悠久を奏でる地にて・・・

 

 

 

 

 

 

第8話『真実を求めて・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――四月十六日―――――

 

この日の仕事は、なんの滞りもなく、すんなりと終わった。少なくとも、仕事だけは・・・・・

 

 

もうすぐ夕暮れ時・・・一日の仕事が終わり、帰宅して一段落している・・・という時間帯に、

アキトは急いでジョートショップに戻ろうと、ルクス通りを走っていた。

 

(参った。まさかこんなに仕事が長引くとは思わなかった。みんな怒ってないかな・・・・)

 

今日、アキトはレストラン『ラ・ルナ』で、厨房の手伝いという依頼を一人でうけていたのだ。

アキトの手際の良さなら、一人で充分お釣りのくる仕事だった。

いつも通り、定時に終わる予定だった・・・が、定時間際になって、団体客が入り、

手が足りないということで、ラ・ルナの店長が仕事の延長を頼んできたのだ。

アキトはそれを了承したのだが・・・・思ったよりも長引いてしまったのだ。

 

 

アキトは、皆に迷惑をかけているのではないか?と心配し、さらに早く走り出す。

 

アキトが懸念しているのは、毎日、仕事後に行っている報告会・・・

・・・というほど大したものではなく、その日の仕事がどうだったかを話すだけなのだが・・・

それに集まった仲間が、待ちぼうけになっているのではないか?ということだった。

 

足を早めた甲斐があったか、アキトは程なくしてジョートショップの扉をくぐることができた。

 

 

「遅い!一体どこで油売ってたんだ!!」

「すまない。仕事が延長して遅れたんだ」

「ふん・・・それなら仕方がないか・・・・」

 

 

そう言いつつも、エルは険しい表情のまま、アキトを見ていた。

いつものエルらしからぬ態度に、アキトは何やら嫌な予感を覚えた。

が、いつもより遅れている以上、早めに報告会を済ませる事を優先させる事にした。

 

 

「じゃぁ、報告会を始めようか。クリス君とシェリルちゃん、それにマリア・・・・・??

マリアちゃんはどうしたんだい?一緒に仕事をやってたはずじゃあ・・・・」

 

「そ、それが・・・・・」

「今日は、先に帰ってしまって・・・・・」

 

 

クリスとシェリルが何やら縮こまってアキトに報告する。

エルを気にしているのか、しきりにエルに向かって目をむけたり戻したりしていた。

 

アキトはその様子を見て、マリアとエルの間に何かあったのかを、おぼろげながらに察した。

 

 

(またエルさんとマリアちゃんが喧嘩したのか・・・・今日は、二人とも仕事は別々だった。

となると・・・・・俺が帰ってくる間に何かあったというわけか・・・・)

 

「わかった。それで?仕事の方はどうだった?」

「はい。旧王立図書館の本の整理ですけど、今日の分はちゃんと終わらせることができました」

「この調子のままだと、明後日の期日までに間に合いそうです」

「うん。なら良いよ。マリアちゃんには・・・・後で俺が話しておくから」

「はい」

 

 

二人は、ホッと溜息を吐く。何かと責任感の強い二人なので、

マリアが先に帰ってしまったことをかなり気にしていたのだろう。

 

 

「シーラちゃんとエルさんはどうだった?」

「ああ、ちゃんと終わらせといたよ」

「雷鳴山の麓で摘んできた薬草も、ちゃんとトーヤ先生に渡しておきました」

「ありがとう、二人とも。怪我とかはなかった?」

「大丈夫。何事もなかったわ。心配してくれてありがとう、アキト君」

「ならいいんだ。じゃぁ、今日はこれで・・・・・」

 

 

解散・・・・と、続けようとしたアキトだったが、不意に言葉をとぎらせ、店の入り口を見る。

何事かと思ったシーラ達は、アキトと同様、店の入り口へと視線を移した。

 

 

コン、コン、コン・・・・

 

 

控えめなノックが三回鳴ると、それからすぐ、申し訳なさそうにドアを開く女性が入ってくる。

年の頃は三十代後半か・・・・慎ましやかなメイド服を着た女性だった。

 

 

「申し訳ありません。わたくし、ショート家に仕えるマーサという者ですが・・・

マリアお嬢様はいらっしゃらないでしょうか?」

 

「マリアちゃんなら、先に帰ったようなんですが・・・・帰ってないんですか?」

「はい。いつもなら帰宅なさっている時刻なのですが、今日はまだ・・・・」

 

 

アキトは、マリアが帰っていない事に、何か嫌な胸騒ぎを感じた。

人間、なぜか良い予感は当たらないのに、悪い事となると、かなりの的中率を示す場合が多い。

とくに、アキトの嫌な予感は、半端でないほどの的中率を誇っていた。(誇りたくないだろうが・・・)

 

 

「できれば、マリアお嬢様をお捜しいただけないでしょうか?

