

 

「シーラ様、来ます!」

「ええ、わかっています。クレアさん」

 

 

二人は、こちらに向かって爆走している魔物に対抗しようと言うのか、それぞれ、何らかの構えをとる。

シーラは軽く右足を後ろに引いた構え、クレアは合気道か何かのような構えをとる。

 

そんな二人の様子に構わず、魔物は走りながら身をかがめ、飛び掛かった・・・・その直後、

横から現れた手に、頭を鷲掴みにされ、その手の持ち主に宙に持ち上げられた。

 

 

「「アキト(君)(様)!!」」

 

 

アイアンクローをしている人物・・・・アキトはかなり力をこめているのか、

魔物の頭から、ミシミシ・・・・という音が聞こえている。

 

そんな様子とは裏腹に、アキトは呆れたような表情をしていたが・・・・

 

 

「お前なぁ・・・シーラちゃんとクレアちゃんに襲いかかろうとした気持ちは・・・・

まぁ、男としてわかってやれないこともないが・・・・

目の前の料理をそっちのけにされて、少しばかり料理人としてのプライドが傷ついたぞ」

 

「ウギャギャギャァァァーーーッッ!!!」

 

 

アキトの腕にさらに力が加わったのか、魔物が苦悶に満ちた叫び声を張り上げる。

しかし、アキトは手の力を弛めようとはせず、代わりに憐憫に満ちた眼差しを魔物に向けた。

 

 

「このまま捕獲してもいいんだがな・・・・それでは気が済まないと言う方が二人もいてな。

非常に可哀想だが、二人を鎮める生け贄になってくれ。といっても、自業自得だがな」

 

 

アキトはそう言い放つと、腕に力をこめ、魔物を放り投げた。

 

魔物は、逃げ出す好機と思った!・・・・飛んで行く先にいる二人を見るまでは・・・・

 

 

「私達はこんな格好までさせられたっていうのに・・・・一瞥くれただけで無視とはいい度胸じゃないの」

「女のプライドを傷つけた代償は安くないよ!!」

 

 

殺気をみなぎらせる二人の修羅・・・・・もとい、リサとエル。

命の危険を感じたのか、魔物は必死に方向転換を試みるが、それは無駄な徒労に終わった。

 

 

二人は飛んできた魔物を素手で大地に殴り落とすと、乙女の心を踏みにじった魔物に制裁を加え始める。

理性は残っているのだろう、急所を上手く避け、致命傷をあたえないように殴っていた。

 

 

「うわ〜・・・俺、エルとリサは怒らせないようにしよう」

 

 

二人が魔物をたこ殴りにしている光景を、やや引きながら見ているアレフ。

アキトに遅れること数秒、アレフも茂みから出てきていたのだ。

 

アレフも、アキトと同様、シーラ達を身を挺して守ろうとしたのだが、

如何せん、本気を出していない状態でも、足の速さでアキトに勝てる人間は、片手の指で事足りるぐらいだ。

 

 

「結局・・・アキトがいいとこ取りだな。俺の出番なんて少しもないぜ・・・」

「そう思うんだったら、もっと体を鍛えたらどうなんだ?」

「言ってくれるぜ、これでも結構足の速さに自信はあったんだぜ?」

 

「自信はあってもな・・・・・もし、間に合ったとしても、今のアレフだったら反対にやられていたぞ?

あの魔物、性格とかはなんだけど、身体能力でいったら、普通の人間にとって充分、脅威になりかねないからな」

 

「・・・・・・」

「どうした?アレフ」

「俺も、鍛えたら強くなれるかな・・・・」

 

「わからない。どうしても強くなりたかったら、才能が云々なんて言っている場合じゃないからな。

力つきて倒れて、それでも這いつくばりながらも前に進む・・・・そうしながら俺は強くなった。

結局は、自分で選ぶしかないんだ。強く生きるか、回避しながら生きるかを・・・・・」

 

「俺は・・・強く生きたい」

「そうか・・・なら、俺はそれを後押ししよう」

「頼む」

「わかった。とりあえず、朝晩のランニングからな」

「おう」

「街から雷鳴山まで往復二回が最低限だから。そのつもりで」

「お・・・・おう。まかせておけ・・・・」

 

 

やや表情を引きつらせながらアレフは気丈に返事をした。

 

 

「男の方同士というのは、羨ましいものですわね。すぐに仲が良くなってしまわれて・・・・」

「そう・・・かな?」

「そうだと思うわ、アキト君。私もちょっと羨ましいもの」

「ん〜〜・・・・そんなものかなぁ?」

 

 

しきりに頭を捻るアキトを、シーラとクレアはくすくす笑いながら見ていた。

 

 

「ふ〜〜。少しはさっぱりした」

「これ以上やっても、手が痛くなるだけだからね」

 

 

リサとエルが、スッキリした・・・とはいいにくいが、それでも以前よりはましになった表情でこちらに近づく。

魔物を逃がさないように、それぞれが片手を持ちながら歩いている。

 

その姿は、連行される犯人の様な光景だ。ただし、魔物の様子はこの上なく酷い有り様だったが・・・

連行される宇宙人・・・・という表現の方が適切かも知れない・・・・・

 

 

「ほれ、これ連れてくのはあんたがやりなよ。アタシ達はこれ着替えてもう帰る」

「もう疲れて何もする気がおきないよ。後の始末はボウヤに任せる」

「了解。シーラちゃん達も、一緒に行って着替えてくるといいよ」

「わかりましたわ」

「そうね」

 

 

シーラ達四人は、化粧を落としたり着替えたりするため、由羅の家へと戻っていった。

 

 

「おい、アレフ。自警団に行くからついてきてくれないか?」

「わかった。・・・・にしても、こんな変な魔物が出てくるなんてな。世の中一体どうなってんだ?」

「俺が知るわけないだろ?俺達もさっさと終わらせよう」

「そうだな」

 

 

 

アキトは、この魔物の足を掴み、引きずりながら、『女性の怒りは恐ろしい・・・・』と考えていた・・・・

そして、自分の帰りを待っている女性達を思い浮かべ・・・・

『怒っていたらとりあえず異世界にでも逃げるか』・・・・とも、半ば本気で考えていた。

 

 

(とにかく、女性を怒らす様なことは絶対にしないようにしよう・・・)

 

 

また一つ、ちょこっと成長したアキトだった。

それができるかどうかは・・・・・また別の問題なのだろう。

 

 

 

 

 

 

(第八話に続く・・・・)

 

 

 

 

―――――あとがき―――――

 

 

どうも、ケインです。

今回のもとネタは、『煩悩モンスター』です。知っている人には、今さら説明はいりませんね・・・

本当なら、もっと色々な人物を絡ませたかったのですが・・・頭の処理が追いつきませんので、断念しました。

最高、四人までですね・・・・増えると、影が薄くなってしまって・・・・・

今回も、平均的になりすぎて、目立たないキャラがいましたしね・・・・男って、そんなものですが・・・・・

 

さて、次回は、『火元はマリア』を元としたものを書こうと思っています。

また、色々とオリジナルなところが入りますが・・・・どうなるかは乞うご期待・・・してもらえたらいいなぁ・・・・

 

 

最後に、K・Oさん、YU−JIさん、桃姫さん、カインさん、鳥井さん、ホワイトさん、

ぺドロさん、watanukiさん、感想ありがとうございます!!

 

ではまた、次回の後書きで会いましょう・・・・・・・・

 

 

 

 

代理人の感想

・・・あれ?

怒っている彼女達から逃げる為に

異世界に来たんじゃなかったっけ?(爆死)

 

おかしいな〜、違ったのかな〜?