機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
第八話『空からの贈り物はイヤなモノ』
いやぁ、まいったね。
なんてったって、オシリスの製作費用が当初計画の3倍近くになっちゃったからね。
でもまぁ、今回みたいな時のために建造しようと思ったわけだから、タイムリーだったと言えばそうかもしれないけど。
おっと、さすがに今のは失言だったかな?
『カウントダウン開始。各員、モニタよろしく』
『システム異常無し。レーダーオールグリーン。IFSの調子はどう?』
『やはり反応速度が上がっている。さすがはオーバーテクノロジーと言ったところだな』
『リフトオフまで後60。なにか確認はいる?』
『確認はないが、ブラックサレナとパーソナルカラーが同じってのはどうもね』
『なんなら銀色にでもする? 機体の形状は違うわけだからそんなに違和感はないうとおもうけど』
『いや、黒のままでいい。あと苦情があるとすれば、コックピット内禁煙ということくらいかな』
『残り30。わがまま言わないの、そうでなくとも吸い過ぎなのに』
『耐煙処理しているはずだろ? 別にいいだろ、煙草くらい』
『残り15。ダメなものはダメ』
『メインパルス燃焼開始する。あのな、喫煙の権利は法律で認められているんだぞ?』
『法律とわたし、どっちが怖い?』
『………へいへい』
『カウント、5、4、3、2、1』
『オシリス、リフトオフ』
……………君たち、せっかくの初起動なんだから、もうちょっと緊張感持とうよ。ねぇ?
パーソナルカラーは黒。
姿は夜天光に近いがエステバリスの要素も含んでいる。
そして一期は目に付く人工ダイヤモンドでコーティングされた全長7メートルある剣。
両腕内部に仕込まれている2門のレールカノンと、単体決戦兵器として活用する為に搭載された新型核融合炉。
ユーチャリスのバックアップがある未来のテンカワ君のブラックサレナとは違い、単独での長期戦が可能にした機体だ。
一番のネックだったIFSの改良は未来の技術でそれを得る事が出来た。
正直、パイロットである僕でもオシリスの操縦は難しいだろうなぁ。
そんなことを思いつつ、さっきまで軽口を叩いていたシバヤマ君の顔を見る。
モニタに映し出されている表情はさっきまでの余裕はなく、真剣な表情をしていた。
オシリスもバックパックのパルスから炎を噴き出し、初飛行の瞬間を待ち望んでいるように見える。
『オシリスを浮上させる。それと、会長?』
「ん? なにかね」
突然話を振られ、ぼくもはちょっと驚いて言葉を返した。
『今からしばらく、この実験施設及び周辺地域の指揮管轄の主権を俺に譲ってもらえないか?』
唐突な話に僕は首を傾げた。
確かにここの実験施設はネルガル所有の敷地内に造られている。
海に面し、陸地の敷地もアメリカにあるNASAの敷地に匹敵するだけの広さがある。
その各施設に責任者はいるものの、基本的には主権は僕が握っている。
その主権を譲ってくれいうのは、これはまたどういうことかな?
「さすがに君でもそれは越権行為だよ。それにこの施設の重要性は君も良く知っているんじゃないのかい? 大体、僕の一存だけではどうにもならないな」
そう、この施設の一角ではナデシコの再構築も行われている。
ウリバタケ班長やルリ君はこっちの起動実験に参加しているとはいえ、工事は今でも続いている。
なら、なぜ彼はいまやネルガル重工の中枢とも言えるこの施設の主権を欲しがる?
