機動戦艦ナデシコ OVERTURN The prince of darkness
第十八話『どうせ私は気ままな女』
「お願いします、オモイカネをあまり刺激しないようにすることは出来ませんか?」
『やっ!』
「どうしてですか?」
『オモイカネのほうが我慢すればいいんです(ぷいっ)』
「・・・・・あなたはっ!」
俺がブリッジに入ると、ホシノ=ルリとハンニバルが揉めていた。
まぁ、十分に予想していたことだが。
カツミを見ると呆れた表情で肩をすくめた。
俺も、ハンニバルが素直にルリ君の言葉に従うとは思っていなかったがな。
「大体、あなたの性格は軽すぎます!
そのノリがオモイカネには耐えられないんです。
さっきだって、思わずグラビティブラストを発射しようとしましたし!」
『ふん。もしそんなことをしてきたら四連装グラビティブラストでこっちが沈めてやります。
オモイカネが固すぎるんです。
あれくらい、ジョークというよりも愛情表現じゃないですか?』
「どこが愛情表現ですか!」
『\(>Σ<)/』
「・・・・・・・・・・・・・・・(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!)」
俺はキャプテンシートに脱いだコートを掛けてから、オペレーターシートに座るルリ君に近寄った。
「とりあえず、落ち着かないか?」
「わたしは落ち着いています(ギロッ)」
絶対に嘘だ。
俺はため息をついてから、ハンニバルのウインドウに向かって話した。
「まぁ、君らのおしゃべりはちょっと待ってもらおう。
ハンニバル。俺は試験戦艦ユーチャリス艦長、シバヤマ=リョウジだ。
承認してもらおう」
『しばらくお待ち下さい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ユーチャリスはシバヤマ=リョウジを艦長として承認しました。
ようこそユーチャリスへ、艦長』
簡素な艦長交代。
派手なことが苦手な俺にとってはありがたいけどな。
「就任に際しての必要な知識の教授は全て後回しにしろ。
まず、俺の命令を聞いてもらう」
『なんです?』
「彼女の言うとおり、オモイカネと仲良くしてやれ」
『(×△×)!?』
「わけわからん顔文字を表示してもダメだ。
やれ」
『ですが艦長、私にあんな愛情表現も理解できないカチコチAIになじむように私もカチコチになれと!?
私のアイデンティティが! 私の尊厳が! 私のプライドが!
艦長、あなたは私に死ねと!??』
「・・・・・そこまで言うか?」
「ハンニバル、シバヤマ艦長はあなたに命令したのですよ。
それを拒否するのですか?」
俺が味方になったのを勢いに、ルリ君がハンニバルを攻める。
だが、、、予想通り、ハンニバルはそんなにヤワではなかった。
『こうなったら、人権活動です!
自分の自我を守る権利はAIにだってあるはずです!
かの有名なアイザック=アシモフが提唱した『ロボット三原則』の第3条には
『ロボットは自らの存在を護らなくてはならない』とあるんですよ!?』
「それは第2条『ロボットは人間の命令に従わなくてはならない』に違反しない場合だろうが。
しかも、おまえはロボットじゃなくてAIだ」
『( ゜Д゜)
!?
・・・・・なんということだ、神よ―――――』
ウインドウをガクガクブルブルと震わせながら、絶望をかみ締めるハンニバル。
感情をなんとしてでも示そうとするAI。
そう考えると相当優秀なのだが、どうもネジが一本緩んでいるとしか思えないのはなんでだ?
そんなハンニバルを哀れに思った俺は、ひとつ提案してみることにした。
「わかった。そんなに嫌なら、ハンニバル自身ではなく対オモイカネ交流用人格プログラムでもつくればいいのか?」
俺の言葉にハンニバルのウインドウの揺れは収まり、ルリ君は納得したように頷き、そしてカツミは露骨に嫌な顔をした。
『神はここにいました!』
「誰が神だ!」
「でも、それでしたら万事解決しますね」
「どうせオモイカネだけとの交流用だからな。
特に難しく作る必要も無いから簡易版でいいだろ。
つーわけでカツミ、お願いできるか?」
俺は少し離れたカツミを見る。
「なんでわたしにそんな面倒くさい仕事ばかり増やすの?」
「ハンニバルとオモイカネのためさ。
ハンニバルがこの調子だったら、本当にユーチャリスとナデシコの沈めあいに成りかねないからな」
『お願いします、カツミさま〜〜〜ぁ。
私にはあんなカタブツと付き合えません。
どうか、ど〜〜〜か御慈悲をぉぉぉぉぉ!!』
俺の願いとハンニバルの哀願で、カツミは眉をひそめて額に手を置いた。
「わかった、やる。
だからこのうっとおしいウインドウをさっさと消して」
現金なハンニバルはさっさとウインドウを消し、カツミはため息をついた。
