地球の戦艦ナデシコに密航して幾日か経った。深夜にさしかかった時間に私は三姫にあてがわれている部屋へ向かった。
「三姫、起きている?」
程なくドアが開き、三姫が顔を出した。
「飛厘か。こんな時間に何の用ね?」
やっぱり寝てなかったのね。目の下にちょっと陰りが見えるわ。
「ちょっと、お話、しない?」
そういって私はとっておきの古酒を持ち上げ、ウィンクした。
最初は押し黙っていた三姫だけど、だんだんお酒の力も手伝って、ぽつりぽつりと話し始めた。
高杉さんの凛々しさがどんなに彼女に眩しかったか。
高杉さんの笑顔がどんなに彼女の胸に染みたか。
そして、ナデシコに乗った高杉さんの行動がどんなに彼女を混乱させたか。
「うちはまだ信じられんと。なしてあんなに急にあの人が変わってしまったのか。」
そういって膝を抱える三姫。顔はすっかり酔気で真っ赤だ。
「でも三姫、あなたは努力したかしら?」
「?」
怪訝そうに顔を上げる三姫を見やり、私は言葉を続けた。
「気持ちはね、確かに言わなくても通じる事だってあるわ。でもね、言葉にした気持ちは力を持つのよ。言葉にした想いはね、あやふやな存在から、確かな存在に変化するの。」
「……存在…。」
「あなたは、高杉さんにあなたの想いをちゃんと示したかしら?じゃなきゃあなたが高杉さんに怒るのはお門違いよ。」
「うちは…。」
きゅ、と自分の膝を抱きしめる三姫を見て、私は微笑みかけた。
「急ぐことはないのよ。」
「うちは…うちはあんひっがすぅおなごしゅんごつむじくなかごつあったい。」
「……は?」
ごめんなさい三姫、ちょっと聞き取れなかったわ。
「おいがすいとうこつゆえたらよかごったい。まこちんこつばゆっとあんひっめぇじむじーおなごじおりたかばい。ばってんならんと。でくんとやが。おじぃとよ。うちでんはいとしんきなごたる。」
「えっと、三姫?」
「ばってんがうちんびんみちにぐっこつなかごつあっちゃけど飛厘はどんげ思う?」
『思う?』って聞かれても何をどう思えばいいのか全然分からないんだけど三姫?
「飛厘、きこえとぅ?」
「は、はい、聞いてます。」
三姫は目が座ってる。全然私の言うことを聞いてくれそうにない。そして逃がしてくれそうにもない。
「うんだもこらいけなもんだあたいがどんのちゃわんなんだひにひにさんどもあるもんせば…」
もはや私の理解の果ての外のそのまた向こうで三姫は盛り上がっている。
…夜は、まだ、長い(泣)