ガミラスの新兵器の威力の前に、ヤマトは冥王星の海へと没した。
 しかしヤマトは死に絶えてなどいなかった。敵の追撃を回避するため死んだふりをしてそのまま海底に没しただけであった。

「水深三〇〇メートル。海底に到達した模様です」

 計器を読み上げながら、平常心を取り戻した大介が報告する。
 制御を失ったヤマトではあったが、すぐに原因が重力制御装置のトラブルであったことが判明。
 艦内に人工重力を発生させる重力制御装置。第二艦橋で制御されているそれが着水の衝撃に加えて浸水による被害でかなりのダメージを受けていたのだが、最後の被弾が決定打になった。装置が暴走して艦の外部に強力な重力場を形成してしまった。
 結果、ヤマトは真下に引っ張られてしまい制御を失ってしまったのである。
 その問題が判明した直後、ルリの判断で艦内の重力制御を一時停止したことでヤマトの沈降は食い止められたのだが、すぐにユリカの「このまま死んだふりして」という命令を受けて潜水用のバラストタンクに注水、そのまま潜水艦行動に移行したのだ。被弾個所からの浸水のことを考えればバラストタンクへの注水音を悟られることはない。おまけで煙突ミサイルから残っていたミサイル数発を排出してヤマトから少し離れたところで自爆させる偽装も加え、時間を稼げるように工作も加える。
 そうしてヤマトは海底の岩をいくつか砕きながら着底し、右に傾いだ状態で固定されるのであった。



「着底完了。ラピスさん、エンジンの具合はどうですか?」

 大介はヤマトの姿勢が安定したことを確認してから、エンジンの具合をラピスに尋ねる。

「損傷はありません。現在は死んだふりのため停止していますが、再始動はすぐにできます。――ですが、出力制御系の修復がまだ終わっていません。それに三度の被弾であちこちのエネルギー供給ラインにエラーが生じていて、全力運転してもヤマトの各部に十分な出力が行き渡らない状態にあります」

 こちらもようやく落ち着いた様子で的確に質問に答える。しかし先程の取り乱しの影響かほんのり頬が赤い。思い起こすと恥ずかしいらしい。

「真田さん、修理状況は?」

 戦闘指揮席で唸っているユリカに代わって、ジュンが損傷個所で修復作業にかかりきりになった真田にコミュニケで尋ねた。
 沈降時の衝撃もあってか、現在ユリカはグロッキーであった。

「なんとも言えません。浸水による被害も各所に及んでいて、すぐに手を付けられない部分が多過ぎます。最低限の応急処置も、あと八時間は掛かる見込みです」

 汗と油で汚れた真田が作業の手を一度止めて答える。
 正体不明の砲撃による被害は予想どおり大きいものだった。
 最初の一発は機関部に近い場所を破壊され、そこからエネルギー供給ラインの一部に浸水が発生、ヤマトの機能の一部が麻痺状態に陥れた。
 特に問題なのはやはり推進系で、現状ではメインノズルの最大噴射はもちろんのこと、各姿勢制御スラスターへの供給すら安定せず、満足に身動きできない状態にあった。
 二発目は艦内工場のすぐそばまで損傷が達しているため、こちらも浸水で工場区の一部が被害を被っていて、不足している補修部品の生産に支障をきたしている。
 また位置が近い居住区、それも右舷医務室付近にも被害が発生しているため、一部の医療機器が現在使用不能になってしまっている。……不幸中の幸いなのは、左舷側が無傷なことと、右舷側も手術などの大規模な治療ができないだけで、軽症者の治療には支障をきたしていないことだ。
 三発目は元々空間の広い物資搬入口に被弾したこともあって、最も浸水が深刻な個所だ。
 第二副砲の回転機構にもダメージが及び、エネルギー伝導管までもが破損しているため使用不能に陥っている。近くに装備されていた連装対空砲はひとつが消滅、もうひとつは半壊している有様だ。
 ほかにもそれまでの戦闘による損害の蓄積も無視できるものではない。
 左舷展望室は、防御シャッター越しに被弾したにも拘らず、窓である硬化テクタイトにひびが入って軽度の浸水に見舞われ、艦橋トップにあるコスモレーダーのアンテナも、右舷側は三分の一ほど欠けている。
 煙突ミサイル後方のマストアンテナも最後の被弾で損傷し、右側は回転機構が破損して大きく跳ね上がった状態、T字(Y字)型のマストも右側が少し欠けて左に傾いでいる。
 コスモレーダーとマストアンテナの破損の影響でヤマトは外部の情報を取得するための目と耳を傷付けられた状態にあるため、索敵能力や電子戦能力が減退していた。
 各武装の被害も決して軽微ではない。艦首ミサイル発射管も左中央が開閉不能になり、右舷の八連装ミサイル発射管もハッチ開閉不能、艦尾ミサイル発射管は左舷側ハッチがすべて動作不能、煙突ミサイルも残弾を撃ち尽くし偽装爆発の影響もあって損傷している。
 第一主砲も被弾して左砲身が機能障害、第二主砲は二発目の大砲の被弾と浸水の影響で回転不能、第三主砲は左測距儀が全損してこちらも三発目の被弾の影響で回転不能、パルスブラスト対空砲群も半数以上が機能していない。第一副砲は無傷だが、これだけで対艦戦闘を行うのは少々無謀であろう。
 装甲も至るところに弾痕が残り、劣化した防御コートが白化したり黒化したりしているなど、傷んでいる。
 損害報告をまとめればヤマトは中破状態といえる。
 乗組員もかなりの人数が負傷しているし、数名の死者も出た。戦闘の規模に比例した損害といえよう。
 とはいえ並の戦艦なら最初の超大型ミサイルの時点で宇宙の藻屑になっていたことは疑いようがなく、この物量さに加え相手のホームグラウンドで対等に渡り合ったヤマトとそのクルーの底力を考えれば、恐ろしいことに戦力的には拮抗しているという驚異的な事実が見えてくる。
 そのことをヤマトのコンディションと敵の行動から薄っすらと察した真田は、改めてユリカがヤマトの復活に拘ったことがやはり正しかったのだと納得していた。



「うぅっ……状況はぁ……?」

 戦闘指揮席でダウン寸前のユリカが呻きに近い声で尋ねた。いまはエリナの手で後ろに倒されたシートにもたれて右腕を額に当てている。冷や汗が止まらないし呼吸は苦しいままだしで、コンディションはお世辞にもいいとはいえなかったが、それでも先日の騒動や先月までに比べれば全然マシだった。
 たぶん慣れっこになったのだろう。

「あの大砲の被害で、第二副砲が使用不能で対空砲一基が全損、一基が半壊。被弾個所からの浸水はようやく止まったみたいだけど、それまで浸水による被害も多数。ほかにもエネルギー供給ラインの断絶が数ヵ所。――辛うじて戦闘は可能だけど、またあれに直撃されたらさすがにもたないかもね」

 ジュンが第一艦橋後方左右の壁にあるダメージコントロールパネルを見ながら報告してくれた。
 再建に伴なって新設された第一艦橋の設備で、その名のとおりダメージコントロールの効率を上げる目的で供えられた設備である。
 ユリカも後ろを仰いで画面をちらりと見てみたが、画面に表示されているヤマトのフレーム画像の至るところが赤く色づけされ、そこから細かく文字と線で損傷の程度を多数表示していた。
 パッと見ただけでも満身創痍であることが容易に伺える有様だった。

