時は遡り・・・
昼食とメロディをカッセル老の元に送り届けたアキトは、さくら亭への道を歩いていた。
(もうそろそろ混雑し始める時間帯か・・・・)
アキトは太陽の高度からおおよその時間帯を割り出す。
ブローディアがないため、コミュニケやディストーション・フィールド発生装置は充電がままならない。
その為、余程の事態がない限り、使用は極力避けているのだ。
ゆえに、アキトは太陽を見るだけでおおよその時間帯が割り出せるという特技が身に付いたのだ。
便利といえば便利な特技である。
(遅いとパティちゃんに怒られるし・・・・もう少し急ぐか・・・)
人と人の間を縫うように歩くアキト。その歩調は淀みなく、そこそこ速い。
もうすぐ昼時のため、通りにはそこそこ人がいるのだが、掠ることもなくアキトは歩き続ける。
その時・・・アキトの知覚が、二つの凄まじい程強大な魔力が発生、高まっているのを感じた!
「この魔力の高まりは半端じゃないぞ・・・リナちゃんとほぼ同程度、もしくはそれ以上ある・・・」
アキトは洒落にならないことを呟く・・・
この世界の人にとってはまったくわからない発言・・・・だが、リナという人物を知っている人ならば、
『この街がいつ灰燼に帰してもおかしくない!』と言っているのにも等しいのだ。
「暢気に歩いている場合じゃないな、最短距離で急ぐか!!」
アキトが呟き終えるのと同時に、その姿が消え失せ、黒い影が家々の屋根の上を駆けた!
あまりに速いため、残像しか目に写らないのだ・・・
その甲斐あってか、アキトはそう時間もかけることなく、さくら亭に着くことができた。
(遅かったか・・・・)
店の窓から立ち上る煙や、頻繁に響いてくる破砕音にアキトは苦々しそうな表情をする。
アキトの脳裏に、さくら亭を大切にしている少女の悲しげな顔がよぎる・・・
二日前、酔っぱらいが暴れて椅子が壊れた際、誰もいなくなった店内で壊れた椅子を見ながら一人悲しんでいた。
アキトはその日に忘れ物をしたため、取りに来たときに偶然見かけたのだ。
「どこの馬鹿だ。こんな事をしでかす奴等は・・・」
アキトは怒りの感情を抑え込みながら、低い声音で呟く・・・
それと同時に、店内にいるであろうパティと、シーラ達の安否が気になり、素早く店内に入った。
そして見たのは・・・パティがカウンターを乗り越えようとしているところと、、
二人の男女が凄まじいスピードで詠唱している場面だった。
(やばい!強力な魔術だ!)
女性の魔力が今までにないほど高まっているのを感じるアキト!
その証拠に、女性の掌には、光の粒子が急速に集束している!
対する男性も、魔力が高まっていることは高まっているのだが、女性には少々及ばない!
「パティちゃん逃げて!!」
シーラも危険なのを感じたのだろう、パティに声をかける!
(間に合うか!?)
アキトは二人を気絶させようと、少しだけ身を屈め、足に力を入れる。
だが、アキトが飛び掛かった直後、女性が魔術を発動させてしまった!!
「烈光の矢」
女性の手から放たれた光の矢が、凄まじいスピードで男性に迫る!
だが、男性も女性とほぼ同時に魔術を起動させていた!!
「光の盾よ!!」
男の眼前に出現した直径三十センチほどの光の盾が光の矢を受け止め、弾き飛ばした!!
だが、最悪なのはこれからだった!!
弾き飛ばされた光の矢は、あろう事かパティに向かって進路を変えたのだ!!
シーラの声で振り返ったパティは、自分に迫りくる光の矢を見た!
(ダメッ!!)
パティは現実を拒否するかのように・・・もしくは耐えるようにきつく瞼を閉じる!!
―――――その次の瞬間!
光の矢が突如破裂し、目映い閃光となって周囲にいる者達の目を眩ませた!
