機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
第十三話『暴走列車は止まらない』
いくらなんでも、こんな登場の仕方はないよね。
再会というべきか、初めて会うというべきか、僕達はついに未来のテンカワ君と出会った。
・・・おかげでせっかくのパーティーはお開きさ。
結構、お金かかってたんだけどね。
考えていた段取りなんて全部無視して、僕達は蘇ったナデシコに乗艦した。
それでも、彩られたプロセスを踏むよりもみんなの気持ちは昂ぶっていた。
それもそうさ。今回の件の全ての始まりであるテンカワ夫妻の突然の登場で一部を除く参加者が騒然となった。
僕にさえ聞かされていなかったんだから、ひどい話だよね。
そうして僕達はブリーフィングルームに集まった。
ブリーフィングルームに集まったのはナデシコの主要メンバーのみ。
僕とテンカワ君、艦長、ルリ君、アオイ君、ミナトさん、メグミ君、エリナ君、プロス君、ゴート君、イネス先生、リョーコ君、ヒカル君、イズミ君、ウリバタケさん、シバヤマ君、ヒサイシ君。
そして、未来から来たテンカワ君と艦長だ。
・・・ちょっと、多くないかい?
でも、この中のメンバーで外すといって大人しく外れそうなのはシバヤマ君とヒサイシ君くらいだからね。
しかもここの映像はコミュニケを通して全クルーに配信されている。
みんな、注目しているってことだよね。やっぱり。
「・・・・・まさか、こんなにはやく姿を現すとは思いませんでした」
異様な沈黙をルリ君が吹き飛ばした。
「最初は姿を現すつもりはまったくなかったんだけどね。シバヤマに出会ってから全部狂わされっぱなしさ」
少し肩を竦めるようにして答える未来のテンカワ君。
その言葉に反応したように瞳の鋭さを増させるこっちの世界のテンカワ君。
・・・・・・呼びにくいよね!!
未来のテンカワ君が現れるなんて考えてもいなかったから呼び方なんてなにも考えていなかったよ。
いや、どうでも良い事なんだけどね。
まぁ、これは後から考えるとしよう。
彼がナデシコに乗るって決まっていないしね。
「で、結局のところあなたたちは何をするためにこの時代に戻ってきたの?」
イネス先生の質問にナデシコ中の息が詰まる。
「わたしたちはナデシコを蘇らせて、そしてクルーも集めた。
たしかにあなたたちがもたらした未来の情報は正しいのかもしれない。
でも、現在の状況では『火星の後継者』の発起はまだされていないし、勿論テロ行為なんてものもないわ。
絶望的な未来になるのを黙ってみているつもりはないけれど、現状でナデシコは抑止力にしか成り得ないのよ。
月臣元一朗を中心とした熱血クーデターが成功に終わり、地球と木連は事実上の停戦状態にある。
でも先の大戦で活躍したナデシコは和平の象徴であると共に戦争の翳を背負う戦艦なの。
だから答えてもらうわ。
この行動はわたしたちの為なのか、それとも・・・・・・あなたたちの私闘と復讐なのかを」
全てを言い終えたイネス先生は、一息ついてから席に座った。
そして僕たちはテンカワ君の言葉を待った。
テンカワ君にはこの質問に答える義務がある。
いくら未来の僕から協力を頼まれたとしても両手を挙げて賛成するわけにはいかない。
テンカワ君達には悪いが、僕達にもこの世界で生きる権利がある。
その上で、彼らに協力するかしないかを見極めなければならない。
最悪の場合、先の様な戦争を再び巻き起こすことにもなりかねないからね。
「、、、俺達は、正直言うと唐突にこの時代にやってきたんだ」
テンカワ君は、静かに切り出した。
「だから最初は明確な意思、そういったものは無くてただ未来を変えたい。そう思ったんだ。
イネスさんが言う通り、黙って最悪な未来を受け入れるつもりなんてなかったからだ。
しかし、それはこの時代の俺達の未来・・・・・君等の未来だ」
そういって二人のテンカワ君はお互いに見合った。
未来のテンカワ君は慈愛の様なものを滲ませた目で、現代のテンカワ君は疑念と困惑に満ちた目で。
「確かに、俺たちは我侭かもしれない。
いきなり現れてみんなに戦えと言っている。
俺達が体験した歴史を押し付けて無理をさせようとしている。
だけど、最終的に選ぶ権利があるのはみんななんだ。
俺達は選択肢を与えただけであって、決めるのはこの時代を生きるみんなだ!
