Tb:防人は挫けず

 

例え、絶望的であったとしても、
決してギブアップしない勇気を我に与えたまえ。

チェスター・W・ニミッツ

 

 


 
機動戦艦 ナデシコ

MOONLIGHT MILE

 

第一幕 Arc-Light
Tb

防人は挫けず


 

――X――

 

 

 補給物資が到着して3日を経た日の朝。
 トラック泊地の根幹を為すISS-7ステーションの士官用食堂、そこでテンカワ・アキトは朝飯をゆっくりと食べていた。
 一口一口をじっくりと味わいながら。
 アキトのトレーはNセット。
 ご飯と味噌汁に漬物と納豆、そして生卵と云う純日本風な組み合わせだった。
 軍隊という場所は食生活に於いて常に早飯を強要される場所ではあったが、アキトは4ヶ月と云う速成の訓練期間内で教官達からどの様に言われても、この習慣だけは変えなかった。
 否、変えられなかった。
 一度失った味覚を、再び感じる事の出来る歓喜。
 どうしても駄目だった。
 故に、変えられなくても軍隊の事情に適応する為、アキトは誰よりも早く起きて、食堂に来ていた。
 人気の少ない食堂で、心置きなく食べるアキト。
 そして、山盛りだったご飯が半分程度になった時、アキトの見知った顔が食堂に来た。

「ようアキト、相変わらず良くたっぷりと味わってるな。空っぽ(ボイド)より大喰らい(イーター)の方が似合ってるんじゃないのか?」

 幾分かのからかいを含んだ口調。
 トレーに影が差す。
 大柄な人影、アキトは見上げなくても、その声で相手が判った。
 一応は確認。
 納豆のパックに手を伸ばしながら見上げる。

「ん…」

 下から見ても、トレーの端からウィンナーやポテトサラダが山盛りであるのが見えた。
 ついでに相手の顔も。
 アキトの予想通り熊の様な顔をした大男、同じ第2321軌道上の護手(ヘル・ダイバー)中隊の仲間、イヴァン・プロポノフ上級特尉だった。
 パックの蓋を取り、醤油を少しかけて箸で掻き雑ぜながら、ちょっとした朝の挨拶に、相応しい挨拶を返す。

「あんたもな。相変わらずの大盛りだ、おはよう、イワン」

「莫迦野郎、ロシア野郎(イワン)じゃ無い、イヴァンだ」

 鼻で笑いながら、アキトの隣に座るイヴァン。
 否定はしたがイヴァンは、れっきとしたロシア国籍者であった。
 それがアキトの言葉を否定した理由は、イワンが、ロシア人に対する蔑称に近い意味合いを持っているからだ。
 尤も、だからと言って雰囲気が悪くなる訳では無い。
 お互い、朝の挨拶といった感じだ。
 幾度と無く共に死線を潜り抜け、そして生還してきたのだ。
 この程度の遣り取りでどうにか成る様な仲では無かった。
 しばらくは無言でお互いの食事に専念する。
 アキトは出来上がった納豆をご飯に掛けて葱と生卵を乗せると、少しばかり掻き雑ぜてから食べ始めた。
 対してイヴァンはEセット。欧州風の食事の定番である食パンに副食をタップリと乗せて、即製のサンドウィッチを作ると、大きく齧り付く。
 余りマナーの良いとは言い難い2人。
 だが周りの人間は気にしない。
 士官階級に在る者はそれなりの食事マナーを要求され、そして教育されるものではあるが、2人とも速成教育の軍人と云う事で、その辺りを煩く言われる事は無かったのだ。
 イヴァンも又、アキトと同じ戦時志願兵だった。
 元宇宙開発公社の建設技術者(ビルディング・スペシャリスト)であり、開戦時に軍に志願、IFS持っていたが故に機動兵器部隊に配属されたのだった。
 その経歴故に上級特尉、中尉待遇を与えられていた。
 尚、全くの余談だが、2人が軍人教育を余り受けないでいるにも拘らず士官待遇と成っている理由は、簡単に言えば連合宇宙軍による人気取りだった。
 機動兵器乗りと言う危険な仕事で、尚且つ、一般に強い忌避感のあるIFSを身体に入れねばならないのだ。それなりの待遇をせねばなり手が来ないと云う現実があった。
 それが、特尉と云う少尉待遇が用意された理由だった。

 食後の一服。
 アキトの手には玄米茶の茶碗があり、イヴァンの手にはタップリのイチゴジャムが入ったロシア風紅茶(ロシアン・ティー)のカップがあった。
 テーブルに肘をつき、両手で茶碗を持ってチビチビと飲むアキト。
 対してイヴァンは背もたれに悲鳴を上げさせながら、ノンビリと啜っていた。

「早いな、相変わらず」

 そう言って、第2321中隊の副長、ボブ・マッキンタイアが2人の隣に座った。

「おはようボブ」

「よう」

 必要最低限度の礼儀は護りつつも、肘をついたままに挨拶をするアキトと、満腹感から面倒くさげに、言葉を少なく挨拶を返したイヴァン。
 そんな2人の姿に、ボブは苦笑を浮かべた。

「相変わらずだな、まっお陰で座りやすくて良いがな」

 人が出てきたにも関わらず、何と言うかアキトとイヴァンの発散させている濃い雰囲気の為、2人の座るテーブルの周りには、人が寄り付いて居なかった。

「モーニン! 楽に座れるんだから文句を言ったらバチが当たりますぜボブ中尉」

 軽い挨拶と共に、陽性な雰囲気をふんだんに漂わせた黒人が顔を出した。
 デイビー・アボット。
 無論、第2321中隊の士官であり、ボブと同じ正規軍人――中尉だった。
 同じ階級ではあったが、ボブが先任だった。
 2人の朝食は、共にトーストと珈琲だけと云うアメリカンスタイルだった。

「好き放題言いやがって、ん? 相方はどうした。とうとう妊娠したか」

 補給のお陰で、久方ぶりにタップリとジャムを垂らす事の出来たロシアン・ティーの、最後の一滴を舐めながらイヴァンが軽口を叩く。
 対してアボットは黒人特有の愛嬌のある顔を更に嬉しげに歪めながら言い放つ。

「家族計画はしっかりやってるよ。トビーに弟はまだ早いからな」

 朝っぱらからの惚気の言葉に、馬鹿馬鹿しいと云う気分を顔に貼り付けて一同、同じタイミングで溜息をついた。
 相方とは、アボットの恋人キャロライン・ラヴェル中尉の事だった。
 同じ第2321中隊のパイロットであり、トビーは息子。
 キャロラインは未婚の母であり、腕っ節で子供を育てる肝っ玉お母さんでもあった。

「今キャロラインはカレンに付いてる。落ち込んでいたらしいからな。コウスケについて行けなかった、背中を護れなかったと」

「それはコウスケの方が悪い話だろ。頭に血を上らせてたと聞いたぞ?」

 瞬く間に食べ終わり、珈琲のマグカップに手を伸ばしつつボブ。
 責任感が強い事は良い事なんだがと言いながら、クリープと砂糖とをマグカップに大量に注ぐ。
 それをイヴァンが笑って否定する。
 責任感からじゃ無いと。

「ボブ。俺もコウスケの見舞いの時に見たが、どう見てもアレは惚れたはれたの類だぞ」

 イヴァンが見舞いに行った時の話をした。
 ノックをし、返事を待たずに入室したらコウスケの頭をカレンが胸に抱きかかえていたのだと。
 そしてイヴァンを見た瞬間、カレンは顔を真っ赤にして慌ててコウスケから離れたと云う事だった。

「お前にしては野暮だな、イヴァン」

「そう言うなアボット、反省しているんだ。これでもな」

「宜しくやってるな………若いってのは羨ましいな」

 締めるボブの言葉に一頻り、笑が起こった。
 それは士官食堂の、平和な朝の情景だった。

 

 

 平和に対するものとして、尤も一般的なものは戦争である。
 但しこれは軍人として、組織人としてあり得ない。
 生きていく為に、様々な折り合いをつけているからである。
 では戦争に代わるものは何か。
 単純である――冷戦(コールド・ウォー)

 そんな埒も無い事を、アマミヤ・リューイチロウは考えていた。
 場所はISS-7司令官室。
 機能性よりも豪奢さや権威付けを優先した装飾の施された部屋だった。
 当然ながらもリューイチロウの目の前には、部屋の主たるビクター・ジェイコブスンが座っている。

「面倒だとは思わんか中尉。だが面倒を行わなければ事務は滞り、基地はその活動を低下させる。そうだ、これも重要な仕事なのだ」

 極めて傲慢な態度で口を開き、そして重要な仕事と云うには余りにもゆっくりとした動作で書類を読み、サインをしていく。
 要するには権威付け(ハッタリ)なのだと、リューイチロウは断じた。
 或いは官僚的と呼んでも良いだろう。
 自分の持つ権限や権威を相手に見せつけ、服従させようと言うのだから。
 そんな人間の部屋にリューイチロウが居る理由は、今現在、艦長代理として預かっているトウキョウVにあった。
 廃艦寸前の様相でISS-7に入港したトウキョウV。
 その修復の為の資材や設備をISS-7の港湾管理部に出した返事が、これだったのだ。
 要請から1日待った挙句に日付と時間までも指定されて、回答を出すので出頭せよと書かれていたのだ。
 当然、ジェイコブスンの名によってである。

「堅忍不抜の城塞、それが私のISS-7でありトラック泊地だ。だがそこを護る為には人手がたらん。違うか?」

「ですね」

 許可が出されていない為、生真面目に直立不動の姿勢を保ったまま返事をするリューイチロウ。
 人手不足は事実だった。
 只し、どの部隊に於いてもと云う但し書きが抜けていたが。
 地球連合と木星蜥蜴の最初の戦い、第一次火星会戦。
 その只一度の会戦で第1艦隊(グランド・フリート)を中心に、各艦隊から人員を選抜し、集成した第1遊撃部隊を喪った連合宇宙軍は、特にその戦闘員の面で、人員の枯渇状態が発生していたのだ。
 兵員の養成は大車輪で行われて居たが、所要数を満たすには、まだ後半年は掛かるとされていた。
 そんな、ジェイコブスンの言葉から抜け落ちた部分を考慮しつつ応えるリューイチロウ。
 その如才ない一言に、ジェイコブスンは鼻を鳴らして嗤っていた。

「合意できて良い事だ。中尉も現実が良く見えている様だ。ならばこれにサインをし給え」

 大仰な仕草で差し出された一枚の紙。
 そこに書かれていたのは志願書だった。
 トウキョウV及びその乗員が、トラック泊地駐留部隊に合流する事の。
 それを、直立不動のままに呼んだリューイチロウは、眉を小さく跳ねさせていた。

「どういう事でしょうか」

 声が硬質の響きを帯びる。
 連合宇宙軍に於いて、軍務に対する選択――志願は権利として認められた事であった。
 やる気の有無や能力の是非、他、様々な観点から人材の効果的な利用を促進する側面があったからだ。
 現実にそれが、効果的で効率的な結果を残せている訳では無かったが、少なくとも民主的な組織と云う建前を護る程度の事は出来ていた。
 尤も、リューイチロウはその権利の行使に関して今まで考えた事は無かった。
 上司に恵まれていた面もあったが、それにも増して、そもそも軍人たる身が職務を選んで良いのかと思っていたからだ。
 その志願書が目の前にある。
 その意味を誤る事は無かった。
 だがそれでも尚、問う。
 それは在る意味で、リューイチロウの開戦回避行動であった。

「察しが悪いな中尉。銀時計取得者(エリート)と聞いていたのだがな、最近の兵学校出は質が落ちたか? 要するにだ、君をトラック泊地に迎えいれてやろう。そう言うことだ」

