機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
第七話『ステキなボクらの関係』
コンニチハ、私はユーチャリス搭載AI、通称ハンニバルです。
そして、ここは試験戦艦ユーチャリス。
惑星とは違い、宇宙空間では時間の概念が不透明になるため国際規定により標準時が決められています。
ですが、私たちの艦はまず国際批准以前に時代が違うわけで、自分たち独自の時間の流れで生活しています。
そして、今は午前七時。
ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!
「ねぇ、アキト。起きて、起きて〜〜〜〜〜〜♪
ああ、ユリカさんが嬉々とフライパンを叩きながら艦長を起こしています。
さすがにそれはやめておいたほうがと勧めたのですが、、、私もこういった性格の人を見るのは初めてですね。
「、、、、、う〜〜〜ん、だめ。もうちょい……………」
おや、艦長はこの程度では起きません。
「ぶぅ、こまったなぁ。朝寝坊さんは規則正しい生活の大敵なのにぃ」
頬に人差し指を当てながら顔を膨らませるユリカさんは、新兵器を用意しはじめました………
枕元に置いておいたコミュニケのアラームで目覚めた俺は、気だるい身体をベッドから無理やり引き剥がした。
束ねていない髪を掻きながら、カーテンを開けて出窓を大きく開いた。
朝の風の良い匂いが部屋の煙草や酒の匂いや………まぁ、その、なんだ、、、とにかく、新鮮な空気と入れ替えてゆく。
仕事柄、プライベートで住居を構えていない俺は会長のプライベートシークレットサービスという特権を生かし、ネルガル系列のホテルに宿泊している。
無論、宿泊料なんてモンは払っていない。
今回みたいに空いている時はスィートルームにだって泊まっている。
………まぁ、ルームサービスは自腹だけどな
しかもその場での現金のやり取り。
さすがにスィートルームで小銭のやり取りをすると泣けてくることもある。
そんなことはともかくとして、俺は中々優雅な暮らしもしていたりする。
「やっと『オシリス』のテストか」
煙草を咥え、既に用意されていたコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぎ、何気なく口にしてみる。
そう、今日、初の『オシリス』のテストが行えるのだ。
技術面の問題で完成が半年以上掛かるといわれていたが、それが思わぬ幸運で解決し、ウリバタケさんが一週間で完成させたのだ。
『暗黒の冥王』の前身とされる『オシリス』の名を司るエステバリス。
未来では『ブラックサレナ』と名付けられた機体が完成したのだ。
ふと、テンカワ=アキトのことを考えてみる。
未来からボソンジャンプで時代を逆行した事は納得できる。
それだけの真実味を帯びた話、データ、技術を持っていた。
そして、未来のアカツキ会長の言葉。
今の時代を生きる俺には信じられないものだった。
ハンニバルにユーチャリスのデッキに呼び出された時、最後に出されたウインドウ。
そこには俺が飛びつきたくなるような報酬が映し出されていた。
………所詮、俺は物欲の強い人間だと思う。
いや、物欲という言葉は相応しくないな。
それはともかく、その報酬に釣られて俺はテンカワ艦長たちの手助けをすることにした。
それと『The prince of darkness』の名を受け継いだものがどんな人物なのかという興味もある。
冷静と狂気の間で生きていた人間が、それまでの歴史をどこまで侵食したいのかという見定めもしてみたい。
俺は煙草に火をつけ、開け放たれた窓の外に向かって紫煙を吐き出した。
外は雲一つない快晴。今も、心地よい風が吹き込んでくる。
その新鮮な空気を吸いもせず煙草を咥えたまま、俺は朝風呂の用意をしはじめた。
添え付けのタオル類や着替えを持ち、半分くらいしか吸っていない煙草を消してバスルームに向かった。
脱衣場にある鏡に目を向けると、そこに映し出された自分の姿の首のところに一つ紅い斑点がある。
何気なくその部分を指で触れ、視線を泳がした。
そして昨夜の事を思い出し、不意に照れ笑いを浮かべた。
しかし、、、こんなちょっとしたことでも、あの時にユーチャリスが現れなかったら、、、、、そう思うとため息のひとつもつきたくなる。
再び顔を引き締めて、頭を掻いた。
そして、唯一身に付けていた下着を脱いでバスルームの扉を開いた。
ガラッ
「……………へ?」
湯煙が薄くたちこめるバスルームの浴槽には、セミロングの金髪を湿らせ、湯船からちょこんと膝が見え、特に身体を隠す仕草もなく少ししかめた表情のカツミがこっちを見ていた。
なんつーか、、、色っぽいなぁ。
あ、そ〜いや、脱衣所に別の衣類もあったよ〜な気が………
「はぁ………まさかホントに入ってくるなんて」
「いや、なんつーか、、、、、まぁ、弁解しようにもなんも言い訳がないというか………」
「ガラス越しになにやってんだかって見てたけど、ホントに気付かなかったのね」
カツミがジト目で俺を見る。
嗚呼、背中に嫌な汗が流れるのが自覚できる……………
「なんつーか、考え事をしてたわけよ。それもシリアスな事。だから、他の事は考えてなかったからさ」
自分でもしょうもないことを言っていると自覚しながらも口が勝手に動く。
嗚呼、我ながら情けない。
「前」
「ん?」
「前、隠さないの?」
カツミの視線を追うと、俺のあらわな……………
「ぬわ〜〜〜!コラ、見んな!!!」
俺は慌てて手に持っていたタオルでアレを隠しながら前かがみになる。
「かわいい♪」
「うっさい!!!!!」
「別に恥ずかしがる関係でもないじゃない」
俺の専売特許である薄く笑う表情を浮かべながらカツミが俺を見る。
言ってる事は間違いないが、つーか、同じことを前に俺が言った事あるような気もするが、、、、、
それでもねぇ、こっちはこっぱずかしいんですよ? ねぇ、わかる??