「指揮は僕が引き継ぐから、ユリカは少し休んでて。その状態じゃあ指揮は無理でしょ?」

 ジュンは極力優しい声で休息を促す。コンディションの悪さは自覚しているからか「うん」と力なく応えて楽な姿勢で座席に体を預ける。
 こういう時、ジュンは本当に頼りになる。本当、『バックアップ要員としてなら』ヤマトに欠かせない存在だと、ユリカは改めてジュンが乗艦してくれてよかったと胸を撫で下ろした。

 操舵席の大介は落ち着かない様子で計器類をチェックしながら、チラチラと左隣の戦闘指揮席に視線を送っていた。
 目に見えて不調なユリカの様子が気になって仕方がない。
 少し前までの大ボケはいかんともしがたいが、やはり天才と称された頭脳は本物だった。
 戦闘開始からの戦闘指揮は見事なもので、その力がなければヤマトはこうも拮抗した戦いをすることはできなかっただろう。
 それくらい凄まじい戦いだった。初めて経験した戦闘であるあの冥王星攻撃作戦すらも凌ぐほどの激戦、正直冷や汗が止まらなかった。
 それを退けたのはヤマトの性能もそうだが、ユリカの采配のおかげで敵の攻撃を的確に裁くことできたからだ。実際指示通りに操舵した大介だ、わからないわけがない。
 敵の攻撃を読み切り最小の被害で済ませられるような、針の穴を通すような精密操舵の数々。ジュンの提案したプランの時点でもまだまだ新兵の大介には厳しいと思える内容だったのに、ユリカは状況に応じてさらに難度の高い操舵も要求したのである。
 正直自分でもよくできたと自画自賛したいくらい、難度の高い操舵だった。なにしろ一桁単位での操艦はあたりまえ。頻繁に艦を上下左右に数度から数十度の単位で動かし、増速に減速も頻繁、挙句敵の攻撃を受け流すために艦をローリングさせたり――。
 厳しかったがそれでも大介は――ほかのクルーたちもこの激戦をここまで戦い抜いた。大介のような新兵からルリのようなベテランまで、ヤマトの人員の経験値には大きなムラがある。
 そのクルーを纏め上げてその力を引き出せるだけの器が、彼女にはあるのだと確信する。
 普段の軽いノリやボケは彼女への親しみ(または呆れと不安)を、戦闘中の凛とした姿が指揮官としての頼もしさにを感じると、彼女に対する印象はあまりに極端だ。
 だがその両方を極端に備える彼女を理解さえすれば、日頃は肩肘張らなくて済むのでのびのびと適度にガスを抜いていられるし、いざ非常時ともなればその指導力を信頼して目の前の任務にひたすら打ち込むことができる。いい塩梅だと思う。
 ――ギャップが大き過ぎて壁を乗り越えて信用できるようになるまでが少々手間なのが玉に瑕だが。
 あと主にアキト絡みでの超浮ついた色ボケっぷりも賛否が分かれる要因だろうが。
 ……親友の進はすでに慣れきってしまったのか、彼女が突然ボケようが、そこから急にシリアスを決めようが、アキトと眼前でいちゃつこうが動じなくなってきたが。
 意外と大物なのかもしれない。
 そこまで考えてどうしていまの自分がここまで気もそぞろになっているのかが理解できた。たしかにユリカは凄い。だがその体は火星の後継者の人体実験とヤマト再建のためのたび重なる無茶で限界が近い。
 これから先どのような苦難が待ち受けているかわからないが、彼女の指揮の下なら大丈夫だろうと信用してしまったがために、それが呆気なく失われてしまうかもしれない現状に不安を感じているのだ。
 たぶんそれは、自分だけではない。誰しもが抱えつつある不安であると、大介は漠然と考えた。

「雪ちゃんもイネスも、いまは負傷者の治療で手が離せないみたいね……。よし、ハーリー君、悪いけど艦長をよろしく。私は医務室に薬を取りに行ってくるわ。ルリちゃんもこっちに戻ってくれないかしら? 代わりに通信の番を頼みたいの」

 とハリとルリに頼んでいた。二人とも「わかりました」と快く応じていた。
 すぐにハリは航法補佐席から立ってエリナの代わりにユリカの傍らに陣取り、エリナから渡されたハンカチを使って額に浮かんだ汗を拭っている。

「ありがとうハーリー君。ホントにいい子だねぇ、よしよし」

 薄っすらと目を開けて礼を言いつつ左手でハリの頭を撫でるユリカの姿に、大介はますます不安で胸が苦しくなる。
 少しでも心配を掛けまいと気丈に振舞っているが、撫でている手が微かに震えているのに気が付いてしまった。ハリもそうなのだろう、察してぎこちない笑みを浮かべているではないか。

「や、止めて下さいよ艦長。僕だってもう一人前の軍人なんですよ?」

 やんわり不本意だ、と主張する。
 ユリカは「そう?」と応じて頭を撫でるのは止めた。
 空いた左手は今度は自分の腹部に当てられる。安全ベルトが締め付けた部分だ。痛むのだろう、嘔吐したくらいだし。
 大介の不安は増すばかりだが、この状況でも諦めない姿勢に、艦長であり続けようとしている姿に、わずかばかりの勇気を貰った気がする。
 この諦めない心こそが、挫けぬ心こそが、かつてのヤマトが苦難を乗り越えてきた、本当の秘訣に思えてきた。
 だとしたら自分も新生ヤマトクルーとして、それに倣うべきなのかもしれない。



 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ ディレクターズカット

 第八話 決死のヤマト! 冥王星基地を攻略せよ!



 冥王星前線基地の司令室では、海底に沈んだヤマトの捜索が始まっていた。

「お見事ですシュルツ司令。さしものヤマトも、司令の采配の前には打つ手なしでしたね」

 ガンツがは嬉しそうにシュルツを褒め称える。被害は決して小さくはないが、それに見合うだけの大戦果を挙げられたのだとすっかり気が大きくなっているようだ。
 だがその気持ちはわからないでもない。敵はタキオン波動収束砲を備えた超戦艦なのだ。
 このような大物は過去に例がない。この強敵の撃破は、デスラー十字勲章ものだと、ガンツは敬愛する司令の手腕を称賛して止まない。
 だがシュルツはその称賛をそのまま受け取るわけにはいかなかった。

「まだ油断するなガンツ。確実に息の根を止めるまでは安心してはならん。敵はヤマトだ、たった一隻でわれらにここまでさせる強敵なのだ。油断して足元を掬われては、デスラー総統に顔向けできん」

 シュルツはここまで追い込めたことに内心喜びを抱きながらも、司令官として毅然とした態度を崩さぬまま次の手を指示する。
 まだ手を緩めるわけにはいかない。その艦体を真っ二つに引き裂き、二度と再び飛べぬようにしてからでなければ、安心して勝利の美酒を煽ることは許されないのだ。