 銀時計取得者。
 それは宇宙軍兵学校(ハイガーズ)の席次が上位10名の成績優秀者に与えられる銀時計に因んだ名誉号だった。
 リューイチロウは、御守りとして常にポケットに入れている銀時計の重みを感じる事で、ジェイコブスンの侮辱を聞き流した。
 自分1人ではないのだ、責任を持つ相手は。
 艦長代理として預かるトウキョウV、その乗組員達への責任の事を考えれば、不愉快な思いは圧殺する事が出来た。

「在り難い話ですが、自分はまだ第5艦隊(エスコート・フリート)で奉職したいと思います」

「ミスマル中将に忠誠をか? 忠誠は程度問題で、相手も良く選ばねばならん。駄目だな奴は。中尉は知らんのだろうが、奴は政治がわかっとらん。直ぐに失脚するだろう。それよりも私に乗り換えたまえ。悪いようにはせん。本当だ」

「………………」

 あからさまなジェイコブスンの言葉に、侮蔑の情が顔に出ない様には出来たが、それでも流石に即座の返事は出来なかった。
 その沈黙をどう捉えたか、ジェイコブスンはさらに言葉を募る。

「それに一般的な話は別にして、良い扱いを受けていた訳ではあるまい、あのような仮装艦(オンボロ)に押し込まれていたのだ。違うかね」

 卑しい笑み。
 誰も好き好んで仮装巡航艦を運用していない。
 連合宇宙軍の戦闘艦艇の枯渇が、それを要求しているだけなのだ。
 現実に、巡航艦や駆逐艦が足りていないのだ。
 そしてそれは、このトラック泊地とて同じだった。
 軌道防衛という任務の重要さから、12使徒(マジェスティック・トウェルブ)級とも呼ばれているインヴィンシブル級大型戦艦が2隻も配備されては居たが、その他の補助艦艇部隊は、ジェイコブスンが嘲笑したトウキョウVの様な戦時改装艦が殆どだったのだ。
 それが連合宇宙軍の現状だったのだ。
 にも関わらず只々、人を貶めるジェイコブスンの言葉にリューイチロウは理論的な説得を諦めた。

「中佐、ご厚意には感謝しますが、私や部下達は原隊復帰を望みます」

 誤解の余地の無い拒絶に、ジェイコブスンの表情から笑みが霧散した。

 

 肩で風を切る勢いで歩いているヘルガ・アデナウワー。
 ヒールが、小気味良い音を響かせている。
 その背を護るように、少佐の階級と肩に参謀飾緒を吊った男が、此方は一切の足音を立てずに続く。
 男の名はアルベルト・カリウス予備役少佐。ヘルガの副官であり、同時に身辺警護も担当する人物であった。
 老人と言ってよい風貌のカリウスであったが、その背筋は伸び、服装に寸毫の乱れもない。
 30代の頭で少佐へと昇進し退役、それ以後は軍務から離れていたにも関わらず、その挙動は見事であった。
 真っ直ぐに伸びる通路、その先はトラック泊地司令官室だった。
 ヘルガの瞳は、その先を見る。

「朝の一番から面倒な事だ」

 口調は煩わしげに、だが目元には笑み。

「良く良く、人とぶつかる性格の様だなリューイチロウ中尉は」

「私にはとてもそうは見えませんが?」

 トラック泊地、ISS-7への入港後に幾度か、所要でリューイチロウと顔を会わせていたカリウスは、その率直な性格に好意を抱いていた。
 副官の生真面目な反応に、ヘルガは口元に笑みを浮かべる。

「冗談だ。でなければ、私が態々足を運ぶ筈はあるまい」

 ヘルガが司令官室へと向かっている理由、それは今朝、ヘルガがリューイチロウを呼び出す為、カリウスにトウキョウVへの連絡を取らせた事が発端だった。
 先の船団護衛戦での話の続きと云う事と、そして1つばかり理由が在ったので、トラック泊地に到着して3日目、さてそろそろ呼び出しても良かろうと連絡を取ろうとしたのだ。
 だが、その時既にリューイチロウは司令官室へと赴いていた。
 朝も、かなり早い時間に連絡を入れたにも関わらず不在だと云う事にカリウスは驚いていた。

 本来、話はそこで終る筈だったのだ。
 それが繋がった理由は、トウキョウVの当直者がカリウスの知人――カリウスと同様に、かつて連合宇宙軍に在籍し、退役した予備役将校だった事が1つ。
 そしてもう1つは、その当直者がジェイコブスンの余り良くない噂を聞いていた事が理由だった。
 故に当直者はカリウスに、生真面目で、だが何処かしら柔らかな所も持った、将来性有望な若手士官への手助けを願ったのだった。

「ですが、御嬢様自らが行かれる必要な無いかと存じますが?」

 連合宇宙軍退役後はヘルガの実家、アデナウワー家で執事を生業としていたカリウスは、ヘルガを上司と云うよりも己の個人的雇い主として遇していた。
 当然、ヘルガにとってのカリウスも、単なる部下では無かった。

「ジェイコブスン、問題は奴の性格だ。カリウス、お前が集めた資料にあったでは無いか。その性、傲慢にして臆病だと。あの手合いに少佐の階級章で話を持って行ってもヒステリーを起させるだけだ」

 自分の襟、そこに輝く大佐の階級章を弾くヘルガ。
 莫迦な働き者を黙らせるのに一番簡単な方法は、階級章を利用する事だと笑い、そして付け加える。
 何より私は、この基地の司令官が気に入らないと。

「私にとって、それだけでも十分だと思わないかカリウス?」

 笑いを交えた言葉。
 だが同時にカリウスは、その言葉の裏に自分に対する気遣いを見ていた。
 不快な思いをさせぬ様にと、自ら動いたのだ。
 これがあるからこそ、私はこの御嬢様について行きたいのだと頷くカリウス。

「御心のままに」

「それにだカリウス。資料収集時に教えた筈だ。ジェイコブスンに関しては軍令部からの命令もあると。監査役としては、少しばかり探りを入れるのも悪くは無い」

「ご注意を御嬢様。あの手の人間は、執念深くありますから。逆恨みで何をするか、十分に見極める必要があるかと」

「そうだな。その際には、後腐れが無い様にしようとも」

 偽悪的な表情。
 だがそれでも尚、ヘルガの顔から年頃の少女らしさが消えてはいなかった。

硬音

 その時だった、何かを叩く音が響いたのは。
 音源、その直ぐ傍には表札があった。
 司令官公室。
 その理由を2人は誤解せず、中の状況を理解する。

「安普請だな、音が外に洩れるとは」

 自分の言った冗談の余りの出来の悪さに、その綺麗な眉を歪めるヘルガ。
 一度わが身を見て、着衣の乱れを確認すると宣言する。
 進軍を。

「ゆくぞ、カリウス」

「はい、御嬢様」

 小さな女帝とその従者が胸を張って扉を開いた。

 

 

 結論から言って、ヘルガとジェイコブスンの口論が発生する事は無かった。
 だがそれは戦闘が発生しなかったという訳では無い。
 闖入者を誰何したジェイコブスンを、ヘルガが開戦劈頭の数言で撃破(ノックアウト)までは行われたのだ。
 只そこから先、更に本格的な殲滅戦を仕掛けようとした所で警報が鳴り、自然休戦へと到ったのだ。
 休戦の鐘、そのパターンは短い1回に長い1回、それが交互に鳴ると云うもの。
 第一級警報。
 それは、CHULIPの地球接近を告げるものだった。

 

 

――Y――

 

 

傾聴(アテンション)!」

 気合の入った声が響く。
 ISS-7の広いブリーフィングルームへトラック泊地に駐留する機動部隊、5個機動中隊から編成されているトラック機動兵団のパイロット全員が集まっていた。
 全員が背筋を伸ばして立ち、その瞳には強い意思が浮かんでいる。

 対艦攻撃任務の第2313歌う流星(シューティング・スター)中隊と第2315雷光の死神(ライトニング)中隊。
 制宙権掌握任務の第2321中隊と第2322軌道上の海賊(コルセア)中隊。
 そして電子戦支援から汎用攻撃まで雑多な任務を遂行する第2334万能配達屋(モスキート)中隊。

 それが軌道上にある、地球最後の防壁。
 各部隊の人員充足率は定数の7割を切り、更には連戦によって疲れ果てた兵。
 だが同時に、それでも尚、地球の盾たらんとする防人であった。

「本日未明、ハワイのすばる望遠鏡が新たなるCHULIPを捉えた」

 ブリーフィングルームを睥睨しつつ、トラック機動兵団の指揮官であるブライアン・ウィルソン少佐が張りのある声で説明を行っていく。
 同時に、中央画面に幾つもの画像、そして情報が表示されていく。
 すばる望遠鏡が捉えたのは只のCHULIPでは無く、新型だった。
 否、それも真実かどうかは判らない。
 判っている事は、無人艦でもなければ無人機でも無いと云う事。
 そしてもう1つ大事な事は、この新型CHULIPの落下予想地点が、ユーラシア大陸西部に於ける兵站の中枢、クルスク工業地帯だと云う事だった。

「奴がクルスクに落下する影響は予想し得ない。何しろ新型だ、門以外の役割が考えられる。或いは、火星のコロニーの如く質量攻撃を狙っているのかもしれない」

 大質量の落下によって消滅したコロニー、その事をブライアンが口にした時、少しだけアキトが身じろぎをした。
 ほんの少しだけ。
 その事に気付いたのは1人だけ、ロストマンだった。
 少しだけ眉を跳ねらせた。

「――迎撃作戦に関しては第32任務部隊(TF-32)は無論、スカパ・フロー泊地で再編成中だった第3艦隊(オービット・フリート)主力の他、各泊地からも部隊が参加する。地球連合の総兵力、その過半数の艦隊が集結する予定だ。今までの状況から見て、これだけの戦力を一点に投入すれば、新型がCHULIP級の能力を持っていたとしても撃破可能だと私は判断する」

 そこで一旦、口を閉ざして周囲を睥睨する。

「パイッロット諸君、軍人の義務を全うせよ」

 一斉に敬礼するパイロット達。
 ブライアンも又、見事な仕草で答礼していた。

 

 

