『この非常時に、民間用戦艦だと!?』

 『ネルガルは一体何を考えている』

 『あの威力を見た以上、戦艦ナデシコを放置する訳にはいかん!』

 『あの船の艦長は君の娘だったな?』

 『もしナデシコの艦長が連合軍への参加を望むのなら、受け入れよう』

 「提督…」

 「ただちに発進準備、戦艦ナデシコを拿捕する」



   機動戦艦ナデシコ
     〜その手に抱かれて〜
  第3話「行動開始」


 『で、報告が遅れた訳ね』

 「まぁ、そうなるな」

 『君がそんなに、ユーモアに溢れてるなんて思わなかったよ。でもそれ、本気で通じると思ってる?』

 「いや…。まぁ、無理だろうね」

 『だよね』

 男はモニターの中で、大げさに動作を付けながら嫌味を連発する。
 もっとも仕方ない事ではあった。ルリと話した後、仮眠のつもりでベッドに飛び込んだアキトは、結局そのまま寝入ってしまい、こうして男に現状を報告するまでに、かなり時間を置いてしまったのだから。
 そのうえ弁解にアキトが使った言い訳は、艦内に侵入したバッタと素手で戦っていた、だ。
 通じるはずがない。

 『まぁ、良いけどね。別に心配してないし』

 「…そうか」

 『それに、報告なんて聞いても、君の武勇伝みたいになってて、大して面白くないんだよね。あっはははは』

 言うなり笑い出した男を見るに、本当に気にしていなかったのだろう。
 しかし、言うに事欠いてつまらないとは…業務報告に何を期待しているのか。一瞬アキトはそんな事を考えたが、まぁ、軽そうに見えて色々考えているこの男の事だ、きっと後からきちんと纏めるのだろう。と、思いこむ事にした。

 『あぁ、そうそう。集合日時伝え忘れちゃったあの連合の人、なんだっけ?あのキノコ頭のさぁ』

 「ムネタケか?」

 『そうそうそれそれ、ナデシコが発進したのを聞き付けてさ、こっちにクレーム寄越してきたよ。もう、かんかん、それにあの口調だろ?耳に残って離れないよあの声』

 『仕方ないさ、こちらの落ち度だ。納得はしないだろうが、運が無かったと諦めてもらうしかない』

 「ま、そうだよね…当分怨まれるだろうけど、仕方ないか…』

 男は忌々しそうに言葉を漏らすと、やれやれと両手を上げた。

 『ところでテンカワ君、残りのパイロットの件だけど、予定通り4人共、サツキミドリに到着したよ。サツキミドリもその周辺も異常無し。搬入した物が物だからね、今も警戒を続けてる。なんにせよ、一人で戦うのが厳しいなら、急ぐことだね』

 「そうさせてもらうよ、一人で出来る事なんて高が知れてる。それまではなんとかするけど」

 『その調子だ。前も言ったけど君には期待している。励んでくれたまえ』

 それじゃ、と男が通信を切ると、アキトは一呼吸置き、バイザー付け直す。
 報告を始める前にブリッジから招集がかかっている、休んでいる暇は無い。
 無造作にかけられたマントをハンガーから乱雑に奪い取ると、アキトは自室を後にした。


   *


 遅れて入ってきたアキトが、ブリッジに到着してから既に1時間。
 プロス曰く、フクベやゴートを始め、ブリッジの主要メンバーに、アキトとウリバタケを交えた合計9人が、ここに集合する予定らしい。が、どう数えても7人しかいない。誰よりも早く到着しているはずの人物が足りてない。
 
 「プロスさーん、艦長と副艦長がいませーん」

 「困りましたねぇ、連絡はしたはずなんですが…」

 まるで遠足の生徒と、引率の先生の様な言い回しだが、一応ここは戦艦。艦長と副艦長が揃って遅刻、軍ならば少なからず問題になっている。
 それでも困ったの一言で、受け入れられてしまうのは、この艦が民間船だからか、それともナデシコという特殊な環境だからか。
 恐らくは後者だろう。

 「遅れちゃいましたー!」

 「ユリカー…」

 「遅いですよ、艦長。そんな事では困ります」

 悪びれた様子も無くブリッジに入ってきたユリカに、プロスも軽い溜息を着き、説教をする。
 だがプロスの小言も、意に介さず。ユリカの顔に落ち込んだ様子は無い。
 何はともあれ、これで全員揃ったのだ。まぁよしとしよう。というが、この場にいる全員の思いとなった。
 アキトにいたっては、本調子の彼女が見られて安心すらしているくらいだ。