目を瞑っていたパティ以外の者は、光の矢が破裂して閃光へと変化する直前、
別の閃光・・・蒼い光の様なものが横手から光の矢にぶつかったのを見たような気がした・・・・
「グ・・・・ゥゥ・・・・・」
店内に低い呻き声と、水滴が床に落ちるような音が響く・・・
皆はその音がする方向に目を向けようとするが、目が眩んでいるためよく見えないでいた。
「パティ!大丈夫なのかい!?」
「パティちゃん!無事だったら返事をして!!」
リサとシーラは、目がまだ本当に見えないため、パティに呼びかける!
その返事はすぐに返された・・・意外な言葉と共に!
「私は大丈夫だけど!アキトが!!」
「えっ!?!アキト様が此処に!?それに一体何があったのですか!?パティ様!」
「アキトが怪我してるのよ!!」
シーラ達はやっと見え始めた目で、パティが居た方向・・・アキト達の方を見て、ハッと息を飲んだ!
そこには、右腕を押さえてうずくまるアキトの姿と、足元に広がる小さな血溜まりがあったのだ!
そう、アキトはパティを守ることを優先させ、昂氣を纏わせた右腕で烈光の矢を相殺したのだ。
だが、烈光の矢という強力な魔術を相殺するには、ただ昂氣を纏わせただけでは荷が重かったらしい。
相殺しきれなかった破壊力が、アキトの右腕を傷つけたのだ。
そのアキトの右腕は、至る所の皮膚が裂け、脈打つように血が流れ出している。
致命傷ではないが、かなりの重傷だ!
「おい、アキト!大丈夫なのかよ!!」
「・・・・・・だ、大丈夫・・・だ」
アレフの声になんとか返事をしたアキトは、呪文を詠唱し、自ら治癒をかける。
クレアとシェリルも、血を流し続けるアキトの腕に神聖魔法をかける。
パティやシーラはといえば、店の奥から救急箱をもってきて、血を拭いて消毒したり、包帯を巻いたりしている。
「そんな・・・烈光の矢を受け止めてあの程度の怪我だなんて・・・・」
「光の盾越しから感じた感触でも、半端な威力ではないことは確かだ・・・なのになぜ・・・」
お互いが強力と認めている魔術を素手で相殺したのに、被害が右腕の重傷だけ。
それが信じられないのだろう、二人は呆然とアキトの右腕を見ていた・・・
それを聞いたアレフは頭に血が上り、呆然としていた男の胸ぐらを掴む!
女性の方には、険しい顔をしたリサが、アレフと同じく女性の胸ぐらを掴んでいる!
「お前!今、パティは死にかけたんだぞ!
それを反省することもなく、パティを助けたアキトの心配もせず何ぬかしてやがる!!」
「あんたもだよ・・・喧嘩するのは良いんだけどね、やるなら余所でやりな!こんな所でやられたら迷惑なんだよ!」
男はアレフの・・・女はリサの怒気のこもった視線と言葉に負け、気まずそうに俯く・・・
「もういいよ、二人とも」
右腕を包帯で固めたアキトが、立ち上がってアレフとリサを制止する。
まだ治療は完全ではないのか、端にいたシーラ達が心配そうに見ている。
「そんな事より・・・一体何が原因でこんな事になったのか・・・教えてくれるかな?」
『・・・・・・・・・・』
アキトは二人を静かに見る。怒るわけでもなく、非難するわけでもなく・・・・
その視線がかえって痛いのか、二人はさらに気まずそうに俯く・・・・
そして、数十秒ほど経ち、意を決したように女性の方が顔をあげ、アキトを見た。
「私の名前はジュリーといいます。こっちはロミオ。私達は旅の魔術師で、一応・・・夫婦なんです。
今回のことは・・・その・・・恥ずかしながら、金銭についてでして・・・・
夫が隣町のカジノで借金をこさえてしまって・・・それで口喧嘩となって・・・・」
「それが加熱して、手がでた・・・というか、魔術を使ったっていう訳かい?」
「済みません・・・」
リサの言葉に、さらに縮こまるジュリー・・・旦那であるロミオは、ばつの悪い顔をしている。
「ジュリー様はロミオ様が借金をするまで止めにならなかったのですか?」