なんでしたら、依頼という形にしていただいても構いません。手続きは・・・・」

 

「そんなのは要りませんよ。俺達も一緒に探します。マリアちゃんとは友達ですからね」

「ありがとうございます」

「それは良いが、闇雲に探し回るのもな・・・・」

 

 

アキトは、広範囲にわたって『氣』の捜索をしようとしたが、途中で考え直した。

リカルドといった猛者ならばともかく、マリアの氣に人並み外れた特徴はない。

 

 

「シェリルちゃんにクリス君。何か心当たりはないかな?」

「マリアさんなら・・・・たぶん、魔導師協会とかに行ったんだと思います」

 

 

シェリルが、ハッキリとした口調で言う。

横にいるクリスも、何も言わなかったが、その顔は肯定を示していた。

 

 

「何か心当たりでも?」

「そ、それは・・・・・」

 

 

クリスとシェリルは、エルの顔色を窺っていた。

それはつまり、マリアが飛び出していったことと繋がりがあるということを、アキトは察した。

 

 

「あたしの事は気にしなくてもいいよ」

「は、はい・・・・実は、アキトさんが帰ってくるまでに、ちょっとしたことがあって・・・・」

 

クリスが、アキトが帰ってくるまでにあったことを話しだした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「まったく・・・アキトの奴は遅いね。何かあったのか?」

 

「もしかすると、仕事の延長をしているのかもしれませんね。

アキト君、料理の腕がいいから・・・・なかなか放してくれないんじゃないかな?」

 

 

かなり鋭い読みを見せるシーラ。もし、この場にクレアがいれば、その推測は確定になっていただろう。

それほど、この二人は、アキトに関しての読みが鋭い。

 

 

「あいつも不思議なやつだね。戦闘力は化け物並だとリサが言っていたし・・・

その上、料理の腕も一流・・・・まったく素性は知れないくせに、皆からの信頼は厚い」

 

「まるで、本から抜け出てきた物語の主人公みたいですね」

「そうかも・・・アキトさん、どことなく、皆と雰囲気が違うし・・・・もちろん、良い意味で、ですけど」

 

 

クリスとシェリルの言葉に、皆は一様に納得したような表情を見せる。

 

 

「それにしても、やっぱり遅いね。あたしゃ待ちくたびれそうだよ」

「アキト君一人だけだったから・・・料理って、結構手間がいる仕事だし」

「だからマリアが手伝うって言ったのに・・・アキトったら一人で充分だって・・・・」

 

 

マリアがアキトに対してブチブチと愚痴を零していた。

今日の仕事を始める際、アキトは一人、マリア達は三人だったので、

マリアがアキトについて行こうとしたのだが、アキトが断ったのだ。

普段のマリアの行動からすれば、それは英断と言えるだろう。

だが、時にはそれを口にしてはいけないときもある。これもその一つといえる・・・・だが・・・・

 

 

「そいつはアキトが正解だ。マリアを連れていったら、今頃ラ・ルナが休業しているだろうさ」

「それってどういう事なのよ!」

「聞いてそのままさ。マリアの下手な魔法で、とんでもない事になるっていうのさ」

「マリアの魔法にかかれば、仕事に一つや二つちょちょいのちょいで」

「大失敗にできるんだろ?この炸裂お嬢様が・・・」

「なによ〜!魔法も使えない無能エルフのくせに!」

「魔法が使えりゃ偉いってわけじゃない」

「フ〜ンだ!魔法の使えないエルフの負け惜しみにしか聞こえないよ〜だ!」

 

「ハン!なんとでも言いな、結局、魔法でできる事なんてたかが知れてるんだからな。

なんでもできるって言うのなら、アキトの無実でも証明してみせな。ま、無理だろうけど・・・・」

 

「そんなこと無いもん!マリアが証明してみせるんだから!!見てなさいよ、バカエルフ!」

「お〜、できるもんならやってみな。もしできたら、そんときゃなんだってしてやるさ」

「その約束!覚えておきなさいよ!!」

 

 

そこまで言うと、マリアはジョートショップを飛び出していった。

後には、機嫌の悪いエルと、なにも口をはさめなかったシーラ達三人が残されたのだった。

 

実に、アキトが帰る十五分ぐらい前のことである。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(なんでこの二人はこうなるのかな・・・・もっと仲良くできないものだろうか・・・・・)

