悠久を奏でる地にて・・・
第13話『魔法の耳飾り・・・』
―――――七月四日―――――
この日、アキトは依頼の一つである、書類整理を早々に終え、店に帰ろうとしていた。
そんな昼下がり・・・・道を歩いていたアキトに、元気そうな声がかかってきた。
「お〜い!アキト!ちょっと良い?」
「どうかしたのかい?マリアちゃん。それにエルさんも・・・珍しい取り合わせだね」
「まぁね。アタシもそう思うよ」
「ぶ〜☆嫌だったらエルはこなくてもいいよ!」
「まぁまぁ、落ち着いてマリアちゃん。俺が悪かったから・・・・それで、俺に何のよう?」
「うん。この前、私の所為で危険な目にあわせたから、昼食でも奢ろうかなって・・・・」
「この前・・・と言うと、あの召還魔法の失敗のヤツ?」
「そういうこと。アキトは別にいいって言うけど、どうしても気になって・・・・
クリスとシェリル、シーラにはもう奢ったの。で、見あたらなかったエルとアキトを探してたの」
「アタシは、ちょっとした用事があってね、昼食が遅れたから今の時間帯なんだけど・・・・
アキトはどうなんだい?もうお昼をすませているのかい?」
「いや、俺も仕事を終わらせたばかりでね。昼食はまだなんだけど・・・」
「じゃ、問題ないよね!」
アキトの言葉に、マリアが飛び跳ねるように喜んだ。
そんなマリアの様子に、アキトは何がそんなに喜ばしいのか解らず、首を捻っていた・・・
が、アキトは何かを思いだしたらしく、すまなさそうな表情をした。
「ごめん。昼はアリサさんが作ってくれることになっているんだ。
遅れてしまったけど、アリサさんをほったらかしにしておく訳にはいかないからね。本当にゴメ・・・」
「ああ、その事なら大丈夫!アキトを捜しているときにジョートショップに行ったら、
アリサおばさんが『私のことは気にするな』って言ってたから」
「そうなんだ」
「ね・・・・ダメ?マリアに奢らせてくれないの?」
欲しい物をねだるときの子供のように、恥ずかしそうな表情をしながら、俯いて上目使いに見るマリア・・・・・
アキトはマリアの頭をなで、苦笑しながら、了解した。
「わかったよ、そんな顔したら断れないしね」
「わ〜い☆」
端から見れば、一体どちらが奢るのだろうか?と疑問を抱かずにはいられない光景なのだが・・・・
アキトは、マリアが泣きそうな表情より、笑っている方がいいか。と思って深く考えることを止めた。
「早くいこ!マリアもお腹空いたし!」
「え?マリアちゃん、クリス君達と一緒には食べなかったかい?」
「べ、別にいいじゃない!マリアがいつ食べたって!そんな事より、早く行かないとおいてっちゃうよ!」
マリアは頬が赤く染まったところを見られたくないのか、足早にさくら亭に向かって歩いていった。
後に残されたのは、訳のわからないと言う顔のアキトと、苦笑しているエル・・・・・
「俺、何か悪い事いったのかな?」
「あれで気がつかないなんて、アンタもかなり鈍感だね。こりゃシーラ達も大変だ」
「何でシーラちゃんの名前がでるんですか?」
「はぁぁーーー・・・・・・・・自分で考えな。じゃ、あたしは先に行くから」
「?????」
まったく困ったもんだ・・・・という表情でさくら亭に向かうエル。その後を、アキトは悩んだままついていった。
アキトが女心を理解する日は・・・・・当分来そうにもないようだ。
カラン カラ〜ン♪
さくら亭にカウベルの音が響くのと同時に、アキトとエルが店に入ってきた。
昼をやや過ぎているためか、店内に客は少なかった。
「いらっしゃい、エル。それにアキトも」
「こんにちは、パティちゃん」
「よぉ、パティ」