「元々、夫は賭事好きでして・・・今までは大したことはなかったのですが、なぜか今回に限って・・・」
「妻という立場も大変ですね・・・夫の面倒までみるんですから・・・・」
「そうね・・・でも、逆の場合もあるのよ。こう見えても、良いところもあるしね」
シェリルの言葉に、ジュリーは軽く微笑みながら返事をする。
それは、長年の夫婦生活からきているのか、女性特有の暖かいものを感じさせた。
それを見たアレフは、横に立っているロミオの横腹を肘でつついた。
「おい、奥さんにここまで言われて黙っているなら、夫としての立場はねぇぜ?」
「わ、わかってる。俺も・・・今回のことは反省している。少々度が過ぎていた。本当に済まない・・・」
「良いのよ。反省さえしてくれれば。暫くは辛いだろうけど、やり直せない訳じゃないしね」
「ああ、そうだな・・・」
「どうやら、これ以上は揉めなくてすみそうだね」
「そうね。夫婦喧嘩なんて悲しいから・・・・」
「本当によかったですね」
二人の話し合いが、何やら良い方向でまとまっている様子を見て、アキトはホッと胸をなで下ろした。
その隣にいるシーラとシェリルも、愛し合って出来たであろう夫婦が元に戻るのを見て、心底安堵していた。
「そういえば・・・隣町のカジノってのは、もしかして『ピュータス・カジノ』の事か?」
「あ、ああそうだけど・・・」
急に何かを思いだしたのか、いきなり大きな声をあげたアレフは、
嫁さんと手を取り合い、これからのことを話し合っていた旦那に声をかけた。
「やっぱりそうか!あんたも大損したくちだったのか!」
「そうだけど・・・もしかしてあんたもか!?」
「そうそう、先月の給料を全部もっていかれちまったんだよ」
「給料全部を!?そいつは凄いというかなんというか・・・・」
同じカジノで無一文になった仲間という意識の元、二人の会話は異様に盛り上がり始める・・・
それを唖然としながら見るアキト達・・・隣にいる嫁さんも同じく唖然としていた・・・
「アレフの奴・・・今月の最初、急に何日か休んだと思っていたら・・・そんな事をしていたのか・・・」
「そういえばアレフ君、今月は苦しいっていってたけど、そういうことだったのね・・・」
「適度な息抜きは人として必要ですけど・・・全額をつぎ込むなど、言語道断ですわ。自業自得です」
今現在、家計を預かっているクレアは、アレフの金銭感覚の欠如に立腹していた。
その隣にいたジュリーも、その通りと云わんばかりに深く頷いている。
アキトを含む女性陣から冷たい視線を向けられているにもかかわらず、
アレフ達はそれにまったく気がつくことなく、話に熱がこもっていた。
「やっぱり一番金をつぎこんだのはあれだよな」
「おお、あれあれ」
『ポーカー!』
「もっていった金の大半があそこでなくなったんだよ」
「ああ、俺もだ。しかし、勝ったときのアレ見たさにどうしてもやってしまうんだよな」
「いつも冷静な顔なのに、こっちが勝ったとき、ディーラーの彼女が『貴方、強いのね』なんて言ってさ、
柔らかく微笑んでくれるのがたまらないんだよな〜。また見たくてついつい勝負を続けて・・・」
その時のことでも思い出しているのか、アレフとロミオは惚けた顔をしていた。
そんなロミオに、ジュリーは片方の眉を引きつらせながら、優しく旦那に声をかけた。
「ちょっとロミオ・・・」
「ん?なんだ、今アレフと話をしている最中なんだけど・・・」
「今、聞き捨てならないことを言わなかった?」
「・・・・・・・・な、何も言ってないぞ!!なあ、アレフ」
「あ?あ、ああ!そうだとも」
アレフはいきなりの展開に驚いたものの、ロミオの懇願するような視線に、なんとか口裏を合わす。
だが・・・時はすでに遅かった。
「ディーラーの女性がなんだとか言っていたようだけど?」
「な、何の事やら・・・」
「そういえば、『ピュータス・カジノ』に、ライシアンのものすっごい美女がディーラーしてるって噂があったような・・・」
―――――ピシッ!!