 

アキトは、クリス達からあらかたの事情を聞き、頭を悩ませる。

 

 

「とにかく、事情はわかった。皆で手分けしてマリアを捜そう。

クリス君、シェリルちゃん。魔導師協会の他に、マリアちゃんが寄りそうなところはない?」

 

「魔導師協会の他に・・・・旧王立図書館と夜鳴鳥雑貨店、それと、学院の図書館ぐらいしか・・・」

「でも、学院はとっくに閉じていますから、三つに絞れると思います」

 

「そうなのか・・・・・だったら、それぞれ三手に別れて手がかりを探そう。

俺は旧王立図書館に行ってみるから、クリス君とシェリルちゃんは魔導師協会の方を、

シーラちゃんとエルさんは夜鳴鳥雑貨店の方に・・・・」

 

「ちょっと待ちな。なんであたしがマリアなんかを捜さなくちゃいけないんだよ」

 

 

エルが不愉快そうな顔つきで、言い捨てる。今だ、腹に据えかねているのだろう。

マリアを心配しているマーサが、エルのもの言いに、悲しそうな表情をする。

 

 

「エルさん、それは本気で言ってる?」

「当たり前だろうが!!」

 

 

エルがアキトを怒気を含んだ視線で睨む。

アキトは、そんな視線に目をそらすこともせず、静かに見返すだけだった。

 

そして・・・・先に目をそらしたのは、ばつが悪いといった顔をしたエルだった。

 

 

「チッ・・・・・わかったよ。今回のことはあたしの一言が起こしたみたいだからね。私も探すよ」

「ありがとうございます。エルさん」

「よしてくれ、あんたに頭を下げられる事じゃない」

 

 

頭を下げるマーサに、エルは照れたような顔をして、そっぽを向く。

 

 

「マーサさんは、念のために家に戻っておいてください。すれ違いになるといけませんので」

「はい。わかりました。お嬢様のこと、くれぐれもよろしくお願いいたします」

 

「わかりました。じゃぁ、みんな、日が暮れる前に行こう。それぞれ情報を集めてくれ。

集合場所は・・・・・三つの中心にある、陽のあたる丘公園で落ち合おう」

 

 

アキトの言葉に、皆は頷くと、それぞれ任された場所に行くため、ジョートショップを飛び出る。

アキトもすぐに、旧王立図書館に向かい、全力で駆け始めた。

 

 

 

 

 

 

「あら?どうかしたのかしら?アキトさん」

 

 

図書館の鍵を閉めている人物・・・イヴ・ギャラガーが、駆け寄ってきたアキトに声をかける。

イヴは、この図書館でアルバイトをしており、図書館に出入りする人物を、それとなく憶えていたりする。

 

 

「今日はもう閉館しました。悪いけど、用があるならまた後日にでも・・・・」

「いや、そうじゃないんだ。マリアちゃんを見なかったかな?」

「マリアさん?ええ、閉館間際になって本を一冊借りていったわ」

「それで、何処に行ったのか知らない?」

 

「いえ、私はそのまま戸締まりのチェックをするために図書館の中にいたから、

マリアさんが図書館から出るまでしか知らないわ」

 

「そう・・・手間をかけさせてごめん。それじゃぁ」

 

「待って。マリアさんの借りた本は、古代語を翻訳するための辞典よ。

マリアさんの事だから、無意味で借りるはず無いから、何かの手がかりにはなるはずよ」

 

「わかった。ありがとう、イヴさん」

「ええ。お役に立てたのなら幸いだわ」

 

 

アキトは、そのまますぐに、陽のあたる丘公園に向かって走り始める。

間もなくして公園に着いたものの、アキトの足が速かったため、誰一人として到着していなかったが・・・

 

 

「アキトさん!早かったんですね」

「ハァ・・・ハァ・・・・少し疲れました」

「ご苦労様。で、どうだった?」

「マリアさんは、一度、来たみたいです。でも、門前払いを受けたらしく、すぐ居なくなったっていってました」

「そうか・・・・」

「アキトさんの方はどうだったんですか?やっぱりなにも?」

「俺の方は・・・・っと、シーラちゃん達が来たみたいだ」

 

 

公園に東の入り口から、エルとシーラが入ってきた。

二人はアキト達を見つけると、すぐさま傍に駆け寄ってきた。

 

 

「二人ともご苦労様。何か手がかりはあった?」

「はい。店の人から聞いたんですけど、マリアちゃん、一冊の魔導書を買っていったそうです」

「魔導書?どういったやつなのかな・・・・・」

「なんでも、召還魔法大全・・・・とかいうやつだって、言っていましたけど・・・」

 