 新型CHULIP――その形状からナナフシと命名されたソレへの迎撃作戦に参加する部隊は一週間後、迎撃作戦の2日前にトラック泊地を出撃する事となっていた。
 衛星軌道上に於ける一大防衛戦。
 その指揮は少将任務中佐と成ったジェイコブスンに一任されていた。
 交戦が衛星軌道上、トラック泊地の近域で発生すると予定されている事が表向きの理由であったが、それ以上に生臭い政治的な理由があった。
 ジェイコブスンは戦術指揮官として名を上げていない。
 だが同時に、強烈な親海洋国家連合主義者(シー・マフィア)としては名を知られていたのだ。
 それ故に、ハワイ泊地を放棄する事と成った米国が、己の存在感を誇示する為に利用した――連合宇宙軍に対して強烈な政治工作を仕掛けたのだ。
 その結果が少将任務中佐と云う待遇。
 米国による、露骨な報奨行動。
 良識在る人間の殆どは眉を顰めた。
 だが当人のジェイコブスンは気にしなかった。
 この厚遇に機嫌を良くし、鼻高々と言わんばかりの表情で張り切って作戦を立案していた。
 迎撃作戦“アイアン・シールド”。
 アイアンと呼称される部隊が衛星軌道上に於ける金床としてナナフシの降下を阻止し、近宙にて待機していたシールドと呼称される部隊が後背からナナフシを突く事でコレを粉砕する。
 何とも単純で、そして確実な作戦。
 このプランを参謀団に示した時、ジェイコブスンは胸を張って言った。
 『これは諸君が孫の代まで語り継げる作戦である』と。戦争の状況を一転させ、地球の反撃、その嚆矢となる作戦だと。
 装飾過剰な表現ではあったが、作戦自体は投入する戦力を見誤りさえしなければ先ず失敗は無いであろう堅実なものだった。
 その点に関しては誰もが同意するが、だがその前に1つだけ問題があった。
 輸送、展開力に関してである。
 トラック泊地駐留艦隊である第32任務部隊は良い。
 そもそもが機動戦力であり、常に即座に動けるだけの準備をしている為、今すぐに出撃と言われて対応出来るのだが、流石にトラック機動兵団だけは別だった。
 基本的にISS-7を中心に迎撃作戦に従事する編成であった為、今回の作戦で艦隊防空任務用にと随伴させようとしても、トラック泊地が保有する輸送艦だけでは部隊を輸送する事は不可能だったのだ。
 当然だろう。
 消耗し定数を割り込んでいるとは云え5個中隊で編成されているトラック機動兵団は、旅団級にも匹敵する重量級編成の部隊であったのだから。
 その事をトラック機動兵団の戦務参謀が指摘した所、ジェイコブスンは言い放った。
 それを何とかするのが参謀である、と。
 己を歴史上の人物に準えて見ていたジェイコブスンは、少将の立場と成った事もあって、もはや補給や輸送などの雑事は、綺羅星の如き将星たる己が行うには足らぬ行為であると認識していたのだ。
 それを聞いた時、トラック駐留軍参謀団は絶望の呻きを上げていた。
 尤もジェイコブスンは、その事に気付ける程に繊細では無かった。
 そこから参謀団の悪戦苦闘が始まった。
 各所に連絡し、要請し、泣きついて、所要数を確保しようと駆け回った。
 恩を、ツテを、コネをも総動員して交渉した。
 だがその結果は捗々しく無かった。
 当然である。艦隊や基地を問わず何処の部隊でも輸送艦は所要数を割り込んでおり、補給他の状況は逼迫していたのだから。
 交渉すれど、尽く断られたのは当然であろう。
 それなりに優秀な人材の揃っていたトラック駐留軍参謀団にとっては何とも屈辱的状況、それを救ったのはヘルガであり、リューイチロウであった。
 ヘルガが第3戦術輸送船団を管理する第5艦隊を説得し、そしてリューイチロウは船団各艦の艦長へと懸命な説得を行ったのだ。
 その結果、第3戦術輸送船団は臨時にトラック配置部隊へと編入される事となった。
 率直に言ってリューイチロウは、ジェイコブスンの事を嫌っていた。
 軍人としても人としても嫌っていた。
 だが同時に、個人の好嫌いとは別に、職業軍人としての倫理観からナナフシの地球落下を阻止する為に動く事に疑問は抱いていなかったのだ。
 地球を護りたい。
 それだけが理由であった。
 簡単な理由。
 だがそれ故に心に響き、感情的にジェイコブスンを嫌っていた人々もリューイチロウの説得に折れる事になったのだ。
 ジェイコブスンの弾劾を腹に決めていた船団司令も、その手続きを行うのをアイアン・シールド作戦が終了して以降に遅らせる事を、地球へと向かう傷病者輸送艦に乗り込む前にリューイチロウに約束していた。

 船団を構成する各艦各人は傷付き疲れ果てていたが、それでも尚、地球を護る為に力を振り絞る事と成ったのだ。

 

 それからは怒涛の如く時が流れていった。
 トラック泊地を出撃する前日。
 今だ部隊司令部や整備班は忙しげだったが、パイロット達は作戦までに疲労を蓄積させない為、休養が命じられていた。

 地球がとても蒼く美しく見える無重力展望台。
 平時では格好の観光スポットとして多くの旅行者が利用していたが、ISS-7が戦時態勢へと移行し、民間人の立ち入りを禁止してからは、殆ど誰も使用してはいなかった。
 節電の為に非常用に限定して供給されている電気。
 それ故に尚更、地球の蒼さが増して見えていた。

「蒼いな」

 呆っと、地球を見上げて呟いたのはアキト。
 宙に漂いながら、只々見上げている。
 手にはオレンジジュースの缶があり、それをチビリチビリと飲んでいく。
 目元が赤い。
 身体が濡れている。大規模な作戦への参加を前にしての莫迦騒ぎ、その影響だった。
 誰も居ない空間。
 力なく漂っているアキト。

軽音

 空気が動き気配が生じた瞬間、漂っていた弛みが消えた。
 コンパクトな動作で着地し、素早く振り返る。
 人が居る。
 逆光で影しか見えない。
 自然な仕草で腰へと手を伸ばし、途中で止める。
 かつてそこに下げていた大型拳銃は今は持たない。
 徒手空拳、当然だ。
 衛星軌道上にある軍事基地で武器を携帯する必要は無く、又、そもそも不用意な武器の携帯は暴発等の万が一の際にステーション内の機材を傷付ける危険が在る為、警備兵や憲兵の様な職務に関連しての携帯を許可をされた人間以外が武器を携帯する事は禁じられていたのだ。
 己の無防備さを笑うと共にアキトは、軽く腰を落して何時でも動ける姿勢へと体勢を移行させる。
 そこまでした時、人影が手に何かを持っていた何かをアキトに対して放り投げた。

「っ!」

 過去にして未来、かつての時に身体に染み込ませた訓練の成果が、アキトに即座の迎撃を指示するが、それを止めたのは影当人の声だった。

「こんな所に居たのか」

 落ち着いた声。
 敵ではない、味方、ロストマンだった。
 戦闘用に蓄えた力を抜きつつ、投げかけられたものをキャッチするアキト。
 それは良く冷えたビール瓶だった。

「俺は一応、まだ未成年ですよ?」

「社会人だろ? それにここで気にする奴は居ねぇし、そもそもさっきも飲んでただろうが」

 一応は、と苦笑を浮かべながら言うアキトに、ロストマンは漢臭く笑って答えると、それから自分も又、手に持っていたビール瓶を開封すると、口を付けた。
 喉を鳴らし、一気に飲み干す。
 無重力ゆえに、零れた雫が輝きながら散っていく。
 それから、更に持ち込んでいたケースから新しい瓶を取り出す。

「どうした、飲まねぇのか?」

 その余りにも自然な声に、アキトは苦笑と共に瓶の封を開けると一気に傾けた。
 暫し静かに飲む2人。
 遠くから、叫び声が聞こえた。
 そして歌が、1つのうねりとなって響く。
 “我等、軌道を往く者なり”――大時代な名前ではあるが、第3艦隊ではかなり人気の軍歌だった。

「―最後の盾たらん」

 小さく、その最後の1節を口ずさんだアキト。

「火星を思い出すか?」

 軌道上での戦いに破れ、CHULIPが地上に落ちた地――火星。
 火星で軍人は、民間人を護れなかったのだ。
 アキトは黙って瓶を飲み干し、そして口を開く。
 忘れた、と。

「何が正しいく何が間違っているのか。正義なんて科白の薄っぺらさ、色々考えた事はありますよ? だけど、ええ。全部面倒になって……」

 言葉を濁すように口篭るアキト。
 虚空を見上げるその目には、酔いの色は無い。
 只、ぽっかりとした虚が浮かんでいた。

「そうか」

 自分の中でも整理がついていないのだろう。
 そんな風に理解したロストマンは、自分の持っていた瓶を飲み干すと、ケースから2本抜くと、飲めと言いながら1本をアキトに放り投げた。
 気にしていたのだロストマンは。
 ブリーフィング時のアキトの様子から、何らかの精神的な何か。或いはストレスが無いかと。
 アイアン・シールド作戦は、地球を覆った大防衛ライン、ビックバリアの直ぐ外側と云う大気圏の直ぐ隣、戦闘行動を行うには極めて危険な場所で実施されるのだ。
 であれば少しでも不確定要素は排除すべきなのだ。
 そして同時に、ロストマンがアキトの事を高く評価していた事も理由にあった。
 アキトは部隊の中で突出した撃墜数(スコア)を出している訳では無い。
 だがしかし、良く部隊の動きを見て、効率よく各機に支援を行っていたのだ。
 彼我の戦力差が少ない時ならば、誰でも僚機の支援は実施出来るが、兵力に差が在る時には誰もが自分の事で精一杯になってしまうのだ。
 それは精鋭部隊と言って良い、第2321中隊ででもだった。
 にも関わらずアキトは、どれ程の乱戦であっても可能な限り仲間たちを護ろうとするのだ。
 撃墜数の少なさは、自分よりも周りを優先するアキトの姿勢、その表れだった。
 だからこそアキトを信用するのだ、誰もが。
 正規士官(オフィッサー)に向いているかもしれないとすら、ロストマンは思っていた。
 それ故に、微細ながらも常には無い反応をしたアキトの事を確認に来たのだった。
 再び黙々と飲む2人。

「そう言えば聞いていなかったな。アキト、お前は何で軍に志願したんだ?」

「喰えなかったから、ですかね」

 未来からボゾンジャンプ、それもランダムジャンプで来たと云う部分は誤魔化し、只、地球に寄る辺の無い火星からの難民、それも忌避されるIFS取得者では就職口が無かったと言うアキト。
 どこでどうすれば、かつての自分を拾ってくれた面倒見の良い定食屋の店主に出会えるかは覚えて居たが、行けなかったのだ。
 怖くて。
 自分は相手を知っている。
 だが相手は自分を知らない。それはとてつもない恐怖だった。
 それは店主だけでは無い。
 ネルガルに対してもだった。
 <火星の後継者>の蜂起前。アキトはネルガルの裏側(ネルガル・スペシャル・サービス)にも加わって幾つもの非合法活動を行った事もあった。
 その頃の記憶に頼れば、或いはネルガルに加わる事は簡単だったかもしれない。
 だが耐えられなかったのだ。
 ネルガルの会長アカツキ・ナガレや会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォン、或いはプロスペクター達は同じ船に乗り苦楽を共にした仲間。その仲間が同じ顔、同じ仕草、同じ嗜好で他人の様に自分に接するのだ。
 <火星の後継者>の残党との戦いに疲れ果てたアキトにとって、それは耐え難い恐怖だった。
 或いは誰か、判り合える人が居れば違ったかもしれない。
 だが共に跳んだ筈のルリは、どれ程探しても見つからなかった。
 ルリを探して半日以上もうろつき、そして疲れ果て途方に暮れたのだ。

「腹を空かせて駅前で座り込んでた時に、声を掛けられたんですよ」

「人事部の勧誘隊(マン・ハント)か」

「ええ。駅前の喫茶店で飯奢ってもらって、それからつらつらと会話して、それで俺が何所にも行く場所が無い事を言ったら、3食と給与は約束するって言われましてね」

「呆れる理由だな。危険とかは気にならなかったのか?」

 流石に苦笑するロストマンに、アキトは極めて醒めた表情で笑う。
 野垂れ死ぬのも、戦死するのも死ぬ事にかわりは無いと。
 そして、戦死なら死ぬまでの間はひもじい思いはしなくてすむ、と。

「結局人間は、そんな理由ででも戦えるんですよ」

 半分以上捨て鉢に聞こえるアキトの言葉。
 だがそこに、命を軽んじる響きは無かった。
 ロストマンにとってはそれで十分だった。
 死にたがりの奴は迷惑――危機があれば命を掛けて助け合う。それが軌道上の仲間(ザイル・パートナー)と云うものであり、それが、極地にて戦う者たちの共通認識だった。
 その事をアキトも良く判っていた。
 だから一言、付け加えた。
 死ぬ気は無い、と。
 アキトは、自分の命に重きを置く事が出来なかった。だが背負っているものはあった。
 それは口には出せぬ過去への想い。
 ホシノ・ルリ。
 未来にして過去、過去にして未来。
 幸の薄かった少女が、自分の命を掛けてまで救おうとした命なのだ。
 こんな事で喪う訳にはいかなかった。

「それならそれで十分だ。次はキツイ事になるだろうが、気合入れろよ」

「了解、ロストマン」

 

 

――Z――

 

 

