悠久を奏でる地にて・・・

 

 

 

 

第31話『授業参観』

 

 

 

 

 

 

―――― 一月 七日 ―――――

 

 

年が明けて十日…街の者達にとって今までになく白熱した大武闘会より一週間。

大武闘会の熱は通り過ぎ、街は徐々に日常の生活へと戻っていった。

 

 

そんな普通の日の夕方―――――ジョートショップにて。

 

店の中には、明日からの仕事のため、依頼書をまとめているアリサと、その補佐をしているアキト、

そして、アキト作の小さなモップを持って店内の床掃除をしているテディ……

 

二人と一匹がそれぞれ自分の役割を果たしているその時、店の扉からコンコン…というノックが店内に響いた。

 

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 

アリサが声をかけた後、扉が開き一人の男が入ってくる。

その男とは、自警団・第一部隊の隊長、リカルド・フォスターだった。

 

意外といえば意外な人物。今日は休日、勤務外でリカルドがわざわざ立ち寄る用件など思いつかない。

家でゴロゴロしていたところをトリーシャに追い出された…とも考えられるが、

仮にそうだったとしても、彼なら自警団事務所に出向いたりするのが常なので、わざわざ此処に来る理由はない。

 

はずだが………

 

 

 

「あら、リカルドさん。こんにちは。どうかしたのですか?」

「どうも。今日はちょっと頼みたいことがありまして……」

「お仕事の依頼ですか?」

「ええ、そうです。アキト君へ仕事の依頼に来ました」

「俺に…ですか?」

 

 

少々訝しがるアキト。リカルドがわざわざアキトを指名するなど、なにやら厄介そうな感じが強くするからだ。

それが解ったのか、リカルドはアキトに向かって苦笑いをする。

 

 

「そんなに警戒しないでくれたまえ。依頼と云っても荒事ではないのだから」

「………」

 

 

”厄介なこと”がいつも”荒事”と結びついているわけではないことを日常で知っているアキトは、

リカルドに疑いの眼差しを向けたまま警戒する。

そんなアキトに、リカルドはまいったな…という風に顎をさする。

 

 

「実は、急に明日から四日ほど王都の方に出向かなければならなくなってね」

「そうですか…大変ですね」

 

「まぁ、仕方がないと言えば仕方がないのだが…問題は十日の日明々後日にあるトリーシャの授業参観なのだ。

その日の有休申請もしており、私は行くつもりだったのだが…そう言う訳で行けなくなってな」

 

「どうにかできないんですか? 代理をたてるとか、日程をずらしてもらうとか……」

 

 

せっかくの授業参観…エンフィールド学園では授業参観は年始と夏の二度しかない…なのに、

父親が来られないなんてトリーシャちゃんが可哀想すぎる。

と、アキトは純粋にそう思い、何とかならないかとリカルドに頼み込む。

しかし、それでどうにかなるのならわざわざリカルドが何かを頼みになんて来ない…と、

アキトは同時に頭の片隅でそう判断していた。

 

 

「私としてもそうしたかったのだがね…どうしても私が行かなければならないのだ。

それに、日程もずらせない…これでも、ギリギリの日程なのだ」

 

「ギリギリ…ですか?」

「往復で約二日、王都での仕事に二日の計四日間行程だ。それで、ギリギリ次の満月の日に間に合う」

 

「―――――ッ!」

 

 

リカルドの言葉にアキトはそうだった…と言わんばかりに顔を顰める。

次の満月の日―――――その日には、大切な用件があったのだ。

 

 

「例の報告書はできたらしいが、手間がかかる遠方郵送では間に合わないらしい。

直接出向いて、大急ぎで帰った方がはるかに早いと、魔術師協会経由で念話による伝達があった」

 

「そうですか…すみません」

 

 

リカルドに向かって頭を下げるアキト。

この事に関しては、アキトがリカルドに無理を云って頼んだことなので、これ以上は何も言えないのだ。

 

 

「話は戻すが…私のお願いしたいのは、今度の授業参観の代理をアキト君…キミに頼みたいのだよ」

「俺がですか? でも、トリーシャちゃんがそれで納得するんですか? やはりリカルドさんが……」

 

「いや、その事に関しては問題ない。

私が行けないことに怒っていたが、代理をアキト君に頼むと説明したら、二つ返事で了承してくれた」

 

「そ、そうですか……(俺で良いのかい? トリーシャちゃん)」

「そう言う訳だ。アキト君、引き受けてくれるかな?」

「わかりました。引き受けます」

 

 

父兄の立場で授業参観など行ったことなく、少々不安だったが、トリーシャのためだと考えた。

元を正せば、アキトがリカルドに頼んだ用件が要因なのだ。アキトに断るという選択肢はない。

 

 

そしてリカルドとアキト達は依頼書の作製と報酬の相談をすませ、正式に仕事して引き受けた。

ちなみに報酬はかなり格安。只リカルドの代わりに見学に行くだけなのだから当然と言えば当然だった。

 