 

どことなく、胡散臭さ爆発のようなタイトルである。

まるで、『誰でもお手軽に料理が作れます』のような、軽すぎる印象を受ける。

 

 

「召還魔法・・・か。一体どういうものなのかな?シェリルちゃん」

 

「は、はい。魔法陣によって、何かを召還するといったものです。

小さな妖精から、魔獣、魔王や神まで・・・でも、呼び出す存在が大きければ大きいほど、

術の制御、魔力がかなり必要となります。場合によっては日取りや星の位置まで関係しますけど・・・・」

 

「なるほどね・・・・つまり、マリアちゃんは召還魔法で何かを呼び出そうとしているのか・・・・」

「そいつはちょいと無理だと思うけどね」

「それはどういうことだ?エルさん」

「なんでもその魔導書、古代語で書いてあるんだってさ。マリアには解読は不可能だって事さ」

「最悪だな・・・全て後手後手か・・・」

 

 

エルの一言に、アキトは頭を抱える。

アキト達の行動が、紙一重で、全て後手後手に回っているのだ。

 

 

「どうかしたのかい?」

「イヴさんに聞いたんだが、マリアちゃんが閉館間際に、一冊の本を借りたそうだ」

「まさかそれって・・・・」

「シーラちゃんが思った通り、古代語の翻訳辞典」

「確かに・・・アキトのいうとおり、最悪だな・・・・」

「で、でも、マリアさんは魔力はともかくとして、制御の方が未熟だから、そうおいそれとは・・・・・」

「はい。それに、魔導書の翻訳にも時間がかかると思いますし・・・・」

「どうやら・・・・そうでもなかったみたいだ」

 

 

アキトは、北の方向を睨みながら言い捨てる。

アキトは北の方向から、普段では感じられないような膨大な魔力と、

想像を絶するほどの邪気が、活火山のようにあふれ出ているのを感じていた。

 

(邪気はともかく、こんな遠く離れている魔力の流れを感じることはできなかったのに・・・・・

俺の中にある赤竜の力が更に増したのか?)

 

それ以外に心当たりがない・・・というのが本当なのだが・・・・・

アキトは、自分の中にある、神の力が強くなっている事実に、内心驚きを感じた。

 

 

「アキトさん?どうかしたんですか?」

「先程から北の方を気にしているみたいですけど・・・・何かあったんですか?」

「説明している暇はないみたいだ。みんなは此処にいてくれ。危険だから俺一人で行く」

 

 

いきなり走り出すアキト。皆は、アキトの突然の行動に呆気にとられたものの、

顔を見合わし、揃ってアキトの後を追いかけるように走り始めた。

 

 

「ついてこない方が良い。かなり危険だ!」

「私もお手伝いします。何かの役には立てると思うわ、アキト君」

「此処まで引っぱっておきながら、今さら帰れなんていうんじゃないよ」

 

 

エルとシーラがアキトの後を走りながら、帰る意志のないことを示す。

後ろを何とかついてきていたクリスとシェリルも、帰ろうという気はないみたいだ。

 

アキトは一瞬、走るスピードを上げてふりきろうと思ったが、

向かう方向を知られている以上、遅かれ早かれたどり着いてしまうと思い、しぶしぶ認めた。

 

 

アキト達は、北の方向・・・昨日、魔物を捕獲するために近づいた北の森へと向かって、更に疾走した。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

エンフィールドより北の位置にある森・・・住民達からは、『誕生の森』と呼ばれ、親しまれている。

この森はかなり広く、全てを把握している人間はいないと言っても良い。

魔物なども、かなり森の奥に行くことがない限り、遭遇する可能性も低い。

普段は、森林浴などを楽しむ人達の憩いの場ともなっている。

 

今は・・・そんな面影など微塵にも見ることができないぐらい変貌していたが・・・・

 

 

「―――――!!なんなんだい!!この異様な感じは!」

「気持ち悪い・・・・それに、息ができないぐらいの圧迫感も・・・・」

「それに・・・此処に来てから、異様に暑くはありませんか?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

森に入ったばかりのエル達が、口々に異常を訴える。唯一例外なのはクリスなのだが、

こちらは気分が悪いのを通り過ぎていて、口にできないというのが正解だろう。

 

そんな皆を見ながら、アキトは口を開く。

 

 

「これ以上は深入りしない方が良い。引き返すんだ」

「で、でも、マリアちゃんがこの先にいるのなら・・・」

 

 

シーラが青い顔をしながら、気丈にもアキトに訴える。

 

 

