機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
第二話『出会った相手も王子様?』
『七分遅れているぞ!我々は残り二十八分しかこの宙域に入られない!!』
タイムスケジュールの遅れを知らせるゴートの声が俺の耳にはめた受信機から聞こえる。
しかし、敵の本拠地ともいえるこの場所で返答を返せるほど俺に余裕はない。
俺の背中には俺のロングコートを纏った女性を背負い、右手の銃だけで応戦しなければならないのだ。
ターゲットである研究施設に忍び込んだ俺が目にした光景は、まさに地獄という名に相応しかった。
身を隠しながらその光景を覗いていたが、今すぐにでもあの研究者連中を全員殺してやりたくなる。
だが、今は拉致されたネルガルのIFS強化体質人間を助け出さなければならない。
ヘタな行動を起こすわけには行かなかった。
しかし、これで会長がこの連中に拘る意味が理解できた。
以前、ネルガルでも凄惨な人体実験をやっていたと聞く。それの罪滅ぼしのつもりなんだろう。
だがIFS強化体質人間なら理解できるが、どう見ても普通の人間にしか見えない連中の方が圧倒的に多い。
ネルガルの最高傑作ともいえるホシノ=ルリのように金色の瞳を持ち、色白な肌を持った人間は俺が背負うヒサイシ=カツミ以外にはいなかった。
ならば、奴らの研究の目的はIFS強化ではないのか?
現在、俺は建造中のヒサゴプランに関するコロニーの一つ、『シラヒメ』の中を走っている。
もう一つの任務、火星極冠にあったボソンジャンプの演算ユニットである遺跡は時間内での調査結果はあるが、シラヒメにはないと判断した。
そこでシラヒメを脱出する為に格納庫に向けて走っている。
途中、何人かの警備兵らしい連中と出くわしたが、問答無用で殺しまくった。
正直、あんな研究風景を見せられちゃ、どんな良心的な奴であろうともこの連中に荷担している奴を見逃そうなんて思わない。
大体、今回の作戦は無茶が多すぎる。
確かにカツミの重要性は俺が十分すぎるほど解っている。
しかし、それなら侵入と脱出の時だけでもA級ジャンパーの協力を求めてもいいのではないだろうか?
少なくとも、ネルガルは三人のA級ジャンパーを確保しているはずだ。
ボソンジャンプ研究の第一人者、イネス=フレサンジュ。
木連との戦争の時、戦争終結にまで導いた機動戦艦ナデシコの艦長、ミスマル=ユリカ。
その艦長と共に遺跡を一度はボソンジャンプさせた、テンカワ=アキト。
いくら民間人とはいえ、こっちの身としては一人くらい協力してもらってもバチは当たらんと思うが。
しばらく走ってから立ち止まり、俺は少し下がっていたカツミを背負い直した。
チラッと顔を覗いたが、お姫様は気持ちよさそうに眠っている。
俺は空いている右手で軽くカツミの髪を撫でてやり、もう一度走り出した。
しかし、目的の格納庫についた俺は足を止めざる終えなかった。
今、一番出くわしたくない影が立っていたからだ。
「泡沫の 儚き平和に蔓延るわ 円舞の如き死の螺旋」
……………シャリィィィン
聞き覚えのある音と共に、二度と聞きたくない声が俺の足を止めさせた。
「こっちが忙しいときに出てくるとはね、北辰!」
格納庫には七体のエステバリスが佇んでいた。
俺は不動のエステバリスの前に立つ七人の編笠の連中の先頭を睨んだ。
「久しぶりだな『The prince of darkness』。ネルガルの犬が侵入していたと聞いていたが、まさか汝だとは思わんかったわ」
「そのわりには、随分と嬉しそうじゃないか?」
「我と同じ、人の道を外れた者として汝の事は買っているんでな」
爬虫類を思わすような顔で笑みを浮かべられると生理的に拒否反応が出そうになるが、今はそうも言っていられない。