パティの何気ない言葉に、ロミオはまるで凍りついたように体を硬直させる。
その隣にいたアレフは、『あ〜あ、ばれちまった・・・』と呟き、天を仰いだ。
「つまり・・・そのライシアンの女性のため、借金までしてカジノに入り浸ったと・・・」
「いや、その・・・なんだ・・・これにはとてつもなく深い事情が・・・あるような無いような・・・」
ロミオはジュリーの憤怒の顔を見て、顔色を青ざめさせながら徐々に徐々に後退する・・・
完全に腰が引けている辺り、完全に気圧されているのがわかる。
「カジノで息抜き程度ならまだ黙認もできたけど・・・それが女性のためですって?
数年ぶりに堪忍袋の緒が切れそう・・・いえ、切れたわ」
ジュリーから溢れ出る凄まじい魔力の奔流に、セミロングの髪が無数の蛇の如くうねる!
「貴方を始末して、新しい人生を歩むことにするわ・・・」
体から溢れ出ていた魔力が、急速に右の掌に集束し、魔力球を形成する!!
怒りという感情がプラスされたためか、今までにないほど凄まじいエネルギーを感じる!!
「ちょ!ちょっと待て!!話せばわかる!解り合えるはずだ!!」
「問答・・・無用!!」
今まさにジュリーの魔力弾が放たれようとしたその時!
ガガゥン!!
重い銃声音の後に、二人の眼前を二条の蒼銀閃が走った!!
「え?!」
「な!?」
ジュリーは、顔から二十センチ程度はなれた所を駆け抜けた蒼銀の何かに驚き、動きを止めた・・・・
ロミオはというと・・・詠唱無しとはいえ、身を守るために張った防護壁を、
いともあっさりと貫いた蒼銀の何かに驚愕していた・・・
ただ単に、その蒼銀の何かが、自分の前髪を掠ったことに硬直しているだけかもしれないが・・・
二人は、蒼銀の閃光が放たれた元へと、ゆっくりを顔を向けた・・・・
するとそこには・・・左手に赤い装飾銃を構えたアキトの姿があった。
「さくら亭が壊れると悲しむ娘がいるから、これ以上はやめてくれないかな?
もし、まだ続けるのなら、俺が代わりに相手をするけど?」
引き金に指をかけたまま、二人に、どうするのか?とアキトは問う・・・
(ちなみに、放たれた昂氣弾は、壁を貫くことなく、窓から空の彼方へと飛んでいった・・・)
『・・・・・・・・・』
ロミオとジュリーは、アキトの言葉に何も言えなくなる・・・・
アキトからは殺気も、怒気も感じない・・・だが、それが逆に恐ろしいことを、
長年旅をして、それなりに修羅場をくぐってきたロミオとジュリーは知っていたのだ。
そして・・・二人の返答は、素直に何度も頷くことだけだった。
「それはよかった。俺としても、あまり手荒なことはしたくないからね」
アキトは引き金から指を外すと、そのまま銃を下に降ろした。
銃口が逸れたことに、ホッと安堵するジュリーとロミオ・・・・
端にいたシーラ達はというと・・・初めて見せたアキトの武器の形態を、興味深そうに眺めていた。
刀剣類や弓、槍などの武器は世間に多く出回っているが、銃を持つ人はそうそういない。
常時携帯している組織など、国営の公安維持局ぐらいなもの・・・自警団でも、十数名ほど。
一応、シーラ達はマーシャル武器店にて銃を見たことはあるのだが・・・
アキトのはそれらを遙かに上回る迫力。シーラ達が珍しそうに見るのも、仕方がないだろう。
それはともかく・・・銃を下ろしたアキトは、表情を和らげ、諭すような声音で話し始めた。
「夫婦だって人間だから、喧嘩をするのは仕方がないこと・・・だけど、周りの迷惑を考えてくれないかな?