 「ミスター、早く本題に」

 「そうでした…今までナデシコの目的地を明らかにしなかったのは、妨害者の目を欺く必要があっためです。ネルガルがわざわざ独自に機動戦艦を建造した理由は別に目的があります。以後、ナデシコはスキャパレリプロジェクトの一端を担い、軍とは別行動を取ります!」

 「我々の目的地は…火星だ!」

 瞬間、ざわめきが起こった。
 フクベによって伝えられた火星は、今や蜥蜴の巣だ。もっとも危険な場所と言っても良いだろう。
 だからこそ、優秀な人材の確保の妨げにならないよう、今まで目的を伏せていた。
 火星へ行く。先にそんな事を言えば、二の足を踏む者も少なくはないだろう。
 決して言えないが、敢えて目的地を明かさず、契約書にサインさせる。サインさえ貰ってしまえばこちらの物、という訳だ。

 「では!地球が今抱えている侵略は見過ごすというのですか!」

 しかし、行き成り火星へ行く。などと言われても、今のジュンの様に、納得出来ない者は存在する。当たり前だ。
 見も知らぬ火星まで、わざわざ敵に囲まれに行きたい人間はそうはいない。
 むしろ反発の少ないほうだと言えるだろう。

 「多くの地球人が火星と月に殖民していたというのに、連合軍はそれらを見捨て、地球にのみ防衛線を引きました。火星に残された人々と資源はどうなったのでしょう?」

 「でもぉ、火星ってもう侵略されちゃってるんじゃないの?そんな所でまだ生きてる人がいるのかしら?」

 「それは分かりません。確かに、既に侵略されてしまった火星で、人が生きている可能性は低いでしょう。しかしもし…それを確認するのも、我々の目的でもあるのです」

 プロスは主軸を人命救出に置き、周りの説得にかかる。
 人がいなくても資源回収は出来ますよ。なんてとても言えない。

 「そんな不確かな物のために地球を見捨てるなんて!」

 ジュンの言葉通り、現在地球は木星蜥蜴の侵略を受けている。そんな中、わざわざ既に侵略された火星へ向かうなど、到底理解される物ではない。
 スキャパレリプロジェクト、つまりは火星奪還。その目的を軍にでも知られれば、当然地球の防衛を強制される。
 プロスの言う妨害を受ける可能性が高い。

 「何も見捨てるなんて言っていません。火星での目的を果たせば、当然次ぎはこの地球です」

 「そんな悠長な!」

 「俺達は火星に行く。気に食わないのなら、この場で降りればいい。その後止めに来るなり、奪いに来るなり好きにすればいい。だが、邪魔をするなら俺も容赦はしない」

 「くっ…」

 まだ何か言いたげなジュンを、アキトが強引に黙らせる。
 一部が険悪なムードになっているというのに、ユリカはどこ吹く風で、アキトの隣で久々の里帰りだねとはしゃいでいる。
 ルリはルリでゲキガンガー3の人形を抱え、人形の両手をぐるぐる回し縦横無尽に働かす。
 ウリバタケは話に飽きて仮眠中、ゴートはだんまり。
 余り緊張感は感じられない。
 もっとも、抵抗を感じてるのはジュンだけではない様で、メグミとハルカも互いの顔を見合わせていた。

 「火星かぁ…随分遠いな」

 「そうねぇ、でも人助けなんでしょ?戦争よりはましじゃない?」

 「それもそうですね」

 「どうせ資源が目的なんじゃないですか?」

 いい感じで纏まりかけた二人の会話にルリが水を注したが、それでも戦争よりマシだと結論がでた。
 その後もそれぞれ話し合ったが、最終的に一部納得していない者もいるものの、他に異議を申し立てる者は出ず、やっと話が纏まった。
 そう皆が思った矢先の事だ。

 「艦長、前、前」

 「おや、あれは連合のトビウメ…いつの間にこんな近くまで」

 「みーんなお話に夢中でだぁれも気付かなかったのね」

 二隻の護衛艦を引きつれ海面を割り現れたトビウメに、逸早く気付いたのはルリだった。
 これがもし、連合でなく蜥蜴だったならば惨事になっているところだ。よかったと言っておくべきだろう。

 「トビウメから通信、モニターに出ます」

 急いで座席に戻ったメグミは、すぐに自分の仕事をこなす。
 開かれたモニターの中で、髭が立派な中年の男がどんと構えていた。ユリカの父、ミルマル・コウイチロウその人である。