「マリアは無事に見つけたみたいね。で?何にする?」
「・・・・・定食のBセットにしようかな?」
「じゃあ、アタシもそれで良いや」
「了解、Bセット二つね。ちょっと待っててね」
パティはアキト達から注文を受けると、厨房へと姿を消した。
アキト達は、カウンターに座って、こちらに手招きしているマリアを見つけて、そちらへと向かった。
「こっちこっち!」
「はいはい、せかすんじゃないよ」
「なに言ってんのよ!二人が遅かっただけじゃない!」
「ごめんね、遅れちゃって」
「ううん、マリア、別に気にしてないから」
「おい、どっちなんだよ・・・・」
自分とアキトとの対応の差に、呆れたようにつっこむエル。
そのつっこみが耳に入らなかったのか、マリアはアキトを隣に座らせようとしていた。
「はい、おまたせ〜、Aセット一人前と・・・・・・・Bセット二人前ね。じゃ、ごゆっくり」
三人前の定食を持ってきたパティが、アキト達の前にそれぞれ置いて行く。
Aセットはもちろんマリア、Bセットはアキトとエルである。
マリアは、自分のAセットと、エルとアキトのBセットを交互に見る・・・・・
「・・・・・・・エル、マリアのと取り替えて!」
「イヤだ。何で取り替えなくちゃなんないんだよ」
「いいじゃない!ケチケチしないで取り替えてよ!!」
「絶対にイヤだ!!」
「落ち着いて二人とも。マリアちゃん、Bセットを食べたいのなら、俺のと取り替えても・・・」
「それじゃ意味がないの!!いいから取り替えなさいよ!」
「・・・・・・・・・チッ、わかったよ」
エルは、このわがまま娘が・・・・と、心の内で悪態をつきながら、渋々と交換する。
マリアがなぜ意固地になって取り替えたがるのか・・・
その理由を知って、意地を張るのが馬鹿馬鹿しくなったのだ。
「わーい☆」
「まったく・・・せっかくの昼食がまずくなるよ」
「エルさん、何なら俺のと取り替えようか?」
「ああ、気にしないでいいよ。それに、そんな事やったらマリアがむくれるだけだ」
「????」
とりあえず、なんやかんやあったものの、三人は、遅めの昼食を食べ始める。
やはり、普段より時間が遅く、空腹だったためか、あっという間に定食を平らげた。
「あれ?三人とも早いわね。でもちょうど良かったわ。はいこれ」
三人が食べ終わったのを確認したパティは、トレイの上に置いてあった三つのジュースを、アキト達の前に置いた。
コップの中に入ってあった氷が、カラン♪と、心地よい音を奏でる。
「え?いいの?マリア達注文してないのに」
「いいのよ、ちょっとした手違いで余っちゃってね」
「わ〜、そうなんだぁ☆ありがと、パティ」
「別に気にしないで、ちゃんと請求するから」
「え〜!お金取るのー!」
「当たり前でしょう・・・・半額でいいから協力してよ」
「ぶ〜〜☆」
「じゃあ、ジュース四つ分、俺が代金を出しますよ」
「毎度あり〜・・・・って、あたしが出したのは三つなんだけど・・・・」
「トリーシャちゃんを仲間外れにしたら悪いからね」
「トリーシャ?何処に・・・・・」
パティの言葉を遮るように、さくら亭のドアがベルの音を立てながら開き、トリーシャが入ってきた。
アキトのいう通り、姿を現せたトリーシャの姿に、パティ達は驚きを隠せなかった。
「あ!アキトさんとパティさん、エルさんにマリアちゃんまで!こんにちは!」
「こんにちは、トリーシャちゃん。お昼でも食べに来たの?」
「もうお昼には遅いよ、アキトさん。ボクは暇だったから、何かいい噂がないかなぁっと思って来たの」
「そうなんだ。じゃあ、ジュースでもどうかな?奢るけど」
「え?いいの!やったぁー!」
満面の笑顔を見せて、跳び上がらんばかりに喜ぶトリーシャ。