 

「では、頼んだよ。アキト君」

「ええ。できる限りやってみます」

 

 

 

再度頼むリカルドに、アキトはしっかりと頷きながらそう答えた。

 

 

 

 

 

そして三日後――――― 一月十日。

エンフィールド学園の授業参観の日がやってきた。

 

 

「おぉ、テンカワ君じゃないか」

「あ、モーリスさん。こんにちは」

 

 

学園の運動場に集まった魔法学部の生徒とその父兄達。

マリアの父親モーリスリカルドの代理アキトが挨拶を交わしていた。

 

 

「うむ、こんにちは。しかし、君は何故此処に…もしかしてマリアを見に来たのかね?

むむ、それはいかん、いかんぞ! マリアの父兄は儂だからの!

いかにテンカワ君とはいえ、これだけは絶対に譲れんぞ!!」

 

「ははは、違いますって。リカルドさんが出張中なので、代理を頼まれたんですよ」

 

「なんじゃ、そうなのか。それならいい。

それじゃ、ウチのマリアもしっかりと見てくれ。儂ほどじゃないだろうが、君がいるならマリアも喜ぶだろうしの」

 

「はい。それにしても、全員をグラウンドに集めてなにをするんですか?」

 

 

魔法学科の生徒達とその保護者達、そしてその周囲に居る自警団員の面々。魔術師らしき人物もそこそこいる。

通常の授業参観という雰囲気ではない。まるで、危険があるから警戒している。

無論、”厳重”といった感じではなく、念のため…みたいな感じだ。

 

 

「もしかして、君は初めてなのかね?」

「ええ」

 

「そうか。なに、この時期のマリア達”魔法学科”の授業参観は魔法の実演…実技だからの。

万が一に用心しておるだけだよ。毎年ではないが、偶に魔法を失敗するときもあるのでな。

魔術師や自警団員がその万が一の時のために…な。

まぁもっとも、ウチのマリアがそんな失敗から皆を守るだろうて。

なにせ、マリアの将来はエンフィールド一の…いいや、世界一の魔術師だからの!」

 

 

モーリスはそう豪語すると、はっはっはっはっ―――――と自慢げな笑みと共に笑いはじめる。

その言葉にアキトは、マリアちゃんって、今までの授業参観で失敗ミスをしなかったんだな…と、内心で呟いた。

 

そのアキトの予想は大当たりで、今までマリアは授業参観ではなぜか決定的な失敗ミスをしていなかった。

その影で、マリアに授業では簡単な魔術を使うように、と必死に頼んでいる先生の姿があったとかなかったとか…

 

 

閑話休題それはさておき……

 

 

「あ、アキトさんだ!」

「え、どこどこ―――――あ、ほんとだ! お〜い☆」

 

 

保護者の中からアキトの姿を見つけ、自分をアピールするように大きく手を振りながら走り寄るトリーシャ。

偶々隣にいたマリアも、トリーシャと一緒にアキトとモーリス(前者がやや優先)に向かって駆け寄った。

 

 

「アキトさん、本当に来てくれたんだね」

 

「それはそうさ。一応とはいえ仕事だからね。

それに、いつも世話になってるトリーシャちゃんやマリアちゃん達の授業参観だから。

みんなが喜んでくれるなら、仕事じゃ無くても見に来ないとね」

 

 

優しく微笑みながらトリーシャの頭を撫でるアキト。

えへへ…と、頬を赤らめ恥ずかしそうに笑うトリーシャ。

その隣にいるマリアはム〜…と、物欲しそうな目で二人を見ていた。

 

 

「さ、二人とも。もうすぐ時間みたいだよ」

「あ、ほんとだ。マリアちゃん、早く行かないと怒られるよ」

「うん……」

「マリアちゃんも頑張ってね。モーリスさんと一緒に見てるから」

「うん! アキトもパパもしっかり見ててよね!」

 

 

ちょっと不機嫌気味のマリアだったが、アキトの一言で明るい笑顔になり、トリーシャと共に自分のクラスに戻る。

そんなマリアに向かってモーリスは大きな声で声援を送っていたが、

マリアの『恥ずかしいから止めてよ!』という抗議の言葉に、ションボリと落ち込んだ…

 

 

「う〜…マリア、パパは悲しいぞ」

 

「ま、まぁまぁ。そんなに落ち込まないでくださいよ。マリアちゃんも年頃の女の子ですからね。

恥ずかしがってるだけですよ。きっと内心では嬉しいはずですよ、モーリスさん」

 

「そうかのぉ…」

 

 

とまぁ、アキトがモーリスを慰めているのを余所に、授業参観はつつがなく開始されてた。

 

 

先生に名を呼ばれた生徒が前に出て、準備されていた的に向かって魔法をかける。

的…といっても、人型を模した人形、悪く言えば案山子かかし擬き…ダミーみたいなものだ。

それが十数体、まるでボーリングのピンの如く、三角を描くように設置されている。

 

