機動戦艦ナデシコ  OVERTURN The prince of darkness

第五話『虚しい覚悟を決めろ!』








「よぅ、アカツキ。いったい何だってんだ、こっちはテンカワ達の結婚式の準備でいそがしいのによ」



 俺はネルガルから派遣されたむさっくるしい黒スーツの男達に迎えられ、ネルガル重工本社ビルの会長室に来ていた。

 テンカワに仲人を頼まれていた俺は、オリエと二人で挨拶文の下書きと格闘していた所だったのだ。

 いやぁ、機会の改造とかはお手の物だが、文系はからっきしダメな俺としては挨拶一つにも一苦労だぜ。

 だが、ナデシコの主要クルーの非常召集とあっちゃ黙っていられねぇ。

 なんてったって、俺の大事な友を繋ぐ大事な船のことなんだろうだからな。

 しかし、会長席に座るアカツキの表情は憮然としたものだった。

「僕にだってわからないよ。ただ艦長、テンカワ君、そしてルリ君を除いたナデシコ主要クルーを集めてくれってことだったからね」

「おいおい、おまえが集めたんじゃないのかぁ?すると、エリナかプロスさんあたりか?」

「いや、君はまず知らない男だよ」

 苛立ちながら席から立ち上がるアカツキに、俺は戸惑った。

「待てよ。俺が知らねぇってことは、ナデシコクルーじゃない奴が俺たちを集めたって事か?」

「そう、その通り。ネルガルSSとは別の、僕のプライベートシークレットサービスの男がクルーを集めなければ語るつもりがないっていうんだ」

 そう言いながら、アカツキは部屋を出て行こうとした。

「話は会議室を使う。他のクルーはもうそろっているから、僕達が行けば話が始められるよ」

「おい、ちょっと待てよ!」

 そう気長な方じゃない俺は、ついつい癇癪を起こしつつアカツキに迫った。

「さっき、テンカワ達を除くっていったな。あいつらに関係することなのか!?」

「本当に何も聞かされていないんだ!僕だってそう考えたが、それが一体なんなのか想像もつかないんだ!!」

 珍しく怒りを露わにするアカツキを見て、俺はとりあえずアカツキと共に会議室に向かった。














 会議室にいたのは、エリナ、プロスさん、ゴートのネルガルの代表。

 そしてジュン、メグちゃん、ミナトさん、リョーコちゃん、ヒカルちゃんだった。

 イズミちゃんはいなかった。

 大方、どこぞ俺達の考えを超越した所にでも行っているんだろう。

 アカツキはエリナの隣に座り、俺は隣が空いていたミナトさんの横に座る。

「よぅ、久しぶり。ユキナちゃんとうまくやってるか?」

「まぁ、ボチボチかな。あれくらいの年齢の子はなかなか難しくって」

 少し困りながらも、その表情を見る限りでは結構充実した日々を送っているようだな。

 とりあえず話を打ち切り、アカツキの方を見た。

 アカツキは俺達の話を待っていたらしく、俺と目を合わせると無言で立ち上がって壇上に立った。

「やぁ、みんな。忙しいのに集まってくれてありがとう――――――――――――――――――――」



「そうだぜ!こっちは統合軍への移転の為に引き継ぎだのなんだのでいそがしいってのによ!」


「わたしなんか締め切り二日前なのに、まだ三ページしか完成していないんだから!」


「それならわたしだって、今日はやっとランプータンがライチたちと仲直りするっていう大事な収録があったのに!」


「わたしだって、学校がある日なんだから今日の授業は全部自習にしてきたんだからね!」



「僕は……………まぁ、そんなにいそがしくないけど」



 リョーコちゃん、ヒカルちゃん、メグちゃん、ミナトさんの順で怒涛の非難がアカツキに送られる。


 しかしジュンよぉ、相変わらず影薄いな。


「いや、だから謝るってば……………さて、文句は後からゆっくりと聞くとして、、、とりあえず今回の主役達を紹介しよう」