 刻一刻と近づいてくる新型CHULIP、ナナフシ。
 その正面、ビックバリアの内側に重装打撃部隊であるアイアン.a任務部隊が舳先を揃えいる。
 アイアン.a任務部隊には地球圏最強の戦艦姉妹、インビンシブル級のストーンウォール・ジャクソンとジェームズ・ロングストリートを中心に、各国宇宙軍の戦艦が11隻も集っていた。
 各艦共に、乗組員達は高い戦意で砲火を交える時を待ち構えている。
 それは裏付けの無い戦意では無かった。

 確かに過去、地球連合は木星蜥蜴の無人艦隊に敗れた。
 第1次火星会戦にて、参加した戦艦数27隻中13隻が沈没。2隻が被害甚大の為に撤退戦の最中に自沈処分をする事と成り、他に中大破にて半年近い入渠修理が必要な艦が7隻と云う被害を出したのだ。
 損耗率、実に56%。
 補助艦艇に到っては、実に8割近い艦が宇宙の藻屑と化していたのだ。
 それは何とも散々極まりない、圧倒的な敗北だった。
 地球で生まれた戦艦達は、木星より飛来した戦艦群に全くと言って良い程に勝てなかったのだ。
 無論技術的な問題だけでは無く、部隊首脳陣の間に蔓延った長き平和の代価、慢心と云った問題も散在していた。
 その事は部隊総指揮官のフクベ・ジン大将を筆頭に生き残った部隊首脳陣の多くが査問会での厳しい調査の後に、予備役編入や降格処分を受けた事にも現れていた。

 だがそれでも戦意は高かった。
 それは、地球連合が決して無能者の集団などでは無い事の証明だった。
 組織的な問題に関しては、即座に組織改編と云う訳には行かなかったが、この時点で有志が中心となった組織改革計画が胎動しつつあった。
 そして技術的なものに関しては、当然の如く迅速に原因の究明と対策が行われていた。
 木星蜥蜴の無人戦艦が有する強力な矛と盾。
 その(グラビティ・ブラスト)に関しては、高速輸送艦を改造して発動機の追加と強力なバリア発生装置を搭載した特務艦――バリア艦を揃える事で対処する事とした。
 そして(ディストーション・フィールド)に対しては、艦載兵器を光学兵器から、保管されていた実弾兵器――光学兵器に比べ、弾速等の問題から有効射程が短い為に旧式兵器とされていたレールガンだが、その質量弾であるが故にディストーションフィールドの空間歪曲に強い為、これを再び主要艦載兵器とする事で、対応としていた。
 共に泥縄的な対応ではあったが、その効果は、対応の済んだ艦が衛星軌道上に配置されて以降、地球上に降下出来たチューリップの数がそれ以前と比べて四分の一にも達していない事に現れていた。
 敗北の原因を究明し、対処手段を講じた今では、木星蜥蜴の無人戦艦など恐れるに足らず。
 アイアン.a任務部隊に属する誰もがそう思っている。
 程よい緊張感の中、誰もが戦闘開始の時を待っていた。

 

 

 アイアン.a任務部隊から若干、離れた場所。
 そこに集結しつつある部隊も居た。
 直接戦闘を不得手とする空母や各種補助艦艇が集められたアイアン.b任務部隊である。
 連合宇宙軍空母部隊の中核を成す大型空母キティホークを中心に正規空母3隻、戦闘空母1隻、軽空母3隻の計7隻が所属している。
 正確に述べるならば、所属する予定だと言うべきだろう。
 集結予定時間は既に経過していたが、第4艦隊(トレーニング・コマンド)に所属し、衛星軌道上にて機動兵器部隊の訓練任務に就いていた戦闘空母ベクトルや、欧州統合航宙艦隊(E.J.S.F)に所属する2隻の軽空母、シャルル・ドゴールとジュゼッペ・ガルバルディが到着していないのだ。
 ベクトルは推進器の出力不足によって軌道変更に時間が掛かっている事が原因であり、欧州宇宙軍の2隻に関しては、戦艦部隊に優先的に推進剤を回した為に、加速がままならない事が原因だった。
 他にも、護衛艦他の集結状況はお世辞にも良好とは言い難かった。

 

 芳醇な香り、ゆっくりと湧き上がる。
 決して出来合いの紅茶では再現出来ない、人が関わるが故に生み出される豊かさ。
 それが極めて心地よい。

「相変わらずいい仕事だなカリウス」

 ヘルガは上品に、音を立てる事無く一口味わって、そしてソーサーに戻す。

「恐れ入ります」

 賞賛の声に、カリウスは軽く会釈をする。
 軍服よりもタキシードの方が似合いそうな雰囲気であるが、ヘルガが、実用本位の軍服がドレスか何かの魅力的な服に見える雰囲気を持って居るのだから、在る意味で間違ってはいないのかもしれない。
 この場がトウキョウVの艦橋、それも準戦闘配置である事を除けば。

溜息

 それも、どちらかと言えば疲労を感じさせるもの。
 リューイチロウだ。
 腰を下ろした艦長席、その直ぐ後の提督席での会話に少しだけ疲れたのだ。

「どうした、飲みたいか艦長?」

 からかう様なヘルガの口調。
 それは否定するリューイチロウ。
 淹れたのはカリウス少佐なのだ。淹れる技量が高い事は漂う芳香からも判っては居たが、相手が自分よりも高い階級で、しかも年上の相手にお茶を入れて貰うと云う行為は、人間の根っこの部分が生真面目なリューイチロウにとっては何とも精神的な納まりが悪かったのだ。
 謝辞するリューイチロウの気持ちが判るのだろう、カリウスは小さく微笑んでいた。

 トウキョウVの艦橋にヘルガ達が居る理由。
 それも提督席に座る理由、それは極めて単純なものだった。
 連合宇宙軍は、個艦性能の差やリスクの低減の観点からアイアン.b任務部隊を3つの部隊に分けて運用していた。
 1つは、キティホークとケストレルの正規空母部隊。
 2つ目は、アンティータムとベクトルの集成空母部隊。
 そして3つ目が、軽空母3隻を集めた護衛空母部隊だった。
 その3つ目の部隊――アイアン.b3任務部隊の指揮官に成っていたのだヘルガは。
 無論、トウキョウVはその旗艦任務に就いていたのだ。
 本来は第5艦隊第3戦術輸送船団に所属するトウキョウVが船団旗艦のオーキスを差し置いて旗艦に選ばれた理由、その1つは艦の状況であった。
 オーキスは先の戦闘にて機関部を中心に手酷い被害を被っており、大破の判定の下で長期のドック入りと相成っていたのだ。
 これに対してトウキョウVは、機関部や竜骨(キール)と云った艦の基幹部位に被害が出ていなかった事から、数日の応急修理で戦闘参加が可能となっていたのだ。
 直線で構成された無骨な船体を、灰色を基調とした低視認性(ロービジティ)塗装で塗り上げていたトウキョウVは、白い応急装甲材で継ぎ接ぎだらけと成っていたが、その能力に問題は無かった。
 そもそもカメリアマル級は、その船体が戦艦並の400m級と航宙艦としてはかなり大型の部類に入る為、臨時で機動兵器中隊を整備部隊や補給物資等と共に、ユニット式の旗艦用高出力通信ユニットを搭載しても尚、余裕があった。
 尚、この他のトラック機動兵団を搭載した艦も全て、アイアン.3b任務部隊に組み込まれていた。

 トウキョウVのブリッジは今、酷い状態と成っていた。
 本来の艦長であるアシカガ大尉以下、少なからぬ数のブリッジ要員を死傷させた被弾の為にである。
 今、その被弾痕は複合材パネルで塞がれ、気密は回復してはいたが、ブリッジ機能の大半は停止したままになっていた。
 その為ブリッジ機能は艦後部の第2ブリッジに移され、要員の殆どは其処に詰めていた。
 今、このブリッジに残っているのはリューイチロウとヘルガ、カリウス。そして対空監視員と連絡士官の2名だけだった。

「この状況をどう読む、艦長?」

 ヘルガが、そのほっそりとした顎先で示した艦橋上部の複合ディスプレィ。
 そこに表示された部隊状況は、3つに分かれた地球連合の各軍と、一塊の集団となって迫り来る木星蜥蜴の群が表示されていた。
 試されている。
 そう判断したリューイチロウは、思考を疾駆させる。
 宇宙軍兵学校で習った事、実戦で学んだ事。
 色々と勘案して答を導き出す。
 危ういのでは無いか、と。

「危うい?」

 面白がる表情を見せるヘルガ。
 そのヘルガとジェイコブスンの仲の悪さを間近で見たリューイチロウは、些か直接的な表現をしても良いだろうと、言葉を選んでいく。
 敵を侮っているのではと。

「ナナフシの情報は余りにも不足しています。にも関わらずジェイコブスン司令官の選択は“敵はこう動くに違いない”と断じて行動している様に見えます。護衛艦艇が少ない理由は、護衛艦艇の不足では無く護衛艦艇が不要なのかもしれません。地球への降下軌道が明瞭過ぎる理由は、我々をおびき寄せる為かもしれません」

「ならば、貴官ならどうするアマミヤ中尉」

「私ですか………………私ならば、先ずは威力偵察ですね。高速戦艦の高速巡航で反航戦を仕掛けさせます」

「燃料の問題はどうする」

「燃料の消費は激しいですが、ここは地球圏です。進行方向さえ考えておけば何とか出来ます。それに、今の場合でしたらシールドの部隊も在りますから、問題は無いと判断します大佐」

「面白みは無いが堅実だな。カリウス?」

 鼻を鳴らして、だが小馬鹿にする意味は無く笑うヘルガ。
 対してカリウスは、己の主の意思を十分に読み取って、頷いた。

「先物買いは正解であったかと」

「?」

「ああ気にするな、アマミヤ・リューイチロウ大尉(・・)。辞令が出てからでも遅くは無い。今は目の前の任務に集中したまえ」

 今一つ要領を得ないヘルガの言葉に、リューイチロウは小首を傾げていた。

 

 

――[――

 

 

 暗がりに沈む部屋。
 ブラインドは降ろされ、灯火は消されている。
 部屋は本来、白を基調とした壁紙が張られているのだが、この暗がりでそれを判別する事は出来ない。
 だが人が居ない訳では無い。
 6人の男達の影が、机の複合ディスプレイから洩れる光に浮かび上がっていた。
 この部屋は横須賀――連合宇宙軍第5艦隊が地上の拠点としている横須賀基地の建物内にあった。
 当然の如く、高い強度での防諜対策の施された部屋である。

 壁の大型ディスプレイには連合宇宙軍の旗が大きく写し出されていた。

「軍令部の方で今回のアメリカの横槍、問題視する声は大きい」

 大柄な男が重々しく口を開いた。
 その言葉に応える様に、細い影を引いた男が口の端を曲げる。

「人事部でも同様だな。あの男は無能では無い。それは認めよう。そこそこの任務に、そこそこの戦力で当たるのであれば十分に成し遂げる程度は出来る」

「問題は?」

「舞い上がりやすい事だな。自分と周りが見えていない」

 胸の前で腕を組み、その左手で自らの参謀飾緒を弄びながら最後に付け加える。所謂“夜郎自大”であると。
 酷評される対象。それはジェイコブスンだった。

「張中佐、それにもう1つだ。奴は政治的過ぎる。連合宇宙軍は民主主義下の軍隊だ。それぞれがどんな主義主張をしていても構わんが、それを人に押し付けられても迷惑だ。兵員の士気に関わる」