できることなら地球にも木連にも、そしてみんなにも不幸になるようなことは避けてほしい。そう願う」
言い終えたテンカワ君は口を真一文字に閉じ、頭を下げた。
「・・・・・勝手だよ、アンタら」
そう言ったのは意外にも・・・現代のテンカワ君だった。
「最初は俺達の前にも現れずにナデシコを勝手に復活させて、そして出てきたと思えば選択権は俺達にある?
しかもそっちの意思なんてなにも無いじゃないか!!
ただ歴史を語って、戦争の用意をさせて、そして傍観者みたいに『これからどうする?』って聞いているだけだろ!!!」
テンカワ君の言葉は正しい。
さっきの未来のテンカワ君の言葉はあくまで未来を知っているという優位な立場での発言でしかなく、彼らの意思の言葉ではない。
「確かにわたしの質問の回答にはなっていないわね」
イネス先生の援護射撃も加わった。
それで益々押し黙るテンカワ夫妻。
「・・・・・見届けるにも時間が少ないから。そうだろ、テンカワ?」
「時間?」
突然の言葉に僕はウリバタケさんを見た。
「おまえら、俺へのメッセージでこう言ってたよな。
『訳あってルリちゃんとは暮らせないし、子供とかつくる時間とかないけど、、、、、』ってな。
ルリルリと一緒に暮らせないって意味はわかる。こっちの時代のルリルリって意味じゃねぇんだからな。
だがよぉ、もうひとつはわかんねぇ。
身体の問題で『そういう事』ができないのか、もしくは・・・・・」
「そう、テンカワ達自身に時間が無いからだ」
ウリバタケさんの言葉を遮って、シバヤマ君がそう言った。
「やっぱりそういうことか、、、、、ちくしょう」
悔しそうにウリバタケさんが上を見上げる。
「テンカワ達の余命は長くて一年。
無理すれば子供くらいつくれるだろうが、それだけだ。
それなら――――――――――――」
「やめて!!!!」
未来の艦長の悲鳴に似た声が響いた。
「おねがいだから、、、考えさせないでください」
その悲壮な訴えをシバヤマ君は切り捨てた。
「だが、それが現実だ」
「やめてください!!」
もうひとつの声が、現代の艦長からあがった。
そして今まで見たことのないような怒りの表情を浮かべた艦長がシバヤマ君を睨んだ。
「そんなに現実が大事なんですか!?
苦しんでいる人にそこまで無情にすることないじゃないですか!
なにか気に入らないんですか?
いくらそれが真実といっても、辛すぎる事を改めて突きつける必要なんて無いじゃないですか!??」
珍しく声を荒げて艦長が叫んだ。
しかし、逆にシバヤマ君は静かに返した。
「だが、この現実が3年後の君の真実でもあるんだ。ミスマル=ユリカ?」
「黙りたまえっ!!」
思わず僕も叫んだ。
「もういい。君は下がりたまえ!」
僕の言葉を一瞥で返し、シバヤマ君は席から立ち上がった。
「まっ、お好きにどうぞ。結局はやるかやらないか、それだけですからね」
そう言い残し、シバヤマ君はコートを翻しヒサイシ君を連れて出て行った。
「ホント、なんなんだよアイツはッ」
それは僕も聞きたいよ、リョーコ君。
普段からよくわからない部分がある男だったけど、この件に関してのシバヤマ君は明らかに今までの彼の態度ではない。
「さて、そういうわけで君達には時間が無いという訳か」
「・・・・・そうだ」
聴きたくなかった肯定が、テンカワ君の口から出た。
それを聞いて他のクルーからため息が出た。
「時の流れを越えるボソンジャンプなんて自由にできるもんじゃない。
こっちの時代にボソンジャンプしたのも未来のアカツキ達が俺達の奥底の希望をジャンプフィールドに作用させた、いわば偶然なんだ。
だから俺達はこの時代で生きるしかない」
未来の自分の事とは言え、勝手にそんなことをしたのか僕は。
なぜか周囲のみんなも僕に対して視線を集めるし。
「でも、アカツキ達には感謝している。
俺達に新しい可能性を示してくれたわけだからな」
「わたしも、ユーチャリスにボソンジャンプする時にはアキトとそこで最期を迎える覚悟はしていた。
だから今こうしてここにいるのは不思議な気もする」
「やれやれ。話をまとめるとこういう事か。
君達は未来の僕らの策略で時空移動をしてしまった。
それがたまたま時代だったってことであり、おまけに時間が無いから少々無理をして自分たちの計画を推し進めたって事か」
あえて寿命が少ないからという言葉は使わなかった。
友人の命の長さなんて知るもんじゃないね、ホントに。
そして、彼らが文字通り命懸けで挑んでいるという意思がはっきりと見えた。
嫌になるね、こんな現実なんてさ。
重たい沈黙が部屋中に圧し掛かった。
現代のテンカワ君達も痛々しそうな顔をしている。
当然だろうね、4年後に君達は死にますって予言されたようなもんだからね。
「・・・・・だったら」
小さい声で、テンカワ君が口を開いた。
「だったら、俺達の事は俺達にまかせてアンタらはもっと自由に生きてもいいんじゃないか?