こんなに物を壊して・・・此処にいるパティちゃんは、このさくら亭を大切にしているんだ。
大切なモノが無くなる悲しみ・・・大事な存在がいるお二人には、なんとなくでも解るでしょう?」
「「・・・・・・・・」」
アキトの言葉に、二人はパティを気まずそうに見て・・・うなだれた。
「アキト君の言う通りよ、二人とも・・・」
さくら亭に入ってきた女性が、ロミオとジュリーに声をかける。
女性の声を聞いたロミオとジュリー・・・そして、アキト達は驚いてその女性を見た。
「『夫婦らしい男女が魔法を使って喧嘩をしている』と聞いたから来てみれば・・・貴方達だったのね」
「「アリサ・・・」」
「久しぶりね、ロミオ、ジュリー」
二人に声をかけた女性・・・アリサは、懐かしそうに微笑んだ。
それを見たアキトは、アリサに問いかける。
「アリサさん、その二人と知り合いなんですか?」
「ええ、ロミオとジュリーとは昔なじみなの」
そういうと、アリサは二人の目の前まで歩いていった。
アキトは、この場はアリサに任すべきだと判断し、皆に目配せをして後ろに下がった。
皆のそんな行為に、アリサはアキト達に感謝の微笑みを向けた。
「二人とも、相変わらずのようね・・・」
「恥ずかしいわね、アリサにこんな所を見られるなんて・・・」
「別に構うことはないわ。夫婦の間のことは、私もそれなりに知っているからね」
「そう言ってくれると助かるわ」
「でも・・・ものには限度というものがあるわ」
「・・・・・・・・・」
「貴方達は忘れたの?六年前、貴方達が喧嘩をして、タカマハラの街を壊滅させたのを・・・」
アリサの言葉に、シーラ達は鋭く息を飲んだ・・・
凄腕の魔術師であることは薄々と感づいてはいたが、街一つを喧嘩で壊滅させるほどだとは思わなかったのだ。
例外なのはアキト・・・感じた魔力から、その程度はやるだろうと感じていたので、さほど驚いた様子はない。
ただ・・・パティを助けるためとはいえ、魔術の間に無理矢理割り込んだのは無謀だったと、苦笑してはいたが・・・
「幸い、あの時は死者を出すことだけはなかったけど・・・今回もそうだとは限らないわ」
「そ、それは・・・」
ジュリーはアキトの右腕に巻かれた包帯を見た後、気まずそうな表情でうなだれた・・・・・
「ロミオ・・・今回のこと、また貴方が原因なんでしょう?」
「う・・・ま、まあ・・・そうだけど・・・」
「貴方達がいつまで経ってもそんな調子だったら・・・死んだ亭主も、安心して眠れないわ」
『・・・・・・・・・・・』
アリサの言葉に、ロミオとジュリーは完全に沈黙する・・・
「済まない、アリサ・・・」
「御免なさい、また迷惑をかけたわね・・・」
「仲直りして良かったわ。でも、謝る相手は、私じゃないでしょ?」
「そうだな。本当に済まない。俺の所為で君達に迷惑をかけてしまった」
「本当に御免なさい・・・」
「俺は構いません。でも・・・」
アキトは店内の破壊された箇所を見る。
崩れるような致命的なものはないが、ほぼ半壊と言っていいほど酷い有り様だった。
「そうね、パティちゃんに謝罪するために、店の修理を頑張ってね。二人とも」
「修理って・・・もしかして、魔法を使ってか!?」
「アリサ・・・物質の再構成や復元って、結構難易度も高いし、疲れるんだけど・・・」
物質の復元といった術・・・ジュリーは結構とか言ってはいるが、実際は極めて難しい。
小さな物程度なら、ある程度熟練した魔術師でもできるが、
さくら亭の破損個所全部となると・・・できる人物はそうはいない。というか、かなり希である。
無論、難易度と共に魔力と体力の消費は桁違いに高くなる。
「頑張ってね。それと、後小一時間もすれば、自警団と公安の皆さんが来るから。
それまでに元通りにしておかないと、大変なことになるわよ」
「自警団と公安ねぇ・・・どちらにしろ面倒だな。それじゃあ、元通りに直すか」