「潜水艇を発進させろ、ヤマトの沈没地点を捜査して、発見次第魚雷を叩き込んで粉々に粉砕しろ。妥協はするな、油断もするな。二度と浮上できぬよう鉄屑に変えるまで、決して攻撃の手を緩めるな!」

 耐圧ドームの下部に設けられた発進ゲートに注水が開始され、完了次第次々と小型の潜水艇がゲートを潜って発進していく。
 目標はヤマト。現在確認されている最大最強の敵を確実に葬り去るべく、ガミラス冥王星前線基地はありったけの武力をつぎ込む姿勢をまったく崩していなかった。






 その頃、単独行動中のGファルコンDXはようやく冥王星に到着していた。慣性飛行だけでは思いの外時間がかかってしまい、ヤマトが冥王星に最接近する前に地表に到達するという目的は果たせなかったのである。

「ヤマト、結構派手にやられてましたね。……ユリカさんたちは大丈夫だろうか?」

 得体の知れない砲撃を受けて、煙を噴いたヤマトが右往左往するさまを見ることになった進の気分は暗い。
 そう簡単にヤマトが沈むとは考えていないが、ただ黙ってみているしかない現状も重なって不安と心配が募る。

「あいつがそう簡単にやられるもんか。あれくらいで終わってるんなら、木星との戦争の時、ナデシコは火星で終わってるし、ヤマトだって別の世界で地球を救ったりもできなかっただろうさ」

 アキトは進を不安にさせないように極力普通に振舞う。もちろん胸の内ではユリカたちの安否が気になって仕方がない。
 だが、復讐者として数多くの修羅場を潜り抜けてきた経験をもつアキトだ、ここで焦ってもできることはなく、むしろ焦って基地攻略を失敗してしまえばヤマトはそこで終わりだとはっきりと理解していた。
 だから自分たちがすべきことはまったく変わらない。冥王星前線基地を発見して確実に破壊する。そうすることが結果的にヤマトの危機を救うのだ。
 それに、自慢の妻はこの程度の苦難で音を上げるほど柔じゃない。

「――信じているんですね。やっぱり、奥さんだからですか?」

「それを抜きにしても、ナデシコが戦争で沈まずに戦い抜けて、大戦果を挙げられたのはユリカの采配が無視できないからね。……失敗も多かったけど。まあ、否定しても意味がないから言っちゃうけど、進君の言うとおりだな。ユリカは俺の妻だからってのはもちろんある。あいつは俺に絶対の信頼を抱いてるんだ。俺が応えてやらなきゃ誰が応えるんだよ。――俺、あいつの夫で王子様だから」

 笑みを浮かべながら断言するアキトに、進は「ごちそうさまです」としか言えなかった。
 だが、少し気持ちが楽になった気がする。

「さて、雑談もいいけど仕事だ仕事。超大型ミサイルと例の大砲の最初の発射地点は、大体この辺だったか……」

 アキトはコンソールを操作して冥王星の簡単な地図を表示し、超大型ミサイルと大砲が放たれた位置を書き込んでみる。
 大砲の発射地点と超大型ミサイルの発射地点はそれなりに離れているが、それでも半径三〇キロの範囲内に収まっている。惑星全体を比較として考えれば、隣接していると考えて問題ないだろう。

「はい。さすがにダブルエックスのセンサーだけでは詳細な位置はわかりませんが、おおよその位置はそこで間違いないと思います。しかし、衛星軌道から見る限りでは地上に建造物が見当たりません。海洋の下に隠されているか、なんらかの遮蔽フィールドの類を展開していると考えたほうがいいかもしれませんね」

 進はデータを参照しながらそう推測する。後者ならまだありがたいが、前者の場合は少々問題だと、進はデータを睨みながら考える。

「だろうね。このまま衛星軌道に陣取ってても仕方ない。地表付近を飛んで調べてみよう」

 アキトの提案に進も頷き、GファルコンDXは慎重に冥王星の地表付近に降りて行った。
 元々がいわば『全部乗せラーメン』を指標に開発された機体なので、GファルコンDXの形態である限り、単独で地球の大気圏の離脱と再突入がノンオプションで実行できる機体として完成されている(分離状態では厳しい)。
 相転移エンジン搭載で重力波スラスターを採用したGファルコンDXは、推進剤切れの心配がなく、その既存機を遥かに上回る推進力から生み出される機動力とボソンジャンプ能力のおかげで、ヤマトの元居た世界の名機――コスモタイガーIIに匹敵する活動範囲と哨戒能力すらもつのだ。
 いまはその能力を最大限に活用して冥王星前線基地の所在を探り当て、機動兵器としては異例の戦略級火力を使って、基地殲滅を目論んでいるという寸法だ。
 しかしその作戦に許された時間は、決して多くはない。アキトと進は内心の焦りを押し殺しつつ、発見されないよう地表スレスレを慎重に飛行しながら情報収集に励むのであった。






「それじゃあ、あの大砲は例のデブリを使用して射線を屈曲させている、と?」

 第一艦橋に戻ってきたルリの報告を聞いて、ジュンはたいそう驚いていた。偶然の一致だろうが、サテライトキャノンの初期案と本当によく似ていたからだろう。
 当初予定されていたサテライトキャノンの初期案の場合、中継衛星を介してエネルギーを送信してもらい、衛星軌道上に配置された大砲のいずれかを発射するシステムなので、順序が逆ではあるが。

「はい。おそらくあのデブリはなんらかの反射装置を内蔵した大砲のシステムの一部だと思われます。地上で発射した砲撃を衛星で屈曲させることで、理論上の死角がありません。惑星全体の防空用装備として考えればかなり強力な武器だと思われます。現在までに判明している砲撃データから大砲は一門だけと推測しています。もし複数の砲があるのならもっと砲撃の感覚が短いと思われますので。また反射衛星自体に攻撃能力も確認されていません。……もしかすると、ガミラスにとってもまだ試作段階の装備なのかもしれませんね。だから多数の砲と反射板を利用した飽和攻撃を実行できないのでしょう」

 ルリは通信席のパネルを操作して、オモイカネに繋ぐとデータの表示を頼んだ。

「オモイカネ、観測データに基づいた砲撃予想地点を表示してください」

 ルリの指示にオモイカネはすぐに作成したCGデータをメインパネルに送る。冥王星を基準に、ヤマトの移動経路と被弾地点、最初の砲撃予想地点を基準にデブリで屈曲されたビームがヤマトに届くまでの経路など、さまざまなパターンを表示した。 
 最初の砲撃は冥王星から真っすぐ飛んできたので砲からの直接砲撃の可能性が高い。だが二発目以降は冥王星から直接撃てないため反射衛星を使った屈曲射撃であることも示す。
 ――そして反射衛星を使用した予想弾道パターンを可能な限り表示する。本当に網の目のように描かれたビームの予想弾道に第一艦橋の面々も舌を巻く。最初から屈曲ありきで発射されては大砲の位置を特定することはできないだろう。