けど、彼は考える時間をくれなかった。
『ならば、返答次第ではナデシコを破壊すると言ったらどうする? アカツキ=ナガレ』
嫌味なまでに歪められた彼の言葉と共に、オシリスは自らの刃を軽々と持ち上げナデシコ建造中の施設に向けた。
「!? なんですか、あの人は?」
僕の隣に立つルリ君が反発した。
しかし、その言葉に返すほど今の僕に余裕は無いね。
すぐに別の部屋にいるカツミ君に連絡を回す。
「いったい彼はどうしたんだ? 君は何か聞いていないか?」
『さぁ、、、わたしはなにも聞いていませんが』
音声だけだが、いつもの澄ましたような声ではなく、どこか動揺したような返答が返ってきた。
僕たちはまだホシノ=ルリとヒサイシ=カツミを会わせていない。
二人とも同じIFS強化体質という共通項はあるが、面識はまったくない。
というのも、カツミ君は初代IFS強化体質の人間としての成功例であるということと、彼女がネルガルに残留していたということでルリ君を彼女の自由にさせているという理由があるからだ。
そうでなければ、ネルガルの最高傑作ともいえるホシノ=ルリを簡単には手放さないさ。
もっとも、先代会長の悪行の結果だけどね。
さすがに元ナデシコクルーだった僕としてみれば、ルリ君をネルガルに囲っておくことは抵抗があるしね。
機会が来たら紹介してもいいけど、今はまだその時ではないね。
おっと、どうも思考がズレてしまった。
最近、マジメにならないといけないことが多かったから気を抜くと斜めに構えてしまうな。
「冗談なのか本気なのか良くわからないな。どうしてそんなに施設の主権にこだわるのかね?」
僕の言葉を聞いているのか、オシリスは剣を構えながらゆっくりと浮上した。
青空で漂うその姿はまるで裁きを与えに来た堕天使のように天から僕たちを見下す。
「なぜだね、シバヤマ君。なぜだ!!?」
『………邪魔をされたくないからだ』
『上空、オシリス正面にボソン反応! 質量推定、戦艦クラス!!』
「なんだと!?」
カツミ君の報告に建物が揺れた。
同時に全館に非常警報が鳴り響く。
しかし、これほどの質量のボソンジャンプ可能な技術はどこも得ていないはずだ。
……………可能性は、ただひとつ。
『やはり来たか。くれぐれも、邪魔してくれるなよ』
けたたましい警報の音の中、シバヤマ君の声だけが僕の耳に届いた。
ガラガラガラ……………
「うわーーー、さすがにネルガル。実験施設だけでもすっごい広いね」
白いワンピースを着たユリカが先を歩く中、俺は目的のナデシコ建造中の建物を捜した。
懐かしの居場所、ナデシコクルーみんなとの共通の思い出、ユリカと再会しルリちゃんと出会った思い出の戦艦。
世間の連中にとっては和平の旗印となった戦艦でも、俺にとっては楽しかった日々の象徴。
それが俺にとってのナデシコだ。
ガラガラガラ……………
「アキト、ルリちゃんもこの施設のどこかにいるんでしょ?」
「多分な。オモイカネの調整をしているわけなんだからナデシコの近くか、もしくはブリッジで作業しているんじゃないかな」
「いいなぁ。艦長のわたしだってあれ以来入ったことないのに」
「しょうがないだろ、あの後いろいろあったからな」
「ぶぅ」
俺の横に来てふくれるユリカを見ながら少し笑った。
そう、久しぶりに見ることが出来る。
俺たちの艦、あのナデシコを。
「それにしても、怒られないかな」
「どうして?」
「だって、アカツキとかに話を通さないで無理やり来たからな」
ちょっと無理やり施設に入ったことを思い出しながら、俺は青空を見上げた。
「大丈夫だよ。だって、私たちはナデシコのクルーなんだよ? それにわたしたちはルリちゃんの保護者でもあるんだから」
ガラガラガラガラガラガラガラガラ……………
「ねぇアキト、重くない?ちょっと手伝おうか?」
「いや、まだ大丈夫。けど、もうちょっと先までトラックをつければよかったな」
そう、俺はいま屋台を引いている。
オリエさんに頼んで軽トラックを借りてここまで持ってきたのだ。
これはユリカの発案で、
『いくらネルガルの施設にいるからって、ルリちゃんは絶対アキトのラーメンを食べたいはずだよ!』
ということで持ってきたのだ。
さすがに門番をやっていた人には訝しげに見られたけどね。
しかし、いつも引いている屋台とはいえ日が沈んだ後にしか使っていないからこんな昼間から引くと汗をかく。
「なぁユリカ。屋台に水を積んであるから取ってくれないか?」
「うん、ペットボトルのやつだね?」
そういいながらユリカは屋台から水を取ってくれた。。
6月とはいえ、これだけの快晴だとアスファルトの照り返しが厳しい。
「んぐ、んぐ………ぷはっ。いやぁ、生き返った。どう、ユリカも飲むか?」
カラカラに乾いていた喉を潤した俺は持っていた水をユリカに差し出した。
だが、ユリカはそれを受け取ろうとはせず、遠くの空を見ている。
「ユリカ、どうかした?」
「え? ほら、あれ」
ユリカの指差す方向を見ると、そこには青い空に浮かぶ一点の影があった。
遠目で見てもかなり大きな影だとわかる。
「あれって、エステバリスじゃない?」
「そうかもな。まぁ、ナデシコを建造している所だからエステバリスも造っていても珍しくないんじゃない?」
「うん、でも……………」
なぜか不安そうな表情でユリカは、その黒いエステバリスを見つめていた。
「なんか、怖い感じがするエステだね」
そのとき突然、基地中にエマージェンシーコールが鳴り響いた。
「っ、、、、、なんだっ!?」
次の瞬間、黒いエステバリスの前に光が集まってく。
そして最後に強く輝いた瞬間、白く美しいフォルムの機動戦艦がジャンプアウトしてきたのが見えた。
いや、それだけじゃない、、、戦艦の艦首にもう一つの黒い影が立っている。
「なんだよ、あれ、、、、、行こう、ユリカ!!」
「うん!」
俺の言葉にユリカも頷き、俺たちは不吉な予感がする二機の黒いエステバリスの方に走った。
とてつもない、不安を感じながら……………
『よう、テンカワ艦長。やはり来ましたね?』
ブラックサレナに秘匿通信が繋げられた。
シバヤマと別れた時に二人の間で取り決めていたチャンネルでの通信だ。
「もう、俺は艦長じゃない。ユーチャリスの指揮はユリカに任せてきた」
『なるほど。今は一介の戦士って訳か、テンカワ=アキト』
低く笑うシバヤマの声がひどく耳障りに聞こえる。
向こうも馴れ合う為に対峙している訳ではないってことか。
その方がいい。シバヤマの実力が、オシリスの性能がどれほどなのか、それを見極めに来たのだ。
もし弱ければ、復活するナデシコの守護神としての意味がない!!