 その声を合図に入口のドアが開かれ、三人の男女が入ってきた。

 一人は俺達のよく知る人物だが、残りの男女は見覚えがない。

 この男の方が、さっきアカツキが言ってた俺達を召集させた野郎ってわけか。








「皆さん、お久しぶり。今更、自己紹介なんていらないと思うけど、私は機動戦艦ナデシコの元医療班並びに科学班担当のイネス=フレサンジュです」

 相変わらず自分のペースを保っているが、その表情は硬い。

 どうやら、あまりロクでもない話が始まりそうだ。

「イネス先生、とりあえず君の方で話を進めてくれないか?今回は僕も蚊帳の外だからね」

 椅子に座り、腕と足を組みながらアカツキが面白くなさそうに進行を促した。





「そうね。では、始める前にみんなに尋ねるわ」

 そういってイネスさんは俺達の顔を見渡した。


「これからする話を、一切口外しないと誓えない人は即刻この場から出て行ってちょうだい!!」


 いきなりの言葉に、俺は机を叩いて立ち上がった。

「いくらなんでもそりゃねぇぜ!いきなり人を呼び出しておいていきなりそれか!?いくらイネスさんでも、それはいただけねぇ!!」

「だったら残念だけど、今すぐここから出て行って。悪いけど、この話は半端な覚悟なんかじゃ語れないの。正直、私でさえも逃げ出したいくらいなのよっ!!」

 イネスさんの切羽詰ったような表情に、俺は黙る事しかできなかった。



「………でも、たしかにこれだけじゃ判断に困るわね。これも口外して欲しくないんだけど」

 一息ついて、イネスさんが言葉を続ける。

「みんなも少なからず感づいていると思うけど、これからする話は艦長とアキト君を中心とした悲劇よ。辛くて、寂しくて、そして悲しい、、、、、そんな物語なの」

 言葉を紡ぐのも辛そうに、ポツポツと話すイネスさん。

 その姿に、俺達は黙るしかなかった。

「だから、あの家族を守る為にも、これからする話の重圧に耐えられるだけの人だけにしか聞く権利は無いわ」

「おい、ちょっと待てよ。それって今、あいつらがなんかのトラブルを抱えているって事なのか?」

 オレの後ろに座るリョーコちゃんが首をかしげる。

 だが、イネスさんは俯いただけで何も答えなかった。

「要するに、これ以上のことはナデシコクルーだろうがネルガルだろうかイネス女史のいう覚悟がなければ聞くことが出来ないという事ですな」

 プロスさんは納得したように数回頷いた。

「ごめんなさい、いまの段階じゃここまでしか話せないの」

 イネスさんが力なさげにプロスさんに答える。

 そして、もう一度一呼吸置いて、凛とした表情をして俺達に問い掛けた。


「もう一度聞くわ。みんな、命を掛けてでもこれからの話を口外しないと誓えるのならこの場に残って。もし無理な場合はここから出て行って今日の事は忘れてちょうだい!」















 誰も、出て行かなかった。




















 誰も口を開かず、誰も動かない時間が十分くらい経過してから、イネスさんが口を開いた。

「まずは、お礼を言うわ。正直、ここにいる誰か一人でも欠けると全てが終わっていたと思うから」

 イネスさんは頭を垂れ、そして頭を上げた。

「それでは、説明するわね」





 さぁ、始まるぞ!怒涛の如く、長々と続く説明が!!

 あの説明おばさんがここまでいうんだ、生半可な説明で終わる訳がない!!!





「ウリバタケさん、、、なんか失礼な事考えなかった?」

「うい!??い、いや、なんも考えてないぜ!」

「ふ〜〜〜ん、そ〜〜〜〜〜ぉ?」



 目を見たら石化しそうな視線で俺を見つめるイネスさん。

 た、頼むからその目で俺を見ないでくれ!!!