 ディスプレイの光を眼鏡で反射させながら、小太りの男が馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに掌をひらひらとさせた。
 ここに居る誰もがジェイコブスンと云う軍人の欠陥を把握していた。
 それが撒き散らせるであろう弊害も。
 否。
 ジェイコブスンだけでは無い。
 ジェイコブスンに代表される対立派(ポリティカル・ゲーマー)の問題を看過すべからずと認識するが故に、この部屋に集まっていたのだ。
 この暗い部屋に集まった6人の男達。
 所属する部署は異なれど、その各々の現場で発生した対立派の、その支持母体の諸国の意を受けた専横が生み出した問題を口々に述べていく。
 馬鹿馬鹿しい対立(パワー・ゲーム)は宇宙防衛省の各部、軍令部から始まって技術研究本部や情報本部、挙句の果ては調達本部まで巻き込んで繰り広げられていた。
 圧倒的な国力を誇る筈の地球連合が、そして連合宇宙軍が、その国力に見合っただけの力を発揮しきれていないのは、この対立が原因であった。
 対立派は決して多数派では無い。
 だがしかし、多数派で無くとも集団を操る事は出来るのだ。
 声や態度の大きさ、或いは攻撃的な姿勢と云うものは意志の弱い人間、或いは組織の維持を優先して考える人間を容易に操れてしまうのだ。
 他者と対立してでも、己を貫ける程に意志が強い人間と云うものは、極めて少数派なのだ。
 それが、「大陸国・海洋国派あい戦い、余力をもって木星蜥蜴にあたる」と揶揄される状況に繋がっているのだ。
 この場に集まった男たちは、その何とも情けない状況を打破する為に来ていたのだった。

 融和派(ジョインスト)
 或いは戦争至上主義者(ウォー・モンガー)と、歴史書にて呼ばれる事になる男たちであった。

「さて諸君、我々の認識が共通している事は今までの会話で納得出来たと思う。さて此処で1つ問いたい。連合宇宙軍をこのままにしていて良いのか、とね」

 それまで上座で黙って聴いていた男がゆっくりと口を開く。
 この部屋で最も高位の階級に就いては居たが、その言葉遣いは下位の階級の者に対するものでは無かった。
 当然だろう。
 此処に集まった人間は、職務故に集まった訳では無かったのだから。
 同志。
 1つの危機感によって集ったもの達なのだから。

「我々は宇宙軍に奉職する際、地球を、人類の守護者たるを誓った身だ。その相手は外敵に限定されると思うかね」

(ナイン)

 小太りの男が母国語で、その外観を裏切る歯切れの良さで答える。

「ならば彼等の対立が連合宇宙軍を蝕むのであれば内憂、内側の敵と言って良いかね」

同意する(イエス)

 細身の、壮年の男性が一言で応じた。
 それはさながら儀式であった。
 誰もが地球連合の公式言語である融合英語では無く、母国の言葉で答えていく。
 一巡。
 そこで張中佐と呼ばれた男性が口を開く。

「不平不満は言い飽きた。それが我々の共通認識だな?」

「その通りだ」

 日本語での返事。
 その後を継いで、小太りのドイツ人が口を開く。

「ならば諸氏、扉を押し開けようでは無いか。戦争の為の、戦争の夏へと続く扉を」

 口元には歪み。
 それは微笑と表現するには、余りにも邪悪な笑み。
 その時だった。

電子音

 上座の男、その手元で通信機が自己主張したのは。
 誰もがじっと自分を見ている中で、男はゆっくりとした、だが簡潔な動作で受話器を握る。
 それは防諜の観点から、有線となっている部内回線だった。

「私だ」

 相手は男の副官だった。
 受話器から洩れる声。
 男は黙って聴き、そして2つ程指示を出すと、通信を切った。
 受話器を置く音が思いの他、静かな室内に響く。

「諸君、余裕が更に削られてしまったようだ」

 それは軌道上の戦い、その第1ラウンドが敗北した事を知らせる通信だった。
 手元のパネルを操作。
 壁の大型ディスプレイに、連合宇宙軍旗に変えてアイアン・シールド作戦の状況を呼び出す。
 一斉に呻き声が上がった。

「ただ一度の交戦で投入戦力の8割を喪失だと。なんてザマだ」

 もう少し有能だと思っていたんだがと、怒るよりも呆れた口調で言い放つ張。
 だがその表情には、言葉程に余裕は無い。
 少なからぬ真剣さで、生き残った艦艇の情報を確認していく。

 アイアン・シールド作戦に投入した戦力は、主力艦である戦艦だけでも16隻。
 その内の11隻がナナフシの正面に立ち塞がったのだ。
 旗艦は12使徒級のジェームズ・ロングストリート。
 他にも土佐、インビンシブル、ストーンウォール・ジャクソンと、戦闘可能な12使徒級の全て。
 米宇宙軍最新鋭の戦艦であるアイオワ級のアイオワとミズーリ、マサチューセッツ。
 ビスマルク、ティルピッツ、沈遠と、性能的には標準的なものの、その運用コストの低さや汎用性の高さから最多量産戦艦として知られた山城級――日英合同建艦計画の下で設計されたA号計画艦の姉妹達が集まっていた。
 この3隻は、ユーラシア連合にとっては宝石よりも貴重な最後の戦艦群であったが、ナナフシの降下先が欧州圏防衛の要、クルスク重工業地帯であった為に、その全艦が投入される事となったのだ。
 他に、艦籍簿には“訓練戦艦”として記入されている老朽戦艦、ネバダ級のアリゾナが加わっていた。
 地球圏の現状では、最有力打撃集団と評しても良いだろう。
 戦力の集中、効果的運用と云う軍事の原則はしっかりと護っていた。

 作戦的な問題も無かった。
 金床のアイアン部隊は無論ながらも、金槌のシールド部隊の戦力も又、決して脆弱な部隊では無かったのだから。
 シールド部隊に編入された5隻の戦艦。
 ライオン、ザイドリッツ、霧島と云うライオン級高速戦艦の3隻と山城級の2隻、山城と扶桑。
 ライオン級は、長期哨戒任務向けに設計された高速戦艦であった為、山城級に比べると若干防御力に劣るものの、打撃力では同等のものを持っているのだ。
 16隻の戦艦による挟撃戦。
 相手が余程のものでも無い限り、負ける事は無い――戦術シミュレーションでの実験でも、木星蜥蜴の戦力を第1次火星会戦時のデータを更に5割程度割り増して見積もった場合ですら、大破以上の被害を出した艦は5隻を超えなかったのだ。
 にも関わらず負けた。
 生き残れた戦艦は土佐、ジェームズ・ロングストリート、ビスマルク、扶桑の4隻だけだった。
 完膚なきまでの敗北。
 この作戦に向けられた努力を知悉したが故に、この部屋に集っていた面々は、政敵とも言える相手の敗北に苦いものを抱いたのだ。
 そしてもう1つ。
 作戦の失敗がもたらす事を容易に想像出来るが故に。

「ではナナフシはクルスクに?」

 温厚な外観をした壮年の男、ヘンリィ・ウェイトレク大佐が融合英語では無く流麗なクイーンズ・イングリッシュ・スタイルの発音で言葉を紡いだ。
 歴戦の陸戦指揮官としてアイアン・シールド作戦の失敗した理由に興味はあったが、同時に、極めて実務的な性格をしていた為、敵の動向に対する注意深さが身に染み付いていたのだ。
 これに対し、常に笑っている様な顔をした小太りのドイツ人、モンティナ・マックス中佐は眼鏡を掌で小さく押し上げて応える。
 まだだと。
 続けて、もう少し楽しめそうだとも言う。

「16隻の戦艦を突っ込んでの大戦闘だったんだ、流石の蜥蜴もチューリップをクルスクへの降下回廊へは載せられなかったらしい。今は衛星軌道、ビックバリアの直ぐ外側で軌道修正中だ。私の見立てが正しければ、後2時間程度は再突入に掛かるだろうね」

「2時間か、避難の方はどうなっている?」

 ヘンリィの、護民を旨とする連合宇宙軍士官として当然の質問。
 応えたのはモンティナでは無かった。
 その左隣、細身の張中佐――張・飛鴻が苦く笑いながら口を開く。

「逃げ出すにはまだ早いな。いや、避難自体は否定しない。だが戦艦部隊は壊滅しても、軌道上には空母部隊が残っている。あの部隊には技術本部自慢の新型、対歪曲力場用のミサイルが持ち込まれている。遣り方次第では何とか出来るだろう」

 その言葉に、技術研究本部から来た、ズケラン・タビト少佐が自信を持って頷いた。
 信じて欲しいと。

「そういう事だ。試射実験には私も参加した。先行量産型の性能は申し分無かった。アレは使い物になる。出来ればもう少し小型化出来れば尚良いだろう」

「張中佐、それが軍令部第1部の判断かね?」

「私の、だな。第1部部内ではまだ懐疑的な見方をする者も多いのが実情でね」

 ざらついた響きの言葉。
 張は、まるで大艦巨砲主義の時代に逆戻った様だと言う。
 そして、ディストーションフィールドの存在が従来の光学兵器を無効化させ、実弾兵装が復活した事の意味を判って居る者が少ないと。

「尤も、それも直ぐに変わるだろうがね」

「確信でもあるのか張中佐、断言しているが? 正規空母が2隻も沈んでいるが」

 言外に、機動兵器部隊の錬度を問うタビト。
 ミサイルの性能には強い自信があった。
 だが同時に試作品の、技術的に熟成されていない増加試作型のミサイルなのだ。
 運用する部隊次第では、その能力を十分に発揮させる事は困難なのだ。
 それ故の厳しい表現。
 この場では一番の若輩であったタビトだが、その態度に些かも臆す所は無い。

「シールド部隊と同じ、将兵よりも指揮官の側の問題だな。キティホークとアンティータム。資料を見る限り、パイロット達の錬度は高い。技量A判定の連中が揃っていたからな。無論、整備部隊の錬度も良好だ。ジェイコブスンの自己保身で潰されるには、勿体無さすぎる連中だったよ」

 余りにも苦いものを口に含んでの言葉。
 過去形。
 既にその精鋭の半数は失われてしまっているのだ。
 作戦を立案する軍令部第1部の人間としては、非常に頭の痛い問題だった。
 沈痛な空気が舞い降りる。
 その雰囲気を変えたのは長身のロシア人、アンドレイ・スターリン中佐だった。

「ケストレルにも被害が出ているな。航行能力は喪っていないが、当分はドック入りだな。これで当分、正規空母部隊は使えん事になった。だが、お陰で面白い人物が指揮権を継承している」

 その言葉に、残存部隊の情報を確認するタビト。
 そこには比較的被害の少なかったアイアン.b3任務部隊、その指揮官がアイアン・シールド作戦へと参加した全艦艇の指揮権を継承した旨が記載されていた。

「アイアン.b3任務部隊の指揮官、ヘルガ・アデナウワー………准将?」

「信用出来るのかね?」

 それまで話の流れを見ていた上座の男、ミスマル・コウイチロウ中将がゆっくりと口を開いた。
 その軍歴の大半を艦隊勤務で積み上げてきたコウイチロウは、ヘルガ・アデナウワーの名に聞き覚えがあった。
 コウイチロウの印象でヘルガは、利発ではあるがある種、鋭利過ぎると思える少女だった。
 戦務参謀として、第6艦隊(コースト・ガード)を動かしていた頃の事は知っていた。
 だが同時に、それがどこまでヘルガの能力であるのか、図りかねていたのだ。
 他の参謀の意見を集約して、成果を上げたのかもしれないと。
 特にアデナウワー家の権力を盾に、カリウスと云う、現役時代には名を知られていた勇士を常に周囲へと侍らせている事から、コウイチロウのヘルガを見る目は極めて厳しいものとなっていた。
 今もヘルガの傍にカリウスは居る。
 それを考えれば、ヘルガの能力で無くとも、問題は無いかもしれない。
 だがしかし、指揮官が無能であった場合、そして無能が致命的瞬間に顕著化した場合の問題を考えれば、この事を曖昧なものにしておく事は出来なかった。
 故に、コウイチロウの声には少しばかりの懐疑の念が入る。
 情報本部付のモンティナが、情報を呼び出す。