素直な喜びの表現に、アキトは自然と微笑んでいた。
「パティちゃん、そういうことだから・・・・・」
「は!?え、ええ、わかった」
硬直が解けたパティは、厨房へと戻って、もう一人分のジュースを用意して、トリーシャに出した。
「じゃ、あたしは奥で洗い物してるから。何かあったら呼んで」
またもや奥に戻るパティ・・・昼過ぎなので、食器などの洗い物が溜まっているのだろう。
アキトはいつもの癖みたいなもので、手伝おうか?と声をかけたのだが、
別に構わない、とのパティの返事に、再び椅子に腰を下ろした。
美味しそうにジュースを飲むマリアとトリーシャ・・・・
そんなトリーシャの目に、エルの耳に飾っているもの・・・イヤリングが入ってきた。
「ねぇねぇ、エルさん、その耳飾り綺麗だね!」
「え?あ、ああ・・・・そうかな・・・・」
「ちょっと見せてよ」
「い、いや、これはだな・・・・」
「ケチケチしなくてもいいじゃない!」
トリーシャに耳飾りを見せることを渋るエルに、隣にいたマリアまで身を乗り出してきた。
実際、エルのしていた耳飾りは、金色でちょっと洒落たデザインだった。
まだ学生とはいえマリア達も女性。綺麗な装飾具に目が行くのも仕方がないだろう。
だが・・・アキトには、エルが嫌がる理由が、触られたくないだけではないことに、薄々気がついていた。
何か他にも理由があるのだろう・・・そう考え、エルに助け船を出そうとした・・・・その矢先、
「わかったよ。ほら、これでいいんだろ」
「ありがとう!わ〜、きれ〜い!」
「マリアにも見せてよ!」
トリーシャとマリアは、二つの耳飾りをそれぞれ持ち、陽の光に反射させたりして眺めていた。
アキトは、そんな二人の様子を横目で眺めながら、エルにだけ聞こえるように小さな声で耳打ちした。
「いいんですか?エルさん・・・なんだか、大事な物のようだけど」
「そんなに大事なもんじゃないんだけどね・・・・でも、無遠慮に触られたくはないね」
「済みません、早めに俺が止めていたら」
「あんたが謝る事じゃないさ」
エルはそういうと、話はこれまで・・・と言わんばかりに、顔をアキトからマリア達に向けた。
そこでは・・・・・
「ね、ね!似合う?」
「マリアちゃんにはちょっと早いんじゃない?」
「ぶ〜☆ならトリーシャは似合うの!?」
「ボ、ボク?さ〜・・・知らない」
マリアとトリーシャが耳飾りを玩具にして遊んでいる最中だった。
エルは軽く顔を顰めると、やや苛立たしげに口を開いた。
「おい!もういいだろ、返してくれ」
「え〜!まだ良いじゃない!けちぃ!」
「ダメだよマリアちゃん。そんな事言ったら。エルさんのなんだから・・・・」
「ん〜〜〜・・・・じゃぁさ、これ何処で買ったか教えてくれない?マリアも欲しいし!」
「断る!いいからさっさと返せ!」
エルはマリアの耳に付けられた耳飾りを取り返そうとしたが、
マリアはエルの手をかわし、席を立ってエルから離れた。
「い〜や!教えてくれるまで返さないもん!!」
「この!・・・・・・魔法馬鹿が!!」
「なによぉー!魔法も使えない、無能エルフ!」
「なんだと!?この万年自爆娘!」
徐々に声を荒げる二人!以前の一件で多少は仲が良くなったと行っても、それはほんの多少・・・
爆発率が、九割から八割五分に下がった程度でしかない。
「耳飾りを売っている所ぐらい教えてくれたって・・・・・・??
この耳飾り・・・・・・・やっぱり!魔導具だ!」
マリアは耳飾りを手に取り、まじまじと見ながら大声を上げた。
エルは、舌打ちすると、マリアに素早く近づき魔法の耳飾りを奪取しようとする!が、マリアは再び避ける!