「ねぇ?」
カツミはバスタブの縁に組んだ腕を置き、そこに顔を乗せて上目遣いで俺を見る。
いつもなら悩殺されてしまいそうなポーズだが、今の俺にそんな余裕はない!
「なんなら、一緒にはいる?」
うっとりしそうな表情で俺に言うが、イニティアシブは完全に向こうに握られている!
とにかく形勢を整えなければ今の俺に勝ち目はない!!
つーか、地球最強の代名詞である『The
prince of darkness』の名が泣くでないかッ!!!
「すまん、とりあえず一度出る!」
それだけ言い残し、苦笑するカツミを残して俺はバスルームから飛び出した。
、、、、、、、、、、なにやってんだ、俺は………
え〜、再び実況のハンニバルです。
あれから五分後、ユリカさんは新兵器を用意して再登場しました。
「うふふ、これならアキトも起きるわね」
持って来たのは、パスタを湯がくときになどに使われるそこの深い鍋。
ユリカさんは笑顔のまま、なんのためらいもなく艦長の頭をその鍋に入れていきます。
……………私は断言します。
ユリカさん、、、アンタは鬼だ!!
しかし、それを言うほど私も馬鹿ではありません。
二人の『The prince of darkness』を怯えさせたあの時の光景は、いまでもしっかりとメモリバンクの中で輝いています。
艦長、申し訳ありません。私は無力なAIです……………
そして準備が完了したユリカさんは薪割りでもするかの如く、おたまを大きく振り上げ、、、、、
「アキト〜〜〜〜〜〜、おきなさ〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!」
グワァン!!
グワァァン!!
グワァァァン!!
あ、艦長の身体が無言で跳ねた。
ユリカさんが鍋を叩く度にビクンビクン跳ねています。
さながら浜辺に打ち上げられた魚のようですね、ご愁傷様です。
一分ほどそれが続き、息を切らせながらユリカさんがやっと叩くのをやめて鍋を取りました。
「はぁ、、、はぁ、、、、、アキト、もうこれでバッチリお目覚めだよね♪」
ところが、艦長の顔を覗き込んだユリカさんが身体を硬直させました。
何が起きたんでしょうか、カメラのアングルの関係で私には見ることが出来ません。
「アキトが……………アキトが、死んじゃったああああああああああああああ!!!!!!」
なんですと!???
ユリカさんが座り込んだおかげで、艦長の姿をカメラが捉えました。
写しだされたのは白目で泡を吹き、小刻みに痙攣する艦長のお姿。
きっと夢の世界ではお寺の鐘の中に閉じ込められたような感じだったんでしょうね。
しっかし……………なさけないっ!!
ラピスやエリナさんが今の姿を見たら泣きますよ。えぇ、絶対!