「そう。それはありがたいんだが、できることなら道を譲ってもらえないか?」
「ふっ、相変わらず余裕がありそうな態度だな」
北辰を横目に見ながら俺はカツミをゆっくりと床に下ろし、はめていた指無しレザーグローブを嵌め直した。
「生憎、今はそんなに余裕がないんだ!」
俺は北辰に向かって駆け出した。
北辰もマントから二本の腕を突き出して構える。
「せいっ!!」
勢いをそのままに俺は掌を構え、北辰に叩き込む。
「ぬるいわ!」
それを北辰に左腕で往なされ、右手からの手刀が俺の顔を狙う。
「そう、かよッ!!」
繰り出されたそれを地面を蹴り上げてバク転でかわしながら鉄板の入った爪先で北辰の顎を狙う。
その蹴りを北辰は首を軽く曲げるだけでよけ、編笠を落とす事しか出来なかった。
俺が着地した時には編笠連中は脇差を構え、俺と北辰を中心に輪を作る陣形を整えていた。
「さすがに、一筋縄ではいかないな」
周囲を一瞬だけ見渡し、俺は北辰を睨んだ。
「そう気負う必要はない。我の速さについてこれるだけ自慢するがいい」
言葉のとおり、編笠連中に俺が遅れをとるとは思わない。
ただ、コイツらを相手にしている時に北辰を野放しにするほうが危険なだけだ。
「しかし、なぜカツミを狙わない?」
「知れた事よ、我等は被検体の確保を命じられているわけではない。なによりも、地球側最強の獲物を目の前にして逃すにはもったいないからな。貴様を捕らえたと山崎が聞いたら狂喜乱舞するだろうよ」
「………なるほど。よぉくわかった」
俺は指を鳴らしながら、北辰を睨んだ。
こんな狂信的てヤバイ連中に付き合っていられるほど給料を貰っているわけではないし、銃はジャケットのホルスターの中に入っているとはいえ、自分の愛刀であるクリスタルカーボンナイフはカツミにかけてあるコートに仕込んである。
合流時間も残り一分有るか無いかというところ。
状況は極めて不利、ってわけだ。
「貴様、なにがそんなに可笑しいのだ?」
「なんでだろうな。ただ、ゾクゾクするねぇ」
両手の力を抜き、足で変則的なステップを踏みながら俺は北辰に言葉を返す。
「たしかにあんたらとの勝負が楽しいのは認めるが、、、こっちにも用があるんでね!!」
言い終わると同時に俺はステップを止め、瞬時に後ろに立つ編笠の上を跳んだ。
着地と同時にカツミを寝かせてある方向に走り出す。
「追え」
北辰の短い命令に反応した編笠たちが俺の後を追ってくる。
スピードはオレのほうが速いが距離がないし、なによりもカツミを背負えるほどの余裕は無い。
応戦するしかない。そう判断した俺はカツミのところまで来るとコートの中から刃渡り120cmの愛刀を抜いた。
振り返ると、俺の剣の間合いの範疇から二歩後方に連中が歪曲状に並んでいる。
こっちは足元にカツミがいる手前、これ以上下がるわけにはいかない。
「逃げ回るのは終わりか?」
編笠達の後方からいつのまにか追いついていた北辰が言葉を吐く。
「ああ。どうせ、時間切れだからな」
俺は左手を軽く挙げ、連中にコミニュケを見せてやった。
ピーーーーーッ
「ふっ、どちらにせよ我らを倒さなければ道は無いというのには変わりはない」
「今まででも、何度かおたくらを倒さずして逃げ切った事はあるだろ?」
「今回は女がいる。それとも、女を捨てて逃げるか?」
薄く笑う北辰を見ながら、俺はナイフを構える。
「女を見捨てるくらいなら、おたく一人くらい殺しておく方がマシだ」
正直、ちょいとキツイがね
心の中で付け足し終わると同時に、編笠達が一斉に向かって来る。
「さぁ、来いッ!!」
「待て!」
突然、北辰が大声を出す。
それに反応した編笠連中が俺に構えながらも動きを止めた。
俺は北辰を見ると、北辰は宇宙空間側の壁の方を睨んでいた。
「なにかが、、、空間跳躍をしてくる」
「………なに?」
ビーーーッ! ビーーーッ! ビーーーッ!