人というのは、こういう場合はなぜか避けるのが上手い事が多い・・・・今回のマリアもその類らしい。
「この刻まれている紋様と金属から予想すると、魔力を溜めているのね。
はっは〜ん、わかった!これを使って魔法を使ってたんでしょ!」
「チィッ!それがどうした。さっさと返せ!」
「つまり〜・・・エルは今魔法が使えないんだよねぇ〜・・・・」
マリアは、手を目の高さまで持ち上げ、掌に光球を作り出す!
いつもであれば、この時点で光球は暴発しているのだが・・・幸か不幸か、今回は制御に成功したらしい。
「どうやって防御するのかなぁ〜・・・・・」
「マリアちゃん!人に向かって魔法を使ったら危ないよ!」
トリーシャが慌ててマリアを止めようとするが、マリアが魔法を使った方がほんの少し早かった!
「ルーン・バレット!!」
マリアは光球を遠慮の欠片もなくエルに向かって放った!!
エルは飛来する光球を避けるべく、横に跳ぼうとしたが・・・それよりも先に、アキトが魔法を発動させていた!
「誘蛾弾!!」
マリアの放った光球と、アキトが放った光球とが絡み合うように接触し、
パンッ!!という破裂音と共に掻き消えた!
予想すらしない方法で自分の魔法をかき消されたマリアは、呆然と光球が消えた辺りを見つめていた。
そんなマリアにアキトは歩み寄り、手に持っていた耳飾りを取ると、エルに手渡した。
「い、今のなに!?また異世界の魔法!?すっごい!アキト!今度こそ・・・・」
「マリアちゃん!!」
「―――――!!」
アキトの使った見知らぬ魔法を教えてもらおうと、はしゃいでいたマリアだったが、
今だ聞いたことのない程のアキトの大声に、体を強張らせた。
「どうしてあんな危ないことをしたんだい?」
「あ、危ないって・・・マリア、ちゃんと手加減したもん!」
「アレでかい?魔力の強さからすると、人の顔にでも当たれば、失明とかをしていたかもしれないよ・・・・」
「そんなへましないもん!ちゃんと下の方に・・・・・」
「下の方に?心臓に当たれば、人は死ぬよ?心臓だけじゃない、他にも危険な個所はいっぱいある」
「・・・・・・・・・・・・・・」
アキトは、声を荒げるわけでもなく、ただ淡々とマリアに話しかけていた。
ただ真実のみを告げるアキトの言葉は、頭ごなしに怒鳴られるよりも、マリアには効果があった。
「たとえ、狙った箇所が手や足で、致命傷とはほど遠かったとしても、
当たれば傷を負い、血を流す・・・・・・・解るかい?マリアちゃん」
「ま、魔法で治せば・・・・」
「魔法は万能じゃない・・・・確かに、魔法で治せば元に戻ったように見えるかもしれない。
でも、無くなった足を再生しても、元のように動かせるようになるまで時間はかかるだろうし、
それになにより・・・・死んでしまった人を生き返らせることは誰にもできない。
できる存在はいるかもしれない・・・・・けど、都合良く近くにいるとは限らない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なにより、治る怪我だったとしても、生きている以上、痛みを感じるんだよ・・・」
マリアは、アキトの目を避けるように項垂れる・・・・・
そんなマリアの様子を見て、アキトは軽く溜息を吐いた。
「マリアちゃん・・・マリアちゃんはなんでエルさんに突っかかるんだい?」
「それは・・・・・エルは、エルフのくせに魔法が使えないから・・・・・・」
「魔法が使えないと・・・・いけないのかな?」
「魔法はなんでもできて・・・すっごく便利だもん」
「確かに・・・魔法は便利だね。かくいう俺も、ほんの一年と少し前までは、魔法が使えなかったんだ・・・
いや、知らなかった・・・・というのが本当だね」
「しらな・・・かった?」
マリアはアキトの言葉に、目を大きく広げて驚いていた。
後ろにいるエルやトリーシャ、何事かと覗きに来ていたパティも、かなり驚いている。
それも仕方がないだろう・・・どんな田舎に住んでいる者でさえ、魔法ぐらいは使えないまでも知っている。