「うっ、うううううっっっ」
さすがのユリカさんも自分の愚行の結果にショックを受けられたようです。
しかし、これくらいならほっておけばそのうち回復すると……………
「、、、そうだわ、泣いてなんかいられないわ! わたしがアキトを助けるのよ!!」
すぐさま復活したユリカさんは高らかと拳を突き上げ、宣言しました。
あ、今艦長の身体がまた一度跳ねたような気が。
ユリカさんはそんなことにも気付かず、真剣な顔で艦長の様態を見ます。
「ふ〜〜〜〜〜む。これはショック療法しかないわね。うん、これに決まり♪」
イネスさんもビックリな即決ですね。
ユリカさんは気合いっぱいで両拳を握り、また部屋を飛び出していきました。
……………艦長、早く起きた方が身のためですよぉ。
カツミの後に風呂にはいった俺は髪をタオルで拭きながらベッドルームに戻ってきた。
新聞を読みながら紅茶を啜るカツミを横目で見ながら俺はベッドに倒れた。
なんか、めちゃめちゃ疲れた
テスト、、、後日にしようかなぁ
「リョウジ」
「………なんだ?」
俺はシーツに顔を埋めたまま応えた。
「マジメな話」
その一言に瞬時に頭を切り替え、俺は座り直した。
カツミも新聞をたたみ、真剣な目で俺を見る。
「とりあえずオシリスのテストはするとして、ナデシコの完成まで後一週間。そろそろユーチャリスとの連絡も考えないといけないんじゃない?」
「なにか計画変更でもあるのか?」
俺はゴムで髪を纏めながらカツミに尋ねた。
「そんなんじゃないけど、向こうの二人もただ待っているだけだし、協力者としてはたまには連絡とかするべきなんじゃない?」
「その必要はないさ」
立ち上がった俺はカツミに近づき、後ろからカツミの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「カツミの気持ちもわかるが、今はホシノ=ルリがオモイカネと共にいる。ヘタな行動を取って真実を知られたりしたらそっちの方が問題さ」
「………そうかもね」
そう言いながらカツミは自分の頭に置かれている俺の手を取り、そのまま腕を抱き寄せた。
「ねぇ、どうしてこんなにも協力するの?」
、、、、、そうだよな、カツミから見れば確かに俺らしくない行動だと思うよな。
俺は大体仕事ではカツミと組んでいる。
シークレットサービスと言うよりも、諜報活動とかの仕事の方が多い俺にはそれなりのオペレータが必要になる。
大体、時には難攻不落な場所に平気で俺のみ派遣させられるような立場だから、IFS強化人間を一人独占しても誰も文句はいわんだろ。
それに、俺が言うのもアレだがマシンチャイルドと呼ぶには首を捻る成人女性だし、そして綺麗だ。
そしてなによりも、プライベートでのパートナーでもあるわけだしな。
俺もカツミもネルガルの悪行の集大成とも呼べる存在だ。
そんなわけでいろいろと接点もあったし、なによりも妙にウマが合った。
そして、俺たちの能力の高さのせいもあって、ある程度の自由が認められている。
ネルガルとしても二人で行動している方が管理しやすいんだろうしな。
正直、ネルガルのことは快く思っていない。
しかし、ネルガルを完全に敵にまわそうというほど馬鹿な考えも持っていないし、仕事も嫌いじゃない。
生活も仕事の危険性さえ除けば安定しているから、その面での不満はない。
ただ、最大の不満は……………
俺は後ろからカツミを抱きしめた。
「俺の夢のためだよ」
「夢?」
カツミは顔を俺に向けて疑問を口にする。
「そう。たったひとつの、ちっぽけな夢のためさ」
だが、俺には命を賭けるだけの価値がある夢。
そのためなら、俺はなんだって出来る。
それこそ、テンカワ=アキトが未来の世界でしたような暴挙以上のことでも……………
ユリカさんを待っている間、私は色々考えてみました。
なぜ、艦長はあくまでナデシコを参戦させての『火星の後継者』壊滅を狙うんでしょうか。
ただ叩くだけなら、今の時代ならユーチャリスとブラックサレナだけでも十分です。
『シラヒメ』の護衛艦隊もユーチャリスの主砲だけで事足りました。
そして無傷とはいかなくとも、かなり高い確率で草壁春樹以下主要メンバーの撃破は可能だと思うのですが。
艦長、あなたの真の狙いはなんなんですか?
と、そんなことを考えているうちに、ユリカさんが戻ってきました。
「アキト、待っててね。すぐに助けてあげるからね!」
そう言って手にしているのはチューブに入ったワサビとカラシ。
コンピュータの私でも先が読めますが……………それは治療とは呼ばないのでは?
それとも艦長と仲良くしている夢の世界の住人に嫉妬でもしているんでしょうか?
「う〜〜〜〜ん………」
あ、艦長も無意識に何かを感じ取ったかのように唸っています。
良く見ると、小刻みに震えてもいますね。
「苦しいんだね。待ってて、ユリカがすぐに楽にしてあげるから」
楽にするって意味を履き違えていませんか? ねぇ?
ユリカさんはチューブの蓋を取り、満面の笑みを浮かべながらそれを艦長に近づけていきます。
「さぁ、アキト。口をひらいて♪」
しかし艦長は歯を食い縛りながら気絶しています。
額からは不自然なほどに汗が噴き出していますね。
あ、目尻には涙まで。
「大丈夫だよ。アキトの苦しみはわたしの苦しみ。ずっと傍にいるからがんばろう?」
いったい、なにが大丈夫なんでしょうか?