「経歴は見ての通りだ。歳は若いが実績を上げている。欧州宇宙軍からの移籍組だから知られては居ないが戦績はなかなかのものだ、信用しても良いと私は思うがね。それに彼女はアデナウワーだ。連中は無能者を表には出さない」

「アデナウワー?」

「ああアデナウワーだ。ドイツの裏側に居る連中でね、情報畑で無ければ知らんのも当然だが………そうだな、言うならば日本の芝村家みたいな物だ。政財への強い影響力を持った閥でね。芝村に比べるともう少し裏側に潜って居るがね。ヘルガ准将は、芝村風に言えば“末姫”と云う奴だね」

「ジェイコブスン、ジェームズ・ロングストリートは地球へと降下か。ならばアデナウワー准将の指揮で問題は無いな。では期待するとしよう」

 ヘンリィがそう言葉を締めた時、個々人の手元の複合ディスプレイが電子音を上げた。
 それはナナフシから剥離した部位の降下情報だった。
 7つの破片が地上へと降り注いだ。
 衛星軌道上でも相当に高い高度での分解であった為、その破片は広域に落下する事になった。
 2つが大西洋に。
 1つが太平洋に。
 そして4つが北米大陸に落下していた。

「これは………」

 呻きに近いものが上がった。
 北米大陸に落下した破片、その一番東側の落下場所がアパラチア山脈の東側で更に砕けて落下したのだ。
 ニューヨーク、フィラデルフィア、ボルティモア。そしてワシントンへと。
 火星でユートピア・コロニーへと墜落したCHULIPを考えれば、それはアメリカ合衆国の東部主要地帯が消滅するであろう事を意味していた。
 墜落コースの判明から、墜落までの時間は5分も無い。
 誰も逃げる事は出来ないだろう。
 例え、大統領であろうとも。

「ふむ、再編の障壁の1つが消える、そう言うべきだろうね」

 極めて偽悪的に、そしてとても愉しそうにモンティナが呟いていた。

 

 

――\――

 

 

 諦めぬこと。
 そして挫けぬこと。
 それが、衛星軌道の防人の誓いだった。
 良くも判らぬうちに、集結した戦艦群の殆どを撃破され、空母も傷付いてはいたが、その誓いゆえに誰の心も、決して折れてはいなかった。

 衛星軌道上で戦闘可能な艦艇を全てかき集めた臨時部隊、集成・アイアン任務部隊。
 それは今まさに、追撃戦を行おうとしていた。
 戦闘を往くは、漸く合流出来た戦闘空母ベクトル。
 ベクトルは重戦艦並の装甲と火力を持ち、正規空母に匹敵する機動兵器部隊の運用能力を持つ大型艦である。
 本来は外宇宙戦闘用に計画建造された艦であったが、様々な政治的理由から、平時は地球圏防衛用に機動要塞的運用が成されている艦であった。
 これに続いて、最初の絶望的戦いを生き残った土佐とビスマルク、そして扶桑が一直線に続く。
 他にも巡航艦群が別の一群となって、傍を並走する。
 だがそれが、主力では無かった。
 主力は別に居た。

 

 

 殆どの動力を切り、静かに佇む機動兵器の群れ。
 だがそれは木星蜥蜴の虫型無人機では無い。
 ディルフィニウム。
 連合宇宙軍の主力機、有人の機体であった。
 その数、47機。
 その全長よりも巨大な試製対艦誘導弾を腹に抱えて、ディルフィニウムは漂っていた。

『こちらキャッツ・アイ。襲撃部隊(チーム・アロー)各機へ定期連絡。状況を確認。囮部隊(チーム・ベルタ)がナナフシと接触まで後7分。作戦予定に変化なし。繰り返す。状況に変化なし。各員、もう暫く待機せよ』

 レーザー通信で、ディルフィニウム隊の傍らに漂っている早期警戒管制機(AWACS)E-7が作戦状況を伝達してくる。
 遠距離への機動兵器投入時の支援機として開発されたE-7は、その役目故に、機と云うよりも艇と表現する事のほうが似つかわしい程に巨大な機体だった。

 

 E-7から送られてくる情報。
 そこには、ナナフシへと突進する、囮となった戦艦群の姿があった。
 戦艦群は、バリア艦を粉砕し、12使徒級を一撃で沈めた謎の火器を警戒して、ナナフシに接近すると共に散開を開始する。
 その様をアキトは無感動に見ていた。
 知っていた。
 謎の火器が何であるのかを。
 知っていた。
 この作戦が失敗するであろう事を。
 火器に関しては、その身で味わって。
 作戦に関しては、クルスクにナナフシが落ちていたと云う事実がある為に。
 だがそれを今までアキトは誰に対しても言う事は無かった。そしてこれからも言う積りは無かった。
 自分が何かを出来るとは思えなかったからだ。
 だから只、戦う。

『あっ、あれ? 俺のロケット何処へ行ったかな………?』

 中隊系の通信回線越しに、アボットが戸惑った声を漏らしたのが聞こえた。

『ヘーイ、アボット…あのマーキュリーを模ったロケットはお前のお守りだろうが…無くすなんざ、縁起でもねえ』

『アボット〜〜〜私からのプレゼントを〜〜〜』

 ロストマンの溜息に被さって、かなりの怒りが込められたキャロラインの声が聞こえた。
 目鼻立ちがハッキリとした太い線で形作られたキャロラインは魅力的な女性であったが、怒らせると手に負えない面があった。
 その事を知悉するアボットは平身低頭、平謝りとなる。

『ドンウォーリーキャロライン。無くしたりするもんか。きっと椅子の下に…』

 アボットが、汗を掻きながら狭い操縦槽内を見渡すのが見えた。
 中々の威丈夫が、背を丸めて首を振る様は何とも哀れみを誘っている。
 そう思うのはアキトだけでは無かったのだろう。
 イヴァンが幾分かの笑いと、それ以上の憐憫を持って話しかける。

『ご愁傷様、基地に帰ったら探すのを手伝ってやろうか?』

『サンキューイヴァン。ポケットにペンと一緒に入れていたから…ここら辺に浮いている筈なんだが……』

 緊張感の無い空気。
 それを、中隊副長のボブがたしなめる。

『気を引き締めろ。戦闘は近いんだ。今日の戦闘は、何時もの場所より少しばかりタイトだと云う事を忘れるなよ』

『オーケーボブ………』

 不承不承。諦めきれずに両手でパイロットスーツの彼方此方を手でまさぐりながら、アボットは返事をしていた。

 

 ベクトルに率いられた強襲部隊は、その囮としての本分を見事に果たしていた。
 無理な突破を図るのではなく、盛大に火器をばら撒きながら接近する事で、木星蜥蜴の無人戦艦や無人機を引き付けていた。
 傷付きながらも戦う。
 囮である事を、木星蜥蜴が気付かない様、全力で。
 連続して発生する光球。
 戦艦にはまだ中破以上の被害を出した艦が出ていないが、巡航艦以下では相当数の艦に被害が出ていた。
 だがそれ故に、本命の存在を隠していた。

 

 47機の刺客(ディルフィニウム)
 それが今、動き出す。

『キャッツ・アイよりチーム・アロー全機。ナナフシは目標点へと到達。状況に変化なし。繰り返す、状況に変化なし。全機、防人の本分を尽くされたし』

 その発信と共にE-7は主機関に点火、機動を開始する。
 ユーモラスな印象を与える寸胴の機体に不似合いなほどに長大なレーダー。
 そのレーダーから強烈な勢いで欺瞞電波を撒き散らしながらの避難行動。
 E-7も又、囮としての行動を始めたのだ。
 長距離攻撃部隊の支援用として開発された機体だった為その機動は、外観に似合わぬ素早さだった。
 幾つもの欺瞞電波を発信しながら、地球大気圏へと突入してゆく。
 自衛用に追加された機銃座を動かし、派手に光を撒き散らしながら。

 そしてディルフィニウムも動き出す。
 盛大に推進剤を撒き散らしながら、アローとの部隊名を体現する様に一直線に。
 ナナフシ。
 他のもには眼中に無し。
 只々真っ直ぐに。
 加速が、身体を座席へと押し付けるが、その程度では誰も機体制御を誤らず、航跡が歪んで刻まれる事は無い。
 それは正しく一騎当千、選りすぐりの熟練パイロットの集団である事の証だった。
 本来は制空任務部隊である筈の、アキトの居る2321中隊がこの部隊に居る理由も、その技量の高さ故にだった。

衝撃

 無理矢理に増設した大気圏離脱用のブースターが燃料切れと成り、自動的に切り離された。
 加速は十分。
 重しを放したディルフィニウムは、更なる自由を得てより緻密に機動し、ナナフシを包むように狙う。
 アキトの、人の目でもディスプレイ越しに見えるナナフシが大きく感じられる。

電子音

 レーザー測距機が、事前に指示されていた距離に達した事を告げた。
 そこで編隊が2手に分かれる。
 1つは上方――地球を基点にナナフシの更に外側から、大気圏へと突き抜ける様に。
 そしてもう1つの隊は、真正面からナナフシへと突進する。
 共に、被襲撃側の回避運動の困難さから選ばれた襲撃コースだった。
 上面からの攻撃は、相手に望まぬ位置での大気圏突入を強いる事となり、正面からの攻撃は、相対速度から襲撃への対処時間が極々限られる事が利点だった。
 だがそれは、本来の対艦攻撃とは全く異なる攻撃方法だった。
 ミサイル技術の発達した現在、それはまるで古典の世界(ワールド・ウォーU)の戦術。
 その理由は指揮官の時代錯誤等では無く、その主武装の能力が原因だった。
 試作品のミサイルは実験室レベルの試作品故に、その最大の特徴である歪曲場突破能力に容量を喰われ、全長10mにも達する巨体にも関わらず射程距離が極度に短いのだ。
 それ故の肉薄攻撃。
 両隊の先頭を往く隊長機が、共に機体を左右に振り、別れの合図をした。

『さて、後は突入して糞重たい荷物をぶっ放すだけだ。最初にミサイルをぶち込めた奴には俺が北京料理を奢ってやる。老酒付でな。別働隊(アイス・アロー)に負けるなよ?』

『どうせなら虫料理なんてどうですか?』

『馬鹿を言うな! 自分で喰える奴を注文しろ』

『イヴァンなら喰えるんじゃ無いのか?』

『ロシアにそんな料理はねぇぞ!!』

 笑う様に嗾けるロストマン。
 それに乗って馬鹿話に興じるパイロット達。
 戦闘前の緊張を解きほぐす会話。
 それを断ち切ったのは光爆だった。

閃光

 上面を映すモニターが光で埋め尽くされた。

振動

 破片が機体へと降り注いでくる。
 それは、アイス・アロー部隊の残骸だった。

『対空警戒!』

 誰かが叫んだ。
 だがそれは遅すぎた。
 反射的に、機体に捻りを入れて軌道を捻じ曲げるアキト。
 それが正解だった。
 真っ黒な何かが、機体の飛んでいた場所を駆け抜けていった。

衝撃

 光爆が瀑布の如く連鎖する。
 その光跡、敵は上から下へと駆け下り、そしてアキトの居るブレスト・アロー部隊を爆砕したのだ。

『FUCK!!』

『キャロラインっ!!』

 怒号と悲鳴が交差する。
 敵、木連は有能だ。
 余分な重石を抱えて反応の鈍い機体を必死で操りながらアキトは、その事を噛締めていた。
 そして、自分がこの場で死ぬのかもしれないとも思っていた。
 レーダーで、そして自分の目で周囲を捜索。
 特に上方と前方に注意を払う。
 そこで気がついた。相手も又、自分たちと同じ方向から襲撃を掛けたのだと。
 戦争に於ける基本的なルール。
 俺達は相手を侮って手酷い被害を受けた。
 絶望的な状況。
 敵は発見しない、第一波だけの様だ。
 それとも、速度ゆえに振り切ったのかもしれない。
 どちらにせよ即座に、ナナフシへの攻撃軌道は取れない。
 余りにも離れすぎた。