「なるほど。これならたしかに死角がない。――本当に俺がフラグ立てたのか?」

 島がぼそりと呟くと、全員があからさまにそっぽを向く。地味にユリカの発言を気にしているようだった。

「ともかく、この仮称・反射衛星砲は厄介だ。移動目標に対する脅威度がわからない以上、迂闊に飛び出せない。対策を考えないと」

 ゴートも難しい顔で対策を訴える。ルリも同感だ。さすがにもう一発あれを食らうとヤマトがどうなるかわからない。今度こそ致命傷を負う可能性は高いだろう。
 現状では単発であると推測されているとはいえ死角がなく、ヤマトの防御を一撃で貫通する脅威の威力。やみくもに飛び立てば狙い撃ちにされ、今度こそヤマトは海の藻屑と終わる。
 そこに、医務室から薬の入った無針注射器と医療キットを手にエリナが戻ってきた。

「留守番ありがとう、ルリちゃん。はい、この薬を艦長に打って。無針注射器だから簡単よ」

 ルリに持ってきた注射器を渡して、通信席から追立て代わりに自分が座る。自分で打ちに行ってもいいのにわざわざルリに譲るのは、エリナなりの気遣いだろう。

「わかりました――ありがとう、エリナさん」

 ルリは公然とした理由でユリカの下に駆け寄る。その姿を誰もが微笑ましく見送りながら、邪魔をしないようにデータを睨みつけて反射衛星砲攻略の糸口を探る。
 いまのところ攻撃が止んでいるとはいえ、この包囲網を抜け出して基地に対して反撃するのは困難極まりない。ジュンもゴートも難しい顔で黙り込んでしまった。

「ユリカさん、お薬です。これで気分がよくなりますよ」

 ルリはハリに付き添われているユリカに、それはもう満面の笑みを浮かべて注射器を見せる。しかし、

「うぅ〜ん……その言い方だと、危ないほうのお薬みたいだよぉ」

 グロッキーなユリカがルリの言い回しを指摘する。すぐには呑み込めず隣に視線を巡らせるとハリと大介が納得したように頷いていた。

「……〜〜っ!」

 ようやく自分の発言が誤解を招きかねないと気が付いたルリは羞恥で頬を染める。

「そ、そんなボケかましてないで、左手出してください」

 くすりと笑いながら左腕を差し出すユリカ。
 ルリは袖口に隠されたファスナーを下ろしてから袖口を捲る。ユリカの艦内服は旧ナデシコの制服デザインだが、現行の艦内服同様簡易宇宙服として使えるように改造されているため、袖は肌にぴったりと着くようになっているのだ。なので、袖をまくるのにもひと手間必要なのである
 剥き出しになった腕に注射器を押し当ててボタンを押すと、浸透圧で薬液がユリカの体内に送り込まれる。
 特に痛みはないはずだが、体内になにかを送り込まれる感覚にユリカが軽く呻いていた。

 「えへへ、本当に薬漬けみたいだね、私」

 そう笑われると釣られて笑いそうになるが、本当に薬漬けの日々を送っているユリカに言われると、可哀想に思えて泣き顔と笑い顔がごっちゃになったような変な顔になってしまう。

「お、ルリちゃん睨めっこがしたいんだね。あっぷっぷぅ〜」

 ……なにか盛大に勘違いしたのか、それとも場を和ませるためなのかは判断が付かないが、ユリカも変な顔を作ってルリと向き合う。
 ……そのまましばし互いに変な顔を突き付けたままでいたが、双方の顔を近くで見ていたハリが噴き出すのを切っ掛けに、ルリも「参りました」と今度こそ笑い出して「私の勝ちぃ!」とユリカが拳を天に突き上げて、第一艦橋に笑い声が響いた。

 ハリは遠慮せずに笑いながら、ようやく空気が軽くなったのを感じた。
 先ほどのやり取りで貴重なルリの照れ顔を至近距離で拝めたハリは、眼福眼福と脳内フォルダーにその表情を保存した。
 ユリカと絡んだルリは、こういう無防備な表情をたくさん見せてくれるのでハリは本当にありがたく思っている。たぶんアキトと一緒の時もそうなのだろうが、いかんせんアキトはヤマトに乗ってからルリとあまり絡んでいないので真偽不明だ。
 正直ルリを置いて雲隠れしていたアキトは気に入らないのだが、ルリのためならアキトと一緒に居られるように謀ってみるか、と考える。
 しかし――。ユリカの体調が気がかりだ。こんなやり取りで過度な緊張を取り除くのはさすがと思うが、はたして本当に彼女は持つのだろうか。彼女が倒れたあと、誰がそれを引き継げるのだろうか。
 正直ハリの視点からみてもジュンやルリでは荷が重いと考えてしまう。
 ルリはユリカが倒れた場合を仮定すると――たぶん落ち込んだり心労が嵩んだりで指揮どころではないだろう。ハリとしてもルリにこれ以上の重荷を背負わせたくはない。
 ジュンは――優秀なのだろうけどこの風変わりな艦の艦長としてはどうなのだろうかと図りかねている。火星の後継者との決戦やガミラス戦でも数度共に戦った間柄だが、どうにもヤマトに乗ってからは印象が薄い。
 バックアップはしっかりしているのだが総責任者として全権を任せられるかといわれると、首を傾げてしまう自分がいる。たぶんユリカが強過ぎてジュンが完璧に喰われているのだとは思うのだが……。

「ん?」

 レーダーパネルを見ていたジュンがなにかに気付いたようだ。ハリも自分の席に戻ってレーダーパネルを確認する。潜水艦行動を想定しているヤマトは水中用のソナーやセンサーの類を装備している。純然たる潜水艦のそれには及ばないが、決して性能は低くない。
 そのセンサーが、ヤマトに急速に接近している物体を捉えていた。

「未確認物体接近中だ! 全員持ち場に戻れ!」

 ジュンの声にルリも慌てて自分の席に戻った。彼女も電探士席のパネルを操作してセンサーが捉えた物体の正体を探っている。

「未確認物体の正体は潜水艇と判断します。数は四〇。沈没したヤマトの捜索と、確実な破壊が目的だと思われます」

 音響センサーが捕らえた推進音が、確実にヤマトに向かって近づいてきている。敵はヤマトの着水地点から沈降地点を計算して部隊を送ってきたのだろう、ほぼ真っすぐ向かってきていた。
 戦闘を回避するのは無理そうだ。速やかに判断したユリカとゴートの反応は速かった。

「艦首発射管に多弾頭魚雷の装填急がせて」

 シートを起こしたユリカがすぐにゴートやミサイル発射室のクルーに指示を出す。
 薬で多少持ち直しているが、やはり顔は青褪めたままで声に力も無い。それでも判断は的確だ。このまま死んだふりをしていてもヤマトがバラバラになるまで魚雷を撃ち込まれるだけだろうし、反撃しなければただ死を待つだけだ。
 ハリも覚悟を決めて敵潜水艇群の進路予測の手伝いを始めた。

 ユリカは思ったよりも時間が稼げなかったことから、自分がガミラスの心理状態を少し読み違えていたことを悟った。

(思った以上にヤマトを警戒して、恐れているんだ。せめてあと三〇分くらいは稼ぎたかったな)

 ユリカは読み違いを悔やみながらも魚雷の発射準備の推移を見守る。砲術補佐席のゴートは不調気味のユリカの代わりに艦首ミサイル制御室に指示を飛ばし、接近中の潜水艇の位置情報と進路、速度などの情報を入力していく。
 艦首のミサイル発射管に注水が行われたあと、使用可能な発射管扉が解放された。ガミラス潜水艇との距離が縮まる。