それを知らないということは、生まれた頃から人との関わりを絶っている隠者ぐらいしか考えられないのだ。
「だから、俺の住んでいた所には魔法がない・・・使える人なんて1人もいなかったよ。
だけど、それでもちゃんと人は生きてゆける」
「でも!不便だったでしょ!」
「そんな事はなかったよ。確かに、魔法を知った今では、あれば便利だと思ったりするけど・・・
無くても別に困りはしない。それが当たり前だから・・・」
「でも・・・・でも・・・・・」
「マリアちゃん・・・・魔法が使えないから、エルさんに突っかかるのかい?」
アキトの言葉に、マリアは一回だけ、小さく頷いた。
本来、エルフとは魔法に優れた種族で、その魔力は人間とは比べモノにはならない程、強力な場合が多い。
故に、マリアは、エルフなのに魔法が使えないというエルを認めたくなかったのだ。
自分の崇拝・・・もしくは理想を汚されたくないばかりに・・・・
「マリアちゃん・・・・俺はね、魔法は手段だと思っているんだ」
「手段?」
「そう・・・料理に例えるけど・・・魔法で料理を出しても、技術で料理を作っても、結果は同じだよね」
「うん・・・・」
「そこに料理がある・・・それが結果なんだ。ただ、結果に至るまでの過程、手段が違うだけなんだ。
それに・・・魔法で出した料理には個性が存在しない・・・これは料理人である俺の意見なんだけどね。
一つ一つの家庭に、それぞれの味付けがある。マリアちゃんも、アリサさんやパティちゃんの料理は好きだろう?」
「うん・・・・アキトの料理も好きだけど・・・・・」
「ありがとう・・・だから、もう少し考えて欲しいんだ。
魔法というのは、物事を成すための、一つの手段でしかないことを・・・・・魔法が全てじゃないんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「料理に使う包丁は、素晴らしい料理を生み出すための道具・・・・
けど、使いようによっては、人の命を奪う道具にも変わることになるんだ。
魔法も同じ・・・・治癒魔法で人を助けることもできれば、攻撃魔法で殺すこともできる・・・・
マリアちゃんは、人を傷つけたいために魔法を習っているわけじゃないんだろ?」
「うん・・・・・・・・」
「だったら、もう少し考えて魔法を使うんだ。同じ攻撃魔法でも、使いようによっては人を助けるんだからね・・・
そして・・・憶えておいてほしい。人を計るのに、決まった定規はない・・・
魔法も、定規の一つにすぎないんだということを・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・わかった」
「わかってくれてありがとう、マリアちゃん。エルさんも、マリアちゃんのことを怒らないで下さいね」
「わかってるよ・・・・・(アキトがそこまで言ってんのに、これ以上アタシが言えるかって・・・・)」
(よかった・・・・店が壊れなくて・・・ありがとう、アキト・・・・・)
カウンターの中から見守っていたパティが、安堵の溜息を吐いていた・・・・
一応、今までのマリアが起こした器物破損の数々は、マリアの実家が弁償してくれたのだが、
それでも破壊されないことにこしたことはない。
「トリーシャちゃんも気をつけてね」
「うん、ボクも気をつけるよ」
トリーシャも、アキトの言葉を聞き、魔法について深く考えさせられていた・・・・・
学園のどの教師よりも、説得力のある言葉に、深く感銘を受けているらしい。
例え、同じ言葉を他人から言われたとしても、これほど心は動かされないだろう・・・そう、トリーシャは考えていた。
・・・・まぁ、トリーシャのアキトを見つめる眼差しが少し熱いのは・・・・気のせい・・・だろう。たぶん・・・・
「しかし・・・・アキト、魔法もないところから来たなんて・・・あんた一体何処に住んでいたんだい?」
「遠いところですよ。誰も行くことができないくらい・・・・・そこに帰るための旅をしてるんです」
「ふ〜ん・・・・・・」
エルは、アキトの曖昧な言葉に納得することはできなかったのだが・・・・・・