生徒が使う魔術が対個人用ルーン・バレットなどだけではない為、複数用意したのだろう。

だが、只のダミーではないらしい。

 

 

 

「ルーン・バレット!!」

 

 

生徒の一人が作った三つの光球が螺旋を描きながらダミーに接触、爆発する。

その爆発により、先頭にいたダミーの腕の部分がポロリ…と落ちる。

 

無事に魔法が成功した生徒の安堵の溜め息、それを拍手する保護者達。

その様子を余所に、落ちた腕が独りでに宙に浮かび上がり、元通りに復元する。

どうやら、自動的に復元するような魔術をダミーにかけているらしい。

 

生徒の中にはニードル・スクリームを使い、複数のダミーに穴を空ける者もいたが、

エネルギー針が消滅して数秒後、やはり穴が塞がり元通りになった。

 

ここにいる保護者達には見慣れた光景なのだろう、誰も驚いた様子は見せない。

アキトも最初は驚いていた様子だったが、すぐに興味深げにダミーを視る。

 

(ふ〜ん…回数限定か)

 

アキトの目には、再生するたびにダミーが纏う魔力が減っているのが視えた。

おそらく、控えている魔術師は万が一の時以外に、魔力の補給要員の役割もあるのだろう。

 

 

(見たところ、ある程度の威力で腕とか外れる作りらしいな…ルーン・バレットで片腕、アイシクル・スピアで両腕。

ニードル・スクリームは多数だが、威力が低くて穴が空くだけ。これが標準の威力か…

これなら、おそらくマリアちゃんが本気を出せば、初級魔術ルーン・バレットでダミーを破壊してしまうな。

そういや補助系…精霊魔法や錬金魔法ならどうなるんだ?)

 

 

各種の精霊の力で対象の力を補強する”精霊魔法”。

そして、精霊の力を自らの魔力で加工し、特殊な効果をもつ術にする”錬金魔法”。

 

 

先のは完璧に対象に取り込むことによって効力を得る術。

ルーン・バレットなどの物理魔法に比べると見た目はまったく地味なためか、

使用する生徒がいないため、使用すればダミーがどんな反応を示すか解らない。

 

後のはやや特殊なためと、目的が戦闘補助が多いので覚えようとする生徒があまりいないらしい。

やはり、魔法使いといえば派手な魔術を使うか、怪しげな薬でも作っているイメージが強いからだろう。

見た目に派手で、身を護るのにもっとも効果的な物理魔法を重点的に覚えているようだ。

 

 

アキトがそう考えていたその時―――――

仲間の一人であるシェリル・クリスティアの出番が回ってきた。

 

 

「シェリルちゃん、頑張って」

 

 

アキトの声援にシェリルは照れたように顔を赤くしながら、軽く手を振り返す。

そして、表情を一変…真剣な顔をして、ダミーの群に両手を向ける。

 

 

そして、軽く二・三回ほど深呼吸した後、呪文の詠唱を開始する。

 

 

「大地の精霊よ 我が力と意志を受け 不可視の鎖を持って敵を束縛せよ――――グラビティ・チェイン!!

 

 

シェリルが魔法を発動させると同時に、真ん中にいるダミー一体を中心に、大地に光の円が描かれる。

その光の円は約二メートルほど。複数のダミーが光円の中に入っている。

 

そして、その光円の中の地面から不可視の…重力の鎖が飛び出てダミー達に絡み、束縛する!!

 

 

「ふむ…通常のモノより範囲も広い。魔法の構成に手を加えたか…制御も完璧。なかなかの才能だ」

 

 

近くにいた魔術師の呟きを聞き取るアキト。

その言葉に軽く微笑した後、魔術を維持しているシェリルに視線を戻した。

 

 

(それだけじゃない…シェリルちゃんが相当に練習した結果だ。みんなの助けになるために)

 

 

戦闘時、魔術師であるシェリルは後方支援が主な役割だった。

普通なら、魔術師は『前衛が敵を足止め、しかる後、後方より強力な魔法で一気に殲滅』と考える…が、

事、攻撃力に関してクレア達はかなり高く、通常の戦闘程度では強力な魔法を使う場面はない。

 

故に、シェリルが選んだ道は戦闘補助を目的とする魔法を極めることだった。

強力な攻撃が必要な場合は、自分よりもはるかに魔力が高いマリアに任せればいい。と判断したのだ。

実際は、シェリルの魔法力もかなりのものなのだが…あえて、シェリルは補助魔法を取った。

 

まぁ、これは性格的な問題であって、マリアがバンバン派手な魔法を使いたがるのと同じで、

シェリルは派手な魔法を使うよりも、パートナーの補助をすることに意義を感じるタイプだからだろう。

 

しかし、間違ってはいけないのは、シェリルが決して並の魔術師の器ではないことだ。

シェリルの魔力許容量キャパシティはかなり大きいのだ。

それこそ、所業はどうあれ『大魔導師』と呼ばれる存在を感心させるほどに。

 

現に、

 

 

ボスッ!