「無理をしないでくれ。そんな青い顔をして・・・・・」

「私なら大丈夫。だから・・・・」

「僕たちも大丈夫です」

「・・・・・・わかった。でも、危険と思ったらすぐさま引き返すんだ。いいね」

「はい」

 

 

アキトは皆の返事を聞くと、邪気と魔力の発生源に向かって歩き始めた。

一歩一歩進むごとに、邪気の濃度が濃くなって行き、

まるで質量をもって肌にまとわりついているような錯覚すらおこしている。

それにともない、周りの温度も上昇してゆく。夕暮れが近い時間帯に関わらず・・・である。

 

 

邪気が一段と濃くなると共に、少々開けた広場にでた・・・・

そして、アキト達の目に、中央付近で、地面にうずくまっているマリアが見えた!

 

 

「マリアちゃん!」

 

 

シーラはすぐさま助け出そうと、マリアに向かって走り出そうとしたが、アキトが肩を掴んで止めた。

 

 

「アキト君!?どうして?」

「落ち着いて周りを見るんだ」

 

 

シーラは、アキトに言われた通り、自分たちの周りに目を向けた。

そこには、大量の邪気により呼び寄せられた邪霊が、所狭しとひしめきあっていたのだ。

その数の多さは異常で、まるで空気に取って代わったと思えるほど、視界いっぱいに広がっていた。

 

 

「―――――!!これは・・・・・悪霊!?」

「違います!そのさらに上の邪霊です!この前授業で習いました!」

「なんなんだい?その邪霊ってのは!」

 

「未練を残した霊が、害をなす悪霊になり、さらに力を手に入れたら邪霊になるんです。

物理攻撃がほとんど効きません。魔法じゃないと倒すのは難しいんです!!」

 

「この中で魔法を使えるのは?」

「はい。僕とシェリルさんです」

「シェリルちゃん。魔法、使えるかい?」

「は、はい。頑張ります!」

 

「うん、頼むよ。二人は邪霊を相手にして・・・その間に、俺はマリアちゃんを助け出します。

二人の護衛は、エルさんとシーラちゃん、頼める?」

 

「それはいいけど・・・・どうやってマリアちゃんの所まで行くつもりなの?アキト君」

「そうだ。こんな邪霊がひしめきあっている中を走るなんて、自殺行為もいいところだ!!」

「アキトさん。上手くマリアちゃんの側に行けたとしても、あの防護結界がある限り、助けることは不可能です!!」

 

 

この邪気と邪霊の中、マリアが生きていられるのも、マリアの足下に書かれた防護陣のおかげだといえる。

召還魔法時、予測外の出来事に備えるため、術者の周りに防護陣を書くのが定められていたのだ。

アキトがマリアを助け出すためには、その防護結界を解除しなければならないということにもなる。

しかも、今回マリアが使用したのは古代の魔術でもかなり強力なもの・・・・

その上、マリアの人並み外れた強大な魔力と魔力許容量キャパシティによって支えられている代物・・・・

生半可な事では破れないだろう・・・・・

 

ただし、普通の人間にとっては・・・・の話だが。

 

 

「大丈夫。あの程度のものだったら、何とかなるはずだ」

「そんな!何とかなるって・・・・」

 

「いいから。今は自分が出きることをするんだ。

俺は、俺が出来ることを精一杯するだけなんだ。わかったかい?クリス君」

 

「・・・・はい」

「アキト君・・・気をつけてね」

「ありがとう。シーラちゃん。エルさん、後のことを頼みます」

「あんまり頼まれたくないね。だからさっさと帰ってきな」

「わかりました。じゃぁ、行きます!!」

 

 

言い終わると同時に、アキトの手に、暁のように眩い赤い光が発生する。

その光は、アキトの手の内でさらに集束し、一振りの剣へと変化した。

 

 

『―――――!!!』

 

 

皆が驚きに言葉を失っているのを余所に、アキトは剣を上段に振りかぶる!

赤い色をした刃に、ゆらめくような赤い光が発生し、徐々にその大きさが増し始める!

 

 

「ハァッ!!!」

 

 

アキトが、赤い剣を振り下ろした際に発生した衝撃波は、マリアとアキトの間にいた邪霊達を斬り裂いた!!

衝撃波といっても、ただの衝撃波ではない。

そのうちには、無数の赤い燐光が含まれており、その燐光に触れた邪霊は瞬時にして消滅した。

 

邪霊を斬り裂いた衝撃波は、そのままマリアを守っていた防護結界に衝突し、散り散りに弾き飛ばされた。

だが、それもアキトの計算のうちの一つだったのか、

拡散された赤い燐光は、広範囲にふりそそぎ、無数の邪霊達を消滅させるに至った!