「そうね、ロミオはテーブルとか椅子をお願いね、建物自体は私が直しておくから」
「了解、新品同然に直してやるさ。さぁさ、アリサ達は外に出て待っててくれ」
「わかったわ。みんな、外に出ましょう」
アリサはそう言うと、成り行きを見守っていたアキト達を連れて、外へと出ていった。
「凄いですわ・・・」
「ええ、見る見るうちに復元されていますね・・・・」
クレアとシェリルが、どんどん復元されるさくら亭の外壁を見て、呆然と呟いた・・・
アキト達も例外ではない・・・野次馬もそうだ。
それも仕方がないだろう。何せ、時間を巻き戻すかのように、壁が復元されて行くのだから・・・
「まあ、ちゃんと元通りに直してくれるのなら、許してあげるわ・・・」
パティは復元されてゆくさくら亭を見ながら、小さな声で呟いた・・・
本当なら、あの夫婦を怒鳴り散らすなり、損害賠償を請求するなりするところなのだが、
なにかと世話になったりするアリサの手前、文句を言う気にもなれなかったのだ。
結局、小一時間でさくら亭を元の姿に復元させた魔術師の夫婦は、
次の日、アリサ達に別れを告げて旅立っていった・・・・・
「昨日はさんざんだったな・・・右腕は怪我をするし、さくら亭は壊れるし・・・」
アキトは二人を見送りながら、ポツリと呟いた・・・
隣にいてその呟きを聞いていたパティは、苦笑しながら返事をした。
「そうね・・・でも、さくら亭は元通りに直ったし、あんたの右腕も、魔法でもう治ったんでしょ?」
「まあ、問題がない程度にはね」
「ならいいじゃない・・・」
パティはそう言うと、さくら亭に戻ろうとして、途中で足を止めた。
そして、振り返らないまま、数歩後ろにいるアキトに声をかける・・・
「ねぇ、アキト・・・」
「ん?どうかした?パティちゃん」
「昨日は・・・庇ってくれてありがとね。身体、大事にしなさいよ」
「・・・心配してくれてありがとう、パティちゃん」
「べ、別に心配なんかしてないわよ!ただ、手伝ってくれる人がいなくなると、困るからよ」
パティは振り返らないまま、早足でさくら亭に向かって歩いていった・・・
真っ赤になった顔をアキトに見られないために・・・
アキトはそんなパティの優しさを感じながら、自分もさくら亭へと向かっていった・・・
今日も、さくら亭でのアルバイトが始まる・・・
それは・・・騒がしく、そして楽しくあたたかい・・・一日の始まり。
(第十九話に続く・・・)
―――――あとがき―――――
どうも、ケインです。
なんとか二週間で書けました。本当にギリギリです。
さて・・・今回の話は、あまり山場もありませんし、伏線もあまりありません。
本当に、さくら亭の日常・・・ちょっと変わった日常といった感じです。
次回の話の元は、トラブル・イベント2です。一年の半分・・・折り返し地点ですね。
相も変わらず、中身を弄りまくりますので、話がひどく長くなる予定です。
今現在の構想段階で、五話分・・・その1、その2と分けたり、前中後編としますので、実質は三話でしょうか。
しかも、七割以上が戦闘パートです。(アキトだけではなく、仲間達も別々に戦いますので・・・)
戦闘が苦手、もしくは嫌いな方、申し訳ございません。先に謝っておきます。
それでは最後に・・・K・Oさん、15さん、haruさん、K-DAIさん、NTRC直さん、tomohiroさん、
ホワイトさん、やんやんさん、逢川さん、時の番人さん、ノバさん、
ほろほろさん、ジショウさん、ROMさん、Effanddrossさん。
感想、誠にありがとうございます。
次回の投稿は、今月末近く・・・というか、また三週間開けます。
一度、骨組みまで書いておかないと、後で変になったりしますので・・・済みません。
それでは・・・次回『出会えた君に祝福を・・・』(仮)で会いましょう。
ケインでした・・・
代理人の感想
つーか。何故捕まらないんだろうこいつら?
罪状からすると、どう考えても賞金つきの極悪人なんですが(爆)