「多弾頭魚雷、艦首発射管にセット完了」

「センサーに感! 魚雷を発射した模様です!」

 ルリの報告を受けてユリカも負けじと魚雷の発射指示を出す。命令は速やかに復唱され、艦首の発射管から魚雷が放出される。放たれた魚雷は一定距離を進んだ後、先端のカバーを解放して中から九発の小型爆弾を放出して散らばらせる。
 そしてその爆弾の網の中にガミラス潜水艇が突っ込むと、近接信管が作動して爆発する。水中は空気中よりも衝撃波の伝播が速い。それに水圧がかかる関係でディストーションフィールドのような歪曲場を纏うことが難しい。
 そのため爆圧に晒されたガミラス潜水艇はそのまま衝撃波に砕かれ、押し潰され、鉄屑へと変貌していく。
 しかし五発の多弾頭魚雷だけでは全部を仕留めきれるはずもなく、迎撃せずに放置される形になった数十にも及ぶ魚雷がヤマトの艦体に突き刺さる。
 被弾の衝撃でヤマトが震える。潜水艇はどうやら一人乗りの小型のものらしく、搭載された魚雷も相応に小さく威力も低いようだが塵も積もればなんとやら。ディストーションフィールドに頼れないのはヤマトとて同じなのだ。
 装甲はこの魚雷の威力に耐えられそうだが、浸水を防いでいる隔壁や傷んでいる部位の傷を広げるには十分な威力といえる。
 ヤマトはもう一度多弾頭魚雷を発射して応戦するが、魚雷もこれで品切れだ。
 元々宇宙空間での運用がメインのヤマトに水中用の魚雷を多くストックする余裕はない。通常のミサイルでは誘導方式の関係もあって水中では役に立たないので、実質対抗手段を失ったに等しい状態だ。
 いや、水中でも主砲と副砲は機能する。重力衝撃波も水中で極端に減衰したりはしないし、なにより出力の桁が違う。
 だが、主砲は大規模艦隊戦と敵の必殺兵器であろう反射衛星砲(仮)を三度も受けたことで損傷している。それに死んだふりの一環でエンジンを停止しているため、波動エネルギーの性質を利用して機能させている新方式のグラビティブラスト発射機構も漏れなく停止中だ。またエネルギー供給ラインに損傷があるため点検なしでは暴発の危険性も大きく使うに使えない。
 この戦いは長引く。ユリカはそう確信した。
 ――案の定、潜水艇とヤマトの死闘は数十分にも及んだのである。
 魚雷を使い果たしたヤマトはやむなくまだ弾薬が残っていたピンポイントミサイルとエネルギー供給ラインの点検が済んでいるパルスブラスト数基を使用した。
 水中で使用に適していないミサイル、数の乏しいパルスブラストでは苦労が止まなかったが、それでも迎撃には成功した。

 しかし――。

「きゃあっ!」

 運悪く第一艦橋に命中した魚雷のダメージで戦闘指揮席のパネルが火を噴く。飛び散った破片がユリカに襲い掛かった。
 装甲シャッターで守られた第一艦橋の窓が割れたり浸水が始まったりはしないが、衝撃に計器のほうが耐えられなかったらしい。

「ユリカ!」

 すぐにエリナが先ほど持ってきた医療キットを携えて駆け寄った。第一艦橋にも備え付けの医療キットはあるのだが、こちらはユリカ用に備え付けのキットには備わっていない薬品が収まっている。
 戦闘が長期化するのは避けられないと踏んだエリナが、イネスに少々無理を言って用意してもらったものであった。

「さ、刺さった……!」

 咄嗟に顔を庇ったので艦内服が破片を防いでくれたのだが、剥き出しだった手首までは守ってはくれなかった。左掌に深々と五センチほどになろうかという尖った破片が刺さっている。

「抜くわよユリカ。我慢なさい」

 一応口頭で断ってから掌に刺さった破片を遠慮なく力一杯引き抜いた。ユリカは激痛に悲鳴を上げるが構わず医療キットから取り出した消毒液を、容赦なく傷口に浴びせかける。
 そこに一切の慈悲はなかった。いや、治療という行為は慈悲であるので語弊があるかもしれないが。

「アっーーー!」

 そりゃもう耳に刺すような甲高い悲鳴を発したが、構わず薬を塗ってガーゼで覆ってから手早く包帯を巻く。
 でも少々耳がキーンと耳鳴りを起こしている。親子そろって、地声が大きいと思考が脱線しかけるくらいには効いた。難聴になったら補聴器は彼女の給料から買わせると心に誓う。

「え、エリナぁ。もっと優しくしてぇ〜」

 泣き言を漏らすユリカだが「ちゃんと処置しないと大変でしょう?」と取りあわない。慣れた手つきで応急処置を終えると、

「戦闘が終わったらちゃんと診てもらいなさいよ。感染症を起こしたら大変だから」

 と念を押す。ユリカは「はぁ〜い」と涙声で応じて手当された掌に「ふぅー! ふぅー!」と息を吹きかけていた。

 そんな様子を見て、大介は先程ほどから抱いている不安がますます強くなった。いまはこの程度で済んだからいいが、もしも指揮を執れないほどの怪我をしたらどうなる。たしかにバックアップ要因としての副長や、ナデシコCで艦長経験のあるルリがいるが、この二人にユリカほどの信頼が置けるかと尋ねられたら答えは……ノーだ。
 この二人には、この人に付いていけば、と思わせるようなカリスマは感じられない。
 いまのヤマトは軍の指揮系統から逸脱し、実質艦長が全権を握った状態にある。それこそ一国一城の主とまで言われた、大昔の艦長そのものが要求される。
 あの二人にはそれに至るための器が足りないと、大介は半ば確信していた。というよりもヤマトが特殊過ぎるのだ。
 現代の戦争において単独で長期に及ぶ作戦行動自体、よほど特殊な艦艇でもない限りはありえないし、それでも必要に応じてバックアップを受けることが不可能なわけでない。
 しかしヤマトは一切のバックアップを受けることができないのだ。さらに戦闘だけでなく未知なる空間を定められた時間内にすべて乗り越えることを要求されている――正気の沙汰ではない。
 それゆえにヤマトの艦長には、容易に乗組員を追い詰めるこの過酷極まる任務の精神的負荷を取り除く絶対的な支柱になることが求められる。
 ジュンもルリも、実務能力はともかく精神的支柱とするに大介の目から見ても力不足としか見えないのだ。
 特にルリは容姿からくるアイドル性はともかく、ユリカが原因となって精神的に安定しているとは言い難い状態がそれに拍車をかけているのが痛い。仮にそれがなかったとして、ヤマトの艦長として適切かといわれると少々悩むが、不適切と断言するほどではないはずなのだが……。
 いまのヤマトにユリカの代わりにクルーの精神的支柱足りえる人間が、この大役を継げる人間が、はたしているのだろうか。
 大介の不安は晴れることなく徐々に積み重なっていった。






 シュルツは険しい表情を浮かべていた。差し向けた潜水艇がヤマトの手によって一隻残らず撃破されてしまったからだ。それは冥王星基地が誇る反射衛星砲ですら決定打にならなかったという事実を如実に示していたのだから当然だろう。