「畜生」

 思わず洩れた声。
 ナナフシはクルスクに落ちるだろう。
 それはアキトだけの知る過去。
 それは事実。
 それが現実に成るだけ。
 そう思えば楽になる。
 俺は十分に戦ったのだと、内側から湧き上がる言葉に頷くアキト。
 誰もがそうだと思っていた。
 ナデシコの無い今、戦う事は無謀だと思った。
 思い込んでいた。
 そう、それは只の思い込みだった。
 どれ程に絶望的な状況であろうとも、尚それでも戦おうとする人間が居た。
 挫ける事を拒否し、諦める事を拒絶した人間が。
 ありったけの武器と、決意を持って現実と正面から戦おうとする防人が。

『生き残った奴、返事をしろ! もう1回襲撃、行くぞ』

 声が響く。
 そこに怯懦の色は無い。
 ロストマン。
 その声に、生き残った連中が声を上げ、隊伍を整えていく。
 その事がアキトの迷いを吹き飛ばす。
 そうだ、例え過去が何であれ努力する事は無意味ではない。
 戦っている戦友が居るのだ。
 にも関わらず1人だけ諦める事は出来るか。
 否、断じて否。

「ボイド、交戦可能だ」

 声を上げる。自分が戦えると云う事を。

 

 生き残った機体は、アイスとブレストを併せて31機だった。
 他にも生き残れた奴は居るかも知れないが、現時点で点呼に応えたのはそれだけだった。
 その中で戦闘可能なのは23機。
 尤も、対艦誘導弾を抱え続けていたのは5機だけだったが。
 手荒い襲撃を受けて尚、それだけの数が生き残れたのは、パイロット達の技量の高さを示していた。
 選抜されたのは伊達では無いのだ。
 故にロストマンは、仕掛ける気満々であった。
 退避中のキャッツ・アイを呼び戻して周辺の探索を要請すると、上級司令部――ヘルガに再襲撃の許可を求めた。
 正しく、挫けざる者(タフネス)

『謎の一撃の理由が判った。連中の電子戦機だ、割当呼称(コード・ネーム)はクワガタ。ステルスらしい平面で構成されたボディと正面に突き出た2本のアンテナが特徴だ。コイツで誘導していたんだろう』

 敵の正体を把握し、対処法を考える。
 それをロストマンは、部隊の軌道変更とキャッツ・アイとの合流までの短い時間で組み上げていった。

『全方位に均等に配置して此方の行動を探ってやがった。今まで会戦ごとに数機程度しか確認しなかったのが今回に限っては10機も投入してやがる。それだけこのナナフシが大事なんだろう。だが降ろさせやしない』

 ヘルガ司令の許可は、即答だった。
 可能な限りの支援を約束し、同時に、襲撃後の回収も全力を尽くす事を付け加えてきた。
 無論、空母部隊との連携は距離があり過ぎる為に困難ではあり、その事はヘルガもロストマンも判っていたが、少なくとも後で支えてくれる人が居ると云う事は励みに成るのだ。
 特に、絶望的な状況下では。

『手品も種が判れば、只の余興だ』

 ロストマンの述べた対処方法。
 それは極めつけの直球であり、同時に、城塞を破壊する破城鎚の如き戦術だった。
 部隊にキャッツ・アイを随伴して突進。
 迎撃側の位置、戦力を把握すると、対迎撃用の戦力を充てて此れを無力化する事で、5機の対艦ミサイル搭載機をナナフシへと辿り着かせようと云うのだ。
 果たして、どれだけの機体が生き残れるだろうか。
 作戦は単純ではあるが困難だった。
 だが誰も、その事を気にしては居なかった。
 誰もがクルスクの重要性を把握しており、それを護る為であれば、例え23機全てをすり潰したとしても十分に意義があると認識していた。

 そして再出撃。
 慌しき攻撃再開。
 当然だ、ナナフシは地球への降下軌道に乗っているのだ。
 愚図愚図していては、その阻止は叶わないのだから。
 残り少ない推進剤を盛大にばら撒き突き進む。前へ。ナナフシへ。

ドワーフ(ボブ)、お前は2機連れて、キャッツ・アイのカバーに回れ。あれが俺等の守護天使だ』

 飛びながらも指示を出すロストマン。
 補助ディスプレイに、キャッツ・アイが収集した情報が表示される。
 黒い地の色に、赤い輝点が幾つも浮かぶ。
 ナナフシは呆れる程の量の無人機を引き連れていた。
 対して、味方を示す蒼い輝点は25個だけだった。
 否、数が多い。
 一瞬、敵が紛れ込んだかとも思い緊張するアキト。
 だが違った。
 それは復讐に狂った男の機だった。

『莫迦野郎スマイル(アボット)、今のお前の機体じゃ襲撃機動は無理だ』

『やらして下さいロストマン、このままじゃ、畜生、蜥蜴野郎どもが、キャロラインをっ! 畜生! ぶっ殺してやる! ぶっ殺してやりたいんですよ!!!』

 吼える様な悲鳴。
 泣いている、アキトにはそう聞こえた。

『落ち着けスマイル、木星蜥蜴はこれで最後じゃねぇ』

『お願いしますロストマン、トビーと俺は約束を、畜生、キャロラインを俺は、俺は………』

 その気持ちにアキトは覚えがあった。
 だからこそ、口を挟んでいた。
 連れて行っても良いのでは無いかと。
 人間、理屈だけで生きていける訳では無いのだと。

『お前がそう言うなんてな………』

 アキトが自分から口を開いた事に、そしてその内容に苦笑を浮かべるロストマン。
 そして決断を下す。
 同行しても良い、と。
 但し、ロストマンが無理だと判断すれば、即座に撤退する事を確約させて。

『イエッサーロストマン! 指示には従います………………それからボイド、有難よ』

 感謝の言葉が、アキトには辛い。
 それは類を哀れむ類の行為であり、同時にアボットを死地へと誘う事でもあったのだが。
 だがアキトの心、その一部は囁く。
 それでもアボットは、復讐する機会を与えてくれる様に働きかけたアキトを感謝するだろうと。
 アキトはアボットに昔の自分を重ねていた。

 復讐の虚しさに思いを馳せるのは、復讐を遂げた後で良い。

 

 楔の様に陣形を組み、直進する。
 メインディスプレイに、見る見る巨大化していくナナフシ。
 警告がE-7から出る。

『注意! 注意!! キャッツ・アイよりロストマン。敵機発見。方位、L32-U21。数は50、先頭にはクワガタあり。襲撃機動。敵は、我々を察知している模様。脅威度はAと判断。迎撃の要ありと認む』

『了解キャッツ・アイ、迎撃は………』

『ウチに任せてはくれないかロストマン。ケストレル、第1413中隊(ウォードック)のハートブレイク1だ。生き残ったのは俺も含めて4機だが、派手に暴れてみせるぜ?』

『やれるか?』

『任せろと言い出したのは俺だぞ』

 4機で50機を相手にすると言っている。
 今までの戦訓から熟練パイロットに操られたディルフィニウムが、倍程度の無人機とならば伍して戦う事は可能である事は判っている。
 それは、逆に言えば、倍以上の数を敵にしては抵抗しきれない事をしめしていた。
 3倍以上の敵機に囲まれては、一時的な抵抗すらも困難となり、組織戦など不可能と成る。
 にも関わらずの豪語、それを諧謔の色を交えて口にする。
 それがハートブレイク1、ジャック・バートレット大尉の雰囲気だと、通信機越しにも良く判る。
 不思議と気負いは感じられない。

『フン、ならいい。頼むぞハートブレイク1』

『了解、ロストマン』

 その一言を合図に、黒い犬の部隊章が記された4機のディルフィニウムが加速する。
 楔形の編隊を維持したまま近づき、接敵すると同時に、各2機ずつに分かれて交戦を開始する。
 宇宙機動戦の定石通りの戦い方だった。
 少しばかりギクシャクとした動きではあったが、連携は巧に取れている。
 見ていて安心できる。

『上手いじゃねえか、戦争の犬(ウォードック)

 誰かが褒めた言葉が、回線に乗った。
 だが、余裕があったのは此処までだった。
 更にもう一隊、無人機部隊が向かってくる。
 即座に、此方側も一隊を充てる。

第3152中隊(カクテル・ファミリー)了解。じゃぁ少しばかり踊ってくる』

 今度は8機。
 此方は、個々の技量の高さが光る連中だった。
 まるで背中に目があるかの様に、迫るミサイルを避けていく。
 そして攻撃は的確。

 前へ(ゴー・アヘッド)
 力の限りの突進に、ナナフシへの道が突き開かれる。

 無人機によって構成された障壁(バリア)を越える。
 反対側から圧力を掛け続けた戦艦部隊のお陰もあって、バリアの内側には強力な戦力は残っていなかった。

『内側は柔らかな御嬢様か、蜥蜴の糞野郎め。ロストマン、早く喰らわしましょう!』

『ああ。一旦、前に出て、そこで一斉に放つぞ。第2313中隊指揮官(アドベンチャー)、対艦攻撃の指揮は任せる。編隊各機、晴れ場でミスるなよ?』

『了解。各機………』

 熟練の対艦攻撃指揮官であるアドベンチャーの指揮に従って部隊が対艦攻撃軌道を取ろうとした矢先に、キャッツ・アイが警告を発した。
 無人機、23機が接近中であると。
 それは第1413中隊や第3152中隊が撃破された訳では無かった。
 2つの中隊は今も見事に、圧倒的数の敵機を翻弄し続けていた。
 敵が新たな無人機を放出したのだ。

『予備機か! ボイド、付き合え。囮になるぞ。アドベンチャー、任せる』

 即座に対応を指示するロストマン。
 囮を指名されたアキトは、動揺する事無く、了解と口にしていた。
 大型の対艦ミサイルを抱えたまま、素早く動く2機。
 より派手に、そして露骨にナナフシを狙う軌道をとる。

軋音

 設計時には想定していなかった大質量――試製対艦ミサイルを抱えた機体が、悲鳴を上げる。
 機体状態を表示するサブ・ディスプレイが瞬く間に機能低下警報(イエロー)で埋め尽くされていく。
 だがそれが機能停止警報(レッド)へと移行する事は無かった。
 2人は、共に繊細に姿勢制御スラスターを操る事で、絶妙なバランスをもって機体がその限界を超えない様に動かす。
 その動きに惹き込まれる様に、殆どの無人機が2機を狙ってくる。
 暗い宇宙に描かれる光条。
 その尽くを潜り抜けてゆく。

『へっ、当たるかよ。しっかり付いて来いよボイド』

「了解、ロストマン」

 鼻歌まじりに、と言いかねない雰囲気で笑うロストマン。
 対してアキトは、少しだけ息苦しそうな声で答える。
 当然だろう。
 アキトは成長期の末期、身体が完全に出来上がってはいないのだ。如何に身体を鍛えようとも、生理的な限界と云うものを越える事は出来ない。
 だがそれでもアキトは、機体を操る手を緩める事は無かった。

 

 アキトとロストマンが稼いだチャンス。
 それをアドベンチャーは無駄遣いする事は無かった。
 一旦、退避と見える軌道でナナフシから距離を取りつつ、同時に試作対艦ミサイルの発射可能な場所へと部隊を誘う。
 寄せ集めの対艦攻撃部隊は、1機たりとも遅れる事無くアドベンチャー機を追従していく。
 ディルフィニウムには部隊系の戦術情報共有用の共同作戦能力(ジョイント・システム)が常備されており、様々な戦術情報を共有するシステムに成っては居たが、情報を共有出来ても誰しもがその指示通りに飛べる訳では無いのだ。
 特に速成部隊の場合、最初の数週間は“編隊”どころか“集団”すらも維持出来ないのが通例だ。
 にも関わらず通常飛行どころか襲撃機動時でも編隊を維持出来て居るチーム・アローは、確かに精鋭集団であった。
 そしてナナフシを追い越した編隊は、対艦ミサイルの射程距離ギリギリで宙返りをすると、前向きの慣性を殺さぬままに機首を後――ナナフシに向けた。
 その機動の意味に気付いた無人機が、標的をアキト達から編隊へと切り替えるが時既に遅し。