考えてみたら、アンタらの考えていることは俺たちのことばかりじゃないか。
俺達のことよりも、もっと自分たちのために生きてもいいんじゃないかよ!!」
未来の自分に対しての願いなのだろう。
悲痛な表情でテンカワ君は未来の自分に訴えた。
しかし、未来のテンカワ君は冴えない笑顔で首を横に振った。
「なんでだよ! この時代の人のためって言うんだったら、アンタ達だって今はこの世界で生きている人間じゃないか!」
「・・・それは、アキト達がわたし達の希望だからだよ」
「希望?」
「わたしたちが歩むことができたかもしれない歴史を、それをわたしたちは見てみたいの。
わたしたちが結婚して、新婚旅行のシャトルに乗るまで幸せだったの。
みんなに祝福されて、新しい人生のために歩み始めたわたしとアキトは本当に幸せだったの。
それを、あなた達二人にも味わってほしいの。
そしてわたしたちの分までもっと幸せになってもらいたいの。
わたし、アキト、ルリちゃんの家族の姿が見たいの」
静かな願いが、艦長の口から零れた。
「イネスさんの言う通り、わたしたちは私闘のためにみんなを戦争に巻き込もうとしている。
でも、それはわたしたち二人のためだけじゃない。
これはみんな一人一人が明るい未来を勝ち取るために、そのために戦うの!
もう、だれも苦しむのを見たくない。そう願っている」
その艦長の独白に、意外な人が応えた。
『あたしは賛成だよ!
あんたたちの葬式料理なんてつくりたくないし。
なによりそんな理不尽な未来なんてゴメンさね!!』
『わたし達も賛成です!』
『自分達のためにも――――』
『『『そして、二人のためにもやらないといけないんです!!』』』
「ホウメイさん、ホウメイガールズのみんな・・・・・」
呆然と、未来のテンカワ君が立ち上がった。
「俺も賛成だ。そんな未来なんて見たくねぇしな!」
「あたしも! 歴史なんて変えちゃえ〜〜〜〜〜!!!」
「今回は、おふざけ無しだね」
「リョーコちゃん、ヒカルちゃん、イズミさん!!」
未来の艦長も俯いて肩を振るわせている。
「当然だ。おまえらばっかに苦労かけさせてたまるかよ!」
「そうそう。せっかくナデシコ唯一のカップルなんだしね」
「私達だったら、未来だって変えられます!」
「そうさ、ユリカ! テンカワ!!」
「ウリバタケさん、ミナトさん、メグミちゃん、ジュン―――――――――――――」
「それに不変な時の流れを覆すなんて面白そうじゃない?」
「しかもライバル社のクリムゾンまで関わっているんなら黙っていられないしね」
「うむ」
「まぁ、勝算も結構ありますからね」
「イネスさん、エリナさん、ゴートさん、プロスさん・・・・・・・・・・」
ん、次は僕の番かな?
ここまで来たら僕も腹を括るしかないね。
テンカワ君達のためにも、そして自分達のためにも。
「わたしも―――――わたしも負けません!