 

 

「後は頼んだ!」

 

 

アキトは、衝撃波によってできたマリアへと続く道を疾走した!

衝撃波に含まれた赤い燐光によってかなりの邪霊は消滅したものの、

その数は今だ辺りを埋め尽くさんばかりに存在していた!

 

邪霊はアキトに取り憑き、肉体を奪い取ろうと、アキトの元に群がった!!

 

 

「「「「アキト(君)(さん)!!」」」」

 

 

エル達には、アキトに襲いかかろうとする邪霊が、押し寄せる津波のような錯覚を受けた!

エル達・・・とくにシーラは、アキトを襲った事態に、顔を青ざめさせていた。

 

 

「邪魔だ!!」

 

 

アキトは、襲いかかる邪霊に向かって赤い剣を一振りさせる!

その一振りにより、周りに群がっていた邪霊達が消滅し、数秒だけだが、アキトに時間をあたえる。

 

 

(やはり元から絶たないとキリがない!それにこのままだと、大火事になってしまう!

マリアちゃんには悪いが、先に大元を絶つ!!)

 

 

元々、森には霊が集まりやすい。

その霊が、魔法陣から漏れ出ている邪気の影響によって、邪霊へと変生させられているのだ。

その数に限りはあるものの、それは一夜を戦い抜いたとしても、全部滅ぼせるか怪しい。

 

それに、魔法陣からは邪気だけではなく、熱気も発生していた。

邪気が熱気を持っているのかは定かではないが、

このままだと、森の木々が自然発火してしまうのも、時間の問題に思える。

 

 

「クリス君!シェリルちゃん!防御結界はできるかい?」

「は、はい!」

「すぐにできます!!」

「ならやってくれ!大きい技を使うから、そっちまで危険かも知れない!」

「「はい!!」」

 

 

クリス達は、アキトにいわれた通り、慌てて防御結界を作製する。

 

二度、アキトに襲いかかろうとする邪霊達。

だが、アキトはその様子を気にせず、その場に止まり、『氣』と『昂気』を同時に高め、体内で合成させる!

 

アキトは横目でクリス達が結界を張ったのを確認すると、合成させた『氣』を、一気に爆発させながら解き放つ!!

 

 

「聞け!天に轟く竜の咆哮を!!秘拳 竜吼波!!

 

 

アキトの体全体より放たれた、蒼銀の衝撃波が、数多あまたいる邪霊達を消滅させる!!

その光景を、クリス達は驚愕の眼差しで見ていた。

 

アキトはそんな周りの状況を、確認をするまでもないと思ったのか、

手にしていた赤竜の剣を逆手に持ち直し、一足飛びに魔法陣へ跳躍し、中心に剣を突き立てる!

 

 

「オオォォオオーーー!!」

 

 

アキトの雄叫びに呼応するかの如く、赤竜の剣が目映いほどの赤い光を放ち、

地に描かれていた召還魔法陣の魔力を断ち切り、召還されかかっていた何かを押し戻した!

 

 

「しまった!!」

 

 

召還されかかっていたものの影響か、それとも他の何かの要因か・・・・

魔法陣が消え去る寸前に、少量の炎が吹き出し、辺りの木に燃え移る!

辺りに満ちていた熱気に後押しされたかのように、火の勢いは凄まじかった!!

 

 

「「アイシクル・スピア!!」」

 

 

クリスとシェリルの二人が、慌てて炎を消そうと、氷の槍を発生させて消火にあたるが、

炎の回りの方が早く、二人には手のつけられない事態になっていた。

 

 

「起きろマリア!お前も魔法で消火にあたれ!!」

「起きて!マリアちゃん!!」

 

 

エルとシーラがマリアに近づき、揺さぶったりして目を覚まさせようとしていた。

その甲斐あってか、マリアはすぐさま目を覚ます。

 

 

「え・・・・あれ、一体どうしたの!?」

「問答している暇はない!お前も魔法で消火にあたれ!!」

「わ、わかった!!」

 

 

エルの剣幕に圧されたのか、マリアはすぐさまアイシクル・スピアを解き放つ。

・・・・が、如何せん、元々対個人用の魔術。火が広がる速度の方がはるかに早い。

 

 

氷の矢フリーズ・アロー!!」

 

 

アキトも、氷の矢フリーズ・アローで消火にあたったが、火の回りをおとすだけに止まる。

 

 

「もっと強力な呪文でないと間に合わない!!みんな、一ヶ所に集まってくれ!」

「アキト、何をするつもりなんだい!?」

 

「説明は後でするから、早く一ヶ所に集まってくれ。

クリス君にシェリルちゃん。もう一度結界を頼む!」

 

「はい!」

「わ、わかりました」

 

 

皆が集まるのを横目に、アキトは呪文の詠唱を始める。

先程までは、必死に消火にあたっていたため、アキトの魔法に気がつかなかったシーラ達も、

聞こえてくる詠唱が、自分たちの知らないものであることにかなり驚いた。

 

 

「二人とも、準備は!!」

「大丈夫です!」

「先程よりも丈夫に張りました!!」

「わかった!冷破吠ハウル・フリーズ!!