「なんという奴だ。これほどの攻撃を受けながら、まだこれほどの余力があるとは……」

 司令室全体の空気が重い。シュルツも含めた全員が先ほどまでの余裕を失い、非常識な能力を見せつけるヤマトにはっきりと恐怖を抱き始めていた。
 そんな中にあって指揮官としての役割を果たすべく、シュルツは恐怖を吹き飛ばさんとばかりに叫んだ。

「爆雷を投下しろ! なんとしても浮上させて、今度こそ反射衛星砲で止めを刺す!」

 シュルツの指令に全員が浮足立ちながらヤマトへの攻撃準備を開始した。
 必殺兵器をもってしても決めきれなかったという現実が、冥王星基地から完全に余裕を奪い去っていた。
 作戦は完璧だったはずだ。思惑どおりヤマトは波動砲を封じられ、冥王星基地の全戦力による猛攻撃を受けて深手を負った。
 だが、それだけだった。
 戦艦一隻などあっという間に宇宙の塵とできるはずの猛攻を耐え凌ぎ、いまもまだ生きている。これを恐怖と言わずしてなんと言うのか。
 シュルツたちは、ヤマトがどうしようもなく恐ろしかったのだ。
 恐怖が焦りを生み、ただただ一刻も早いヤマトの撃滅のみに意識が向き、どうしてヤマトが馬鹿正直に正面から挑んで来たのか、そして月での戦いで確認されていた新型機の姿が見えなかった理由について、シュルツはまったく意識が向いていなかったのである。






 冥王星の地表すれすれを飛行するGファルコンDXは展開形態に変形、パッシブセンサーを駆使して冥王星前線基地の所在を懸命に捜索していた。
 展開形態はダブルエックスをGファルコンが前後に挟んだ戦闘形態である。その形状から推力が全方向にバランスよく向いているのが特徴であるが、特にダブルエックスのメインスラスターを下方に、Gファルコンのメインスラスターを後ろに向けているため、重力下においては滞空と移動の推力の分散がしやすいという利点を持っている。
 もちろん収納形態よりも格段に小回りが利くため、戦闘はもちろん探査行動にも向いていた。

「……駄目だ。痕跡を発見できない。この辺りのはずなのに」

 ダブルエックスのコックピットの中で呻く進。ヤマトが冥王星に墜落してからすでに二時間近くが経過している。
 アクティブセンサーを使えば発見できるかもしれないが、隠密作戦を求められる現状には適していない。アクティブセンサーを使うということは暗闇で光を灯す行為に等しく、こちらが発見されるリスクが極めて高くなる。

「くそっ。もしも本当に基地が海中にあるのなら、ダブルエックスのセンサー類じゃ時間がかかり過ぎる。それに、サテライトキャノンも水中基地に対する直接攻撃のテストなんてしてないし……。せめて、地上に露出した部分か、地表近くに施設があれば……!」

 焦りから唇を噛む進。だが彼の心配ももっともだ。
 タキオン粒子砲であるサテライトキャノンは、波動砲同様一種の時空間歪曲作用を主とした(副次効果で膨大な熱量破壊も含めた)破壊兵器だ。出力も極めて高いため大気中での減衰はほとんど無視できるほどの威力もある。
 これは、ガミラスの目を掻い潜って地表で行われたテスト(皮肉にも、太陽の光を遮った粉塵が地表の様子を遮蔽した)で判明している。
 だが水中の標的となると話は違ってくる。
 密度の高い水中ではビームの減衰が強烈になる可能性は十分に高い。いくら波動砲の亜種であっても、テストもなしでは実用性について保証できるものではない。原理的にも出力的にも波動砲には劣っているのだから当然だ。
 それでも原理的には四〇〇メートルくらいまでは無視できるはずだと真田とイネスも言っていたが、基地がその範囲内にある保証はない。
 二次被害をもたらす周辺への破壊作用の拡散や、粒子の飛散がどの程度になるかも予想ができないのも不安の種だ。
 それに水中に基地が敷設されていた場合、上空からその所在を把握すること自体が不可能に近い。氷で海面が閉ざされているから侵入するためには氷を割る必要がある。水中に基地を敷設しているのなら、そういった音を拾う備えくらいはあると考えたほうが妥当だろうし、無策で突撃はできない。
 それにこちらも水中では真価を発揮できない。切り札たるサテライトキャノンも水中では発砲できないのだ。余剰エネルギーや膨大な熱を排出するシステムが、水蒸気爆発を誘発してしまうからである。
 ゆえにもしも水中の施設を砲撃するのであれば、その所在を確認した上で空中から発砲する必要があるのだが……。

「あの大砲が地表に露出していないのなら、どこかに排気塔みたいなものがあるはずなんだ。それさえわかれば、ある程度基地の位置も推測できるんだが……」

 アキトも計器と睨めっこしながらこの状況を打開するための知恵を絞る。

「排気塔。目立つようには置いてないでしょうね」

「だろうな。でも大砲を撃てば確実に排気する。――ヤマトが撃たれるのは正直避けたいんだが」

 さすがのアキトも焦燥感に支配されつつある。いくらヤマトでも、あんな大砲を何発も食らって無事でいられるわけがない。だが時間をかけ過ぎれば次の砲撃がヤマトに――。
 焦りだけが募る中、GファルコンDXは凍てついた冥王星の大地の上を右往左往するのであった。



 その頃ヤマトは大量の爆雷の雨に晒されていた。一発一発はヤマトにとっては蚊に刺されたようなものだったが、いかんせん数が多い。海面ギリギリを航行する潜水艇が次々と爆雷を落としていくを止める術もなく、爆雷の雨を甘んじて受け止めるしかなかった。
 触雷による振動がヤマトを襲い、クルーの不安を煽る。

「くそっ。このままでは傷が深まるだけだ……!」

「テンカワと古代は、まだ基地を発見できていないのか……?」

 大介とゴートが険しい表情で不安を口にしている。

「……う〜ん。もしかすると、基地が見つからなくて右往左往してるのかも」

 薬を口に放り込みながらユリカは二人の状況を予測した。まあ簡単に発見できるのならヤマトの事前調査で見つかっているだろうから、二人を責めるつもりはない。

「やはり、基地は地表に露出していないと?」

 電探士席のルリがいままでの解析データを洗い直して、冥王星前線基地の所在を探ろうとしているようだが、成果は上がっていない様子。
 データ不足であるし、戦闘の合間に収集したデータだけで発見できるほど、杜撰な偽装はしていないだろう。

「まあそうだろうね。わざわざ海洋を造ったってことは、そこに隠してると考えるのが妥当だろうし。汎用機とはいえ水中での活動はおまけ程度のダブルエックスじゃ、水中の基地をすぐに発見とはいかないでしょう」

「だとすると、特別攻撃隊を編成して破壊工作を考えたほうがいいかな?」

 のほほんとしたユリカにジュンが意見するが、ユリカはあまりいい策ではないと思った。ジュンもわかったうえで進言しているのだろうが。
 特別攻撃隊を乗せた揚陸艇では爆雷の雨を潜り抜けて氷上に出ることが難しいし、そこから改めて基地の探査となると、途方もない時間がかかる。いくらなんでも耐え切れない。
 ならば、