アキトの雰囲気にこれ以上訊くのもなんだと思い、口を噤んだ。
「エルさんこそ・・・なんで魔法が使えないんですか?」
「あたしの中には、魔力が無いんだってさ。だから、魔法が使えないんだよ」
エルの話を簡単に説明するならば、体内にある魔力というのは、容器に入れた水みたいなもので、
魔力許容量というのは、それを一度にどれだけ汲み出せるかの容量でしかない。
魔法というのは、その汲み出した水を、ある一定の法則に従って加工したものなのだ。
エルの場合、魔力許容量は普通のエルフ以上あるのだが、如何せん、源となる魔力がないため使用ができない。
ちなみに・・・・マリアがしょっちゅう魔法を暴走させるのは、
マリアの魔力が異常に強く、魔力許容量がもの凄く大きい事が要因の一つとなっている。
その二つが大きすぎるため、術の制御などが他の人よりも難しくなっているのだ。
・・・・・・まぁ、本人が魔法の技術をいい加減に理解しているのと、集中力の無さも原因なのだが・・・・
・・・・・それはこの場では余談だろう。
「おかしいな・・・エルさんの中から魔力の流れは感じるのに・・・・・・」
「そんなバカな・・・・アタシが居た村の長老が見ても、私の中には魔力が無いって言っているんだぞ?」
「そう言われてもな・・・・俺は確かに感じるんだ。
ただ、その流れが何かに邪魔されているような感じはあるけど・・・・
エルさん、魔法が使えないのはいつ頃から?」
「生まれてからだよ。魔力のないエルフなんて異例だからね、村中が大騒ぎしたらしいよ」
そう言いながら、エルは苦虫でも口に含んだような顔をしていた。
その事で、何かと辛いことでもあったのだろう・・・・と、アキトは薄々予想した・・・・・・・
「と、いうことは・・・お腹の中にいたときにでも、魔力を封印されたのか、
もしくは、先天的に魔力が滞るような体質だったか・・・そのどちらかかな?エルさん、心当たりは無い?」
「あるはず無いだろう。あったらとっくの昔に解決してたよ。
とにかく、アキトのいうことが本当かどうか、私が居た村の長老にでも問い合わせてみるさ」
「そうだね、そうした方がいいよ。ただ・・・・・・」
「ん?まだ何かあるのかい?」
「いや、気のせいだよ、きっと・・・・・
(エルさんの中にある魔力をもっとよく感じようとすればするほど、嫌な予感がする・・・当たらなければいいが・・・)」
胸の中に、一抹の不安を感じるアキト・・・・
嫌な予感が当たることの無いように・・・・そう、心から祈った・・・・・・
―――――あとがき―――――
どうも、ケインです。
今回は山場がない上に、やや短めです。後々のフラグのための話ですからね。
しかし・・・我ながら、よく二週間で間に合ったと思います。仕事が忙しかったですし・・・
なにより、サモンナイト3をやっていましたしね・・・クリアはしていませんが。
ボチボチとやっていきます。SSを書いている間の息抜き程度に。
さて・・・次回は、リサのイベントです。
自警団でありながらアキト寄りの人物、相羽君が少しは活躍する(かもしれない)話となります。
それでは最後に・・・K・Oさん、15さん、Dahliaさん、haruさん、K−DAIさん、SIMUさん、yuuki-sさん、
ホワイトさん、やんやんさん、逢川さん、時の番人さん、遊び人さん、ノバさん、零さん。
感想、誠にありがとうございます。
仕事が忙しかったため、掲示板を余り見る暇がありませんでしたので、
見過ごしてしまった方、居ましたらすみません。
では・・・次回、第十四話『月・・・真紅に染まりし時・・・』で会いましょう。
代理人の感想
う〜ん、ちょっとわざとらしいかな?
説教されるほうが弁解の余地なく間違っていると、説教させるためにわざわざ間違わせたように見えます。
私個人の感覚かもしれませんが不自然な感じがするんですよね。
それと、イアリングを外した直後にアキトが謝るのはちと。
別に連中の保護者って訳じゃないんですからアキトが謝る必要はカケラもありません。
普通こう言うのは自意識過剰というでしょう。