 『こちらは連合宇宙軍第三艦隊提督、ミルマルである!』

 「お父様?一体これはどういうことですの?」

 「お父様?」

 「艦長のお父さんって軍のおえらいさんなんだぁ」

 『おぉ!ユリカ!元気か?これも任務だ許してくれ…パパもつらいんだよ…』

 知らなかった事実におぉ、と感嘆する二人をよそに、コウイチロウはユリカを見つけるなりでれっと表情を崩した。最早威厳など感じない。
 緊張が張り詰めたのも束の間、瞬く間にいつものだらだらした雰囲気に逆戻りした。

 「困りましたなぁ、連合軍とのお話は済んでいるはずですよ?ナデシコはネルガルが私的に使用すると」

 余り有難くない親子の再会に、プロスは割って入る。
 既に進路は決まった、今更邪魔をされたのではたまったものではない。

 『我々が欲しいのは、今確実に木星蜥蜴共と戦える兵器だ!それをみすみす民間に!』

 確かに、現在も木星蜥蜴による侵略を受け続けている地球には、木星蜥蜴と対等に争える程の戦力が無い。
 しかし、このナデシコは、軍の歯が立たなかった木星蜥蜴をあっさりと退けて見せた。それだけの戦力を目の前にしながら、手を出さずにいられるはずがなかった。
 無論プロスもそれくらいは理解している。だが、ナデシコには別の目的が存在し、地球防衛に当たっている暇は無い。

 「いやぁー、流石ミルマル提督分かりやすい!じゃぁ交渉ですな、そちらへ伺いましょう」

 『よかろう、ただし、作動キーと艦長は当艦が預かる!』

 プロスは交渉を持ちかけるが、当然譲るつもりは欠片も無かった。
 コウイチロウはそれを見透かしたのか、艦長であるユリカと、ナデシコの起動に不可欠な作動キーを寄越すよう要求した。
 作動キーを渡してしまえばナデシコは全くの無防備になる。如何なナデシコとて、どうする事も出来ない。
 つまり、作動キーさえ手元にあれば、圧倒的優位に立てる。

 「それは出来ません、艦長たるもの例えどのような事があっても艦を見捨てるような事は致しません。そう教えて下さったのはお父様です!」

 『ぐっ…、ユリカぁ…私が間違った事を言った事があるかぁ?』

 「ユリカ!ミルマル提督が正しい!これだけの戦艦をむざむざ火星に!」

 しかし、ユリカもコウイチロウの考えが読めない程甘くはない。作動キーさえ保持していればナデシコの優位は揺るがない。
 元軍人であったジュンは、まだ気持ちは連合側の様だが、艦長がこの場にいる今、彼の発言力は大して強くなく、誰一人受け取る事無くそのまま流された。

 「いや!我々は軍ではない。従う必要は無いんだ!」

 『フクベさん…これ以上生き恥を晒すつもりですか…?』

 「恥を晒しているのは、どちらかな?ミスマル提督?」

 『なんだね君は』

 コウイチロウの一言に対し、ようやくアキトが口を開く。
 余りにも身勝手な言い分に、いい加減我慢が出来なくなったのだ。
 例えユリカの父であっても黙ってはいられない。
 一歩前に出たアキトの格好からか、一言からか、コウイチロウは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに威圧する様にアキトに目をやった。

 「既に決着のついた話を今更反故にして、脅迫同然のこの対応。どちらが恥を晒しているのか、お分かりにならない程愚鈍ではないでしょう?」

 『ぐっ…。しかしこのまま貴艦を行かせる訳にはいかん。地球の未来がかかっておるかもしれんのだ、私一人の話ではない!』

 「ま、ここは穏便に話し合いと行きましょうか。ここで争うのはこちらも本意ではありませんしね。」

 お互いに譲れない物がある。どちらも折れるつもりはない。
 一端から見ればナデシコ側に分がある様に見える。ナデシコの戦力ならば、戦艦三隻など軽く沈め、そのまま押し通る事など容易だ。
 だがナデシコは、一企業であるネルガルの船だ。ここで無茶をすれば、火の粉は確実にネルガル本社へ降りかかるだろう。それでは意味が無い。
 一方連合側も、ナデシコの目的が分からず、対処法を見つけられずにいた。下手に手を出せば、強引な手段を取りかねない。そうなればナデシコを止める手段は無く、黙って見送るしかない。
 ネルガル本社に直接手を出すのも一つの手だが、ナデシコの様な隠し玉をまだ持っていないとも限らない。
 戦闘になれば互いの首を締める事に成りかねないこの状況が、逆に彼等を冷静にさせた。
 プロスの言った様に、お互いのため話し合いの席を持つのが妥当だろう。
 敵はあくまで木星蜥蜴だ。