夫婦は一心同体と言うヤツでしょうか?
う〜〜〜ん、コンピュータの私にはわからない世界ですね。
ユリカさんは必至で艦長の口を開こうとしていますが、艦長も気絶しながら耐えています。
そりゃ、自分の命が掛かっていますからね。必至にもなりますか。
「もう! これはショック療法っていう立派な医療行為なんだからわたしにまかせなさい!!」
(※注:こんなものはショック療法では在りません)
そんな格闘が五分ぐらい続き、ユリカさんはため息をつきながら艦長の顔から手を離しました。
「そっか、そんなに食い縛らないと耐えられないくらいに苦しいのね。だった手段を選んでる場合じゃないわ」
そういってユリカさんは二本のチューブを両手に構えます。
そして、そのチューブを段々と艦長の顔に近づけていきます。
ぐにゅっ
嗚呼、ついに二本のチューブは艦長の鼻に突き刺さりました。
すると、ついに艦長が目を大きく開きました。ついでにジタバタと手足を動かして抵抗を試みます。
しかし顔を背けて目をきつく閉じているユリカさんにはそれが見えていません。
「おい、ユリカ! ちょっとま――――――――――」
「チェスト〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
ぐにゅうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………
…………………………
……………
……
艦長の動きが停止しました。
ゆっくり、恐る恐るとユリカさんが目を開いて艦長の方を見ます。
そして刺さったままの空になったチューブを引っこ抜き、艦長の頬を軽く叩きました。
「アキト、、、アキト??」
ダンッッッ!!!!!
おおっ、艦長がかなり不自然な動きでベッドの上で立ち上がりました。
相変わらず身体を小刻みに震わせ、そして今は目が真っ赤に充血しています。
「あ、アキト! 目が覚めた? だいじょうぶ???」
「、、、、、ぐっ………」
「ぐ?」
「ぐわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!あべしっ、あべしっっ、あべしっっっ!!!」
艦長は恐るべき奇声を上げながら、猛ダッシュで部屋を飛び出していきました。
しかも鼻と口から真っ赤は炎を吐き出しながらです。
さすがは艦長! 私も炎を出す人間ははじめて見ました!!!
「ありゃあ、、、行っちゃった。まぁ、アキトが元気になったからいいか。うん♪」
一人満足げなユリカさんを残しながら、艦長はユーチャリスの通路をひたすら走り続けました。
五感、戻らなかった方が良かったかもしれませんね。
それでも、私は艦長を見守らせていただきます。
がんばれ、艦長! 負けるな艦長!
安住の地を求め、テンカワ=アキトいざ行かん!!!
あっ、、、たおれた…………………………
次回予告(ウリバタケ=セイヤ口調)
真っ赤なお鼻のアキトさんは〜♪ いっつもみんなの笑いもの〜〜〜♪
夫婦愛の力により復活したテンカワは胸の奥で何を思う?
そして遂に姿を現すもう一体のブラックサレナを、あぁ、君は見たか!?
ニコチン&カフェインパワー120%(当社比)の作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ
OVERTURN The prince of darkness
『空からの贈り物はイヤなモノ』をみんなで見よう!!
そんなわけできーちゃんです。
ちょっと前回の投稿から時間が経ってしまいました(^▽^;
みなさん、覚えてますか?(汗)
それもこれもFFX−2が悪いんです!
嗚呼、さすがにネタバレは書けないですが、おれっち的にはFFXの方が好きですねぇ
・・・・・だからおれっちはダーク志向?(笑)
そんなことよりも、おれっちは巷のオリコンデイリーチャートでB’zが1位から11位まで独占した事がかなり重要なんです!
やっちゃったよ、松本さん!稲葉さん!
さすがはB’zってなところですね。感動でむせび泣きそうでしたよ♪(悦)
さて、今回はちょっとした息抜きみたいな話でしたんで、次回はストーリーを進めたいと思います
つーか、今回はふざけすぎましたかな?(・▽・;
それでは、またお会いしましょう☆
では!!!
BGM:B'z『New Message』
管理人の感想
きーちゃんさんからの投稿です。
ははは、今回はストーリーは進めずに、日常を書かれましたね。
リョウジに比べて、なんともアキト達はドタバタとしてますが・・・
これが達観した者と、足掻く者の違いなのでしょうか?(苦笑)
というより、素に戻ってるだけか・・・テンカワ夫婦は。
リョウジ、小銭で支払う以前にカードすら持ってないのか、お前は?(笑)