 

 

アキトを中心に、猛吹雪ブリザードが吹き荒れる!!

あれだけ勢いのあった炎も、猛吹雪ブリザードの前に次々と鎮火していった。

 

(よかった。上手く成功した・・・・覚えたてで、まだ使ったことがなかったからな・・・・)

 

もし、この考えを口にして、シーラ達に聞かれようものなら、シーラ達は引きつった笑いを浮かべていただろう。

 

 

「凄い・・・・あんな魔法、見たこと無い・・・」

「呪文の詠唱も・・・・初めて聞きました・・・」

 

 

吹雪がおさまった後に、辺りに濃い霧が発生したため、視界が不鮮明になる。

そんな状況におかまいなく、魔法至上主義のマリアが、アキトに迫る。

 

 

「ねぇねぇ!アキト!あれってなんて魔法なの?マリアにも教えて!!」

「ダメ、この魔法は・・・というか、俺が使う魔法は教えないよ」

「ぶ〜〜☆ケチケチしなくてもいいじゃない!教えてよ〜☆」

「俺が使う魔法はこの世界のものじゃないからね。教える気はないんだ」

 

「それってもしかして、異世界の魔法ってやつなの!?すっご〜い☆

ね〜アキト〜。出し惜しみなんかしないでさ〜。マリアにその魔法を教えてよ〜」

 

「だめ」

 

 

別にアキトは、出し惜しみとか、そういったことで教えないと言っているのではない。

その世界で使われいる魔法は、その世界が必要だから編み出されたものであり、

この世界で、この魔法に類するものがないということは、この世界では必要がないから・・・・そう考えているのだ。

 

本当に、必要があるのなら・・・・アキトはマリアに魔法を教えていたかもしれない・・・が、

今のマリアは、物珍しさと、知らない魔法を覚えたいという自己中心的な考え故に、

アキトも、マリアには教えないと言ったのだ。

 

 

「マリアちゃん。そんな事よりも、みんなに言うことがあるんじゃないのかな?」

「うっ・・・・・」

 

 

アキトにやましいことを指摘されたため、言葉に詰まるマリア。

気づいてはいたのだろうが、あえて無視していたのだろう・・・・後ろめたすぎて・・・・・・

 

恐る恐る後ろを向くと、そこには怪我などをしたエル達四人が立っていた。

 

 

「大丈夫。みんな怒っていないよ。マリアちゃんが、今思っていることを素直に言葉にしてごらん」

「うん・・・・・」

 

 

マリアは、四人に向かっていいにくそうにもじもじした後、いきなり頭を下げる。

 

 

「あ、あの・・・その・・・・・ご・・・・御免なさい!!」

「マリアちゃんが無事でよかったわ」

 

 

しょんぼりと、みんなに謝るマリアに、シーラは笑顔でマリアの無事を喜ぶ。

クリスやシェリルも、怒った様子はなく、シーラと同じように微笑んでいた。

 

その隣にいたエルは、無表情なまま、マリアへと近づく。

 

 

「マリア・・・・」

「な、何よ・・・・・」

「悪かったね。あたしがよけいなことを言わなければ、こんな事にはならなかったのに・・・」

「・・・・・・マリアも意地になっていた・・・・御免なさい」

「ああ・・・・・・」

 

 

マリアとエルが、お互いに謝りあっていた。非常に珍しい光景だ。

お互い意地になり、謝ろうとすることがなかった二人がこうなった一因であるアキトは、

二人が少しでも仲良くなったことに喜び、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 

 

「さ、もう日が暮れていることだし、みんな早く帰ろうか・・・」

 

 

そしてアキト達は、一路、エンフィールドへと戻るため、来た道を引き返すこととなった。

その途中、アキトは気になっていたことを、マリアに尋ねた。

 

 

「マリアちゃん。一体何を召還しようとしたんだい?」

「え!?あ、あはははは・・・・ちょっとした神様を・・・・・」

「神様って・・・・なんの神様なの?」

 

 