 『ふむ、ならば艦長は連れてくるように!娘の顔くらい見させて貰ってもよいだろう?』

 「了解しました。それでは早速準備をさせて頂きましょう」

 『うむ、ではまた後で会おう』

 互いに譲る形で一先ず話しは落ち着き、通信を終えた。
 だが一息つく間は無く、トビウメに向かい決着を付けなければならない。

 「俺がエステで護衛する。プロスとユリカはヘリで向かえ」

 「了解しました。では艦長、こちらへどうぞ」

 「待って、僕も行く!」

 トビウメには、エステでアキトが、ヘリでユリカとプロスそしてジュンが向かう事になった。
 

  *


 アキト達がトビウメに乗艦すると、すぐに用意された部屋に案内された。
 ただ、コウイチロウのユリカと二人で話したいという提案に、ユリカがアキトが一緒ならばと条件を出したため、プロスとジュンは別室で協議、アキトとユリカはコウイチロウとそのまま用意された部屋に収まった。

 「して、君はユリカとどういう関係なのだ?」

 本来ならばユリカと二人、親子水入らずで話を楽しむつもりだったコウイチロウは、まだ諦めきれていない様だ。

 「嫌ですわお父様、以前お隣に住んでいたテンカワ・アキト君です」

 「なっ…。あのテンカワか?」

 名前を聞くなり眉をしかめ、ユリカの隣にいるアキトを凝視する。
 アキトはコウイチロウの視線に気付き、バイザーに手をかけ外し、素顔見せた。

 「ふむ…確かに面影はある…しかし、生きていたのか…」

 「父と母は死にました。生き残ったのは俺だけです」

 「そうか…」

 「今更、死んだ人間のために何かしようなんて思ってはいません。今は生きている人のため、そのために俺は戦いたい」

 「アキト…」

 ならば何故?コウイチロウには理解出来なかった。

 「だが、死んでいるかもしれない火星の人間のため、君は地球を捨てようとしている。矛盾しているのではないのかね?」

 「確かに、だが我々には行かねばならない理由があります」

 「ならばその理由を聞かせて貰おう。それが納得出来るだけの理由ならば私も認めよう」

 やはり説明が必要か…。一瞬迷ったが、ユリカの父である彼にならばと、アキトは話す事を決めた。

 「この事は、ここだけの話しにして頂けますか?ユリカと、その父親である貴方になら話しても良い。無論、総てお話する訳にはいきませんが」

 「約束しよう。ここでの話しは私の中だけで留めて置く」

 「ナデシコの動力である総転移エンジン。そして、木星蜥蜴も使っているディストーションフィールド…それらを開発した開発者の一人が火星に取り残されています」

 「なんだと!?」

 「お静かに」

 叫んだコウイチロウをアキトが制すと、更に続けた。

 「こちらで彼女の生存を確認しています。当然、一人だけと言う訳ではなく、更に大勢の生存が見受けられます」

 「しかし、それだけでは…」

 「それだけではなく、ナデシコの研究施設も火星に存在します。それを侵略された火星にそのまま放置…それがどれ程危険か、理解出来ますか?」

 コウイチロウは言葉を失った。
 ナデシコは強力な兵器だ、十分に理解している。
 その研究施設と研究者が敵の手元にある、つまりナデシコが敵になる事もあり得る。
 それがどれ程の脅威か、考えるだけで恐ろしい。