『あめんだよ』

 ニィっと笑うアドベンチャー。
 その発射の合図共に3発の試作ミサイルが放たれる。
 一直線に突き進むミサイル、1発は、試作品故の作動不良で対歪曲力場貫徹能力が働かず、ナナフシのディストーションフィールド接触時に誘爆、真っ赤な火球を生み出した。
 だが残りの2発は、その機能を十分に発揮し、ナナフシ本体へと襲い掛かった。
 爆発。
 派手な火柱が吹き上がる。
 軌道が歪む。
 着弾箇所の絡みだろう、若干上に逸らされて、それから落下を始める。
 煙を棚引かせ、小爆発を繰り返しながら。

『キャッツ・アイ、ナナフシの軌道はどうなった。2次攻撃は必要か?』

『クルスクへの降下軌道からは外れつつある。だが念の為だロストマン。2次攻撃を実施せよ。構造体後部に姿勢制御用のシステムが存在する事を確認した。そこを狙ってくれ』

『ロストマン了解。ああ、姿勢制御システムを確認した。2次攻撃を実施する。聞こえていたなボイド、行くぞ。アドベンチャー、支援を任せる』

『了解』

『任せろ』

 役割を入れ替えて再度の攻撃。
 だが囮では無い。
 襲撃を済ませた7機は、正面から無人機へと殴りかかったのだ。
 約3倍の兵力差。
 否、たった3倍の兵力差。
 第1413中隊や第3152中隊に比べると、そう評しても間違いでは無いだろう。
 殲滅では無く駆逐を目的とすれば、困難な筈が無かった。
 瞬く間に撃ち払われていく無人機。
 その時だった、誰かが素頓狂な声を発したのは。

『何だありゃぁ!?』

 その異変はナナフシの後部だった。
 煙を棚引かせ、随所から焔を吹き上げている場所の甲板が割れ、其処から何かがゆっくりと顔を出した。

「!」

 アキトは声にならない声を驚きを漏らした。
 それはロボット。
 胸の前で両腕を組んだ人型ロボット。
 全身を黄と黒の警戒色に塗り上げた、それはジン・タイプ。
 木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家間反地球連合共同体、通称“木連”の主力機動兵器だった。

『Fuck! 何の冗談だ、アレは』

 呆れた様なロストマンの声。
 だが、それは脅威だった。
 閃光。
 頭部が激しく光った。
 レーザー兵器、それも無人機に搭載されている様な低出力では無く、艦載兵器並の出力を持った一撃が宇宙を焼く。
 爆発。
 1機のディルフィニウムが派手に吹き飛ぶ。

『呆れてる暇は無いな。ボイド続け、下から喰らわすぞ。あの人型は相手にするな。アドベンチャー、時間を稼ぐだけでいい。落そうと思うな』

『ああそうさせて貰う。悔しいが今回は見逃しっ………ぁ!』

 アドベンチャーの言葉の後半が途切れる。
 そして火球が1つ、宇宙に生まれた。

『アドベンチャー!? クソッタレ、やってくれるぞ木偶人形め、残存機、構わん、撤退しろ』

 罵声、そして指示。
 アキトは問う。
 行くのか、と。
 その質問にロストマンは暴力的に笑った。

『俺の列機だった事を恨め。少しばかり派手な撤退って奴だ。それからボイド、三味線を弾くなよ?』

『了解ロストマン、だが手を抜いていた訳じゃないですよ』

『じゃぁ必死じゃ無かった訳か? ハン、どっちでもいい。絶対に1発喰らわして、クルスクへの降下を阻止するぞ!』

 燃料槽に残った最後の推進剤を盛大にばら撒いて突進する2機のディルフィニウム。
 そこに1機、加わる。
 アボット機だ。

『俺も行きますロストマン。囮は必要です』

『莫迦野郎が。死ぬなよ?』

『努力します』

 そして3機は、槍と成る。
 否、それは盾。
 地球を護る盾である。
 その矜持が男たちを支える。

『ロストマン、奴が来た。俺が行きます!』

『頼むぞ、スマイル』

 ナナフシにとって残る脅威がこの3機だけと成った為か、ジン・タイプは艦下部の側へと回って来た。
 しきりに頭部のレーザー砲を放ってくるが、巧みなアボットの回避操縦は、レーザーの光条が機体に触れる事を許さない。
 アボットとて第2321中隊の一員。
 操縦技量は決して並みの水準では無いのだ。
 その支援のお陰で、アキト達はナナフシを射程に捉える。

『撃て』

 号令一下、2発の大型ミサイルが解き放たれる。
 飛翔、そして閃光。
 ミサイルは2発とも確実に起動し、その役目を果たしたのだ。
 派手に焔を吹き上げるナナフシ。
 その降下軌道は、目で見ても判る程に今までのものから離れていった。
 流石に地球への降下は阻止できなかったが、少なくともクルスクへの落下だけは阻止出来た様子だ。
 ならば後は逃げるだけ。

『退くぞアボット!』

『了解ロストマン、ザマあ見やがれ蜥蜴め、ここは人間の場所だっ! 木星に帰りやがれ!! はっはっはっ――あぁ!?』

 アボットが罵声を上げる。
 それが途中で途絶えた。
 少し遅れて機体が揺れた。
 破片――アボットの機体の破片がぶつかって、アキトのディルフィニウムが激しく揺れた。

『何が起こった、ロストマン!?』

 レーザーの反応も無くアボット機が爆発した理由が判らず、混乱した声を上げるキャッツ・アイ。
 だがアキトには、それが何であったか判った。
 重力波砲(グラビティ・ブラスト)
 ジン・タイプからアボット機へと、空間の歪みが走るのを見たのだ。
 見えたのは一瞬。
 だが、それは忘れえぬものであった。

『判らん。兎に角今は退く。無視しろボイド、ボイド! 呆けっとしてんじゃねぇ。しっかりしろ。地球に逃げるぞ』

『了解、ロストマン』

 脱兎の如く走り逃げる2機。
 直線では無くジグザグに。
 そして大気圏に突入。
 全てのディスプレイが閉ざされる寸前、後部警戒用のディスプレイはは赤く輝き煙を曳きながら落ち往くナナフシの姿を捉えていた。
 大気圏突破によるブラックアウト。
 機体が不気味に揺れる。
 真暗に閉ざされた操縦槽。
 只1人の空間。
 そこでアキトは小さく、そして力なく呟いた。

「俺は歴史を変えたのか?」

 その呟きを聞いた者は誰も居なかった。

 

2004 11/30 Ver3.02


<次回予告>

只、惰性で生きていた
目的は無かった
作れなかった
だから、戦場に立つ事も、疑問には思わなかった
死ね無いから生きていた
だが流石に、あのフネにもう一度乗り込む事になるとは思わなかった

 

機動戦艦ナデシコ MOONLIGHT MILE
Ua
Shattered skies

 

それは再会なのか
それとも新たな出会いなのか
迷いは晴れない

 


<ケイ氏の独り言>

 あははーっ!
 極めて疑問かもしれませんが、本作品はナデシコの二次創作なんですよーっ!

 と、某天然のチョッピリ入ったヒロイン(でも、攻略対象は相方の無口ヒロイン)風に断言してみるケイ氏。
 ええ、絶対に某割烹着な双子の片割れは却下です。
 でないと信憑性が無いじゃ無いですか!(今更的超々極大熱核自爆
 でも、出来上がったのをIE上で見直して思った。
 絶対に割烹着の悪魔だと(自爆

 

 等と、比較的真面目な話を書き綴った為、チョイと灰になって戯言を言っているケイ氏です。
 読んでくださった皆様、誠にお疲れ様です。
 毎度毎度、無駄に大きくてすいません。
 と云うか、書いている本人ですら危機感を覚える程に巨大化の一途を辿ったナデシコ第1話真・副題“まぜすぎキケン”が終りました。
 当初の予定では40Kb前後で決着をつける予定が80kbに達しても、予定工程の2割程度が残っている状況に恐怖を覚えます。
 これからどうなるんじゃろかと。
 これでも削っては居るんです。
 ジェイコブスンの逆噴射シーンとか、ジェイコブスンの卒倒シーンとかを。
 もうこれ以上、ジェイコブスンに愛はいらんだろうと思った訳で(自爆
 その余波で艦隊戦が飛んだのはトンだ余波ですが、入れてたら鉄板で100kb越えでしょうから、在る意味で正解かなとも思ったり(苦笑
 兎も角、読んで下さる方々が居る限りは、何とか決着まで行きたいと思いますので、宜しくお願いします。

 因みに、ジン・タイプが腕を組める理由は試作機だからです。
 ガンダム式に、量産機ではオフミットされた機能が実験的に付与されているからです(多分
 そゆう形で納得していて下さい(笑

 ………しかし、戦術が単純なものばかりだな。
 矢張り、俺は軍オタとしてもダメポか………がっくりだ………………

 

>代理人さん
 読者さん達の感想や意見に対するスタンス、了解です。
 私は根っこでミーハーだったり、ネタ優先主義者だったりする訳で、余り拘りの無い部分ならリクエストは幾らでも受け入れて良いかなと日和ったりするもので(苦笑

 まっ、それは兎も角。
 シノノメ女史に関しては登場要請が大きいので、まだまだ時期は未定ではありますが、将来の登場時のカウンターパートのキャラ達にご登場願いました。
 彼等が活躍できるか否かは、本当に流れ次第ではありますが、張大哥(下の名は、原作未登場の為、暫定です。登場後は改定します)には一度くらいは銜え煙草の2丁拳銃で暴れて欲しいなと思ったり、思わなかったり。
 或いは火傷痕の麗しいロシアンな奥様はコートを肩で着ながら葉巻を吹かして手下を使って大暴れとか、子供は何故かシシリアンな双子。双子はステキに歪んだ悪巧みで血塗れで殺戮とかが大好きで。
 無論、敵は身内(パパンとママン)………………派手な家庭内暴力(ドメステック・バイオレンス)
 いや、まさかな(巻末漫画的極大融合弾自爆

 でも………(;´Д`)ハァハァ

 書きたくなって来ました。
 外伝でですが、木連と地球との交渉を。
 血と硝煙を濃く漂わせた、裏側の戦争を。

 そゆう方向は駄目ですか?
 矢張り、本編の方が宜しいですか?

 

 

 

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代理人の感想

わはははは、それで四十七機なのか!(笑)
(分からない人は例によって検索すること。推奨ワードは「池宮彰一郎」)
アンドレイ某とかモンティナマックス(おい!?)とか、相変らずいろんなとこから引っ張ってきてますなー。
この連中がコウイチロウと同じ派閥に属する情景は咄嗟に想像できん。

・・・・って、張中佐ってそっちの張かよっ!

それはさておき感想ですが・・・・「わー、すげー、楽しいー」で終りかなぁ(爆死)。
「ナナフシ突っ込んできた、どうにか迎撃成功した」で筋の説明終わっちゃうもんなぁ(笑)。

 

以下突っ込み。

今回は割と誤字は少なかったですね。
「鎮痛な空気」とかはただの変換ミスでしょうが、「シュミレーション」はあからさまな間違いですね。
世間一般、特に二次創作ではよくありすぎる間違いなんですが(苦笑)。

それと、カッコいいシーンなんだけど・・・渋いんだけど・・・どうやったら
無重力でビール瓶を傾けてビールが飲めるんですか?(爆死)