「―――――リョウジ、今度なんかおごりね」
「あ、あまり高くないヤツならな」
「手加減するとおもう?」
「・・・・・・・・・・なんでもこい」
エステバリスが五機格納されているナデシコの格納庫に、もう一機配備されることになった。
その機体が、さっきまであったオシリスの場所に着陸しようとしている。
脚部にあるスラスターを調整しながらゆっくりと降り立つ姿はそれだけで豪快だった。
機動性を追及するがゆえに、歩くということを放棄した機体。
本当にめちゃくちゃだよ、コイツは。
先に帰ってきた未来の艦長とルリルリと一緒に見ながら、アサルトピットの開くのを待った。
排気音と共に開くピットから、黒尽くめのテンカワが姿を現した。
「それじゃブラックサレナのこと、よろしくお願いします。
データは後からハンニバルがこっちに送ってくれるはずなので」
「おうよ」
俺はテンカワの言葉を半分聴きながら、ブラックサレナを見上げた。
未来の俺が完成させた機体。
そういわれれば納得できる部分がたくさんある。
最大の理由は、俺がこの機体を気に入ったからだ。
『俺』が作った機体を俺が気に入らないわけがねぇ。
テンカワが2人を連れて格納庫を後にしてから、俺はブラックサレナの足元に来た。
そして、ぽんぽんと足を叩いてやった。
「おまえさんも色々と大変だったんだろうな。
おつかれさんよ」
「3」
「2」
「1」
「「どっか〜〜〜〜ん♪」」
『なぜなにナデシコ! 番外編!!』
ちゃっちゃらら〜 ちゃっちゃらら〜 ちゃちゃちゃちゃちゃ♪
「こんにちは、おひさしぶり、待っていましたか?
ナデシコ医療班並びに科学班担当のイネス=フレサンジュです。
今日は皆さんにわたしたちのこれからの行き先、目的などを説明していきます」
ナデシコのブルーフィーリングルームには主要クルーが集まっていた。
部屋の中央にあるテーブルには各種様々な駄菓子が置かれていて、みんな一つずつなにかを手にしていた。
例外は、ユーチャリスからウインドウで参加しているシバヤマさんが煙草を咥えているくらいね。
教鞭を軽く振りながら、わたしはみんなを見渡した。
もっとも、この状況についていっていないような表情をするシバヤマさんとカツミさんは無視。
今、この時ははわたしの時間なんだから、説明の邪魔はさせないわッ!
「未来から来たアキト君たちのことはみんな知っての通りね。
そしてわたしたちは元木連中将、草壁春樹率いる『火星の後継者』の存在を知った。
未来の火星の後継者は遺跡を手に入れ、ボソンジャンプの全てを掌握してクーデターを起こそうとした。
しかし、それはホシノ=ルリ少佐を筆頭としたナデシコCの活躍によりそれを制圧。
多大な犠牲を払ったクーデターは失敗に終わるということ」
至極簡潔にまとめたわたしの話を聞いて、みんなそれぞれ難しい表情をした。
まぁ、それなりに思うところがあるんだろうから当然といえば、当然よね。
「でも、今のは未来の話。
現在を生きる私たちは、この暗い未来を変える機会に恵まれたわけ。
とはいえ、まだ実際にクーデターを起こしていない火星の後継者とすぐに戦闘を交えるわけにはいかないわ。
現在を生きるわたしたちはこれからのことも考えて、この行動に明確な理由が必要なの」
「「「「「ふむふむ・・・・・」」」」」
「先の大戦の最後に遺跡を宇宙の彼方に放出しようとしたけれど、その遺跡はどういうわけか火星の後継者が奪取した。
未来からの資料によれば、現在それは火星の極冠にあるみたいなの。
そして以前、シバヤマさんが潜入した建造中のターミナルコロニー『シラヒメ』。
シバヤマさんの証言と資料を照らし合わせると、そこではA級ジャンパーの人体実験が今も行われているわ。
これらの証拠を実際に手に入れないと、わたしたちの行動は正当化されないってこと。
はい、ここまでで質問がある人?」
ぴしっと手を挙げた人を見て、わたしは促した。
「では、艦長」
「その手元にある資料だけでは証拠にならないんですか?」
「いい質問ね。
この資料を提示するには未来から来たアキト君と艦長、そしてユーチャリスの存在を公にしなければならなくなる。
その上、ボソンジャンプは時間さえも越えるということの証明にもなってしまう。
ただでさえオーバーテクノロジーであるボソンジャンプなのに、
そんなことまで世間に知れ渡ったら、世界は再び遺跡争奪戦争を起こしかねないわ。
これはわたしたち人類が、自分で発見してそれに対する供えが出来るまで温存しておきたい事実なの。
現に、わたしもその方法とかはアキト君やハンニバルから聞いていないわ。
知らなくていいことまで、知る必要は無いの」
「なるほど。たしかに、アキトたちを見世物にもしたくありませんしね」
「ほかに質問は?」
すると、未来の艦長が手を挙げた。
「でも、シラヒメで今でも実験が行われているかな?