『空間跳躍確認』、『艦内非情警戒態勢移行』、『ボソン粒子増大』、『迎撃用意』……………
すると『シラヒメ』全域に警戒警報と無数のウインドウが展開され、隔壁が次々と降ろされる。
一番大きなウインドウにはボース粒子が集束している様子が映し出されている。
質量はかなり大きい。戦艦クラスか!?
「ふむ、機動戦艦か。次元跳躍門を利用せず戦艦を跳ばす技術は我等にはまだ無いとなると………ネルガルの戦艦か」
北辰の言葉通り、白く独特のフォルムをした戦艦がボソンアウトしてこようとしている。
しかし、あの西欧中世のスピアのような形に覚えが無い。
解体されたナデシコAも建造中のナデシコBとは違う戦艦だ。
「どうやら、仲間が来たみたいだな……………『The
prince of darkness』、また会おう」
北辰は狙っていた獲物を逃すような飢えた獣の目で俺を見て、そして部下と共に夜天光と六連の元に走り去った。
引き際も速いな
そんなことを考えながらも、俺はエレベータを利用して撤退する七機の機動兵器を見送った。
一応、危機から逃れられたもののボソンアウトし終わっていた白い戦艦に興味が移る。
ほんの少しだけ余裕が生まれ、ジャケットの胸ポケットから煙草を取り出して咥え、カツミを背負ってから火を点ける。
しかし、その間も俺はウインドウに映し出されていた戦艦から目を離さなかった。
「形状は全く違うが、ネルガルの戦艦みたいだな。ゴート達が助けに来たのか?」
どうせ他に試す手段がないと、俺は胸ポケットから通信機を取り出した。
この通信機はネルガルのシークレットサービス御用達のものだ、これを受信するのなら味方だと思って間違いない。
「今、ジャンプアウトした戦艦!おたくら、ネルガルか!?」
ザーーーッ、ザーーーーーーーーーッ
通信機に耳を当ててみるが、砂嵐の音しか聞こえない。
もう一度試みようと送信ボタンを押した瞬間、俺のコミニュケの方が反応した。
『ザーーーーーーッ……………確認した。こちらはネルガル試験戦艦ユーチャリス、艦長のテンカワだ』
「応答に感謝するよ、テンカワ艦長!」
素直に感謝の言葉を述べながらも、俺は考える。
試験戦艦ユーチャリス?テンカワ艦長?聞かない名だ。
ん?………テンカワ?
しかし、俺の思考はテンカワ艦長の言葉によって遮断された。
『確認したい事がある。君は………あー、そのぉ、シバヤマ=リョウジか?』
「ああ、その通りだが、、、どうかしたのか?」
そう告げると、コミニュケのウインドウが開いた。
ウインドウに映る人物は俺と同じくらいの年齢の男。
どっかでみたことあるな?
『間違いない、『The prince of darkness』だな?』
テンカワ艦長は険しい顔をしながら俺に再度確認する。
「ああ、たしかにそう呼ばれている」
『………本当に時間をジャンプしたのか。ハンニバル、戦闘態勢に移行と同時にグラビティブラストチャージ!俺はサレナでシバヤマを救出に出る!』
『あ、アキト!わたしは?』
『ユリカはキャプテンシートに。状況に応じてハンニバルに指示を出してくれ。ハンニバルもいいな!?』
喧騒のなか、コミニュケのウインドウは消えた。
しかし………ユリカ?そして、アキト、、、、、テンカワ=アキト!??