「必要ないよ。――大介君、浮上して。敵に撃たせてあげましょう、必殺兵器」

 こともなげに告げたユリカに全員が驚きの声を上げる。

「しょ、正気ですか!? 今度ヤマトに命中したら……!」

「大丈夫。アレを海面上のヤマトに命中させたかったら、衛星で反射しないと当たらないでしょ? 要するに反射板の開閉タイミングに合わせて急速潜航すれば当たらないってこと。――それに、潜ったヤマトに撃ってこないところからすると、水中では威力が極端に減衰しちゃうか、水に入った瞬間に屈折しちゃうか……どっちかだと思うから、潜っちゃえば安心安心。この爆雷の雨がそれを証明してくれてるよ。要するに、とっとと浮上して来い、そうすれば反射衛星砲で決めてやる、って言ってるようなものよ。敵さん、あんまりにもヤマトがタフなんで、焦って余裕をなくしてるみたい。――問題は反射板のどれを使うか、ってところかな?……ルリちゃん、ヤマトの上空に反射衛星ってある?」

「あります。頭上に一基、ほかにもヤマトを狙えそうな衛星が四つほど確認できます」

 ユリカの読みに感心したルリは聞かれる前から情報を検索し、事前に把握していたデブリ――反射衛星の位置情報を再度確認していた。
 この手の情報管理はお手の物、かつてアララギから言われた「電子の妖精」の異名に恥じないよう、常日頃心掛けている。
 彼らが命懸けで守ってくれたこの命。それが間違いでなかったと証明するためにも。

「さっすがルリちゃん! 打てば響くってやつだね! 私の自慢だけのことはあるよ! んじゃ、浮上して撃ってもらいましょうか――私たちの反撃の狼煙を」

 ユリカは微笑を浮かべながら告げた。

 大介はユリカの言葉に頼もしさと背筋がぞっとするような冷たさを覚えた。

(やっぱりこの人は凄い。依存しているのかもしれないが、いまは考えるのはよそう。この人に従って、この場を切り抜けるのが先決だ)

 大介も先程まで胸中に渦巻いていた不安を振り払い、速やかに準備を進める。……姿勢制御スラスター、ほぼ正常。補助エンジン――異常なし。バラストタンクの注排水システム――パーフェクト。

「バランスタンクブロー。浮上開始」

 静かにユリカの命令が下った。

「両舷バラストタンク排水」

「メインタンクブロー」

 大介とハリが共同してヤマトの浮上を開始させた。バラストタンクを排水したヤマトは爆雷の雨の中ゆっくりと浮上していく。凍てついた海面まであと少し――。






「ヤマト、浮上しました!」

 ヤマトの動向を伺っていたオペレーターが喜色に満ちた声を上げる。ヤマトは海面の氷を叩き割ってその姿を露にしたのだ。

「よし、このチャンスを逃すな。攻撃機を撤退させろ、反射衛星砲発射用意!」

「反射衛星砲、エネルギー充填一五〇パーセント!」

「三号衛星、角度調整右三〇度」

「八号衛星反射板、オープン!」

 次々と反射衛星が起動して、ヤマトをその照準に収めた!

「反射衛星砲、発射!」

 シュルツが渾身の思いを込めて発射スイッチを押し込む。
 反射衛星砲のビームが凍てついた海面を割り、反射衛星を中継してヤマトに向かう。シュルツたちの願いを乗せて。






「ヤマト直上の反射板が開きました!」

 第三艦橋に降りたルリの報告を受けて、すぐに大介はヤマトを潜航させる。

「急速潜航!」

 操縦桿を思い切り押し込みバラストタンク全部に注水開始。姿勢制御スラスターも使って強引にヤマトを海中に押し込んでいく。凄まじい水の抵抗を力尽くで押しのけて、ヤマトは海中へと没していく。
 第一艦橋を冷やりとした感覚が包み込む。ヤマトが潜るのが先か、ビームが命中するのが先か、さながら気分はチキンレースだ。
 ヤマトが完全に海中に没してから二テンポは遅れてビームが海面に突き刺さった。
 ユリカの予想どおり、ビームは海面に激突した瞬間急激に威力を減衰させ、ヤマトの防御コートと装甲の反射材でも十分に無力化できる程度の弱々しい威力に終わった。もちろんダメージはない。
 今回の賭けは、ヤマトが勝ったのだ。

「っ!?……ふぅ〜、間一髪だ」

「艦長の予想どおり、海の中には通用しないみたいですね」

「だから言ったじゃない。大丈夫だって」

 大介が潜航が間に合ったことに安堵し、ハリがユリカの読みの正しさを褒め、ユリカがほれ見たことかと胸を張る様子がフライウィンドウに映っている。
 海に潜ってから薬を摂取しまくっているおかげか、幾分体調が回復したようで、ルリは胸を撫で下ろした。
 爆雷の雨は鬱陶しかったが、常に敵艦の動きとヤマトの位置取りを考えて指揮するのに比べれば、随分と負担も小さいのだろう。
 にしても、本当に薬漬けだ。その内禁断症状が出るんじゃないかと、不謹慎な妄想が頭を過る。

「アキトさんも古代さんも、いまの砲撃を捉えてくれているといいんですが」

 上手く行ったことに安堵しながらも、少しだけ不安そうな声を出す。

「大丈夫だよ。だって、アキトと進君だもん。私の自慢の夫と息子だから、きっと意地でも成功させてくれるよ」

 とユリカは余裕たっぷりだ。何気に進をはっきり『息子』と断言しているのが彼女らしいというかなんというか。
 いまさらだがもう確定事項なんですね、とルリは心の中で突っ込む。

「……ある意味古代さん、外堀を埋められましたね」

 ルリが小さな声で呟く。
 はっきりと断言されたこともそうだが、ひそかに艦内でそういう認識が広まりつつあることを知ったら、きっと顔から火を噴いて恥ずかしがるに違いない。
 なにしろ狭い宇宙戦艦の中だ。ちょっとでも面白い話題があるとすぐに伝播する。軍艦の中は娯楽が少ないので当然だろう。
 ユリカが進を我が子同然に可愛がっていることはすでに周知の事実。そこに至るまでの過程もどこでどう漏れたのか、案外知られているのだ。
 むしろユリカが率先して広めていた。
 ある意味艦長が特定の乗組員と過度に親しいというのは大問題な気がするが、それで統率がまったく乱れないこの艦は一体どうなっているのやら。
 ああ、そういえば自分もラピスもユリカの家族と公言しているし、追加要員とはいえ夫のアキトも乗ってるから今更なのか。ルリは納得納得と頷いて仕事に戻る。

(アキトさん、古代さん。頼みます)

 ルリは別行動中の二人に、改めて自分たちの命運を託す。

(あ、でも古代さんがユリカさんの息子の立場を受け入れたとしたら、その場合私はお姉ちゃん? それとも妹? 年齢的には古代さんのほうが上だけど子供になったのは私のほうが……まあ、あとで考えればいいか)

 ちょっぴり思考が脱線したルリであった。



 ヤマトに向けて反射衛星砲が放たれた直後、GファルコンDXはそのビームの奔流を直接確認することに成功していた。しかも、あまり離れていない!