シーラがマリアの曖昧な表現に、疑問をぶつける。

一体どんな神様を召還しようとすれば、あんな大惨事になりかねない状況になるのか、

皆目見当もつかないのだろう。

(少なくとも、ゴート・ホーリーが信じている神を呼び出そうとしていた可能性はないだろうが・・・・・)

 

「・・・・・・真実と審判の神様・・・・・」

「それって・・・・アキト君のために?」

「うん・・・・・・」

 

 

マリアは、顔を赤く染めて、コクン、と一つだけ頷いた。

周りが薄暗かったため、その顔アキトに見られることはなかったが・・・・

 

 

「マリアちゃん。気持ちはありがたいよ。でもね・・・・そんな事をしても、意味がないんだ」

「どうして!?あの召還が成功していたらアキトの無罪を証明してくれるのに!」

 

「例え無罪を証明してくれても、街のみんなが信じてくれなければ意味がないんだ。

結局・・・・最後に決めるのは人間だからね・・・」

 

「そんな・・・・・・」

 

「アルベルトみたいに俺を毛嫌いしている人から見ると、俺がいなくなった方が良いだろうし・・・

それに、俺のことを知らない人なら、裁判のやり直しメンドウなことを避けようという考えの人もでてくるだろうし」

 

「アキト君・・・・・・」

 

「わかってるよ、シーラちゃん。俺を信じてくれている人もいることもいるって事を・・・・

マリアちゃんも、俺が犯人じゃないって信じてくれているんだろ?」

 

「もちろん☆マリアはアキトが犯人じゃないって信じてるよ!!」

「ありがとう。今はそれだけで充分だよ」

 

 

アキトは優しそうな笑顔を浮かべながら、マリアの頭を撫でる。

子供扱いされたのが気に入らないのか、マリアは不機嫌そうな顔をするものの、顔は赤くなっていた。

 

 

「しかしなんだね・・・神を喚び出そうとして、あんなことになってちゃあ、世話無いね」

「なによ〜!今回はちょこーっと失敗しただけじゃない」

「ちょこーっと・・・ね。マリアのちょこっとってのは幅が広いからねぇ・・・・」

「ちょこっとったらちょこっとなの!」

「はいはい。わかったわかった」

「むっか〜!!」

 

 

またもや口喧嘩を始める二人。

二人を止めようとしたアキトだが、二人の表情を見て、止めることをやめた。

 

二人とも、いつもみたいに嫌悪や怒りといった表情ではなく、笑いながら口喧嘩していたのだ。

これが二人のスキンシップみたいなものなのだろう。

 

 

(今日の最後の報酬は、二人の仲が少しだけ進展したことかな?)

 

 

アキトはそう思いつつ、口喧嘩しながらもエンフィールドに向かって歩いているマリアとエルの後をついて歩いた。

シーラ達も、アキトの横を歩きながら、二人のやりとりを笑いながら眺めていた。

 

 

 

(第九話に続く・・・・・)

 

 

―――――あとがき―――――

 

どうも、ケインです。

今回の中心は、アキトの赤竜の力初お目見えと、異界の魔術をマリアが知る・・・・でした。

その他にも、色々と伏線はあるのですが・・・・設定倒れにしないように頑張ります。

 

元の物語より、かなり逸脱しましたが・・・それなりに、書きたかったことが書けたので満足しています。

ただ、マリアは、アキトの使う魔術を学ぶことを諦めたわけではありません。

いずれまた、何らかの暴走を起こしてくれるでしょう。

 

さて・・・・次回は、オリジナルの予定です。といっても、ちょこっとした余話的なんですけどね・・・・

 

最後に・・・・・K・Oさん、15さん、m-yositoさん、tjさん、watanukiさん、アッシュさん、

ぺどろさん、ホワイトさん、工藤隆也さん、神威さん、齋藤さん、ナイツさん、感想、ありがとうございます!!

 

今度の投稿は三週間後・・・・『赤き力』の予定です。ゼルガディスとアメリアが帰郷した日の晩から始まります。

よろしければ、読んでやってください!では!!

 

 

代理人の感想

ん〜む、「必要があれば」ですか。

アキトの意見にも一理ありますが、私としてはむしろマリアの方に共感しますね。

知らない事を見ればそれを知りたい、解明したいと思うのは

人間としては当然の欲求であり、また進歩の為に必要なものでもあります。

「物珍しさ」の何が悪いか、好奇心が悪いか?と思います。

まぁ、慎重になるアキトの気持ちも理解出来るんですがこればっかりは本能的な欲求(爆)ですからねぇ。

 

 

・・・・・しかし、神様を召喚出来るような魔道書がそこらでホイホイ売られてるのか、この世界(笑)。