 

 

グラビティ・チェインの加重に負けたのか、ダミーの片腕が重い音をたてて大地に落ちる。

それもただ落ちただけではなく、地面にめりこんですらいる。

 

それに続き、効果範囲内のダミーの腕が次々に大地に落ちてゆく。

これではもはやサポート・レベルではなく、下手な攻撃魔法並に威力があるだろう。

下手をすれば、大型のモンスターですらも身動きがとれず、大地に縛り付けるほどだ。

 

 

「ふぅ…」

 

 

一息吐くと共に術を解除するシェリル。効果範囲内のダミーの腕はみな大地に落ちている。

並のルーン・バレットで腕一本だと考えれば大した…いや、凄まじい力だと言える。

 

その光景に、生徒の大半と保護者達はもちろん控えていた魔導師も拍手を送っていた。

だが、生徒の一人が見事な魔術を披露したシェリルを険のある瞳で見ながら忌々しそうに舌打ちし、

その視線は、続いて前に出たクリスにも向けられた。

 

 

 

 

(さて…クリス君は一体どの魔法を使うどういうことをするのかな?)

 

 

胸の前辺りで両手を組み、魔術の詠唱を始めたクリスにアキトはシェリルに続いて期待の目を向ける。

主力の戦闘メンバー唯一の男であるアレフの補助をすることが多いクリス。

今は神刀・朱雀強力な武器を手に入れたが、以前はごく普通の鋼の剣を使っていたため、

クリスは攻撃と補助魔法を効果的に使ってアレフと共に多くのモンスターを倒してきたのだ。

実質クリスは魔法使い組で、一番バランスの良い魔法使いであると言える。

逆に言えば、突出した長所がない万能オールマイティー型なのだ。

 

補助がそう必要でなくなったアレフから独立し、後方の戦闘員となったクリス。

一体どういう系統の魔法を覚え、戦闘を進める気であるのか…アキトはそれが気になっているのだ。

 

クリスもそれに気がついているのだろう、アキトに向かってにっこりと笑うとダミーに向かって両手を向ける。

 

 

「大地の精霊よ祝福を―――――イシュタル・ブレス!

  氷槍よ 貫け―――――アイシクル・スピア!!

 

 

 

大地より生み出された黄色の宝玉がダミーの中に吸い込まれるように消える。

そしてその後、続いて放たれた氷槍に身体の中心を貫かれ、両腕を落とす。

 

簡単に言えばそれだけだ。イシュタルブレスをかけられ、アイシクル・スピアで攻撃された。

別段変わっていない光景に、参観していた保護者達はそれなりに拍手を送る。

だが、教師陣…そして魔導士達はクリスのやったことに驚きの表情となっていた。

 

 

「なんという少年だ…あの歳で『短縮』が使えるとは……」

 

 

近くにいた魔術師…先程シェリルを誉めていた者…の驚きの声がアキトの耳に入る。

その中のある言葉に疑問をもったアキトは、その魔術師に質問する。

 

 

「あの…『短縮』ってなんですか?」

「ん、ああ…『短縮』とは文字通り魔法の詠唱を短くすることだ」

「それは…便利ですね」

 

 

身も蓋もない、そのまんまの言葉に適当に相づちを打つ。本当に訊きたいのは別の事だ。

 

 

「でも、それなりに技術が必要なんでしょうね」

 

「その通り…魔術の構成を完全に理解するのはもちろん、

その短時間で魔力を必要な基準値まで高め、魔法として発動させなければならない。

だがそれは単純に魔力や魔力許容量キャパシティが大きければいいというものではない。

魔力を操る独特なセンスが必要なのだ。

ある程度以上…一流の魔術師ならば大方使えるのだが、あの歳で使えるとは…素晴らしい才能と云うしかない」

 

 

クリスの才能を静かに賞賛する魔術師。

だが、本当に気づくべき所に気がついているのはアキトだけだった。

 

イシュタル・ブレス…防御力を上げる魔術をかけられながらも、

アイシクル・スピアでダミーの腕を両方とも落としたその威力を。そしてそれを引き出したクリスの実力に。

 

皆の拍手に、照れたように頭を掻くクリス。

そのクリスの開花しつつある才能と、それを促した日々の努力に敬意を表しながら、

アキトはクリスに惜しみない拍手を送った。

 

 

それを面白くない様子で見ている二つの視線…

一つは、シェリルから引き続きクリスを忌々しそうに見ている生徒の一人。

 

そしてもう一つは…もうすぐ出番が来るマリアだった。

 