「大砲が発射された!?」

 進が天に向かって伸びるビームに驚愕していると、アキトの叱責が飛ぶ。

「早く排気塔を探すんだ!」

 叱責されてわれにかえった進はすぐに機体を上昇させて全周囲を探査する。サテライトキャノンのために搭載された高感度センサーも最大活用。高感度センサーはすぐに目的のものを見つけ出した。

「ありました! おそらくあれが排気塔です!」

 海中から放たれたビームのちょうど反対側、小さな崖に埋もれるようにして排気塔があった。放出された凄まじい熱がまるでオーロラのように暗い冥王星の空を照らす。
 すぐさま機体を翻して排気塔に直行。ここからサテライトキャノンを撃ち込めば基地を仕留められる!
 逸る気持ちのままにサテライトキャノンを用意しようとした進をアキトが咎めた。

「駄目だ進君!――あの大砲まで距離がある。基地施設と併設された砲台じゃないかもしれない。だとすると基地が加害半径に含まれていない可能性がある。ここに撃ち込んだだけじゃ仕損じるかもしれない」

 アキトに咎められてはっとした進は、改めて情報を整理する。
 排気塔からビームが発射された地点までの距離は約八キロ。
 数値だけならサテライトキャノンが命中した時の加害半径には含まれているが、それは地表に露出していて、かつ大砲が基地に併設されている場合の話だ。
 大砲が基地から離れているかもしれないし、構造次第では上手く威力が伝わらず、基地に影響を及ぼせない可能性もある。
 敵基地の全貌もわからないのに一発限りの切り札を使うのは早計だ。

「あ……すみません。気が急いてしまって。まずは調査分析、ですね」

「そのとおり。焦る気持ちはわかるけど、こういう時は落ち着かなきゃ。せっかくユリカが作ってくれた機会だ」

 アキトは先程の砲撃がユリカの差し金だと察したようだ。
 おそらく自分たちが未だに動けていないことから、基地の捜索に手間取っていると見抜き、指標を示すためにわざと撃たせたのだろう。
 おかげでビーム砲の正確な位置と、排気塔を見つけられた。
 進もアキトの言葉でそれに気が付き、要らぬ心配をかけてしまったと少し後悔しながら、ユリカの気遣いに感謝して機体を操る。
 ダブルエックスを排気塔に寄せて、内部を覗いてみる。暗視カメラを使用して覗いた排気塔は、やはりというか途中で屈曲していて全貌を見渡せない。

「これだと、ただ撃ち込んだだけじゃ駄目そうですね。排気塔の周りにエネルギー源でもあれば、誘爆を期待できそうですけど――くそっ、ここからじゃそこまではわからないか」

 進はなんとか突破口がないかと周りを調べてみる。これほどの建造物なら、必ず人の出入りする場所や、手入れをするためのなにかがあるはずだ。
 排気口のサイズさえ合っていればダブルエックスで直接入り込んでもいいのだが――。

「この排気塔のサイズだと、ダブルエックスで直接入るのは無理か――ん? アキトさん、メンテナンスハッチがあります!」

 排気塔の端にメンテナンスハッチを見つける。やはりあった。ここから施設内部に入り込めるはずだ。
 上手くすれば基地の全容を掴めるだろうし、内部から破壊工作もできる。

「よし、ここから内部に潜入してみよう」

 アキトはすぐに決断した。
 潜入して情報を集め、適切な場所にサテライトキャノンを撃ち込む。それ以外に冥王星前線基地を破壊する手段はない。
 一応破壊工作用の爆弾は持ち込んでいるが、持ち込める程度の爆弾では焼け石に水だろう。
 動力炉や動力パイプ、または発射直前のあの大砲にでも仕掛けて爆破すれば誘爆で吹き飛ばせるかもしれないが、高望みだろう。

「わかりました。アキトさん、頼りにさせてもらいます」

 進はアキトの判断に従って行動することに決めた。立場上は進のほうが上官だが、経験値はアキトが勝る。現場指揮を任せたほうが成功率が高い。

「任せろ。褒められた経験じゃないけど、いまはできることをやる」

 そうと決まれば善は急げだ。GファルコンDXを排気塔近くの物陰に着陸させる。
 追加されたエネルギーパックを補助脚として、四本足でその場に立つと、慎重に足を曲げて片膝立ちの姿勢を取る。エネルギーパックもそれに連動して基部で回転、背中に合体したままのGファルコンBパーツを支える。
 続けてハイパービームソードを引き抜いて最低出力で起動。メンテナンスハッチを溶かして開口部を造る。これで侵入口も確保できた。
 機体を固定した進がコックピットハッチ開閉レバーを捻ると、胸部に合体したAパーツが分離して静かに前方に着陸、ダブルエックスのハッチが解放される。
 同時にアキトもGファルコンBパーツのコックピットハッチを解放していた。中央ノーズユニットの赤いドーム状のパーツが左右に割れて、さらに内側のハッチが上に開いてコックピットが露出する。
 機体から這い出した二人は、ちゃんとハッチを閉め直してからGファルコンのカーゴユニットの内側、ダブルエックスを格納しても邪魔にならないところに固定していたコンテナを開封した。

「よし。最低限これだけあればどうとでもなるな」

 二人は中身を取り出して手早く身に付けた。
 白兵戦用に用意されたプロテクターも忘れずに装着する。デザインは極々シンプルなもので、肩当ての付いたプロテクター(背中に酸素パック内蔵)を着込み、手足につけるプロテクターは肘と膝から下を包み込む形状のものだ。色は光沢のない黒。
 対レーザーコーティングのほかにも、対弾・耐衝撃仕様の軽量型。可能な限り装着者の動きを阻害しないように工夫を凝らされているため、身に付けてもそれほど違和感がなく防御力は十分。
 最初から着込んでいないのは、胴体のプロテクターが操縦の邪魔になるからだ。
 腰には常時下げているコスモガンのほかにカプセル型のH-4爆弾二つコスモ手榴弾を二つ、レーザーアサルトライフルの予備のエネルギーパック一つを吊るす。
 分解して持ち込んだレーザーアサルトライフルを手早く組み立てて動作の確認。――問題なし。
 たった二人での作戦行動になるのだから火力と継戦能力と運用性のバランスが取れたレーザーアサルトライフルは必須だ。今回は真田が用意してくれた銃剣のオプションも取り付けているので、不意の接近戦にも備えている。
 また、アキトだけは万能探知機、小型カメラ、マッピング用の目印と、念のためとしてCCを持ち込んだ。
 屋内戦ならこれで十分なはずだ。それに二人という少人数での潜入作戦ではこれ以上の重装備は運用できない。

「目的は敵の施設の全貌を掴むこと。できれば大砲くらいは潰したいけど、欲張って失敗しないようにしよう。基地の全貌さえつかめれば、サテライトキャノンで勝敗を決せられるはずだ。慎重に行こう」

「はい!」


 アキトは先行して穴を潜った。――人影はなし、探知器にも反応なし。セキュリティーに引っかからずに済んだようだ。

(ボソンジャンプができれば楽だろうけど、そう上手くは行かないかもな)

 アキトは事前にユリカに聞かされていたことを思い出した。

第八話 決死のヤマト! 冥王星基地を攻略せよ! Bパート