なるほど、そういうことだったのか。
戦艦一隻がボソンジャンプしてきた理由がようやくわかった。
たしかに、ミスマル=ユリカとテンカワ=アキトは戦争中にカキツバタを火星までジャンプさせた実績がある。
だが、それならユーチャリスと呼ばれた戦艦の艦長はミスマル=ユリカが勤めるのが妥当ではないのか?
まぁ、どうせネルガルのすることだから理由は不透明なんだろうが。
そうこう考えている内にウインドウに映されていたユーチャリスの画面がロングアングルになり、『シラヒメ』護衛艦隊と対峙するところが映し出されていた。
明らかに包囲され、二十艦を超える艦隊が主砲をユーチャリスに向けている。
次の瞬間、敵艦隊から一斉にグラビティブラストが発射された。
おい、こりゃ沈むだろ!?
だが予想に反し、ユーチャリスのディストーションフィールドが迫り来る数本のグラビティブラストを捻じ曲げた。
そして敵のグラビティブラストが通過し終えた次の瞬間、ユーチャリスの多連装グラビティブラストが発射される。
ユーチャリスのグラビティブラストが届くと、敵のディストーションフィールドは薄紙のように貫かれ爆発した。
だがそれだけに留まらず、ユーチャリスはその戦隊を右に傾け、放出されつづけているグラビティブラストを薙ぐように敵艦隊を駆逐していく。
まさに、問答無用なほどの破壊力だ。
『シバヤマ、壁際に避けろ!!』
呆けていた俺の耳に、いきなり拡声器を使ったような馬鹿でかいテンカワ艦長の声が格納庫に響き渡る。
思わず耳を塞ぎながらも、俺はカツミを背負ったまま壁際に走った。
辿り着くと同時に、俺の対面側の壁が破壊された。
大穴から、一機のエステバリスが顔を出す。
その巨体を俺は見上げた。
思わず身震いがした。
暗く、そして強い意志が込められたかのように漆黒に染まっているエステバリス、ブラックサレナ。
そしてもう一人の『The prince of darkness』、テンカワ=アキトとの初めての出会いだった。
次回予告(ウリバタケ=セイヤ口調)
ユーチャリスの向かった先は過去だった
ブラックサレナの前に立つ二人の若者、シバヤマ=リョウジとヒサイシ=カツミ
そしてユーチャリスの中で繰り広げられる熱き会話を、あぁ、君は見たか!?
留年の危機が迫る作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ
OVERTURN The prince of darkness
『過去での未来がはじまる』をみんなで見よう!!
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーーーーッ!!!
ぜぇぜぇ、どうも、きーちゃんです
なにが無理かっていうと、どーも格闘シーンとか上手く書けないんですよねぇ(ヘコミ)
まぁ、話が急展開すぎるっていうのは自分の限界を感じてますのであきらめてます <努力しろや!
とりあえず、このストーリーはアキトの先代の『The
prince of darkness』との話にしていくつもりなんですよ
新事実、黒い王子様は二人いた!!?………みたいな感じで(^^;
そんなわけで、まだまだ続きますんで(えっ、ウザい??)機会があれば読んでやってくださいまし!!
では!!!
BGM;B'z『破れぬ夢をひきずって』
管理人の感想
きーちゃんさんからの投稿です。
うーん、なるほど。こういう意味でThe prince of darknessが二人いるんですか。
アキトがリョウジの顔を知っているという事は、互いに過去に面識があったんですかね?
もしかして、アキトの格闘戦の師匠?(って月臣の立場は?(苦笑))
北辰もリョウジとは顔見知りみたいですし、今後の彼の動向が気になりますね。
ついでに、一言も台詞が無かったカツミの動向も(笑)
でも、こんな少ない時間(せいぜい3年ほど?)を逆行した作品は初めてですね〜