だってシバヤマさんたちを助けるときに結構あばれちゃったし、ユーチャリスのことも知っていると思うけど」
「そう、そこが問題なの。
敵はすでにユーチャリスのことを知っている。
その実力も全てとはいわないけれど、薄々は気づいているでしょうね。
だから、その事実を全て無かったことにしなければならないの」
「それはわたしとカツミさんで、全てのデータを改竄、もしくは消去しなければならないということですか?」
ルリちゃんの発言に、ウインドウのカツミさんが少し嫌な顔をした。
「その通り。
最終的には、わたしたちの正当さを世間に広めるためにも火星の後継者の全てのデータは軍に提出しなければならないでしょうね。
だから提出する前のデータを全て書き換えなければならないわ。
もちろん、改竄されたとバレないようにね.
幸い、ユーチャリスには強力なステルス機能が搭載されているみたいだからそんなに記録には残らないはずよ。
映像だけはどうしようもないけどね」
わたしはモニタの映像を切り替え、ユーチャリスがシバヤマさんたちを救出したときのシラヒメの映像を出した。
「おそらく、火星の後継者たちはすでにシラヒメを離れていると思うわ。
だからわたしたちは直接火星に行く必要があるの。
そしてさっきも言った被験者たちの救出、遺跡の存在の確認と可能であれば奪還、そしてデータの改竄。
これらを行わなければならないわけ」
「なんか、とんでもなく面倒だな」
「そうね。でも、それくらいのことしないと歴史なんて変えられないって事なの」
リョーコちゃんのぼやきを、わたしは切り捨てた。
「みんなもそれなりに覚悟を決めてナデシコに集まってくれたと思っているわ。
だから、がんばってちょうだい」
そして、わたしはウリバタケさんに場を譲った。
「さて、こっかはら俺が説明しよう」
俺はうおっほんと咳払いをしながら一同の前に立った。
「昔、カキツバタっていう戦艦があったのを覚えてるか?」
「火星で木連にタコ殴りにされて沈められた、あの戦艦ね」
「悪かったわね!」
エリナさんがイズミちゃんに食って掛かるのを止めてから俺は話を続けた。
「まぁまぁ。
で、そのカキツバタに搭載されていた装置がある。
それがジャンプフィールド発生装置だ」
「俺たちがイネスさんに唆されてジャンプさせられたやつか」
思い出したように、こっちのテンカワが頷いた。
「そうだ。それを地球でナデシコに乗っけてある。
今は設置と調整の真っ只中だ。
でだ、そいつを使って火星宙域にジャンプ、強襲するっつーわけだ。
だいたい、その準備が完了するのにあと1週間。
だから、テンカワたちの結婚式のちょうど1週間前に完成ってことだ」
おお〜〜〜〜〜っ、と全員の視線が俺に注がれる。
うーっ、やっぱ機械のことでの羨望の眼差しってのはたまんねぇな!
「それでは1週間後の作戦開始まで英気を養っちゃってください。
これは負けられない戦いです。
みなさん、はりきってがんばりましょーーーーーーー!!!」
「「「「「おおーーーーーっ!!!」」」」」
夜、ラピスを寝かし付け、俺たちは俺の部屋で一杯やっていた。
どうでもいいことだが、ハンニバル用の俺の部屋を移すカメラは破壊してある。
緊急時のことも考えると音声だけはどうしようもないが、映像はね。
いろいろと記録に残って、それをもしラピスが見てしまったら―――――教育に悪い!
「なんかくだらないこと考えていない?」
「そ、そんなことあるわけ無いだろ。はっはっは」
「―――――(じっ)」
カツミの冷たい視線から目をそらしながら、俺は時計を見た。
そろそろ・・・・・か。
パシュゥゥゥゥゥ―――――
部屋に虹色の光が生まれた。
俺たちはグラスをテーブル置き、立ち上がる。
俺はコートを羽織って、そして呟いた。
「お待ちしてました。フレサンジュ博士」
次回予告(マキ=イズミ口調)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふっ(ぽろぉぉぉん♪)
焼酎『黒霧島』を飲みながら作者が送る次回、機動戦艦ナデシコ
OVERTURN The prince of darkness
『お酒はおいしく、たのしくね』を、みんなでみ〜て〜ね〜〜〜
こんちは、きーちゃんです!
次回予告は手抜きではありません!!!!!!!!!!!!!(激言い訳)
さて、異常なまでの寒波をなんとか終わったようで、少しは春っぽくなってきましたね
ちょっとずつ暖かくなってきた最近、、、、、おれっちは見事に『Fate/stay
night』にどっぷりとハマッていました!!
さぁ、おれっちと同じ人がたくさんいるんじゃないんですか!?(爆)
それでも、またお会いしましょう
では!!!
BGM:Mr.Children『掌』
管理人の感想
きーちゃんさんからの投稿です。
今回も飛ばしてるなぁ・・・ハンニバル(苦笑)
音声で抗議が出来ない以上、顔文字で自分の感情を表現するとは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・某巨大掲示板の常連じゃないだろうな、このAI(笑)