「でも、せっかくだけど私からの説明はやめておくわ。私には荷が重過ぎるもの」

 そう言って、イネスさんは例の男を見た。

「それじゃシバヤマさん、後をお願いするわ」





「シバヤマ!?アイツ、やっぱりそうかっ!」

「どうしたの、リョーコ?」

「ヒカル、聞いた事ないか?黒い王子の噂をよ」

「あ、聞いたことがある。軍にいた頃、パイロットの間で噂になってたもんね」

 振り返ると後ろのパイロット二人がコソコソと話をしている。

「おい、ちったぁ静かにしろよ。さすがにシャレじゃ済まされないような話みたいだからな」

 俺はそれだけ言って前を向いた。

 すると、例の男がこっちを見ていた。





「たしかに、パイロットなら知っているかもしれないな。俺はネルガル会長のプライベートシークレットサービス、シバヤマ=リョウジといいます。そこの二人には『The prince of darkness』と名乗った方がいいかな?」



 壇上に立つそいつは、リョーコちゃんたちに向かって不敵な笑みを浮かべた。

「てめぇ、やっぱりそうか!噂とはいえ、最強のパイロットの名を欲しいままにしていたが、この前の戦争じゃ一度も姿をあらわさなかっ立っていう腰抜けじゃねぇか!」

「リョ、リョウコ、いいすぎだよぉ」

 怒りを爆発させるリョーコちゃんをヒカルちゃんがあわてて止める。

 しかし、リョーコちゃんの話が本当なら、俺達整備班が知らないわけだ。

「てめぇが動かなかったから死んでいった兵士の数とか考えた事あるか!?………いや、噂は噂だよな。悪かったよ、悪趣味な黒ずくめの男にエステが操縦できるわけねぇもんな!!」

 そういって鼻を鳴らし、リョーコちゃんは憮然とした顔で荒々しく席に座る。

 シバヤマはその姿を冷徹な視線で見ながら口を開いた。

「………もういいかな?」

「くっ!」

 飄々としたシバヤマの声に、リョーコちゃんがシバヤマを睨んだ。

 だが、シバヤマはそれを無視して話を進めた。



 無駄だよ、リョーコちゃん。

 ちーとばっかし残念だが、どうもあいつの方が一枚上手だよ。



「さて、、、まずはなぜ皆さんを集めたか、それから説明しましょう」

 すると、部屋全体の照明が消え、でかいウインドウが表示された。

 映し出されたのは、アカツキの顔。



 ……………巨大なウインドウで見るもんじゃねぇな





『やぁ、久しぶり。いや、もしかしたら君にとってはそうではないかもしれないがね』



 アカツキの映像、そして悲しい未来の話が始まった。
































 休憩中、俺は喫煙所にいたアイツを見つけた。

 俺は力なくシバヤマと傍にいるお嬢さんに近寄った。

「未来のアキトたちに、会ったってわけか」

 シバヤマは煙草を咥えながら、俺の方を向いた。

「どうだったよ。あいつら、良い顔してたか?」

 シバヤマは咥えていた煙草を吐き捨て、俺に近づいてきた。

「おたくが、ウリバタケさんかな?」

「ああ、そうだよ」

「あなたにだけ、テンカワ艦長達からメッセージを預かっている」

 コートの中から取り出したコミュニケを受け取り、俺は握り締めた。

 ガラにも無く少し震える手でスイッチを押そうとしたとき、シバヤマがそれを止めた。

「ウリバタケさん、彼らはあなたに感謝していました。未来での結婚式での仲人、テンカワ艦長が助け出された後のメカニックしての助力、ユーチャリスとブラックサレナの建造。あなたは自分の信念を曲げながらも協力してくれたと言っていた」