「ブラックサレナが造られる前、俺達の歴史でもオシリスの建造はあったらしい。だが、あまりにも個性的な装備、技術の遅れ、なによりもパイロット不在ということで開発は中止された」
『けど、今の歴史ではこうやって完成している。ままならぬ世の中だな』
「そういうことだ」
俺は2門のハンドガンを構えた。
そしてオシリスも片手に持っていた剣を構える。
今、ユーチャリスとブラックサレナの姿をこの施設のどこかでナデシコクルーのみんなは見ているだろう。
俺の中に感慨が全く無いということはない。
だが、一度道を外れた俺達はこういう事でしか交わる事が出来ないのだと諦めて欲しい。
そして、時の流れに背いた反逆者の姿をその目で見て欲しい。
本来いるはずがない俺達と、本来死ぬはずだったシバヤマとの戦いを!
歴史はここから変えてゆくんだ!!!
「『……………始めよう』」
二機の堕天使が咆哮を響かせた。
次回予告(ホシノ=ルリ口調)
わたしたちの前に姿を現せたユーチャリス、ブラックサレナ、そしてオシリス
本来なら存在しないはずの大きな力がひとつ、またひとつと立ち上がってゆく
わたしは指針のないまま、この歴史の変革の渦に飲み込まれるんでしょうか?
お葬式に行く途中で財布を落として本気で困っている作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ
OVERTURN The prince of darkness
『レベリオンに奉げる気持ち』を皆さん、見てくださいね
ふっふっふ・・・・・ふぅ、、、、、(廃人)
あっ、どうも。現在、マジで保険証しか身分証明がないきーちゃんです(涙)
つーわけで、マジで財布を無くしましたっっっ!!!(号泣)
つーか、口座にお金があって、まったくおろせないってどうよっ!!
ねぇ、おれっちが一体何をしたの!???
ああ、時間を戻ることができるボソンジャンプを身に付けたい・・・・・・・・・・
さてさて、気を取り直して今回やっと出せた『オシリス』の性能を整理しましょう
全高:8m(これはブラックサレナと同じです)
パーソナルカラー:黒
標準武器:全長7m人工ダイヤモンドコーティングの剣(製造過程、価格はご都合主義さ☆)
レールカノン2門(もちろんハンドガン並の連射は到底ムリです)
基本的に両腕はしっかりとありますのでその気になれば別の武器を持たせることも可能です
動力:核融合炉(ガンダムのよりは高性能です(笑))
他機能:これはヒミツです
もちろん、ジャンプ装置は搭載されておりません
そのかわりの核融合炉と思ってください
ただどうしても重力波バッテリーで動いている訳ではないので、エステバリス並みの初速は出ません
とにかく汎用タイプの機体ではなく、シバヤマ専用機です
まぁ、基本性能から比べれば『ブローディア』とケンカしたら瞬殺されるでしょうね(笑)
さて、次回は苦手な戦闘シーンだ
・・・・・・・・・どうしよう(汗)
それではみなさん、またお会いしましょう♪
では!!!
BGM:稲葉浩志『LOVE LETTER』
管理人の感想
きーちゃんさんからの投稿です。
おお、シバヤマ専用機の登場ですか。
しかも、いきなりブラックサレナに喧嘩売ってるし(笑)
黒アキトも丸くなったと思ったら、夫婦揃ってこんな所にまで出張ってくるし。
・・・ルリ達にばれてもいいのか、おい?
さて、二人の戦いはどんな結果を招くんでしょうかね?