自他共に認めるジョートショップ最強の魔術師。

今の技術や努力で成長したクリスやシェリルと比べても、それは変わらない。

変わり様の無いほどマリアは魔力が強く、本人も成長して制御力を身に付け始めている。

そして仲間…というか、友達が成長しているのは嬉しいというのが本音。

だが、それはそれ…アキトに賞賛されていることに嫉妬しているのだ。

まぁ、好きな人の視線を独り占めしたい! と云う感じの可愛い嫉妬なのだが……

 

もうすぐ出番を控えるマリアにとって、それは吉とでるか凶とでるか……はっきり云って不安だ。

特に、今年も無事に授業参観が終わることを必死に祈っている教師達にとっては…

 

そんな教師達の祈りが天に届いたかどうかは別として…

生徒の実技はつつがなく次々と行われ、とうとうマリアの出番となった。

 

 

「……………」

 

 

珍しく静かな態度で前に出るマリア。いつものマリアなら、自信満々な態度をとっているはずだ。

緊張している…と、普通なら考えるのだが、今までのマリアの所業を知る者は『嵐の前の静けさ』と感じていた。

 

『頼む、頼むぞ〜、今年も問題を起こしてくれるな〜』という念を必死に飛ばす教師陣。

対してマリアはそんな教師の念など感じる気配もなく、チラッとアキトの方を見て、

 

 

「むんっ!」

 

 

という、可愛らしい掛け声をかけながら自分に気合いを入れる。

 

 

(マリアだってアキトと一緒に特訓して、それでいっぱい努力したんだもん!

シェリルやクリスなんかには負けないんだから!!)

 

 

どうやら、先の嫉妬がマリアのやる気をいたく刺激してしまったらしい。

どうやら、教師達の頼み(もしくは願い)は叶いそうもないみたいだ。

 

 

「我が内にある魔力マナよ 一繋ぎの炎となり 我が敵を滅ぼせ!!」

 

 

マリアの詠唱を聞いた魔術師、並びに教師達が顔を青くすると、すぐさま防護障壁を展開させる!

慌てふためくのも仕方がないだろう。マリアから立ち上る強大な魔力の波動を視れば…

 

 

「急いで結界を展開しろ!」

「保護者を最優先だ!」

 

 

護るべき対象の保護者を優先に防護結界を張る魔術師達。

続いて、学園校舎を護るべく、グラウンドをスッポリと結界が覆いつくす。

 

さすがは一流の魔術師専門家。魔術の構成、展開が生徒達と比べて段違いに早い。

 

といっても間一髪の差。結界を張った直後にマリアの魔術も完成する!

 

 

 

「カーマイン・スプレッド!!」

 

 

マリアの魔術が発動すると同時に、先頭にいるダミーが深紅の爆発に包み込まれる!

だが、その魔術はそこでは終わらない。

 

まるで連鎖反応でも起こしたかの如く、次々に爆発が巻き起こる!

しかも、一回爆発が起こるたびに、前のそれよりも大きく派手に爆発する!!

 

 

「な、なんという威力! まるで『ヴァニシング・ノヴァ』並―――――いや、それ以上だ!!」

 

 

爆風を防護結界で防いでいる魔術師の一人が驚愕の声を上げる。

カーマイン・スプレッドとは、深紅の爆発を次々に巻き起こし、対象に超ダメージを与える上級魔術。

そして、ヴァニシング・ノヴァとは、魔力により純エネルギーと反エネルギーを生みだし、

それを反応させて超強力な爆発を発生さて敵集団に超強力なダメージを与える最上級魔術。

 

上級魔術カーマイン・スプレッド最上級魔法ヴァニシング・ノヴァクラスの威力を出す。

しかも、マリアの場合は只それだけではなく、最終的な爆発はダミー全部を破壊してしまっている。

破壊力だけでなく、範囲ですらそれに及ばせるなど、そうそう簡単には…否、並大抵では不可能だ。

 

 

「へっへ〜ん☆」

 

 

見事魔術を成功させたマリアが、得意満面な笑顔でアキトに向かってピースする。

そんなマリアに、アキトは微苦笑を浮かべた後、普通の笑みでマリアに拍手した。

隣にいるモーリスなど、マリアの勇姿にはしゃぎながら、

 

 

「マリア〜、見事じゃったぞ〜」

 

 

等々、大きな声で賞賛していた。それこそ、周囲がちょっと引くほどに。

さすがに恥ずかしくなったマリアはモーリスに小走りで近づくと、怒りながらそれを制止する。

 

しかし、顔を真っ赤にして怒る様子を見せていても、それは照れ隠しだとアキトにはありありとわかった。

 

 

そんなこんなで、怒られたモーリスが肩を落としてシュン…と落ち込むのを横目に、

マリアは嬉々とした笑顔でモーリスの隣にいるアキトに問いかける。

 

 

「ねぇねぇ☆ マリアの魔法、どうだった?」

「とっても凄かったよ。それに、完璧に魔術を制御できたね」

「まぁね! マリアとっても頑張ったもん☆」

 

 