 「しかし、連合は地球を守るだけで精一杯。火星に行くなど不可能です。そこで我々が直接処分するため、このナデシコを使う」

 「ならば、何故それを言わず独自で動く?」

 「軍には頭の固い人間が多い、この話を信じる人間がどれ程いるのか。一々一人一人を説得している暇は無いんですよ」

 「なるほど…。しかし、聞いておいてなんだが、このような話を私にして良いのかね?私は軍人だ、約束を反故にするなど…」

 「貴方は最初、約束すると言った。貴方のその言葉は、信用に足る物だと判断した。それだけです」

 藪を突付いてみたら、蛇どころか龍が出た。
 愛娘の前でしてしまった約束だ、破る事は出来ない。
 誰かに話したところで罪にはならないだろうが、それでは父として男として、あまりに無様だ。
 それでも、話して全てが解決するのならば、小さなプライドなど捨ててもいい。
 だがアキトの言う通り、話をろくに聞かず、ナデシコ拿捕に乗り出す者もいるだろう。
 しかし、ここでナデシコを拿捕して木星蜥蜴を退けたところで、蜥蜴もナデシコの様な戦艦を持ち出して来る可能性があるのだ。そうなれば折角拿捕したナデシコも、落されてしまうかもしれない。
 かと言って、ナデシコの代わりに連合が艦隊を組んで火星に向かったとしても、辿り着く事すら困難だ。
 気付けばコウイチロウの眉間の皺は、随分と深いものになっていた。
 不意にノックの音がしたので、コウイチロウは部屋に入るよう促すと、入ってきたのはプロスペクターと、彼をここまで案内したトビウメの兵士二人だった。

 「お待たせ致しました」

 「答えは出たのかね?」

 「はい、ナデシコはあくまでネルガルの所有物であり、その行動に制限を受ける必要無し!」
 
 どうやら、協議の結果が出たようだ。
 席に着いていた二人も、ここにいる理由はもう無いとばかりに立ち上がった。

 「上の結果は出たようですね。これより我々は、自らの判断で行動します。そちらの出方次第では、武力行使も已む無いでしょう」

 アキトのその言葉の意を、コウイチロウは受け取っていた。
 今自分が何をしようと、彼等は間違いなく火星へ向かうだろう。
 そうなればナデシコは、地球を見捨てた連合の敵となる。
 そこまで知っていながら、彼は敢然と言ってのけたのだ。
 我々が勝手にやる事だ、お前は黙って見ていろ…と。
 そして、それは彼等の総意である。なるほど、確かに頼もしい。
 ならば自分に出来る事は何か、それを考える。そして、一つの決断をした。

 「私は君達が速やかに目的を完遂し、この地球に戻って来る事を祈らせてもらう」

 「良いのですかミスマル提督?」

 「あぁ、行きたまえ。私もナデシコへの風当たりが強くならぬよう、力を尽くそう」

 言葉を終えると、プロスと共に入ってきた兵士の一人が、コウイチロウの耳元で何かを囁く。
 その様子からして、何か問題が起こったのだろう。

 「海底に沈んでいたチューリップが活動を開始した。既に護衛のパンジーとクロッカスが吸い込まれ消息不明だ。機能を停止していると甘く見ていた我々のミスだ、すまない…」

 「今はそんな事を言っている場合ではありませんよ、ミスマル提督。俺はエステで出る、プロスはユリカを連れてナデシコへ戻れ」

 「了解しました」

 「ユリカ、折角呼び出しておいて、ろくに話しも出来ずすまなかったな。」

 「大丈夫です、お父様。地球に戻ってくればまたいつでもお話できますわ。行きましょう、プロスさん」

 そう言って駆け出したプロスとユリカを見送ると、コウイチロウは改めてアキトと向き合い、深く頭を下げた。

 「アキト君、娘を頼む…」

 アキトは当然だ、とだけ言うと、頭を下げたままのコウイチロウの横を、抜けるように通り過ぎた。


  *
 

 トビウメから出撃したアキトのエステバリスは、すぐさまフィールドを張ると、全速力でチューリップの触手へ突撃。張ったフィールドを叩きつけ、根元から全てへし折る。
 抵抗する術を失ったチューリップは、開いた口でナデシコを捕らえたものの、内部からグラビティブラストを撃たれ、あっさりと散った。
 その様は、誰の目にも鮮やかで、戦力の違いを見せ付けるには十分な物だった。

 「提督、よろしかったのかったのですか?」

 「まともにやり合って止められる相手かね?」
 
 悔しそうに顔をしかめた兵士を他所に、コウイチロウは去って行くナデシコを黙って見送った。

 「ユリカ…立派にお勤めはたせよ……。して、君は何故ここにいるんだね?」

 「どうして…」

 いつの間にか忘れられ、取り残されたジュンもまた、コウイチロウと同じく小さくなっていくナデシコをただ見る事しか出来ず、彼の悲痛な訴えも、ナデシコに届く事はなかった。

 







感想代理人プロフィール

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代理人の感想

平和的に話し合いがついたのに、それでも取り残されてるのかお前はっ!(爆)>ジュン

こーゆーパターンはさすがに初めてだなぁw

後「バッタと白兵戦してました」なんつーアキトがまぬけでよろしい。








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