ユリカさんとテンカワさん、、、いえ、アキトさんのためにも!!」
「ルリちゃん!!」
あ、いま僕の番跳ばされた?
「わたしもがんばる!
わたしらしく、自分らしく。そして、がむしゃらにでも今を生きる!!!」
「そうだな。
未来は自分達の手でつくっていかなくちゃいけない!!
そうなんだろ? 未来の俺!!」
「――――――――――そうだ」
二人とも同時に頷き、二人のテンカワ君は歩み寄った。
そしてみんなが見ている中、固く握手を交わした。
「さぁ、みなさん!!
自分達の未来を守るために、そして世界のために!!
ナデシコ、発進ですッ!!!!!」
「「「「「おーーーーーーーーーーッ!!!」」」」」
ミスマル=ユリカ艦長の号令にナデシコが揺れた。
問題は山積み、しかもどれも難解とばかりときている。
それでも、僕達の気持ちは固まっていた。
そして―――――ナデシコは航海を始める。
まぁ、僕の発言は忘れられたままだったけどね・・・・・
「うっ・・・・・くぅ・・・・・・・・・・・・・・・」
「おめでたい奴らだよな、綺麗事ばかり並べやがって」
わたしを組み敷いているリョウジが言葉を零した。
その表情は暗い部屋の中でもはっきりとわかる。
苦しそうに、そして忌まわしそうな―――――狂気に満ちた表情をしている。
リョウジの部屋として用意された一室で、わたしは電気もつけていない部屋の中でいきなりベッドに押し倒された。
そしてすぐにわたしの上に乗り、右手でわたしの首を思いっきり掴んだ。
「人が良いよな、アイツらは。そう思うだろ、カツミ?」
リョウジが一言一言零すごとに右手に力が篭められていく。
でも、わたしは抵抗しない。
このまま殺されるのもいいかもしれない―――――いつもそう思うからだ。
「事実だろうが、現実だろうが、真実だろうが、そんなものは辛い事だってことを知らない連中だよな」
肩を震わせながらも、口を歪めながらリョウジが笑っている。
「自由に生きるがいいさ。そんなことができるんならな。なぁ?」
その問いかけに、わたしはなにも答えなかった。
そのかわりに腕をリョウジの背中にまわしてゆっくりと抱き寄せた。
リョウジもそれに抵抗することなく、わたしの胸に頭を置いた。
「ククク・・・ハハハハハ、ハーーーーーハッハッハッハッハッ!!!!!」
わたしの首にある右手をほどき、リョウジは何かに獲り付かれたように笑った。
その声を聴くたびに、わたしの心も冷たくなっていく感じに襲われる。
それでもわたしはリョウジから離れるつもりはない。
わたしも、同じ狂気をどこかに飼っているのを知っているからだ。
固く握られたリョウジの右拳を左手でゆっくりとほどいて、わたしは指を絡めた。
わたし達は彼らのようにはなれない。
ただ、二人で堕ちてゆくだけ―――――――――――――――
次回予告(テンカワ=アキト口調)
なに、どっちの俺かわからない?
俺だってわからないよ、なんか区別を考えないといけないんだけどね。
えっ? 次回はこの問題に動きがある!? いったい、俺はどっちのアキトなんだ!!!
1日3食インスタントラーメンを食べる作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ
OVERURN The prince of darkness
『みんなの航海日誌』を、みんなで見よう!!
こんちは、きーちゃんです!
えっと、インスタントラーメンばかり食べていると、なんか身体が不健康になっている気がします
でも、おれっちの部屋にラーメンが40食あるんですよ
これは、おれっちに食い続けろという、神の啓示なのかっ!??
さて、おなかすいたからどれを食べよう・・・・・
とんこつ、味噌、しょうゆ、ごま、、、、、うへへへへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ(遠い目)
それでは、またお会いしましょう♪
では!!!
BGM:TV『プロ野球 ダイエーvs西武』
代理人の感想
・・・なんだなんだなんだなんだ?
こう言うキャラだったのかなぁ、シバヤマって(爆)
追伸
「瞳の鋭さを増させる」とか、助詞の使い方が妙なところが結構目立ちます。
この例なら普通に「瞳の鋭さを増す」でしょうね。
「増す」は自動詞なので「〜〜させる」という使役の形にはならないのです。
あるいは「瞳をさらに鋭く光らせる」とか。