 そして、もう一言だけ付け加えた。

「それと、おたくみたいな大人になりたかったって言ってたよ」



「くっっっそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 俺はおもいっきり壁を殴りつけた。

 軍手に血が滲んだが、気にならなかった。

 そんなことよりも、心がものすげぇ痛てぇ………





「時間だ。カツミ、先に行こう」

 気を使いやがったのか、シバヤマがお嬢さんを促して会議室に戻ろうとした。

「ウリバタケさん、おたくを待つ。そのメッセージを見てから来てくれ」




























『セイヤさん、お久しぶりです』

『やっほー、ウリバタケさん。わたし、テンカワ夫人です。ぶぃ!』

『こら、マジメな話をしようとしているのに茶化すな!!』

『え〜〜〜?いいじゃない、硬い話だからこそ明るくいかなきゃ♪』

『まったく、、、、、改めて、セイヤさん。俺達、夫婦になりました。

 いろいろありましたけど、今は二人で過ごしています。

 訳あってルリちゃんとは暮らせないし、子供とかつくる時間とかないけど、、、、、

 それでも、俺達はすっごい幸せです』

『ですっ♪』

『ただ、昨日の夜はユリカの殺人料理で死に掛けましたけど』

『あ〜〜〜、ひどい!せっかくユリカが一生懸命つくったのに!!』

『事実だろうが!どうしてオムライス食って泡を吹かにゃいかんのだ!!!』

『うえぇぇぇん。ウリバタケさ〜〜〜ん、アキトがいじめるっ』

『はぁ、、、まぁ、いいや。



 セイヤさん、こっちの時代の俺達のことをよろしくおねがいします。

 俺達に、セイヤさんやオリエさんのような暖かい家庭を築けるように、いろいろと教えてください!』

『おねがいします、ね?』








『『それじゃ、さようなら』』


















 俺は、壁に寄りかかった。

 そして、身体中を震わせた。

 ……………怒りだ。

 押さえられないほどの、腹が煮え繰り返るような、すっげぇ怒りだ!

『火星の後継者』の連中と、無力な俺と、、、、、そして、馬鹿なアイツらへの怒りだ!!





「ふざけんじゃねぇ、、、、、ふざけんじゃねぇぞ、テンカワ。おめぇらが不幸になるなんて、絶対にゆるさねぇからな!!!!!」





















 会議室に戻った俺は、他の連中の視線なんか気にせず壇上に立つシバヤマの胸倉に掴みかかった。



「おいっ、俺にはなにができんだ!??」


「まて、ウリバタケさん!」



「うるせぇ!!」



 ロン髪が俺を制しようとするが、止まるわけがねぇ!!!

 シバヤマは冷静な目で俺を見返す。

 そして、俺は胸倉を掴みながらシバヤマの胸を叩いた。







「教えてくれ、あいつらを救うために俺達はなにをしてやれるんだ!!!」


























次回予告(ウリバタケ=セイヤ口調)


 俺達が出来る事は手助けだけなのだろうか?
 ユーチャリスは『火星の後継者』に向かうために舵をとる!

 そしてテンカワの歴史を知った俺達の決意を、あぁ、君は見たか!?

 進級の掛かった再試験を迎える作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
『「私らしく」をつらぬけるか?』をみんなで見よう!!


 ちはっ、きーちゃんです

 はっはっは、おれっちの隣では後輩から貰ったガンダム08MS小隊の最終回がながれています
 シローとアイナ、、、、、アツイねっ!!!(核爆)


 ああ、再試験だ
 それでも小説を書いているおれっちの行動は、、、、、やっぱり逃避?


 さて、おれっちがナデシコのシーンのなかで一番好きなのは、逃亡生活からナデシコに戻る時のウリバタケとオリエのワンシーンですね☆
 ウリバタケさん、アンタは漢だよ!!!
 そんなわけで、かな〜〜〜りウリバタケさん贔屓になっていくかもしれませんが、かんべんしてください、、、ね♪


 それでは、またお会いしましょう☆
 では!!!

 BGM:機動戦士ガンダム 第08MS小隊『震える山(後編)』

 

管理人の感想

きーちゃんさんからの投稿です。

なるほど、当事者(現在のアキト達)を除いて、他のクルーを味方に引き込みましたか。

ここで、未来のテンカワ夫妻を出さず、未来のアカツキの記録を使うあたり・・・良い仕事をしてますねぇ(笑)

被害者ではなく、第三者を介して事件の悲惨さを教える。

クルー達は嫌でも想像力を働かせるわけですな。

・・・・・・・・・・・・・なかなかの悪よのぉ(爆)

ま、開き直ったテンカワ夫妻に語らせるより、よっぽど効果的でしょうしね。

 

PS

私もウリピーは好きですよぉ〜