胸を張るマリアの頭を優しく撫でるアキト。

マリアの努力を、一緒に魔術制御の特訓に付き合ったアキトはよく知っているからだ。

 

 

(本当に…よく頑張ったからね、マリアちゃん)

 

 

マリアの魔法失敗の大きな理由は、以前にも述べたことがあるが、強大な魔力と魔力許容量キャパシティにある。

あまりにも大きすぎるその二つにマリアは振り回され、結果、魔術の暴発という惨事を巻き起こしていたのだ。

 

例えるなら、ルーン・バレットに必要な魔力を十とする。

だが、マリアの場合はルーン・バレットに五十も百も使ってしまうのだ。これでは暴走も仕方がないだろう。

もし、それ相応の魔術の制御力があれば問題はないが、

あいにくとマリアは無意味なまでの自信と集中力のない性格故に、通常よりもやや下程度の制御力だったのだ。

 

それが今では、暴走してもおかしくないほど魔力を供給した上級魔術カーマイン・スプレッドを完璧に制御して見せた。

なんの小細工もなく、己の実力のみで…

 

その素晴らしく成長したマリアを、アキトは本当に嬉しく感じた。

 

 

「さ、マリアちゃん。まだ授業中だよ。早くクラスあっちに戻らないといけないよ」

「ぶ〜…わかった」

 

 

頭を撫でることを止めたアキトにマリアは不満をもらしたが、渋々と自分のクラスに戻っていった。

 

 

「ねぇねぇマリア、今のカーマイン・スプレッドって凄かったね!」

「一体どんなことしたらあんな事できるんだよ」

 

 

マリアに今の魔術についての質問をする生徒達。

それに得意満面な笑みを見せながら答えるマリア。

もっとも、『全力でやっただけだよ』という、身も蓋もない、参考にもならない答えだったが……

 

そんなマリアに、う〜…と小さく唸りながら上目づかいに見るトリーシャ。

もうすぐ出番なのに、あんな派手にやったマリアの後に何やっても、自分が地味に見えると思ったのだ。

 

実際、今実技を行っている生徒の魔術がひどく地味に見えているから、その気持ちは殊更強い。

 

 

(マリアちゃんったら、アキトさんに良い所見せたいのはわかるけど、あんなに派手なのやること無いじゃない!

ボクはマリアちゃんみたいに派手な魔術も、クリス君達みたいに凄い技術もないのに!!)

 

 

八つ当たりと理解しつつも、思わず愚痴らずにはいられないトリーシャ。

 

実はトリーシャは、ジョートショップの仲間内…魔術師組の中では一番下なのだ。

といっても、最初はともかく、現在の実力は学園の中でも上位なのだが…マリア達がずば抜けているのだ。

 

しかも、トリーシャが優先して覚えているのは回復系である神聖魔法。

その系統ジャンルに関しては唯一上級にまで達しているのだが…今回に限っては、なんの慰めにもならない。

 

 

 

「う〜〜…どうしようどうしようどうしよう………」

 

 

もうすぐ出番という現実に焦り、思考が空回りするトリーシャ。ここで開き直って、

『普通が一番! 一生懸命頑張っているところを見てもらおう!』

とでも考えられたのなら良いのだが、生憎とトリーシャも恋する少女…

アキトに良い所を見てもらいたい気持ちでいっぱいなのだ。

 

しかし…気持ちだけで目の前の問題が解決するわけでもなく、

 

 

「はい次―――――トリーシャ・フォスター君。前へ」

 

 

ああだこうだと必死に考えている間に、無情にもトリーシャの順番がやってきた。

 

 

「……………」

 

 

何も語らず、かたい表情で前に出るトリーシャ。

そのいつもとは違う様子に、アキトは眉をひそめる。まさか自分が原因だとは思ってもない。

 

心配の眼差しでトリーシャを見るアキト。

だが今回は逆効果…その視線が、トリーシャの焦りに拍車をかけてしまう。

 

 

(どうしよう…ボクが使える物理魔法なんて”ヴォーテックス”まで、神聖魔法…は、今は意味がない。

錬金魔法は”ソニック・ブレイク”まで…シェリルちゃんより一段階上だけど、ボクのは思いっきり普通ノーマルだし…)

 

 

順に説明すると、『ヴォーテックス』とは、小規模の竜巻を起こし、相手にそこそこのダメージを与える物理魔法。

そして『ソニック・ブレイク』は、風の精霊の力を加工した超音波により、鉱物等への負荷をかける精霊魔術。

これをかけられると、鉄や鋼、岩などの無機物が粉々になる…つまり、相手の防具を破壊する魔術だ。

ちなみに人間への使用も可能だが、あくまで無機物に調節された音波…

耳鳴りや眩暈など、酷くても重度の不快感程度でしかない。

 

ただし、あくまで魔術に手を加えていない場合は…と付く。

魔術の構成に手を加えるなどかなり高等な魔導知識が必要。

シェリルも、構成に手を加えたのは錬金魔法のみ…それも、かなり時間をかけたのだ。

例え一流の魔術師といえど、即席に手を加えられるレベルではないのだ。

 

 

(残った精霊魔法も、一応”イフリータ・キッス”までは使えるけど、これも意味は………精霊?)

 

 

そこでトリーシャの頭の中に、”イフリータ・キッス”を覚えた際に教師から言われた事を思いだした。

曰く『トリーシャは精霊との相性が良く、精霊の力が集まりやすく、効果も人より多少高い』ということだった。

 

普通に考えれば、今現在その事は関係もなく、なんの助けにもならない―――――と思うが、

トリーシャには一つの名案が思い浮かんでいた。

 

 

(威力は低いと思うけど、これは自分のレベルの問題だし。

それに、この魔法もこの間教えてもらっただけだからちょっと不安だけど…大丈夫だよね)

 

 

自分の”提案”をじっくりと考えて安全だと判断すると、トリーシャは大地に落ちてあった手頃な石を拾い上げ、

グラウンドに直系一メートル少々の、簡素な六紡星の魔法陣を描いた。

 

いきなりのトリーシャの行動に注目する一同……

そんな視線を感じつつ、トリーシャは魔法陣の手前に立ち、陣の中心に向かって両手をかざす。

 

 

「此方より彼方へ 彼方より此方へ  今ここに開け 異界への扉よ

  我が魔力を代価に 精霊界より現れたまえ―――――光の精霊 ウィスプ!!」

 

 

グラウンドに描いた六紡星が白く発光する。

どうやら、トリーシャの選んだ魔術とは『召喚魔法』らしい。

 

召喚魔法といえば、半年以上前のマリアの『神の召喚』を思い出すかもしれない。

だが、アレは色々な要因があったため巻き起こった事件だ。

今回のトリーシャのは、自分の実力でも大丈夫なようにと、

対象を低めに設定光の下級精霊にしているかなり小規模で簡素な召喚。

 

失敗は万が一にもない―――――

 

 

―――――カッ!!

 

 

はずだったのだが、突如、召喚陣の光が激しく輝き、さらには緻密な紋様が浮かび上がる!

 

 

「え、なに!?」

 

 

トリーシャはいきなりの事態に内心慌てたが、魔法中断によるリバウンドを危惧し、やむをえず召喚を続行する。

通常の学園生なら取り乱して魔法を放棄し、未知の被害を引き起こすのだが、

トリーシャはアキトと付き合っている内に、緊急事態時に対しての冷静さや度胸を身に付けていたらしい。

 

 

「失敗か? 気をつけろ、状況から判断すると『狂える精霊』の確率が高い。

結界班は結界の展開を…対処班の半数は”闇”属性の魔法の準備、残りは退還陣の準備を急げ」

 

 

一人の老魔術師が冷静に指示を出す。おそらくは彼が魔術師達の上司なのだろう。

先程のマリアの件では結界を張るのが精々だったが、今回は多少時間があるため色々と準備を行う。

さしずめ、本領発揮と云ったところだろう。

 

準備を終えた魔術師、そして生徒や保護者達が固唾を飲んで召喚陣を注目する。

 

 

 

シュゥゥゥゥゥ………

 

 

 

急速におさまってゆく魔法陣の光り。

光りに遮られて見えなかった召喚されたモノの姿が次第にはっきりとしてゆく。

 

手をかざし、緊急事態に備える魔術師達。保護者達も緊張して見つめている。

 

 

そして光は収まり、召喚されたモノの姿がはっきりと現れ、

それを見たその場にいた者は……呆気にとられた表情でそれを見つめた。

 

ソレは皆が自分を見ていることに気がついたのか、皆に顔を向けると、

 

 

「アギャ!」

 

 

と、鳴き声を上げた。

そして、自分を見つめる召還主…トリーシャに目を向ける。

トリーシャの驚きに真ん丸に見開かれた瞳と、ソレのつぶらな瞳がお互いを見つめあう……そして、

 

 

「アギャア☆」

 

 

どこか嬉しそうに鳴きながら短い手を上下にバタバタと、尻尾をパタパタと振り始めた。

 

 

「え〜…っと、これって……犬?」

 

 

その可愛らしい姿に呆然としながら、トリーシャはやっとの事で言葉を紡ぐ。

確かに、その姿は白い犬…それも、かなり高貴そうな毛並みの犬だ。

 

 

 

「あ〜…フォスター君。とりあえず、その生き物を『アギャアギャ!』ど、どうしたのかね?」

 

 

教師は犬? を渡すように言おうとしたが、その当人(当竜?)がトリーシャを見上げながら鳴き始める。

そんな犬? に、トリーシャは困惑した様子でダミーを指差す。

 

 

「え〜っと、キミを喚んだのは…って、ちょっとした手違いで喚んじゃったんだけど…

とりあえず、ダミーアレに攻撃をしてもらおうかなぁって思って『アギャア☆』え? ちょっと待って、」

 

 

犬? の一鳴きになぜか制止の声を上げるトリーシャ。

そんな制止の声にかまわず、犬? は顔をダミーに向けて口をカパッと開く。

 

 

―――――そして、

 

 

カッ―――――バシュンッ!!

 

 

犬?の口から吐き出された光弾がダミー全部を粉々―――――否、消滅させた。

 

目の前で起こった出来事に、その場にいる一同は再び驚愕に目を大きく開く。

その中で、先程魔術師達に指示を出していた老魔術師が、掠れるような声で呟いた。

 

 

「い、今のはまさか『光の吐息フォトン・ブレス』!? するとまさか『天竜シャイニング・ドラゴン』の子供か」

 

 

 

その言葉に…そして今の光景に、この場にいる者達全員の表情が凍りつく。

 

ドラゴンと云えば、『幻獣』や『魔獣』とよばれる種族の中でも最強の生物。

その咆哮は魂を震わせ、爪は山を削り、体内に秘めし強大な魔力は天候すら左右する。

強靱な肉体は鋼よりも頑強な鱗に覆われ、吐息ブレスとよばれる強力な特殊能力を駆使する。

ドラゴンと相対せし生物、滅び以外の道は無し。

多少の例外はあれど、はっきりと言えばドラゴンとは恐怖の代名詞なのだ。

 

 

―――――だがしかし、

 

 

「アギャア♪」

 

 

今、目の前にいるドラゴンは、恐怖よりも可愛らしさを感じさせる。

トリーシャに抱き抱えられ、『アギャアギャ』と喜んでいる様は、まるでぬいぐるみか何かのようだ。

綺麗な白いふさふさの体毛が、その感じを一層強くしている。

 

 

「う〜む…天竜シャイニング・ドラゴンの幼生体、いや赤子か…不幸中の幸いだな」

 

 

先程の老魔術師が安堵の溜め息を吐きながらそう呟くと、保護者達に向き直って声をかける。

 

 

「皆さん、落ち着いてください。この天竜シャイニング・ドラゴンは慈悲深く、争いを好まない種族です。

何らかの手違いがあり召喚されましたが、まったく危険はありません。

一応、すぐに送還しますのでご安心を…」

 

 

安心するようにと言う老魔術師。

その言葉に安心した保護者達は、ホッと安堵の息を吐く。

 

 

「さて、フォスター君。その子竜ベビー・ドラゴンをこちらへ…今すぐ元の世界へ還すんだ」

 

 

子竜ベビー・ドラゴンを渡すようにと言う老魔術師。

だが、子竜ベビー・ドラゴンは手を差しだす老魔術師に向かって威嚇の唸り声を上げる!

 

 

「グルルルルル………」

「うっ!」

 

 

威嚇された老魔術師は反射的に手を引っ込める。

この天竜シャイニング・ドラゴンが、ドラゴン族でも一、二を争うほどの力を持つ種族だと知っているからだ。

幼体だから肉体的には大したことないが、その内に秘めた魔力は人間を超えている。

そして、それよりなにより、子供の不興を買えば、親の報復が恐ろしいのはどんな種族でも共通…

特に天竜シャイニング・ドラゴンと云う種族は”絆”を重視する一族。もちろん、その中に家族は含まれている。

いくらなんでも、子供を護る親ドラゴンの怒りなど、好んで買いたくはないだろう。

 

 

と、その時―――――

 

 

「コラッ! そんな声を出しちゃだめでしょ」

 

 

唸り声を上げる子竜ベビー・ドラゴンを叱るトリーシャ。

その行為に顔を青ざめさせる老魔術師だが、当の子竜ベビー・ドラゴンは悲しそうな顔になる。

 

 

「クゥゥ〜〜ン……」

「わかったのならいいよ。怒ってごめんね」

「アギャ☆」

 

 

許してもらえたのが嬉しいのか、途端に表情を一変させる。

そんな二人のやり取りに、老魔術師が恐る恐ると云った感じで話しかける。

 

 

「………すまんが、フォスター君はその子の言っていることが解るのかな?」

「え? はい。この子の言っていることが、なんとなく解りますけど…」

「そ、そうか…それは実に興味深―――――いや、なんでもないんじゃよ。それだけじゃ」

 

 

トリーシャと子竜ベビー・ドラゴンを繋ぐ何かに興味を示す老魔術師。

だが、その気持ちを見透かすかのように剣呑になってゆく子竜ベビー・ドラゴンの視線に、慌ててその場を立ち去る。

 

そんな老魔導士の態度にトリーシャは首を傾げるが、すぐに、

 

 

「まぁいいか」

 

 

と、判断する。子竜ベビー・ドラゴンもアギャアギャと同意する。

そして教師に実技の終了を言って、一直線にアキトの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――その2へ―――――